毛利家の次女   作:残月

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自分の評価と家族の評価は微妙に違うもの

 

 

 

 

 

◇◆side毛利小五郎◆◇

 

 

 

千紗が車に轢かれたと蘭から告げられ、俺達は英理に連絡した後、急いで隣町の病院へと行った。タクシーで向かったので直ぐに到着し、病院で家族である事を伝えると病室へと案内された。歩きながら看護師の話を聞くと車に撥ねられたにしては怪我は浅く、今は静かに眠っているだけで直に目を覚ます筈だと聞いて心底安心した。

 

千紗は俺と英理のどちらに似たかと言えば、それは間違いなく英理だ。犯人を問い詰めた際の言動や先日の量子さんへの圧も英理譲りの胆力だろう。料理の腕前は英理に似ないで良かったと本気で思ってる。

 

千紗の性格は間違いなく英理寄りだ。

だからこそ、俺と英理が数年前に別居する事になった時に俺から離れるだろうと思っていたが、千紗は俺の所に留まった。

疑問に思っていた俺が何時だったか酔っ払ってそれを千紗に聞いちまった時、千紗は「お母さんが出て行ったならお父さんとお姉ちゃんと私で家に居て『お帰りなさい』って言ってあげなきゃでしょ?」なんて言って、英理が必ず帰ってくる事を確信している様な奴だった。

正直、蘭や千紗が居なけりゃ俺達夫婦はとっくに離婚していただろう。本当に娘達に頭が上がらねーな。

 

 

「こちらです」

「ああ、すみませ……もう来てたのか?」

「当たり前でしょ」

「千紗!」

「千紗ねーちゃん……」

 

 

看護師に案内された病室に入ると、先に到着していたのか英理がベッドで眠る千紗の手を握っていた。蘭と小僧は真っ先に千紗が眠るベッドに駆け寄る。

ベッドに眠る千紗と英理の顔を思わず見比べてしまい、やっぱ似てると思っちまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆side妃英理◆◇

 

 

千紗が車に撥ねられたと蘭から連絡があった時は心臓が止まるかと思った。偶々近くにいた事もあり、私はすぐに病院に出向き、病室に駆け込んだ。ベッドではお昼寝をするかの様にスヤスヤと眠る千紗が。脱力しかけたけど、千紗の手をしっかりと握る。その手の温かさに私は安堵した。

 

千紗の治療に当たってくれた医師の話では、千紗は事務所から見て隣町のスーパーの特売に行った帰りに、猛スピードで走ってきたタクシーに轢かれそうだった子供を庇って轢かれたとの事だった。その際、運が良かったのか買い物した袋の中に入っていた野菜やトマトの缶詰等がクッションの役割を果たして衝撃をやわらげていたそうだ。更に撥ねられた際に頭を庇いながら植え込みに落ちたらしく、受け身も完璧だったとの事だ。

しかし、トマトの缶詰が噴き出して周囲の人は千紗が車に轢かれて全身血塗れになった様に見えたらしく、現場は大騒ぎ。タクシーを運転していた男は慌てて逃げたそうだけど、タクシーだったから会社も判明しており、今は警察が動いている。千紗が轢かれた時に手際良く応急手当てをしてくれた女性も居てくれたから、今回の様に軽傷で済んだみたい。

 

他の人を庇って怪我をするなんて、刑事時代のあの人みたいじゃない。

千紗は昔からあの人と同じで、妙な所で行動力を発揮する子だった。蘭や幼馴染の新一君と遊んでる時も、気が付けば千紗が一番泥まみれになっていた事もある。普段は面倒くさがりなのにいざと言うときの行動力はあの人譲りで間違いない。

最近、蘭から聞いた話ではあの人の真似なのか事件の犯人を問い詰めていたそうで、犯罪を犯してしまった人の説得や許さない姿勢は本当に似てる。

 

私とあの人が別居をして蘭や千紗には負担を掛けてしまってる事をいつも申し訳ないと思っていたけど、千紗は「お母さんはお父さんに素直に謝って欲しいだけなんだよね。ツンデレって一周回ってレトロだと思うけど、そんなお母さんを可愛く思ってるからお父さんは素直になれないんだと思うヨ」と言ってビシッとサムズアップしていた。正直、親に対して言う事ではない言動が多かったけど、蘭も千紗も良い子だから私達夫婦は離婚せずに済んでいるのだと本当に思う。

 

 

「こちらです」

「ああ、すみませ……もう来てたのか?」

「当たり前でしょ」

「千紗!」

「千紗ねーちゃん……」

 

 

看護師に案内されてあの人……私の旦那と蘭と預かっている子供のコナン君が病室に顔を出した。コナン君の事は蘭から聞いていたけど、良い子で千紗とも本当の姉弟みたいなんだと楽しそうに話していた事を思い出す。蘭とコナン君は千紗のベッドに駆け寄り、私の旦那は私と顔を見合わせて気まずそうに顔を歪めた。

千紗の行動力と無茶をするのは間違いなくこの人の血よね。

 

 

 

 

 

 

◇◆side蘭◆◇

 

 

千紗はお父さんとお母さんが別居を決めた時にも泣こうとしなかった。私は新一に泣いて相談した事もあったけど、千紗は「二人の気が済んだら元通りになるから大丈夫だよ」なんて気にもしていなかった。そう思ってたけど、それはお父さんとお母さんを信じていたからこその発言だったと、今ならわかる。

千紗を良く知らない人は千紗の事を『ドライな娘』なんて言うけど、本当は優しい妹なんだと私は勿論、新一や園子だって思ってる。

 

 

新一は「千紗は確かに一歩引いた位置から言う事が多いけどよ……それは感情的になってる人達を客観的に見てるって事で、言いかえれば、その場をどうにかする為にそうしてんだと思うぜ?」なんて言ってたし。その言葉通り、千紗はなんやかんやで喧嘩するお父さんとお母さんを宥める事が多かった。

千紗は新一の事も新兄なんて呼んで兄妹みたいな感じになってた。時折、本当の兄妹なんじゃないかって思う程に。

 

千紗は私と新一の事を「もう付き合っちゃいなよ」って、笑いながらからかってくる事が多くて、優しくて。

私が部活をして家の家事をする回数が減っても「私は部活に入らないし、お姉ちゃんは部活に専念して」と言ってくれて。

「お母さんやお姉ちゃんのお胸が羨ましい。私の体は起伏に乏しい」なんて言って嘆いてるけど、私からしてみれば千紗は守ってあげたくなる可愛い容姿をしてると思う。だから園子もよく「素材が良いのに地味コーデが勿体無い」って言ってるし。

 

そして私と新一の事をいつも見てくれる……私の恋を応援してくれる妹が大好きだった。

 

だからこそ、千紗が事故にあったと聞いた時に私は膝から崩れ落ちそうになった。千紗まで新一みたいに居なくなったらどうしようと体がガタガタ震えるのが自分でもわかった。

タクシーで病院に向かう中、コナン君が手を握ってくれてなかったら私は途中で倒れてたかもしれない。 

 

病院に着いてからベッドで眠る千紗を見て私は安堵から泣いてしまった。良かった……本当に良かった。

 

 

「じゃあ、その応急処置をしてくれた人は行ってしまったんですか?」

「ええ、ご家族が迎えに来た事を聞いたら行ってしまいました。お大事にとの事でしたよ」

 

 

千紗の容体を聞き終えたお父さんはお医者さんに千紗の事を診てくれた人の話を聞いていた。

 

 

「その方の連絡先とかはご存知でしょうか?お礼を言いたいのですけど」

「それが聞く前に行ってしまったもので……ですが警察の事情聴取の時に会えるかも知れませんよ?現場検証で顔を合わせる事もあるでしょうから。名前だけは伺っていますよ」

 

 

お母さんの質問にもお医者さんは首を横に振った。私達が来る直前までは千紗に寄り添ってくれていた人は連絡先も知らなかったけど、会える機会があるかも知れない。きっと優しい人なんだろうな。じゃなきゃ千紗がこんなに安心して眠ってるなんてないもんね。

 

 

「確か名前は……宮野明美さんと仰ってましたよ」

 

 

お医者さんから千紗を助けてくれた人の名を私は忘れない様に覚えることにした。会えたら絶対にお礼を言わなきゃ。

 

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