さて、私にナイフを突きつけておきながら、震えている強盗に対して私はどうするべきか……
「は、早くしろ!じゃないとコイツを……」
「失礼ですが、お金を得ても逃げるのは不可能だと思いますよ。このコンビニから数百メートル先に交番がありますし、結構な騒ぎになってますよ」
ナイフを突き付けてる強盗を刺激しない様に口を開いて窓の外を指差す。そこには既にスマホを構えて動画を撮っている人や警察に通報している人も居る。
そもそもコンビニ強盗の発生件数はそれなりにあるが検挙率も90%近い。つまりやった所で後々捕まる確率の方が高いのだ。
それにこの人……顔も隠してないし、ナイフを持つ手は震えてるし、声も上擦ってる。行き当たりばったり感が否めないんだよね。
「あ、ああ……」
「一先ず落ち着いて下さい。店員さん、コーヒーをお願いします。お金は払いますから」
「え?は、はい!」
更にガタガタと震え出した犯人さんに私は嫌な予感がした。なんか自暴自棄になって暴れ出しそうな感じ。ここは一つ、暖かい物を飲んで落ち着いて貰おう。
出されたコーヒーを怪訝な顔で見ていた犯人だったけど取り敢えず飲む事にしたらしく、大人しくコーヒーを飲み始めた。よし、少しだけ落ち着いたみたい。前にスーパーで強盗に遭った時は迂闊な発言で犯人が逆上しちゃったから気を付けないと。
「それで何故、コンビニ強盗をしたんですか?コンビニ強盗をする様な方には見えなかったので不思議に思いました。差し支えなければ……」
「……借金があるんだ」
少しでも犯人の意識を此方に仕向けないと。クラスメイトの友達は店の端に一塊になっている。犯人の意識がそっちに向かったりすると危ないから私がなんとかしなきゃ。そう思って話しかけたら犯人さんは意外にも話してくれる気になったのか少し間の後に口を開いた。
「大学に入って都会に来てワクワクしてたんだ。友達も沢山出来て充実したキャンパスライフって所だったんだけど……遊び過ぎて貯金が無くなっちゃったんだ。少しだけ借りるつもりで、低金利で借りれる所で金借りたんだけど……返せなくなっちゃって……」
中々に楽しそうな大学生活を送っていたみたいだけどアッサリと暗礁に乗り上げた訳ね。学生の身分でそんな事をすれば簡単に行き詰まるのも目に見えた事な気がするけど。
「借金取りがバイト先にも押し入ってバイトもクビになって返す当ても無くなって……友達も段々離れていっちまって……親にはこんな話、相談出来なくて……気がついたら……俺は……っ!」
「追い詰められての衝動的な犯行だったのは理解しました。ですが親や友人には相談したり話をするべきだったと思います」
うーん、絵に描いたような転落人生。しかもコンビニに押し入った時の険しい顔付きから今は後悔の顔になってる。説得するなら今しかないかな?
「アナタが追い詰められた末の衝動的な犯行だったとしても犯罪は犯罪です。その事を後々知ったアナタの親しい人達はなんて思うでしょうか?『なんで話してくれなかったんだ』『相談してくれれば良かったのに』と思うでしょう。アナタは彼等に『アナタ達は相談する価値もない人間だ』とメッセージを送ったに等しいんです」
「お、俺は……」
私の言葉が多少なり堪えたのか、持っていたナイフを落として膝を突く犯人さん。涙を流しながら自分のした事を後悔している。
「やってしまった事は覆せませんが……自首してちゃんと罪を償って下さい。幸いな事にアナタは誰も傷付けていないし、殺していない。殺人犯には至ってないんですから。まだ人生やり直せますよ、きっと」
「出来るかな……俺に?」
私はお父さんがコナンに眠らされずマトモに推理した時みたいに犯人の説得や説教の真似事をしていた。真似事とは言っても本心でもあるけど。
「アナタ次第だと思います。周囲からの風当たりはキツいものになるでしょうし、大変なのは間違いないでしょう」
「容赦ないな、お前は。そこは嘘でも『出来る』って言ってくれよ……自首するよ」
私の言葉に犯人さんは苦笑いを浮かべて店の外で待機していた警察の皆さんに自首する旨を伝えて逮捕されていった。
良かった……今回は穏便に済ませられた。クラスメイトの友達も居たから荒事に発展しないで良かったよ本当に。
「カッコ良かったよ千紗!流石は名探偵の娘!てい、ちょっとサービス!」
「むぎゅ」
なんて思っていたら店の隅に避難していたクラスメイトの友達達が一斉に駆け寄って来た。
先頭にいた柴田さんに抱き締められ、その豊満なお胸に顔を埋める形となった。巨乳自慢かこの野郎。
「毛利さんが無事で良かったよぉ……」
「心配かけましたね。ごめんなさい」
早川さんに至っては泣いていた。恐怖と安堵で感情ぐちゃぐちゃになってるみたい。
そりゃ中学生がコンビニ強盗に遭遇したら怖いよね……って所で私もこの世界に大分毒されてるなぁ、と思った。
◇◆side???◇◆
偶々立ち寄ったコンビニで起きた強盗未遂事件。最悪、俺が犯人を制圧しようと思い、身を潜めていたが同じくコンビニ強盗に巻き込まれていた女子中学生が犯人を説得してしまった。
あの子にその気があったかは定かじゃ無いけど、あの説得の仕方は絶妙な駆け引きだ。
精神的に追い詰められている犯人は周囲が見えていない傾向にある。あの子は諭す様な話し方で、犯人自身に自分が置かれている状況を悟らせた。その事で犯人は少しだけ冷静さを取り戻したが、その事で却って逆上する犯人もいるから危険だと思ったが杞憂だった。あの子は犯人を刺激しない様に飲み物を飲ませたり、自分の事を語らせたりと犯人の思考を誘導していた。巧みな心理誘導と優しい声音であの子は犯人の説得を続けて遂には犯人は自首を選んだ。
最初に高圧的な態度を取ってから態度を軟化させる事で相手の心に隙を作るやり方。取り調べの鬼刑事のやり取りと言えば分かりやすいだろう。
「降谷さん」
「すまなかったな。風見」
店から姿が見えないように退店した俺を迎えに来たのは部下の風見だった。
「驚きましたよ、少し立ち寄ると言ったコンビニで強盗事件に巻き込まれるなんて」
「ああ。だが驚いたのはその後だった。噂の名探偵毛利小五郎の娘がコンビニ強盗を説得した事だ。普通じゃあり得ない」
そう……あの絶妙なタイミングでの話し方や誘導の仕方は普通じゃありえない。どれほど肝が据わっていても唯の中学生にあんな事が出来るとは考えづらかった。いくら毛利小五郎の影響で事件に関わる事があったとしても彼処まで毅然な態度を貫けるのには何か秘密があるのだろうか?
「少しだけ……キミに興味が湧いたよ毛利千紗ちゃん」
俺は友達に揉みくちゃにされている毛利千紗を微笑ましく思いながらも身辺調査が必要だと考えながら、その場を後にした。