休日、俺は街に出て買い物をしていた。
私服をあまり多く持っていない俺は、新しい私服を買おうと寮を出た。
今まで着ていた服が少しキツくなってきたこともあるしな。
そして、店に入ったはいいんだが――
「お客様、大変お似合いでございます…!」
ど、どうしてこうなったんだ。
何かとテンションの高い女性店員が、服のみならず俺の髪型なども弄くり回したのだ。
鏡で自分の姿を見ているが、まるで別人である。
ちょっと長めな髪を後ろで結われ、前髪を左に流し前髪で左目を隠すようになっている。
さらには、女性店員がニヤニヤニヤニヤしながら持ってきた伊達メガネをかけて。
一番おかしいのは、服である。
俺に一番似合う服はこれですと言って渡してきた服が、時空管理局・武装局員の制服だった。
首を傾げつつも着てみたが、やはり変な感じがする。
しかし女性店員はとっても満足そうにニコニコと笑っている。
「ああ…!”武装局員と執務官”のクール担当セルジュ君にそっくり…!」
「な、何か?」
よく聞こえなかったが、何を言ったんだ?
「いえいえ何でも!ほんっとうにお似合いですので、是非! 伊達メガネと服、セットで1000円で構いませんから!ね!?ね!?」
「わ、分かりました買います!」
あまりの剣幕に買いますと言ってしまった。
も、ものすごい迫力だった。
「や、やったー!!!!ありがとうございました!」
…まあ、安かったしいいかな?
「あのぉ!帰る前に、一枚だけ写真を一緒に撮ってくれませんか!?」
「はあ…いいですけど」
なんで俺なんかと写真を撮りたいんだ?
減るもんでもないし、別に構わないっちゃあ構わないが…。
「え、ええええ本当にいいんですかあ!?じゃ、じゃあこの模造剣を逆手に持って、私を守るように構えてもらえますかっ!」
「……分かりました」
なんて恥ずかしいポーズなんだ。
なんだよ、守るようにって。
しかしながら、いいですよと言ってしまった手前、今更無理とは言えず。
女性店員さんを守るように、渡された模造剣を構える。
…模造剣なんだよな、これ?
なんか異様に重たいんだけど。
まるで、本物の剣のような輝きと重さ。
いやいや、模造剣だって言ってたし、まさかな。
俺が構えた直後に、カシャッとシャッター音。
「うふ、うふふふふふふ」
怖い。なんだ、その笑いは。
渡された模造剣を、後ろ腰のホルダーにしまう。
数分、女性店員が正気に戻るのを待ってみたがまったく正気に戻る気配がないので帰ることにした。
「じゃあ、俺はこれで…」
一応、そう告げる。
…まるで聞いちゃいない。
店を出た直後に、この武装局員コスプレで寮まで帰るのか…とちょっと後悔した。
店を出てしまったし、着てきた服に着替え直すことはもう出来ない。
着替える為だけに公衆トイレに入るのも面倒だ。
さっさと帰ろう、いつまでもこんな格好でうろうろしていたくない。
そして、店からだいぶ離れてからやばいことに気付いた。
「や、やべえ、ホルダーにしまいっぱなしで来ちまった!?」
なんか腰が重いと思ったら、後ろ腰のホルダーに模造剣を納めたまんまで来てしまったのだ。
これは流石に返しに行かなきゃダメだよな…。
店に戻ろうと、踵を返す。
「そこのアンタ、武装局員でしょ!?緊急招集かかったから、早く行くわよ!!」
ガシッと俺の腕を掴む、見たこともない女性。
だ、誰だよ!?
「いや、あの!俺武装局員じゃな――!?」
俺武装局員じゃないです。そう言おうとしたが、無理だった。
有無を言わさず、転移魔法をかけられる。
何処に行くんだ。何が起きるんだ。
…とりあえず、一言だけ言いたい。
武装局員のコスプレなんて、二度としねえ。
▫︎▪︎▫︎▪︎
「移動要塞に突入し、1エリアずつ確実に制圧。何処かへ隠れている目標を発見し捕獲もしくは撃破をしてください。別部隊は中心部へ突入後、動力源を破壊してください」
どうして俺は、時空管理局の戦艦に乗ってるんだろう。
どうして俺は、移動要塞突入作戦の作戦内容を聞いてるんだろう。
「では、30分後に移動要塞突入作戦を開始します。準備を怠らないように」
翡翠色の髪をした、先ほど”艦長”とか呼ばれてた女性が凛と告げた。
「ほら、作戦準備するわよ。早く来なさい」
ここに俺を連れてきた武装局員の女性にまたも引きずられて、作戦準備をする俺。
俺、マジで何やってんだろ…。
「あたしはエリスよ、アンタは?」
「俺は怜侍だ」
「怜侍…? どっかで聞いたことあるわね。ま、いいわ。今回の作戦は大規模な作戦よ。しっかり準備しなさい」
その大規模な作戦に、どうして関係のない俺が参加することになってるんでしょうか。
…今からでも遅くない、出撃前なら何とかなるはずだ。
「エリス、俺は武装局員じゃなくて――「作戦開始5分前ね、行きましょ」誰もまともに話を聞いてくれないぞ、なんでだ」
言葉を遮って、エリスは俺の手を引っ掴む。
エリスは人を引っ張るのが好きなんだね。
あまりにも話を聞いてもらえないもんだから、ヤケクソになってきた。
「転移するわよ」
また手を掴まれたまま転移かよ。
もう逃げられない運命なのか。
そんなことを考えているうちに転移は完了し、俺とエリスは移動要塞の入口に居た。
他の武装局員が入口を破壊、突入。その後ろに着いていく俺とエリス。
要塞内部には、恐ろしい人数の敵兵がうようよと。
よし、覚悟を決めた。やってやる。
…あれ? 俺、武器は?
武器を持ってくるのを忘れていた。
今俺が持っているのは模造剣のみ。
模造剣で…まともに戦えるのか…?
決めたはずの覚悟がグラグラと揺らぎ始めた。
いやいやいやいや、無理だろ模造剣で戦えるわけないって。
そ、そうだ。作戦終了までどこかに身を隠そう。
作戦終了後に、あー大変だったねとか言って出て行けばいい。
そうさ、元々俺は武装局員でもなんでもないんだから戦う必要なんかないのさ。
そうと決まれば行動は迅速に、だ。
武装局員たちが敵兵軍を薙ぎ倒している傍らで、何故か変な位置にある扉を開いて一人逃亡する俺。
ご、ごめんなさいぃい…!でも俺、武装局員じゃないんですうう!
異様に長いし暗い廊下を駆け抜けて、一つの扉に行き着く。
「よし、この部屋に隠れて作戦終了を待とう」
扉を開く。
「クク、アーッハッハッハ!バカ共め!私の居場所が分からないんだろう?果たして見つけられるかな、武装局員諸君!」
「私たちはきっと貴方を捕まえてみせます」
めちゃくちゃラスボスっぽい男が、モニターに向かって喋っていた。
モニターには、翡翠色の髪をした女性…艦長が居た。
なにここ、ラスボスの隠れ部屋?
「終わりだ…」
俺の人生が。
「っ!?きっ、貴様は武装局員!?どうしてこの場所が分かった!?」
「偶然、見つけただけだ」
本当です。
「…殺して、くれる!」
やっぱりそうなりますよねー!!!?
ラスボスが構えたのは、銃。
う、撃たれるーーーっ!?
頼む、模造剣!
銃弾を避けるなんて超人的な真似は出来るはずもなく、模造剣の刀身で銃弾から身を守ろうとする。
剣の刀身に上手いこと銃弾が当たってくれるかも、模造剣が銃弾に耐えきれるかも分からない。
しかしこれ以外に方法などないのだ…!
ギュッと目を瞑る。
響く発砲音と、カキンカキンという謎の音。
数秒後、ドサリと床に倒れる音が。
いったい何が起きたんだ、おい。
目を開けると、ラスボスが腹部から血を流した状態で倒れていた。
え!?何これやべえんじゃねーの!?
「艦長!艦長!」
モニターがまだ艦長と繋がっていればいいんだけど…!
「っ、ええ!分かってるわ! 武装局員全員に通達、目標は撃破しました!医療班、至急目標と彼の手当てを!」
モニターに映る艦長があれこれと局員に指示。
何が起きたのかも分からない俺は、ただただラスボスの腹の出血を抑えようと近くにあった布を押し当てて医療班の到着を待った。
何が起きて、何がどうなったのかを考え始めたら頭がおかしくなりそうだったのでもはや何も考えないようにして。
▫︎▪︎▫︎▪︎
作戦終了後、ようやく俺が武装局員じゃないことを理解してもらえた。
わざわざデータベース検索して、ようやくだ。
当たり前な話、データベースに俺の情報なんてない。
そうして、やっと理解してもらえたのだ。
出来ることなら、作戦開始前に理解してもらいたかったがな。
しかし、『武装局員でもないのにあんなことをさせて本当にごめんなさい』と散々謝られ頭を下げられたので許してしまった。
そんな簡単に許す俺は、やっぱり馬鹿かもしれない。
もう疲れたのでさっさと帰らせてください、と言ったら寮へ転移させてくれた辺りありがたかった。
そうそう、調べて分かったことなんだが。
あの模造剣、模造剣ではなくマジもんの剣だった。
それを管理局員から聞いて、ぶっ倒れそうになったりした。
せっかくの休日が休日にならず、イライラしてきた俺はベッドに倒れ込んで。
眠りに落ちる直前に、こう言った。
「あの女性店員…マジもんの剣を渡すとか何考えてん…だ……」
▫︎▪︎▫︎▪︎
「佐伯怜侍君…か」
武装局員でもない、士官学校の生徒だが…次元空間渡航船ハイジャック事件にて、乗客を救ったヒーロー。
それにしても、誰よりも先に隠し通路を発見し目標を僅か数十秒で戦闘不能にしたその実力。異常と、言えた。
目標…ダーレス・クレイダスという男は間違いなく強者だった。
そんな強者を数十秒で打ち負かす異常すぎるその強さに、恐ろしさを感じつつも強い期待を抱いていた。
あの時、彼は『終わりだ…』と言った。
それは、ダーレス・クレイダスに向けた言葉だと思って間違いない。
そこから彼は、ダーレス・クレイダスを倒す気があったと推測出来る。
でなければ、終わりだ…なんて言わないだろう。
驚くべきはそこだけじゃない。
ダーレス・クレイダスが放った銃弾を、彼は剣の刀身に当てて跳弾させたのだ。
跳弾した弾丸は壁へ、壁にぶつかった跳弾が、二度目の跳弾をしてダーレス・クレイダスを貫いた。
学生に、己に向かって放たれた弾丸を跳弾させて相手を貫かせるなんて芸当が出来るものなのか?
少なくとも私…リンディ・ハラオウンはそんな学生を見たことがない。
佐伯怜侍……とんでもない子ね。
原作キャラ、初登場。
そして勘違い。
なんだかトンデモ展開すぎる気もしますが、お許しください。
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今回、疑問符感嘆符の後ろにスペース空けずに書いてみました。