お父さんに次の被害者が辻さんになるかも知れない旨のメールを打とうと思った私だけど送信する直前で手が止まる。お父さんにメールしたとしてもお父さんは次の被害者が十和子さんになると思い込んでいる。その状態で情報を足したら混乱するだけかも知れない。
「お父さん、やる気が空回りするからなぁ……」
学生時代の柔道の大会で実力はあるのに、やる気が空回りして全敗した話があったりする。
今もこれ以上、被害者が出ないようにやる気に満ち溢れていたとすれば今も空回りしている可能性がある。つまり余計な情報を与えると却って事態を悪化させかねない。
「……仕方ない。目暮警部に連絡しよ」
私はお父さん宛のメールを削除して目暮警部に電話をする事に。私の行動で今後の動きが大きく変わるかも知れないけどこれ以上被害者を出さない為にも頑張らないと。
◇◆side目暮警部◇◆
今回の一連の事件は毛利君に関係する人達が狙われている可能性が高い。今は別居中だが妻を狙われたからか毛利君は凄まじくやる気を出している。だがスナックの十和子さんに熱を上げて張り込みをするのはどうかと思う。やる気があるのは結構だとは思うが。
思えば毛利君は刑事時代もそうだったな。射撃の腕もさる事ながら若いながら優秀な刑事だった。だが、やる気が空回りしたり、調子に乗って的外れな事をしたりと実力はあるのに残念な結果しか残さなかった記憶しかない。
蘭君達を家に送り届けた白鳥君がワシと毛利君に合流してスナックの前で車を停車させ張り込みをする事に。毛利君はこれ以上、被害者を増やさない為にやる気に満ち溢れていて店の非常口に張り込みに行った。刑事時代の熱い想いが戻ったかの様だ。
「美人が相手だとスゴイ張り切り様ですね」
「むぅ……」
白鳥君が呆れたようで感心した様な声をあげるが、これ以上自分の為に被害者を出さない様に意気込んでいる毛利君の気持ちがわからんのかね?
そんな事を思っていると毛利君の娘の千紗君から電話が来た。
『張り込み中に申し訳ありません目暮警部』
「ああ、白鳥君も合流したばかりだし問題ないよ千紗君。だが手短に頼むよ」
毛利君と違って母親似の千紗君がこのタイミングで電話したのだから重要な事なのだと思って対応をした。
『次の十の文字の十和子さんが狙われてる可能性が高く、目暮警部とお父さんがスナックの十和子さんの警護に付いている話を伺いましたが、お父さんの知り合いにプロゴルファーの辻弘樹さんがいらっしゃいます。辻の字には『十』の文字が入っている事から狙われる可能性が高いかと思われます』
「成る程……確かにあり得る話だな。わかった所轄署に連絡して辻さんにも張り込みをさせよう」
千紗君の推測に納得すると同時に親子でここまで推測に差が出るのかと思ってしまう。
『お願いします。それとお父さんは張り切り過ぎてませんか?やる気がある時のお父さんは空回りしがちなので』
「ああ……張り切ってはいるが、空回りしている風には見えんから大丈夫だよ」
千紗君の言葉に呆気に取られて思わず笑いそうになってしまう。本当に色々とよく見る娘だ。
『それなら安心しました。それと白鳥刑事の事なんですが、お姉ちゃんにお父さんの発砲事件の事を話していました。あの発砲事件ってお父さんが被害を最小限にする為と人質になったお母さんの安全の為にした事ですよね。白鳥刑事はそれをお父さんが射撃の腕に自信があって誤ってお母さんを撃って夫婦間に亀裂が走った様に伝えていました。白鳥刑事が事件の真相を知らない、噂程度でしか理解していなかったとしてもちょっと……』
「あ、ああ……確かに問題だね。ワシからも後で言っておくよ」
千紗君に白鳥刑事の迂闊な発言を聞いて、ワシは溜め息が出そうになる。いくら毛利君が刑事を辞めていても、家族だからと過去の発砲事件の事を曖昧に伝えるなど大問題だ。まして毛利君の一家は様々な事件解決に尽力してくれている。今の我々の関係にもヒビが入りかねん。
『ありがとうございます。では、失礼します。おやすみなさい』
「情報感謝するよ千紗君。おやすみ」
「千紗さんからだったんですか?」
千紗君との通話を終えると同じく車内で店の監視をしていた白鳥刑事が話しかけてくる。車内で電話をしていたから千紗君の名を出した事で話していた事は聞こえなくても誰からの電話だったかを知ったのだろう。
「ああ、情報提供をしてくれたんだ。我々は次の標的が十和子さんになると予想していたがプロゴルファーの辻弘樹さんも『十』が入っている事から標的になる可能性が高いとな。ワシは所轄署に連絡して応援を寄越してもらう。白鳥君はそのまま店の張り込みを続けてくれ」
「わかりました」
白鳥君に指示を出しながらワシは所轄署に応援を呼ぶ為に電話をする。
しかし白鳥君は今回の事件の後に咎めんとな……迂闊な発言は身を滅ぼすぞ。