ある魔女の人生   作:ネッシーは実在する

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ある魔女が誕生する前の母親と父親の馴れ初め前編です。
読みたくない人は秘密の部屋までスキップお願いします。
後編の伏線についてはいずれ回収する予定です。



ある魔女の両親の馴れ初め
マグルの少女と純血のプリンス(前編)


全てはあの日、あの瞬間この美しい人と出会ってから始まった。

 

 

病院の近くの公園で、私は一人原稿用紙と睨めっこしていた。

私は幼い頃から難病を患っており、長く生きる事は出来ないと医者から言われていた。

年頃の少女のように学校に通う事は出来ないが、病院内の敷地であれば外に出ても良いと許可を貰っていたので、外によく散歩に出掛けていた。

 

 

院内学級で簡単な勉強をしながら、たまに勧められた本を読んでいるうちに私は読書が趣味になっていた。

両親に頼んで、3日に1度本を買って来てもらい、様々な本を読んで来た。

本を読めば、私は別世界の登場人物になれる。

走れるし、学校にも通えるし、恋も出来る。

私は本の中の主人公と自分を重ねて、本の中の出来事を体験したかのように、両親や病院の先生に内容を説明した。

 

 

「アリスは本当に本が好きね。そうだ、あなたの思い描くお話を書いてみたらどうかしら?」

 

 

「私がお話を作るの?」

 

 

「そうよ。難しく考えなくても良いの。貴方の望む世界を作ってみるの。どう?」

 

 

母の何気ない言葉に、私は胸がドクンと高鳴った。

早速、専用の原稿用紙と新しい筆記用具を買ってもらい、私は自分の理想の世界の物語を描き始めた。

 

 

主人公は頭が良くて、運動が得意で、友達の多い世界一の美少女。

彼女が歩けば誰もが振り返り、彼女が笑えば誰もがその笑顔に見蕩れる。

始めはこの主人公の物語を書いているのが楽しかったが、次第に物語を紡ぐ事が難しくなる。

この物語を読み返しても、淡々と日常を綴っているだけでは面白みに欠ける。

 

 

私は今まで書いてきた原稿用紙を捨て、新たな物語のステージを考える事にした。

どうしたら面白いお話が書けるのだろうか。

 

 

次の物語をどうするべきか悩んでいる時、病室の窓の前を何かが素早く通り過ぎて行った。

一瞬の事だったので、早すぎて見えなかったが、私の頭の中に"魔法"というワードが浮かび上がった。

 

 

物語のステージは、魔法使いと人間がいがみ合う不思議な世界。

主人公は有名な魔法族の家系の少年で、人間を憎んでいる。

この世界には、魔法族至上主義を掲げる革命団体が存在しており、少年もいつかその団体に所属することを夢見ていた。

魔法使だけの世の中を作る為、少年はアカデミーに通って様々な事を学ぶ。

 

 

しかし、少年はある日1人の人間の少女と出会う。

この少女は魔法使いでは無いが、かつて少女の祖先は魔女狩りに遭って殺されてしまっている。

少女は人間も、人間に嫌われるような事をしてきた魔女も大嫌いだった。

滅んでしまえば良いと思っていた。

しかし、少年と出会う事で少しずつ魔法使いや人間に対する見方が変わっていく。

そして少年も同じように、人間に対する見方が少し変わる。

 

 

2人の出会いが、この不思議な世界に大きな変化をもたらし、世界を変えていく。

そんな魔法学園ストーリーだ。

 

 

私は公園でよく物語を書いていた。

行き交う車、爽やかな夏の風、あたたかな日差し、どれもこれも病室にいては感じられない貴重なものだ。

 

 

1章を書き終えたので、2章目の内容を考えていると、原稿用紙が空高く舞い上がった。

慌てて原稿用紙を拾うが、最後の1枚が木の上にひっかかってしまった。

どうしたら取れるのか考えていると、ふわりと風が吹いた。

原稿用紙は私の元へゆっくりと飛んできた。

 

 

自然法則に反している。

不思議な状況に困惑しながらも原稿用紙を掴む。

先程まで座っていたベンチへ戻ろうとした時、後ろから声を掛けられた。

 

 

「すみません。」

 

 

振り返ると、美しい黒髪の大人しそうな少年が立っていた。

 

 

「どうかしました?」

 

 

私がそう問い掛けると、少年は少し恥ずかしそうにしながらこう言った。

 

 

「その紙に書かれたものは、全てあなたが書いたものですか?」

 

 

「そうですが…それが何か?」

 

 

「…すみません。何度かこの公園に来た事があるのですが、貴方はいつもそこで何かを書いている。何を書いているのか気になってしまって。」

 

 

少年は申し訳なさそうに私を見つめる。

 

 

私は物語を書いてきたが、それは全て私の世界を構築するという目的の為だった。

誰かを楽しませる為に、あるいは誰かに読んで欲しくて書いていたわけではない。

自分の想像する世界を他人に伝えるという行為は、とても恥ずかしい事だ。

しかし、今この少年は私の創作物に興味を持っている。

これを逃したら、私の夢や理想は誰にも知られる事なく廃れてしまう。

 

 

私は勇気を出して、原稿用紙の束を少年に手渡した。

 

 

「良かったら、読んでみる?私の書いた、お粗末な物語でよければどうぞ。」

 

 

「…ありがとうございます。」

 

 

私達は私が座っていたベンチに腰掛ける。

少年が原稿用紙を読んでいる間、私は2章目の内容を考えながら、ノートに思い浮かんだアイデアをメモしていた。

隣に誰かが座っている中、次の章の内容を考えるのは少し緊張してしまうが、普段とは違ったアイデアが思い浮かんで新鮮だ。

 

 

それから約30分が経過した頃、少年が原稿用紙を置いた。

 

 

「どう、だった?面白かった?」

 

 

自分の為に書いたものだから、つまらなくても面白くなくても傷つく事は無い。

なのに、何故か心は良い感想を求めてしまう。

 

 

「その、とても興味深いと思いました。差別や格差がテーマで、現実にも当てはまる部分が多いですね。」

 

 

私は社会の事について詳しく知らないが、この世界には理不尽は多いようだ。

私の病気だって理不尽そのものだが、生きている内に生まれる理不尽なものも沢山あるらしい。

 

 

「その、主人公についてはどう思う?」

 

 

「…」

 

 

主人公について少年はなかなか話してくれない。

理由は分からないが、少年にとってはあまり良いキャラクターではないようだ。

 

 

「この子はね、現実世界でいう血筋の良い貴族のお坊ちゃんなの。尊い血を引く女性と結ばれて、名家の血を後世に残す事は重要な役割。だからこそ、なんの力も持たない人間を見下して、尊い一族である魔法使いだけの世界になれば良いと思ってる。」

 

 

「魔法使いだけの世界になれば良い、ですか。」

 

 

「でも、魔法使いだけの世界になるなんて無理だよ。」

 

 

私は笑いながらそう話すが、少年は真面目な顔をして私の目を見つめた。

透き通るような綺麗な瞳に吸い込まれてしまいそうになる。

この少年も、いつかは私を置いて遠くへ行ってしまうのだろうと思うと寂しさが込み上げる。

私はどこへも行けないけど、彼はどこにでもいけるから。

 

 

悲しみを誤魔化すように話を続ける事にした。

この本の主人公について詳しく説明してしていると、少年が突然立ち上がった。

何事かと思い隣を見上げると、少年の目に涙が溜まっている。

何故少年が泣いているのか分からず困惑していると、少年がくしゃりと表情を歪めてはにかんだ。

 

 

「…良かったら、この続きをまた読ませて頂けませんか?僕、この物語が好きになりました。」

 

 

「勿論だよ!むしろ、嬉しいな。私ね、病気で病院とこの公園でしか過ごせなくて。お友達もいなかったから、また来て欲しい。」

 

 

私がそう答えると、少年の顔が明るくなった。

そして私達はお互いの年齢や趣味、彼の通う学校について、と他愛もない話をした。

 

 

彼は13歳で遠くの寄宿学校に通っており、クリスマス休暇や、夏休み休暇には家に戻ってくるそうだ。

そして学校ではスポーツの選手に選ばれるほど優秀で、真面目な友達が多いそうだ。

勉学はそこそこ優秀だと自覚しているようで、まるで私の物語の主人公みたいだと思った。

 

 

「じゃあ、僕はそろそろ戻ります。貴方も身体にを気をつけてくださいね。2章を楽しみにしています。」

 

 

「うん!頑張って2章を完結させてみせるよ。」

 

 

病院に戻ってからも私の頭の中は少年の事でいっぱいだった。

次に彼と会えるのはクリスマス休暇だ。

名前を知らない事に気付いた。

名も知らない彼に想いを馳せながら、私は今日も原稿用紙と向かい合う。

 

 

そして待ちに待った、クリスマス休暇のシーズンがやってきた。

クリスマス休暇という名前の通り、クリスマスから休暇が始まるという事なのだろう。

私は分厚いコートを着て公園に散歩に出かける。

空からはヒラヒラと雪が降っており、息を吐くと白く染る。

 

 

「…今日は会えるかな。」

 

 

淡い期待を胸に、公演を歩いていると一際強い風が吹き、ずっと待ちわび焦がれていた少し低い声が寒空の下に響いた。

 

 

「お久しぶりですね、レディ。」

 

 

振り向くと、あの日と同じ…いや、少し背の伸びた美しい少年が立っていた。

私がずっと待っていた人が今ここに居るというのが、なんだか夢みたいだ。

私は寒さで赤くなった手を擦りながら、彼に笑いかける。

 

 

「こんにちは。貴方にまた会えて嬉しいわ。」

 

 

「…ひとまず場所を移動しましょう。このままでは、貴方が風邪をひいてしまうかもしれない。」

 

 

彼は私の体調に気を遣い、私の手を引いてゆっくり歩きながら病院の中へエスコートしてくれた。

彼の手も冷たくなっており、温もりを感じる事は無かったが、私の心の中は少しあたたかくなった気がする。

 

 

「…ねぇ」

 

 

「?…どうかしましたか?」

 

 

彼がきょとんとした顔で私を見る。

 

 

「良かったら、名前を教えていただけない?私達、まだ互いに名乗っていなかったし。」

 

 

彼は何も言わない彼を見て、胸が少しチクリと痛んだ。

 

 

「…構いませんよ。」

 

 

少年が了承してくれた事に踊り出したくなるほど嬉しくなった。

 

 

「そっか!ありがとう。私は、アリス。名前はお母さんがつけてくれたんだ。不思議の国のアリスみたいに、色んな事を経験して欲しいからアリスって名前にしたんだって。」

 

 

そう答えると、少年は少し悲しげな顔をして笑った。

彼の表情を見て、私は何か悪い事を言ったのかと不安になる。

しかし彼はすぐに笑顔を見せて、私に手を差し出し、名を告げた。

 

 

「僕はレギュラスです。僕の家は、生まれた子供に星にちなんだ名前をつけるんですよ。レギュラスはしし座α星の"レグルス"を指しているんです。宜しくお願いします、アリス。」

 

 

「星の名前だなんて、とっても素敵だわ。貴方の黒髪も夜空みたいね。これから宜しくね、レギュラスさん。」

 

 

差し出された手をぎゅっと握ると、彼の手は冷たいのに何故かあたたかくも感じた。

 

 

私は彼に原稿用紙を手渡し、完成した2章をの感想を待つ。

彼の感想を待つ間、ポットに入った紅茶を2つのカップに注ぐ。

 

 

「良かったら、紅茶でも飲みながらゆっくり読んで。こんなものしかなくて申し訳ないわ。」

 

 

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」

 

 

第2章は、主人公と少女が魔法族と人間のハーフの少年に出会うところから始まる。

少年の母は魔法族の生まれだったが、人間の父と駆け落ちしたのだ。

その間に少年が生まれたが、父はまともに働きもしず酒に溺れ、母親も父親の言いなりで、少年には居場所が無かった。

そんな時、近くの家に住む少女と出会い、彼女と親しくなっていく。

少年はその幼馴染が魔法使いだと知り、彼女と共にアカデミーに通う事になった。

 

 

しかし、アカデミーで幼馴染の少女は人間や穏健派の魔法使いと仲良くしており、少年は逆に過激な魔法族至上主義を掲げる生徒と深く関わっていた。

始めは仲良くしていた2人だが、次第に距離が出来てしまう。

そして幼馴染の少女は穏健派の少年と仲良くなり、その少年達からハーフの少年は虐められるようになってしまうのだ。

 

 

2章では、魔法族と人間、魔法族至上主義と穏健派という対立に関する話だ。

主人公と人間の少女が、この世界に溢れる理不尽や不条理に触れ、ハーフの少年とその幼馴染の問題を解決しようとする。

そんなお話。

 

 

私は紅茶をひと口飲み、3章の構想に入る。

3章では、穏健派について詳しく掘り下げるか、魔法族至上主義について掘り下げるか迷っている。

 

 

それから約30分が経過した頃、少年が原稿用紙を置いた。

どうやら読み終わったらしい。

 

 

「すごく、面白かったです。ただ魔法族と人間の和平を目指すのではなく、ハーフという存在を出して、この世界をよりリアルなものにしている。正直、このハーフの少年と彼の幼馴染の少女は、少し僕の先輩に似ていたので感情移入してしまいました。」

 

 

「そう言って貰えて嬉しいな。どんな先輩なのか少し気になってしまうね。」

 

 

「僕の先輩は僕の1歳上の方なんですが───」

 

 

レギュラスの先輩はとても真面目で優秀な人らしい。

しかし、先輩の幼馴染が、彼と仲の悪い生徒と仲良くしており、そのせいで先輩と仲の悪い生徒がよく喧嘩になってしまうそうだ。

私の物語そのものを体現しているかのようで、少し驚いてしまった。

 

 

「すごいね…私の書くお話とリンクしてる。」

 

 

「僕も君の書いた物語を読んだ時びっくりしました。」

 

 

彼の笑顔は眩しくて、天気は雪なのに快晴のように眩しく感じる。

 

 

「ねぇ、学校のことを教えてよ。外の世界の事を、もっと知りたいんだ。」

 

 

私は病院と公園しか出歩けない。

少しでも外の世界を知りたかった。

 

 

「構いませんよ。」

 

 

少年はそんな私のお願いに笑顔で答え、私に外の世界を沢山教えてくれた。

学校にはどんな人がいるのか、どんな行事があるのか、どんな事を学んでいるのか。

彼との楽しいひと時はあっという間で、気が付いたら日が沈もうとしていた。

楽しい時間は直ぐに過ぎ去ってしまう。

明日からはまたいつもの1人ぼっちの時間がやってきてしまうのだ。

 

 

「もうこんな時間です。そろそろ戻らなければ。」

 

 

「そっか…ねぇ、レギュラスさん。もし貴方が主人公だったら、この不思議な世界をどうしたい?」

 

 

彼は主人公によく似ている。

ハンサムで、品があってどこか高貴なオーラを感じる。

頭が良くて、スポーツが得意で、笑った笑顔が太陽みたいに眩しい人。

私の思い描く主人公を体現したような人。

 

 

だから、彼の考えが知りたかった。

 

 

「そうですね…僕は、先祖を魔女狩りによって殺されてしまった少女を殺したいとは思えません。もし僕が魔法使いであったなら、かつて魔女狩りで失った魔法使い達を哀れみ、人間を憎むでしょう。だけど、人間の中にも魔女狩りの被害者がいると知ったら、きっとそんな風潮を作った世間を憎み、世を変えたいと願うかもしれません。」

 

 

彼はいつになく真剣な表情で、何かを訴えるかのように切実な胸の内を話した。

ただの夢物語の話をしているようには、とてもじゃないが思えない。

 

 

「ねぇ、何かを思い詰めているように見えるけど、大丈夫?レギュラスさん。」

 

 

私は彼の顔を見て、心配になった。

彼が魔法界を憎んでしまったらどうしようと不安になったのだ。

そんな私に彼は優しく微笑みかけた。

その時、何故か胸がきゅっと苦しくなり、切なくも感じたが、それが何故なのかは分からない。

 

 

「僕は大丈夫です。久しぶりに家に帰ってきて、疲労が出たんでしょう。」

 

 

そして私の頭を優しく撫でた後、彼は立ち上がってまた来る事を私に告げた。

私も、彼がまた来ることを楽しみにしながらその背中を見送ったのだった。

それからというものの、休暇中何度かレギュラスは病院にやってきて、私の話し相手になってくれた。

 

 

それから約4年が経過し、アリス16歳、レギュラスが17歳になった年のクリスマスの日がやってきた。

 

 

夏休み休暇にレギュラスは私の元に一度も来なかった。

彼がどうしているのか気になって仕方なかったが、私は物語を書き続けた。

私にはそれしかする事が無かったから。

アリスは今年もレギュラスが来るのを待ち通しく思っていた。

 

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