ゴブリンの作り方   作:靴下9153

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ゴブリン・ブリンク
ゴブリンの作り方


 

 その娘は有名商家の血筋だが、排すべき放浪民の血が入っていた。

 

 そして闇色漆黒の頭髪に、不健康そうな白い肌を持っていた。

 

 迫害され隅へと追いやられるのは自然の流れである。

 

 

 

 森の中でいとこに馬乗りで殴られていたときのことだ——不意に茂みが動いたのは。

 

 「うぎゃー! 怪物! くるなぁぁぁっ!」

 

 元来の肝の小ささを証明した男は、無様な姿のまま林道へ走り去っていった。

 

 

 ——目の前のその哀れな生き物に。自分より不幸な生き物っているんだな。という感動に似た感覚を覚えた。

 

 それに庇護欲のようなものも感じる。

 

 

 

 ——その生物は(ひど)(みにく)い。

 

 

 

 手足は細く肌は(まだら)で緑がかっており、時折剥がれ落ちてひどく不快感を(もよお)した。

 

 腹はポッコリと突き出て、なんとも不格好に見えて嫌悪感を掻き立てられる。

 

 耳は見たことも無い形に尖っていて、悪魔の絵を思い出して彼女の心は不安に覆われた。

 

 そして獣の臭気にえづく事もしばしばで、慣れることは無かったのである。

 

 

 その化け物に自分の餌を分けてやるたび、彼女は自分の中の何かが満たされるのを感じる——。

 

 

 

 物陰に隠れて過ごすのが日課の彼女は、人の噂を盗み聞く事に長けている。

 

 自分の息を殺し音に集中するのだ。

 

 呼吸が極端に浅くなるため苦しくなるのだが。楽な姿勢を保つことと、体勢を入れ替えるタイミングを工夫することで長時間でも耐えられる体になっていたのである。

 

 

 そんな時だ。

 

 街に勇者がやってきているのだという。

 

 なんでも各地で偉業を達成し名声を得ているそうだ。

 

 

 ——私には関係の無い話だ

 

 

 それよりも、その勇者に近づかないよう気をつけなければならない。

 

 きっと、嫌な連中がこぞって集まるだろう。

 

 そんな時、視界にいたならどんなことをされるか分からないからだ。

 

 その場に居なければ嫌な事もされようも無いのだ。

 

 

 だが一方で勇者が自分を助けてくれるのではないか、という微かな淡い期待を(いだ)く——

 

 

 ともあれ、そろそろあの緑の生き物がやってくるので、残しておいた餌をあげないといけない。と思って人目につかないよう何時もの小屋へ急いだ。

 

 

 ガッガッガッガッ……

 

 

 ——いつも通りの喰いっぷりで、食べた後は一目散に山へと帰ってゆく。

 

 わたしも帰ろう。そう思った時だ——

 

 

 股間を膨らませた大男が、小屋へ入れ違いに来たのは……

 

 

 


 

 

 

 そのエルフの産まれは分からない。

 

 案外木の股から産まれたのかもしれない。

 

 

 それはさておき——彼は生まれつき耳が短く尖っていた。

 

 

 ハーフエルフという訳ではない。

 

 彼等の耳は長く、容易く見分けはついてしまう。

 そのため異物として彼は蔑まれ、石や汚物を投げられ、あらゆる迫害を受けたのである。

 

 

 ——エルフ以外の人間に助けを求めた事もある。

 

 

 

 だが人間はエルフ以上に差別心に満ちた種族(Race)——

 

 

 自然な流れで彼は再び山へと追われることとなった。

 

 

 彼に山の猛威は容赦なく襲い掛かる。

 

 飢餓(starvation)が彼を(さいな)んだ。

 

 だが幸運にも、その山には登攀に適した形状の動物にしか出入りできないテーブル状の高地があり、死なない程度に容易く食料を集めることが出来たのである。

 

 彼は学習した。一度に喰いつくしてしまえば致命的に飢えてしまうため食べる量を抑えることを。

 

 しかし極端な栄養の偏りによって腹部膨張(kwashiorkor)の症状が徐々に現れるようになる。

 

 そして不衛生な(あか)に苔が付着し、(まだら)の緑色に変色した醜い姿となっていった。

 

 

 彼は原因不明の絶え間ない苦しみに襲われた。

 

 その苦しみから逃れるため、方々を歩き回って町へと戻って来てしまう。

 

 

 ——結果を言えば一時的とはいえ苦しみから逃れる術に出会うことが出来た。

 

 彼に施しを与える存在が現れたのだ。

 

 彼女の与える食べ物を胃に収めると苦しみが和らぐ。

 

 

 

 ——それから、度々餌をくれる小屋へ通うようになった。

 

 

 

 だがある時から少女は来なくなる。

 

 何度もやってきて少女の姿を探したが、見つかることは無かった。

 

 やがて少女を探して小屋の周りをうろつくが何処にも居ない。

 

 

 ——それでもあきらめられず、探索範囲を広げていったある日。町の人間に見つかり追い立てられた。

 

 何時もはすぐにあきらめるものだったが、その日は執拗(しつよう)な追跡を受けた。

 

 

 ——そして追いつかれた。

 

 いくら土地勘に優れようとも、体力の無い彼に逃げ切ることなどできはしなかったのである。

 

 

 

 彼は(つい)に少女を見つけることは出来なかった——


 トロールを処刑し。名声を得て国王に勇者として認められ、更なる偉業を成すため旅へ出た。

 

 立ち寄った町で緑の肌の化け物が小屋から出てくるのを見つけたので入ると。

 

 そこで出会ったのは——みすぼらしい少女だった。

 

 丁度、性欲を持て余していたので。組み敷いて(なぐさ)めてやったら、激しく暴れられ顔に傷を作られた。

 

 憤慨(ふんがい)し勢いのまま何度も殴りつけたら、大人しくなったようなので再開する。

 

 

 ——終わっても反応が無いので息を確認すると、死んでいることが分かった。

 

 ちょうどよくさっきの化け物に殺しを押し付け、早速化け物退治の偉業を達成すべく、緑の小人を追って山へと入っていった。

 

 緑の怪物をゴブリンと名付ける。

 

 

 さっさと殺すと、その夜は盛大な宴が開かれた。

 

 

 ——これが偉業というものだ。

 勇者はそうひとりごちた。

 

 

 その時目星をつけた町娘を、タイミングを見計らい凌辱(りょうじょく)し、殺してゴブリンのやったことにした。

 

 町の人間はゴブリンの影に恐れ戦き、勇者へ再び化け物の討伐を懇願(こんがん)する。

 

 

 またしても偉業を達成する機会が巡って来たのだ。

 

 

 ——勇者は勇んで山へ入り緑の服を着た木こりを殺し、町の人々へ討伐の完了を知らしめて安堵させた。

 

 勇者の庇護(ひご)のもと、町娘が(けが)されてされて無残に殺されるたび、山へと入りゴブリンを狩っていく。

 

 ついに勇者はゴブリン根絶を達成する。

 

 

 

 ——それはゴブリンによって町娘が次々毒牙にかかり始めた頃。勇者は体をしきりに掻きむしるようになっていた。

 

 掻き壊して皮膚は爛れジュクジュクと膿んで、勇者は醜く変貌していった。

 

 膿疱(のうほう)は潰れると悪臭を放つ不潔で(おぞ)ましい(うみ)を噴き出す。

 

 その姿は正に化け物といえよう。

 

 皮肉なことにこれまで化け物共を殺してきた勇者自身が、化け物へと成下がったのである。

 

 

 

 ——彼は山へ入ったまま戻らず伝説となった。ゴブリンを根絶しにし、相打ちになったのだと。

 

 

 

 何時からか山にはグールと呼ばれる、全身が(ただ)れ膿で(けが)れつくした、新たなる化け物が現れるようになる。

 

 それは夜になると人里へ現れては若い娘を襲い、時に人の肉を喰らったという

 

 

 

 ——バケモノ共は止めどなく人の間から生まれては世界へ刻印されてゆく。

 

 

 まるで墓標に刻まれる碑文のように

 

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