ある魔女の人生 作:ネッシーは実在する
しかし、今日エステルは届いた本をハーマイオニーに渡さなければいけない。
しかし、エステルはグリフィンドールに嫌われており、ハーマイオニーの元へ行くことすら出来ない。
そんなエステルの葛藤とリディアたちの優しさに救われるそんな話。
大広間に着くと、そこには既に数人の生徒がおり、各寮のテーブルに並べられた食事に手を付けていた。
ハッフルパフのテーブルに向かうと、そこにはリディア、エリーナ、モニカの3人が座っており、仲良く食事をしていた。
しかし、私の存在に気付くと、私の方へ手を振り、名を呼んだ。
「あ、エステル!」
「こっちよ!エステル!」
3人は私に向かって手招きし、私は3人のいるテーブルへ向かう。
「おはよう!エステル。」
リディアが人懐っこい笑顔でそう言い、私はそれに挨拶を返す。
「おはよう、みんな。」
「昨日の夜、倒れたって聞いたけど体調は大丈夫?もう良くなったの?」
「うん、もう平気よ。すっごく苦いお薬も飲んだし、」
リディアの問いにエステルがそう答えると、エリーナとモニカも心配そうな表情でエステルに声をかける。
「本当に大丈夫?無理しちゃだめよ。」
「そうよ、また倒れたりしたら大変なんだから。」
2人の言葉に対し、エステルは笑顔で答えた。
「心配してくれてありがとう、でも本当に大丈夫だから安心して。」
3人はそんなエステルを見て安心したように微笑むと、食事を再開したのだった。
エステルがリディアの隣の席に腰を下ろすと、リディアはステーキをナイフで切りながら質問する。
「午後の授業はどうするの?いくら回復したからって、流石に今日くらいは休むわよね?」
「ううん、出席するつもりよ。ただ、飛行術の授業は見学するわ。マダム・ポンフリーが話を付けてくれているから。」
エステルがそう言うと、リディアは納得して頷く。
「へぇ、もう出席するのね。エステル、あなたって本当に真面目ね。飛行術は、特段授業内容が変わることはないみたいだし、今日くらい休んでも大丈夫よ。とにかく、エステル、あなたは絶対に無理をしてはダメよ。」
「分かったわ。ありがとう、リディア。」
エステルは微笑みながら答える。
そんな2人の会話をエリーナとモニカは黙って聞きながら食事を続けるが、不意にモニカが口を開いた。
「……ねえ、エステル。あなたが持っている本、それって小説なの?」
「え?これのこと?」
エステルは、先程からテーブルに置いていた『革命の夜』をモニカに見せる。
モニカはすぐに首を縦に振り、じっと本の表紙を見つめる。
「ええ、そうよ。ハーマイオニーという2年生の先輩が読みたいと言っていたから、1巻を貸してあげることにしたのよ。」
「ハーマイオニー?それって、グリフィンドール寮の子よね?確か、有名人なハリー・ポッターと一緒によく話している人よね。」
エステルの言葉にリディアが反応する。
「え、そうなの?」
エステルはリディアの言葉に酷く驚き、傷付いた。
彼女はハリー・ポッターの友人と親しくなろうとしていたのだ。
きっと今頃、ハーマイオニーもエステルが魔法界から排斥されているブラックの出自だと知ってしまったはず。
そんなエステルと仲良くするメリットはない。
エステルは初めてできた友達を失うかもしれないという現実に怯え、今にも泣きそうになっていた。
そんなエステルの様子を察し、リディアは慌ててフォローをする。
「大丈夫?エステル。顔色が悪いわよ?医務室に行く?」
「……大丈夫、大丈夫だから。少し寒いだけよ。」
エステルはリディアを安心させるように微笑んだ。
しかし、その笑みは誰が見てもぎこちないもので、リディアの不安を取り除くことは出来なかった。
そんなエステルの様子をエリーナとモニカが心配そうに見つめる中、リディアはエステルに尋ねる。
「ねえ、エステル。あなた、私たちに何か隠してない?」
「え……何も隠していない、けど。どうしたの?リディア。」
リディアの問いかけに、エステルは動揺を隠しながら返事をする。
しかし、彼女の思いに反してその反応は明らかに不自然だった。
「ねえ……やっぱりあなた……いえ、良いわ。いつか、私たちにも話してくれるって信じてる。だから、いつか絶対に教えてね。苦しむあなたの顔は見たくないもの。どんな事情があっても、あなたは私の大切な親友なんだからね。」
「リディア……ありがとう。」
リディアの優しい言葉と微笑みに、エステルの瞳から涙がこぼれ落ちた。
彼女にとってそれは何よりも嬉しい言葉だった。
「エステル、何を抱えているのかは分からないけど、私だってリディアと同じ気持ちよ。何があっても親友なんだからね。」
「……そう、だよ。エステルは、私たちの大切な友達。」
「エリーナ、モニカまで……」
ホグワーツに来る前から、エステルは自分の一族が犯した過ちを誰よりも深く悔やんでいた。
ブラックが犯した罪は、多くの人々を殺し、苦しめ、関係のないマグルや魔法使いを、犠牲にしたことだ。
エステルはそんな家の一人娘として生まれ、その罪を償わなければいけない。
エステルが罪を犯していなくとも、エステルは一族の咎を償わなければいけない。
誰に言われたわけでもなく、エステルは一族の罪を知ってからすぐに罪の意識に囚われていた。
罪に対する責任果たそうとしていた。
リディアもエリーナもモニカも、エステルの一族が犯した罪を知れば、彼女を憎み、嫌うかもしれない。
そんな未来が嫌で、エステルは何も言えなかった。
エステルを嫌う他寮の生徒たちが正しくて、エステルを庇うリディアたちが異端だなんて、口が裂けても言えない。
何故ならエステルは、一族以外の誰かに必要とされ、愛されることの心地良さを知り、それらを手放すことなんて、1秒ですら考えられないからだ。
「リディア、エリーナ、モニカ……本当にありがとう。」
エステルはリディアたちに向かって満面の笑みを浮かべてそう言った。
そんなエステルの様子を見て、リディアたちは優しく微笑んだ。
「……ねぇ、リディア。この本なんだけど、ハーマイオニーに渡したいんだけど、1人で行くのはちょっと怖くて。」
グリフィンドールは、エステルを受け入れない。
それは、日々の授業や移動中にすれ違うグリフィンドール生を見れば明らかだ。
エステルはグリフィンドールに憎しみや嫌悪を向けられており、1人でハーマイオニーに声を掛ける勇気は持ち合わせていない。
「ええ、良いわよ。私も一緒に行くわ。」
「ほ、本当に良いの?」
「勿論よ。それに、あなたの親友として1人で行かせるわけにはいかないもの。ね?」
2人のやり取りを見ていたエリーナとモニカは頷き合う。
「もちろんよ!私たちも付いて行くわ!」
「うん、みんなで行こう。」
3人の優しさにエステルはまた泣きそうになったが、ぐっと堪えて笑顔で3人にお礼を言うのだった。
4人は食事を終えると、グリフィンドールのテーブルへと向かう。
エステルはハーマイオニーの姿を見つけるとすぐにリディアたちに声をかける。
「あ、あそこにハーマイオニーがいるわ……私、1人で行ってくる。みんなはここで待っていてくれる?」
「そう?分かったわ。気を付けてね、エステル。」
リディアの言葉を聞き届けると、エステルはハーマイオニーの元へと向かう。
「あ……あの、こんにちは!ハーマイオニー。」
「えっと……あなたは確か、エステル!そう、入学式の日にホグワーツ特急で出会ったエステルね!」
突然の乱入者に驚くハーマイオニーに、エステルは緊張しながらも用件を伝えようとするが、その時ハーマイオニーの横に座る赤髪の男子生徒がエステルにゴミでも見るような目を向けた。
エステルは体が強ばり、上手く声が出せない。
「そいつ、ハッフルパフに組み分けられた劣等生の"あのブラック"だろ?ハーマイオニー、そんな奴と話さない方が良いぜ?そいつ、大勢のマグルを殺したシリウス・ブラックの親族なんだぞ?」
「ロン、そんな言い方はやめて!エステルは私の大切な友人なのよ!」
「純血主義者の癖に、スリザリンに入ることすら出来ないなんて、本当に劣等生だよな。ブラックの家も相当怒ってるんじゃないか?なぁ。」
「ロン!いい加減にして!!」
ハーマイオニーは、今までに見たことがないほど怒りを露わにしてロンを睨みつける。
そんなハーマイオニーの様子に、ロンはたじろぎ、ばつが悪そうに顔をそむける。
「ご、ごめん……でもさ……」
「もう良いわ、私はエステルと2人で話したいの。」
「……分かったよ、じゃあな。」
そう言ってロンは席を立ち、大広間から出て行った。
2人のやり取りを見ていた周囲の生徒たちはヒソヒソとエステルの悪口を言い、彼女を庇うハーマイオニーを訝しげな顔で見ている。
「ごめんなさい、エステル。」
「ううん、気にしないで。それより……その、本なんだけど……」
「あ!あの時言っていた本を貸してくれるのね!本当にありがとう!」
ハーマイオニーは嬉しそうに『革命の夜』を受け取る。
エステルはさっきの赤髪の少年との会話なんて気にもしていないといった様子で笑う。
彼女に釣られ、エステルも小さく微笑んだ。
ハーマイオニーはエステルの一族の人間が犯した罪を知っている。
それでも、私を友人だと言い赤髪の少年に反論した。
エステルは、ハーマイオニーに心から感謝し、本気で仲良くなりたいと思った。
「ハーマイオニー、良かったら読み終わったら感想を教えてくれませんか?それと、おすすめの本があれば教えて下さい。その、例えばマグルの世界の物語とか、読んでみたいです。」
「ええ、もちろんよ!……そうだ、今度私が小学生の頃によく読んでいた児童書を貸すわね。読み終わったら、お互いに感想を言い合いましょう!ああ、なんて素敵なのかしら!うふふ。」
ハーマイオニーが喜びながらそう言った時、ハーマイオニーを呼ぶ生徒の声がした。
「あ、私そろそろ行かないと。昼休みは基本的にロンやハリーと一緒に食事をしているから、いつでも声を掛けて。児童書は家から送って貰うから、届いたらまた連絡するわね。」
ハーマイオニーはそう言うと、自分の友人たちの元へと向かって行った。
そんな彼女の背中を見送りつつ、エステルは小さく呟く。
「ありがとう……ハーマイオニー。」
エステルは嬉しそうに笑いながら、リディアたちの元に戻る。
「おかえり、エステル。」
「おかえり、どうだった?大丈夫だった?」
エリーナとモニカがそう言うと、エステルは笑顔で答える。
「うん!皆のおかげでハーマイオニーと話すことができたわ。」
エステルがそう言うと、エリーナがエステルの頭を撫で、物騒なことを言い始めた。
「それにしてもあの赤髪の男子生徒、何だか様子が変だったわね。ここからじゃ何を話しているのか分からなかったけど、エステルに対して敵意を持っているように感じたわ。エステルを劣等生だと大きな声で言った時なんて、本当に殴り込みに行こうかと思ったのよ。」
「私は大丈夫よ、こういう事を言われるのにはもう慣れたから。」
エステルがそうフォローするが、エリーナはまだ納得いかない様子で言い放つ。
「慣れたって……あの赤髪の男の子、エステルを侮辱したのよ!理由があるとしても、それを公の場で大声で言うなんて、英国紳士の風上にも置けないわ。」
「それは……そうだけど……」
「もう我慢ならないわ!私、今からでもグリフィンドールのテーブルに行って抗議してくる!!」
そう言って席を立とうとしたエリーナを慌ててリディアとモニカが止める。
「ちょっと待ちなさいよ、エリーナ!あなた、グリフィンドールのテーブルに行って何を言うつもりなのよ!赤髪の男子生徒はイラッときたけど、もう彼はいないのよ。今行って何をすると言うのよ。」
「……そうだよ、エリーナ。落ち着いて、もうあの男子生徒はいないし、今は引こう。」
「離して!私はもう我慢ならないのよ!」
リディアとモニカに両腕を掴まれてエリーナがじたばたと暴れる中、エステルは口を開く。
「……エリーナ、気持ちはとっても嬉しい。でも、私は気にしていないし、エリーナも私みたいに何か言われたりしたらって思うと、凄く悲しいの。だから、気持ちだけ受け取っておくわ。お願いだから、私の為にこ傷付くようなことはしないで欲しい。」
エステルがそう言うと、エリーナとモニカは顔を見合わせる。
「エステル……分かったわ。でも、私はあなたを傷つけた人がこ本当心の底から許せないの!それは分かってね!」
「うん、ありがとう。」
2人のやり取りを見ていたリディアは、小さく溜息を吐く。
「……まあ、確かにあの男子生徒は私も気に食わないけど。でも、もう良いじゃない。早く食事を終わらせて寮に戻りましょ?エステルは病み上がりなんだから、授業までゆっくりしてなさい。」
リディアの言葉に、エリーナとモニカも頷く。
「そうね、エステル。病み上がりなんだから無理しちゃダメよ?また具合が悪くなったらすぐに医務室に行くのよ?」
「もう、この話何度目なの?分かっているから、何度も言わなくて大丈夫よ。」
それから4人は他愛のない話をしながら食事を楽しみ、午後の授業に向けて寮へと戻って行ったのだった。
寮に帰ってから、エステルの部屋にいる青い鳥、ラメールの存在に驚かれたり、ラメールにみんなで餌やりをしたりと、癒しに満ちた昼休みを過ごした。
それから何日か経過した頃、エステルはリディアたちに誘われてクディッチの試合を観戦することになった。
「今日はグリフィンドール対スリザリンの戦いなんですって。一体どっちか勝つのかしら?」
「分からないわ。クディッチ観戦なんて初めてだしね。」
「……そうね、楽しみね。」
競技場へと向かう道すがら、3人は楽しそうに話していた。
エステルはそんな3人の後ろ姿を見つめながら、歩き続ける。
会場に到着すると、そこはグリフィンドールとスリザリンの熱気が溢れており、エステルはクディッチに対する2寮の熱量に苦笑した。
「凄い熱気ね。火傷しちゃいそうだわ。」
「エステル、エリーナ、モニカこっちよ。ここが空いてるわ。」
リディアに手を引かれるがまま、エステルは席に着く。
3人が座ると、丁度試合開始のホイッスルが鳴った。
試合が始まるとクディッチは白熱した展開で進み、観客席からは大きな歓声が上がった。
しかし、中盤から突然グリフィンドールのシーカーであるハリー・ポッター目掛けてブラッジャーが襲いかかるというハプニングはあったが、終盤で彼はスニッチを掴みグリフィンドールが勝利した。
しかしハリーは落下したことで腕を負傷し、骨があらぬ方向へと曲がってしまった。
「だ、大丈夫なの?アレ。」
「かなり痛そうだけど……骨が折れているようね。」
エステルとリディアが心配そうに見つめる中、競技場に倒れるハリー・ポッターの元に多くの人が駆け寄ってきた。
「クディッチって、恐ろしいスポーツね。ハリー・ポッターはブラッジャーに何度も襲われていたし、最後にあんな怪我まで負って。彼、呪われているんじゃない?」
「……ちょっと!あなたなんて事言うのよ!縁起でもないこと言わないでちょうだい。」
その言葉に気分を悪くしたリディアがモニカを睨むが、モニカは涼しい顔をしてそれを受け流す。
そんなやり取りをしていると、ハリーの元に闇の魔術に対する防衛術の教師、ギルデロイ・ロックハートがやって来た。
「心配無用だ、ハリー!今すぐ私が治してあげよう!」
「うげっ、ロックハートだわ。」
胡散臭そうな男、ロックハートを見るやいなや、エリーナはハリーに哀れみの目を向ける。
「やめて、放っておいて。」
ロックハートの治療を拒むハリーを、ロックハートは華麗にスルーし、杖を構える。
「ブラキアム・エンメンドー!」
「ああ、可哀想な英雄様。」
何の呪文かは分からないが、ロックハートが呪文を唱えてから数秒後、ハリー・ポッターの腕がぐにゃりと曲がった。
まるで骨そのものが消えてしまったかのように。
「う、腕が!」
ハリー・ポッターはその後、教師に連れられ医務室に向かった。
その日の夜、骨を生やすため地獄のような時間を過ごすことになるのだが、そんなことエステルたちは知る由もない。
この日の夜、新たな犠牲者が現れた。
犠牲者はグリフィンドール寮所属の1年生、コリン・クリービーだ。
彼が石化された状態で発見された。
「次はお前の番なんじゃないか?穢れたち血め。」
そう罵るスリザリンの生徒に、グリフィンドールの女子生徒は泣きながら走り去ってしまう。
遠巻きに聞いていただけのエステルも、もし自分が犠牲者になったらと恐ろしい想像ばかりしていた。
何故なら、エステルは純血の魔法使いとマグルの女性の間に生まれた混血の魔女だから。
もしかしたら、スリザリンの継承者とやらに襲われてしまうかもしれない。
「はぁ、馬鹿馬鹿しい。そんな弱気だから襲われるのよ。ねぇ、そう思わない?エステル。」
「そ、そうだね。私もそう、思うわ。」
リディアの強気な発言と態度にエステルも同意するが、それは全くの嘘だ。
エステルは今後復讐に震え、スリザリンの継承者を憎むことになるのだが、この時のエステルはそんなこと思いもせず、虚勢を貼り内心ただただ怯えることしか出来なかった。