戦闘狂官、という方をご存知だろうか。
その名の通り、戦闘狂である。
そしてまた、戦闘狂でありながら…教官である。
この学校では、とても有名だ。
なんと、戦闘狂官は”生徒殺し”なんて言われてたりもする。
実際に殺したわけではないが、何十人もの生徒を保健室送りにしてきたらしい。
いいのか、教官。
そんなんでいいのか。
素手で魔法を弾いたとかいう、とんでもない噂もあったりする。
なんで、そんな恐ろしい教官の話をしているのかって?
獲物を見るような獣の目で、こっちを見ているからさ。
――助けてください。
▫︎▪︎▫︎▪︎
クソ忌々しい演習場に呼び出された俺は、馬鹿だからなのかノコノコとやって来てしまった。
そこで俺を待っていたのが、戦闘狂官であった。
そうして話は冒頭に繋がる。
「よく逃げもせず来たな、佐伯ィイ…?」
やばい。目がやばいって。怖い。
「余計な説明はいらねェ、手短に言うぞ。あたしの右肩に着いてるバッジを奪え。そしたらテメエの勝ち―――だァァァアッシャァア!!!!!!」
説明が終わる前に、戦闘狂官は攻撃を仕掛けてきた。
どうしてこう、意味の分からないことだらけなんだ。
理由もなしに攻撃を仕掛けてくる教官なんて居ていいのか。
攻撃に当たったら死ぬ。頭が潰れる。
ただの、何の策もない、ただただ俺を殴らんとする拳。
その拳の速さと言ったら、恐ろしいものだった。まったく見えないってどういうことだ。
避けられるかも分からないが、本能のままに頭を左にずらした。
拳が、右頬を掠めた。掠めた、だけなのに。
深くではないが、頬が切り裂かれていた。
ニィィ…と笑う戦闘狂官。
も、もうダメだーっ!?
そう思った瞬間、俺は吹き飛んでいた。
腹に、ものすごい痛み。
演習場の壁にぶつかることで、吹き飛ぶ俺の体はようやく止まってくれた。
な、内臓潰れてない…よな…?
今なら吐血出来る気がする。
「…? 話と違うじゃねえか、なんだお前。弱いな」
ようやく真実に辿り着いてくれたか!
そう! そうなんだよ! 俺めっちゃ弱いの!
…こんなズタボロの状況で喜んでしまうくらい、周りの勘違いは俺にストレスを与えていたようだ。
「つまんねえの…。オラ、気絶させて、保健室送りにしてやっからよ」
ええ!? なんで!? 気絶させる必要性ゼロでしょこれ!?
やめてください、そんなことされるくらいなら自分で歩って保健室行きますから!
そう言おうとして、壁を支えにしながらなんとか立ち上がる。
もう、目の前に。至近距離に、戦闘狂官がやって来ていた。
気絶させなくていいから! その振り上げた右手をおろしてください! これ以上ダメージ与えられたら死んじゃうって!?
喋りたいのに、腹の痛みが強烈すぎて口を動かすこともままならない。
ならば、と振り上げられた右手を掴んで止めようとする。
腹の痛みに耐えながら右手を伸ばす…!
くそ、目がチカチカする。
このままじゃ意識が飛ぶ…!
――スカッ。
そんな音が聞こえた気がした。
伸ばした俺の右手は、戦闘狂官の右肩上を通り過ぎて行った。
くそ、腹の痛みさえなければこんなことには!
――ブチッ。
ブチ?
おかしな音がした。
「テ、メェ…まさか、あたしを油断させる為に攻撃を受けたのか…!? 最初から、そのつもりで…ッ!?」
何の話だ。
戦闘狂官の視線を追って、戦闘狂官が見ているものを見た。
俺の、右手…?
制服の袖から出た、ほつれた糸が輪のようになっていて。
そして、その輪に上手いこと引っかかっている…バッジ…?
あまりの馬鹿らしさと、やっちまったという気持ちから何故か笑えてきた。
そこで、俺が今まで必死に保ってきた意識が途切れた。
▫︎▪︎▫︎▪︎
「ハッ!?」
勢いよく跳ね起きる。
…保健室?
辺りを見回し、ここが保健室だと分かったところで思い出す。
運命の神様の悪戯か何かで、ほつれた糸にバッジが引っかかって俺の勝ちとなってしまったことを。
「やぁやぁ、佐伯クン。おはよう」
気持ち悪く思えてしまうくらいの笑顔で、戦闘狂官はやって来た。
この人の顔を見ただけで寒気がしてきた。トラウマか何かだろうか。
「お、おはようございます」
おはよう、と言われてしまったので言葉を返さないわけにもいかず。
「そのバッジは、君にあげるよ。あたしが君に”負けた”という証だ」
い、いらねえ。捨ててしまいたい。
そこまで言って、戦闘狂官が俺の耳元に顔を近づけて。
「テメエ、覚えとけよ。あたしは一生忘れねえぞ」
それだけ言って、保健室から出て行った。
俺は、魂が抜けたように動きを止めてしばらく動けずに居た。
怖すぎる。
▫︎▪︎▫︎▪︎
「もう勘弁してくださいいい!」
「オラァ佐伯! なぁに逃げてんだかかって来いやァ!!!!」
戦闘狂官が担当の授業になる度、執拗に俺ばかりが追っかけ回されるようになった。
クラスメイトたちは、自分たちが狙われなくなって良かったと安心しているようだ。
わざとそっちの方に逃げて巻き込んでやろうか!
…そんなこと、する勇気もないけど。
―――あとから聞いた話だが、戦闘狂官は『佐伯に負けた』とあらゆる場所で言っているらしい。
さらに。
俺が袖の糸がほつれているのを知っていて、戦闘狂官を油断させ糸のほつれを利用し――バッジを見事奪い取り勝利したと思っているらしい。
よくそんなふうに勘違いしたな。
ほつれた糸のあんなちっさい輪っかで狙ってバッジを引っかけられるわけないだろ。
俺の周りの人は、皆おかしいんじゃなかろうか。
誰か、この勘違いを止めてくれ。
勢いで書いているもので、変なところなどありましたら申し訳ありません。
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