『チェンソーマン』運命<壊滅>   作:踊る餅巾着

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問題。

肉体は人間、魂(または意思)も人間。それは人間か?
肉体は人間、魂も人間、但し同一のものではない。人間か?人間であればどちらの人間か?


魔人さんです

 死んでいた。今ではなく、もっともっと前に。

 

 じゃああれは、誰なのだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アキが急いで外に出ると、そこには地獄のような光景が広がっていた。

 街には、数えきれないほどの氷柱があった。それに近づくと、アキは表情を硬くする。

 

 中には人が閉じ込められていた。

 子供、女、男、老人……どんな人間も、等しく氷漬けにされている。

 

 

 生きているかも定かではなかった。

 

 

 必死になって走っていると、誰かにぶつかった。

 

「アキさん!ご無事でしたか……!!」

 

 ペラだった。彼女の髪は酷く乱れており、彼女の動揺を表すかのようだった。

 

「あなたはこの惨状について何か心当たりは……!!?」

「……一つ、あります。でも、その前に確認したい事が。今生存しているのは、ペラさん以外……0?」

 

 そういうと、ペラは深く深く深呼吸して落ち着こうと努力する。彼女からすれば、ようやく手がかりが見つかったところなのだろう。

 それなのに、こちらの質問に嫌な顔一つせず答えてくれようとしている。感謝してもしきれない。

 

 

「……いいえ。私以外に、二人の無事が確認できています。ジェパ―ド戍衛官と、ブローニャ様、大守護者様です」

「そう、か。ありがとうございます」

 

「まずは合流しましょう。とりあえず隠れ家のようなものがありますので、そちらへご案内します」

 

 上がっていた息が沈静化するのと裏腹に、ペラの気持ちは逸るばかりだった。

 

 

 

 

 

 

「私を、見つけて(殺して)……ヒメノは本当にそう言っていた?アキ」

「確証はない。ですが、心当たりもない」

 

 アキとペラはブローニャ、ジェパ―ドと合流する。プレハブ小屋の拠点には、重苦しい空気が流れていた。

 それを払拭しようと、ペラは何かを言おうと苦心する。

 嫌、心に溜まった泥を吐き出そうとする。

 

「確証は、無いって……貴方が唯一の頼りなんです!貴方の一言に、何千何万の命が掛かっているんです……っ!!」

「……だが、嘘を言う訳には行かない。酷なことを言っているのは分かるが、冷静になってくれ」

「ベロブルグの存亡が掛かっているんですよ……!!?」

 

 分かっている。八つ当たりなのだ。これは。だが、目の前に横たわる重い絶望から、逃げたい。逃げたいのだ。その暗い気持ちに、アキを────

 

 

「ペラ情報官」

 

 

 

「それは、他人に向けるべき感情じゃない」

 

 ジェパ―ドの言葉に、ペラはハッとする。

 そしてすぐに、己の行動を恥じた。

 この場において、ジェパ―ド以上にこの件を許せない、許さない人間はいない。

 それは、彼がシルバーメインの長だから、ではない。

 

 

 

 彼の姉であるセーバルもまた、氷漬けにされているから。

 その仮面の裏に、どれだけの激情が溜まっているのか。想像もつかない。

 彼が自分を抑えているのに、私がアキさんを責めるのは……どれだけ、どれだけ愚かな事か。

 

「す、すみません、アキさん……謝って済むことではありませんが、重ねて申し訳ございません」

「いえ、大丈夫です。俺も立場がそちらなら、抑えられる自信はないので」

 

 

 また沈黙が部屋を支配する。ブローニャは、ペラとジェパ―ドの間で揺れていた。

 彼女は、ここで唯一為政者としての立場を持つ。ベロブルグの民の状況に気が気でないが、それと同じかそれ以上に、どうしようもなく彼女を焦燥に駆る事象があった。

 下層部と上層部が、分かたれたのだ。

 

「あの頃」(『カカリア』)の頃の政治に逆戻りである。

 下層部の人間たちは大丈夫だろうか?ゼーレは……無事、だろうか?

 

 そんな不安をおくびにも出さず、ブローニャは状況を整理する。

 

「大多数に無差別の凍結攻撃。これが今回の襲撃の内容。そして、アキの話を信用するなら、それを行ったのはヒメノ、って事になる。そして、彼女はアキに、"見つけて(殺して)"と言った……そこまではいいわ」

「彼女にそこまでの力があるようには見えなかったが……アキさん。何か心当たりはないか?」

 

 ジェパ―ドが問うと、アキは改めて記憶漁りをさらなる深度で進行する。

「……直接関係があるかは分かりませんが、俺に殺して、と言う必要がある存在には一つしか心当たりがない」

「それは……何ですか?」

 

 

 アキは言おうか逡巡した。が、此処まで言って言わないのは利敵行為だと取られかねない。

 口を開いた。

 

「「悪魔だ。」そうだよね、アキくん?」

 

 全員が警戒態勢を取る。声のした方を見ると、丸い雪玉に口が付いた物体があった。窓の縁に乗っかっている。

 

「おっと!これは救済用のヒント雪だるまだよ?壊しちゃったら私が何処にいるか分かんないかも~~」

 

 即座に行動したジェパ―ド、ブローニャがそれぞれ攻撃をやめる。

 

「壊さないでいてくれる?ありがと、

 仲間割れしてアキくんが死んじゃったら許せないからさ~~」

「要件は何だ。手短に説明しろ」

「いやん!冷たい男は嫌われるよ~?…………あ!今は私の方が冷たいんだった!物理的に!」

 

 アハハ、と笑い声が響く。ジェパ―ドの口元から、ポタ、ポタと赤い液体が流れていた。

 

「私はね。姫野先輩、姫野ちゃんじゃないよ。アキくん」

「……薄々は気付いてました。記憶が戻ったおかげですが」

「う~~~ん。そう、君はどうしても記憶を思い出しちゃう。だから、私としてもどうしようか悩んだわけ」

 

 

 

「私はね、アキくん。"氷の魔人"なんだ。悪魔が人間に入り込んだ存在。だから今の私は"姫野先輩"じゃなくて、ただの悪魔」

 

 

 

「……そうですか」

「あ、あれ?そんだけ?なんで~、とか感情的に叫ぶのはやっぱナシかな?」

「一つだけどうして、と言うなら、なんで俺を殺さなかったんですか?」

「………………っ」

「あ、やっぱり一つじゃないです。悪魔の人格……ってのもおかしいですが、ならなんでずっと姫野先輩の真似事をやってるんですか?」

「…………黙秘権!そんなことより、私の居場所と目的を伝えないと」

 

 

「私はね?アキくんに殺してほしいの。そこにいるお仲間を連れてくるのは構わないけど、手を下すのは君じゃなきゃだめ」

「……俺にはアンタへの対抗手段はないですよ。氷の魔人ってだけで、別に氷に意識を移したりできるでしょ」

「うーん!出来るけどやんないよ!私としては、君と"氷鬼"と"かくれんぼ"がやりたいの。風呂場でも言ったけど、あれほとんど聞こえてなさそうだったからワンモア」

 

「それに、君には私を殺せる武器があるよ?家に忘れてたから持ってきちゃったけど」

 

 そういうと、雪玉から腕が伸びる。明らかに質量法則を無視しているが、その辺の空気や雪から充填しているのだろう。

 腕は窓から外に伸び、何かを掴んで小屋の中心、机の上へ放り投げる。

 

 そこには、釘があった。

 正しくは、釘の形をした刀だ。

 

「……カース。」

「そう。呪いの悪魔」

 

「アキくんだけの力で殺してほしいけど、それは流石に難易度ナイトメアモードだからさ。そのお決まりの武器でさ、私をパパっとやっちゃってよ」

 

「…………確かに、アンタは姫野先輩じゃないな」

「ほう!またどうして急に?言っとくけど、私の体も声も、正真正銘姫野ちゃんのものだぜ?勿論、人格がどーたらとか言われちゃえばそれまでだけどさー」

 

「この武器の誓約くらい、先輩の記憶を全部食ったなら知ってるだろ?先輩なら、これを使えなんて死んでも言わねえ」

「……………………そうだろうね。だから私はそれを指定したんだし」

 

「いいんだよ。多少使っちゃっても。なんでかは言えないけどさ」

「そんなこと言って、(いたずら)に振るえばベロブルグの住民の寿命がいっぱい減りました、めでたしめでたしとかか?」

「違うって!あ、それと朗報。凍っちゃった人たちなんだけどさ、私が死ねば明日には溶けるよ」

「…………ッ!」

 

 ジェパ―ドが反応する。仕方のない事だろう。彼女は、まるで意に介さないように話を続ける。

 

「優しいアキくんのことだから、何もせずに殺してって言ってもゴネるでしょ?だからこれは対価ってこと、対価」

「……アンタを殺さなかった時、あれはどうなるんだよ」

「うーん……どうにでも?出来るかなぁ。ミックスジュースとかシャーベットパフェにできると思うよ」

 

 ペラが想像し、えずきそうになるのを必死にこらえる。

 

「最後に、なんでアンタは俺に殺されたいんだ?」

「聞いて欲しい事全部聞いてくれるね!答えたくないけど!

 ……こっぱずかしいけどさ、敢えて言語化すると。姫野先輩は君が大好きだったんだ」

 

「ふざけるのも大概に────」

 

 

「ふざけてないよ。私の本心だ。君の先輩はね、どうしても君が大好きだったんだよ」

 

 

 激昂するアキの先手を打つように、氷そのものと言った声音で彼女は言う。

 その圧に、アキの中に生まれた炎も、炎の形のまま凍らされてしまった。

 

「話したかったのはそんな所かな!あんまり被害が出なさそうな所にいるからさ、なるはやで来てくれよーう?」

「結局、居場所は何処なの?」

「お、ブロちゃん。安心してね、下層部には手を加えてないからさ。ただ移動されると面倒だから、一時的に封鎖しただけだよ」

「…………そう。ご丁寧に感謝するわ。それで、何処?」

「なんかね、デカい山の……麓?ぐらい!とりあえず目印は出しとくから、この辺で一番デカい山に向かってくれれば多分合ってる」

 

 

 その後、アキと二、三言交わして、雪玉は解けた。

 誰も口を開く者はいない。

 

 口火を切ったのは、ジェパ―ドだった。

 

「内容を聞いた所、アキ1人でも可能だろう。だが、僕は同行する。それに、作戦が必要だ」

「わ、私もです。お役に立てることは少ないかもしれませんが、無い訳ではない筈」

「私も当然、同行させてもらう。ベロブルグの存亡をかけているのに、頭が動かない訳には行かないわ」

 

 アキは、三人を見る。

 "存護の都"に相応しい頑固者たちは、例え反論しようとその意見を曲げやしないだろう。

 

「とりあえず、作戦から行こう」

 

 

 

 30分近く作戦を練った後、彼等は支度を終わらせた。

 

 

 

 常冬峰の麓。

 

「よく来たねー、待ってたよアキくん」

 

 魔王のように仁王立ちしている姫野(偽)。ただ、これから存亡をかける鬼ごっこをするようには見えない。

 非常にリラックスしている。だがそれは同時に、いつ襲われてもいいよう準備が出来ている、ということだ。

 

「お邪魔します」

「邪魔するなら帰ってねー」

「お断りします」

「手厳しい!」

 

 毒気を抜かれるようなやり取りだな、とアキは思う。今のはアキではない。ブローニャと氷の魔人(ニセひめの)とのやり取りである。

 

「じゃ、どうやって始めるんですか?」

 

 アキが尋ねると、氷の魔人(ひめの?)はにやりと笑う。

 何か既に仕掛けられたか、と緊張した4人だったが、どうやら違うらしい。

 

「私は強いからさ。ハンデがないと簡単に終わっちゃう(ワンサイドゲームになる)。アキくんが私に、ソレを一回刺したらスタートだよ」

 

 前もって聞いていたが、死ぬと言っても抵抗しない訳ではない。

 何故だと思ったか?俺もだ。

 

 なんでも、「抵抗しないと意味がない」らしい。

 悪魔らしいよく分からん理屈だ。

 

 というか、向こうの抵抗は我々蟻を潰す象の足踏みだ。抵抗、なんて生ぬるいものではない。下手をすれば死ぬし、下手じゃなくても死ぬものだ。

 

 …………ハンデとしては、こちらにとって少々有利すぎるくらいの条件だ。三回の内一回を飛ばせば、残りは一回ととどめだけだ。地獄には変わりないが。

 悪魔の思考回路は理屈で動いていないので、そういうものなのだろうと納得するしかない。

 

 

 とりあえず、味方達は所定の位置に着いた。

 釘を、一発打ちこんだ。

 

「いった~~……あ、ごめん。無意識に出てたからさ、許して」

 

 苦痛に歪むその顔を見て、頭が真っ白になりかける。

 だが、その後の謝罪と共に繰り出されたただのパンチで、アキは大きく吹っ飛ばされた。

 

「アキ!態勢を整えろ!こちらで抑える!!」

 

 ジェパ―ドが鋭く声を届ける。ギターケースで思い切り殴るが、全く効いた素振りはない。

 

 一瞬の事で、アキを攻撃から守ることも出来なかった。

 だが、後悔する間もなく"死"がやってくる。アキに対してはいくらか加減しているようだが、我々に対する遠慮など欠片も持ち得ないだろう。

 

 ギターケースでとっさに防御する。存護の意思によりいくらか威力が軽減されても、何度も受ければギターのケースごとブチ抜かれそうだった。

 

「ジェパ君はさ、立派だよ。できることを精一杯やれてる。今のベロブルグの治安維持には、君が必須」

 

 急な言葉に、狙いがずれる。だが、動揺を即座に抑え、二撃目は当てた。だが、手ごたえは薄い。ほぼないと言っていい。

 見ると、氷を作り出してダメージを軽減していた。こちらの真似事、という訳か。

 

 そして、ジェパ―ドを支援射撃する影がある。ヒメノは知っている。ペラ以外にいない、と。

 

「ペラお姉ちゃんも。尊敬してるよ?私よりずっと若いのに、私よりずっと見識深いよ」

 

 射撃がワンテンポズレる。一発だけ、逸れて当たらないのがあった。氷の魔人(ニセひめの)は大体の位置を把握する。

 

 

 アキの方に目を向けると、ブローニャが肩を貸して立ち上がる所だった。

 嫉妬する部分はある。それが事実だが、それを冷静に眺める自分もいる。

 ブローニャ、ブロちゃんに言うべきことは既に伝言のタイミングで伝えた。それに、彼女はもう誰よりも痛烈な喪失を経験している。意地悪する必要はない。

 

 ジェパ―ドをあしらい、ペラの居そうな方に氷柱の槍を飛ばす。

 射撃が止んだ。殺してはいない。怪我していても、さっさと終えてしまえば手当できるだろう。

 

 

 アキの方に体を進めようとすると、身体のバランスががくっと崩れた。

 足を掴まれ、思い切り引かれたのだ。やってくれる。これくらいしてくれなきゃ、期待外れの笑い話だ。それを話すなら、ジェパ君は生きて帰らないといけない。

 もう片方の足に力を入れようとしたら、なんと膝裏に衝撃が走る。

 仕留め切れていなかった(いしきを保っていた)らしい。詰めが甘いというのは、戦場では非常に不味いんだなぁ。と思う。

 

 アキくんは私に駆け寄ると、一思いに釘を刺してくる。

 あぁ、駄目だよ。なんで肩に刺すの?急所を狙わなきゃ。

 

 そして、私は氷の魔人としての力をほぼ全て解放する。完全に開放したら、周囲と同化してしまうのでやらない。

 

 ジェパ―ドは吹き飛ばされ、木に激突する。ズルズルと崩れ落ち、気を失った様だった。

 猛吹雪が巻き起こり、ペラからの射撃も不可能となった。

 

 目の前にいるのは、アキくんだけだ。

 

 

「二人っきりだね」

「ロマンの欠片もないな」

「まあ、悪魔とデビルハンターだから」

 

「それだ。お前は本当に悪魔なのか?」

 

 

 そういうと、氷の魔人(だれか)は小さくため息を吐く。

 

「どうせ助けには入れないし、丁度いいね。あんまり詳細に話すと故人の意思を尊重できなくなるからかいつまむけど」

 

 

「私は、幽霊に消された姫野の遺体に入った。なんでかは知らないよ?だって気付いたら入ってたし。すると、不思議なことに彼女の記憶が全て残っていた」

 

「知識とかが、って話じゃない。姫野ちゃんの感じた事、思ったこと、出来事全て。人生だよ」

 

「これは推測だけど、私にも元の人格があった筈なんだよ。悪魔(じん)格が」「でも、今はきれいさっぱり無くなってる。何故か?人間一人分の人生に、塗り潰されちゃったんだと思う」

 

「強烈な恋慕(あい)に」

 

 

「今の私は氷の魔人だけど、行動原理はまるっきり人間のもの。人間の記憶と、人間の精神。でも、どこかで致命的に間違っている。犬が「自分は人間だ」と主張しても、結局習性やらなんやらで犬だと定義される。人間の知能を持っていたとしても」

 

「こんなに一気に喋れば、普通なら喉が渇く。カラカラに。でも、渇いてる感覚なんてない」

 

 

「そもそも、潤うも渇くもない。悪魔にそんな概念はない」

 

 

「こんなにいっぱいの人間の命を握ってれば、罪悪感が生まれる。でも、私の心は痛まない」

 

 

 

「心なんてあるのかな?」

 

 

 

 ねぇ、アキくんはどう思う?

 最後の一言は、声には出なかった。

 




問題。

肉体は悪魔、魂は人間。これは人間か?どちらの存在だ?
肉体は悪魔、魂も悪魔?これは人間か?それとも悪魔か?

肉体は人間、魂は肉体の人間を模す悪魔。それはその人間と、同一の人間か?
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