仮面ライダー913   作:K/K

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仮面ライダー913 end

 雑草が生い茂げ、空き缶やゴミが転がる高架下。乱雑とした有様が人気の少ないことを表している。

 静寂が常に漂う場所。だが、今そこで激しい戦いの音が繰り広げられていた。

 紫の仮面。銀色の装甲。その装甲に描かれる黄色の線を体中に走らせた戦士が、数体の灰色の怪物と対峙していた。

 知る者はその戦士をカイザと呼び、灰色の怪物はオルフェノクと呼ぶ。

 カイザは逆手に握り締めたχを模した武器――カイザブレイガンから伸びる光刃を振るい、オルフェノクの一体を斬り付ける。

 悲鳴を上げて倒れるオルフェノク。頭頂部が平べったい皿状の形をしており、両眼は離れたその顔は魚類――コバンザメに似ていた。

 コバンザメのオルフェノク――リモーラオルフェノクに追撃をしようとするが、横から突き出された幅広の刃がそれを妨害する。

 カイザは自分を狙って突き出されたそれを光刃で滑らせ、軌道を逸らし回避する。

 幅広の刃を伝う様に目を動かす。刃の根本には鍔、そして柄、それを握り締める手。

 丸い目。背と腹部から突き出る鰭。大剣を握るオルフェノクは、マンボウの姿に酷似していた

 マンボウ――サンフィッシュオルフェノクは、もう一度カイザを斬ろうとするが、カイザはカイザブレイガンの端を引く。

 

『Burst Mode』

 

 カイザブレイガンから発射された光弾が、サンフィッシュオルフェノクの体に直撃し、火花を上げる。

 引き金を更に引こうとしたとき、背後から気配を感じ、咄嗟に横へ飛ぶ。その直後にカイザが居た場所に二振りの剣が通過し、地面に叩き付けられる。

 二本の剣を振るったのは、三角形の先細りの頭部に、そこから一対の触手を生やした海老に似たオルフェノク。

 海老のオルフェノクことシュリンプオルフェノクは、避けたカイザを追う様に地面に刺さっている二本の剣を同時に振るう。

 二振りの斬撃を光刃で纏めて受けると、片手でそれを押さえつけながらシュリンプオルフェノクの顔を空いた手で作られた拳で殴りつけ、怯んだ隙に腹部を蹴り飛ばして、距離を離す。

 カイザはシュリンプオルフェノクを斬り付け様と足に力を込め、一気に駆け出す――直前に急停止する。すると、カイザの眼前に巨大な水の塊が通り過ぎていき、高架橋を支える支柱に衝突。コンクリートで出来た柱を大きく窪ませる。

 水を吐いたのは、他のオルフェノクたちとは違い離れた場所に立つオルフェノクからであった。

 喉から腹にかけてある縦線状の畝。手には両端に三又の刃を付けた槍を持っている。鯨とよく似たオルフェノク――ホエールオルフェノクは、灰色の目でカイザを凝視していた。

 

(ちっ……)

 

 カイザこと草加雅人は心の中で舌打ちをする。続け様オルフェノクたちにダメージを与えたが、あと一歩踏み込んだ攻撃が出来ず内心苛立つ。

 ホエールオルフェノクに横槍を入れられたせいで、体勢を崩していたシュリンプオルフェノクは、立て直してしまっている。他のオルフェノクたちも同様であった。

 リモーラオルフェノク、サンフィッシュオルフェノク、シュリンプオルフェノクの個々の力は大したものでは無い。しかし、四対一という数で圧倒的不利な状況のせいで思う様に戦えずにいた。

 そして、気になるのがホエールオルフェノクの存在である。思えば、草加が私用で出掛けていた際に三体のオルフェノクたちが襲ってきたときから、ホエールオルフェノクは殆ど戦いに加わらず、実力も未知数である。

 その立ち位置に誰も文句を言わないことからこの中のリーダー格だと思われた。

 カイザはサンフィッシュオルフェノクの斬撃を避けると共に膝で相手の脇腹を抉り、苦しんでいる間にリモーラオルフェノクへ向け蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた仲間を避け切ることか出来ず、二人纏めて転倒。カイザブレイガンのレバーを引こうとするが、シュリンプオルフェノクの刃がそれを阻もうとする。

 

「邪魔だっ!」

 

 苛立ちを怒声に乗せ、シュリンプオルフェノクの刃を光刃で下から斬り上げて弾くと、がら空きとなった胴体に斬り返した光刃で裂く。

 絶叫を上げているシュリンプオルフェノクの頭部を掴み、引き寄せ、額に銃口を押し当て、光弾を放つ。

 両者の零距離で輝く火花。シュリンプオルフェノクの絶叫はより甲高いものとなり、撃たれた箇所を押さえながら地面の上で悶え苦しむ。

 甲殻類に似ているだけあって頑強な装甲を持っているらしく、致命傷に至らなかったことにカイザの不快感はより増す。

 

 化け物は化け物らしくさっさと死んで欲しい。

 

 ヒロイックな外見とは裏腹に、カイザの内面では怨念の如き感情が渦巻いていた。

 一体ずつ相手にしていても埒が明かない。大火力を以って纏めて始末しようと考え、腰に巻かれたベルトに填め込まれた携帯電話型の変身ツール――カイザフォンに手を伸ばす。

 すると、それを阻止するホエールオルフェノクの水弾。

 一発目は光刃で斬り払ったが、間髪来る二発目に間に合わないと判断し、腕を交差し防御を固める。

 上半身が仰け反る衝撃。両足で踏ん張ることが出来ず、カイザは近くの端に背中を打ち付けた。

 肺や骨を貫く痛み。声を洩らしそうになるが、奥歯を噛み締めてそれを呑み下す。忌々しい相手を前に、自分の苦しむ姿を見せるなど彼のプライドが許さなかった。

 痛みを押し殺し、すぐにカイザは体勢を戻して構える。

 ホエールオルフェノクの動きは、カイザが何をしようとしていたのか明らかに分かっていた動きであった。

 凡そ予想はしていたが、襲撃の理由は間違いなくカイザのベルトの強奪である。

 ベルト一つで四体のオルフェノクを釣れたのは上々かもしれないが、その四体をどう屠るかが釣った後の問題である。

 三体のオルフェノクたちがジリジリと距離を詰めてくる。

 相手がどう仕掛けてくるか、慎重に出方を窺うカイザ。

 そのとき、人気の無いこと場所に不似合いなバイクのエンジン音が聞こえてくる。

 聞き慣れたその音は、カイザの知っている人物が乗っているバイクの音に間違い無い。

 だが、それを聞いたカイザの胸中に湧いたのは、援軍が来たという安堵では無く、目の前のオルフェノクたちよりも更に濃い不快感と敵対心であった。

 オルフェノクたちもエンジン音に気付き、音の方に目を向ける。

 バイクに跨る二人の人物。そのどちらもカイザと似た姿をしていた。

 丁度バイクの真正面に立っていたサンフィッシュオルフェノクは、時速数百キロで疾走してきたバイクを咄嗟に躱すことが出来ず、撥ね飛ばされ、体を錐揉みさせながら地面に勢いよく倒れた。

 同時にシュリンプオルフェノクは、バイクの後部座席に乗っていた者から光弾を撃ち込まれて転倒。バイクの登場に気を取られて無防備な背中を見せてしまったリモーラオルフェノクは、カイザからの銃撃を受けて土を舐める様に顔面から突っ伏す。

 オルフェノクたちの包囲を突き破ったバイクは、カイザの前で旋回しながら急停止すると、バイクに乗っていた二人が降りる。

 

「無事みたいだな」

「大丈夫か! 草加!」

 

 φの文字を模した仮面を持ち、銀の装甲に赤いラインを巡らせるのは、カイザと同系の存在ファイズ。

 頂点が向かい合うΔの仮面、黒を基調した装甲を白色のラインで彩るはカイザとファイズの原型であるデルタ。

 オルフェノクに唯一対抗出来る三本のベルトが、この場所に集う。

 

「――何故ここに?」

 

 ファイズとデルタの参戦に喜びよりも、不信感の様な疑惑の言葉を掛ける。それもファイズに。

 

「話は後だ。行くぞ!」

 

 ファイズの言葉に、カイザは鼻を鳴らすがそれ以上追求することはせず、目の前のオルフェノクたちを倒すことに意識を切り替える。

 不意打ちを受け、倒れていたオルフェノクたちが、受けた痛みを怒りに変え、咆哮を上げながらカイザたちに猛然と襲い掛かってきた。

 

『ハアッ!』

 

 カイザたちは待ち構えてのではなく、一歩前に踏み込み、迫るオルフェノクたちを前蹴りによって迎撃する。

 カイザの足底を胸部に受けたシュリンプオルフェノクは、体をくの字に折ってヨロヨロと数歩後退する。そこにすかさず踏み込み距離を詰めたカイザの光刃の袈裟切りが入り、肩から脇腹に掛けて斜線の裂傷が刻まれる。

 

「あがっ!」

 

 痛みの余り叫ぶシュリンプオルフェノク。するとカイザは、刻んだ傷をなぞる様にカイザブレイガンから光弾を撃ち出す。裂かれても尚灰色の傷を黄色の光弾が穿つ。

 最早、灼熱と化した痛み。撃たれた衝撃で仰け反ってしまうシュリンプオルフェノクであったが、カイザは一分たりとも手を緩めず、カイザブレイガンの柄頭に当たる部分へ掌を押し当て、仰け反り胸を張った形となったシュリンプオルフェノクを光刃で突く。

 突くに適した形をしていないカイザブレイガンの光刃であったが、刃に込められた膨大な熱はオルフェノクの灰色の肉体に潜ると焼き、溶かし、そして突きの威力によって飛ばす。

 ファイズは、腹を蹴り飛ばされて悶えているサンフィッシュオルフェノクに悠然とした歩みで距離を詰めていく。

 カシャリ、とファイズは手首をしならせことで装甲同士が擦れ合い、そんな音が鳴る。

 その音を耳にしたサンフィッシュオルフェノクは、体をビクリと震わせ、痛みに苦しむを止めて大剣を構えた。

 手首をスナップさせた音をゴングにして、ファイズとサンフィッシュオルフェノクの戦いが始まる。

 背負い投げる様にして振るわれた大剣。だが、ファイズは怯むことなく大剣の柄を両手で掴み、自分に到達する前に止めてしまう。

 サンフィッシュオルフェノクはファイズを振り払おうと両腕で体ごと左右に揺さぶるが、ファイズは掴んだ手を放さない。寧ろ、振り払おうことに夢中になっているサンフィッシュオルフェノクの横っ腹を膝で貫く。

 膝蹴りの衝撃で、サンフィッシュオルフェノクは体を硬直させる。その隙にファイズは相手の側面に移動しながら大剣を押さえて下げさせ、移動し終えると同時にサンフィッシュオルフェノクの真っ直ぐに伸びた腕を下から蹴り上げる。

 ひじ関節が逆に曲げられる痛みでサンフィッシュオルフェノクの手から大剣が放されると、ファイズは大振りのフックによる左右の連打で相手の顔を殴打。計六発打ち込むと、休む暇も与えず、相手の肩を片手で掴んで逃げられない様にし、胸部に拳を真っ直ぐ打ち込む。

 拳を放った数の合計が十を超えるとサンフィッシュオルフェノクの膝から力が抜けるが、ファイズは両手で肩を掴み、相手を無理矢理立たせると体ごと捻る様にして放った拳をサンフィッシュオルフェノクの顎に打ち込み、殴り飛ばす。

 デルタは、リモーラオルフェノクとの距離が空くと、手に持っているデジタルカメラ型のマルチウェポン――デルタムーバーを向ける。

 

「ファイアッ!」

『Burst Mode』

 

 デルタの声に反応し、銃の形態へと移行する。

 照準を定めると、引き金が引かれてデルタムーバーのレンズから白色の光弾が発射され、リモーラオルフェノクに着弾、引き金を引いた数だけ火花を上げさせる。

 

「うああああああ!」

 

 気迫を込めた叫びを上げながら、デルタは次々に光弾を放ち、リモーラオルフェノクの体と体力を削っていく。

 リモーラオルフェノクもただ案山子の様に撃ち込まれて続けている訳でなく、完全に体が動かなくなる前に多少の負傷を覚悟でデルタの光弾を受けながら走り、距離を一気に詰めてきた。

 

「があああああっ!」

 

 痛みと傷を代償にして、リモーラオルフェノクはデルタに手が届く位置にまで迫ると、ありったけの力を込め、デルタの頭部を刈り取らんばかりの横振りの拳を放つ。

 渾身の力を込めたそれに、デルタは回避する動作を見せない。

 貰った、とリモーラオルフェノクは確信したとき、リモーラオルフェノクの拳を阻む様にデルタは腕を突き上げる。

 

「なっ……」

 

 そこから言葉を繋ぐことが出来なかった。リモーラオルフェノクの手首に添える様にしてデルタの腕が当てられる。

 リモーラオルフェノクは背筋が凍り付く気分であった。腕がこれ以上動かないのだ。体格は変わらない。だというのに防がれた瞬間、大木でも殴ったかと錯覚するほどデルタは微動だにしなかった。

 圧倒的地力の差を一瞬にして理解させられる。

 リモーラオルフェノクがデルタの力に恐怖している隙に、デルタは当てていたリモーラオルフェノクの腕を弾き、鳩尾に拳を連続で叩き込む。

 体が折れたタイミングでリモーラオルフェノクの顎を突き上げ、リモーラオルフェノクの意識が飛んでいた刹那の間に、デルタムーバーの光弾を撃ち込んだ。

 止めの一撃を放とうと、デルタがベルトに手を伸ばしたとき、不意に横から巨大な影が現れ、デルタを吹っ飛ばす。

 

「うあっ!」

 

 飛ばされ、地面を転がっていくデルタ。カイザとファイズはデルタが攻撃を受けたことに気付き、そして、襲った相手の正体を見て思わず相手をしていたオルフェノクへの攻撃の手を止めてしまった。

 

「何……」

「でけぇ……」

 

 何も無い空中をさも水があるかの様に泳いでいるのは、今まで殆ど傍観していたホエールオルフェノクであった。その下半身は両脚が一体化して尾ヒレと変化していたが、目を引くのがその大きさであった。

 まるで原寸のクジラの胴体に無理矢理人をくっつけたとしか思えないアンバランスなまでのサイズ差。ホエールオルフェノクの畝がクジラそのものと化した下半身と繋がっていることで辛うじて上と下が同一人物のものであることが分かる。

 ホエールオルフェノクは、デルタを吹き飛ばしたときの様にカイザとファイズ目掛けて尾ヒレを振るう。

 咄嗟に身を屈めてそれを躱す二人。

 ホエールオルフェノクは身を捻じりながら空中を泳ぎ、巨体さ故の緩慢な動きで体勢を戻している。

 ホエールオルフェノクの変化を見て、傷を負って倒れていたオルフェノクたちは風向きが自分たちの方に向いたと思い、折れ掛けていた士気が再び高まっていく。

 人とクジラ。大きさを比べれば絶望的なまでに人は矮小である。事実、ホエールオルフェノクも他のオルフェノクたちも勝ったかの様な気になっている。

 だが、彼らは知らない。

 カイザたちがこの程度のことで怯え、竦む筈など無いことを。

 その身に纏う装甲よりも重く、固い信念を持っていることを。

 カイザの内に、振るう光刃よりも熱く、昏い情念があることを。

 

「一気に片を付けるぞ」

「――君に出来るのかな?」

 

 ファイズは無言で左手首に巻かれたリストウォッチを見せる。カイザは、それを見て鼻を鳴らす。

 

「タイミングは合わせてやる」

「巻き込まれて足を引っ張らないでくれよ?」

 

 まあ、そっちの方が都合は良いけどね、という言葉は胸中で呟き、カイザはカイザフォンに手を伸ばす。

 二人が何かしようとしているのを見て、サンフィッシュオルフェノクらが駆け出すが、それを阻む者が居た。

 ファイズが乗って来たバイク。それが、搭乗者が居ないまま自動的に動き出す。

 

『Battle Mode』

 

  電子音声が鳴り、自動走行していたバイクが人型のロボットと変形すると、最接近していたサンフィッシュオルフェノクに拳を叩き込む。

 

「はっがっ!」

 

 来た道を走ってきたとき以上の速度で戻されるサンフィッシュオルフェノク。打ち込まれた拳の重さと威力は、サンフィッシュオルフェノクの体にハッキリと残っているロボットの拳の跡が物語っている。

 ロボットことオートバジンは、左手に装備したバイクの前輪をリモーラオルフェノク、シュリンプオルフェノクに向ける。すると、前輪の回転と同時にそこから無数の弾が発射され、その弾幕によって二体のオルフェノクを大きく後退させた。

 この隙にカイザは、ベルトのカイザフォンにある番号を素早く入力する。

 その動きを見逃さなかったホエールオルフェノクは、本能的に危ういものを感じ取ったらしく、カイザ目掛けて襲い掛かる。

 が、突如としてホエールオルフェノクの巨体が空中で軌道を変える。否、変えさせられた。

 横から現れた二輪の巨大な乗り物が、ホエールオルフェノクの胴体に突進したのだ。ジェットノズルを備えた鋼鉄の塊。重さと速度を掛け合わせた体当たりは、それ以上の巨体を持つホエールオルフェノクでもかなり応える。

 人が扱うには大き過ぎるこの乗り物。それは呼んだのは――

 

「間に合ったか!」

 

 ――デルタであった。ホエールオルフェノクの尾の一撃を受けた後、必要になると思い密かに呼び出していたのだ。この乗り物――ジェットスライガーを。

 デルタは飛び、ジェットスライガーに搭乗する。

 ジェットスライガーの重い不意打ちを受け、苦しむホエールオルフェノク。これによって生まれた時間の猶予が、更なる力をこの場に呼び寄せる。

 

『Battle Mode』

 

 それは最初ただのサイドカーであった。しかし、その電子音声からただのサイドカーは別の物へと変形していく。

 側車は逆関節の二脚に。前輪と後輪は右手と左手に。サイドカーがオートバジンとは違った形のロボットへ変形する。

 オルフェノクたちの奇襲を受け、その場に放置せざるを得なかったカイザ専用のバイク――サイドバッシャー。それをようやくこの場に呼び出すことが出来た。

 カイザ、デルタの準備が完了したのを見て、ファイズは動き出す。

 腰に付けていたトーチライト型ツール――ファイズポインターにベルト中央部分に挿し込まれているメモリーカード――ミッションメモリーを挿し込む。

 

『Ready』

 

 ライト部分が伸びたそれを、右脛部分へ装着する。そして、左手首に巻かれたリストウォッチ――ファイズアクセルに挿し込まれているメモリーを引き抜き、ベルト中央に挿し込んだ。

 

『Complete』

 

 胸部装甲が左右に展開し、内部機構が露出する。全身を巡る赤のラインは銀に色を変え、代わりに仮面の黄色の目が赤へと変わる。

 全て準備は整った。そして、全てを終わるのは十秒後。

 カウントダウンを開始する様に、ファイズはファイズアクセルのスイッチを押す。

 

『Start Up』

 

 ホエールオルフェノクは痛みから復活し、すぐにカイザたちに反撃をしようとする。

 だが、次に彼が視た光景は異常そのもの。

 仲間のオルフェノクたちが見えない何かによって次々と宙を舞っていく。

 正確には不可視の存在では無い。銀と赤の残光。だが、それが見えたときには既に遅い。

 三体のオルフェノクたちに向け展開される赤の円錐状の光。それがオルフェノクたちをほぼ同時に貫き、φのマークを刻み込むと同時に青い炎に包まれ灰化していく。

 仲間の滅びと共に見た。別の姿となったファイズがこちらを見上げるのを。

 突き付けられた死。ホエールオルフェノクは恐怖する。だが、彼は気付かない。突き付けられる死の影で、更なる脅威が動いていることを。

 滞空していたジェットスライガーのカウル部分が左右に展開。現れるのはミサイルの弾頭。積まれたミサイルが一斉発射され、ホエールオルフェノクを爆撃する。

 悲鳴すら呑み込む爆音。いくら巨体でもミサイルの群は致命傷になりかねない。

 追撃の手は緩まない。デルタはミッションメモリーを挿し込んだデルタムーバーを向ける。

 

「チェック!」

『Exceed Charge』

 

 白いラインに光が伝わり、デルタムーバーに注ぎ込まれる。

 カイザも時を同じくして、ミッションメモリーを双眼鏡型ツール――カイザポインターに挿し込み、それを右脛部分に装着していた。

 ベルトをずらし、『Enter』と描かれたボタンを押す。

 

『Exceed Charge』

 

 ラインを通じ、カイザポインターに光が流し込まれる。

 終わりへの最後の仕上げが、ここに全て完了する。

 ホエールオルフェノクに向け――

 ――ファイズは音速の中へ飛び込み。

 ――デルタは引き金を引き。

 ――カイザはサイドバッシャーのカウル部分を足場にして右足を向けた。

 ホエールオルフェノクの四方に浮かび上がる五つの円錐の光。白く輝く三角錐。限りなく黄金に近い黄の四角錐。

 最初に赤の円錐が一斉にホエールオルフェノクを貫く。

 

「たああああああああああ!」

 

 続けて右足を突き出して三角錐に飛び込むデルタ。三角錐の光ごとホエールオルフェノクを貫いた。

 そして最後にカイザが揃えられた両足から四角錐の光の中に飛び込もうとする。同時にサイドバッシャーも動き、左手に装着された六門の砲塔を掲げ、そこから六発のミサイル。更にミサイルから複数の小型ミサイルが発射され、飛び掛かってカイザの後を追う。

 

「でぇぇいやあああああああああ!」

 

 ミサイルを先導するかの様に四角錐へと飛び込むカイザ。

 ホエールオルフェノクの巨体は突き破られ、その身にφ、χ、Δの記号が刻まれたかと思えば、直後に小型ミサイルがホエールオルフェノクに群がり、爆破。

 青い炎は紅蓮に消え、灰は爆風によって跡形も無く吹き飛んだ。

 

 

 ◇

 

 

 全ての戦いを終え、カイザたちは変身を解く。

 カイザは草加に。ファイズは乾巧に。デルタは三原修二に戻る。

 草加はポケットからウェットティッシュを取り出し、手を拭き始める。

 それを巧は不機嫌そうに見ていた。

 

「――何か言うことは無いのかよ?」

「言うこと?」

 

 草加は巧を見向きもしない。

 

「別に何も」

 

 巧の眉間の皺が深まる。

 

「それともお礼でも言って欲しかったのかな? 何時から君は、そんなに恩着せがましくなったのかなぁ?」

「お前……」

 

 草加の嫌味に、巧は一歩前に出る。三原は慌てて二人の間に入った。

 

「と、兎に角! 草加、君が無事で良かった」

 

 三原が草加の無事を安堵する。草加は三原を一瞥し、特に何も言わず手を拭き続ける。

 

「――ったく」

「たっくーん! 草加さーん! 三原さーん!」

 

 それぞれの名を呼びながら誰かが駆け寄ってくる。

 短髪にお人好しそうとも間が抜けてそうとも見える男性。草加と巧が下宿しているクリーニング店の若き店主、菊池啓太郎である。

 草加は何故巧と三原がここに来られたのか察した。啓太郎が偶然オルフェノクたちに襲われた現場を目撃して二人を呼んだのが答えらしい。

 

「みんな無事で良かったー!」

 

 今にも泣き出しそうな顔で無事を喜ぶ啓太郎。

 巧はその様子に呆れながらも口許は緩ませ、三原も苦笑している。

 一気に騒がしくなる場。

 草加は、戦いから日常へ切り替わったことを感じ、彼にしか分からない感情が込められた溜息を一つ吐いた後、その手を拭うのを止めた。

 

 




仮面ライダージオウ出演記念でこの日に投稿しました。
これで本当に最後となります。雑ですが入れたいものをとことん入れてみました。
昔、村上デルタとカイザが戦いで、ミサイル弾幕とゴルドスマッシュのシーンを見てカッコイイと思いましたが、改めて見てみると無茶苦茶ことしてましたね。


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