人間はポケモンと一緒に過ごしている。
誰かからポケモンをもらい、野生のポケモンと戦わせて強くし、時には捕まえて新しい仲間にする。
トレーナー同士の戦いだって日常茶飯事だ。昔はトレーナーの目と目があえば戦いの合図、なんて俗説もあった。
人々の生活に広く浸透したポケモンとの生活は、もちろん人によって異なるが、ポケモンバトルをする人が多い。
トレーナー同士で戦わせ、勝利して経験値を与える。
腕に自信がついたら、ジムバッヂを狙いに行く、なんて人が多いだろう。
果てはポケモンリーグに挑み、チャンピオンになる人だっているかもしれない。
だが、僕はポケモンバトルが好きではなかった。自分のポケモンに傷ついてほしくなかったからだ。
これを大っぴらに言うと、変なやつ、と顰蹙を買ったことがあるので、友人以外には言わない。
僕のポケモンに対する感性は、一般的に見れば珍しい部類に入るみたいだった。
ある日、僕は友人から大量に孵化させたという、「ラルトス」の卵を1つもらった。
ラルトスは人間の姿に近いポケモンだ。肌は白く、二本の手足があり、緑色で顔にかぶさっているような頭、その真ん中には赤い角が前と後ろに2つ。頭が大きく目は見えないが、下からのぞくとちゃんと目があることがわかる。この状態でも見えているらしい。エスパータイプの力なんだろうか。
僕はポケモンが欲しいとは思っていたものの、ポケモンを手に入れるには、ポケモンを使って戦わせることで捕獲しなければならない。
多くのビギナートレーナーは、既にポケモンを持っている人から譲り受けることが多いらしい。
友人は色違いの厳選とか、個体値がどうのこうのと言っていたが、全く興味はなかった。
それよりも卵だ。
僕はもらった卵を大事に扱い、万全の状態で孵化させた。
それがメスのラルトス――「ラル」との出会いだ。名前は種族名をもじっただけだが、彼女はこの名前を 気に入ってくれたらしい。
卵が割れて、初めて対面した時、名前を付けた。
そうしたら嬉しかったようで、「らる~らる~」と繰り返し嬉しそうな声を上げていた。
後から知った話だが、ラルが卵の中にいる時から、僕のラルに対する愛情を赤い角でキャッチしていたら しい。
臆病なポケモンとされるラルトスが、生まれた時から好意的だったのはそれが理由だった。
好いてくれるのは嬉しい。
これから一緒に暮らす「家族」との生活が始まった。
僕は普通の会社員で、ラルと出会うまでは一人暮らしだった。
家に帰っても誰もいない……そんなさみしさはもうない。
ただ、ラルの為にも早く帰ってあげたいと思うようになり、仕事に一層取り組んだ。
実はオフィスにポケモンを連れてきても問題はない。
ポケモンと一緒に仕事をする企業だってある。
ただ、仕事とトレーナーを兼ねてる人が多いのだ。
何かの拍子でポケモンバトルになることは、そう珍しいことじゃない。
僕はラルに戦わせたくなかったため、寂しい思いをさせるのを承知で、家で留守番をしてもらってる。
ただ、休みの日は一緒に出掛けたりしたい気持ちはあった。
いつか旅行に連れて行ってあげたいと思う。
そんなことを考えながら、今日の業務を終了させ、家に帰った。
玄関を開けると、ラルが両手を広げて僕の帰りを喜んでくれる。
「らる!らる!」
僕はたまらず抱き上げて、ほほを寄せた。
「ラル、遅くなってごめんな。ご飯つくるよ」
ラルは宙に浮遊し、僕の頭と同じくらいの高さまで浮いた。僕の料理が見たいらしい。
頭を軽くなでてあげると、僕はキッチンに立った。
何を作ろうかな……と考えていると、ラルからテレパシーでカレーライスのイメージが送られてくる。
なるほど、カレーが食べたいんだな。
「わかった。今日はカレーにしよう」
「らる!」
嬉しくなったラルは、僕の頭の周りを嬉しそうにくるくる回った。
僕が作るカレーは、ガラル地方で人気のカレールーを使っている。
「ガラルの大人気!キャンプカレー」と名付けられたカレールーに、レトルトのハンバーグを使ったハンバーグカレー。それとにんじんとたまねぎも忘れない。
それらを組み合わせて、僕の特製ハンバーグカレーが出来上がった。
出来上がったカレーを見て、ラルも喜んでくれた。
しかしどうやって食べるのかと思ったが、スプーンをエスパーの力で浮かせて食べるようだ。
スプーンを器用に使い、口を汚しながらカレーを食べていた。
目は見えないが、口元を見ると、笑顔で食べてくれたんだろうと分かる。
どれくらい食べるのか分からなかったが、僕とほぼ同じ量を食べきった。
小さい体のどこに入るのか不思議だな。
ラルの口元を拭いてあげると、口を開けてあくびをした。
おなかいっぱいで眠くなったのだろう。
僕はラルを寝室に連れて行った。
ラル用の小さなベッドと、僕のベッドが隣同士に置いてある。
ラルのベッドにそっと寝せると、すやすやと寝息を立てて眠ってしまった。
寝顔をのぞき込むと、頭に隠れた目は閉じて、横向きになって寝ている。
自分の中で愛おしい気持ちがあふれ出る。僕は起こさないように寝室を出た。
その後は食器の片づけや入浴をすませ、少しゲームをしてから、ラルの隣のベッドで寝ることにした。
ラルが来てまだ日は浅いが、本当に満たされた日々を送れている。
これからもラルと一緒に幸せを築いていきたい。
また明日な、ラル。
僕はこれから先もラルとの暮らしに胸を躍らせ、眠りについた。