私は原作にない強盗事件に巻き込まれていた。まあ、事件発生率が高すぎるこの世界なら仕方ない……なんて思いたくはない。それこそピックアップされてないだけで事件そのものは他にもあったんだろうなー。多分、これもその一件なんだと思う。
夕飯の買い出しに来ていたスーパーで強盗に遭遇し、現在は人質となった女性店員さんの他に私とサラリーマンが一人と妊婦さんが一人。うーん、困った。犯人はナイフを女性店員さんに突き付けている。
下手に犯人を刺激する訳にいかないのもそうだが犯人を取り押さえる術がないのがマズい。私はお姉ちゃんみたいな戦闘力は無いし、お父さんみたいに柔道の経験もない。お母さんみたいにお父さんの手解きも受けてないし。更に言うならコナンのキック力増強シューズも持っていない。つまりは穏便に話を進めて犯人の説得をするしか私の中で選択肢が無いのだ。
「おい、全員動くんじゃねーぞ!誰か俺に逆らったりしたら連帯責任でコイツを殺すぞ!コイツが死んだらお前達の所為だぞ!悪いのはお前達になるんだぞ!」
「いえ、悪いのはアナタです。強盗をしてるのも、その人を人質にしたのも、アナタ自身の行動による物です。つまりこの場で発生する全ての問題はアナタの所為で起こっているんです。アナタだけが悪いんです。責任転嫁しないでください」
あ、しまった。穏便にと思った矢先に思わず本音が。私の発言に犯人を含む人質全員が唖然としてるし。
犯人はこめかみに青筋を浮かべながらナイフを私の方に向ける。仕方ない、このまま犯人の気を引きながら女性店員さんから意識を逸らすしかない。
「おい、中々生意気な事を言ってくれるじゃねーか……ああん!?」
「ついでに聞いてもいいですか?なんでこのスーパーを選んだんですか?」
犯人が女性店員さんから離れたので私はさり気なく位置を移動してサラリーマンと妊婦さんから距離を取る。更に女性店員さんに指で離れる様にジェスチャーをする。
「お金が欲しいなら銀行とかもっと大金がある所で強盗をするべきなのに何故か、このスーパーを選んだ。このスーパーのレジの売り上げ金を奪ったとしても10数万くらいでしょう。強盗という罪を犯してまで得られた金額がそれで満足なんですか?それとも他に理由がありましたか?この店じゃなきゃいけない理由が」
「お前に……お前に何がわかるってんだ!?」
私が会話で引き付けている間に女性店員さんはサラリーマンや妊婦さんの所へと移動した。さて、ここからどうしよう?取り敢えず話を引き延ばして警察が来るのを待つしかないかな……と思ったタイミングで犯人がキレ始めた。
「仕事をクビになって、片思いの人にフラれて……挙句に受けたバイトも10箇所以上も採用されなかった!」
「それは大変悩ましいとは思いますが……この店である理由はなんだったんですか?」
思いの外、この人は大変な状態だったらしい。精神的にだけど。話の続きを促したら更に怒りに打ち震えた顔になる。
「ここの店長がな……俺の好きだった女の彼氏だったんだ!俺から彼女を奪いやがって許せねぇ!」
「え、それってつまり……既に交際している人がいる女性に言い寄ってフラれた腹いせに、その方の経営してるスーパーで強盗をして憂さ晴らしを考えたって事ですか?しかも様々なバイトに採用されなかった怒りも込めて?」
「ぶふっ」
「くくっ……」
犯人の動機がかなりどうしようもなかった。逆恨みでしかない犯行動機に私は思わず考えた事をストレートに口にしてしまった。場が静まり返って犯人は固まってるし、犯人から少し距離を離れた所に避難した人達から笑い声が聞こえる。
「テメェ……ぶっ殺す!」
犯人がナイフを私に刺そうと突っ込んできた。あ、流石にヤバい。私は咄嗟に犯人が右手に持っていたナイフを避けた。ナイフを持った腕を伸ばしていたからギリギリで避けられたけどバランスを崩した私は倒れそうになってしまう。
「あわ……へぎゅ!?」
「へ?……うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
犯人ともつれ合う様に倒れた私だったが何故か犯人が肩を押さえながらもがき苦しんでいた。え、何事?
「凄いなキミ!?」
「す、すぐに警察を!」
「ありがとうございます、ありがとうございます!」
「へ、え、あの……いったい何が起きたんですか?」
「腕が……肩がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
その光景を見ていたサラリーマンや妊婦さん、女性店員さんは私を称賛してるけど、私としては何が何だか分からない内に犯人が倒れてたので理解不能。犯人は床をのたうち回ってるし。
通報後、警察が来て犯人を連行した後で現場検証と事情聴取となり、防犯カメラで確認したのだが犯人のナイフを避け転びそうになった私は咄嗟に何かを掴もうとして背中越しに犯人の腕を掴み、更にそのまま後ろに転んだ事で犯人の右腕を捻り上げ更に私の全体重が乗った状態で後ろに倒れ込んだ事で犯人の肩の関節を外してしまったのだ。犯人も私をナイフで刺そうと勢い良く前方に走っていたから、その勢いも加算されている。
合気道で犯人を取り押さえたりする流れを私がしてしまったのだ。意図せぬアクシデントの賜物である。
目暮警部や高木刑事には「流石、毛利君の娘だな」とか言われたけど偶然の産物です。もう一回やれと言われたら絶対に出来ません。
この後、連絡を受けて私を迎えに来たお父さんから怒られて、家に帰ってからお姉ちゃんには叱られ、コナンには「何やってんだオメー」って感じのジト目で見られた。解せぬ。しかも、お姉ちゃん経由でお母さんにも連絡が行ったらしく電話で散々怒られました。