たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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燈矢と主人公の初対面
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初対面は全裸である

 

「・・・・もえてんなあ。」

「燃えてるねえ。」

 

目の前でごうごうと燃えるのは、山である。

それこそ、たき火とか、そんな比ではなくて、まじもんの山である。

山火事、幼い自分たちではどうしようもないレベルのそれである。

 

緩慢な仕草で夢意転夜は隣の全裸の少年を見た。

キレイな少年だ。それこそ、タレントと言っても差し支えのないレベルの見た目だ。

白銀の髪に、澄んだ青の瞳をしたそれをじっくりと見つつ、上から眺めていく。そうして、とうとう股間に視線がたどり着いた。

それに気づいた少年が戦くように飛び上がった。

 

「見るなよ!!」

「それはこっちの台詞でもあるのでは?」

 

それに少年は、自分の目の前の女が全裸であることに気づいたのか、叫び声を上げた。

それをしたいのは自分だと転夜は思った。

少女は目の前の全裸の少年を見てため息を吐いた。

 

 

 

 

 

夢意転夜は家畜である。

いいや、本当に、なんの装飾というか、飾りだとか自虐とかではなく。

本当に、家畜、というかモルモットであった。

 

「・・・・これはもうだめだな。」

閉じ込められた部屋の中で、殺処分の判断が下されたとき、転夜はそれを覚ったのだ。

 

 

(ヒロアカに転生するにしては、夢がねえなあああああ。)

それが転夜という少女に成り果てた人間の最初の感想だった。

 

僕のヒーローアカデミアという漫画があった。

個性という、個々人が超能力を持った社会を描いた漫画である。

漫画については知っていた。といってもミリしら、転夜は友情やら勝利とかではなく、薬を飲んで縮んでしまった探偵ものが好みであった。

 

(あの雑誌、水曜日発売だったのに、なんで日曜日って名前だったんだろ?)

 

そんなことを現実逃避のように考えた。

転夜がいたのは、どこかの施設のようだった。状況は最悪で、食事もあまり摂らせて貰えず、不衛生で、おまけにバトルロワイヤルもどきまでさせられていた。

転夜は、まさしく好んでいた漫画のごとく、見た目は子ども、頭脳は大人のおかげでなんとか生き残ることが出来た。

というよりも、バトロワ最中に頭をぶつけた瞬間に、前世の記憶がこんにちわしたのだ。

 

(まってえ~ヒロアカってこんな生き残れ、みたいな世界観だったあ~?)

 

現実逃避のようにそう思うが、事態は待ってはくれない。

個性という能力や、ヒーローというものが職業であること、そうしてオールマイトというものすごいヒーローがいることなど。

 

(知ってる設定的に、ヒロアカだよな?だよね?そうだよね?)

 

なんせ、転夜の知ってるヒロアカなんて漫画は、それこそSNSで流れてくるミリしら程度だ。下手をすれば二次的なものを公式だと思い込んでいる可能性もある。

名前だけ知ってるキャラだとか、顔だけしか知らないキャラとか、下手をすればくそコラしか知らない奴とかもいる。

 

その施設は、なんでも、おーるふぉーわん?という存在が運営?をしている施設らしい。

自分の管理をしている存在たちの話に耳を傾けていると、そんなことが聞こえてくる。

 

曰く、であるが、この施設はそのおーるふぉーわん?という存在が個性について実験する施設らしい。

なんでも、個性という物は血縁由来で、掛け合わせた血統によって望む個性を生み出せたり、まったく違うものが生まれるかも知れないなど、色々と多岐にわたるらしい。

ここは、そういった、望む個性が生まれるかの実験施設らしい。

 

「・・・・・彼の血を引いてなお、こんなものか。」

 

部屋のそれから聞こえてくる、研究者達の声。

 

(おーるふぉーわんって、どれぐらいの立場なんだろ?私の知ってる、敵役?ヴィラン?て、顔に手を付けたり、あと、黒いもやの人とか、だめだ、顔しか知らないのしかいないな。)

 

なんてことを考えて、転夜はわかりやすい地獄の中で、個室に閉じ込められて、考え事をする。

まあ、どうでもいいことだ。いくら考えても、どうしようもない。

 

自分は漫画の敵役であったらしいおーるふぉーわんという存在の娘に産まれたが、失敗物として処分される。

ならば、自分の行く末なんて、決まり切ったものでしかないのなら。

 

(・・・・英雄とかいて、ヒーローかあ。ヒーロー物の漫画に生まれて、夢がない。というか、娘というか、精子提供者で、娘というのもおこがましいのかな?)

 

生きあがく地獄に、ヒーローは訪れることはないのだと覚れば後は楽だった。ともかく、生き残ることだけを考えた。なんといっても、死にたくはなかったのだ。

死ぬ、ということに恐怖していた。

だから、生き延びた。幾たびも、他者を踏み台にして。

騙して、逃げて、必死に。

 

「殺処分でいいだろう。」

 

その言葉に、まあ、こんなものかと諦めを覚えるその時までは。

あーあと、その処分を聞いて、何か、心が折れてしまって。何か、わかりやすい地獄の中で生きていく中で、まあ、いいかと思えたのに。

 

何故か、その後、転夜は生き残った。

明日で処分かあと考えていた時、施設が火事に見舞われた。どうも、誰かの個性が複数で暴走したようで、施設は大混乱だった。

そうして、その混乱を機に転夜はその施設から逃げ出した。

 

まあ、幸運だった。死ぬと思えば生き残れたのだから、いいことだ。

 

(よくわからん地下組織?みたいな奴らに拾われて、誘拐された子どもとか、搾取されてる子どもなんかの間に放り込まれなければ。)

 

いやあ、この世界ってなかなかに治安が悪い。個々人が、下手をすれば対軍兵器にでもなれるのだから立ち回り次第なのだろう。

 

(この世界って、強個性の人ってまじもんで商品たり得るんだよなあ。)

 

例えば、宝石を生み出すことが出来る、なんて個性を持ってしまって、下手な両親の元に生まれれば。

結果なんて想像できることだろう。

ただ、転夜はそこで極端な扱いは受けなかった。

まあ、元々の扱いがどん底過ぎて何があっても、まあと思ってしまうのもあるのだが。

組織は、あまりよい個性を持っていない転夜を下っ端として扱った。幸運だったのはようやく、雑談などができる同年代に出会えたことだ。それによって社会の常識などを吸収できた。

 

「オールマイトってすごいんだ!」

(ヴィラン側でそんなことをいうのか。)

 

特に、転夜によくしてくれた兄貴分はそんなことを言った。どうも、ネグレクトされていたらしい少年は、そのままずるずるとこんな組織まで落ちてきてしまったらしい。

きらきらと、きらきらと、ヒーローに憧れる少年。

それに、転夜は、改めてヒーローが存在する意味という物が知れた気がした。

 

まあ、そんな兄貴分も死んでしまったのだけれど。

 

その裏組織も、結局、壊滅した。

これもまた、商品というか、教育というか、そういったことをしようとしていた子どもの個性が暴走したのだ。

転夜は生き残った。ただ単に運が良かっただけだ。それだけで、生き残った。

その騒動で組織はばれて、そこでようやくヒーローの登場だ。

 

「私が来た!」

おおと思った。いつかに、画像の中で見た、むっきむきのゴリマッチョな、平和の象徴の登場だ。

 

(まあ、全部今更だよなあ。)

そんなものである。なんといっても、この世界は、少なくとも、今を生きる転夜にとっては現実なもので。

都合の良いハッピーエンドなんてあり得ないのだ。

全てが、手遅れのままだ。

 

 

 

その後、転夜はオールマイトに保護された。

何か、自分のことを心配してなのか、保護された後、経過観察のために入院していた病院にもよくやってきた。

 

(まあ、まだ小学生レベルの子どもが、あんな目に遭っても特別動揺もなく過ごしてるなら心配にもなるか。)

「ところで、何か、欲しい物とかないかい?」

 

そのお優しい言葉に、転夜は一つ、頼みをした。

 

「・・・・・・一時的でも良いので、一人で生活をさせてください。」

少しの間だけでも良いので。

 

 

 

一か八かの願いは何故か、許可された。

それは、すでに中学校に入学できるほどの年齢で有り、身の回りのことをこなせたこと、そうして、前世の記憶のおかげで学業面や常識などがクリアされたせいだろう。

まあ、転夜という存在に戸籍がなかったことも関係していたのだろうか。

定期的な通院や、面談などが条件としてあったが、それさえあればある程度の自由が許可された。

 

(・・・・なんでだろ?いや、まあ、気にしなくて良いか。)

 

何と、驚きなことに住む場所まで自由に選んで良いと言われた。至れり尽くせりである。何でそこまで自分の自由にさせるかわからない。

が、転夜は気にしなかった。なんだか、どこまでも、どうでもよくなってしまっていた。

 

 

そんなこんなで静岡に引っ越してきた転夜であるが、特別なこともなく生きていた。

自分の本当の出生なんてものをヒーローに話すこともなく過ごした。

おーるふぉーわん、という存在のことも、話さなかった。

何故って?

己の身が可愛いからだ。自分の父親?らしいそれに対しての感慨みたいな物は無く、厄介ごとに首を突っ込みたくない。

 

(いいや、もっというのなら、おーるふぉーわんって奴の立ち位置がよくわからんし。)

 

漫画に出てくるほどのキャラなのか、それとも、モブに等しいのか。下手に大きい組織で、自分のことがばれても厄介だ。何より、転夜という存在が、この世界でどんな意味を持つのか。

 

(ヴィランの身内に厳しいみたいだしなあ、この世界。)

 

だから、黙って、静かにしていた。大人たちは、問題を起こさなければ、可哀想な背景事情のある自分に対して下手なことはしてこなかった。

だから、まあ、それでいいのだ。

それで、ただ、この世界に順応するために、人の振る舞いを見つめて、この世界に溶け込めればそれでいいかと思っていた。

 

 

 

(あ、轟・・・・)

 

転夜はその日、あてどなく散歩をしていた。ばあさんのような趣味ということなかれ、引っ越して間もないために周りの確認に必要なことだった。

そんなとき、転夜は、何やら山の方に向かう少年の姿を確認した。

 

轟燈矢。

それは、転夜の転校した中学ではちょっとした有名人だ。

第一に、それはまあ、見た目が良い。儚げな銀の髪に澄んだ青い瞳、そうして、人目を引く造形。これだけでも目立つというのに、なんでも炎にまつわる強い個性持ちだというのだ。

目立たない理由もない。

ただ、本人はどうも人嫌いらしく、誰かと話しているのを見たことがない。

転夜もそれに関して、ふーんと思う程度であったのだが。

それでも、強い興味を惹かれていた。というのも、転夜の覚えている限り、主人公の友人に轟という名字がいたことを覚えていたのだ。

 

(ただ、その子、確かウルトラマンみたいな髪の色で、名前もショートじゃなかったっけ?)

 

何やら、大柄なおじさんがそれを叫んでいる画像を見た記憶がある。

そのため、もしや、そのショートというキャラの身内である可能性がある。

転夜はむくむくと、その轟という少年への好奇心が煽られた。

 

(・・・・出来れば、家族にショートって子がいるのか知りたいんだよなあ。)

 

もしも、ショートという少年が身内にいるのなら、その存在の年齢で今が原作の中でいつぐらいなのか割り出せる。

 

(・・・・学区内なら小学校から一緒の子とかから話が聞けるかと思ったけど。兄弟がいるって話は聞いても、詳しいことはまだ聞けてないしなあ。)

 

子どもという身分ならば、ある程度の無礼を働いても誠実な態度を示せば許されるだろう。燈矢という存在も、怒らせてもそこまでデメリットもない。

嫌われても、周囲から話を聞けば良い。

その程度に考えて、転夜は燈矢の後を追ったのだ。

 

それが、間違いだったのだ。

いいや、転夜だけの責任ではないはずだ。

事の発端は、転夜が突然現れたことだろう。がさりと、揺らした茂みに、燈矢は思わず警戒の姿勢を持った。

その時、炎の個性の修行をしていたらしい燈矢の手元が狂い、周りの木に燃え移ったのだ。

慌てて消そうとしても、気づけば周りが火の群れ、である。

 

「お前、どうしてくれんだよ!?」

「こんなことになるなんて予想もしてなかったんだ!!ごめんね!?」

「言ってる場合か!!」

 

追い詰められて、二人で川の中に追い詰められた。川を伝って逃げれば良いのだろうが、あっという間に広がった火で倒木し、下手に動けなくなっている。

 

「というか、君、火の個性もちなんだろ?なら、そっちだけでも!」

「うるさい!俺は、火への耐性がないんだよ!」

「なんでさ!?」

「母親の氷への耐性を引き継いでるんだ!だから!」

 

そこまで言った時、ぱきぱきと何か、木が軋む音がする。いいや、おそらくだが、燃える前に倒木に潰される可能性もある。

 

(どうする、どうする?私だけならいいけど、轟を見捨てて・・・)

 

そうだ、転夜はここから逃げ出す術があった。けれど、取り残されそうな燈矢の存在に思わず立ち止まってしまっていたのだ。

 

「なら、お前、氷への耐性だけど、断トツであんだね!?」

「だから!」

「おっし、任せろ!いける、いける!!」

 

 

転夜は燈矢の手を繋いだ。

 

「何する気だよ!」

「私の個性を使うから!」

「お前の個性?」

「私の個性は、反転なんだよ!」

 

 

転夜の個性、反転は物事の性質をひっくり返すことが出来る。転夜が、個性の事故で崩壊した施設から逃げ出せたのは、その力で自分の体質を変えたことが理由だった。

 

(目立たないために、表立って使ってないけど、この個性使い勝手はいいからなあ!)

「・・・熱く、な、い?」

「おし!一応、これでいけるはず!」

 

転夜は、目の前の少年を見た。熱風で自分の、黒い髪が煽られるのが見える。自分の金と銀のオッドアイの目が青い目を捉えた。

 

「逃げるぞ!!」

 

そのまま、転夜は茫然とした少年の手を引きずってそのまま、火の海に身を躍らせた。

 

 

 

そうして、冒頭に繋がるわけだ。

転夜は、羞恥心も死んでしまい、疲れ果てて全裸の少年を見た。

 

「これからどうするんだ?」

「ど、どうするって、というか、お前、せめて体を隠せよ!!」

 

羞恥心でしゃがみ込んだ少年に転夜はため息を吐いた。

 

「恥ずかしがるほどのものなんて持ってないだろ?」

「お前は羞恥心が死んでるのかよ!?」

「・・・・己の体に恥じることなどありはしない!恥ずかしがるからこそ、よけいに羞恥心が煽られるんだ!」

 

転夜は何か、もうやけくそで恥ずかしげも無く仁王立ちをする。燈矢は、堂々と仁王立ちをする痴女に成り果てている転夜の方を見て顔を真っ赤にしている。

 

「堂々と言うな、おま、胸とか隠せよ!?」

 

そう言いつつ、まじまじと見てないだろうか?なんてことを考えつつ転夜は己の体を見下ろす。

まあ、成長途中の体は子どもの域を出ず、隠す理由も感じられなかった。

 

「あーあ、やっぱ、服は燃えたなあ。やけど、軽くか。次の受診までに治るかな。」

「そうだ、やけど・・・・」

 

燈矢も改めて自分の体を見つめた。あれほどの炎にまかれてなお、やけどをしていない己の体を。

そこで、転夜は遠くに聞こえるサイレンの音が聞こえてくる。

それに山火事が発見されたことを理解する。

 

「おい、君!」

「え、あ、な、なんだよ!?」

「ともかくだ、今、私たちがすべきことは一つだけだ!」

「なんだよ、それ?」

「逃げるんだよ!!」

「はあ!?」

「お前、このまま見つかったら親から大目玉食らうぞ!私も、厄介ごとには巻き込まれたくないんだ!服もないし。家が近くだから、貸してやる。」

そうして、転夜は、唯一残った履いていられる程度の靴を踏みしめて山道を駆けだした。その後を、慌てた燈矢が追いかける。

 

その後、全裸の子どもが山を駆け下りるというのが山火事の前兆だという都市伝説が生まれたが、それはまた後の話である。

 





夢意転夜
黒い髪に白いメッシュが入ってる。金と銀のオッドアイで、中二心がくすぐられる~と本人は思っている。
父親に当たる存在について、興味は無い。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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