『チェンソーマン』運命<壊滅>   作:踊る餅巾着

9 / 9
なんかサブタイトルがおかしいです?
まぁ見て貰うのに支障はございませんので、ご安心ください。正しくは”エピローグ”です。



繧ィ繝斐Ο繝シ繧ー

「氷の魔人……いえ、雪の魔人ヒメノ」

 

「はい」

 

「罪のないベロブルグ市民を氷漬けにして、人質に取ったこと」

「インフラが停止し、ベロブルグそのものを一時停止させたこと。それにより、莫大な損害を与えたこと」

「下層部と上層部を分断、恐慌に陥らせかけたこと」

 

「罪を認めるか?」

 

「認める。全部私の罪ですよー」

 

 

 ベロブルグ、クリフォト城の一室。

 極秘で行われた裁判擬きは、円滑に進んでいた。

 ただ一点を除いて。

 

 

 ベロブルグの街は、いつもと変わらない。

 本当に何気ない日常を、皆がそれに感謝しながら暮らしている。

 それが尊いことだと自覚する者は、前の上層なら少なかった。裂界が出現して、今ある日常は不変ではないと気付く者は多かった。

 

 

 ジェパード、ペラ、ブローニャ。そして……アキと私。五人で始まった裁判。しかし誰も、ヒメノを責めようとしなかった。

 裁判という形ではあるものの、前述の通りこれは裁判じゃない。

 そもそも被告は小さすぎて普通に立つと見えないので、机に立っているのだし。ペラは卒倒しかけたが、その様子は割愛する。

 

 とにかく、これは非公式な場で行われる尋問と相違ない。

 どれだけ彼彼女らが責めようと、詰ろうと、それは私のやったことの裏返し。私刑になっても、甘んじて受け入れるつもりだった。

 

 と、部屋のドアが勢いよく開く。そちらを一瞥し、視線を戻せず同時に立ち上がる者がいた。

 

「お邪魔します」

「リンクス!? どうしてここに!?」

「しゃざい」

 

 ジェパ―ドの驚きに同調する訳ではないが、誰も彼女が来た理由を把握していなかった。

 リンクス・ランドゥー。ジェパードの妹であり、普段はフィールドワークに勤しむサバイバルの申し子である。

 彼女はヒメノに一直線に向かうと、缶詰を彼女に渡す。

 

「これは……?」

 

 ヒメノが困惑していると、リンクスが説明してくれる。

 

「野営の時に使う缶詰だよ。今日はしゃざいに来た」

 

 リンクスの説明を聞いて、ヒメノの頭には電流が走る。あの時の、アレだ。

 思わず冷や汗をかく。

 

「えーっと……リンクスちゃん?」

「あの時はコケて手から落ちちゃったから。ねーちゃんにかかってたのを見た。ごめんなさい」

 

 リンクスがぺこり、と頭を下げる。

 確かにかけられてしまったのは事実だが、恐らくあの現場を目撃したのだろうという罪悪感の方が勝る。

 こんな子に見せるべき現場ではないというのに。

 

「いやいや!こちらこそ、ね?くさいとか言ってごめんだから~~、お互い様だよ」

 

 た、食べ物だったのか……確かに、思い返せば魚の青いかほりがした気がする。

 

「初めては皆そう言うから。それに今回は極上品だったから、そうなると尚更」

「それは……尚更何かでお返ししたいけど」

「今は裁判に集中して……いえ、良いです。秘匿裁判に順序などないも同然ですね。あと極上品とは?」

 

 ペラが会話に参加してくる。

 ブローニャとジェパードは、未だ呆気に取られている。なんと話せばいいのか分からないのもあるのだろう。……意外と図太いか?この子(ペラちゃん)

 あと極上については私も気になってた。聞いてくれてありがとう。

 

「土に埋まってて何十年モノか分からなかったから。あと爆発寸前だったし」

 

 それ原型残ってないじゃねぇか。

 聞いたことあるよ?数十年経っても食べられる缶詰も多いけど、あんまりにも長時間保存すると液体になるって聞いたよ? 

 

「そこで爆発したから手元が狂って落ちちゃった」

「な、なるほど……ありがとうございます」

 

 そもそも、私達の近くにいたわけではないらしい。

 ただ、ああして叫んでたのが聞こえなかった、なーんてこちらに都合のいい事は考えられない。なまじそうだとしても、謝りたいのは本心だ。

 

 話が脱線した……リンクスは「謝罪」に来たと言っていた。それはつまり、食べ物をぶつけてしまったことへの謝罪と……あの発言を私が謝れる機会。どちらの意味も踏まえて、此処へやって来たのだろう。多分。

 ジェパ君の妹さん……なのかな?大成しそうな予感がする。

 

 互いに改めて「ごめんなさい」を伝える。いくつか缶詰を貰った。これで野営の機会があっても安心だ。今回は"極上"じゃないらしいので、安心して味わおう。

 缶詰の布教も兼ねていたらしい。強かな子である。

 リンクスが丁寧にお辞儀して部屋を出ると、何とも言えない空気が漂う。

 

「……嵐のようだったわ」

「……妹が迷惑をお掛けしてすみません」

 

 ジェパードの言葉に、気にしないよう伝えるブローニャ。

「いえ、大丈夫。それに、あまり重苦しい雰囲気は苦手だから、どうしようか悩んでいたの。有り難かった」

 

「これから罰を言わなければならなかったから」

 

 弛緩していた空気が引き締まる。ヒメノはついにこの時が来たなと思った。

 アキの方を見るが、表情らしい表情は見られない。私が消えかけの時は泣きそうだったくせに……いや、止めておこう。そんなみっともない事を言っていたら、本物の姫野ちゃんに失礼だ。

 私は雪の魔人。くーるに行こう。

 

 ブローニャの宣告は、簡素な物だった。

 

「あなたへの罰は、毎日温かい風呂に入って」

「夜更かしもせず」

「健康でいること」

 

「そんなのは……」

 

 

 認められない、と言いたかった。

 納得はできない。

 出来るはずもない。

 

 だが、私が何を言おうとも判決は覆らないだろう。

 まずは反論の言葉をぐっと飲み込み、代わりに問う。

 

「……理由を聞いてもいい?」

「答えは簡単。『何も実害が出ていないから』」

 

 そうは言うものの、ベロブルグの巨大な街全土の人間を凍結させた。分断でも氷漬けにしたことにも、実害は間違いなく出ているはずだ。

 その疑問に解凍(回答)するように、ブローニャは重ねて根拠を述べる。

 

「1日時が止まったとして、すべてが止まっているのなら大きな害はない」

「人間の、と言っていたけれど、付近を調査しただけでも大量の裂界造物の氷像があった。明らかに真新しい氷像が、ね」

 

 ……裂界造物。ベロブルグの敵だ。人間の敵だ。

 ヒメノは凍らせた。

 

 でもそれは、裂界造物を、ではない。全てを凍らせた。

 でもそれは、人間のために凍らせたんじゃない。そっちが勝手に良い方向に解釈しているだけだ。

 君たちが勝って、手にしただけだ。

 

 君たち四人を、私は凍らせたく(ころしたく)なかっただけなんだから。

 

 

「それに、下層部の恐慌への対処もあった。あの書き置き……ナターシャは心配していたけど」

「"どこからこんな大量の食料を"、ってね」

「このタイミングでそんなことをするのは、あなたしかいない。そうでしょう?」

 

 ……それはただの、偽善なんだ。

 だって、自分のせいで人が餓死したら嫌だから。

 それで……それで、食べ物を狩ったり取っただけ。

 

 もちろん正当な対価は払った上でだ。窃盗犯にもなりたくない。

 

 よく知りもしない人が必ず死ぬだろう、という時。自分が必ず助けられる、時間と物量があって。

 そこで働きかける人間は多い。

 悪魔ならほぼいない。

 

 人間と同じ精神体なら、自分たちでどうにかできる程度までにはなんとかする。他の存在がどうなのかは知らないけどヒメノはそうするし、そうしただけだ。

 

 手を下したくないだけ。それに、一度は命を手のひらいっぱいに掬った。握ったら零れて溢れちゃうから、一杯に広げた。

 掌に乗せて、いつでも溢せた。一線は超えたんだ。

 

 ヒメノは否定しようとしたが、言葉を挟む隙もない。

 

 ……人間の残滓みたいな物だ。

 圧倒的な愛情に自我を押し潰された悪魔。人間らしさなど欠片も持たぬはずの氷の悪魔の精神は、人間のものに限りなく近かった。

 人間のフリをする悪魔の、人間臭い部分。この場合は、行き過ぎなくらい他人を思いやれることだろう。

 それでも、決めたことは頑としてやる、という曲げられない部分は悪魔らしいか。

 

 悪魔に生まれた罪滅ぼしなのか、人間の心が赦しを乞うたのか。

 今となっては、誰も分からない。

 

「……私は、どんな罰でも受け入れる。じゃあ、ジェパ君はどう思うの?」

 

 この中ならば、最もヒメノに敵対する感情が強かっただろう彼に尋ねる。

 

 彼は、澄み切った青い目を揺らがせる。

 だが、深く深く息をつき、目を瞑る。目を開いた次の瞬間には、普段と変わらない顔つきになった。

 そして彼は冷静に、真摯に答える。

 

「僕は、大守護者様の意見に賛成する」

 

 そういうと、ヒメノは安心したような、落胆したような小さな息を吐く。自分でもわからなかった。

「どうして?」

「先ほど述べた通りの、ベロブルグ住民の大規模凍結。そして、裂界の敵生体の大規模殲滅。下層部への食糧提供。それらを加味し、僕はブローニャ様への異論は無い」

 

 どこまでも誠実で、愚直なまでにまっすぐな答えに思わずヒメノは笑ってしまう。

「あはは、君は……真面目だねぇ。いーや、ばかまじめだ」

「すまないが、僕がバカだという中傷は訂正してもらう」

「ごめんごめん。褒めてるんだって、本気(マジ)で……や、真面(マジ)目にさ」

 

 誤魔化すようにおどけるヒメノ。

 そのギャグが伝わったのは残念ながらアキのみであり、ジト目の視線を向けている。

 ニヤついた顔のヒメノに、遂に我慢できなくなったのかアキがぼやいた。

 

「先輩、前よりギャグの頻度増えてません? あとなんか、心なしか質が落ちてるような……」

 

 ヒメノは「来た!」と言わんばかりに顔を輝かせてにやつく。

 それはね、とわざとらしくヒメノがもったいぶる。

 

「それはね…………

 

 

 私が"サムいギャグ"が好きだからさ!

 

 

 なんせ(元)氷の魔人だからね、凍った空気が美味しいんだよ」

 

 聞いた俺が馬鹿だった。

 やかましいわ。別側面から恐怖を集めてるんじゃないですよ。雪の魔人になったって言うのにギャグの寒度は変わってないし。

 氷の悪魔じゃなくてスベりの悪魔でも顕現させるつもりですか?仕留めるこちらの身になってくれません?

 

 ちょうどその頃は、宇宙のどこかで銀色の何某がくしゃみしていた。

 

 

 すっかり引き締められた空気も弛緩し、ペラの小言をヒメノは笑って受け流す。そのままジェパ―ドをからかう姿は、それまでとそう変わらない。

 まるで変化のない、凍結以前の景色と同じだ。

 

 こほん。とブローニャが空気を一新する。

 

「改めて、ヒメノ。あなたには健康的で他人を害することのない生活を義務づけます。罰に不満はある?」

 

 その柔らかい声音にとうとう観念したように、ヒメノは両手を上げる。

 

「ないよ、せいぜい気をつけよーと思いますー」

 

 

 無論、健康的な生活をするのに人を傷つけたりするのは御法度である。肉体的な健康ももちろん大切だが、精神が健常であるためには人を害することはあってはならない。

 ヒメノも、当然の如くそれに気付いていて承諾したのだった。

 

 

 これは余談だが。

 肉体が人間だろうとも、心が悪魔である以上魔人も契約には慎重にならざるを得ない。

 互いが同格であれば、互いがその契約を絶対だとすれば。魔人もその契約に縛られる。

 

 彼女は不殺を義務とされた。これから彼女の人生に、魔人生だけど。

 

 どんな影響があるかはわからない。

 

 でも、どれだけの間か分からないけど、彼と生きられるなら。少し生きてみようかな、と思った。

 

 

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

 

ある宇宙(そら)のある惑星(ほし)で。

地球のよくある都会に酷似した街並みを、小高い丘から見下ろしている。

 

浅緋色の髪の色。

白くパキッとしたシャツ。

黒のスラックス。

 

独特な模様の眼。

 

 

<このメッセ―ジは削除されました>

 

 

手すりに体重をかけて、相変わらず感情の見えない目が街並みを映す。

 

「逃げちゃった」

 

唐突に、誰に聞かせるでも、逃げた事を悲しむでもない呟きが彼女の口から漏れた。

その眼は、街を見ている。ゆっくりと視線を動かす。

 

「まさかそんなやり口で<このメッセージは削除されました>をすり抜けるなんてね」

「でも、ある程度の導線は残ってる」

 

聴かせるでもなく、伝えるでもない彼女の声。

空気を震わせて、その音は無意味に拡散していく。

 

<このメッセージは削除されました>は予想外だったけど……ある意味好都合」

「あの子と、あれと、あの子。……<このメッセージは削除されました>の準備が出来たら、だけど」

「でも、ここに居る意味はないからそろそろ離れないとね」

 

まだも彼女の声は意味のない言葉を紡いでいく。

紡いだ運と命の(ことば)は、誰にも知られずほつれる、消えていく。

 

けれどもそれとは関係なく、彼女の後ろに人間が立つ。

人間が、人間、にんげ、にん、人、人が間、人が、にん、に、人、が人人人人人人人人人人人ヒト人人ひiと他人ひとhito。

人間の群れ、ヒトの大群が彼女の後ろに立つ。配()に立つ。

 

彼女は目を向けない。

興味が無い。から。

 

後ろの人間共はしゃべらない。元々そういう機能が無いように、そこが定位置というように<このメッセージは削除されました>のように立っている。

<このメッセージは削除されました><このメッセージは削除されました>を考えれば、それも当然だろう。

<このメッセージは削除されました>されている。

 

有象無象共が傅いた。やることが無かったのだろうか?

彼女は見もしなかった。その面白いパフォーマンスを見るほど、暇ではなかったのだろうか?

 

「待っててね、<このメッセージは削除されました>君」

「君をまた<このメッセージは削除されました>して──────世界を、良くしよう」

 

 

 

<こメッセージは削ました><このメッは削除されした><このッセージは削除あれました><このメッは削除されました><このメッセージれました><セージは削除されまた><このメッセージは削除><この削除されました><こメッージは除され><このメセージあ削除えた><このメジは削rました><メッセージは除されまし>

<削除削除削除削除削除削除>

 

 

 

 

<お前如きに見えるものだと思うなよ部外者>

 

─メッセージを削除しました─

 

 

 

 

 

<このメッセせせせっせせえせせせせせs><ジは削除されされされされっられrされ><こののんのののおおおのん削除されましたお><ジはじjっじjjははじ恥はじははじじゃははあ><れま><削除さたたささststtったたあssss><まいいしししましまっしああsましままああsっしいいいいいいい><saggagagemamamasasagamassage><SAKUJO><削削削削削削削削削削削削削削削削削削削削削削><https://twitter.com/nagayama_koharu><除除除除除除除除除除除>

 

 

彼女の視線は、いつの間にか空を向いていた。

表情は相変わらず不気味なまでに無くて、何を考えているのかとんと分からない。

空ではない。ちがった。宇宙。宇宙(そら)のむこうを見ていた。遠くのなにかを見ていた。

ほんの少しだけ、顔が赤くなった。

どちらにせよ、ヒトには到底思えない虚ろな顔いろだった。

 

 

微動だにしない後ろのヒト共。全く見て貰えない彼等だが、芸の無いことにずっとそれを続けていた。

後ろを振り返る日は来ない。永遠に。

例えどれだけの人間を従えようと。彼女にとってそれは、呼吸と変わらないから。

 

 

「またね」




ゴールデンウィークは最高ですねえ~!!!
ですがこれ以降は本当に難しそうなので、というより止めておいた方が良さそうなので事情の方に専念します!6月までお預けだぜ!

裏話ですが、ヒメノが早川アキを呼ぶ時の呼び方に注目していただけると、チェンソーマン本編との違いが味わえます。
だからなんだ、と言う話ですが、伏線とでも言いましょうか。流石にそれで看破されたら賞賛以上に恐怖を覚えますが。

とにかく、今回はありがとうございます。恐らく次回は1ヶ月後くらいが濃厚ですので、気長にお待ちください。


↓追記
うーん、よく見たら本文の後半にも変な所があるっすね……編集画面ですとおかしくないんでこりゃ、こっちじゃどうしようもないかもしれません
治してみようとは思うんで待ってて下さいねー。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。