いぬ
「俺、星核ハンターになりまアす!」
彼の名前はデンジ。公安特異4課のデビルハンターである。
いや違った。訂正しよう。
たった今、彼は宇宙中から指名手配を受ける星核ハンターに自ら志願した。
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脚部から炎を噴射し、着陸の姿勢を取る。今回の任務は、久しぶりの大型案件だった。とはいうもののいつもと同じように速攻即帰。
土を踏みしめ、アジト近辺までやってくる。何度来ても思うが、偽装の腕は大したものである。バレないために直接降りられない事は難点だが、それを補ってあまりある物件だった。
といっても、ここは集合する以外に用途の無いアジトなのだが。
薄暗い階段を降りる。使い古されているのだろう電灯が明滅し、時々足元が見えにくくなる。
目の前に扉が出てくる。よどみなく開くと、思いっきり誰かに扉がぶつかった音がした。まさか目の前に誰かいるとは思わず、怪我はないか聞こうとする。
だが、その声に聞き覚えがなかった。つい言葉を飲み込む。
「いっで!!」
男は、デンジは頭を押さえてうずくまっている。
数キロでは済まない鉄製の扉が思いっきり後頭部に当たったのだから、激痛だろう。
だが、普通なら痛いどころではない怪我を負う筈である。だが、彼は頭から血を流しながらも鉄扉から現れた鎧を睨む。
その視線にブレは見られず、脳にはダメージが言っていないらしい。良かったと思うと同時に、良かったのだろうか?という問いが反射的に浮かぶ。
どうしよう。なんかヤバい人に目を付けられてしまったかもしれない。
銀色の鎧には、汗など浮かぶはずもない。当然、気がするだけだ。だがもし、そんな機能があれば冷や汗の一つや二つ出ていた所だろう。
最も私に水滴を出す機能はないし、仮に水滴がつこうとも、任務を始めてしまえば瞬く間に蒸発してしまう。
右を見るが、そこではピコピコとゲームをするポニーテールロール(?)が一つあるだけ。
こちらをちらりともしない。確実に気づいていて無視している。
左を見るが、立ったまま寝て我関せずを貫く大柄な男性の姿が一つあるだけ。
こちらも一切目を開けない。寝てるのかすら判別できない。
目の前の金髪で明らかにガラが悪そうな人は、何を考えているのかよく分からない顔でこちらを睨んでくる。
私に対して怒りを持っている、ような感じだが……にしては何かおかしなものが混ざっている気がする。
それは、十中八九彼を挟んだ奥に椅子に座る彼女が原因だろう。明らかに意識が私ではなく、向こうに引っ張られている。
向こうを見ると、彼女が柔らかく微笑んで挨拶してくる。
「ハ~イ、サム。任務は終わったのね?」
彼女が言葉を発すると、目の前の男はぱぁっと顔をほころばせて彼女の方を向く。声だけで反応していないか?
にやにやしている。そうとしか形容できないその笑顔だが、カフカはどう思っているのだろうか。
私はため息を吐くと、彼女を窘めるにはどうしたらいいか、と考えかけて止めた。
間違いなく、この見るからに碌でもない男性を彼女が諦めるとは思えなかったから。
「カフカ。
「あら?もしかして星核ちゃんのこと、まだ根に持っているの?」
「……いいえ。その件とこの件には関連性がありません」
「ふふっ、ごめんなさい。面白くてついからかってしまうわね」
サムが黙る。
「カフカさん!それで、星核ハンターって何するんすか?」
すっかりカフカに向き直った金髪。
初歩も初歩みたいな事を聞いているのだが、知らないことを素直に聞けるのは美徳だ。なんて現実逃避してみるが、これを採用するのはちょっと分からないかもしれない。
それでも、カフカにも動機あるのだろう。
いわば今は、面接のフェーズだったのだろうか。
であれば今は邪魔だったかもしれないが、はいそうですかと帰れる訳でもない。
左右の二人は確実にノイズだろとか言ってはいけないようだし。恐らくそこ含めて星核ハンターの適性があるか調べているはず。
性格も重要なのだ。星核だけに。*1
「それもおいおい説明するけど、まずは自己紹介ね。全員揃ったし丁度いいわ」
「改めて、私の名前はカフカ。そっちの寝てるのが刃ちゃんよ。ほら、貴方も挨拶くらいはしなさい」
そういうと、ディスプレイに映っていたゲームの画面がポーズで止まる。
ずっとピコピコしていた彼女は不満そうな唸り声を漏らすが、素直に自己紹介を始める。
ごねてもカフカは停止を解除しないだろうことを察したらしい。
「私は銀狼。でもカフカ、彼が完全に入るって決まったわけじゃないでしょ?もっと後の方が良かったんじゃない?」
もっともな理屈である。面接で急に面接官から自己紹介されても「はぁそうですか」としか返しようがない。だがそれは、例えば一般的な企業の話だ。
「いいえ、銀狼。どうせ私達の名前なんて、指名手配か星核ハンターで調べればすぐ割れるもの。こういう時は、フレンドリーに行くのが大事なのよ」
星核ハンターがまともな職業な訳もなく、またその面々も同様に一癖どころか飛んで三癖くらいある。最も、この大宇宙であれば星核ハンターよりもトんだ人間もいるが。
とりあえず銀狼はカフカのフィンガースナップで動き出したゲーム画面に、急いでコントローラーを持ち直す。
「あー、俺もした方がいいっス……ですか?」
相変わらず刃は寝ており、肩がわずかに上下している。銀狼のプレイしているゲームだけが結構な音量で流れているが、無音よりかはやかましいBGMが鳴っている方がマシだと思われる。
自己紹介なんて久しぶりだが、別に何度やっても同じようなことだろう。適当でいいのだ、適当で。
「俺ぁデンジ!デビルハンター、好きな食いもんは最強パン!」
叶えてもらった夢。
デンジの夢は、美味い飯を食って、ポチタと一緒に居て、死なない程度に生きること。
それを叶えてもらった上には、彼の主人へのお願いがある。できてしまった。
デンジは叶えたら叶えるほど勢いを増す欲があまり好きではない。好きではないが、それに抗えるほど強い意志は待ち合わせていなかった。
元気よく挨拶する彼を見て、カフカは何を思ったのか、微笑みを浮かべていた。しかし、彼女の目に映っているものは彼女自身にしか分からない。
「ふふ、ありがとう。それじゃあ次は……サムの番ね。準備はいいかしら?」
カフカはこちらをちらりと見ると、にっこりと笑う。
自己紹介を促された以上、沈黙を貫くわけにもいかない。私は聞こえない程度に肺の空気を入れ替えて、声を出す。
すると、男……デンジ。デンジは今度こそこっちを見る。
あぁ、さっきは向けられている感情が分からない、と言ったが訂正する。
私のことは欠片も気にしていないが、カフカが視線をこちらに移したからこっちを向いた。
無関心、と言い換えてもいいだろう。好都合である。こんなチャラそうな奴を信用しろ、という方が難しいのだから、互いに不干渉が一番楽にことが済む選択だ。
「私の名前はサム。星核ハンターの一員です。……デンジ、と言いましたか。あなたに聞きたいことがあります」
そう言うと、デンジが顔を顰める。すぐにカフカとの密談に戻れると思ったのだろう。
「あぁ?」
「星核ハンターになりたいのですか?」
「おぉ?なんか向いてるらしいからさ〜〜 しかも稼げンだろ?そーなると、やらない理由がねぇ」
「それだけですか?」
「ん?違えーっての」
サムが無言で先を促す。デンジは問われるまでもなく自分から先を喋り出す。
なぜかサッとこちらに近づいてくると、まるでオフレコだぞと言わんばかりのニヤつき顔で志望動機を明かす。耳打ちまでしに来なくていい。
「そりゃあよお…………やっぱカフカさんみたいな美人の頼みだからよ!」
「……………………」
サムは黙る。デンジは何を勘違いしたのか、心の友を見つけたような声音でコソコソ話してくる。
「もしかして、アンタもカフカさんを狙ってんのか〜〜?
分かるぜ、カワイイもんな……」
「………………………………」
サムは黙っている。
何かを逡巡するような一瞬の間の後、ガツンとチョップが金髪に落ちる。鎧でやっているので、相当痛いだろう。またうずくまるデンジ。さっきよりも深く座り込んでいる。
扉アタックの所に当たったらしく、声も出ないようだ。頭を抱えて可哀想なデンジ。ひとえにお前自身のせいだが。
だが、彼を知る者なら分かるがデンジにバイオレンスコミュニケーションを受ける理由に心当たりはない。星核ハンターになる理由を話しただけだ。
であれば原因がサムの方にあることくらい、いくらデンジでもわかる。
やっぱ嘘かも。デンジだとわからないかもしれない。
だがデンジは自分のせいだなどとは欠片も思わない。サムに非があろうと己に非があろうと、デンジの心には暴力を受けることへの憤りがある。
さっきの扉のやつも痛かった。ガマンしてたのに同じところ殴って来やがった。許せん。
サムにそんな心境を1ミリでも慮る様子はなく、結論を告げる。
「あなたのことは信用できません。星核ハンターになることは構いませんが、障害になる場合は容赦しませんので」
そういうと、サムはまた反転して階段を登っていく。流石に三度目の頭への攻撃は気をつけていた。お互いに。
「……めんど。何言われたんだか」
「ふふ、仲が良いのは大変結構よ?じゃれあいだって必要だわ」
「なんでもいいけど、アジトに被害が出ないようにやってよね。バグ潰しは専門じゃないんだから」
このアジトは、あるチャーミングでプリチーな天才ハッカーによって隠蔽が行われている。
外からの観測には強いが、内部衝撃などほとんど想定していない。変数によって生まれるバグを見つけて潰す作業はハゲそうになるほど大変なのだ。出来れば二度とやりたくない。
まあ、こっぴどく壊れれば別のアジトを使えばいいので中途半端だけはやめてくれ、が銀狼の結論である。
カフカがデンジへの説明を再開する。仲間の一人とぶつかっても、面接が終わるわけではないらしい。
そんな中、サムの方は。
「……これは私のミスですね。手を出すのは悪手でした」
壁にもたれかかる姿は非常に絵になるが、その喉?から出てくるのは後悔の音色である。
手で顔を覆う仕草をデンジが見れば、理解できない光景に脳がフリーズしていただろう。
彼の姿を炎が包むと、中から別の人間が出てきた。
「いくらなんでもあの態度はやりすぎたかな……嫌われちゃったかも」
彼女の名前はホタル。星核ハンターの一員で、グラモスを飛び出した一人の少女である。
サムとの関係は不明。……ん?今さっき中から出てきてたろって?
私には判断しかねる。兎も角、サムとホタルが
そんな彼女だが、表情はすぐれない。当然だろう、久しぶりの新人に冷たい態度をとってしまったのだから。
ホタルは、たった数分の会話だったがデンジのことは嫌いにはなれなかった。あの手合いは今までに会った事はなかったが、悪い人間じゃないことだけはなんとなく分かる。
ただ、サムの姿でも私が存在するのだ。そして、その……ああいう話題は得意としていない。
それに、嫌いじゃないにしてもあの性よk……獣のような視線はぞわっとするのだ。
あたしに向けられていない事は頭では理解していても、無意識に手が出てた。ごめん。
「でも、あっちも悪いよ……あたしだって抑えたもん」
当然だがアジト内で
「それにしても……すごい頑丈だったような」
カフカが連れてきた……のかもまだ聞けなかったが、あの様子を見るにカフカが一枚も二枚も噛んでいるのは確実だろう。
どういった能力を持つのだろうか?刃のような再生能力?それともただ硬さを持つだけ?
であれば……砕くのは容易いだろう。
「あ!そんなこと考えてる場合じゃない!」
まずは彼に謝るのが先決だ。といっても、あの姿でのこのこ戻るのは恥ずかしすぎるので、このまま、あたしが戻る。
ホタルはいそいそと階段を下りながら、なんと言おうか思案する。そもそも別人のふりをしてしまおうか。だが、それは100%悪手だろう。具体的には何時までイジられるか分かったものではない。特に、あの愉快犯の前で隙を見せてはどう切り取られるか……考えるだけで身震いする。
扉の前まで着いて、小さく深呼吸する。手をドアノブに伸ばし、一気に開く。
「こんにちは~……え?」
愛想笑いを浮かべつつ皆の集合する部屋に入ると、
そこには大量の冷や汗をかきながら這いつくばり舌を出すデンジと、それに足を向けるカフカの姿があった。
「あら。用事は済んだ?」
「あ、うん……じゃなくて!何やってるの!?」
カフカも私の事情を承知している人間だ。気まずくてとりあえず外に出てしまった私に助け舟を出してくれている。多分。
問題は、そんな優しげな言葉をかけつつも、彼女は足を組み、足を差し出す姿勢を崩さない。このままではデンジの舌が硬いブーツの味を覚えるだろうこと。
「た、たふけて……
彼はカフカに操られているようだ。
嫌そうな顔だが、抵抗の意思は薄い。というか、ひくっと持ちあがる口角を止められていない。
こんなこと止めさせないと、とホタルは思うが、カフカがそうするのを止められるほどの力は、
サムであればあるいはだが、そちらはそうする義理がない。
と、カフカが彼を操る糸を切る。途端に崩れ落ちるデンジ。でへでへした顔のままどちゃっと床に投げ出される。
顔面を強打した衝撃で外れかけていたネジが差し戻されたのか、ハッとした顔で立ちあがる。
「あれぇ!?俺がさっきまでいた天国は……?」
「うふふ、天国なんて存在しないわ。地獄はそこかしこにあるでしょうけど」
デンジは心底がっかりしたような、狐につままれたような表情で立ち尽くしている。と、こちらを見る。
「あ、あたしはホタル。君がハンターの新人?」
デンジの視線を受け、ホタルが慌てて自己紹介する。
デンジから見た第一印象は、とても戦闘が出来る体には見えないことだ。だが、そこの銀色の……何だったか。チビもいる。ヒトは見かけによらねえらしいからな。
全身をちょろっと見た後、顔から改めてちゃんと確認する。
「強そうには見えねえぞ!?」
めちゃくちゃ失礼を働きおる。
また知らない奴か、まあ─────────
顔を見、そのまま下の方に視線を向ける。彼の辞書に他人をじろじろ見てはならないという言葉は存在しない。嘘だ。辞書そのものが無い。
途端に
胸。
デンジにとってそれは神の啓示に他ならない。嘘だ。
神も彼の辞書には載ってない。辞書は以下略。
「俺はデンジ!!よろしくなあ!」
「あ、それは知ってるから大丈夫」
軽く流されたこともまるで意に介さないデンジ。
デンジはチョロい。デカい胸を見ると全てを許せる気がしてくる。嘘である。そんな聖人ではない。
だが、デンジがチョロい事は事実である。
ホタルも当然その視線には気付いている。というか、嫌いではないと考えたことを後悔したい。今からでも嫌いに転換したら駄目だろうか?
すると、カフカがこちらを見ている事に気付く。
口をパクパクと動かしている。口唇術?無理だけど?と思っていると、何やらスマホをいじってメモを見せてくる。
えーと、何々……「仲良くしてあげてね」?
冗談はよしてほしい。
デンジは、星核ハンターになった。と言っても、名乗るだけなら誰でもできる。
面接の
諸々を茶番と切り捨てられたのは、徒労が過ぎる、と愚痴りたくなったが。
契約も終えたようだった。
正式な星核ハンター、というのは彼と契約した者の事をいうのだろうか?
まぁ、そうだろうとなかろうと、己の行動は変わらない。
そういえば、何を望んだのだろうか。彼は。誰よりも低俗な望みなのか、誰にも触れられない純粋な願いか。
正直、あのタイプの契約条件はカフカよりも分からない。想像がつかない、とも。
頭のいい奴よりも、イカれた奴の方が戦場では恐ろしい。
経験談だ。
戦場でのストレスで壊れる方も怖いが、元々壊れている方が優れている。
己の命に執着しない、行動が一切予想付かない。当然、命に執着しないなら生命としては劣等だ。
だが、戦場において常識など命の足しにもならない。命を欲さない物の方が生き残り易い、というのも皮肉なものだが。
デンジ君がそうだ、と決めつけるわけではない。
ないが、
今、反物質レギオンとぶつかるデンジを……チェンソーマンを見て、サムは思う。
彼もまた、運命の奴隷だろうか?と。
スタレ小説少ねえ~~~~!!!と思った。
チェンソーマン書きてぇ~~~~~!!!!!と思った。
ホタルが外界と触れられるのは仕様です。未来の可能性は無限大。
というかそうじゃないとストーリーが停止するので許して。この通り。
次回は掲示板回です。