作戦当日
四季島は一睡もできずに飛行服に袖を通す。そして泣きつかれてぐっすりと眠っている妹の布団をかけ直してあげると、その寝顔を見た。それを見ると四季島は立ち上がりたくなかった。このまま作戦なんか放りだして、この家で暮らしていたかった。
しかし残酷にも時間は止まることなく迫っていた。四季島は意を決して立ち上がり、吹雪の写真を手にする。そして身支度を終えると、もう一度妹の顔を見た。
守るべきものがそこにあった。四季島はドアを開き、もう帰って来ることのない家を後にした。
横須賀の飛行場まで車を走らせて、倉庫内に入る。そこには煤で黒くなった立花と二人の助手がいた。
「出せますか?」
四季島が声を掛けると、立花が立ち上がり「今準備します。」とだけ言った。
震電の機首カバーを立花が取り外すと、そこには安定翼が取り外された爆弾がすっぽりと収まっていた。
「ご注文の爆弾です。新型成形炸薬を使用した爆弾で機首に250キロ、胴体内に500キロを取り付けました。そして重量を減らすために機首の30ミリ機銃を二丁、胴体内の燃料タンク700キロ分を撤去しました。」
「これでようやく皆を救えるんですね。」
四季島は操縦席に座りながら立花の説明を聞いていた。すると四季島の手がおもむろに震えだした。立花が驚いたようにみている。
「おかしいですね。生きたいみたいです、僕は。」
「…大戸島で殺された部下も同じでした。それが願い叶わず皆奴に殺されました。そして私だけが生き残ってしまいました。本当は私がこの身をもって奴を倒したいんです。」
立花は四季島にそう言った。四季島のような若い人間は死ぬべきではない。しかし四季島は首を振って答えた。
「あなたは生きるべきです。それがあの時大戸島で生き残った意味です。僕はあなたよりも命を失いすぎました。なので僕には生き残った人たちの未来を守る責務があるんです。」
そして四季島は一息つき、顔を上げて宣言した。
「ゴジラは刺し違えてでも、必ず仕留めます。」
四季島の手の震えはいつの間にか収まっていた。その真剣な眼差しに立花も覚悟を決めた。
「わかりました。それでは大事なことを言います。これは爆薬の安全装置です。突っ込む直前に引いてください。」
立花は操縦席に取り付けられたレバーを指さして説明した。そして隣のレバーを指さした。
「そしてこれが…」
説明を受けて四季島は驚いていた。その説明が終わる頃には、出撃の時間が近づいていた。
その頃、三浦沖ではガイガー計測ブイが激しく反応しており、同時に深海魚が大量に浮上してきた。そして巨大な背びれがその姿を現した。停泊していたミサイル艇がその背びれを発見し、乗組員が無線機に飛びつく。
「こちらミサイル艇30号。北緯35度03分、東経139度41分。ガイガー計測ブイに激しい反応!同時にゴジラ出現を目視で確認!!」
「一次作戦”誘導”、開始!!」
そして水中拡声器を搭載したミサイル艇がレールガンを装備した護衛艦扶桑、山城とともに出撃した。ミサイル艇から曳航される水中拡声器からはゴジラの禍々しい咆哮が流され始めた。
するとその禍々しい声が聞こえたのか、ゴジラが水中で方向転換をした。そしてまっすぐミサイル艇の元へ急行する。
「目標、水中拡声器に反応!向かってきます!」
ミサイル艇の乗組員が護衛艦扶桑に報告する。扶桑と山城の艦上ではすでにレールガンが電力を供給させ、発射準備体制となっていた。
「了解。ミサイル艇針路そのまま。400メートル付近で攻撃する。」
ゴジラはミサイル艇にぐんぐん近づいていくる。ミサイル艇はエンジンが焼ききれんばかり速度でゴジラを誘導する。
「レールガン充填完了!いつでも撃てます!!」
砲手は扶桑の艦橋に連絡する。艦長が艦橋の窓越しにゴジラの背びれを凝視していた。巨大な島のようなゴジラが窓枠いっぱいにうつった。その瞬間、艦長は下令した。
「射撃開始!!繰り返す。射撃開始!!」
射撃の命令が出たと同時に砲手は引き金を引いた。電力を帯びた扶桑のレールガンは凄まじい速度で弾丸を発射した。続いて山城もレールガンを発射した。
放たれた2発弾丸は高熱を帯びながらゴジラの体表を貫いた。そして内部で信管が作動し爆発を起こす。
その痛みにゴジラは体をのけぞらせて甲高い叫び声を上げた。痛みを耐え抜くと、ゴジラの目には扶桑と山城、ミサイル艇の姿がうつった。ゴジラはその目に怒りの炎を宿し、艦艇に向き直った。
横須賀軍港ではゴジラが予想より早く現れたことが放送で伝えられていた。
「大島と相模湾の中間にて多数の深海魚浮上とともに背びれを確認。ゴジラの接近が予想される。現在レールガン部隊による攻撃、水中拡声器部隊による誘導が行われている。海神艦隊は予定を早め、07:30をもって出撃せよ。」
響と雪風、その他艦娘たちも万全の体制で海面に立っていた。響と雪風の艤装は万が一イージス艦に不具合が起きたとき、かわりに作戦を続行できるように改造が施されていた。
「我々はこれより出撃する!全員、気を引き締めろ!!」
長門が叫ぶ。艦娘たちは大きく頷く。高雄は「次こそは」と主砲を強く握っていた。
イージス艦大和に乗艦した和田と秋島は出撃を今か今かと待ち構えていた。
「青島君は諦めたみたいですね。」
「可愛そうだがしょうがねぇよ。」
「本当は四季島さんにも飛んでほしくはないんです。だって四季島さん菊花作戦で特攻して死にかけたんでしょ?無茶しそうで…」
「妹と艦娘たちがいるんだ。あいつは帰ってくるよ。」
秋島がそう言った。その時、「ぐわーん」と言う音とともに沖合から何かが飛んできた。炎を帯びたそれは横須賀鎮守府の庁舎に激突し炎上する。
それはゴジラを誘導していたはずのミサイル艇だった。ミサイル艇は怒り狂ったゴジラにより破壊され、軍港に突き返されたのだ。燃え盛るミサイル艇を見て一同に戦慄が走った。
さらに続いて艦娘たちのいる海域の眼の前になにかが飛んできた。
「回避ぃー!!!!」
長門の指示で艦娘たちは一斉に散開する。そして重々しい音とともにそれが海面に叩きつけられた。
それは先程まで沖合でゴジラを攻撃していた護衛艦の搭載していたレールガンだった。傷だらけのその姿をみて響と雪風が恐怖を感じた。
「水中拡声器部隊、レールガン部隊、壊滅!!海神艦隊、直ちに出撃せよ!!」
港湾放送が空襲警報とともに鳴り響く。するとなにかに気づいた秋島が指を指す。
「オイ、あれ…」
秋島が指を指した先には巨大な背びれが波をかき分けて進んできていた。
ゴジラだ。
「もうこんなところに!?」
上空警戒にあたっていた数機のAH-64Dがヘルファイアを発射するが、命中するヘルファイアにゴジラは全く意に介さず軍港めがけて突き進んでくる。
「まずいっ!!」
「このままだと上陸する!!」
その頃、飛行場では震電がアイドリングを行っていた。四季島はフラップを上下に動かしたり、エンジンスロットルを上げたりしていた。
すると、無線機から速報が入ってきた。
「ゴジラ、絶対防衛線突破!!上陸を開始しました!!」
そうやら待ったなしの戦局となったようだ。四季島はエンジンの回転数を確認すると、計器の間に仏壇から持ってきた吹雪の写真を差し込む。
追ってきた立花たちに四季島は敬礼をすると、風防を閉め操縦桿を握った。滑走路まで震電を運ぶと、スロットルを上げて加速を開始する。徐々にスピードに乗っていく震電は、やがて空へと飛び立った。
四季島はスロットルを少し下げ、機体を旋回させる。少し旋回性に難があるようだが、四季島の手にかかれば大したことはなかった。四季島は操縦桿を動かし、ゴジラの上陸している横須賀方面へと向かった。
「全て終わらせてください、四季島さん。」
立花は四季島の操縦する震電を見つめながらつぶやいた。
横須賀では戦車や戦闘ヘリがゴジラの迎撃を行っていた。銀座のような悲劇をもう生まないようにと、残存国防軍は必死で戦っていた。しかし、和田が指摘した通りゴジラには砲撃は一切効かなかった。
ずんずん奥地へと進んでいくゴジラを見ながら秋島が和田に話しかけた。
「どうするんだ?計画総崩れだぞ!」
「とにかく出港しましょう。沈める海域は最大効果が得られる相模トラフ上でないと万全は期せません。誘導は四季島さんの震電に賭けるしかない。」
イージス護衛艦大和を旗艦とする四隻の海神艦隊は一斉に出港した。改造が施された護衛艦大和と武蔵が先頭に立って、相模湾へと突き進んでいった。
その時、イージス艦大和の艦橋の秋島と和田のもとに、無線機を持った通信員が駆け込んできた。
「和田さん、四季島って人からです。」
和田が無線機を受け取ると、四季島の声が聞こえてきた。
「和田さん、聞こえますか?四季島です。離陸に成功しました。これからゴジラ誘導を開始します。」
「こちらもまもなく準備完了します。」
すると秋島が和田から無線機を奪うように取って四季島に呼びかけた。
「いいか四季島。無茶するなよ。艦娘たちとお前の妹を一人にしたら許さねぇからな。」
四季島は黙っていた。
「聞いてんのか四季島ァ!!」
なんの前触れもなくブツリと無線が切られた。秋島が顔を真っ赤にして吐き捨てた。
「あいつ、無視しやがった!」
その様子に、和田はなにか嫌な予感がした。
「四季島さん、まさか…」
横須賀市街地の中にゴジラが侵入しようというときに、四季島の震電が到着した。四季島はゴジラの眼の前を高速で通り過ぎた。
震電に気がついたゴジラは近づいてくる震電に喰らいつこうとする。しかし四季島はゴジラの襲撃を寸前で回避する。続いて四季島は震電の30mm機銃をゴジラの顔めがけて射撃する。もちろん効果はなかったが、ゴジラを怒らせるのには十分だった。ゴジラは尾を振るい震電を叩き落とそうとするが、それも四季島はギリギリで回避した。
蚊のようにしつこくまとわりついてくる震電にゴジラを怒りをあらわにする。市街地から方向転換すると、上空を飛び回る震電を追跡し始めた。
「いいぞ。こっちに来い。」
四季島はジグザグ飛行でゴジラのスピードに合わせて海上に飛び出した。それにゴジラも再び海に入る。
その頃、相模湾に到着した海神艦隊は作戦の開始を今か今かと待ち構えていた。大和に乗艦している総司令官の山本が無線を介して指示をする。
「全艦、最終点検開始!!」
「曳航ケーブル用意よーし!」
「フロンガスボンベ準備よーし!」
「浮上装置、接続完了!!」
各艦から無線が飛び交う。すると双眼鏡を覗いていた大和の偵察員が波をかき分けて進んでくるゴジラと、上空を飛び交う震電を発見した。
「ゴジラ、目視で確認!!まっすぐ向かってきます!」
「ははーん。大したやつだぜ。」
秋島が面白そうにつぶやいた。続いて山本が最初の指示を出した。
「第一部隊、無人掃海艇郡、突撃開始!!」
山本の指示を合図に、二隻の無人掃海艇がゴジラに向かって突撃する。四季島の操る震電をその二隻の間をすり抜けるように飛び上がった。
震電を追いかけていたゴジラは、遠方にこちらに向かってくる掃海艇を発見した。以前のミサイル艇の攻撃を思い出したゴジラは、顔を上げた。
そして背びれが青く輝きせり上がり始めた。頭頂部まで背びれはせり上がり、ゴジラは口を開く。その周りには青い霧が集まり始めた。そして、
ゴジラの口から青い光がほとばしるように二隻に向かって放たれた。銀座の熱線の再来だった。熱線にあぶられた二隻はあっという間に気体へと姿を変え、相模湾に水蒸気爆発が巻き起こる。
大和と武蔵の艦上に避難していた掃海艇の乗組員たちは、必死に艦上構造物にしがみつき爆風をやり過ごした。
続いて爆風によって引き起こされた巨大な波が二隻、そして艦娘たちに襲いかかった。艦娘たちはジグザグ航行で波の勢いを殺しながらなんとかやり過ごす。
「全員無事か!?」
長門が叫ぶ。響と雪風、そして高雄などの艦娘たちは全員無事だった。イージス艦の方も被害は無いようだった。
その奥ではゴジラが佇んでいた。顔には大きな火傷を負っている。その熱線の威力に乗組員たちが唖然とする。
「これが、ゴジラの熱線…」
山本がつぶやくと、一人の乗組員が必死に進言した。」
「予想以上のものです!!長官、直ちに全艦退避を進言します!!」
その乗組員の言葉を和田が遮った。
「いえッ、これでいいのです。作戦を開始してください。」
「しかしいつまた熱線が…!!」
「以前お伝えしたようにあの熱線は第二弾発射にはかなりの時間を要するのです!仕掛けるなら今しかありません!!腹決めてくださいッ!!」
和田の必死の説得に山本は目をつぶり、やがて目を開くと力強く言い放った。
「海神作戦を、開始する。」
この一言で一斉に大和と武蔵が動き出した。大和の後部に搭載された舞鶴兵器廠の浮上装置を組み込んだ巨大フロンガスボンベが海中に投下されていく。そのままゴジラを中心に挟み込むようにケーブルを伝わせる。艦娘たちは大和と武蔵の間を航行する。
取り囲まれる形になったゴジラは、大和に飛びかかろうとした。しかし四季島の震電がゴジラに機銃を発射する。目標を震電に変えたゴジラは震電に喰らいつこうとする。それを震電は回避する。
そうこうしているうちに、二隻が交差する地点に近づいた。このままではケーブルを交差させることができないため、艦娘にケーブルを交差させてもらう手はずになっていた。大和のケーブルを響が。武蔵のケーブルを雪風が搭載する。
「いくよ。」
「絶対大丈夫!!」
二人は息を合わせてケーブルを曳航していく。震電に喰らいつこうとするゴジラをよそに、高速でケーブルを引っ張っていく。合流地点に差し掛かり、雪風がケーブルを高く持ち上げた。その持ち上げられたケーブルの下を響が高速で通過した。
「交差完了!!」
大和の見張員が二人の様子を見て、艦橋に報告する。その様子を和田も秋島も確認していた。ケーブルが締まっていくにつれて、震電に夢中になっていたゴジラはケーブルに気がついた。なぜケーブルで締められているのかはわからなかったが、なにかの作戦であることは理解したようだ。
再びゴジラの背びれが青く輝き出し、尾の方からせり上がり始めた。
「まずいぞ…」
「あと少しです…。」
和田が響と雪風がケーブルを曳航する様子を見守っていた。あと僅かで巻き付きが終わる。秋島は起動スイッチに早くも手をかけていた。
あっという間にゴジラの背びれは頭頂部までせり出した。そしてゴジラの口の周りに青い霧が集中する。
今にも熱線が吐き出されようとしたとき、ケーブルがピンと張った。巻き付け完了の合図だ。和田が叫んだ。
「秋島さんッ!!」
秋島はスイッチをひねった。その瞬間、ケーブルに組み込まれた重機雷が次々と爆発する。ゴジラは浮力のバランスが崩れ、ガクンとする。そしてフロンガスボンベが起動し、フロンガスが一斉に噴出し始めた。ゴジラはフロンガスの微細な泡に包まれ、浮力を完全に失った。
急速にゴジラの身体は沈んでいき、大和と武蔵のケーブルを巻いていたウインチが高速回転する。
「深度400、500、600、700!!」
舞鶴兵器廠の係員による深度読み上げが始まった。ゴジラは勢いを緩めずに急速に沈んでいく。
「深度2500!!目標深度突破しましたッ!!」
係員が叫んだ。その報告に山本たちが息を呑んだ。
ゴジラが海底に到着した瞬間、フロンガスボンベからフロンガスの噴出が終了した。その途端、深海の高圧力が一気にゴジラに襲いかかった。ゴジラの身体は高圧で押しつぶされ、輝いていた背びれも光を失った。
海上ではケーブルを引っ張っていた響と雪風が海面を見つめていた。
「動きが止まった…」
雪風がつぶやく。さっきまでの戦いが嘘のように静寂が広がった。
「ゴジラ、沈黙しましたッ!!」
係員が叫んだ。その途端、乗組員たちの顔が明るくなった。
「やったのか?」
「倒せたかもしれない!!」
その瞬間、ケーブルが激しく揺れ、大和と武蔵を翻弄した。ケーブルを曳航していた響と雪風も必死になって揺れを耐える。
ゴジラはまだ生きている。高水圧のなか、まだ抵抗できるほどの力をもっているのだ。
「しぶてぇ野郎だ。」
秋島が海面に向かって毒づいた。手すりに捕まりながら和田が言った。
「やはり一筋縄ではいかないですね。予備作戦に移行します。」
そう言うと和田は艦橋に入っていき、レバーを下ろした。
フロンガスボンベに装着された数基の浮上装置が起動した。巨大な浮袋が深海で花咲くように現れた。深海の高水圧にも耐えられるように設計された浮袋は少しずつゴジラを持ち上げていった。
「深度2000、1900、1800。」
係員による深度の読み上げが再び始まった。それに伴ってウインチがケーブルを巻いていく。
「上ってこい上ってこい!!」
秋島が叫ぶ。山本も真剣な眼差しで海面を見つめていた。響も雪風も海面を見つめていた。
深度が浅くなるにつれ、膨張する浮袋はだんだんと上昇スピードを上げていった。それに伴いゴジラの高圧で受けた傷口に腫瘍のようなものがボコボコとういてきた。様々な苦しみにゴジラは海面を睨みつけた。
徐々にケーブルを巻き取っていたウインチが突然停止した。
「深度803…。停止しました!」
「なぜだ!?なぜ止まる!!」
秋島が叫ぶ。するとゴジラが沈んだ海面から何かが浮き上がってきた。
それはゴジラを引き上げていたはずの浮袋の残骸だった。あちこちに噛まれたようなあとがくっきりと残っていた。
「食い破ってやがる…!」
それをみた山本は無線機を手に取った。
「大和から武蔵へ!12時の方向に展開。全力でゴジラを引き上げる!!」
「しかしッ…、二隻の推力では…!!」
「他に方法が無い!やれることは全部やるんだッ!!」
大和と武蔵はそれぞれ反対を向くと、最大戦速でゴジラを引き上げようとした。しかし、推定体重2万トンのゴジラはイージス艦の馬力を持ってしてもなかなか引き上げられない。
「我々も協力するぞッ!!」
長門が叫ぶ。響と雪風、潮、高雄、大淀がイージス艦から曳船もやいを受け取ると、一斉に引き上げ始めた。しかしそれでも派手な水しぶきが上がるだけでちっとも進まない。ゴジラが中途半端な深さでとどまっている今、圧力から回復したらイージス艦のみならずここにいる艦娘全員も助からない。
四季島はどうしたことかと、上空から不安そうに眺めていた。
「くっ、こんなところで諦めるわけには…」
「大丈夫…。絶対大丈夫!!」
響と雪風は自分にそう言い聞かせて、必死にケーブルを引っ張った。手に汗が滲み、艤装が嫌な音を立て始めた。
「このままだと艦のエンジンも艦娘の艤装も持ちません!!」
乗組員の悲痛な叫びが山本に響く。ここまでやったのにだめだったか。山本がそう思った瞬間、無線機に陽気な声が響いた。
「こちら呉鎮守府所属、ミサイル艇松。微力ながら助太刀します!」
それは聞き覚えのある声だった。
「青島です。艇長ですか?」
秋島が無線に飛びつくと、叫んだ。
「青島か!?」
「ハイ!!」
さらに次々と無線に声が入ってきた。
「こちら舞鶴鎮守府所属、ミサイル艇竹。手伝います!」
「同じく舞鶴鎮守府所属、利根!協力す!!」
「第三掃海艇、補助します!」
和田たちが艦橋から窓に張り付くと、十数隻ものミサイル艇が駆けつけてくれていた。それだけではない。
「こちら呉鎮守府所属、戦艦榛名!!手伝います!」
「同じく呉鎮守府所属、伊勢!!協力します!」
「戦艦日向、協力する!」
「駆逐艦初霜!手伝います!」
「駆逐艦涼月、協力します!」
「駆逐艦冬月、手伝おう!」
十人ほどの艦娘たちも駆けつけてくれていたのだ。全て青島によるものだったのだ。
「役立たずは返上でお願いします。」
得意そうに青島は無線に言った。和田と秋島は喜びでいっぱいだった。山本も満足そうな声で指示を出す。
「曳船もやいとれ。”全員”でゴジラを引き上げる!!」
「曳船もやい、とれー!」
大和、武蔵の先に何隻ものミサイル艇、そして艦娘たちがロープで繋がっていた。大馬力の集合体は大きな水しぶきを上げて、前に進んでいった。
「深度、上がり始めました!!」
係員が叫ぶ。和田は艦橋からでると、ケーブルの先を凝視した。
「よし、いけ…。行けぇー!!!!」
和田が叫ぶ。それに山本も秋島も祈るようにケーブルを見つめた。
そして…
遂にゴジラが海上へと引き上げられた。断末魔の叫びを上げて浮き上がったゴジラは、身体の所々が損傷しており、白い水ぶくれのようなものに覆われていた。過去一醜い姿になったゴジラは、苦しみ悶えながらケーブルを振り回す。それにイージス艦とミサイル艇、艦娘たちを翻弄する。
しかしこれで終わりだと全員が確証を持った。ゴジラは間もなく死ぬ。
その時だった。
ゴジラの尻尾が青く輝き始めたのだ。なんとここまでの重症を負ったにも関わらず、まだゴジラには熱線を吐く力が残っていたのだ。
「まずいッ!!」
「全艦、回避行動!!」
和田と山本が叫ぶ。しかしゴジラの背びれはもうすでに頭頂部まで到達している。そしてゴジラの口に青い霧が集中し始めた。長門と高雄は全力でゴジラを砲撃するが、少し肉体が破壊されるだけで熱線発射の動作は止まらない。
「(ここまでやったのに…。ごめん、皆。)」
「(ここで終わりなんですか…。ごめんなさい)」
響と雪風はここで終わりだと確信し、死んでいった姉妹、仲間たちに謝った。
それをかき消すようにプロペラ音が海上に響き渡った。全員が一斉に顔を上げた。
震電だ。四季島の震電がまっすぐゴジラへと向かっているのだ。
「おい、あいつ何しようとしてるんだ。」
四季島が何をしようとしているのか。それは全員が瞬時に察知した。人の命が懸かっている。その時に四季島はそれをやりかねないような男、そして提督だった。
「まさか、おい、だめだッ!四季島ァ!!」
「だめだ司令官!!」
「しれえ!!」
皆が必死に叫ぶ。その声をかき消して震電はまっすぐ飛んでいく。操縦席では前をしっかり見据えた四季島が操縦桿を握っていた。最高速度で突っ込んでいく。
計器に挟まっている吹雪の写真が微笑んでいた。四季島は写真を一目見ると、爆弾の安全装置を引き抜いた。そして左の操作装置を押し倒した。
瞬間、震電が今にも熱線を放とうとしているゴジラの口に激突した。
そして遅延信管が作動し、耳をつんざくような大爆発を起こした。ゴジラは爆発により、頭部を原型を留めないほど破壊された。
「四季島ァ!!」
「司令官!!」
「しれい!!」
「提督ッ!!」
皆が口々に叫んだ。艦橋にいた山本も、艦上にいた乗組員たちも、飛行場で待機していた立花も何が起こったのか、瞬時に理解した。
彼は成し遂げたのだ。何万もの人々の命を奪っていった怪物を葬ったのだ。静寂に包まれた海で、震電の残骸が海に落ちていった。
雪風が涙を受かべて空を見上げた。するとなにかを見つけた。
「あっ、あれ!!」
雪風が指差す方向を全員が向いた。そこには白いなにかが開いていた。
パラシュートだ。
四季島は出撃前、立花から”ある装置”について伝えられていた。
「この装置を倒すと、操縦席が飛び出します。」
四季島が驚いて立花の顔をみた。立花は四季島の肩に手を置いて言った。
「生きてください」と。
「パイロット、脱出して無事です!!」
飛行場で無線を聞いていた立花は大きく息をついた。そして何度も確認するように頷いていた。
ゴジラの身体は発射しようとした熱線に焼かれる形で、少しずつ崩れ始めていた。長く厳しい戦いが終わったのだ。四季島はゆっくり降下するパラシュートに捕まりながら、その様子を目に焼き付けていた。
崩壊していくゴジラの肉体に、全員がゆっくりと敬礼をし始めた。人々の命を奪ったとはいえ、この怪物は人間の愚かな戦いに巻き込まれた被害者でもある。
その鎮魂の意を込めて、乗組員一同、艦娘たちは崩れさるゴジラに敬礼を捧げた。
艦隊が横須賀鎮守府に戻ってくると多くの人々、艦娘たちが出迎えていたゴジラを倒したと言うニュースが先程速報で流れたからだ。
「四季島さん!!やりましたよ!!」
一足早く着いていた青島が四季島に飛びついた。すると今度は響と雪風が四季島に抱きついた。
「司令官、無理しないでよ!」
「もぅ、本当に心配させるんですから!!」
四季島は少し困ったような表情をしながら、でも嬉しそうに答えた。
「うん。ありがとう。」
すると群衆をかき分けて一人の少女が四季島に駆け寄ってきた。妹だ。
「!?どうしたの。」
四季島がそう言うと妹は早く開けてと言いながら封筒を手渡した。四季島が急いで封筒を開くと、そこには信じられないことが書かれていた。四季島が驚愕すると、妹は嬉し涙を浮かべていた。
四季島は大急ぎで響と雪風を連れて呉総合病院へと向かった。階段を駆け上がり、病室の扉を開いた。
そこには、懐かしい姿があった。頭と顔の半分は包帯を巻かれて痛々しい姿だったが、しっかりとしたこえで、
「司令官、おかえりなさい。」
そう吹雪が言うと、四季島は泣き崩れながら吹雪に近づき抱きしめた。
「うん、うん…。ごめん、ごめんね…。」
泣きじゃくる四季島を優しい手つきで吹雪は撫でた。響と雪風も、吹雪に飛びついた。そして気が済むまで泣きじゃくった。
吹雪の首元に、黒いアザが這い上がってることに、誰も気付くことはなかった。
はるか深くの深海では、倒されたゴジラの肉片が散らばっていた。そのうち一つが、ドクンと鼓動した。遥か深海の誰も見ることもない場所でゴジラの肉片は、深海の力を吸い取っていた。
それが数十年後に、新たな脅威となることは、誰も知る由もなかった。
〜終〜
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