◇◆sideコナン◇◆
妹が鬼になった……と言いたくなる状況だった。
捕まった森谷教授が中々、残された爆弾の話をしない為ガーデンパーティーに招かれた毛利一家が話をすれば少しは態度が軟化するかも知れないと目暮警部に頼まれたおっちゃんの頼みで俺と千紗は森谷教授が拘留されている警察署へと赴いた。
そして捕まった森谷教授は俺……つまり工藤新一への恨みからの犯行だったと判明する。
森谷教授が放火や爆破しようとした建物の全ては若い頃の未熟な作品で森谷教授にとっては存在してはならない建物だった。
しかも西多摩市の再開発計画の頓挫は俺が都市開発計画を主導していた岡本市長の犯罪を暴いたからだった。その事で森谷教授は俺にターゲットを絞ってガーデンパーティーに招いたり、蘭から俺の話を聞こうとしていたと判明。そして爆破事件を起こそうとした日に……匿名の電話で爆破予告があり、爆弾の設置をしていた森谷教授は逮捕された。取調べを担当している目暮警部の話では余罪もポロポロ出て来ているとの事だった。
なんとか残りの爆弾の場所を聞き出さなければ、となった所で目暮警部から許可を貰った千紗が取調室で森谷教授と面会して……千紗の容赦無い口撃に森谷教授は沈んだ。
ボクシングだったら容赦のないジャブでフラつかせた後にストレートで意識を奪い、アッパーでトドメを刺したって所か……
言葉は刃物になる。使い方を間違えればどんな凶器よりも鋭い刃と化すと俺は思っていたけど……千紗の言葉はナイフを通り越して刀だった。それも腕利きの侍が持つ名刀クラスの。
森谷教授を完全にK.O.した千紗の満足そうな顔に俺もおっちゃんも目暮警部も若干引き気味だった。
「さて、米花シティビルは避難対象になってるから、お姉ちゃんのデートもご破算かな?お父さん、お姉ちゃんを迎えに行ってあげて?私とコナンは新兄にも連絡しなきゃだから。ね、コナン?」
「そ、そうだね千紗ねーちゃん」
「お、おう……お前達もすぐに来るんだぞ?」
警察署を出た後、千紗がこんな事を言い始めて驚かされると同時に俺に視線を向けた千紗に嫌な予感がした。多分、工藤新一としてのフォローをしてくれるんだろうけど背筋に嫌な汗が流れるのを感じる。
おっちゃんは先に蘭を迎えに行くと先に米花シティビルへと行ってしまった。
「さ・て・と!今度は新兄の方の問題も解決しなきゃだよね。ちゃーんと責任取らなきゃね?まずは阿笠博士の所に行かなきゃ」
阿笠博士の所に行くって事は道端や人の目がある所じゃ出来ない事をするって事だ。どうにも不安しかないけど千紗のやる事に任せるしか無い。今の俺は工藤新一に戻る術が無いんだから。
「大丈夫、私に任せて。みんなで幸せになろうよ」
千紗の姿が小悪魔や鬼から胡散臭い中年の姿に見えたのは言うまでもなかった。
◇◆side蘭◇◆
新一に森谷教授のガーデンパーティーに代理で行って欲しいと頼まれた私はその代わり5月3日に米花シティビルの米花シネマでオールナイトの映画を見る約束をした。
お父さんや千紗には「デートだ」なんて言われたけど、そんなんじゃないから!あの推理バカは私が思い出させてあげなきゃ自分の誕生日ですら忘れてしまう。だから私が毎年思い出させてあげている。うん、これは幼馴染としての行動だと自分自身に言い聞かせた。
5月3日の当日に新一の誕生日プレゼントとして赤いポロシャツを渡すつもりだった私は園子に買い物に付き合って貰って後は新一との待ち合わせの時間を待つばかりだった。
園子と共に米花シティビルのカフェでお茶をしていたら館内放送で『避難指示に従って外へ出て下さい』と放送が入り私と園子は訳がわからないまま米花シティビルの外へと避難してビルから遠ざけられてしまった。本当になんなんだろう?
そんな風に疑問に思っているとお父さんが「おーい、蘭!」と大声で私を呼びながら走ってきた。なんで此処に居るの!?というか恥ずかしいからこんな人混みの中で目立つ真似はしないで欲しかった。
でもそんな考えは必死の形相のお父さんの一言で四散してしまった。「ここじゃ話せない、俺と家に帰るぞ」と言うお父さんに私は抵抗した。せっかく新一とデートなのに。そんな風に思っていた所で千紗とコナン君も合流した。みんなして本当にどうしたの?
無理矢理家に帰らせられた後、森谷教授が最近の連続放火犯であった事やプラスチック爆弾の材料となる物を盗んだ窃盗犯でもあり、森谷教授のギャラリーで見せてもらった建築物の破壊を目論んでいた事を聞かされた。一度に聞くには情報が多すぎて混乱する私に更なる追い討ちが来た。
お父さんから説明を引き継いだ千紗によれば森谷教授は新一が西多摩市の岡本市長の犯罪を暴いた事で失脚して自分の作品が満足に作れなかった事の恨みを晴らそうと私と新一のデートの邪魔と殺害を計画していた。森谷教授がギャラリーで私に新一との関係を聞こうとしていたのはそれが理由だったのね……
「そ、それでね新一にーちゃんが『今回の件みたいに俺が解いた事件の関係者が俺を恨んでるかも知れないから過去の事件の洗い出しをする。悪いけど今回の映画はまた今度で頼む』って蘭ねーちゃんに伝えてくれ……って」
「私とコナンは新兄に会ったんだけどオシャレしてたよ。お姉ちゃんとのデートが楽しみだったんだね」
「そっか……あの推理バカは行っちゃったか……」
そんな中、コナン君と千紗が申し訳なさそうに私に新一の事を教えてくれた。確かに重要な事だけど一目私に会ってくれても良いのに……ジワっと涙が出そうになる。新一は私の事なんかどうでも良いのかな……
『じゃあお姉ちゃんには会っていかないの、新兄?』
『蘭ねーちゃん、凄く楽しみにしてたみたいだよ?』
『しょうがねーだろ……俺だって映画に行けるなら行きたいっての』
「え?」
俯いた私の耳に届いたのは千紗とコナン君と新一の声……私が顔を上げると千紗が携帯電話で録音した音声を流していた。もしかして千紗とコナン君が新一に会った時の会話なの?
『今回の事は俺に対する逆恨みが原因でもあるんだ。危うく蘭にも危害が及ぶところだったんだぞ。もう、こんな事が起きないように入念に調べなきゃなんだよ』
『せめて一目くらい会って行けば良いのに。最近、会えてないでしょ?』
新一の言葉にコナン君が新一を咎める様な声を出す。
『まあ……新兄の気持ちもわかるよ?お姉ちゃんを巻き込む所だったんだから。でも本当の理由は違うでしょ?』
『新一にーちゃんの本当の理由って?』
『おい、余計な事を言うなよ千紗』
携帯から流れる千紗の楽しそうな声に私は耳を傾ける。
『新兄はね、本当はお姉ちゃんとのデートを凄く楽しみにしてたの。でも自分が原因でデートがご破算。次はこんな事が起きない様に徹底したいのと、そんな風に念入りにデートの準備をしている事をお姉ちゃんに知られたくないんだよ。新兄はカッコつけだから』
『へー、そうなんだ』
『蘭には絶対に言うんじゃねーぞ……』
千紗とコナン君のニヤニヤとした表情で喋っていて、新一が恥ずかしそうに照れているのが目に浮かぶ。此処で会話が終わったのか千紗は携帯電話の録音再生を終わらせた。
「新一にーちゃんも苦渋の決断だったみたい。だから許してあげてね」
「今回の映画の分も次のデートで倍返しを期待してみたら?」
「そっか……新一も楽しみにしてくれてたんだ。全く……仕方ないから許してあげようかな、あの推理ホームズ馬鹿を」
コナン君と千砂が新一の事を話してくれたから私は気が付けば涙が引っ込んでいた。新一、帰ったら覚えてなさいよ?今回のデートをすっぽかした分も今度デートしてもらうんだからね。
◇◆side千紗◇◆
「上手くいって良かったねコナン」
「バーロー……恥ずかしかっただけだっての」
夜になって皆が寝静まった頃に私とコナンはコソコソと話し合っていた。内容は勿論、あの録音した会話である。あの会話は当然、私とコナンと新兄の会話などではなく、私が書いた台本を読み上げたものを録音したものでコナンと新兄の声を変声機で使い分けてあたかも3人で会話をしている風に仕立てたのだ。
コナンは渋っていたが正体をバレない為の工作と今回のデートを如何にして回避するかを悩んだ結果、偽装会話を受け入れた。内容にも大いに不満があったみたいだけど迂闊にデートの約束をしてしまった事や早めに断ると言った事をしなかったペナルティだと思ってもらいたい。
コナン(新一)が新一(コナン)を咎めながらも後々フォローすると言う中々に面白い会話となった。
しかし、まあ……私の書いた台本とは言っても新兄だったら、割とああ考えたんじゃないかなって思う。今は元の姿に戻れないから仕方ないけど今度は自分の口でお姉ちゃんに、ちゃんと謝ってよね。