応援合戦も終わった後、残るはチーム対抗リレーとなった。やれやれ、体力が無い私はもう疲れました。学ランも何気に重いし、暑い。
「もう着替えても良いですか?後はチーム対抗リレーと閉会式だけですし」
「そーね、アタシも着替えたいし……ちょっと行こっか千紗」
やる事も無くなったし着替えようかと思ったら柴田さんが一緒に着替えると言い出した。柴田さんならノリノリでチア姿のままで閉会式も出そうなのに、ちょっと意外。
「さ、行こ行こ!早くしないと閉会式にも間に合わなくなるかもだし」
「まだチーム対抗リレーが残ってますし、時間はありますよ?」
何故かグイグイと私の背を押す柴田さん。何処か焦っている様な気もするけど……まあ、確かに急がないと閉会式に間に合わないか……と思った私は油断していた。
私の後ろで柴田さんが園子さんにアイコンタクトを取り、サムズアップをしていたのを後で知らされた。
◇◆side柴田澪◆◇
私は千紗と着替える為に教室へと移動した。それもこれも私がこの体育祭でやりたかった事の一つを叶える為に。
「ねぇ、千紗……チア服、着てみない?」
「なんで予備のチア服があるんですか?明らかに私の服のサイズですよね!?」
千紗と一緒に応援合戦したかったのも本当だけど、もう一つどうしてもしたかった事がある。それが千紗にチア服を着させる事だった。
「布が少し余ったから作ったんだよ〜。多めに布とか買っといたんだ」
「意図的にしてたって事ですよね!?最初からそのつもりだったのでは?」
私のわがままであるけど千紗と一緒にチア合戦したかったけど千紗はチア姿は人前じゃ絶対に晒せないと拒むのは分かってたから千紗は応援団長姿にしたけど、やっぱ千紗のチア服姿も諦めきれなかった。だからこそ体育祭が終わって、着替えるタイミングを見計らっていた。今なら少しだけ時間もあるし、誰もいないから着替えてくれる筈。
「可愛い衣装ですけど……私には似合いませんよ。チビで貧乳の私には……ひにゃぁ!?」
「もう千紗ってば可愛いのに、その辺りは頑固だよねぇ。こーんなに可愛いちっぱいなのに」
私は千紗の服を捲りあげ無理にでも着替えさせようした。咄嗟に阻止しようとした千紗だけど慎ましげなちっぱいは少しだけ見えた。
「ちっぱいって言わないで下さい!小さいのは事実だけど」
「それ含めて可愛いんだけどなー」
顔を真っ赤にした千紗。本当に可愛いなこの小動物。
「冗談はさておき……千紗は最近こそちゃんとアタシ達と遊んだりしてくれてるけどさ……一緒の思い出が少ないじゃん。だから千紗とチア姿をペアで撮りたかったの」
「〜〜〜っ。着替えるのは良いですけど写真に残すんですか?」
アタシがそう言うと千紗は割とすんなり着替える事は了承してくれた。写真は抵抗あるのかな?でも、園子さんと話し合いでその辺りは織り込み済み。
「だいじょーぶ。記念に撮るだけだから見せるのは葵と後は千紗の家族周辺だけだから!」
「そのくらいなら……じゃあ着替えますね」
そう言って私に背を向けて着替え始める千紗。
『計画通り』
記念に写真を撮りたいのも本音だけど、私は園子さんと話し合い、千紗のチア服姿を写真に収めて白馬さんに見せる計画をしていた。
普通にお願いしても千紗は恥ずかしがってOKは絶対に出さない。でも色々と理由を付けた上で『千紗の家族周辺』と言えば千紗の中では毛利家とコナン、園子さんも含まれる。更に未来の旦那って事で白馬さんに見せるのも問題無しって事でゴリ押ししようと園子さんと話し合った。
そして予想通り、千紗はすんなりと写真に応じてくれた。
「き、着替えました……」
「はーい。って……ぎゃわいい!!」
振り返ったアタシが見たのは……丈の短いスカートにモジモジしてる千紗の姿だった。
アタシはスマホのカメラを速写モードにして連写した。
「ちょ、や、は、恥ずかしいんですけど……」
「良い!凄く良い!」
アタシは我も忘れて撮りまくった。お金取れるレベルの被写体でしょこれ。
「はー……よし、並んで撮ろう」
「なんで私だけ何枚も撮ったんですか。まあ、並んで撮るくらい……おい」
アタシは千紗を抱き寄せてスマホのカメラで自撮りをしようとしたんだけどアタシの胸で千紗の顔が埋もれてしまった。千紗の顔が半分も見えなくなっちゃったー。失敗失敗。
「本当に喧嘩売ってますよね?」
「そんなんじゃないよっと」
千紗の顔が映る様になったタイミングでアタシはスマホのカメラで何枚か写真を撮る。うん、良い角度で撮れた。
「うん、バッチリ。後で送るね。白馬さんも喜ぶよ」
「まったくもう……写真だけで疲れました……って何故、白馬さんに?」
アタシが写真チェックをしながら呟くと千紗はギギギっと首がぎこちなく振り返った。
「千紗のチア姿見れなくて残念そうにしてたからねー。あ、大丈夫。まずは蘭さんと園子さんに送るから」
「なんでその二人をチョイスしたんですか!?絶対に白馬さんに見せようとするじゃないですか!」
アタシの発言に千紗はアタシからスマホを取ろうとするけど身長的に届かずアタシの前でピョンピョンと跳ねるばかり。この姿も実はこっそり録画中。
「じゃあアタシから奪ってみたら?そしたら送らないであげる。でも、今から白馬さんに見せに行くけど」
「そんな条け……あ、もう外に!?」
アタシは千紗に条件を突き付けた後、ダッシュでグラウンドに向かった。千紗も跡を追って来たけどアタシの方が足が速いから追いつけない筈。
そしてアタシがグラウンドに辿り着いて……事件は起きた。
◇◆side毛利千紗◆◇
と回想も終わり再び喫茶店内。
「あの時は悲劇だったね。『千紗ちゃんチアガール事件』」
「犯人が堂々と言わないで下さい」
私は柴田さんの頬をつねる。
そう……あの後、写真の流出を止めようと必死になっていた私は気付かなかった。私と柴田さんが着替えやら、写真を撮っている間にチーム対抗リレーは既に終わっており、閉会式の準備が進んでいた。
そんな中で柴田さんが白馬さん達が居る観客席まで走った事で注目を集め、私がその後を追った事で生徒、教師、保護者からの視線を一斉に集めてしまう事態になってしまった。
その事に気付いた私は即校内に逃げ戻ったのだが注目されて話題になってしまった。
閉会式でも生徒代表が「チアガールが一人増えるトラブルがあったみたいだけど〜……」なんて締めの言葉に冗談を混ぜるものだから私としては居た堪れない。
しかも柴田さんに追い付けなかった事で私のチアガール写真は白馬さんやお姉ちゃん達に送られてしまった。それ経由でお母さんや沖野ヨーコさんからも『可愛い』とメッセージが送られる程である。どんだけ拡散されたの私のチアガール姿。
知り合い関係に広がったと思うべきか……和葉さんや平次さんからも揶揄う様なメッセージが届いたし。平次さんは後で『メールの着信音「俺の和葉が〜」の刑』に処すとしよう。絶対に録音せねば。
「でも、良かったんじゃない?体育祭は盛り上がったし、白馬さんも喜んでたんでしょ?」
「その分、私のメンタルがダメージを負ったんですが」
早川さんはフォローをしようとしてくれたけど、私にとってはメンタルがボロボロである。チア姿でも恥ずかしかったのに、あの場の全員に見られて話題にされるとか拷問だったんですけど。
でも……白馬さんは似合ってる、と言ってくれたけど涼しい顔してたんですよね。あの後、すぐに紅子さんと帰っちゃったし。
実は私としてはあの面子が揃って強盗やら殺人やら事件が起きなかった事を喜びたい。
オマケ
◇◆side小泉紅子◆◇
千紗ちゃんの出ていた体育祭の観戦。白馬君も行くと言うし私も興味深かったから行ったんだけど。応援団長姿を見せた所で分かりやすく落胆していた。
あの格好も可愛いとは思うけど白馬君はチアガール姿と聞いていたからガッカリしてるのね。
その後、体育祭のプログラムも進行して最後のチーム対抗リレーが終わった頃に騒動が起きた。
先程の応援団長姿からチアガールに着替えた千紗ちゃんがクラスメイトを追いかけていた。スマホを持って走って来た女子生徒を止めようとしていたみたいだけどグラウンド全員の視線を集めてしまった事に気付いて顔を赤くして校舎に逃げて行った。
白馬君は女子生徒からスマホで撮影したと思われる千紗ちゃんの写真を送ってもらっていた。意外ね。もっと顔を赤くしたり、動揺すると思ってたのに。
その後、閉会式も終わった後、チアガール姿の千紗ちゃんの事を「似合っていましたよ。可憐でした」とコメントを残して、現在は私と帰路についている。
チラリと横顔を見て……もう限界なんだと理解した。
「可愛すぎるでしょう……千紗さん」
白馬君は顔を真っ赤にしていた。好きな子のチアガール姿に完全にK.O.されてるわね。さっきまではギリギリクールな顔を保ってたけど限界だったのね。
「探偵やマジシャンは常にクールに……だったかしら?」
「無理ですよ、さっきの千紗さんを見たら……」
私の言葉を即否定する白馬君。こんな情けない表情は見せたくないと呟く彼だけど……見せた方が千紗ちゃんに想いが伝わると思うわよ。
千紗ちゃんと白馬君……この二人がくっつくのはまだ先になりそうね。
私はこの先も二人の恋物語が間近で見れるわね……と心の中で思った。