言い忘れていましたが、原作突入はまだ先になります。
「おお女神よ―――――見ていてください!!!!!」
…何なのよ、この人。
始まりは数十分前のことだった。
右手に持ったデバイスに魔力刃を発生させた男が、乗客、船長やクルーたちを脅し一箇所に集め、この次元空間渡航船をハイジャックした。
小さなサイズだが、起爆すれば大爆発を起こす爆弾をこの船のどこかに仕掛けたらしい。
男は、狂信者だったのだ。
女神ベルドロス、とかいう聞いたこともない名の女神に私たち乗客と自分の命を捧げるつもりらしい。
――何を勝手なことを、と思った。
自分で言うのも何だが、正義感は強い方だと思う。
それも、自分の兄が正義感に溢れた執務官だからだろうか。
とにかく、正義のヒーローに憧れていた私。
そんな私が、そんな勝手なことを許せるわけがなかった。
乗客の命を、そんなことの為に使われてたまるか。
「…っ、あ、貴方! 馬鹿なことはやめなさい!」
自然と、体が動いていた。
自分でも、無謀なことをしたと思う。
執務官の兄を持つからと言って、私自身が強いわけじゃない。
士官学校にも行ってないし、戦闘経験だってまるでない。
兄が鍛錬している様子をずっと見ていたりしただけだ。
私が強いわけじゃ、ないのだ。
それでも、口と体は勝手に動いていた。
「貴様…馬鹿なこと、だとお…?」
狂気。
男の表情はその一言で表せる。
魔力刃を発生させているデバイスを握る力が、強める男。
「そうよ、こんな…こんなことをして、いいと思ってるの!?」
怖い…が、ここで怯むわけにはいかなかった。
「黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れェえ!!!! く、くく…そうだ、お前を先に女神様に捧げてやろう。光栄なことだろう、く、くくく」
自分が平静を保とうとすればするほど、体はガタガタと震えを大きくしていく。
一歩、また一歩とこちらに近付いてくる男を見て、もうダメだと思った。
固く、固く目を瞑る。
…だが、いつまで経っても衝撃も痛みもやってこなかった。
――私が憧れた、ヒーローがそこに居た。
男性にしては、ちょっと長めの黒髪。
髪と同じ色をした、つり目の瞳。
その瞳は、ちょっとだけ怖かったけど。
その拳に倒れたハイジャック犯を睨みつけるその瞳には、正義の炎が燃えている気がした。
「あ、あの、ありがとうございます…!」
私を救ってくれた男の人に、声をかける。
本当に、かっこよかった。
魔力刃を発生させたデバイスを持つ相手を、まさか拳一つで倒してしまうなんて。
「ど、どういたしまして。…いえいえ、助けようと思って突っ込んだら偶然倒せちゃっただけで、アハハ」
私が声をかけた途端照れ臭そうに笑う、ヒーローさん。
怖そうなつり目と、ハイジャック犯を睨んでいた時とは打って変わって、優しげな表情。
ああ、私が憧れたヒーローはまさにこの人だと…そう、思った。
彼が、壁に取り付けられた救急箱へと向かう。
もしかして、乗客の中に怪我人が居たらと、手当てをする為に――?
いや、違う。
そうだ、思い出した。
ハイジャック犯が仕掛けた爆弾は時限式。
もう、爆発まで間もないかもしれない。
それを理解している彼は、爆弾を…!
救急箱へと向かう彼の元へ近付く。
そうなのね…その、救急箱が爆弾に関係しているのね。
「ぐっ、こ、これは…!」
探していたものを見つけたかのように声を上げる彼。
…やっぱり、爆弾だったんだ!
私が完全に彼の側へ辿り着く前に、彼は救急箱の蓋を救急箱から切り離して、ハッチを開け次元空間に投げ捨てた。
なんて、すごい人なんだろう。
短時間で、爆弾を発見し投げ捨てるなんて。
彼は、私が近くに来ていたことに気がついたのか振り向いた。
その額には、冷や汗が。
きっと、もう爆発まで間もないと焦っていたんだろう。
「あ、いや…今の『ズドオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!』…は?」
彼の言葉を遮って、ものすごい爆発音。
船内にある、目の前に広がる次元空間をモニターする巨大なモニターに、先ほど彼が投げ捨てた救急箱の蓋…オレンジ色の蓋が大爆発を起こしている様子が映っていた。
「さっき、あの蓋を捨ててたのはやっぱり爆弾をこの船から遠ざける為…!」
彼の迅速な行動に、心の底から感動した。
私の言葉を聞いた乗客たちが、彼を胴上げしたり抱きついたりで大騒ぎ。
この次元空間渡航船に、時空管理局の執務官…もとい、この事件の担当をする執務官となる私の兄がやって来るまで騒ぎはずっと続いた。
見つけた。
私の、目標となる人。
正義の、ヒーロー。
▫︎▪︎▫︎▪︎
兄さんに聞いた話だ。
彼は、
珍しい名前だと思えば、生まれはミッドチルダではないのだとか。
しかも、彼と私は同い年らしい。
これには驚いた。
私もよく、実年齢より大人に見られることがあるが…それ以上に、彼は大人びていたものだから。
そして、彼――佐伯怜侍は士官学校に入るらしいのだ。
兄が士官学校に入ってみないかと聞いたところ、二つ返事でOKだったそうだ。
それを聞いて、私は”あること”を決めた。
私、ルキナ・フォルテルード 15歳。
士官学校に、入ります。
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