羊の子達 作:レットドラゴン
「一体どうすれば良いんだろう…」
日がすっかり落ち、街の光だけが輝く夜の街中を歩きながら、一人の少女…黒川あかねは、何やら悩んでいる様子でそう呟いた。
役者である彼女は、自分が所属している事務所の方針で、現在恋愛リアリティーショーに出演しているが、ドラマや劇とは違い、台本が用意されていない現場で、どんなふうに立ち回れば良いのか分からず悩んでいた。
「頑張らないと…もっと積極的に…」
そうブツブツと呟き、同時に頭の中をフル回転させながら、彼女は家路へと急いでいた。
「ただいま…あれ?」
家に帰ると彼女はとある違和感を感じた。
それは、玄関に見た事もない靴が置いてあり、そしてリビングからは美味しそうな…そう、高級なフランス料理の香りが漂っていたからだ。
「あら、あかねお帰りなさい」
すると、部屋の奥から少しラフながらも、何処か着飾った服装の母が、彼女を迎えた。
「お母さん、どうしたの?」
「えっ…あぁ、実はねさっきお父さんの遠い親戚さんが、海外から日本に移ってきたと言う事で、ご挨拶に来ていてね…先生!」
(お父さんの親戚?)
どう言う事だろうと思いながら、あかねはリビングの方へ入っていた。
「おっ、おかえりあかね。紹介します、娘のあかねです」
「初めまして、お父さんから話は聞いてるよ…自慢の娘だってね」
「ちょっと、恥ずかしいですから言わないでくださいよ」
「おっと、これは失敬…」
部屋に入ると、そこにはまるで芸術的な料理を食べながら、1982年のシャトームートンを飲む父、そしてもう一人、オシャレなスーツを着た、まるで海外のドラマで出てくる貴族の様な、紳士の見本の様な立ち振る舞いをする、日本人の様に流暢な日本語を話す白人男性が彼女を迎えた。
「は、初めまして黒川あかねですよろしくお願いします…」
「よろしく、Ms.あかね…」
あかねは、失礼のない様自己紹介をすると、その男は椅子から立ち上がり、背筋を伸ばし、そしてそう言い手を差し出した。
「よろしくお願いします…」
そしてあかねもそう言うと、彼の手を取り握手をした。
(紳士的な佇まいに言葉遣い…そして微かに見える所作…何もかも完璧…こう言う人を紳士って言うのかな…)
そう考えながらあかねは、目の前の紳士を、分析する様に見た。
すると
「…君も、精神学の心得がある様だね」
突然その紳士は、そうあかねに言った。
「…えっ、何で」
黒川あかねは、徹底した役作り、与えられた役への深い考察と洞察、それらを完璧に演じきる天性のセンスを持っており、そしてそんな自分の強みをさらに活かす為…そして、過去にあったとある出来事から、精神学を勉強をし、そして高い知識とプロファイリング能力を有しており、先ほども咄嗟に彼の事を観察していた。
だが、人を観察していた事はわかるだろうけど、精神学に理解がある事まで言い当てた彼の発言に、あかねは少し驚いた様子でそう言った。
すると
「何て事はない…私は精神科医をやっていてね、だから精神学に理解がある人間の観察する目や視線は特徴的で、その人の視線を観察すれば分かるんだよ」
「精神科医…あぁ、だからですか」
「そうだ…もし相談したい事があればいつでも相談に来ると良い…最も、その様子を考えるに、君が望むなら初回限定で、悩みを今聞く事もやぶさかではないが」
「えっ、どう言う事ですか?」
あかねがそう聞くと、彼はこう言った。
「…君は今悩みが…そう、役者としての仕事に関して、悩みがあるんじゃないかな?君のお父さんから聞いた限りだと、君は今は恋愛リアリティーショーに出ているね…」
「えぇ…はい」
「先ほどの私を観察する目から察するに、君の演技の手法は演じる役を徹底的に考察しその役に完全に成りきる憑依型演技型…だが恋愛リアリティーショーには台本など存在しない…いや、存在しない様に見えるが存在してる…そんな曖昧な現場だろう。だからこそ、君はそんな現場で、どんな立ち位置で画面に映るべきか、そしてどうすればもっと視聴者に認知してもらえるか、考えているが全く分からない…何より、君が所属している事務所からの過大な期待も自らの重しになっている…そうじゃ無いか?」
(うそ…その通りだ…)
彼のその話を聞いた瞬間、あかねは思わず心臓を鷲掴みにされた気分になった。
何故なら、自分からは言っていない、自分の今抱える悩みを目の前の男は全て立てたのだから。
彼の立ち振る舞い、そして彼の穏やかながら落ち着く口調から、あかねは彼に対して何とも言えない魅力を感じ始めている一方で、同時に少しだけ、ある事が不気味に思えた。
(…分からない…この人は一体)
詳細なプロフィールを見ない限り、その人の深層心理まで理解はできないが、精神学に精通しているあかねは、その人をパッと見ただけでも、ある程度の性格はわかるのだが…目の前の男は、わかる様で分からない…まるで暗闇の中を後ろからライトで照らされている様に、顔だけがよく見えない、そんな人物であった。
「あなたは一体…」
そしてあかねは思わずそう口に出した。
「私とした事が、自己紹介がまだったね…」
するとその男は穏やかに、そして静かに微笑みながらこう名乗った。
「ハンニバル・レクター…元はアメリカに住んでいた、ただのしがない精神科医だ…よろしく」
と言う事で、推しの子inハンニバル・レクターです。
ふと、推しの子の世界観とハンニバルの世界観は、ピノ・ノワールと鴨肉の様に、結構合うんじゃ無いかと思い、今回作品を作らせていただきました。
正直、ハンニバルの思考は高度で難解なので、彼らしく作品を描けるかどうか不安ですが、頑張って書かせてもらいます。
因みにハンニバルと黒川家の関係ですが、あかねの父の従姉妹がハンニバルの育ての親であるムサラキ夫人と言う設定になっています。
因みにハンニバルの容姿ですが、マッツ版の方をイメージしてください。