お父さんが陶芸家の菊右衛門さんに呼ばれたので私とお姉ちゃんとコナンも一緒に招待された。
ご立派なお屋敷に招待されたのも驚きだけど菊右衛門さんは人間国宝と呼ばれる程の陶芸家で作られる作品も物によっては数百万にも及ぶ値が付く。なーんて気楽に美術品を見るだけの話なら良かったのになぁ。
「おい……なんで英理まで来てんだ」
「千紗に呼ばれたのと私も一応、仕事よ」
「ゴメンね、お父さんもお母さんも。気になる事があってお母さんにも来てもらったの」
とてつもなく不満そうなお父さんとお母さん。そう、お父さんに依頼があった段階で私はある事を調べ上げてお母さんに報告したのだ。そして、お母さんも同伴してくれる事に。いやぁ、まさかこんなに上手く行くなんて思わなかったけど。
「気になる事だぁ?」
「うん。ほら、菊右衛門さんの作品なんだけど……」
「凄い……人間国宝なんて呼ばれるだけあるのね」
「最低価格でも百万近い……」
私は陶芸の書籍を見せる。様々な作品が掲載されており、中でも菊右衛門さんの作品が群を抜いて有名な様だ。
「これが英理を呼ぶ理由か?」
「これを見て分かる通り菊右衛門さんの作品は多数あるんだけど……」
「あら、お待ちしてました毛利先生」
お父さんが怪訝な顔をしているとお屋敷の中から一人の女性が現れる。この場で話を進めても仕方ないので屋敷の中へと案内される。お父さん、お母さん、私、お姉ちゃん、コナンの順で並んで座る。
「お待ちしておりましたぞ毛利先生。ご家族の方々も」
「ど、どうも……」
威厳たっぷりの菊右衛門さんにお父さんが気圧されている。
「ワシが名探偵のアナタをお呼びしたのは他でもない。活躍目覚ましいアナタだが最近のアナタの推理には粗が目立つ」
「あら、見る目がある方が見ると分かるものなのね」
「な、何おう!?」
「お母さんも速攻で便乗しないで。お父さんは動揺し過ぎ」
「「あ、あはは……」」
菊右衛門さんの発言にお母さんが楽しそうに便乗して、お父さんは凄い動揺していた。お姉ちゃんとコナンは苦笑いしていた。
「まあ、お義父さんったらそんな事を言って。素直におっしゃったら如何ですか?本当は毛利先生の大ファンだって」
「これ益子さん!はは……実はそう言う事でしてな」
威厳な顔だった菊右衛門さんだったけど、先程私達を案内してくれた女性、益子さんが内情を暴露した。そう言えば菊右衛門さんってお父さんのファンだったっけ。
この後、お弟子さんの有田さんや瀬戸さんが顔を出してお父さんが名探偵である事を再認識をする為に賭けが行われた。それは通された大広間に置いてある湯呑みや皿、壺を一つプレゼントすると。
「じゃ、じゃあ……この湯呑みを貰っちゃおうかなぁ……」
「なっ!?」
「マジかよ……」
「流石、名探偵……」
お父さんが湯呑みを選ぶと菊右衛門さんやお弟子さん達が動揺する。そう言えばあの湯呑みって……
「流石は名探偵の毛利さんじゃ。ワシの予想通りその湯呑みを選びなさるとは」
「あ、あの……その湯呑みって」
「ええ、一千万程の価値があります」
「マジか」
「名作なんですね」
「……豚に真珠ね」
菊右衛門さんはお父さんが湯呑みを選ぶと信じていたみたいだけどハッキリ言って偶然。お姉ちゃんが湯呑みの価値を聞いたらお弟子さんが答えてくれたけど、お父さんはその価値を知らなかったから驚きだよね。お母さんからは辛辣なコメントが出ていたけど。
「毛利探偵へのお話が済んだのであれば……私の方の要件もお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「貴女は毛利探偵の奥方でしたな。如何なる用向きですかな?」
話が一旦区切りが出た事でお母さんが話を切り出した。菊右衛門さんの疑問にお母さんはバッグから書類を数枚取り出した。
「菊右衛門さんの作品の贋作が出回って詐欺にあったと相談が寄せられました」
「な、なんじゃと!?」
「先生の作品の贋作!?」
「まさかっ!」
「っ!!?」
お母さんの発言に菊右衛門さんとお弟子さん二人の有田さんと瀬戸さんが動揺し益子さんが一番動揺していた。そうだよね、益子さんが瀬戸さんに贋作作らせて高額でお金持ちに売り捌いてる黒幕なんだから。
「おい、英理!」
「菊右衛門さん、此方の写真は貴方の作品として高額で販売された物ですが……コレらの作品に見覚えは?」
「見事な出来栄えには見えるが……いや、作った覚えのない物ばかりですじゃ」
お父さんがお母さんを諌めようとしたけどお母さんは先程の書類とは別に写真と資料を取り出して菊右衛門さんに提出する。怪訝な顔つきで写真や資料を目にするとこの作品は自身の物じゃないとハッキリと断言した。
「ですが、この作品が収められた保証書には先生の工房のサインも記入されていました。聞けばこの工房の作品の売買や美術館への展示は益子さん。貴女が任されているとか?」
「彼女の目利きは確かなものでして……ワシ等の身の回りの事や毛利先生の奥方が仰られた通り売買や美術館への展示を任せてある。益子さんやどう言う事かな?」
「あ、そ、それは……」
「因みに菊右衛門さんの作品は昨年でも10点以上が売買されている様ですね」
畳み掛けるお母さんに菊右衛門さんは真面目に書類や資料に目を通す。そしてあからさまに動揺している益子さんは目が泳いでいる。私もお母さんの援護をするとガタガタと震え始めた。
「馬鹿な!ワシは納得できる作品しか世に出さん!」
「そ、そうですよ先生は昨年は2つくらいしか……」
菊右衛門さんはわかりやすく動揺し弟子の有田さんも反論したが……もう一人の弟子の瀬戸さんは半ば諦めた様な表情で、益子さんは青ざめるのを通り越して真っ白な顔付きになってる。
「その表情から察するにお二人が首謀者でしょうか?瀬戸さんは菊右衛門さんのお弟子さんですから菊右衛門さんの作品に寄せて陶芸は可能でしょうし、益子さんは菊右衛門さんの作品の売買や美術館への展示を手掛けているならバイヤーとの連絡も容易でしょう」
「菊右衛門さんの作品を購入した方々の数名が鑑定士に依頼した所、違和感を覚えたそうです。菊右衛門さんの作品とは微妙な差異があると」
「流石は毛利名探偵の奥さんと娘さんだ。まさかここまで見抜かれているなんて」
私とお母さんの発言に益子さんはガクッと膝から崩れ落ち、瀬戸さんは諦めた様な表情になった。
「おい、瀬戸!本当の事なのか!?」
「ああ、俺は奥さんに頼まれて先生の作品に似せた作品を作り続けてた。最初こそ模倣する事で先生の腕に近づきたかっただけだったけど奥さんがそれを高値で物の価値を……見る目のない金持ちに売っていたと知った頃には手遅れだったけどな」
「なんと愚かな事を……」
有田さんが瀬戸さんに詰め寄る。菊右衛門さんは本当に残念と言うか無念そうな表情で落胆していた。
「なんで先生に相談しなかったんだ!?」
「言えるわけ無いじゃないか……物によっては俺の作った贋作が先生以上の値段が付いたなんてさ……」
「愚か者……いや、弟子の苦悩を察する事も出来ず身近な悪意にも気付けなんだワシこそ愚かであったか……」
有田さんの叫びに瀬戸さんは嬉しくも悲しそうに呟き、菊右衛門さんの全てを諦めたかの様な悲痛な呟きだけが静かに響いた。
この後、警察が到着して益子さんと瀬戸さんが詐欺罪や諸々の罪で逮捕された。益子さんは絶望しきった顔をしていたけど本来なら瀬戸さんに自殺に見せかけた殺人が行われるので、それに比べれば遥かに良いと思って頂きたい。
「それにしても千紗。良く菊右衛門さんの贋作が出回ってるなんて知ってたな?」
「前にお母さんの仕事を手伝った時にそんな案件があったのを思い出したから。お父さんが菊右衛門さんに呼ばれたって話を聞いた時にピーンと来たの」
「私も千紗から話を聞いて驚いたわよ。これで訴えを起こそうとした人達にも話が出来るわ」
お父さんの疑問に答えた私だがこれは本当。以前、お母さんの仕事の手伝いをしていた際に菊右衛門さんの作品の贋作詐欺の訴えがあったのを思い出したのだ。まだ先の話だろうと思っていたけど、こんなに上手く話が進むなんて。
お父さんが目暮警部に『お前が行く先々で死体の山なんだぞ!』なんて言われるのも防げたし。
「それはそうとアナタ?来週の事はちゃんと覚えてる?」
「ああ、沢木さんとの食事会だろ?わかってるよ」
事件を未然に防いだと思った矢先にお母さんとお父さんの会話から嫌な予感がした。
ちょっと待って、その名前の人って……え、ソムリエ?お父さんとお母さんの古い友人?あ、もう確定ですね。