艦これ 〜絶望に、生きて抗え〜   作:蒼海 輪斗

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※ゴジラマイナスワンのネタバレを含みます

投稿は不定期で行います。

原作に似せるために登場人物の名前は似せていますが、オリキャラです。


第一章 大戸島の怪物

20XX年 8月15日

 

 その日、全世界が待ちに待った出来事が起きた。十数年にも及んだ深海棲艦との戦争。それが終わりを迎えたのだ。8月1日から14日までの間、生き残った艦娘たちと海軍の総力をかき集めた最後の大規模作戦、”菊花作戦”が決行された。日本軍は大損害を受けたものの、艦娘たちの活躍により深海棲艦は壊滅。15日の早朝には残存深海棲艦が降伏を申し出た。

 残存深海棲艦の降伏により艦娘たちは、多くの犠牲を払いながらも、十数年にも及ぶ戦いに終止符を打ったのだった。

 

 

20XX年 9月2日

 

 小笠原諸島の南部に存在している島、大戸島。ここでも配属されていた整備兵たちが今だに勝利の余韻に浸っていた。

 

 「いやぁ~、ほんとにあの戦争が終わったんだな。まだ実感がないよ。」

 

 「おいおい、あれからもう二週間も経ってるんだぞ?ちゃんと喜びを噛みしめろよ。」

 

 整備兵たちは海岸線で集まりながら酒を飲み交わしていた。整備兵たちの顔には笑顔が浮かんでいる。それほど戦争の終結がうれしかったんだろう。

 

 「これでやっと娘に会える。2年も会ってないんだからな。帰るのが楽しみだ。」

 

 「俺もだよ。奥さんには負担をかけたからな。帰ったらしっかり休ませてやらないとな。」

 

 整備兵たちが会話しているそこへ、整備兵長の”立花”がやってきた。立花は苦笑しながら口を開く。

 

 「おいおい、お前たち。昼間から飲みすぎじゃないか。」

 

 「立花さんも一緒に飲みましょうよ。もう空襲も来ないんですからゆっくりしましょうよ。さっき海岸で取った深海魚で作った鍋もありますよ。」

 

 「嬉しいんですよ。日本に帰れるのが。さぁ!来てください!」

 

 「ったく。わかったよ。」

 

 整備兵たちの勧めに立花は呆れながらも乗った。内心は立花も無事に終戦を迎えることができて嬉しかったのだ。

 「かんぱ〜い!!」と陽気な声が響く島の海岸では不思議なものが打ち上がっていた。それは口や鰓孔から浮袋が飛び出したおぞましい見た目をした深海魚だった。それに一匹だけではない。十数匹もの深海魚が波に打たれながらぷかぷかと浮いていた…。

 

 

 その日の夜のことだった。立花を含む整備兵全員が兵舎で休んでいたところに突然空襲警報が鳴り響いた。立花たちは警報を聞くやいなや小銃を手に持つと兵舎を飛び出す。

 

 「どうした!?深海棲艦の空襲か!?」

 

 立花が見張り台の上にいる整備兵に呼びかける。見張りの整備兵を首を横に振った。

 

 「いいえ!なんかよくわからない大きいものが…。」

 

 「新型の深海棲艦か?」

 

 立花がそう言った途端、闇に包まれた海岸の方角からおぞましい鳴き声が響いてきた。

 

 「真っ暗で何も見えない!探照灯だ!」

 

 立花がそう言うと、見張り兵が海岸に向けて探照灯を照射する。するとそこには…。

 

 

 

 

 おぞましい怪物の姿があった。

 

 

 太古の恐竜のような見た目に、鋭く並んだ歯。黒い体に鈍く光る眼光。鋭い刀のような爪。確実に深海棲艦とは比にならない怪物が居座っていた。

 

 「あれは…、一体…。」

 

 整備兵全員がその場に凍りついた。すると怪物は重々しい咆哮を上げると、探照灯を照射している見張り台に向かって突進する。

 

 「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 見張りの整備兵が叫ぶと同時に怪物が見張り台に激突した。見張り台は音を立てて倒壊する。それをみた立花は焦りながら整備兵たちに指示を出す。

 

 「塹壕まで下がれ!!引き付けてから攻撃する!!」

 

 「アレを倒すんですか!?無茶ですよ!!そんなの全員殺されるのが関の山ですよ!!」

 

 「だめだ!!逃げても同じ運命になる。ここで必ずあいつを仕留めるんだ!!」

 

 立花はそう言うと整備兵を連れて塹壕へと駆け込んだ。見張り台を破壊した怪物はゆっくりと頭部を上げて周りを見渡す。さっきまで群がっていた人間が一人もいなくなっている。一体どこに?そう思った怪物は周囲を見渡しながら一歩づつ塹壕の方向へと歩き出した。

 塹壕では立花と整備兵たちが息を殺して怪物の様子を伺っていた。存在がバレたら一貫の終わりだ。

 

 「アレって、呉爾羅(ごじら)じゃないですか?」

 

 立花の隣にいる整備兵が小声で呟いた。

 

 「呉爾羅?」

 

 「小笠原の先輩が言ってたんですよ。今日みたいに大量の深海魚が打ち上がったら呉爾羅がやってくるって。」

 

 怪物、”呉爾羅”がゆっくりと確実に塹壕へと近づいていく。今はまだ立花たちの存在に気づいていない。

 

 「まだ撃つなよ。もう少し引き寄せて…」

 

 立花が言い終わらないうちに銃声がなった。若い整備兵が恐怖に耐えきれずに発砲してしまったようだ。それがきっかけとなり次々と整備兵たちが小銃の引き金を引いていく。

 

 「バカっ!!やめろ撃つな!!」

 

 立花が制止したときにはもう手遅れだった。何発もの銃弾を受けた呉爾羅はおぞましい咆哮を上げ、塹壕に向かって突進する。

 

 「だめだっ!!出ろ!!出ろ!!」

 

 塹壕から整備兵が次々と飛び出していく。最後に立花が転がりでた瞬間、呉爾羅の脚が塹壕を踏み抜いた。

 

 「撃てっ!!撃てっ!!」

 

 整備兵たちがしきりに小銃を発砲する。しかし呉爾羅は全く意にも介さず一人の整備兵の頭に噛みつく。そしてそのまま整備兵を宙に放り投げた。他の整備兵も叫びながら小銃を発砲していくが呉爾羅には効果が見られずに、逆に呉爾羅の怒りに触れた整備兵たちが噛まれ、踏み潰され、放り投げられる。兵舎に逃げ込んだ整備兵も呉爾羅の尻尾の一振りで兵舎ごと粉砕された。

 

 「(なんでだ。なんでだよ…。どうしてだよ…。)」

 

 立花は木の裏に隠れながらその惨劇を見つめていた。暴れる呉爾羅。叫びながら小銃を撃つ整備兵。少しずつ消えていく仲間たち。

 ふと立花は兵舎の脇に20mm単装機銃が設置されていることを思い出した。深海棲艦の艦載機に対する対空用に装備されていたものだ。立花は駆け出すと燃え盛る兵舎の残骸を過ぎ去り、20mm機銃にしがみついた。そこへ生き残りの整備兵が走ってき、何かを叫んでいる。

 

 「立花さん!!呉爾羅を誘導します!20mmで倒してください!!」

 

 そう言う整備兵のすぐ後ろから呉爾羅が飛びつき、走ってきた整備兵を立花の眼の前で前足の爪でバラバラにした。

 

 復讐心を燃やした立花は20mm機銃を射撃した。呉爾羅に向かって何発も銃弾を浴びせる。小銃弾とは違う口径の銃の射撃に流石の呉爾羅も嫌がったのか、耳をつんざくような鳴き声を上げた後、海岸へ向かって走り去っていった。

 

 立花は機銃から手を離すとその場にへたり込んだ。目に涙が溜まっていった。

 

 「俺のせいだ。俺のせいで…。」

 

 自分のせいで死ななくていい奴が死んでいった。立花は自分を嫌悪しながら、そのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX年 9月4日

 

呉総合病院 国防軍専用病棟

 

 病院内の日本国防軍が使用している専用病棟では、深海棲艦との戦闘で傷ついた兵士たちがベッドで療養生活を送っていた。その中で”海軍”と示された病室の一つにはまだ年若い青年がベッドから半身を起こして本を読んでいた。

 彼は横須賀鎮守府の提督、”四季島 一輝”だ。提督になる前は海軍の精鋭航空隊”三四三空”でパイロットとして戦っていた。最後の作戦、菊花作戦時には提督兼パイロットとして前線で戦い敵旗艦を撃破したのだ。流石に負傷したため、この病棟で療養しているのだ。

 

 不意に病室のドアがノックされた。四季島は本を机に置くと「どうぞ」と声をかけた。扉が開き来訪者の姿が現れた。それは四季島の初期艦であった吹雪だった。

 

 「失礼します!」

 

 「吹雪か。どうしたの?なんか用事?」

 

 「司令官。怪我の具合はどうですか?」

 

 吹雪が四季島に近寄って問いかけた。四季島は左腕をなでながら答える。

 

 「ああ、だいぶ良くなったよ。あと少しで退院できそうだってさ。」

 

 「そうですか…。良かったです。もう、あの時司令官無茶するからですよ。敵艦に特攻するなんて考えられませんよ!」

 

 「あはは、たしかにね。でも現に僕は生きてる。それでいいじゃん。」

 

 「もう、司令官ったら…。」

 

 しばらく四季島と吹雪は病室で会話を楽しんでいた。その横で点いていたテレビでは小笠原諸島近海で何者かによる船舶被害が増加していることを報じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX年 9月7日

 

横須賀鎮守府沖

 

 無事に退院し、提督として復活した四季島は掃海艇に乗って鎮守府沖を航行していた。深海棲艦がばらまいた深海機雷の発見と掃海をするためだ。

 

 「四季島、怪我治ったみてぇだな。」

 

 「ええ、おかげさまで。」

 

 掃海艇の艇長であり四季島の友人でもある”秋島”が声を掛ける。それにまだ若い乗組員である”青島”も四季島に声をかけた。

 

 「四季島さん本当に心配したんですからね!俺、四季島さんがいないとなんもできないんですから!」

 

 「おい、そこは自立しろよ馬鹿野郎。」

 

 「酷いこと言わないでくださいよ艇長!!」

 

 言い合いを始めた秋島と青島を四季島は笑顔で眺めていた。本当に深海棲艦のいない平和が訪れたとひしひしと四季島は感じた。

 

 「平和になった。そう思ってますね四季島さん。」

 

 四季島の隣から眼鏡をかけた男性が口を開いた。彼は四季島が提督として着任している横須賀鎮守府の海軍工廠の士官をしていた”和田 洋二”である。現在は掃海艇の整備員として乗艦している。

 

 「ええ、やっと静かな海に戻りましたね。」

 

 「私もそう思いました。待ち望んでいましたよ、この景色を。」 

 

 すると掃海艇に積まれていた機雷探知機が激しく反応を始めた。深海棲艦の機雷が近くに敷設されているようだ。

 

 「おっ、機雷発見か。」

 

 「四季島さんっ!!」

 

 青島が四季島に向かって叫ぶ。四季島が「はいはい」と言いたげな表情で無線機を手にする。そして後方の母艦に連絡を入れる。

 

 「こちら掃海艇13号。深海機雷の敷設を確認。掃海部隊の呼び出しです。あの二人を呼んでください。」

 

 言い終わると母艦から返信が返ってくる。

 

 「了解。ただいまそちらに向かっている。その場で待機せよ。」

 

 四季島は無線機をもとに戻すと、秋島が四季島に声を掛ける。

 

 「なぁ四季島。なんで俺達じゃなくて艦娘が掃海作業をすることになってんだよ。機雷の駆除なんて俺達でもできるだろ?」

 

 「ええ。確かにそうですけど。ですが深海棲艦の機雷は僕たちが下手に処理すると深海化の危険性があります。なので安全第一で艦娘による処理が海軍省のほうで命じられているんですよ。」

 

 「まぁ、確かにな。でもよぉ、それは艦娘でも同じだろ?」

 

 その秋島の問いかけに四季島ではなく和田が答えた。

 

 「大丈夫です。あの二人は四季島提督が認めた、とても優秀な艦娘ですから。」

 

 和田が言い終わった途端、掃海艇のすぐ脇を高速で航行する二つの影があった。

 

 「もう到着したみたいですね。」

 

 和田が呟いた。

 

 「さて、やりますか。」

 

 二人のうち銀髪をした艦娘、特三型駆逐艦二番艦、響が海中にワイヤーで曳航されたカッターを投げ入れる。投げ入れられたカッターは深海機雷の敷設索を切断する。敷設索が切断された深海機雷は浮上を始め、海上に姿を現した。

 そしてその機雷に連装砲を向けるもう一人の少女が陽炎型駆逐艦八番艦、雪風だ。安全圏の300mまで離れた雪風は連装砲の引き金を引いた。砲弾が発射され、深海機雷に命中する。すると想像を超える水柱が「ドン!!」という音とともに上がった。

 

 「機雷処理完了です!!」

 

 まさに阿吽の呼吸で深海機雷を処理した姿に四季島たちはいつもすごいと感心している。青島に至っては目を輝かせている。

 

 「すごいです!!機雷をあんなに簡単に処理するなんて!!」

 

 「まぁ、響と雪風だからなぁ。それくらい当然だろ。」

 

 四季島は響たちに向けて手を振る。そしてそれに気づいた響と雪風も四季島に向かって笑顔で手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

20XX年 9月20日

 

 この頃から日本国防軍海軍艦艇より不可解な情報が報告され始めた。

 

 「日本国海軍所属イージス護衛艦桜より入電。何者かの攻撃を受け船体が大きく損傷。詳細は不明。」

 

 「日本国海軍所属潜水艦虹龍より緊急入電。小笠原諸島近海を移動する大型生物を確認。写真撮影に成功したが、接触大破。船体に残された皮膚組織から大量の放射能を検知。」

 

 撮影された写真は逆光によりよく見えないが、巨大な背びれがくっきりと写っていた。

 

 当初は新種の深海棲艦かと疑われていたが、写真を解析した結果全長80m以上あると確認された。深海棲艦でもこれほどの巨大な個体は存在しない。厄介なことに放射能も帯びているようだ。さらに巨大生物は小笠原諸島のみならずどんどん日本近海にも現れ始めた。

 日本国海軍と海上自衛隊は共同でこの巨大生物の捜索を開始したが、捜索にでた艦艇は戻ることはなかった。

 

 

20XX年 9月25日  小笠原諸島近海

 

 四季島たちは行方不明となった海軍艦艇捜索のため、掃海艇のメンバーと響と雪風、そして小型ミサイル艇二隻とともに小笠原諸島近海へ到着した。

 

 そこには海軍所属の護衛艦五十鈴が船体を縦に引き裂かれたような傷跡を残して横倒しで浮いていた。

 

 「これが、五十鈴ですか…」

 

 青島が唖然としたような表情でつぶやく。秋島、和田、四季島、そして響と雪風も食い入るようにめちゃくちゃに破壊された護衛艦を凝視していた。

 

 「これは、大型のサメですか?」

 

 青島も問いに和田は首を振って答える。

 

 「サメではこんなことはできません。」

 

 「深海棲艦の生き残りか?」

 

 秋島も疑問を口にする。すると今度は四季島が否定した。

 

 「いや、深海棲艦は一隻残らず降伏または撃沈しています。降伏した深海棲艦たちは国防省本部で管理しているので脱走であることは考えにくいです。それにいくら深海棲艦でも戦闘力の高い護衛艦をここまで破壊することはできません。」

 

 「それじゃあこの護衛艦をこんなのにしたのは何なんだよ?」

 

 「小山のように大きかった生物としか考えられませんね…」

 

 そう言った時、響の目にとあるものが映し出された。それは海面をプカプカと漂う深海魚らしき物体だった。

 

 「呉爾羅…。」

 

 「?どうした響?」

 

 四季島が尋ねると、響が海面に浮いている深海魚を指差す。それに全員が身を乗り出して深海魚を覗く。

 

 「私が戦争中、遠征の帰りに深海魚が揚がってたんだ。しばらくして怪物が襲ってきて…」

 

 響は青い顔をしながら絞り出すように話す。それには雪風も反応する。

 

 「ゆ、雪風もその怪物をみました…。それでみんなが目の前で…」

 

 そこまで言うと二人は震えだした。その様子を見て四季島が察してつぶやく。

 

 「艦娘の原因不明の轟沈…。」

 

 実は戦時中、艦娘の原因不明の轟沈が小笠原諸島近海で立て続けに起きていたのだ。小笠原諸島防衛線は深海棲艦では突破できないほど強固なものだったので、小笠原諸島近海の艦娘の轟沈は海軍関係者の間では大きな疑問となっていた。

 

 「まさか、轟沈の理由って…」

 

 青島がそこまで言い終わると、響が震えながら静かに口を開いた。

 

 「この護衛艦を破壊したのがあの時と同じ呉爾羅だったら、あの時以上に巨大になってるはず…。」

 

 呉爾羅の恐ろしさが四季島たちに伝わり、青島が慌て始める。

 

 「ま、待ってくださいよ!俺達の仕事は行方不明の護衛艦の捜索ですよね!?護衛艦は見つかったことですし早くこんなところから逃げましょうよ!!」

 

 青島が必死に話すとその問いかけに和田が残酷な返事を返した。

 

 「そういうことにはいかないな。」

 

 「どうしてですか!?」

 

 「掃海艇にわざわざ護衛として艦娘が二人。そして小型ではあるがミサイル艇が二隻。何をしろといってるかわかりますよね?」

 

 その言葉に青島は青ざめる。

 

 「ま、まさかその怪物と戦えって言ってるんじゃないでしょうね?掃海艇とミサイル艇二隻で!」

 

 「そのまさかだよ。」

 

 四季島が諦観したようにつぶやく。もはやパニック状態になった青島が半ば泣きながら叫ぶ。

 

 「そんなの無理ですよ!!掃海艇とミサイル艇でなにができるんですか!?」

 

 「足止めだ。」

 

 秋島がそうつぶやいた。それに泣き叫んでいた青島が「えっ…」と秋島に顔を向けた。

 

 「どういうことですか?」

 

 「シンガポールから高雄が向かってるそうだ。さっき入電があった。」

 

 四季島が立ち上がりながら口を開く。高雄といえば戦時中、深海棲艦潜水艦の雷撃を受けシンガポールで入渠修理中だったはずだったのだが。

 

 「先週、ようやく修理が完了したらしいまもなく到着するはずです。」

 

 四季島の言葉にさっきまで泣き叫んでいた青島の顔に笑顔が戻った。

 

 「すごいです!!重巡のあの高雄さんですよ?それなら呉爾羅なんて敵じゃないですね!!」

 

 「その間、呉爾羅を引き付けるために俺達が護衛艦の捜索及び足止めを命令されたわけさ。」

 

 秋島がそうつぶやいた。そして秋島が和田に問いかける。

 

 「この掃海艇に乗せてる武装は12センチ砲と13m機銃、そしてさっき回収した機雷だけだぞ。他に武器はねぇのか?」

 

 「単刀直入に言うと無いですね。あとはミサイル艇と高雄さん頼みですね。あとこのことは国民には秘匿にするようにだそうです。」

 

 「はぁ、本当のことを言わないでどうするんでしょうね…。」

 

 

 

 

 

 

 それからしばらくしても、肝心の呉爾羅はなかなか現れなかった。いや、現れないほうが四季島たちにとっては良い。四季島は掃海艇の甲板で響と雪風の隣に座り、話を聞いていた。

 

 「そうか…。響以外の六駆の轟沈。陽炎の轟沈はその呉爾羅の襲撃が原因なのか。」

 

 「うん…。司令官たちに言っても信じてもらえないかと思って。」

 

 「まるで恐竜のような外見で、巨大な顎と爪、尾をもっていました。その呉爾羅に襲われて雪風以外の全員が…」

 

 呉爾羅の恐怖が二人の心を支配しているようだ。今だに恐怖で震えている。

 

 「悪かった思い出させて。」

 

 「いや大丈夫。仇を討ちたいんだ。でも私達には呉爾羅と対峙することがとても怖い。」

 

 響が言い終わると同時に無線機が鳴る。四季島が慌てて無線機を手に取る。

 

 「こちら掃海艇13号。どうしました?」

 

 「こちらミサイル艇1号。前方300メートル付近にて深海魚の浮上を確認。警戒態勢を厳とせよ。」

 

 「こちら掃海艇13号。了解しました。」

 

 四季島は無線機を戻した途端に、掃海艇の周りに尋常ではない量の深海魚が浮上してきた。ほとんど全てが口から胃袋を飛び出させていた。

 

 「これですか!?」

 

 艇内から飛び出してきた和田が響と雪風に早口で問いかけた。それに響と雪風が口を揃えて叫んだ。

 

 「来ます!!」

 

 そう叫んだ時、秋島が船室から甲板に飛び出してきた。そしてなぜかテンションが高めである。

 

 「よ〜し、やっこさんがお出ましになるか。和田、青島、機雷投下準備。四季島は主砲だ。」

 

 「艇長!!やっぱり逃げましょうよ!!深海魚の数が多すぎます!!めちゃくちゃデカイってことですよ!!」

 

 やはり恐ろしくなったのか青島が必死に秋島を説得する。しかし

 

 「馬鹿言うな。ここで逃げたら高雄さんが間に合わねぇだろ。そしたら怪物はどこに行くと思う?」

 

 秋島のその一言に青島は言葉に詰まる。

 

 「俺はもう二度と日本が火の海になるのをみたくねぇ。」

 

 「でも艇長、俺達がやらなくても海軍とかが…」

 

 「そうだな。でもなぁ、誰かが貧乏くじ引かなきゃなんねーんだよ。」

 

 秋島が覚悟を決めた表情でそう言い放った。

 

 

 

 その時、すぐとなりを航行していた一隻のミサイル艇が海面から飛び出した怪物、ゴジラの顎に捕らわれ、そのまま海底に引きずり込まれた。

 ゴジラの姿は響や雪風がみたときより大きく変貌を遂げていた。大きかった体が更に大きくなり、ゴツゴツとした皮膚に覆われていた。まさに本物の”怪物”として進化していたのだ。

 

 「っ……!!?」

 

 掃海艇の乗員たちは呆気にとられてその様子を目撃した。そしてハッと我に返った秋島が叫ぶ。

 

 「いくらなんでもこれは無理だ!!」

 

 いきなりエンジンスロットルを最大まで上げた。エンジン音が響き渡り掃海艇が動き始める。

 ミサイル艇を破壊したゴジラは続いて掃海艇を攻撃目標に捉え、追跡を開始した。顔と背びれを海面に出して体をくねらせて泳いでいる。

 

 「メッチャこっち来てますよ!!ヤバいって!!」

 

 突然現れたゴジラに青島は再びパニック状態になる。四季島は震える手を抑えて13m機銃を握った。そして引き金を引き、ゴジラの顔に銃弾を浴びせる。しかしゴジラの分厚い皮膚に機銃弾は虚しく弾かれていった。

 

 「機銃じゃ効かない!!」

 

 「じゃあ機雷を投下しろっ!!」

 

 「ですが近いですよ!!」

 

 和田が叫ぶ。秋島も操艦をしながら怒鳴るように叫ぶ。

 

 「いいからやれっ!!死にてぇのか!?」

 

 和田と青島、そして響と雪風が機雷を海上に投下する。投下された機雷は海上を流れながらゴジラの背びれへと乗り上げた。

 

 「今だ!!爆破しろっ!!」

 

 「伏せてくださいっ!!」

 

 叫ぶと同時に青島が起爆スイッチを押した。「ドン!!」と爆音が響き渡り、ゴジラは爆発が起こした水柱に覆われた。

 

 「どうだやったか?」

 

 秋島が振り返ると、水柱をかき分けてなおも追ってくるゴジラが目に入った。傷一つついていない。

 

 「だめだ全然効いてません!!」

 

 「もう一隻のミサイル艇は何やってんだよ!?」

 

 秋島が叫ぶ。すると後方のゴジラの背びれが突然爆発した。左側を見るとミサイル艇がゴジラに向かって対艦ミサイルを発射していた。

 

 「やっと来たか!!遅いんだよ!!」

 

 青島が囃し立てる。ミサイル艇はどんどん対艦ミサイルを発射する。対艦ミサイルが着弾するたびにゴジラの周りに水柱が上がる。

 

 「流石にやっただろ。ミサイルの直撃を受けて死なねぇ生き物がいるはずねぇしな!」

 

 秋島が安堵の表情を浮かべた。しかし響と雪風、そして四季島は油断していなかった。

 

 「(二人の話が本当なら、ミサイルでも…)」

 

 四季島がそう思った時、ミサイル艇が爆発を起こした。いつの間にかミサイル艇に近づいていたゴジラが尾の一撃でミサイル艇を真っ二つに破壊していたのだ。

 

 「嘘…、だろ…」

 

 秋島が泣きそうな表情になる。全ての障害を排除したゴジラは再び掃海艇を追跡し始める。掃海艇に食らいつこうと大口を開けたゴジラに和田があることを思いついた。

 

 「そうだ!口の中ならどうだ!?」

 

 早速二機目の機雷をゴジラの口めがけて投下する。機雷は流れていき、ゴジラの口の中にすっぽりと収まった。

 

 「爆破!!」

 

 青島が起爆スイッチを押す。しかし聞こえるはずの爆発音が聞こえてこない。機雷は変わらずゴジラの口の中で踊っている。

 

 「おい、まさか冗談だろ…!」

 

 なんと爆破するためのコードが途中でちぎれていたのだ。これでは機雷が爆破することができない。その時四季島が機銃を構えた。

 

 「伏せろぉー!!」

 

 和田に青島、響と雪風が艇内に入り伏せる。そして四季島が機銃をゴジラの口めがけて乱射する。そのうち一発が奇跡的に機雷に命中した。至近距離での爆発で掃海艇の後部が思いっきり吹き飛んだ。その破片が四季島の頭部に命中し、大きな傷口をつくった。頭から血を流した四季島は甲板に落ち、痛みにのたうち回っていた。

 

 「司令官!!大丈夫かい!?」

 

 「しれい!!しっかりしてください!!」

 

 響と雪風が四季島を介抱する。すると爆発の産物である煙が晴れた先に、顔の半分を吹き飛ばされ、海面に浮いているゴジラの姿がうつっていた。

 

 「やったか?」

 

 秋島が操艦室から甲板へと飛び出した。これには和田も期待を向ける。

 

 「倒せた、かもしれません。」

 

 和田が言ったその瞬間、ゴジラに異変が起きた。

 

 吹き飛ばされた頭部がボコボコと膨れ上がり元の形に戻り始めたのだ。数秒も経つと顔はほとんど元通りに再生した。

 その様子を絶望に満ちた表情で掃海艇乗員たちはみていた。この再生能力があればミサイルの攻撃も防げたことに誰しもが納得できた。

 ゴジラが海上にその巨大な体を起こすと、雄叫びを上げた。そして腕を振り上げ、満身創痍の掃海艇に振り下ろそうとした。

 

 その時、空を切る音とともにゴジラの体に次々と砲弾が命中した。ゴジラが痛みに悲鳴を上げる。

 四季島たちが砲弾の飛んできたその先を見ると、

 

 「砲撃戦、開始します!!」

 

 待ちに待った重巡艦娘、高雄が到着していた。主砲の再装填が終わると再びゴジラに砲撃を加える。本物の軍艦と同威力を誇る艦娘の艤装の20.6cm砲の射撃にゴジラはたまらず海中に逃げ込む。

 

 「逃さないわよ!!」

 

 高雄は更に海中に主砲を撃ち込む。ゴジラは海中に撃ち込まれた砲弾を体をくねらせて回避する。そして高雄との距離をじわじわと縮めていく。

 

 「…っ。響、雪風。高雄の応援に行ってくれ。」

 

 四季島がまだ出血の止まらない頭を押さえながら二人に言う。

 

 「!?でも司令官が…!」

 

 「頼む…。このままじゃ高雄だけじゃなく僕たちまで危ない…。お願いだ…。」

 

 弱々しい四季島の願いに響と雪風は四季島と高雄を見る。高雄は海中から不意打ちをしようと飛び出してくるゴジラを必死に回避している。しかし少しずつ追い詰められている。

 

 「…行きましょう。」

 

 「そうだね。じゃあ行ってくるよ司令官。」

 

 響と雪風は艤装を取り付けると、ボロボロの掃海艇から海面に浮かぶ。そしてゴジラと格闘する高雄の元へと向かった。

 

 

 

 その頃、高雄はゴジラの振り下ろした剛腕により頭に怪我を負っていた。直撃は免れたものの、頭をやられたためふらついており回避だけで手一杯となっていた。

 

 「…くっ、このままだとまずいわ。」

 

 その時、左方向からゴジラの頭部に向かって砲弾が直撃した。先ほど出撃した響と雪風が放った12.7cm主砲弾が命中したのだ。隙をつかれたゴジラは思わず動きを止める。

 その隙に高雄は近距離からゴジラに主砲を斉射した。ほぼ零距離からの射撃に流石のゴジラも耐えられなかったのだろう。叫び声を上げながら海へと水しぶきをあげて沈んでいった。

 

 「おい、やった…。やったぞ!!」

 

 秋島が歓喜の声を上げる。四季島を介抱していた和田も青島も安堵の表情を浮かべた。すると高雄とともに支援にきた海軍の護衛艦が近づいてきた。

 

 「やったぞ。俺達死なずにあの怪物を倒せたんだ!」

 

 秋島は嬉しそうに声を上げた。響と雪風は姉妹艦の仇であるゴジラを倒してくれた高雄に惜しみない感謝を送っていた。

 

 

 

 

 だが、不思議なことが起き始めた。ゴジラが沈んでいった付近に護衛艦が近づいた瞬間、その海面が少しずつ青く光り始めたのだ。それは数珠つなぎのように光っていく。

 

 「なんだ?」

 

 和田がそう言った次の瞬間、青い光が海面から飛び出し護衛艦の中心を貫いた。そして護衛艦は一瞬にして引火ではない大爆発を起こして跡形もなく海に引きずり込まれた。

 

 そしてたった今まで護衛艦の存在していた海面に、頭部が焼けただれた倒したはずのゴジラが現れたのだ。そして体をのけぞらせ重々しい咆哮を上げた。

 

 

 

 四季島を含む掃海艇乗員、そして響、雪風、高雄は目を見開いてゴジラを見つめていた。掃海艇は大破しており戦う力はもう残っていない。高雄も大破しているためもう戦闘はほぼ不可能だ。

 しかしゴジラも大きな傷を負っていたため、これ以上の戦闘は無理だと判断したのか身を翻して大きな水柱を残して泳ぎ去っていった。

 

 

 

 四季島は薄れゆく意識のなかで、去りゆくゴジラの背中を見ていた。それはまさしく、絶望そのものであった。

  

 

 

二章につづく




果たしてこの怪物に抗う術は日本、そして艦娘たちにあるのか…。
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