ナギサに許嫁がいた話 作:ナギサ様には曇らせが似合う
その方が収まり良かったので。
ドゴォォォン!!!
突然の轟音に身を震わせる。
「なに…?この音…爆発?」
そんな疑問を呟いて、窓から外を見る。トリニティの町並みが、赤く朱く照らし出されているのが見て取れた。
「炎…さっきの爆発で?…それに、あの方向って…」
そう呟いた直後、執務室の扉が勢いよく開かれた。つられて扉を見やると、儀仗兵の一人が肩で息をして佇んでいる。
「……そんなに慌てて…さっき爆発の事?」
「はっはい!ご報告あります!」
「先程、セイア様宅で爆発があ、 ピリリ!…」
彼女が続きを話そうとした刹那、通信機に連絡が入る。
通信して来たのは、セイアちゃんの襲撃を頼んだ、アリウスの娘だった。魔が悪いなぁ…なんて思いながら、続きを話したそうにこちらを見つめる彼女に言う。
「……暫く、出ててくれるかな?また後で呼ぶから」
「…しかし…!」
食い下がる彼女を少し威圧して、言い放つ。
「聞こえなかったのかな?私は、出てけって言ったよ?…3度目は、ないよ」
「……はい、了解しました」
儀仗兵が出ていき、足音が十分はなれたのを確認してから通信に出る。
「こちらβ、おまたせ、もう大丈夫だよ。どうぞ」
「こちらα、では、報告する。任務は成功。繰り返す、任務は成功した。どうぞ」
成功、ねぇ…あんなに派手な爆発を起こしておいて?しかも、命じたのは捕縛の筈だ。何をどうしたら、捕縛の際に爆発など起きるのだろうか?
「…………」
「む、……こちらα。β、聴こえてるか?どうかしたのか?どうぞ」
「……こちらβ、うん。聴こえてるよ。どうぞ」
「…では、改めて報告する。任務は成功した。どうぞ」
「ねぇ少し、聞いても良いかな?どうぞ」
「?何か疑問が?どうぞ」
疑問など、さっきから湯水の様に湧いてでている。先立っては、なぜ爆発などしたのかだ。
「さっきの爆発音は、何かな?どうぞ」
「任務に成功した証だ。どうぞ」
「成功の証、ねぇ…ちなみに、その任務って何だったかな?どうぞ」
「??対象の排除だ…どうぞ」
「………私があなた達に頼んだのは、確かに排除だね。でも、それって捕縛の意味合いだった筈だよね?捕縛に、爆弾を使う必要はあったのかな?どうぞ」
「……………」
「何か言ったらどうかな?」
「…仕方が無かった…対象があそこまで脆いのは、想定外だった。あれは事故だ」
「…………どういう事かな?」
「……対象を捕縛する際に予想外の抵抗を受け、銃が暴発した。そしてそれが対象に当たり、結果的に対象のヘイローは破壊された。爆弾は、証拠隠滅の為に起爆した」
その報告を聞いて、思考に空白が生まれる。
そしてあぁそうかと、納得にも似た何かが胸中から湧き上がってくる。
「…………へぇ……そっか……」
「………」
そして、湧き上がってきた納得感は次第に、笑いとなって溢れ出てきた。そうか、そうだったのかと。
「ふっ…フッフッ…あはっ、アハハッ!アッハハハッ!!アッハハハハハハハッ!!!」
「べ、β…?」
「そっか、そうだね、そうかもね。私には、覚悟が足りなかったのかもね。うん、そうだね、奴等を滅ぼすんだもん。これくらいの覚悟は決めないと、駄目だよね…フッ、クックッ気づかせてくれて、ありがとね」
そうだ。私には、覚悟が足りなかった。相手はあのゲヘナだ。不倶戴天の怨敵で、お兄ちゃんの仇。それを滅ぼすのに、なんの犠牲も無いなど、ありはしない。そんな簡単な事に今の今まで気付かなかったなんて、なんて間抜けなのだろうか。自分の間抜けさ加減に笑いが溢れてくる。
しかし、計画がもっと先に進む前に気付かせてくれたこの娘には、感謝してもしたりない。何か報奨を与えよう。それが良い。
そうやって一頻り笑って、1人納得の言葉を漏らしていると、通信機から困惑の声が聞こえた。いけない、まだ会話の最中だった。
「………β?何を言っている…?他に、誰か、居るのか…?」
「ううん…だぁれも居ないよ。だぁれも、ね」
そう言って、なんとか声だけは平常に戻す。
「なら、一体…」
「いいよ、気にしなくて。そんな事より、うん。ありがとうね。今後、何かしらお願いしたい事が出来たらまた、連絡するからさ、取り敢えず今まで通り、1学生として潜伏しててよ」
「……了解した」
その言葉を最後に、通信が切られる。
私としては、もうちょっとお話してても良かったけど、まぁ良い。
しかし、本当に、本当に得難い知見が得られた。白州アズサ…だっけ?あの娘には、感謝してもしたりない。
ふと窓の外を見やる。そこに映る赤く紅く朱く爛々と光輝くトリニティの一角。燃え盛り、セイアちゃんの屋敷を呑み込む炎は、まるでイルミネーションのように綺麗で、私のこれからを祝福しているかのようだった。
「本当に、気づかせてくれて、ありがとう」
「私には、覚悟が足りなかった。何があっても、何を犠牲にしてでも、奴等を滅ぼすという覚悟が」
「もう、私は迷わない。何をしても、誰を犠牲にしても関係ない。私は、奴等を討ち滅ぼす。滅ばさなきゃいけない」
「絶対に」
覚悟は、決まった。
夜が明けて直ぐ、ナギちゃんから昨夜の件について話し合いを設けたいと呼び出しを受けた。
私としても、ナギちゃんの様子を見て今後の動きを考えたかったので渡に船だと直ぐにティーパーティーのテラスへ向かう事にした。
テラスに着きその扉を開けると、もう既にナギちゃんとそのお付きの娘達が集まっているのが見て取れた。
予定時刻よりもだいぶ前に来たはずなんだけどなぁなどと内心思いつつ、席に着く。すると、直ぐにナギちゃんは話しを始めた。
まぁ雑談に興じる余裕なんて無いか。
「……さて、ミカさんも既に知っているでしょうが、昨夜セイアさんが何者かに襲撃されました」
うーん……思いの外平常を保ってる…これは…イニシアチブは取れなさそうかな。
そんな事を考えながら、少し俯いて、声色も何も作って答える。
「………うん……まさか、こんな事になるなんて………」
「セイアさんの安否は不明。焼跡での捜索が続けられて居ますが……消防部の方々は、生存は諦めた方が良いと仰っています…」
「犯人の動機も不明。怨恨とエデン条約関連、その両方の線で捜査を進めるそうです」
「また、救護騎士団の蒼森ミネ団長。彼女の姿も昨夜から確認出来ておらず、何か関係があるものとして調査するようです」
「私が思うに……」
ここでナギちゃんが勿体つけるように一拍置いた。
何だろう?それになんか、雰囲気が変わった様な……
「私が思うに、今回の襲撃はセイアさんがティーパーティーのホストだから、起こった物だと見ています」
思わず、身体の動きが数瞬止まり、瞳も動く。不味いと思って取り繕うも、後の祭りだった。
……失態だ。
「セイアさんが襲われた原因は、まず間違いなくエデン条約でしょう。ですがエデン条約締結の流れは、セイアさん1人を潰した所でもう止まりません」
「なら、どうやって締結の流れを阻むのか…ティーパーティー、そのホストの座に着けば良い。そうすれば、その強権でもって幾らでもやりようはありますからね」
「ねぇミカさん。貴女はどう思いますか?」
あぁバレたなと、うまくいかない事に苛立ちが湧き上がる。
しかし……こちらの狙いをほぼ完璧に言い当てるなんて……まぁ冷静に、普通に考えればわかるか……ナギちゃんがセイアちゃん襲撃にもっと動揺してくれればなあ……本当に、上手く行かないなぁ……
「…もう、ナギちゃんはいじらしいなぁ…そんな風に誤魔化さないで、もっと直球に言えば良いのに…お前を疑ってるぞって。
今の言い方じゃ、性格、悪く見えるよ☆」
苛立ち混じりで少し語気が強くなったけど………まぁ良いか。
元々怪しんではいたみたいだし…まぁそれにどうせ、確固たる証拠など無いのだから、これ以上の追求は出来まい。
だって、証拠が無い以上は言いがかりでしかないのだから。
「そんなつもりはないのですが…」
「あははっ!隠さなくても良いよぉ〜私がナギちゃんの立場でも、同じ様に考えただろうからね」
「主要3分派で、唯一条約締結を反対している分派の首長で、ゲヘナへの恨み憎しみを日頃から隠しもしないタカ派。まぁ怪しいよね、私。わかるよ」
「でもね、流石の私も条約締結を阻む為に、親友を殺したりなんかしない………」
自分で言っておいて、なんて白々しい。なんて薄っぺらい。なんて………醜い。
「…………」
「むしろ、今回の件でやっと覚悟が決まったよ……私達、パテル分派も協力します」
「セイアちゃんの死を無駄になんかしない。お互いに頑張ろうね!ナギちゃん!」
ははっ、自分で自分に反吐が出る。私、何時からこんなふうになっちゃったんだろう?そんなふうに自問するも、答えは出ない。
……どれもこれも、奴等のせいだ。奴等のせいでお兄ちゃんも、セイアちゃんも死んじゃって、ナギちゃんとも争う事になって……そして、私もこんなに穢れてしまった。
どれもこれも、なにもかも、全部奴等のせい。そうやって、憎悪の炎に薪を焚べる。
憎んで憎んで憎んで憎んで憎んで。憎悪と復讐だけが、私の生きる糧。それで私は生きられる。やっと、生きて行ける。
やっぱり、醜いな……
「それじゃ、バイバイ。ナギちゃん」
そう言って、テラスを後にする。
ナギちゃんは、何も言わなかった。けど、仕方ないか……ナギちゃんにとって私は、
テラスから執務室に戻る最中、お付きの…なんて名前だっけ?まぁいいか。お付きの1人が話しかけてきた。
「聖園様」
「なに?」
「本当に、よろしかったのですか?」
要領を得ない質問。それに少し考えるが、特に思いつかなかった。
「うん?………なんのことかな?」
「……条約の事です。聖園様は、あんなにゲヘナの事を嫌っていらしたではないですか…ですのに、あんな…条約の締結に協力するなどと、言ってしまって…」
「フフッハハッアハハッアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!あまり面白くないね。私が?条約締結に?協力する?そんなわけないじゃん」
彼女の質問の間抜けさに、思わず笑いが飛び出る。
冗談にしても面白くない。不愉快だ。
「しかし…」
尚も食い下がる彼女に、面倒くさいなと内心で彼女の評価を下げ、答えてあげる。
「あんなの、口だけに決まってるじゃん」
「……キヴォトスでは、契約は特別な意味を持つ。貴女の懸念点はそこでしょ?」
「まぁね……確かに、口約束も契約にはなるけどね?売買契約とかはそうだし……でも、意味を持つちゃんとした効力を働かせたいなら、口約束じゃダメ。ちゃんと、厳格に、明確に明文化しないと」
「だから、あれにはなんの意味も意義も無い。何時でも破れる、ただの虚言……わかった?」
「仮に通ったとしても……そもそも、「何」に協力するかを明言してないから、多分そこら辺で契約不成立になるんじゃないかな?だって、肝心の協力内容が白紙なんだもん。これって、契約内容の不備に当たるんじゃないかな?」
「でもまぁ……色々面倒くさそうだし、テキトーに手伝ってあげてよ」
「……よろしいので?」
「うん、いいよ〜……ただ…例えば、例えばだけどね?……手伝ったら、なんでか作業の進みが遅くなったり………するかもしれないね?」
「………」
「なんか不満そうだね?どうしたのかな?ちょっとした例え話だよ?」
「……いえ、そんな事は……」
「まぁ本当に例え話だからさ、……わかってるよね?」
「………はい」
「そう。なら良いけど……それじゃ皆、期待してるからね〜」
お付きの娘達にそう言って執務室へ入り、溜息を一つ溢す。
……ナギちゃんが存外に冷静だったのは予想外だった。
もう少し恐慌してくれてた方が色々やりやすかったけど…まぁしょうがない。
ナギちゃんのあの様子的に、アズサちゃんもそのうち目を付けられて、学内では動き難くなるだろう。
「なら…追加の人員を錠前サオリに依頼する?」
……いや、ダメだな。アズサちゃん1人を転入させるだけでもかなり大変だったのに、今この状況で追加の人員を迎え入れるのは無理難題も良いところだ。
それにフィリウスの内通者によれば、ナギちゃんはどうやらアリウスをアリウスとは感づいてはいないものの、私と何処かの集団が接触しているのは知っているらしい。
まぁそれが私の協力者かそうじゃないのかは、まだわかってはいないとの事だけど……下手に動いて、完全に気取られるのは不味い。
「ナギちゃんも意外と手強いなぁ……」
「うーん……アリウス側も結構時間が欲しいみたいだし…それはこちらも同じ……なら、とりあえずは
「まずは、私のプランから。もしそれが失敗したら、アリウスのプランに……まぁアリウスが何をするのかは知らないけど………ゲヘナさえ滅ぼせるなら、それでいい」
「私は、パテルもフィリウスもサンクトゥスもアリウスも…そして、トリニティも。全部全部ぜーんぶ……ゲヘナを燃やす薪にする。その覚悟は出来てるよ」
「貴女はどうかな?ナ〜ギちゃん☆」