ある魔女の人生 作:ネッシーは実在する
彼女は逸る気持ちを抑える為、家から持ってきた本を読んで落ち着く事にした。
この小説ステージは、魔法使いと人間がいがみ合う世界。
主人公は有名な魔法族の家系の少年で、人間を憎んでいる。
この世界には、魔法族至上主義を掲げる革命団体が存在しており、少年もいつかその団体に所属することを夢見ていた。
魔法使いだけの世の中を作る為、少年はアカデミーに通って様々な事を学ぶ。
しかし、少年はある日1人の人間の少女と出会う。
この少女は魔法使いでは無いが、かつて少女の祖先は魔女狩りに遭って殺されてしまっている。
少女は人間も、人間に嫌われるような事をしてきた魔女も大嫌いだった。
滅んでしまえば良いと思っていた。
しかし、少年と出会う事で少しずつ魔法使いや人間に対する見方が変わっていく。
そして少年も同じように、人間に対する見方が少し変わる。
2人の出会いが、この不思議な世界に大きな変化をもたらし、世界を変えていく。
そんな魔法学園ストーリーだ。
そして、この物語を書いたのは母らしい。
母と父が出会ったのもこの物語のおかげだそうで、この物語を母の死後に父が書籍化したそうだ。
作品のタイトルは『革命の夜』で、現在は主人公とヒロインの娘を新たな主人公とした物語が執筆中だ。
父は母の事を深く愛しており、母の望んだ世界の物語を紡ぎ続けている。
子世代編の1巻が完成したら、クリーチャーを介して『革命の夜』を正式に出版社に持っていくと話していたので、エステルはその日が来るのを待ち遠しく思っている。
『革命の夜』を読んでいると、気付いたら列車は動き出していた。
窓の外には美しい田舎の風景が広がっている。
エステルは生まれて1度もロンドンから出た事が無かったので、新鮮な景色に胸を躍らせた。
窓の外を眺めていると、不意にコンパートメント内にノック音が響いた。
「…はい?」
振り返り、返事を返すとコンパートメントの扉がガラリと音を立てて開いた。
そこには茶色の髪、茶色の瞳を持った、エステルより背の高い少女が立っていた。
彼女の手には中級呪文学の理論書があり、彼女はとても優秀な魔女なのだという事がうかがえる。
「あら、読書中だったかしら?邪魔をしてしまったのならごめんなさいね。空いているコンパートメントが中々見つからなくて、ここに相席させて貰えないかしら?」
「ええ、大丈夫ですよ。どうぞお掛けになって下さい。」
エステルは少女にそう促し、向かいの席に座って貰った。
彼女はエステルの隣に座り、興味深そうにエステルの顔を覗き込んだ。
「あなた、新入生ね?私の名前はハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャーよ!今日から2年生になるの。よろしくね。」
「はい、よろしくお願いします。私はエステル…ブラックです。」
「エステルね!素敵な名前だわ。確か、旧約聖書のエステル記の主人公の名前だったかしら?ペルシア語では星という意味もあるのよね。」
エステル記とは、一人の女性によってユダヤの民が救われた物語だ。
ユダヤ人モルデカイの養女エステルは、ペルシャ王クセルクセスの后に選ばれる。
そのころ、権力者ハマンはモルデカイに対する個人的な恨みからユダヤ人を皆殺しにすべく陰謀をめぐらせていた。
エステルの機転によってユダヤ人は救われ、逆にハマンが死刑となる。
魔法使いは基本的に、生まれてから死ぬまでの間魔法界で生活する。
そして、昔ほどではないが聖書やキリスト教というマグルの宗教的文化を嫌う傾向にある。
この少女が魔女であれば、彼女の見識の広さは不可解だ。
「ハーマイオニーは、聖書について随分詳しいのですね。魔法界の方で、マグルの宗教文化について詳しい方は珍しいですし、少し驚いてしまいました。」
「魔法界では無く、マグルの世界で読んだ事があったのよ。私、マグル生まれの魔女なの。」
「まあ、そうだったのですね。」
マグル生まれと聞いてエステルは納得したが、少し驚きもした。
魔法族とマグル生まれの魔法使いは、基本的に仲が悪いとされている。
しかし、ハーマイオニーは中級呪文学の本を読む程度には真面目で優秀な魔女であり、尚且つマグルの世界に関する幅広い知識も有している。
魔法界において、こういう人物は非常に珍しい。
「エステルは魔法界で育ったの?」
「そうですね。私は魔法界で育ちました。」
「そうなのね!その本も魔法界の物なのかしら?」
ハーマイオニーはそう言って、エステルの手元にある小説、『革命の夜』を指差す。
「そうです。しかし、これは私の母が生前に書いた原稿を元にして作られた本で、流通はしていない一点物なんです。」
エステルがそう答えると、ハーマイオニーは目をキラキラと輝かせた。
「えっ!これ、貴方のお母様が書いた本なの!?凄いわね。世に出回っていない物語なんて、なかなか読める機会は無いし、もし良ければその本を貸して貰えないかしら?」
貸すといっても、この小説はシリーズ物だ。
現在では、既に8冊の本が作られており、今読んでいる本はシリーズの最新巻である8巻目だ。
この本を貸しても物語を楽しむ事は出来ないだろう。
だからエステルは、彼女の要望とは別の提案をする事にした。
「この本はシリーズ物で、これは最新巻なの。だから、1巻を実家から送って貰う様にお願いするわ。折角読んで貰うのであれば、一番初めのお話から楽しんで欲しいの。…どうかしら?」
エステルがそう提案すると、ハーマイオニーは嬉しそうに笑った。
「ええ!勿論よ!私、1巻を楽しみに待っているわ!」
それからエステル達は、色々な話をした。
マグルの世界の事や魔法界の事。
そしてホグワーツでの生活についてなど、様々な話をした。
エステルは今までマグルの世界で生活した事がなかったので、彼女の話はとても新鮮だった。
話しているうちに列車は徐々に速度を落とていく。
「そろそろ着くみたいだから、ローブに着替えましょう。」
「そうだね。」
エステル達は制服に着替えて、ローブを羽織った。
それから数分後、列車は完全に停車した。
どうやら到着したらしい。
「着いたみたいね。降りましょうか。」
「ええ、そうね。」
コンパートメントを出ると、目の前には湖を隔てて大きな城が見える。
エステルはハーマイオニーと別れ、新入生達の列に混ざり、先導する大男と共にホグワーツに向かう。
そして新入生達は小さなボートに乗り込み、湖を渡ってホグワーツ城へと向かった。
城の真下まで着くと、みんな整列してハグリッドという大男の指示に従って歩いた。
大広間に入ると、何千というろうそくが空中に浮かび不思議な光景が広がっている。
「…わあっ、とっても綺麗。」
大広間の天井は夜空になっており、まるで満天の星空の下にいるようだ。
天井を見上げながら歩いていると、前を歩いていた人にぶつかってしまった。
「あっ!ごめんなさい!」
エステルが慌てて謝ると、その人は少し驚いた様な表情をして振り返った。
その人は燃えるような赤毛の髪をした美少女だった。
「ああ、こちらこそごめんなさい。私、も天井に気を取られて、立ち止まってしまっていたみたい。」
彼女はそう言って私に微笑みかけた。
こんなに美しい女の子は見た事が無い。
ブラック家の人間は皆顔立ちが整っているが、目の前の少女は彼らとは違った美しさを持っていた。
エステルは思わず彼女の顔をじっと見つめてしまった。
「私の顔に、何か付いてる?」
「いえ、ごめんなさい。あなたほど美しい人を見た事が無くて…つい見蕩れてしまったの。」
エステルがそう答えると、彼女は少し頬を赤らめた。
「あら、ありがとう。あなたもとても可愛らしいわ。」
エステルは彼女の言葉を聞いて嬉しくなった。
そして2人は大広間の席まで一緒に歩いて行った。
彼女の名前はジニー・ウィーズリーで、兄が6人もいるらしい。
代々、ウィーズリー家の子はグリフィンドールに組み分けされ、彼女もグリフィンドールに組み分けられる事を望んでいるそうだ。
私もエステルと名乗り、今後の生活について雑談をする。
「エステルはどの寮が良い?」
ジニーの質問に、エステルは何と答えるべきか悩んでいた。
今のご時世、例のあの人が所属していたスリザリン寮に行きたいとは言えない。
例え父がスリザリンの出身だとしても、だ。
それ以外の寮について行きたいところがあるかと言われれば、答えはNOだ。
エステルは、ホグワーツの組み分けや寮について全くといっていいほど何も知らない。
だからこそ、彼女の質問になんと答える事が正解なのか分からなかった。
「うーん、分からないなぁ。どの寮が良いのかなんて、私にはまだ決められないかな。」
エステルがそう答えると、ジニーはにっこり笑って言った。
「まあ!それもそうね!でも、きっと貴方に合う寮に組み分けされるわよ。」
エステルはジニーの言葉に頷きながら、彼女の事を気遣いの出来る親切な人だと思い、彼女に対して好印象を抱いた。
それから新入生達は、帽子の置かれた椅子の前にに整列し、組分けの儀式が始まるのをじっと待った。
壇上にはいつの間にか、緑色のローブを着た魔女が立っていた。
魔女は組み分けに関する説明を行い、一人ずつ生徒の名前を呼んでいく。
呼ばれた生徒は目の前に置かれた椅子に座り、帽子を被って自分の寮を組み分けられていく。
「ブラック・エステル」
そうしてようやく、エステルの番がやって来た。
「…ブ、ブラック?まさか、貴方死喰い人の…」
エステルの姓を知ったジニーが驚いた様に目を見開き、軽蔑の眼差しを私に向けてくる。
(優しいジニーですら、私がブラックだって分かるとそんな態度を示すんだね。)
大広間にはざわつきが広まり、ブラックについてヒソヒソと話す声が耳に入る。
その中には勿論否定的な言葉もあり、世間を知らないエステルの心に容赦なくナイフが突き刺さっていく。
(大丈夫、少しも痛くないんだから。私は由緒正しいブラック家の娘なの。)
こころない言葉にエステルは深く傷つき、それでも歩みを止めず真っ直ぐ椅子まで進んで行った。
椅子に座り帽子を被る。
『おや、君はブラック家の子だね。』
突然、脳内に見知らぬ声が響きエステルは驚いてビクリと身体を震わせた。
当たりを見回しても誰もエステルに話しかけてはおらず、彼女は不審に思っていると、さらに別の言葉が脳内に響いた。
『ほっほっほっ、私は組み分け帽子さ。今、こうして君に話しかけているのは、君が被っている帽子なのだよ。』
(帽子が喋ってるの?)
『そうだとも。私はホグワーツ校始まって以来、全ての新入生の組み分けを行ってきた。こうして頭の中を覗いて、その人物に適した寮へ組み分ける。それが私の仕事なのさ。』
エステルは驚きながらも納得した。
確かに普通の帽子は喋らないし、この不思議な現象も魔法界ならあり得る事なのだろうと考えたからだ。
組み分けるにも、その生徒について情報を知らなければいけない。
であれば、この帽子が生徒達の脳内を覗く事が出来てもおかしくはない。
『ふむふむ…君はとても真面目で、探究心に満ちている。随分、本が好きなようだね?』
(ええ。幼い頃から多くの本を読んできたわ。)
エステルは頭の中でそう答えた。
すると、組み分け帽子はまた話し始めた。
『知識欲や探究心もある。レイブンクローに進めば、多くの知識を得られるだろう。しかし…』
(しかし?)
組み分け帽子が言い淀んだので、エステルは続きを促した。
すると、組み分け帽子は少し考えた後、こう答えた。
『…レイブンクローに進めば多くの知識を得られるだろう。だが、君の本来持つ性質には合っていないようだね。』
(私の本来持つ性質?)
『君の持つ、魔法とは違った不思議な力…いや、奇跡という方が正しいかな…うむ、やはり君にはこの寮が最適だろう。』
そう言い、帽子は大広間全体に響き渡る大きな声で、彼女の組みわけられる寮を宣言した。
「ハッフルパフ!」
「あの、純血名家のブラック家の娘がハッフルパフ?」
「まさか、死喰い人側の娘が劣等生の烙印を押されるとはな。」
酷い罵倒がスリザリンやグリフィンドールのテーブルから聞こえてくる。
しかし、エステルは必死に聞こえないフリをして耐えた。
エステルは帽子を外して椅子の上に置き、ハッフルパフの生徒が座るテーブルに視線を移した。
相変わらず、エステルやブラック家に関する不愉快な噂話は飛び交っているが、ハッフルパフの生徒達はそんな事気にもしないといった態度で彼女に笑顔を向けてくれていた。
「さあ、こっちへ来て。」
ハッフルパフの上級生の声にハッとして、エステルはハッフルパフのテーブルに向かって歩き始める。
「ハッフルパフへようこそ!新入生は後ろの席に座って。今日は歓迎パーティーだ。組み分けが終わったら、食事が始まるからそれまで大人しくしていてね。」
上級生の生徒は優しくエステルを席に案内し、最後にパチリとウインクをして元いた席に戻って行った。
彼女は自分の席に座り、組み分けが終わるのを待つ事にした。
「ねぇねぇ、その黒いリボンのバレッタ、凄く可愛いね!とっても似合ってるよ!」
突然、隣に座っていた少女に話し掛けられ、エステルは驚いた。
「あ、ありがとう。」
エステルがお礼を言うと、少女はにっこり笑って言った。
「私、リディア・エルンストっていうの!よろしくね!気軽にリディって呼んで。」
「…私はエステル・ブラックよ。こちらこそよろしくね。」
エステルがそう答えると、リディアは嬉しそうに笑った。
「エステルって、とっても素敵な名前ね!私、貴女にピッタリの名前だと思うわ!」
「ありがとう。私もこの名前が気に入っているの。」
そうして2人で話していると、組み分けの儀式が終わったようだ。
ようやく皆が待ちわびた歓迎パーティーが始まった。
リディアはチキンとサラダを皿に取りながらエステルに話しかける。
「ねえねえ!ホグワーツにはどんな授業があるのかな?早く魔法の授業を受けたいわ!」
この話しぶりから、彼女はマグル生まれの魔女のようだ。
「ホグワーツには沢山の授業があるわよ。変身術や薬草学、魔法史なんかも面白いと思うわ。」
エステルがそう答えると、リディアは目を輝かせた。
「全部面白そうだけど…私、早く箒に乗ってみたいな!空を飛べるって、とっても素敵な事じゃない?」
「そうかしら…私は何度か飛行をした事があるんだけど、どうも空を飛ぶのは苦手なの。落ちたらどうしよって、その事ばかり考えてしまうの。」
エステルがそう答えると、リディアは不思議そうな顔をした。
飛行術の苦手な魔女がいるという事実に驚いているようだ。
しかし彼女はそれ以上深く追求する事はなく、別の話題を口にした。
彼女は上流階級の生まれのようで、多くの習い事をして高い教育を受けてきたらしい。
本来であれば、セントマリースクールという学校に通う予定だったが、ホグワーツから入学許可書が届いた事で、通う予定だった学校の入学は辞退したそうだ。
その後、楽しくお喋りをしながら食事を続け、数十分後歓迎会は終了した。
各寮の監督生の指示に従って私達は、自身の組み分けられた寮に向かう。
(そういえば、組み分け帽子が言っていた私の持つ性質や不思議な力とは何なのかしら?)
エステルはそんな事を思いながら、寮への道のりを進んでいく。
しばらく進んで行くと、多くの樽が置かれた部屋に到着した。
そして監督生の一人が、生徒に静かにするよう促し、全員が黙ってから寮に入る為の方法を説明し始めた。
「ここに置かれた樽の、下から2列目の真ん中の樽を「ヘルガ・ハッフルパフ」と発音するのと同じリズムで叩くと、寮に入る事が出来る。」
エステルは、寮にはいる方法が難しいものでは無いという事実に安堵し、胸を撫で下ろした。
「ただし、叩いた樽が間違っていたり、叩くリズムが違っていたりすると、お酢でずぶ濡れになってしまう。簡単だからといって、適当なリズムで叩いたりしないようにね。」
つまり間違えれば罰があるという事だ。
寮までの道のりも分かりにくい事から、他寮の生徒に入り込まれないよう、防犯対策としてこんな回りくどい方法を用いているのだろうか。
その後、監督生が実際に樽を叩き、生徒達は寮の中に入った。
寮内のルールや部屋の振り分けに関する説明を受け、その日の日程は終了した。
「じゃあまた明日ね、リディ。」
「ええ。お休みなさい、エステル!」
エステルはリディと別れて、自室に向かう。
ハッフルパフは生徒数が多い分、部屋数も多い。
エステルの生活する部屋は3人部屋で、彼女の他に後2人の生徒が一緒に生活する事になっている。
自室にはまだ誰もおらず、エステルだけだったので急いで荷物を整理して着替えを出し、シャワールームに入る事にした。
「ふぅ…」
温かいお湯が身体を流れていく感覚に身を委ねる。
身体や髪を洗い終わり、お湯を止めてバスタオルで水気を拭き取る。
そして清潔なナイトドレスに着替え、シャワールームを出た。
さっきまで無人だった室内には2人の女子生徒の姿があった。
「シャワー、お先に使わせて貰ったわ。」
エステルがそう言うと、2人は彼女にたった今気付いたようだ。
「あら、貴方が最後のルームメイトね?随分ゆっくりシャワーを浴びていたのね?」
ブロンドの髪をした女子生徒がそう言って微笑んだ。
「私はエリーナ・ジョンソンよ。隣のつまらなさそうな顔をしているのは、私の幼馴染のモニカ・ジョンソン。私の従姉妹なの。宜しくね?」
エリーナがそう言いながらモニカに目配せをすると、彼女は慌てた様子で頭を下げ、自己紹介を始めた。
「モ、モニカ、ジョンソンです。や、宜しくお、お願いします。」
どうやらモニカはエリーナと真逆で、コミュニケーションは苦手なようだ。
エステルは彼女の不安を和らげるように、出来るだけ優しい声で自己紹介を始めた。
「私はエステル・ブラックです。ルームメイト同士、仲良くできたら嬉しいです。宜しくお願いします。」
「ええ、宜しくね。」
エリーナはそう言うと、エステルの髪を一房手に取り感嘆の声を上げた。
「まあ!貴女の髪ってとても綺麗ね!私の髪も自慢だけど、貴女の髪には敵わないわ!」
エリーナはそう言って自分の髪をサラリと撫でた。
その後、モニカはシャワールームに入り、部屋にはエステルとエリーナの2人だけになった。
「ごめんなさいね、エステル。モニカは少し、話すのが苦手なの。悪い子じゃないのよ?」
エリーナが申し訳なさそうにそう言ったので、エステルは微笑んで答えた。
「ええ、気にしてないわ。」
エリーナはホッとした様子で息を吐いて言った。
「良かったわ…モニカったら、ルームメイトに怖がられたらどうしようって、ずっと心配してたのよ?」
その言葉にエステルは少し驚いた表情を見せた後、クスクスと笑って言った。
「それは余計な心配よ?私は別に彼女の事を怖がってはいないもの。」
その答えにエリーナは安心したのか微笑んだ。
「良かったわ。あの子、少し臆病な所があるから…。」
「大丈夫よ。これから少しずつ仲良くなれたら嬉しいわ。」
エステルがそう言うと、エリーナは嬉しそうに笑って言った。
「ええ!きっと仲良くなれるわ!」
2人がそんな会話をしていると、シャワールームからモニカが出てきた。
彼女はエリーナの隣のベッドに腰掛けると、小さな声で2人に挨拶をした。
「さ、先に休むわ。お、おやすみなさい…」
「ええ、おやすみモニカ。」
「おやすみなさい、モニカ。」
エステルとエリーナは笑顔でそれに応えた。
「じゃあ、私もシャワーを浴びてくるわね。私の事は気にせず、エステルも先に休んでいていいからね。電気は最後に私が消しておくから。」
私は彼女の好意に甘える事にした。
「分かったわ。先に休んでいるわね。行ってらっしゃい、エリーナ。」
こうして私のホグワーツでの生活は幕を開けたのだった。
不安が大きい分、期待も大きくなる。
ブラックという名前のせいで、エステルは多くの好奇の目に晒された。
こころない言葉で心はボロボロになった。
だけど、人の心を持つあたたかいハッフルパフ寮に組み分けられ、親切で優しい友人と出会う事が出来た。
ジニーやハーマイオニーがエステルの事を嫌っているかもしれないと思うと、夜も眠れない。
だが、それでもこれが彼女の選んだ道なのだ。
彼女はこの学校で卒業まで走り抜けなければならない。
歩みを止めれば、逃げたくなってしまうのだろう。
しかし、困難に立ち向かう事を彼女が自ら望んだんだ。
「…うん、私はまだ大丈夫。まだまだ頑張れる。きっと、何とかなるよね。うん、大丈夫。」
そう小さく呟き、髪をしっかり乾かしてからベッドに入る。
そして、ホグワーツでの生活に期待を膨らませ眠りに着いた。