月影島に到着してから私は頭を抱えたくなった。実際に抱えると怪しまれるのでポーカーフェイスを貫こうと必死だが心の中では冷や汗が止まらない。
村役場で依頼人の『麻生圭二』の事を聞こうとしたら大騒ぎになった。なんと麻生圭二という人物は10年以上前に死亡しており、しかも燃え盛る家の中で奥さんと娘を殺害した後、取り憑かれた様にピアノの『月光』を弾き続けたのだという。
死者からの妙な依頼に村長に話を聞きに行く事となり、公民館を目指して歩く私達。
これってもしかしなくても名探偵コナンのターニングポイントの一つになった事件だよね。犯人は確か……
「バイバイ成実センセー!」
「はい、バイバーイ」
診察した子供を笑顔で見送る看護婦さん。そう浅井成実さんである。本当は男だが生来の女顔だった事を利用して女装して別人になりすまして、殺人事件を起こした今回の事件の犯人。
成実さんは私達に島の良い所を説明し、村長選挙が近く、さらに次の村長が誰になるかを話し始めた。
「いやぁ、看護婦さん。我々は村長選に興味は……」
「私は医者の浅井成実。ちゃんと医師免許も待ってます」
あ、私も勘違いしてたけど、この人は医者だった。と言うか声とか体付きとか完全に女性なんですけど。
「あ、ドクターでしたか。こりゃ失礼を」
「いえ。でも、貴方達公民館に行くなら三人の村長候補の人達に会えるわよ。今日は前の村長の三回忌の法事だから」
成実さんにそれぞれ自己紹介を済ませた後、公民館までの道のりを聞いて向かう道中で私は頭を悩ませていた。どうやって犯行を止めよう……と言うか私はこの話の大筋は覚えているが、どんなトリックだったとかは覚えていないのだ。犯行動機は確か成実さんのお父さんの自殺の件。そして全ての事件の謎を解いた後で成実さんが自殺をする事しか覚えていない。他にもキーとなる物があったけど……なんだったっけ?
思い出そうと必死だったけど私は全然思い出せなかった。まるで頭の中の靄が邪魔するように思い出せない。
そんな事を思いながらも公民館に到着したのだが、前の村長の法事が終わるまで話は待って欲しいと現村長に言われてしまい待機する事に。三回忌に参加しているのは現村長の『黒岩辰次』、その娘の『黒岩令子』、その婚約者の『村沢周一』、村長候補の『川島秀雄』。
待ってる間、暇なのでお姉ちゃんやコナンと公民館の中を散策していると古いピアノを発見。
触ろうとしたお姉ちゃんだったけど現村長の秘書の平田和明さんに止められた。そのピアノは呪われたピアノなんだと。死んだ麻生氏が演奏会で弾いていたピアノであると同時に前の村長であった亀山勇さんがピアノにうつぶせの状態で死んでいたのが見つかったらしい。それ以降は島の住民から呪われたピアノだと恐れられているのだとか。
お姉ちゃんは怖がって、そのピアノから離れたけど私はなんとなく、ピアノに手を伸ばして……
「別になんとも無いよ、このピアノ。むしろ弾きやすいかも」
「上手だね、千紗ねーちゃん」
私は即興でピアノを弾いた。別れと感謝の言葉を声の限り伝えようとした曲のBGMである。この世界にあの漫画が出るのはいつの日か……出版が違うから難しいか?コナンは私がピアノを弾いて知らない曲ながらも驚いていた。
「あら、まだ居たの貴方達」
「成実先生も此方にいらしてたんですか?」
ピアノを弾き終えた辺りで成美さんと村長候補者の清水正人さんが顔を出した。
「私が亀山さんの検死を務めたの。だからお焼香くらいはと思ってね。さっきのピアノは貴女が弾いてたの?」
「あ、ピアノは私じゃなくて妹が」
「どうも」
成実さんは先程、私が弾いていたピアノが気になっているみたいだ。少し恥ずかしい。私のピアノは上手くもなく下手でもない微妙な感じだから。
「知らない曲だったけど素敵な音色だったわ」
「……ありがとうございます」
成実さんは褒めてくれたけど私としては微妙な心境だ。私は本を読むのも好きだが、興味を持ったものはやりたくなるタイプで様々なものを試しにやってみる癖がある。だけど上達が中々しない為、止めてしまう事が多い。ピアノもその一つで、ある程度弾けるようにはなったけど、そこから上達しなかったので止めてしまったのだ。
なんて苦い経験を思い出しながらも、法事が終わるまでお待ちくださいとピアノの部屋から追い出されてしまう。
法事が終わるまで待機となったがやはり暇である。私は昨日遅くまで本を読んでたから眠いし……
なんて思っていたら法事で聞こえる木魚の音とは違うピアノの演奏が聞こえてきた。この曲は……月光。何かを思いついたコナンは一目散に公民館のピアノの部屋へと走った。そして其処にはずぶ濡れの状態でピアノにうつ伏せで倒れてる川島さんの姿。そして残されたピアノの譜面。
お父さんが即座に死亡確認をして、成実さんに検死を依頼した。この場では言えないけど、その人が犯人だと言いたい。
コナンはあの暗号の解読が遅れて被害者が出た事を悔やんでるけど、私は事件が起きるのと犯人を知っていながら何も出来なかったのが居た堪れない。その後、お父さんが殺人事件だと断定し俺が名探偵毛利小五郎だと叫ぶが田舎の島では知名度が低くてリアクションがほぼ無かった。
秘書の平田さんが呪いのピアノだ!と叫んで島の人達もやはり似たように怯えた表情になっていく。
検死を終えた後、夜遅くだった事もあり取り敢えず解散となった。事情聴取は明日、本土から警察が到着してからとなった。
そして私達も宿へと向かう道中、成実さんと一緒だった。
「早く事件を解決してくださいね。私……もう検死なんてやりたくありませんから」
「はい、お任せください!なーに、私にかかればあんな事件、ちょちょいのちょいですよ!」
成実さんの一言にお父さんは豪快に笑い飛ばしたがコナンは難しい顔をしているし、お姉ちゃんは呪いのピアノの話からズッと怯えていた。私は目の前の犯人に「今、どんな気持ちでその一言をいったんですか?」と問いただしたかった。でも、あの悲しそうな顔は演技には見えなかった。
この後、コナンの一言でまだ殺人が続く事を予想したお父さんが公民館のピアノの部屋に泊まり込むと決めて私達も一緒に行く事に。
お年寄りの駐在さんに布団とかを持ってきてもらって、証拠品のピアノの譜面も見せてもらった。お姉ちゃんはその譜面を見て月光の譜面だと気付いて私にピアノを弾くようにと言ってきたので弾くことにしたけど……途中で盛大に音を外してしまった。
「なーにやってんだ、下手くそ」
「やっぱり私は才能無いなぁ……」
「違うわよ!千紗がミスったんじゃなくて譜面が間違ってるのよ、コレ!」
お父さんの一言に泣きそうになる。才能無いのはわかってるんだから……そんな風に思っていたらお姉ちゃんからフォローが入った。譜面通りに弾こうとしたから気づかなかったけど確かに譜面が途中から間違ってる。
「まさか……ダイイングメッセージか」
「あのー……此方にいらっしゃると聞いたので差し入れを」
新たに発生した謎に頭を悩ませていると成実さんが夜食として、おにぎりや軽食を持ってきてくれた。
この人は本当に今回の事件の犯人なんだろうかと疑いたくなるくらいに良い人なんだよね……
◆◇side浅井成実◇◆
俺の名は浅井成実。よく間違えられるが「なるみ」ではなく「せいじ」だ。俺は天才ピアニストだった父の不審な死に違和感を感じて医大を卒業後にこの月影島に医者として潜り込んだ。
元々女みたいな顔立ちと間違われやすい名前だった事から、俺が女として振る舞っても気付くものは居なかった。
前村長の亀山をきっかけに父の死やこの島で行われている麻薬の取引の事を知った。
それから俺は父の死に関わった他の三人も始末する為にこの島に居続けた。
そして今回、それを実行する事と……名探偵と名高い毛利小五郎を暗号で呼び寄せた。彼の家族まで一緒に来るとは思わなかったが三人とも良い子の様だ。長女の蘭ちゃんは空手をやっていて、次女の千紗ちゃんは本の虫。預かっている子だと言うコナンは生意気そうだが頭が良いらしい。
そんな中で俺は千紗ちゃんの事が気になっていた。初対面の時から千紗ちゃんは俺を観察するように見ていて、まさか女装がバレたかと焦ったがそれは俺の杞憂だった様で千紗ちゃんは何も言ってこなかった。
亀山の法事の際に訪れた公民館で彼女のピアノを聞いた時は驚いた。音大や専門学校に通う生徒並みにピアノを弾いていたから。
千紗ちゃんは俺が褒めるとかなり微妙な顔をしていたから不思議だったが、公民館に泊まると言い出した毛利探偵に夜食を待っていた時に蘭ちゃんから話を聞いた。
「千紗ってなんでも出来ちゃう子なんです。少し聞いたり学んだりするだけでコツを覚えて物事の習得が早いんです。本人は器用貧乏でのめり込めないって嘆いてるんですが……」
「ああ、それで複雑そうな顔してたのね……」
蘭ちゃんの話では千紗ちゃんは恐らく物事の要領が良いのだろう。一を聞いて十を学ぶ人の様だと思った。それはある意味で多才であり、言い換えれば器用貧乏とも言える。この話を聞いて俺は先程の千紗ちゃんの複雑そうな顔の意味を理解してしまった。
「千紗って自己評価が凄く低いんです。なんでも出来ちゃうのに器用貧乏って言ったり、可愛いのに『私はチビで地味だから』って言ったりして……」
「何かコンプレックスでもあるのかも知れないわね。もし良かったら私が……ううん、何でもない」
俺と蘭ちゃんの間でスヤスヤと眠る千紗ちゃんの髪を少し撫でる。蘭ちゃん曰く昨日、遅くまで本を読んでいたという千紗ちゃんは眠気の限界が来たのか夜食を食べてから少しして眠ってしまった。
この子は多分、自己評価が低い事で精神的にも少し疲れているのかも知れない。少しでもケアをしてあげれば……っとそこまで考えてから俺は思い止まって千紗ちゃんの髪を撫でるのを止めた。
こんな殺人犯が何を考えてるんだか……俺の父さんを殺した奴等と同じ血に染まった手でこの子を撫でちゃいけない。この子の心のケアをしようなんて思っちゃいけない。そんな資格は俺には無いんだから……