◇◆side白馬探◆◇
千紗さんを抱えたまま悲鳴のした方へと向かうと行き先はトイレだった。スケート靴を履いたまま用を足せる特別な仕様のトイレで混雑している場所。
現場にたどり着けば、床に座り込んでいる園子さんに……僕よりも早く駆け付けたコナン君。
中を見ればトイレの中で血塗れで倒れている女性と血で書かれたSの文字。
名探偵ある所に事件あり……と言ってる場合ではありませんね。
「千紗さんは毛利探偵に話を、コナン君は警察に……」
「お父さんを呼んできます。それと警察に連絡と職員さんに話をしてトロピカルランドから人が出ない様に封鎖して貰います」
「僕は現場の状態を保存するよ。誰も入れない様にしないと」
僕が指示を出す前に二人とも動いていた。
千紗さんもコナン君も工藤新一に鍛えられているとは聞いていたし、僕も事件現場で彼女達の行動力は知っていたつもりだけど、ここまでテキパキと動けるのは何とも言えませんね。僕が言うのもあれですが慣れ過ぎでしょう。
その後、警察と毛利探偵が駆け込み現場検証となった。僕も若輩ながら捜査に参加していた。しれっと千紗さんとコナン君も参加していた。
容疑者と上げられたのは被害者の伊丹千尋さんの友人である三沢康弘さん、佐野泉さん、小松頼子さん、織田國友さんとされた。
伊丹さんはクレー射撃用のショットガンで撃ち抜かれて即死だった様だ。凶器のショットガンは容疑者の四人なら誰でも撃てる代物だと判明する。
毛利探偵はダイイングメッセージとしてSの文字から佐野泉さんが犯人だと推理した。
しかし、伊丹さんは銃で胸を打たれ即死の状況でダイイングメッセージを残せるとは思えず、目暮警部や高木刑事にも否定されていた。
毛利探偵がこんな初歩的な推理ミスをするなんて……まさかとは思うけど僕に謎を解かせるためにわざと間違った推理をしたのだろうか?
そんな考えをしていた僕だったけどコナン君や千紗さんは次々に残された証拠を見つけ出していた。
銃に残された唾液や伊丹さんのポケットの中の携帯電話に残された『KIX』の文字。園子さんが聞いた花火の音の違和感。
そう言えば、あの花火の音は妙だった。僕と千紗さんが居た位置から花火が上がるのであれば僕達から見て西側に花火が上がるのに音が聞こえたのは東側からだった……つまり反対側から花火が上がる音が聞こえた事になる……それに花火が上がったと思って顔を見上げたけど花火はまだ上がっていなかった。
つまり、あの音は録音された物……または代替の音があったという事になる。
でも、花火の音と似ている音なんて思っていたらヒュウゥゥゥゥゥゥと音が鳴る。音の発生源は千紗さんだった。
「恐らくこれが直前に聞こえた花火の音ですね」
「これに合わせて銃を撃てば花火の音と誤魔化せるかもね」
振り返れば千紗さんが日本硬貨の5円玉を唇に当て、勢いよく吹く。すると花火の上がる様な音が鳴っていた。それにタイミングを合わせて銃の引き金を引けば花火の音と思わせる事は可能だろう。
「確かに……では後は誰が犯行したかですね」
千紗さんとコナン君のアドバイスのお陰であの四人の誰もが犯行が可能だと分かった。
毛利探偵の推理であるSのダイイングメッセージはほぼブラフだろう……だが逆にそれが怪しい。まるで自身が一度犯人にされる事で容疑者から外される事を見越したかの様な……
「白馬さん……容疑者の皆さんの名前なんですが……全て空港の名前なんです。織田さん以外の皆さんが」
「そっかー。伊丹さんは織田さんだけが仲間外れって言ってたけど、その事なんだね!」
千紗さんの発言にコナン君が驚いた様な仕草を見せる。三沢康弘さん、佐野泉さん、小松頼子さん、織田國友さん。
三沢空港、小松空港、伊丹空港となる。佐野泉さんはKIXは関西国際空港のスリーレターコード。つまり大阪の泉佐野市の関空の事を意味する。そして織田さんだけが空港に関わらない名前となった。
更にトイレの個室で発砲したなら飛び血がスケートの先端に付いているのでは?と言う事となり現場を確認するとトイレの床にはスケートのブレードの傷跡があり、血が付着していた事から犯人のスケート靴に血痕が付着している事が断定された。
謎は解けたが僕は少々釈然としなかった。千紗さんもコナン君も探偵助手として、かなり優秀だけどスムーズに進みすぎた気がする。まるで千紗さんとコナン君に誘導されたかの様だった。
そんな事を思いながらも謎は解き明かさなければならない。
事件の関係者を集め、推理を披露して佐野泉さんが犯人と断定され、逮捕に至った。
僕が犯行動機を尋ねれば、佐野泉さんの同期の成田さんの敵討ちだと自供した。
伊丹さんは当時、成田さんは伊丹さんと交際関係にあったが、伊丹さんは他の男性と浮気をしていた。その事を苦に成田さんはクレー射撃のショットガンで自殺をしたが銃の点検中の事故として片付けられた。
その事に憤慨した佐野泉さんは成田さんの仇を討つべく伊丹さんを殺害した。
伊丹さんは成田さん以外の男性と浮気を重ね、バレそうになると咄嗟に知り合いの名前を出して誤魔化そうとする癖があったらしい。
伊丹さんは成田さんと付き合う中、浮気がバレそうになり咄嗟に織田さんの名前を出して誤魔化した。その事で恋人と親友に裏切られたと成田さんは自らの命を絶った。
しかし、この話には続きがあり織田さんはこの二人の話に関わっていなかった。それどころか二股の事実はなく、織田さんは佐野さんの事を想っていた。その想いは佐野さんにも成田さんにも伝わっておらず、結局伊丹さんの人を弄び、誤魔化す嘘が最悪の結果を生み出した事件だった。
重苦しい雰囲気の中、警察に連行される佐野さんに千紗さんが声を掛けた。
「今更かもしれませんが……アナタ達はもっと意見を交わすべきでした。悪意と誤解が重なった結果だったとは言っても誰もこの結果を望んではいなかったと思います」
「……っ……そうね。貴女は後悔しない様にしてね。私の様になっちゃダメよ」
千紗さんの言葉は誰もが思いながらも口に出来なかった言葉だった。佐野さんの言葉を千紗さんはどう思ったのか僕は知る事は出来ないけど……僕の想いはいつ伝わるのかため息を吐きたくなった。
その後、帰り道で園子さんの携帯に着信が入り、相手は京極氏だと分かったが園子さんは涙目になりながら何故、連絡しなかったのかと怒鳴っている。どうやらお互いの連絡先は交換したが京極氏は連絡を躊躇っていた様だ。その事が園子さんの寂しさを加速させていたのだろう。
京極氏と話をする園子さんは怒っている様だが嬉しそうにしている。
長年の付き合いでも拗れた佐野さんと織田さん。
物理的な遠距離恋愛となりながらもお互いが通じ合っている園子さんと京極氏。
今は離れ離れになりながらも通じ合っている蘭さんと工藤新一君。
恐らく両片思いの服部平次君と遠山和葉さん。
想いをストレートに伝えても伝わらなそうな僕からしてみれば羨ましい限りなんですけどね……
この事件の数日後に千紗さんから工藤新一君が蘭さんに専用の携帯電話をプレゼントしていたと千紗さんが嬉しそうに話していた。千紗さんは工藤新一の事をいつも尊敬している、頼りになるといった話が多い。
僕の恋の一番の障害は未だに姿を見せない千紗さんの義理の兄なのかも知れないと実感した。
白馬「僕の想いはいつちゃんと伝わるんだ……」
怪盗三世「少なくとも俺の出番が来るよりも後だってよ」
白馬「っ!!?」