艦これ 〜絶望に、生きて抗え〜   作:蒼海 輪斗

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現在の被害

ミサイル艇二隻撃沈
護衛艦四隻撃沈
死傷者400人以上

国防省は機能中


第二章 ゴジラ、上陸

 

20XX年 9月30日 横須賀鎮守府

 

 四季島が目を覚ますと真っ先に吹雪の顔が目に入った。

 

 「司令官っ!?」

 

 「ふぶき…?」

 

 すると後ろから掃海艇のメンバーと響、雪風が四季島の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

 「やっと起きたか。このまま目を覚まさないかと焦ったよ。」

 

 秋島が安堵の表情を浮かべる。

 

 「ここは…」

 

 「横須賀鎮守府の医療棟だ。あのあとすぐに空軍のヘリが救援にきて搬送されたんだ。」

 

 「ミサイル艇や護衛艦の人たちは?」

 

 四季島の問いかけに秋島ではなく和田が黙ったまま首を振った。あのゴジラの大惨劇は多くの尊い人命を奪っていったのだ。

 

 「司令官また無茶したんですか!!本当に心配したんですからねっ!!」

 

 吹雪は怒りながら四季島に泣きついた。四季島は泣きじゃくる吹雪の頭に手を当てて撫でる。

 

 「ああ、ごめんね。こんなことはもうしないよ。」

 

 吹雪を撫でながら四季島はあることを思い出した。あのあとのゴジラの動きだ。

 

 「そういえば奴は。ゴジラはどうしたんですか?」

 

 その問いかけに和田が答えた。

 

 「あのまま消息不明です。現在海軍が自衛隊と共同で捜索に出ていますが、今のところ手がかりはありません。」

 

 「ゴジラは東京方面に向かったはずです。遅かれ早かれ上陸する可能性が。早く避難指示を出さないと…!」

 

 ベッドから出ようとする四季島を和田が制する。そして口を開いた。

 

 「政府はこの情報をまで国民には伏せています。」

 

 「!?なぜですか?」

 

 「予想される大混乱の責任を誰もとりたくないんでしょう。終戦直後なので誤情報が広がることを恐れてでしょう。」

 

 「ですが、そんなことしていたら大勢の命が…!」

 

 あの惨劇を繰り返したくない四季島は必死に訴える。それに秋島が口を開いた。

 

 「安心しろ。何も無策ってわけじゃねぇ。海軍が東京湾の入口にイージス艦四隻と機雷敷設艦を配備してる。空軍も航空機を使って奴の早期発見を試みてる。何かあったときは全力で対処するそうだ。」

 

 「なので四季島さんはまず傷を癒やすことに専念してください。」

 

 和田がそう言うと四季島は渋々再びベッドに横になった。

 

 

 

 しばらくすると四季島は眠りについた。和田たちは他に用事があるようで早々に病室を後にした。残ったのは吹雪、響と雪風だけだった。

 

 「司令官ったらいつも私達のために無茶するんだから…。」

 

 吹雪が眠っている四季島の顔を見て呟いた。響と雪風はその後ろで黙って座っていた。

 

 「響ちゃん、雪風ちゃん。」

 

 吹雪が不意に二人に声をかけた。二人はハッとして顔を上げた。吹雪はそのまま言葉を繋いだ。

 

 「司令官がこんな怪我負ったのは、”ゴジラ”ってののせいなんだよね?」

 

 「…そうだよ。」

 

 「うん…。」

 

 響と雪風が答える。そして響が話を始めた。

 

 「実は私たちも戦争中、その怪物に襲われたんだ。」

 

 

 

 あれは戦争中のことだ。響は当時第六駆逐隊に所属しており、姉妹艦である暁、雷、電の四人で行動していた。いつものように横須賀から呉に物資を輸送する遠征任務が終了し、小笠原諸島近海、それも大戸島沖に差し掛かったときだ。

 

 「あ〜、もうこんなに暗くなっちゃった!早く帰りたいわ!」

 

 響の姉にあたる暁がそう言うと、響は口を開いた。

 

 「暁、もしかして暗いところが怖いのかい?」

 

 「そっ、そんなんじゃないから!!」

 

 慌てて否定する暁に雷と電も会話に入る。

 

 「まあまあ、私がいるから大丈夫よ。」

 

 「そうなのです。四人いれば大丈夫なのです。」

 

 その時、響の足元に何かがあたった。

 

 「?」

 

 不審に思って探照灯で照らすと、それは口から胃袋が飛び出した深海魚だった。それも一匹ではない。何十匹もプカプカと波に揺られて浮いている。

 

 「なにこれ…。気味が悪いわね。」

 

 暁が少し体を震わせながら言う。雷と電も深海魚を目を細めてみていた。

 

 「なんでこんなに深海魚が…。」

 

 すると突然、前方から耳をつんざくような鳴き声が響いてきた。

 

 「っ!!?何!!?」

 

 四人がビクッと体を震わせる。しかしすぐに戦闘態勢に入る。

 

 「深海棲艦…?夜戦準備!!」

 

 旗艦である暁が三人に指示を出す。艤装を構えて鳴き声のした前方へ主砲を向ける。しかし今は夜であるため敵の姿が認知できない。

 

 「探照灯照らすわよ!!」

 

 暁が肩についた探照灯を照射した。そこに浮かび上がったのは恐竜のようなおぞましい怪物だった。

 

 「!?」

 

 探照灯に照らし出された怪物は再びおぞましい咆哮をあがると、波をかき分けて響たちに突っ込んで来た。

 

 「暁っ!!探照灯消して!!」

 

 雷が叫ぶ。暁は言われた通り探照灯を消した。しかし怪物はそのまま暁のいる場所に飛びかかる。

 

 「きゃあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 暁の絶叫が響き渡る。それと同時に金属のきしむ音が聞こえてきた。響が探照灯を照射すると、そこには暁を巨大な顎でくわえ込む怪物の姿がうつった。

 

 「暁〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

 

 響と雷、電は怪物の体に主砲を撃ち込んでいく。駆逐艦の主砲弾の直撃に驚いたのか、怪物は顎を開き暁を吐き出した。響は落ちてきた暁をしっかり抱きかかえた。

 

 「暁っ!!しっかり!!」

 

「うう…」

 

 暁がうめき声を上げる。艤装は噛みつかれたときにボロボロになっており、体からも血が滴っていた。響は必死に傷口に手を当てて出血を止めようとしていた。

 

 雷と電は二人をかばいながら怪物に主砲を射撃していた。しかし怪物には効果がみられなかった。怪物は唸り声を上げると、雷に向かって腕を振り下ろす。

 

 「きゃああああああああ!!!!」

 

 雷が悲鳴を上げて海面に膝をつく。怪物の爪が雷の腹部を貫いたのだ。さらに怪物は必死に砲撃をする電に尾を振り回して薙ぎ払った。尾の攻撃を受けた電は海面に叩きつけられる。

 その絶望的状況で響は暁の出血を必死に止めながら思考を巡らしていた。 

 

 「(このままじゃ全滅だ。暁は傷が深い。雷も電も深傷を負ってる。満足に動けるのは私だけ…。だけど私がかなう相手じゃない…。)」

 

 すると遠方から怪物の頭部に向かって砲弾が直撃した。怪物は叫び声を上げると動きを止めた。響が砲撃の飛んできた方向をみるとそこには同じく遠征の帰りだった駆逐隊だった。

 

 「全艦砲撃準備!!目標、未確認巨大生物。撃て〜!!」

 

 駆逐隊の旗艦、陽炎型駆逐艦一番艦、陽炎が砲撃を行う。怪物に次々と砲弾が命中していく。しかし怪物はおぞましい唸り声を上げて、今度は陽炎に襲いかかる。陽炎は最大戦速で怪物の襲撃を回避した。

 

 「砲雷撃戦、続行します!!」

 

 その駆逐隊に所属していた雪風も怪物に主砲弾を叩き込む。怪物は爆炎に包まれて姿が見えなくなった。

 

 「やったか…?」

 

 響がぐったりとした暁の肩に手を回してつぶやく。

 

 

 

 

 しかし、幾多にも降り注ぐ砲弾に怪物の怒りは頂点に達した。砲煙を振り払うと、尾を振り回す。この尾の攻撃により陽炎が吹き飛ばされる。

 

 「きゃああああああああああああああ!!!!」

 

 雪風がその瞬間を目撃する。どうやら本気で怪物を怒らせたようだ。怪物は海面を腕で叩きつけ、大波を引き起こす。響たち艦娘はその引き起こされた大波を必死に耐える。耐えたかと思えば怪物は巨大な顎を開き襲いかかってくる。

 

 「(怪物を怒らせたみたいだ。このままじゃ全滅だ。どうすれば…)」

 

 響が必死に考えを巡らせる。すると雷が響の目の前に背中をみせて立った。

 

 「響、ここは私達にまかせて。暁を連れて逃げて。」

 

 「っ!?何言ってるんだい!?そんなことしたら雷が…!!」

 

 響がそう言うと電も前に立った。

 

 「電もいることを忘れないでほしいのです。二人いれば時間稼ぎくらいできるのです。」

 

 電は決意に満ちた表情をしていた。

 

 「でも…!!」

 

 「大丈夫。今度は響を絶対一人にしないから。こいつをどうにかしたら必ず帰るわ。」

 

 「そうなのです!暁ちゃんをお願いなのです!!」

 

 そう言うと二人は怪物に向かって突撃する。怪物は向かってくる二人の艦娘に耳がつんざくような咆哮を浴びせた。

 

 時を同じくして陽炎も雪風に撤退を指示していた。

 

 「雪風、あなたは逃げて。」

 

 「でも、そしたら陽炎さんが…!!」

 

 「日本のためには、あなたが必要よ。それに死ぬと決まったわけじゃないわ。…雪風、不知火たちによろしくね。」

 

 言い終わると陽炎は主砲を握り、怪物に向かって加速する。雪風がなにか叫んでいたが、陽炎には聞こえていなかった。

 

 

 

 その後、暁を連れた響と雪風は必死に撤退し、通りかかった海軍のイージス艦大和に救助された。しかし第六駆逐隊と陽炎はその怪物が確認された海域を念入りに捜索しても、見つかることはなかった。

 

                   轟沈。

 

 海軍省にはそう報告するしかなかった。

 

 

 

 「そんなことが…。」

 

 二人が話し終わると吹雪が悲しそうな表情で呟いた。そしてつらかったことを思い出させてしまったことの申し訳ない気持ちが湧いてきた。

 

 「だから仇を討ちたいんだ。でもあの時私達は何もできなかった…。」

 

 「雪風たちはまた失ってしまったんです。かけがえのない仲間を…。」

 

 二人はうつむく。目に冷たい感覚が伝わってきた。涙が頬をつたっていく。すると二人の頭を誰かが優しく撫でた。驚いた二人が後ろを振り向くと、いつ起きたのかそこには四季島がいた。

 

 「大丈夫だ。君たちばかりにつらい思いをさせてごめんね。でも、これからは何一つ奪わせないから。」

 

 四季島はそう言うと、真面目な表情で決意した瞳を三人に向けて宣言した。

 

 「僕が必ず守る。君たちも。この国も。」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

20XX年 10月8日 浦賀水道

 

 この海域では数人の海防艦娘が哨戒を行っていた。ミサイル艇と護衛艦の原因不明の沈没。そして掃海艇からの報告。信じがたい内容だったが、これ以上の被害を生まないため海防艦娘が配備されていた。

 その時、海防艦娘の一人、択捉の真下の海中で巨大な影が通り過ぎていく。それは尋常ではない大きさをしていた。

 

 「これが例の…!!」

 

 「急いで!!本部に連絡して!!」

 

 

 

 

東京湾沖

 

 東京湾の沖合では海軍の機雷敷設艇数隻が、機雷を数珠つなぎにして敷設していた。本当に巨大不明生物が来た場合は、この機雷でできた第七区まである「東京湾封鎖ライン」を爆破させて倒す予定であった。

 

 その作業の途中に、血相を変えた乗組員が操舵室に駆け込んできた。

 

 「艇長!!沖合で哨戒中の海防艦隊から緊急入電です!!謎の巨大不明生物が東京湾に向かっているとのことです!!」

 

 「本当にいたのか!?ならそろそろ来る頃だが…。」

 

 そう言いながら艇長が双眼鏡を覗くと、言葉を失った。

 

 まさに一つの島のような巨大な背びれが悠々と向かっていたのだ。同じ光景を目撃した乗組員が声を震わせながら口を開いた。

 

 「これって、生き物なんですかね?」

 

 艇長は代わりに無線機を取ると、交信を始めた。

 

 「東京湾封鎖ライン、第四区を爆破させ巨大不明生物の侵入を阻止します!」

 

 怪物はゆっくりと機雷が敷設されているラインに近づいてくる。乗組員が秒読みを始める。

 

 「3・2・1…」

 

 怪物が機雷触れようとした瞬間、艇長が起爆スイッチに手をかけた。

 

 「今だ爆破!!」

 

 叫んだ瞬間に第四区の機雷が次々に爆発していく。巨大な背びれは機雷の爆発が引き起こした水柱に隠れて見えなくなった。

 

 「どうだやったか!?」

 

 艇長が乗組員に問いかける。しかし問われた乗組員は残念そうに残酷な解答を答えた。

 

 「駄目です。全く効いてません!」

 

 巨大な背びれは何事もなかったように悠々と泳ぎ去っていく。艇長が泣きそうになりながら無線機に叫ぶ。

 

 「東京湾封鎖失敗!!怪物は品川方面に向かいました!尋常ではない大きさです!!直ちに品川方面に避難指示、防衛隊を出撃させてください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、東京の自宅で先日退院した四季島は七つ歳の離れた妹の遊び相手をしていた。深海棲艦の空襲で両親を亡くした四季島にとって、生き残った妹の存在は吹雪たちのように心の支えとなっていた。

 その時、けたたましい空襲警報が響き渡った。思わず妹をかばうような姿勢になった四季島の耳に、緊急放送に変わったテレビのアナウンスが流れ込んだ。

 

 「速報です。巨大不明生物が品川方面に向かっています。これは現実です。品川、銀座方面の方はすぐさま警察の指示に従って避難を開始してください。繰り返します。巨大不明生物は…」

 

 四季島はアナウンサーが言った”巨大不明生物”の言葉を聞き逃さなかった。それは…、

 

 

 「ゴジラだ…。」

 

 そして「銀座」と言った言葉に足元が崩れるような感覚が四季島を襲った。吹雪たち艦娘は今、銀座近くの国防省本部にいるのだ。

 

 「一人で避難所に行けるか!?」

 

 四季島の深刻な表情にどんな事態かを察した妹は、深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京湾 品川方面防衛線

 

 巨大不明生物、ゴジラはすでに上陸を開始していた。上空には空軍のF-2戦闘機が四機飛行していた。全機が対艦ミサイルを装備している。

 

 「こちらF-2第一中隊。巨大不明生物を目視で確認。これより攻撃を開始する。」

 

 「こちら本部。了解した。直ちに攻撃を開始せよ。」

 

 攻撃許可を受けたF-2はゴジラをロックオンする。そして兵器発射スイッチに指をかける。

 

 「目標ロック。FOX1!!」

 

 ほぼ同時に四機のF-2が対艦ミサイルを発射した。合計四発の対艦ミサイルはそれぞれゴジラの頭部と脚部に二発ずつ命中した。ゴジラは爆炎に包まれ、姿が見えなくなった。

 

 「やったか!?」

 

 パイロットがそう言った。その時、コクピット一杯に大木のような太い尾が写った。

 

 「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 F-2はろくに回避行動もとれずに尾に激突した。F-2の破片は火に包まれながらながら地面に叩きつけられた。その後、F-2を全て撃墜したゴジラは銀座方面へと体の向きを変えた。

 すると今度はゴジラの前に立ちはだかるように多数の戦闘ヘリコプター”AH-64D”が現れた。

 

 「こちらAH-64D第三小隊。ヘルファイアミサイルによる攻撃を開始します。」

 

 隊長機が指示を出した瞬間、ミサイルポッドからヘルファイアミサイルが発射されていく。ゴジラの頭部を狙ってミサイルはどんどん発射されていく。ゴジラの頭部でヘルファイアミサイルは次々と爆発していく。

 

 「頭部への集中攻撃。これならどうだ…?」

 

 今度こそ仕留められると期待を向けたが、それは虚しく打ち砕かれた。煙から現れたゴジラは頭部を再生させながらAH-64Dを睨んでいた。その向けられた眼光に隊長が息を呑んだ。

 

 「くそっ!これでもだめか…!」

 

 しつこい攻撃に怒ったゴジラはその場で尾を旋回させる。凄まじい速度で振るわれた尾は空中でホバリングをしていたAH-64Dを跡形もなく破壊した。

 

 ようやく障害を排除したゴジラはそのまま銀座方面に向かって歩き始めた。まだ銀座では大勢の避難民が避難をしていた…。

 

 

 

 

 

 

銀座 国防省本部

 

 「急げっ!!巨大生物が来てるぞ!!必要な資料だけもって地下壕に逃げろ!!」

 

 日本国防軍国防省本部の本部では銀座方面へとゴジラが向かっており、さらに防衛隊による一次作戦も失敗したこともあり職員たちが慌てふためいていた。

 

 「巨大不明生物絶対防衛ライン突破!!銀座に侵入しました!!」

 

 本部内の放送では待ったなしの状況になってきたことを狂ったように伝え続けている。資料をかき集める職員たちの中に、あの掃海艇のメンバーもいた。秋島は作戦資料を抱え込み、和田はなにやら大きな荷物を抱えている。青島も今すぐにでも地下壕に逃げたいのを必死で堪えて二人の手伝いをしていた。

 

 「艇長!!全部集めました!早く地下壕に逃げましょう!!」

 

 「待て!!まだだ!!持ってけるものは全部確保しろっ!!」

 

 秋島たちは必死になって資料をかき集めていた。その部屋に取り付けられたモニターでは、ゴジラが電車と車を持ち上げ放り投げてる姿が映し出されていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 銀座の街は大パニックになっていた。数寄屋橋をゴジラが踏み抜き、人々が宙に放り出される。逃げ遅れてゴジラの脚に踏み潰される人々。悲鳴が悲鳴を生み、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図と銀座は成り果てていた。

 

 

 

 東京駅から発車した有楽町方面に向かう国防軍所属の軍用列車に吹雪は乗っていた。ゴジラが接近しているため運転手が速度を上げたその時だった。

 

 

 なんの前触れもなく都電の車両が飛んできたのだ。驚いた運転手は反射的にブレーキをかける。そして都電は線路の中央に突き刺さる形で落ちた。

 車両では急ブレーキのために立っていた軍人たちは倒れそうになった。

 

 「どうした!?なぜ止まる!!」

 

 士官らしき男が運転席に向かって怒鳴る。他の士官や兵士たちも何事かと運転席を見つめた。

 

 その解答はすぐに現れた。

 

 車両全体を揺らすほどの地響きがなったのだ。それも少しずつ大きくなっている。

 

 「地震?」

 

 窓際の席に座っていた吹雪が窓に目をやると、なにかから必死で逃げ惑う人々の姿が目に入った。そしてその先を見ると、巨大な怪物がゆっくりと人々を追うように歩いていた。怪物が歩くたびに地響きが広がる。

 その怪物を見た時、吹雪の脳内に響と雪風の話した怪物の名前がよぎった。

 

 「あれが、ゴジラ?」

 

 怪物、ゴジラはその呼びかけに応えるように体をかがめて咆哮を上げる。その威圧感に耐えきれなかったのか軍人たちが乗降口に殺到する。閉まったドアを無理やりこじ開け軍人たちは外へ飛び出していく。吹雪はその人混みに押され席から動けなくなっていた。

 

 その時、金属がきしむ嫌な音がした。そしてなんと宙に浮き出したのだ。ゴジラが車両に噛みつき、持ち上げたのだ。

 

 「うわああああああああああ!!」

 

 「ああああああああああああ!!」

 

 逃げ遅れた人々がだんだん斜めになっていく車両を滑るように底へと落ちていく。吹雪は必死に席にしがみつきかろうじて落下は防いでいた。

 

 すると今度は「メキメキ」という嫌な音とともに車両の底が折れ始めた。溜まった人々の重みに耐えられなかったのだ。折れた車両の底が人々とともに数十メートルの上空から地面に叩きつけられた。吹雪も落ちたらあの人々と同じ運命になる。

 遂に吹雪も席から落ちてしまった。しかし途中でほとんど垂直になっている車両の支柱をとっさに掴み、九死に一生を得た。

 

 「くっ…」

 

 しかしそろそろ限界を迎えそうだった。すると真下に外堀川が見えた。吹雪は少しためらったものの、手を離し外堀川に飛び込んだ。そして吹雪が飛び込んだとほぼ同時にゴジラが車両を離した。車両は外堀川に落ち、ぐしゃぐしゃになった。その車両が起こした波に吹雪は飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 「なんということでしょう。にわかには信じがたいですか巨大な生物が銀座の街を蹂躙しています。」

 

 銀座のビルの上では陸軍兵士に制止されているのにもかかわらず、状況を中継しようとアナウンサーたちが報道活動を行っていた。

 ゴジラが剛腕を振るい、目の前のビルを破壊していく。さらに尾を振るい周辺一帯の建造物を薙ぎ払っていく。

 

 「ああ〜、なんとういことでしょう!!深海棲艦の空襲にも耐えた東京の街を怪物は次々と無に帰していきます!!」

 

 するとアナウンサーたちがいたビルが突然傾き始めた。ゴジラが無造作にビルの根本を脚でえぐっていたのだ。

 

 「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 だんだん垂直になっていくビルの屋上でアナウンサーたちは絶叫を上げ、そのまま無慈悲に地面に叩きつけられた。

 

 

 

 必死に逃げ惑う人々の中に、命からがら外堀川から陸にあがって逃げてきた吹雪もいた。しかしもう体力の限界だった。後ろから逃げてきた男性に押され道に倒れる。もう立ち上がる力も残されていない。

 ゆっくりとゴジラの脚が迫ってくる。自分ももうじきあの脚に踏み潰される。そう覚悟を決めた時だった。

 

 「死んではだめだ!!」

 

 そう言われ腕を掴まれ引っ張られた。

 

 四季島だった。四季島が必死に群衆をかき分け吹雪を見つけ出したのだ。

 

 「早く逃げるよ!!」

 

 「司令官…」

 

 四季島に引っ張られる形で再び吹雪は逃げ始めた。ただひたすらに逃げた。

 

 ゴジラが立ち止まり、体を捻って再び尾を振り始めた。四季島たちの後ろの建造物を尾は次々と薙ぎ払っていく。逃げ遅れた人々も建物とともに薙ぎ払われていった。

 

 ぎりぎりで逃げた四季島と吹雪の後方で巨大な爆発音が響いた。四季島たちが振り返ると、ゴジラの身体に幾多の砲弾が命中していた。

 

 「こちら第一戦車中隊。攻撃を開始します。」

 

 国会議事堂方面、有楽町方面から自衛隊の10式戦車、陸軍の20式戦車が駆けつけたのだ。そして砲撃が開始されている。ゴジラの頭部に次々と砲弾が命中する。

 さらに上空にも空軍のF-2戦闘機が到着した。

 

 「こちらF-2第五中隊。精密誘導爆弾による精密爆撃を開始します。」

 

 F-2全機が編隊を組んでゴジラの上空に到達する。そして爆撃位置につくと交信を開始した。

 

 「クリアードアタック 。ファイア…レディ…ナウ。」

 

 パイロットが投下スイッチを押し、安定翼がついた爆弾が投下された。一斉に投下された爆弾はまっすぐゴジラに向かっていく。

 

「ボムズアウェイ。レーザーオン、レイジング。」

 

 目標を照射したことを確認した時、爆弾がゴジラに弾着した。次々と「ドン!!」という爆発音が響き渡る。完全に爆炎に包まれたゴジラに人々はゴジラの死を期待した。

 

 「やっただろ…?あんなに爆弾を食らって生きてるはずがない!」

 

 避難民の一人が叫ぶ。しかし、その期待はすぐに破られた。

 

 晴れた爆炎から身体を再生しながらゴジラがゆっくりと現れたのだ。その姿に居合わせた全員が絶望の表情を浮かべる。

 

 「(やっぱり砲撃じゃ効かない…)」

 

 四季島がそう思った途端、不思議なことが起きた。

 

 

 ゴジラの特徴的な背びれが青く輝き、せり出し始めたのだ。せり出し始めた背びれはどんどん尾の部分から背中、そして頭部にまで届くとゴジラが身体をのけぞらせた。方向は国会議事堂方面を向いている。

 なにかを感じ取った人々は慌てて逃げ出す。中には自分たちの最期がわかったのか、抱き合う恋人、親子の姿があった。

 

 ゴジラの口に青い霧が集まる。

 

 「これは、あの時の…」

 

 四季島が護衛艦が撃沈されたときのことを思い出した。数珠つなぎのように光っていく海中。それがこれだとしたら、次の瞬間には…。

 

 せり出した背びれが「ガシャン」としまった瞬間、ゴジラは大口を開き、青い熱線を放った。国会議事堂に向けて放たれた熱線は国会議事堂を戦車ごと一瞬にして蒸発させた。そして水蒸気爆発の威力の爆風が襲いかかってきた。半径3キロの建物が次々と薙ぎ倒されていく。

 やがて爆風は四季島たちのいる服部時計店付近にも襲いかかってきた。その時、吹雪が四季島を建物の隙間に押した。

 瞬間、爆風が襲いかかり、吹雪は爆風に吹き飛ばされる。周りの人々も爆風により瓦礫とともに消し飛んだ。

 

 続いて爆風による爆縮現象により、爆心地に向かって爆風が向かっていく。四季島は建物の隙間で必死にそれに耐えた。

 

 ようやく爆風が過ぎ去ると、世界は時が止まったような静寂が訪れた。四季島が這い出てくると、周りは瓦礫の山だった。生きている人間は四季島以外、誰もいない。

 

 「…嘘だろ。吹雪、吹雪ー!!どこだ吹雪ー!!」

 

 四季島はありったけの声で叫んだがそれに答えてくれる人は誰もいないことは痛いほど分かっていた。

 かつて国会議事堂があった付近には巨大なキノコ雲が立ち上っていた。そのキノコ雲に向かって、ゴジラはけたたましい咆哮を上げた。そして熱線発射時に自らに生じたダメージを癒やすために、ゴジラは再び品川方面に向かっていった。

 

 「…待てよ。行くな…。こんなことして、許されると思うな!」

 

 四季島はフラフラした足取りでゴジラを追う。しかし途中で体力の限界を迎え倒れる。ゴジラは少しずつ姿が見えなくなっていった。

 

 「う、うううう…。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 「あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 四季島は呪詛のような唸り声を上げ続けた。それに答えるように、不吉な黒い雨が降り始めた。

 

 バラバラに蹂躙され、全てが破壊された東京の街。それは先の深海棲艦との戦争以上の絶望が迎えたことを物語っていた…。

 

 

 

 

 

三章につづく




現在の被害

国防省本部消滅 防衛力麻痺
国会議事堂消滅 政治能力麻痺
戦車・航空機 その他兵器多数損失

銀座壊滅
死者・行方不明者 約5万人以上
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