艦娘生存数10名程度
航空機数十機(いずれも損傷機)
戦車数両
艦船数隻程度
国防省本部は地下壕へ避難
「先日の巨大不明生物による被害は死者・行方不明者合わせて5万人以上、被災家屋、建造物4万戸以上に登ると思われています。被災直後から懸命に行われている救助活動ですが、巨大不明生物が移動した跡には高濃度の放射能が検出されているため、難航している模様です。」
昨日の悪夢が嘘のように晴れ渡った空の下には、めちゃくちゃに破壊された東京の銀座の姿があった。国会議事堂を中心として直径12キロにも及ぶ巨大な円状の瓦礫地帯ができていた。
「現在も行方不明者の安否を求めて大勢の人々が立ち入り禁止区域に殺到しています。巨大不明生物は放射能を帯びているため、深海棲艦との関連性が挙げられていますが日本国防軍長官は黙秘を行っています。」
円状の瓦礫地帯では日本国防軍の科学調査員たちが計測器を手に、放射線濃度を計測していた。その計器には恐ろしい数値が表示されていた。
20XX年 10月9日 横須賀鎮守府
執務室では仏壇が置かれ、海軍入隊時に撮られた笑顔の吹雪の写真が遺影として飾られていた。弔問に来た艦娘たちが全員帰ると、そこには掃海艇のメンバーと響と雪風、そして隅っこで魂が抜けたような四季島が残った。
「とんだことになっちまっって…。」
秋島がそう話しかけても、四季島は答えなかった。
「四季島、気持ちはわかる。でも今のままじゃ…」
秋島がそこまで言うと、四季島は立ち上がり執務室から出ていく。秋島は追おうとしたが、響がそれを止める。
「…今は一人にしてあげよう。」
そう言われ秋島は素直に追うのをやめた。あの状況の四季島に何を言っても無駄だと本能的に理解したからだ。
すると和田がいつの間にか、四季島のあとを追っていた。
四季島は廊下でしゃがみこんでいた。
「またなのか…。また僕は失ったのか…?ハハハ…」
ケラケラ笑い始めた四季島だったが、そのうち笑い声は泣き声へと変わっていった。
「僕が馬鹿な真似したから…」
するといつの間にか和田がいた。そして四季島にそっと耳打ちした。
「四季島さん、実はいま残存日本国防軍主導でゴジラを駆除する作戦が進行中です。以前の戦争のように満足にいくかは分かりませんが、参加しますか?」
その言葉に四季島の目に光が戻った。
20XX年 10月10日 日本国防軍地下司令部
入口の「特設災害対策部 説明会」と書かれた看板を通り過ぎ、部屋の中に入ると大勢の人々が席に着席していた。
「ここの人たちは…」
「ええ、全員国防軍の皆さんです。」
秋島の問いかけに和田が答える。左腕に添え木をして腕を吊った青島も落ち着きなく周りを眺めていた。
すると、会場に緊張が走った。日本国防軍司令長官の山本を始めとする各軍の最高司令官が入ってきたからだ。提督である四季島たちが思わず一斉に立ち上がる。山本は立ち上がった四季島たちに言う。
「大丈夫だ。話はこれから行う。全員座ってくれ。」
四季島たちが席に座るのを確認した山本は、話を始めた。
「日本国防軍最高司令長官の山本だ。知っていると思うが、今東京は謎の巨大不明生物の襲撃を受け、未曾有の危機に瀕している。しかし我が軍は先の銀座襲撃の際にほとんどの兵装とともに多くの優秀な人材を失った。同盟国アメリカの軍事行動は深海棲艦との戦闘で衰弱しているため、協力はできないと判断された。そのため、我々はここにいる生き残りであの怪物に立ち向かわければならない。」
その事実に一同が一斉に息を呑んだ。山本の言葉はさらに続いた。
「君たちにはそのために集まってもらった。海軍の艦娘との交渉で、作戦への参加は約束してもらえたが…」
その時参加者たちが声を上げ始めた。
「武器が無いんじゃ、俺達はどうやって戦えと言うのですか?」
「俺は銀座であの怪物をみました。あんなの倒せっこありません!」
「だいたい艦娘では戦力になるのですか?」
「そこんとこどうなってんですか!」
会場の騒ぎに山本は困惑する。すると後ろから和田がマイクをもって前へ出た。
「え〜、そこに関しては私から説明させていただきます。」
「和田、さん?」
四季島の隣に座っていた響と雪風が驚いたように声を上げた。
「今回の…!!」
和田がマイクに声を当てた瞬間、ハウリングが起き「キーン」と耳障りな音が会場中に響いた。一同が嫌な表情を浮かべる。和田が「失礼」と謝罪した後、話を始めた。
「今回の作戦を立案した海軍横須賀工廠士官の和田洋二と申します。まず前提としてあの怪物、え〜大戸島の伝承に即して仮にゴジラと呼称しますが、ゴジラは通常の火器や艦娘の攻撃に対してほとんどダメージを受けません。目の前でみましたが、艦娘の高雄の砲撃やミサイル艇の対艦ミサイル攻撃を受けてもすぐに再生してしまうんです。」
その言葉に参加者一同が動揺する。「嘘だろ」や「なおさら無理じゃないか」と言った声が聞こえてきた。
「お静かに。そこで全く別の手を二つ考えました。」
そう言うと和田がスクリーンに画像を映し出した。そこには陸軍と海軍が共同で開発した大口径超電磁砲、すなわちレールガンが映し出された。
「通常の砲撃ではゴジラはすぐに再生してしまいます。なので発射速度の速いレールガンを使用して身体の内側からゴジラを倒す案を考案しました。」
それには参加者たちも納得する。確かに通常の砲撃が効かないなら、発射速度が速いレールガンに賭けるのは当然だと考えた。
しかし、和田の話は終わっていなかった。
「しかしゴジラがレールガンをも超える再生能力がある可能性も否定はできません。そのため、レールガン攻撃のあとの主力の作戦を考案しました。」
スクリーンを消すと、和田の助手たちがなにかの実験器具が入った大きな水槽を運んできた。
「まずは簡単な実験をご覧にいれましょう。この水槽に入っているのは海水と同じ濃度の塩水です。このゴジラに見立てた木片は、おもりを取り付けてギリギリ浮いていられる状態にしてあります。」
和田の言う通り、水槽に入っているゴジラ型の木片はおもりを付けられてギリギリ浮いているようだった。その木片にはチューブが取り付けられていた。
「それではチューブからフロンガスを送り込んで、木片を泡で包むとどうなるでしょう?」
和田の問いかけに参加者の一人が答える。
「泡が出ても浮いたままだろ?」
「そう思いますよね。」
和田がチューブのコックを捻ると、ゴジラ型の木片に微細な泡が発生した。そして泡に包まれた木片は急速に沈み始めたのだ。
会場からは「沈んだ!」「おい、みたか?沈んだぞ」と驚きの声が上った。
「フロンガスから発生した微細な泡が木片を包み込み、海水との接触を断つのです。これを東京を襲った怪物、ゴジラに仕掛け、海に沈めようというのが私が考案する第二の作戦案です。」
和田が再びスクリーンをつけると、今度は相模湾の等高線が描かれた海図が映し出された。
「ご存知のように相模湾の相模トラフは最大深度2,500メートルと近海ではずば抜けた深さを誇ります。今回の二次作戦ではゴジラを相模湾におびき寄せ、大量のフロンガスボンベを装着し一斉に発泡させ、泡の膜で包もうと考えています。そして短時間で相模湾へ沈め、深海の圧力で息の根を止める…。」
和田がスクリーンの光を顔に浴びて一同へ顔を向ける。それは光を浴びて、怪しい表情へとなっていた。
「海の力でゴジラを殺す…。これが海神作戦の概要です。」
しかし意外な人物が異論を述べた。秋島だった。
「あいつは海から来たんだ。深海の圧力なんか平気の平左だろ?」
それに和田はすかさず反論した。
「計算によると約35秒後に1平方メートルあたり約250万気圧がかかります。普段深海で生存できる生物もこれほどの急激な圧力変化には耐えられません。」
その時、四季島が立ち上がった。
「それでゴジラを絶対に殺せるんですか?」
その一言に響と雪風が四季島を心配そうに見つめた。和田は即答することはできなかった。なぜならまだゴジラに関する情報が足りてないからだ。
「あの怪物の生態は未知なことが多すぎて詳しくはわからない。だから予測で対策を立てるしかないんだ。」
自信なさげな言い方に会場の人々が再び動揺した。
「ですが砲撃が効かない以上、これが最適解であると…」
「殺せるんですか殺せないんですか?」
和田は少しためらいながらも、誠意をもって正直に答えた。
「絶対とは言えない。」
それを聞いた四季島はすぐさま出ていこうとした。その背中に和田が呼びかける前に、響と雪風が呼びかけた。
「可能性はあるんだよ。」
「しれい、最後まで聞きましょう。」
二人の呼びかけに四季島はしばらくその場で立ち止まっていたが、しぶしぶ席へと戻った。
「では詳しい説明を。」
和田がスクリーンの画像を切替えた。そこには二隻の艦でケーブルを曳航し、ゴジラに巻きつける方法が説明されていた。
「こうして二隻の軍艦でケーブルをゴジラに巻き付けます。ケーブルにはフロンガスボンベをあらかじめ装着してあります。巻き付けが完了と同時に足元の重機雷を複数爆破させ巨大な泡を作った後、フロンガスを一斉に放出します。その後ゴジラは浮力を失い、一気に深海2,500メートルまで引きずり込まれます。」
「ですからそれがだめだったら…」
参加者の言葉を和田が遮った。
「予備作戦があるんです。皆さん、スクリーンを見てください。」
参加者が一斉に覗き込んだスクリーンには、巨大なバルーンが爆音とともに射出される動画が再生された。
「舞鶴兵器廠の坂垣です。今動画で流れたのは我々が開発した潜水艦サルベージ用の膨張式浮上装置、いわゆる巨大な浮袋です。海底に着いたゴジラを今度はこれで海上に一気に引き上げます。」
坂垣の説明が終わると、和田が前に出て参加者たちに語りかける。
「もし万が一超高圧に耐えたとしても、直後に襲いかかる凄まじい減圧まで耐えきれるとは思えません。確かに確実に倒せる保証はありません。ですが今はやれることをやるしかないんです!」
和田が言い終わると、今度は山本が口を開いた。
「あの怪物に立ち向かえと無理を言っているのは重々承知している。だが分かってほしい。国民が頼れる存在が我々以外いない今、我々しかこの国の未来を切り開くことはできない!」
参加者たちは自分の立場を考えているようだ。しばらくの静寂が続いた後、一人の男が立ち上がった。
「無理です。俺には家族がいます。ここにいる大半のやつもそうです。」
その発言をもとに、もう一人の男が立ち上がった。
「なぜ俺達が貧乏くじを引かなきゃならないんですか?」
再び会場にざわめきが広がっていく。山本は「静かに」と呼びかけたから言った。
「これは命令ではない。個々の事情があるのなら帰っても構わない。我々上層部はそれを止めはしない。」
再び会場に静寂が訪れた。山本の「帰ってもいい」と言う言葉に帰りづらさを感じているようだ。
しばらくすると先程の男が山本に一礼し、早足で去っていった。それを引き金にして何人かの男が会場から出ていった。
その時、一人の提督の男が発言した。
「これって、絶対死ぬわけじゃないですよね?」
「も、もちろんです。」
和田が怯えながらも即答した。すると男は笑顔を皆に振りまいて言った。
「じゃあ、深海棲艦のときよりだいぶマシだ。」
そう言うと、彼らの間で笑いがひしめいた。もう一人の提督も口を開いた。
「誰かがやんなきゃならないんでしょ?じゃあしょうがないじゃないですか。俺達軍人しか日本を守れないんだし。」
「よーし、いっちょやってやるか!」
会場が明るさを取り戻した。皆、覚悟を決めたのだ。山本は感謝の気持ちでいっぱいになった。
「みんな、ありがとう。」
山本が感謝を伝えた。その中で四季島だけが重い表情で会場を後にした。
その日の深夜
横須賀鎮守府
横須賀鎮守府の食堂では、四季島を始めとする掃海艇のメンバーが集まって食事をしていた。
「まさかお前があの大作戦の立案者だったとはな。」
「実際のゴジラに遭遇していますからね。それで白羽の矢をたてられたようです。」
秋島が語りかけると、それに和田は答えた。
「奴は戻ってくると踏んでいるのか?」
秋島が問いかけると、和田が真剣な顔で答えた。
「先日の銀座襲撃で東京一帯はゴジラの縄張りに加えられたとみていいでしょう。早ければ1週間以内に再上陸があり得るかもしれません。」
「そんなに早く…」
秋島が複雑な表情を浮かべた。それなら早いうちに作戦を開始しなければならない。
「そういえば航空自衛隊と空軍にゴジラの索敵をお願いしたんですよね?」
青島が和田に問いかけた。
「やつの発見を目視だけに頼るわけには行きませんからね。それに放射能を探知するブイを大量に散布しました。」
和田は海軍と連携して、太平洋側の海域に放射能探知ブイを散布している。ゴジラの早期発見のためだった。
「それにしても奴は罠張ってるところに「はいどうも」ってくるのか?」
「それは…」
「おいなんだよ。無策なのかよ」
バカにしたような言い方にムッとした和田は酒を手にとって答える。
「バカにしないでください。ちゃんと考えてます。」
そして酒を一気に口に流し込む。飲み込むと続きを話す。
「戦争中、深海魚雷の欺瞞に使っていた水中拡声器があるんです。それに銀座襲撃時に録音したゴジラの声を流すんです。」
「ゴジラの声?」
「はい。そうすればゴジラは別個体に縄張りを荒らされたと思ってやってくるはず、です。」
和田の言い方に秋島は疑問ばかりでしょうがなかった。
「はずって、はずばっかだな。それになんとか式浮上装置?俺はあれが上手くいくとは思えないな。」
「じゃあどうすればいいんですか?」
「ハイハイハイ!」
青島が元気に声を上げて言った。
「イージス艦か艦娘に引っ張ってもらうのはどうでしょうか?」
青島の自信満々な意見は、速攻で一蹴された。
「バカ言え。ゴジラの推定体重は約2万トンだ。イージス艦や艦娘の推力では到底足りない。」
「つまりお前の作戦は穴だらけってことか。」
「そんな言うんだったら代案出してくださいよ代案。」
その時、黙りこくっていた四季島が口を開いた。
「和田さん、レシプロ戦闘機のツテ、どこかにありませんか?」
「戦闘機?」
その言葉の響きに秋島は疑問を抱いた。
「できれば速度が速すぎないプロペラ機で。仮に奴が上陸しても銃撃して怒らせれば相模湾に誘導できます。」
その意見に和田は違和感を抱かるを得なかった。
「もしあっても奴は熱線は吐きます。航空機で誘導なんて、命がけすぎます。」
「この際、命がけはどうでもいいです。それに戦闘機は船よりはるかに身軽に動けます。」
酒を飲み干して秋島が四季島を睨みつけながら言う。
「わざわざ撃ち落とされにいくのか?やけになってんじゃんぇよな?」
「酔ってるんですか?」
「吹雪ちゃんの仇討ちてぇだけだろ。」
「僕の考えが気に入らないようですね。」
「今更よぉ…」
秋島はそう言った途端に四季島の胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「なんでこんなことになる前に吹雪ちゃんとケッコンしてやんなかったんだよ!?あの子の気持ちは分かってたんだろ!?」
四季島も秋島の腕を掴んで抵抗しながら反論する。
「僕もそうしてあげたかった…!」
「じゃあなんでだよ?」
四季島はしばらく沈黙していたが、やがて静かに口を開いた。
「…約束したんですよ。」
「何をだよ…!」
「…戦いが終わって、平和な世界で一緒に暮らそうって…。まだ、僕たちの戦いが終わってないんです…。」
秋島たち掃海艇メンバーは四季島の言葉の重み察し、そのまま黙り込んだ。
3日後、和田からの報告を受けた四季島が横須賀鎮守府付近の飛行場へと車を飛ばしてきた。
倉庫の前では和田と助手たちが待っていた。
「戦闘機、あったんですって?」
「はい。対深海棲艦用に開発された人間用の局地戦闘機なんですけど、特殊なやつで…」
そう言いながら和田は助手に合図する。助手たちがかかっている布を引っ張り下ろすと、奇妙な戦闘機が姿を現した。
「深海棲艦の爆撃機迎撃用に開発された局地戦闘機、震電です。最高速度は700キロ以上、30ミリ機銃四門の破格の重武装を誇ります。」
四季島は驚きの眼で震電を見て回る。プロペラが後部に設置されており、カナード翼を備えている戦闘機だ。
「深海棲艦爆撃機迎撃用にここに配備されたてたんですけど、その後終戦になってほったらかし状態で…。それで機体がガタガタで…」
「このままでは飛べない。」
四季島の返信に和田を重く頷いた。
「機体を補修することができる人が必要です。しかし整備員の人たちも先の銀座襲撃でほとんどが…」
四季島は和田の言いたいことがよく分かっていた。先の銀座襲撃で海軍の関係者は約半数以上が殉職しているのは知っていた。
だが、いつゴジラが現れるかわからない以上、のんびりはしていられない。四季島は和田に向かって叫んだ。
「…3日間、3日間だけ時間をください。僕の知り合いの整備兵全員に声をかけてみます。」
「整備兵の友人がいるんですか?」
「はい。三四三空では整備兵の皆さんとも交流をしていたので。」
その日から四季島は三四三空の整備兵全員に手当たり次第に電話をかけた。しかしほとんど全員が戦死または入院していた。なんとか見つけ出そうと海軍省にまで問い詰めたが、空振りに終わった。そしてとうとう約束の日を迎えてしまった。
がっくりと肩を落として飛行場へ向かうバスに乗り込んだ。席に座り込むと「四季島さん?」と声をかけられた。何気なく顔を上げると、そこには…
「っ!?立花さん!?」
四季島が三四三空でパイロットをしていた時代、担当だった整備兵の立花の顔があったのだ。
「こんなところで奇遇ですね。どうしたんですか?」
「立花さん!?なぜこんなところに?まさか横須賀に…」
四季島がそこまで言うと、立花がうつむき加減で頷いた。
「はい。大戸島で戦死した整備兵たちの墓参りです。私のせいで彼らを死なせてしまいましたから、やれることはやりたいんです。」
立花はそう言う。四季島は聞いてはいけないことを聞いてしまったような顔をしてうつむいた。しかしその時、とある作戦が電撃的に思いついた。
「立花さん、銀座に現れたあいつ、大戸島のゴジラですよね。」
その一言に立花は反応する。四季島の顔を覗き込むように近づいた。
「なんでそれを…!」
「奴を倒したいと思いませんか?」
その問いかけに立花は食いつくように返事を返した。
「それはもちろんだ!」
「ゴジラの口の中で機雷を爆破させたことがあります。高雄の砲撃や対艦ミサイルよりはるかに効果があった。わかりますか?」
四季島の目がだんだんとギラつき始めた。立花はその目をじっと見つめていた。
「ゴジラは内側からの攻撃に弱い。なので爆弾を満載した戦闘機で奴の口に突っ込むんです。そうすれば、確実に殺せます!」
まさか、四季島がやろうとしていることは…。
「…特攻を?」
「あなたの戦争も、終わってませんよね?」
横須賀の飛行場に到着した四季島と立花は、和田と再会する。
「本当に見つけたんですね。あなたがその整備兵で…」
「はい。立花と申します。これが例の戦闘機ですか?」
立花は震電を眺めながらつぶやいた。それに和田が答える。
「機体の補修をお願いしたいんです。」
立花はしばらく震電の機体を触っていたが、振り返るとはっきりと言った。
「私にできることはやってみます。」
「ありがとうございます!助かりました!」
和田が喜んでいる横で、四季島と立花は和田に気づかれないように小さくうなずきあった。
翌日
横須賀鎮守府の軍港では、機材の搬入作業が行われていた。海軍の護衛艦大和にはケーブルを巻いた巨大なウインチが装備されており、そのケーブルには巨大なフロンガスボンベなどが組み込まれていた。
さらには巨大なレールガンが運び込まれてきた。早急のため用意されたレールガンは三門と少なかったが、巨大なその姿はとても頼もしく感じた。
「いつゴジラがやってくるかわからないぞ!!」
「よ〜し、今日中に準備を終わらせるぞ!!」
軍港からは作業員や兵士たち、さらには提督たちまでも資材搬入をしている。その中で和田だけが暗い表情をしていた。
「どうした?立案者様がそんな顔しちゃ士気に関わるぞ。」
秋島が青島を連れて、和田の肩を叩きながら言った。
「立案していてなんですけど、今回の作戦が成功するのが奇跡に等しく感じてきまして…」
「でもよぉ、なんにもやらにゃあその奇跡も起きやしないぜ。」
「そうですね…」
「見てみろよあいつらの顔。」
そう言われて和田が顔を上げると、笑顔で作業を続けている彼らの姿が目に入った。
「あいつらだって馬鹿じゃない。これが命がけの作戦だってのは分かってる。だがな、みんないい顔してるじゃねぇか。嬉しいんだよ、今度は役に立てるかもしれないってことがな。」
「役に立つ、ですか。」
「俺達は深海棲艦との戦争を生き残った。だからこそ、今度こそはってな。」
そばにいた青島も秋島の言葉を聞いて深々と頷いた。準備は黙々と続けられた。
横須賀軍港の沖合では、響と雪風を含む艦娘たちが集結していた。リーダー格の長門が口を開いた。
「我々は当作戦において重要な戦力となっている。我々戦艦、重巡はゴジラの出現と同時に威力砲撃を行う!軽巡、駆逐艦は二次作戦の海神作戦への予備戦力として訓練を行ってもらう。」
今回の海神作戦では、6人の艦娘が参加する。火力支援には戦艦の長門と重巡の高雄。ゴジラ陽動に軽巡の大淀、潮、響、雪風が編成された。
「今度は絶対に負けないわ!」
まだ頭に包帯を巻いた高雄が意気込む。それを響と雪風は心配そうに見つめていた。
「雪風、もしかしたらゴジラの予期せぬ攻撃で護衛艦が動かせなくなる可能性が考えられる。だから…」
「分かってます。その時は雪風たちが変わりにゴジラにケーブルを巻き付けないといけませんね!」
雪風は相変わらずニコニコとして返事を返した。しかし心境はこれ以上犠牲者は出さないと言う強い意志が響には感じられた。
「フッ、そうだね。」
響も覚悟を決めた。ゴジラに奪われた姉妹たちの仇を討つまたとない機会だ。逃すわけにはいかない。響と雪風は日が暮れるまで、作戦練習に打ち込んでいた。
その夜。小笠原諸島に散布された一つのガイガー計測ブイが激しく反応していた。このこと哨戒中だった護衛艦によりすぐに横須賀の和田たちに伝えられた。
和田は作戦メンバーに緊急招集をかけると、海図を手にして部屋に入ってきた。
「一時間前、八丈島沖北緯33度1分、東経140度46分の地点でガイガー計測ブイに反応があると報告がありました。そしてここと、ここにも。」
和田は定規を使って報告地点を線で結んだ。繋がれた線の先には「東京」があった。
「ゴジラが近づいています。この距離から逆算すると相模トラフ上にゴジラが到達するのは明日の11:00。それを迎え撃つためレールガン部隊は04:00、我々海神艦隊は明朝08:00をもって出撃します。」
「和田さん、浮上装置の完成、それまでに間に合いますかね…」
一人がそう和田に問いかけた。浮上装置は少し完成が遅れており、作戦前に完成するのか心配になってきたのだ。それに坂垣が答えた。
「我々も連れて行ってください。現場に着くまでの3時間は貴重です。」
「しかし、ゴジラとの戦いに巻き込まれるかも。」
心配そうに言う和田に坂垣と係員たちは笑顔で答えた。
「我々だって、戦争帰りですよ?」
和田たちはその一言で安心した。和田は全員に向き直ると話を始めた。
「皆さん、今日は家に帰ってできるだけ家族と過ごしてください。」
「覚悟しろって意味ですか?」
その問いかけに和田が静かに首を振った。
「今思えば、あの戦争は多くの命を奪っていきました。深海棲艦に一方的に蹂躙される陸軍、互角に戦えましたが出撃のたびに艦娘の轟沈者がでる海軍、不利な状況ながらも懸命に戦った空軍。統制が乱れたしまいには捨て艦戦法だ無理防衛だ…。だからこそ、今回の残存国防軍による本作戦では、一人の犠牲者を出さないことを誇りとしたい!」
和田が決意に満ちた表情で力強く言い放った。
「今度の戦いは死んで勝つ戦いではありません。未来を生きる戦いなんです!」
誰もが深く頷いていた。その中で四季島だけが早々に部屋を後にしていた。
「いよいよ明日か。武者震いしちゃいますね。」
集会が終わり、帰りに青島が秋島と和田にそう言った。すると秋島が突然青島にその言葉をぶつけた。
「お前は連れて行かねぇ。」
「へ?」
「まぁ、その腕じゃあなんの役にもたたないしなぁ。」
和田のそう言う。青島は焦りながら秋島に抗議する。
「なんですか!?俺が使えないからですか!?兵士として戦ってないからですか!?」
「いいか青島。兵士として戦ってないのは、すごく幸せなことなんだぞ。」
それを聞き、青島はポツンと立ち止まる。二人は構わずにスタスタと歩き去ろうとする。その背中に青島は必死に叫んだ。
「なんでですか。今までずっといっしょだったじゃないですか!俺だけ置いてくなんて言わないでください‼お願いします!俺だってこの国守りたいんです!」
叫ぶ青島を無視して二人は歩いていく。
「この国は、お前たちに任せたぞ。」
秋島がぼそっとつぶやいた。
四季島は自宅で明日の準備を進めていた。三四三空時代に使っていた飛行服。震電の操作マニュアル。それらをまとめると四季島は仏壇に体を向けた。仏壇には吹雪の写真が飾られている。写真に手を伸ばし、じっと見つめた。
「今度は、僕が救う番だ。」
四季島はそうつぶやいた。すると玄関が開く音がした。四季島は慌てて写真をしまい込む。妹が帰ってきたのだ。
「おかえり。」
四季島は帰ってきた妹に笑顔を向ける。妹も笑顔を返した。
「ただいま。」
「学校楽しかった?」
「うん。楽しかった。」
小学校の高学年になった四季島の妹は、素直に返事をする。そこで四季島は言いたくないことを妹に聞いた。
「明日、作戦が始まるんだ。学校が終わったら、横須賀軍港でおばさんと待っててくれる?」
その一言に、妹は驚いて四季島に詰め寄った。
「お兄ちゃんも帰ってこなくなるの?」
「どうしてそんなこと言うんだ?」
「だって…」
妹は続きを言おうとしたが、唯一の家族を失ってしまうかもという不安が募り、遂には泣き出してしまった
四季島は泣き出した妹を優しく抱きかかえると言い聞かせた。
「そんなわけ無いよ。泣かないで。僕は絶対帰って来るから。」
嗚咽を漏らす妹の頭を優しく撫でながら、しかし決意の満ちた表情でその言葉を言った。
「もう一人にしないから。」と。
四章に続く