ある魔女の人生   作:ネッシーは実在する

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彼女がホグワーツに通ってから数週間後、石化されたミセス・ノリスを目撃し倒れてしまう。
そして目が覚めると、彼女は医務室のベッドの上だった。
この日、エステルは新たな仲間と出会うことになる。


ある魔女に新たな友達ができる

 

エステルが倒れてから半日が経過した。彼女が目を覚ますと真っ白な天井が目に入った。いや、

真っ白というにはところどころ汚れていたり、傷がついていたりするが、清潔感はある。

 

 

「……ここは、どこ?」

 

 

エステルが小さな声で呟くと、真っ白なカーテンの向こうからドタドタと大きな音が聞こえる。何者かがエステルの方へ向かって近付いてきていることがうかがえる。

 

 

「まあ、まあ、気付いたのね?」

 

 

シャっと素早くカーテンを開け、エステルの方へやって来たのは校医のマダム・ポンフリーだった。

 

 

「ここは医務室よ。ミス・ブラック、あなたは昨日の夜、管理人のフィルチさんが飼っていた猫……ミセス・ノリスが石化して吊るされているのを目撃して、ショックで倒れてしまったのよ。」

 

 

エステルは思い出した。

 

 

女子生徒たちの悲鳴を、管理人のフィルチの怒りを、英雄ハリー・ポッターに向けられた理不尽を、石のように固まった可愛らしい猫を。

そして自分がそれらに恐怖し、自分に向けられている嫌悪や憎悪に耐えられなくなり、意識を自ら手放したことを。

 

 

エステルが昨日の記憶を取り戻し、怯えているとマダム・ポンフリーは優しくエステルの頭を撫で真剣な表情で

 

 

「あなたはまだ新入生だし、環境の変化によるストレスも生じていたでしょうね。そこに、ショッキングな場面を見てしまって気絶してしまって、今に至る。仕方のないことだけど、まあ、他にも栄養失調や睡眠不足等の原因はありますから、まずは栄養のある物を食べてしっかり休養むことですね。」

 

 

マダム・ポンフリーは目をギロリと細め、私を咎めるような声で命じた。

そして私に一つのカップを手渡した。

 

 

「この薬を飲みなさい。そしたらひとまず今日の午前中は寮でゆっくりするのよ。授業は午後から出なさい。飛行術の授業は念の為見学してね。先生には私から伝えておくから。」

 

 

「ありがとうございます、マダム。」

 

 

カップを受け取り、中に入っている液体を覗くととても人が飲める物とは思えなかった。

エステルは苦笑しながらマダム・ポンフリーを見つめると、彼女は意地悪く笑い私の肩に手を置いた。

 

 

「飲みなさい。今すぐに、ね。」

 

 

否を唱えることすら許されず、エステルには薬を飲むという選択肢しかないようだ。エステルは恐る恐るカップの縁に口を付け、覚悟を決め一気に口内に液体を流し込んだ。

 

 

「うっ」

 

 

口内に広がる苦味と酸味、得体の知れない謎の感触に嘔吐きそうになるが、必死の想いで何とか飲み込む。

 

 

「全部飲めて偉いわね、ミス・ブラック。」

 

 

エステルは優しく微笑むマダム・ポンフリーに涙を浮かべながらもはにかんだ。

 

 

「さぁ、お口直しにこれをどうぞ。甘いキャンディをあげましょうね。」

 

 

「あ、ありがとうございます、マダム。」

 

 

可愛らしいピンクの包みを剥がし、コロンと丸いキャンディを口の中に放り投げる。

するとすぐに口の中に甘い苺の甘さが広がり、優しい香りが鼻の奥を抜けていく。

 

 

「まあ、とっても美味しいキャンディですね。」

 

 

「これは昨日のハロウィンパーティーの残り物よ。ちょうどひとつ余っていたの。」

 

 

「そうだったんですね。私、最後のキャンディをいただけるなんて、すっごくラッキーですね。本当に幸せ者です。」

 

 

エステルがそう言うと、マダム・ポンフリーは彼女の頭を無言で撫で、優しい目で彼女を見つめ続けた。

エステルはマダムの優しい手つきが祖母、ヴァルブルガを思わせるもので、少しだけ泣きそうになったのだが、その事実を知るものは彼女以外に誰もいない。

エステルはキャンディが溶けるまで口内で転がしてから、医務室を去った。

 

 

寮に戻るまでの道で中庭の前を通ろうとした時、エステルは一羽の青い鳥が血を流して地面に倒れているのを目撃した。

 

 

「まあ、大変。こんなに血を流して、可哀想に。」

 

 

慌てて青い鳥に駆け寄り、エステルは鳥に向かって杖を向ける。

 

 

「エピスキー 傷よ癒えよ」

 

 

羽に負った怪我は表面上塞がったが、鳥は動こうとせず、固まったままだ。

どうやら、内側の傷はまだ修復しておらず、動くこともできないらしい。

 

 

「……大丈夫、きっと良くなるわ。」

 

 

エステルは動けない鳥を抱えて、急ぎ足で寮とは逆方向へ向かって歩き出す。

暫くすると、薬学教室の前に辿り着いた。

 

 

薬学教室の扉を勢いよく開けると、そこには気難しい顔をしたスネイプが本を見ながら、何かの薬を調合していた。

 

 

「失礼します。」

 

 

エステルの声を聞いて、その時初めてスネイプはエステルを認識した。

彼は怪訝そうな顔でエステルを睨み付け、手にしていた包丁をまな板の上に置いてからエステルの元へやって来る。

 

 

「一体何の用ですかな?ミス・ブラック。ハッフルパフはこの時間、呪文学の授業だったはずだが、何故ここにいるのかね?」

 

 

エステルはスネイプの質問を無視して、抱えていた青い鳥をスネイプの前に突き出した。

 

 

「先生、この子を見てください!」

 

 

「青い鳥のようだな。」

 

 

「はい、そうなんです。でも羽に怪我を負っていて、動けないみたいで……すぐに治してあげたいんです。次の授業は小動物用の傷薬を作りますよね?なら、この子の為に傷薬を作っていただけませんか?」

 

 

エステルは必死な様子で懇願するが、スネイプは目を吊り上げ、面倒臭そうな顔で彼女の頼みを断った。

 

 

「よく予習しているようですな。しかし、吾輩はその動物を助ける理由がない。そして、助けることで時間と薬材を消費するというデメリットを被る。よって、その鳥を助けることはできない。お引き取り願おうか。」

 

 

「でも、この子を放って置けません。自由を愛し、どこへでも行けるのに動くことすらままならないなんて……とても辛いはずです。だから、お願いします!私に出来ることなら何でもしますから!」

 

 

 

エステルがそう言って深々と頭を下げると、スネイプは顔をしかめて彼女の頭を見下ろした。

 

 

「……いくら頼もうと吾輩は作らない。だがそうだな、ミス・ブラック、君が傷薬を作るのであれば、我輩はそれを止めない。材料費を後で支払うというのなら、吾輩の持つ材料を渡してやることもできる。」

 

 

スネイプの問いにエステルは少し考え込み、そしてすぐに答えた。

 

 

「……分かりました、私が薬を作ります。材料費は後でスネイプ先生宛にお支払いしますので、請求書をブラック邸へお願いします。」

 

 

「……ふむ、そうか。ならば、さっさと吾輩に着いて来い。材料を取りに行くぞ。」

 

 

スネイプの後を着いて奥にある彼の研究室に入り、必要な材料を受け取っていく。

中には様々な貴重な薬品や薬材が保管されており、エステルは興味津々だったが、スネイプは全ての材料を渡し終えると追い払うようにエステルを部屋の外へ追い出した。

 

 

エステルはスネイプから渡された予備の薬学の教科書を見ながら、小動物用の傷薬を調合する。

 

 

「……えっと、まずこの葉っぱを切り刻んで。」

 

 

そして最後に満月草の花を細かく切り刻み、全ての材料を混ぜ合わせていく。

 

 

「……これで完成、かな?」

 

 

完成した薬は薄い青色をしており、とても綺麗だ。

エステルできた薬を見ながらその完成度の高さにうっとりとしていると、背後に気配を感じ、慌てて振り向く。

そこには目を見開き、驚きの表情をしたスネイプが立っていた。

 

 

「……まあ、及第点だな。その薬を使ってみなさい。」

 

 

「……本当に、使っても大丈夫なんでしょうか。もし失敗していたらと思うと怖いんです。」

 

 

エステルは緊張しながらもスネイプに質問すると、彼はフンと鼻を鳴らして言った。

 

 

「ミス・ブラック、君の調合した薬は癒者が提供する物とほぼ同等の品質だ。失敗などあり得ないだろう。」

 

 

「……そ、そうなんですか……分かりました。この子に使ってみます。どうか、元気になってくれますように。」

 

 

エステルは手を合わせ、天に祈る。

神という存在を信じているわけではないが、もしいるのならこの鳥を癒してくれと、心の底から切に願った。

 

 

スネイプの言葉に背中を押され、エステルは傷薬をそっと手に掬い取り、鳥の傷口へと塗っていく。

するとみるみるうちに傷が消え、鳥は羽を小刻みにパタパタと動かし始めた。

 

 

「あ、動いた!」

 

 

エステルが喜んだのもつかの間、鳥は突然暴れ出し、羽を大きく広げエステルの頭の上にちょこんと乗った。

 

 

「わ、わぁ、あはは、やめて!乗らないでよ!」

 

 

突然のことにエステルは驚きながらも、鳥の怪我が回復したことを心から喜んだ。

 

 

エステルがクスクスと笑っていると、スネイプは難しそうな顔でエステルを見つめていた。

 

 

「……そんな、馬鹿な……あの薬には……即効性はなかったはずだ。」

 

 

「え、何か言いましたか?スネイプ先生。」

 

 

エステルは頭の上に鳥を乗せながらそう問いかけるが、彼は眉間にシワを寄せたまま無言で首を横に振る。

 

 

「……いや、なんでもない。ミス・ブラック、用が済んだのならさっさと出て行きなさい。吾輩は忙しいんだ。」

 

 

スネイプの言葉に時計を見ると、確かにもうそろそろ昼休みになる。

エステルは午後の授業に出席する予定なので、一度寮に戻って支度をしなくてはいけない。

 

 

「分かりました、スネイプ先生。それでは失礼いたします!請求書はブラック邸までお願いしますね。」

 

 

エステルはペコリとお辞儀をして、薬学教室を後にしようとする。

 

 

「ああ、そうだ。ミス・ブラック。」

 

 

しかし、スネイプに呼び止められてエステルは振り返る。

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

「……その薬だが、少し分けてもらっても良いかね?品質を私も確認しておきたいんだ。分けてくれれば、この薬についての評価と材料費の請求は免除しよう。どうかね?」

 

 

「ほ、本当ですか?!もちろん構いません。」

 

 

エステルの瓶からスプーン7杯分の薬を取り出し、スネイプの持つ空瓶に移し入れる。

 

 

「これだけあれば充分だ。サンプルの提供、感謝する。ハッフルパフに1点。」

 

 

「あ、ありがとう、ございます。」

 

 

エステルはスネイプから褒め言葉をもらって、嬉しくなって満面の笑みを浮かべる。

そんなエステルの様子に、スネイプは苦々しい表情で彼女を見つめる。

 

 

「ミス・ブラック、ひとつ助言を差し上げよう。」

 

 

エステルが首を傾げると、スネイプは顔を近付け小さな声でこう言った。

 

 

「2年生のドラコ・マルフォイとハリー・ポッター、この2人には決して近付くな。ブラックの名を持つ君が近付けばどうなるか、ブラックである君なら理解出来るだろう?」

 

 

「っ!」

 

 

エステルは驚きで目を見開き、息を飲んだ。

スネイプから忠告を受けた内容は、自分自身が1番よく理解していることだったからだ。

私は本来同族であるスリザリンからも、英雄ハリー・ポッターからも嫌われている。

何故なら、私の父と叔父がかつてこの地を支配しようとしたヴォルデモート卿の配下だったから。

 

 

「安全にホグワーツを卒業したいのなら、目立たず地味に生きることだ。」

 

 

エステルはスネイプの言葉に、ただ頷き返すことしか出来なかった。

 

 

「分かりました。先生の言う通りにいたします。」

 

 

そしてそのまま薬学教室から出て行ったのだった。

スネイプはそんなエステルを見送りながら、彼女が去った後の扉を見つめる。

 

 

「……まさかあの薬が……いや、だが……」

 

 

スネイプの頭の中では様々な考えが巡っていたのだが、彼はそれを口にするのを辞め、途中になっていた魔法薬の調合に取り掛かる。

 

 

「まあ良い。今はそれよりも優先すべき事があるからな……。」

 

 

スネイプはそう言いながら、薬の調合を再開するのだった。

 

 

 

[newpage]

 

 

 

エステルがハッフルパフ寮の自分の部屋に戻ると、机に小さな小包がが置かれていた。

エステルは小包の紐を解き、包みを広げると、中から『革命の夜』と書かれた本が現れた。

本を手に取ると、下に封筒が入っており、送り主はヴァルブルガと祖母の名前が書かれているが、字を見るにこの手紙は父が書いたもののようだ。

エステルは急いで手紙の封を開ける。

 

 

『愛する娘エステルへ

 

久しぶりですね、元気にしていましたか?

私はお祖母様とクリーチャーと共に穏やかな生活を送っています。

 

困ったことや、辛いこと、悲しいことがあったらいつでも私を頼って下さい。

エステルの為ならば、どんな願いであっても必ず叶えてみせましょう。

 

そういえば『革命の夜』を友人に貸したいそうですね。

この物語は、エステルの母であるアリスが書いた長編小説でもあります。

そして今は私が続きを紡ぐ物語です。

ぜひ友人の感想を聞いてみて下さい。

読者の名前の意見とは、作家にとって何よりも有難いものですからね。

 

それでは、話はこの辺にして、体に気をつけて、ホグワーツの勉学に励んでくださいね。

私たちは、いつでもあなたの味方です。

だから、安心してください。

 

エステルの父より』

 

 

「お父様、ありがとうございます。」

 

 

エステルは手紙を胸に抱きながら涙を流す。

そして涙をさっと拭うと、荷物を片付けて次の授業の準備を始める。

 

 

 

「ピーッ」

 

 

今日の授業で使う教科書を揃えていると、頭上で鳥の鳴き声がした。

 

 

「忘れてた、この青い鳥、どうしたら良いんだろ。」

 

 

エステルが頭を振っても、手で掴もうとしても頭の上から離れようとしない。

 

 

「……そういえば、この薬って完治まで3日はかかるはず。なら、その間だけでも手元に置いておこうかな。飼うわけじゃないし、怒られたりしないはず。」

 

 

エステルは入学前にペット飼いたいと父に頼んだが、彼は断固として反対した。

だからエステルは動物を飼うことはできない。

しかし、動物の保護という名目で数日一緒にいることは飼育にはあたらないはずだ。

エステルはそう言い訳をし、数日間の間この青い鳥と共に過ごすことを決めた。

 

 

「これからよろしくね、青い鳥さん……名前は、そうね、ラメールにしましょう。幸せな青い鳥……『革命の夜』のヒロインが飼っていた青い鳥みたいだし、もしかしたら凄い幸せを運んでくれるかもしれないなぁ。」

 

 

そんなことを考えながら、鳥を優しく撫でる。

 

 

「そうだ、後でパンを貰ってきてあげるわ。お腹も空いているでしょうし、急いで大広間に向かいましょう。」

 

 

エステルはラメールのために『革命の夜』の1巻を持って、急いで大広間へと向かった。

 

 

 

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