『チェンソーマン』運命<壊滅>   作:踊る餅巾着

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ちょっと大幅に早くできたので締め切り早破りです。
待っててくれた方はすまない。


悪魔とは。
チェンソーマン世界において、悪魔とは恐怖が具現化した存在である。

例えばコーヒーの悪魔がいれば、それはそう強くないだろう。
コーヒーに恐怖を覚える人間は少ないからだ。

車の悪魔が居れば、そこそこ強いかもしれない。車は人を殺すこともできるからだ。
そこに恐怖を覚える人間は、コーヒーよりは多い。



寒くて煙草に火が付きづらい

 存護の都、ベロブルグにて。

 

「またですか! あまり外出は控えてくださいって言ったばかりですよ!?」

「ごめんなさーい、ペーラお姉さーん」

「子供たちの真似をしないでください!」

 

 街中で、ぷんすこ、という擬音が似合う怒り方をしている彼女。

 眼鏡をかけ、軍帽というのかベレー帽というのか、とにかく帽子をかぶった彼女。ペラゲヤ・セルゲーヴナ、愛称はペラである。

 怒られている方は姫野。そして、一緒に出ていた早川アキ。こってり絞られたため、姫野はともかくアキはシナシナだ。

 姫野はと言えば、まるで堪えた様子もなくけらけらと笑っている。それが彼女の怒りに油を注いでいることには……気付いていないだろう。

 

「先輩……」

 

 アキが困ったような声を出す。

 姫野も流石にからかいすぎたと自覚しているらしく、えへっと舌を出した後ちゃんと反省したように言葉を返す。

 

「分かった分かった、次はちゃんと報告してから出かけるからさ。ジェパ君とか」

「全く……外出するのは変えないからあんまり意味ないんですよ……アキさんからも一応言ってあげてくださいよ?」

「了解です……、申し訳ないです」

 

 ジェパ―ドに報告するのは、ほぼ戦線に参加すると言っているのと同義である。

 恐らく冗談と受け取ったのか、ペラは軽く流してアキの方に通告する。

 

 さながら酔っ払いに辟易する警察と、酔っ払いの付き添い人である。

 今回は運よくジェパ―ドに助けてもらったが、基本的にベロブルグの人間は、裂界造物*1に対する対抗手段を持たない。

 本来ならば外界への進出は、七面倒な手続きをクリアするか、付き添いにシルバーメインを連れていく必要がある。

 規則と言っても守らない者もいるが、それはそれだ。その場合に命の保証はない、という話で。

 ただし、どちらも行わずに出てシルバーメインに保護された場合、罰則は存在する。例えば罰金とか。

 と言っても形骸化している部分が大きく、今回も幸いに厳重注意で済んだ。

 

 厳重注意で済んだ、という思考にアキは顔を覆いたくなる。

 いつの間にか、姫野に連れられる間に自分も"そちら側"になっていたようだ。このままでは外出に眉一つ動かさなくなる日が遠くないかもしれない。嘆かわしい事である。

 

「とにかく、今回の件について大守護者様からのお言葉がありますから。アキさんは緊張しすぎないようにしてもらえばいいですが、ヒメノさんは真面目に聞くように!」

「うへーいへい、了解っす~ ちょっとは真面目に聞きますよ~~」

「返事はへいへいじゃなくてはい! そして一回です! も~~……!」

「もお? もおおおおお……牛……」

 

 どこからかギャハハハ! といったような笑い声が聞こえる。愉悦の星神(アッハ☆)かもしれない。

 ずり落ちそうな眼鏡を震える手で掛けなおすペラ。光が反射しているため。こちらからはどういう表情をしているか察するのは難しい。

 

 恐らく臨界点を超えて半周したため、冷静になったのだろう。

 必要では無いかもしれないが、忠告しておこうとアキは思った。

 

「姫野先輩は普段からこうだから。どうかここは、俺に免じて見逃して貰えると嬉しいんですけど」

「…………とりあえず分かりました。お手数おかけします」

「あと、怒りには牛乳がいいらしいですよ。鉄とカルシウムが効果的だとか」

「…………そ、う、で、す、ね……!!」

 

 後から考えれば、牛どうこうってからかった身内がいる中で牛乳を勧めるのは、今埋めた地雷を踏むに等しい行為だった。

 よく我慢できたものだと感心せざるを得ない。

 本当に申し訳ないと思っています。今度奢るんで許してください。牛乳を。

 

 それにしても、まさか大守護者直々にお言葉があるとは。

 これは、我々が何処から来たか定かではないのも理由にあるのだろうか? 

 

 

 とりあえず大守護者の執務室、謁見室?に歩を進める。

 街中からなので、長すぎるくらい長い城への階段を上る。

 

「階段なっがいね、相変わらず」

「何段あるんでしょうね?」

「さー、暇な週刊誌とかがあれば計測してるかもしれないねー」

 

 もしくは建造時に律儀に書いた者がいるか。

 いたらどうする、という話でもないが、そんな記事を書く新聞があれば、この街は平和だろう。たぶん。

 それ以外にも雑談しつつ、話題が一巡するちょっと前くらいに着く。適当に合ってそうな扉を開くと、目の前の椅子に座る人物から声がかかる。

 

「緊張は……してないかしら?」

「してないですよブロちゃーん」

「その様子だと全く心配はいらないようね、緊張を和らげるためのお茶菓子も不要そうで……」

「やっぱり緊張してます! お菓子ください!」

 

 姫野は現金なのだ。あと乙女である。お茶菓子は欲しい。

 特に、Q.ここ、ベロブルグのトップの食べるお菓子とは? A.間違いなく高級なお菓子だろう。

 食べないなんて愚行を犯すわけにはいかない。

 

「今日は何の話で呼ばれたか、分かるかしら?」

「はい。外出についてですよね」

「そうね。ハヤカワもヒメノも、できればベロブルグの臣民として守らせて貰いたいから」

 

 呼び出しと言っても、そう硬くなる必要は無い、と聞いた。

 そもそもここに来た時に一度会ったのだ。その時にも、あまり緊張しないでほしい旨を伝えられた。

 

 アキも姫野も、フランクに接してほしいならばそう接する。

 

「流石に気を付けますよ~っと」

「えぇ、そうして貰えると嬉しい。あとは……何かあるかしら?」

 

 そういうと、アキと姫野は顔を合わせる。

 そして姫野は、にんまりとした笑顔で尋ねる。

 

「そういえばここまでの階段って何段です?」

「階段……? 城と街を繋ぐ階段のこと?」

「そうそう、ブロちゃんならそういう事も知ってそうだなーって思って」

 

 ブローニャは考える。どこかにそれを記した資料があったような、無かったような……いや、記憶には残っているので、ある。

 だが、場所が分からない。資料室の類いにあるだろうか? 

 あと呼び方がフレンドリーすぎないか? 

 

「多分資料があるはず。探してみる」

 

 何気なくブローニャがそう返すと、アキが瞠目する。

 

「いや、そこまでしてもらうのは……いいんですか?」

 申し訳なさそうな、言い換えると庶民的な感覚のあるアキと対照的に、姫野はあっけらかんとしている。けらけらと愉快そうに笑っていた。

「いいんじゃない? 勿論やりたい時でいいよ、そんなに急ぐつもりないからさ」

 

 

 

「色々すいません、大守護者様……いや、ブローニャ様」

「また会う時はポジティブな要件で、となると互いに嬉しいですね。今日はもう大丈夫なので、また」

「そうですね。今度お詫びのスイーツでも持参します」

 

 姫野は本棚の方に行っており、普通に喋っていれば聞こえることは無い距離だった。

 問題児に手を焼く保護者と先生みたいな会話である。表情もそれに近いものがある、と傍から見れば感じる事だろう。

 

「それに、約束も出来ましたから。少し空くかもしれませんが、調べてきますよ」

 

 ブローニャはやる気十分、と言った様子だ。

 そのやる気に水を差すようで、と申し訳ないアキだが、一応念押ししておく。

 

「本当に暇がある時で大丈夫ですからね? 先輩も言ってましたけど、雑談のネタ程度に思ってください」

 

 ブローニャは真面目そう、というか真面目なのでちゃんと根拠まで調べてくれると思われる。

 だが、その分の熱量は恐らくベロブルグの立て直しに向けた方が効率的である。

 それほどこちらの事を考えてくれるのも嬉しいが、それで復興が遅れたとあれば気まずいことこの上ない。

 

 そこはブローニャも理解していた。

 人民1人1人とのコミュニケーションも重要だ。だが、蔑ろになる部分があってはならない。

 こけたならば、立ち上がる時が肝心だ。人体なら2回転んでもそうひどい怪我は生まれないが、国、または街となれば話が変わってくる。細心の注意が必要である。

 

「アーキくーん! そろそろ日が暮れてきたよー!」

 

 姫野の一言で、この会合もお開きになった。

 ブローニャが小さく手を振る。アキはそれに応え、姫野も大きく手を振った。

 

 また長い長い階段を駆け下り、帰路に就く。

 ふとアキが姫野を見ると、姫野が何かを見つけたようでこちらに話しかけてくる。

 

「新聞買ってみない? もしかしたら載ってるかも」

「【階段数えてみた】って? 冗談じゃないですよ、そんなしょうもないこと載ってないでしょ」

「いや、もしかしたらって事があるじゃん? 自費で買うからさ~、お願いだよ~」

「はぁ……そんなことにお金使わないでください。俺が出しますから」

 

 そういうと、アキは姫野に有無を言わせる隙を与えず、新聞代を渡す。

 姫野は少しだけ躊躇するそぶりを見せたが、「まぁいっか!」と言わんばかりの表情になると軽やかに買いに行った。

 

 アキは、姫野が新聞を買って……いや、即買うのかざっといくつか読んでから買うのか知らないが、その間の待ち時間を座って過ごす事にした。

 氷のオブジェのそば……フチ? に座る。そういえば、これは氷ではないのだったか。青いところ以外は氷とは似ても似つかないらしく、燃料の一種らしい。

 

 煙草を吸おうとして、そういえば一本も持っていないことに気付く。箱そのものを忘れてきてしまったらしい。

 喫煙者であるアキにそんな間違いがある筈はない。いや健康になるなら持ってこない方が正解なのだが……先輩に連れてこられて支度する暇が無かったか。

 少し違和感を感じつつ、後で先輩に貰おう……と思っていると、誰かから声がかかる。

 

「お、アキじゃない? そんなところに座ってどうしたのさ、待ち合わせ?」

 

 特徴的な髪色。セーバルだ。

 ジェパ―ドの姉であり、この街で一番の機械技師である。風の噂だが、昔はクリフォト城で研究者をやっていたとか。

 ミュージシャンでもあり、彼女の演奏は凄まじいの一言である。

 

「先輩を待ってる」

「あぁ、ヒメノちゃん? 相変わらず振り回されてんねー……っと、そんな話は良くて」

 

 苦笑いのセーバルだったが、我に返るとバッグから何かを取り出して渡してくる。

 とりあえず受け取り、見てみる。小さな機械だ。いくつかボタンが付いているが、用途は知れない。

 

「なんですか、これ?」

「試作品の録音機! 作ったはいいけど、どうせならどんな環境でも使えるヤツがいい。その耐久テスト用に、量産して配ってるのさ」

「……そんな簡単に量産できるもんなんですか?」

「まぁ開発してる訳じゃないし? 難しくはないかな」

 

 難しい。サラッと言っているが、そんな簡単なことでは全く無い。セーバルだけである。

 普通に量産しようと思えば、それなりの設計図みたいなものは必須である。

 その辺を完全に省略していることを知る由もないアキは、そうなんだ、と納得する。

 

「耐寒と耐衝撃のテストはできますよ。貰えるなら貰っときます」

「そう言って貰えると助かるよ! 耐熱はまた別のタイミングに作るから、気にしなくていいよ。寒さ衝撃に関しては自信あるから、思いっきり冷やしても叩きつけても使えるか試してやってくれ」

 

 アキはポケットに録音機を入れる。流石に叩きつけたりはしないが……。

 使いどころは無いが、あげると言われたのだし貰っておいて損はないだろう。

 相手がビジネスマンなら話は別だが、彼女は電気技師だ。本当に耐久テスト以上の意図はない。

 勿論技師である事以上に、彼女の人柄的にそういう真似を嫌う、というのもあるが。

 

 セーバルはそのまま、また別の誰かに録音機を配るためにどこかへ行ってしまった。

 姫野先輩もだが、セーバルも別ベクトルで嵐のような女性だ。

 

 そのままぼーっとしていると、新聞を買った姫野先輩が戻ってくる。

 明らかにしょんぼりしている様子を見て「そりゃそうだろうな」と思っていると。

 

「全部見たんだけど無かったよ……」

「あ、全部見たんですね? じゃあ適当に選んで買ったんですか」

「いや、無かったからそのまま逃げようとしたら無理やり一個買わされた……」

「そりゃそうでしょ」

 

 立ち読みどころか読み逃げしようとしてたんかい。

 むしろよく全部読ませてくれたものである。

 

 とにかく、今日は何の収穫もなく、何の変哲もない一日だったわけだ。

 そのまま二人は家路につく。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 風呂に入っていた。普段と何ら変わらない時間に入り、何ら変わらない心地よさだ。

 

 違和感があった。歯の奥に食べ物が詰まったような気持ち悪さがあった。

 朝の記憶が無い。思い出せない、と言うのだろう。

 

 昔の記憶もない。

 

 姫野先輩には、記憶喪失だと説明された。

 

 思い出す。

 姫野先輩と一緒に■■に居て、■■■さんがいて、■■■と■■■がいた。

 

 まただ。何かやっていたことは思い出せるのに、その何かが分からない。誰といたかが分からない。

 かすんで、ぼやけて、消えてしまう。

 

 

 こうして考えるのも、何度か経験した。多分。

 寝室で。ベランダで。外で。でも、ほとんど寝室だった気がする。そう何度も何度も思い出すものじゃないだろうけど。

 そのたびに、俺は目を背けた。見えないふりをした。そんな気がする。

 

 煙草の匂いは思い出せるのに、いつから吸っていないか覚えていない。

 

 

 

 いつからだろうか。

 

 姫野先輩も吸わなくなった。

 

 

 

 

 

 

 いつからだろうか。

 

 

 姫野先輩の体温が感じられなくなった。

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 湯船につかっていたアキの頭に、何かに撃ち抜かれたような鋭い痛みと、硬い物で殴られたような鈍い痛みが走った。

 痛い。立っていられない。

 だが、湯船に入っていては溺れかねない。

 

 ガンガンと痛む頭を押さえ、必死に風呂場から転げ出る。

 霞む視界に、あぁ、また俺は忘れるのか、と呆れる。

 頭痛は強まる一方であり、見ている画面の端から黒くブラックアウトしていく。

 

 と、ふと目の前を見ると、彼女の姿があった。

 ぼやけて使い物にならない視界を酷使して、その姿を目に入れようとする。手を伸ばした。

 

「アキくん」

 

 声が聞こえる。かすかな物音と聞き間違えそうな声が。

 聞こえない。もう、ほとんど聞こえない。耳に入っても、頭が処理してくれない。

 

「これから私と、かくれんぼしよう?」

「──も一緒にさ。あはは、流石に無理があるかな?」

 

 

 嗚呼、寒い。カラだがおかしい。凍えソう、凍りそウだ。

 

 

 

 アキは、気を失った。

 最後に、こんな呟きを聞いて。

 

 

「私を、見つけて(殺して)?」

 

 

 

 

 

目が覚めた。

相変わらず洗面所だった。

明らかに昨日の夜と温度が違った。

空気すら凍るほどの気温だったはずなのだが、なにせ頭痛がひどかった。自信はない。

風呂から出てすぐの体感温度のせいかもしれない。

 

身体を見ると、服を着ていた。自分で着た覚えはない。着せてくれたのだろうか?

 

 

 

先輩の部屋を見る。いなかった。

 

リビングにもいなかった。キッチンにもいなかった。トイレにもいなかった。

いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。いない。

 

 

 

 

姫野先輩は、どこにもいなかった。

死んでいた。

 

*1
なんか裂界から来て襲ってくる奴。おそこわ。意思とかは持たない。強いのから弱いのまでピンキリ




悪魔に関する他愛もない雑談。

悪魔の発生は恐怖が鍵になる。
となると、ひとつ疑問が出来る。

車の悪魔がこのベロブルグ、ひいてはヤリーロⅥに存在するならどうなるだろうか?
車はベロブルグにも存在する。当然弱くは無いだろう。コーヒーやトマトより。
だが、現代よりも確実に弱体化する。
現代の車社会とベロブルグでは、埋まらない差がある。


では、ベロブルグないしヤリーロⅥで最も強いのは何の悪魔だろうか?
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