/矛盾点を発見し、修正致しました。
「おお女神よ―――――見ていてください!!!!!」
この人の頭はおかしいんじゃないだろうか。
次元空間渡航船、その船内で跪き空中に向かって話しかけているオッサン。
その右手には、魔力刃が煌めくデバイスを持っている。
そう、このオッサン…この船をハイジャックしたのだ。
乗客は全員集められ、脅されている。
そんな状況下で、どうして冷静で居るのかって?
幾多もの死線をくぐり抜けて来たからな…フッ。
嘘です、実はめっちゃびびってます。
貴様らの命は女神ベルドロス様へと捧げられる――とか何とかで。
この船に、小型ながらとてつもない威力を発揮する爆弾をしかけたらしい。
それも、絶対に見つけられないだろう場所に隠したらしい。
自分共々、乗客全員を塵にする気のようだ。
勘弁してくれ、マジで。
「…っ、あ、貴方! 馬鹿なことはやめなさい!」
勇敢…いや、無謀にも気の強そうな女性が立ち上がる。
「貴様…馬鹿なこと、だとお…?」
狂気に染まった表情のオッサンが、魔力刃を発生させている剣の柄型をしたデバイスにギュッと力をこめたのが分かる。
「そうよ、こんな…こんなことをして、いいと思ってるの!?」
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れェえ!!!! く、くく…そうだ、お前を先に女神様に捧げてやろう。光栄なことだろう、く、くくく」
ブチギレたオッサンが、デバイスを構えて女性に一歩一歩近付いてゆく。
こ、このままじゃ、あの女の人危ないよな!?
く、くそったれ! ここで何にもしなかったら男が廃るわああ!!
女性を助けなきゃ、という気持ちだけでオッサンに向かって走り出す。
…タックルで押し倒すくらいすれば、その後は他の乗客が押さえ込むの手伝ってくれるだろ。
ノックダウン? 出来るわけあるか、俺はヒーローじゃないんだから。
そんなどうでもいいことを半ばヤケクソ気味に考えながらオッサンに向かって特攻する俺。
―――グキッ。
鳴ってはならない音がした。俺の足首が。
足をグキリとやっちまった俺だが、先ほどまで特攻していた為に勢いづいた自分の体を止められなかった。
そのまま、変な体勢と変な勢いでオッサンに突っ込む。
いや、正確には突っ込んではいなかった。
「――え…?」
もうおしまいだとでも思っていたのだろうか、固く目を瞑っていた女性が瞼を開ける。
なんと、俺は拳でオッサンを一発ノックアウトさせていたのだ。
嘘だろ、おい。
このままじゃ倒れ込むと思い、身を守る為に突き出していた右手。
その右手が、偶然にもオッサンをぶん殴っていた。
何というミラクル。
「あ、あの、ありがとうございます…!」
気の強そうな女性が、感動しました!みたいな顔で感謝の言葉を口にする。
い、いやさっきのは偶然倒せちゃっただけなんですよ。
「ど、どういたしまして。…いえいえ、助けようと思って突っ込んだら偶然倒せちゃっただけで、アハハ」
苦笑しつつ、船内の壁に取り付けてある救急箱のある方へと歩く。
乗客の皆さんが拍手や歓声を上げているが、今はそんなことより足の痛みをなんとかする方が先だ。
早く、早くなんとかしないと…!
救急箱まであと一歩、というところで。
神様は俺を苦しめて楽しんでいるのだろうか、挫いた足を再びグキリとやってしまう。
「ぐっ、こ、これは…!」
これは―――やっちまった。そう言おうとして、俺の右手がオッサンをノックアウトした時のように救急箱の蓋を破壊した。
え、ええええええ! こ、壊れた!? 壊れたよこれ!?
オレンジ色の蓋が、救急箱から切り離されたかのように壊れて取れてしまった。
やばい、怒られる。
弁償しろとか言われたらどうしよう。
そこで俺は思いつく。
そうだ、ここは次元空間だ。捨ててしまおう。
幸い、今は乗客たちは助かった喜びからどんちゃん騒ぎをしている最中。
これはいける!
ゴミのポイ捨てのようでとても罪悪感があるが、弁償は出来ない。
そんな金は…ないのだ…!
そうと決まれば迅速に行動せよ――――!
すぐ近くにあったハッチをガチャリと開けて次元空間へ投げ捨ててやった。
か、完璧だ。
そこまでして、俺はようやく気付く。
すぐ側に、先ほど助けた気の強そうな女性が来ていたことに。
「あ、いや…今の『ズドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!』…は?」
冷や汗が噴き出すのを感じつつ、情けなくも女性に言い訳をしようとしたその時。
耳をつんざく爆発音。
船内にある、目の前に広がる次元空間をモニターする巨大なモニターに映るのは爆ぜる…オレンジ色の蓋…?
次元空間に浮かぶオレンジ色の蓋が、とんでもなくでかい爆発をしていた。
あれさっき俺が捨てたやつじゃねーか!? おい!?
え、あれに爆弾くっつけてたの!?
っていうか、爆発寸前だったのかよ!?
「さっき、あの蓋を捨ててたのはやっぱり爆弾をこの船から遠ざける為…!」
またも、感動するかのように震える女性。
やっぱりって何!? 違うよ!?
女性の言葉を聞いた乗客たちは、俺に抱きついたり胴上げしたりで大騒ぎ。
当の本人である俺は、完全に置いてきぼりだった。
▫︎▪︎▫︎▪︎
「士官学校に入学してみないかい?」
あの、次元空間渡航船ハイジャック事件から数日後。
メディアに取り上げられまくり、さらには時空管理局から取り調べと称賛の嵐をいただいたりと慌ただしい日々を送っていた。
デカデカと『ヒーロー、華麗に乗客を救う』なんて放送されたりもした。
本当に勘弁してほしい。
そんなある日、時空管理局から今回の事件を担当した執務官が家にやってきた。
そして、今に至る。
「君の、無手によるデバイス所持相手の完全無力化と即座に爆弾を見つけ出し次元空間へと投げ捨てたその頭脳と冷静さ、技量…君には才能がある。勝手ながら、魔力測定をしてみたところ魔法資質もあるようだし」
いや、何をさわやかーに言ってるんですかあなた。
魔力測定なんていったいいつしたんだよ、おい。
ってか、あれはただの偶然とラッキーが重なっただけなんだって。
信じてください、本当に。
あまりにも褒められまくり、メディアに取り上げられまくるもんだから怖くなって全ては偶然だと言ってみたりした。
しかし、『偶然ではあんなことはし得ないよ』と何故だか微笑ましいとでも思っているかのような表情で言われてしまった。
マジで偶然なんですって、ねえ。
「あなた、遂に…遂に私たちの息子が…っ!」
「ああ、遂に俺たちの息子が…!」
「い、いやあなたたちは何を言ってるんですかね!? 息子がなんなの!?」
「小さい頃、正義のヒーローに…執務官になるんだって言ってたわよね! 夢への第一歩、お母さんもお父さんも応援してるわ!」
ちょっと待ってくれ、母さんよ。
確かに、確かに昔そんなことを言った記憶はある。
あるけども。
「執務官のお兄さん、どうか息子をよろしくお願い致します…!!!!」
父さんが深々と頭を下げていた。
勝手に、俺は士官学校へ行くことに決まっていた。
俺の話は? 俺の意思は?
無視ですか、そうですか。
どうしてこうなっちまったんだか…。
佐伯 怜侍――15歳。
士官学校入学決定です。
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