たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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評価、感想ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

トゥワイスとか、ホークスとか、九十九とか色々。

何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770



趨勢

その日、ヴィラン連合を襲撃する日。

 

会議後の、解放思想のおさらい。

ヴィラン連合側の数が数なため、それを後押しするトゥワイスのことをずっと監視していた。

とうとう、その日になり、いつもの部屋にやってきたと同時に、トゥワイスは慌てた様子でがくがくと震える。

 

(・・・・精神が元々不安定だったが。)

 

ホークスは、二人きりの部屋の中、彼に拘束と、そうして警察に引き渡すために攻撃態勢に入ろうとした。けれど、それよりも先に、ソファに縋るように蹲っていたトゥワイスが立ち上がった。そうして、ホークスに叫びながら歩みよる。

 

「ホークス!逃げるぞ!」

 

何を言っているのか、分からなかった。

そんな中、トゥワイスだけがわめき立てる。

 

「そうだよ!死柄木の準備が整うのが四ヶ月後だって教えただろ!?でもよお、作戦は五ヶ月後だって!お前だけ、嘘を、教えられてて!でもよお、死柄木の件で帳尻があったんだ!だから!」

「何言ってるんだ!?トゥワイス、それは・・・」

 

ホークスは狂乱するトゥワイスを落ち着かせるようにそう言った。それと同時に、ぎいいと微かな扉の音がした。

それに自分と向かい合わせだったトゥワイスが思いっきり、ホークスを引きずり横にそれる。

それと同時に、ホークスの横を火炎がかすめる。

 

「・・・・ああ、なんですか。ひどい話だ。」

 

ゆらりと、炎を纏った男がそこにいた。

 

「裏切り者は、二人いたと、そういうことですか。」

 

冷たく光る蒼目がじっとホークスたちのことを見つめていた。

 

 

 

「あああああああああああああああああああ!!!???」

 

トゥワイスの絶叫がその場に響く。それと同時に、トゥワイスの個性が発動し、荼毘と彼らを遮る壁のようになる。

 

「あああああやっぱそうだよ!やべえよ!ヒュー!たのしー!楽しくねえよ!いいじゃねえか、分かってただろ!?違う、違うんだ!決めたことじゃねえか!?こんなことしたくなかったんだ!?」

 

トゥワイスは陽気そうな声と、悲壮な声が交互に聞こえる。けれど、そんな声に反してトゥワイスは必死にホークスを窓に引きずって行こうとする。

 

「トゥワイス!いったい何が起こって!?」

「ああああああ!!いいんだ!そうだろ!?お前を逃がす!それだけ!?そうだ、それだけを考えれば!!」

(・・・・いや、最初からトゥワイスは確保予定!なら!このまま!)

 

ホークスはトゥワイスを抱え、窓を突き破ろうとした。

けれど、それよりも先に、業火が、トゥワイスの壁を突き破り二人を焼いた。咄嗟にトゥワイスを庇うと同時に、背中の羽根が燃えることも分かった。

 

「・・・・探しましたよ。ホークス。」

「・・・・手荒い挨拶してくるじゃないか、荼毘。」

 

庇うことに失敗したのか、やけどだらけでぐったりとしているトゥワイスを庇いつつ、ホークスがそう言えば荼毘は何でも無いことのようにサポートアイテムらしいライターをいじる。

 

かちんと、心地の良い音がした。

 

「いえ、構いません。殺す気でしたので。」

「・・・・仲間じゃ無かったのか?」

「仲間?裏切り者が?」

「は?」

 

ホークスが驚きながらちらりとトゥワイスを見つめた。浅い息を吐いているそれにホークスが歯がみしていると、荼毘があきれたような顔をした。

 

「・・・・ああ、気づいておられなかったのですね。トゥワイスがわざと、あなたに死柄木のことを伝えたことが。」

 

言葉も無く目を見開いたそれに荼毘が忌々しそうに目を細めた。

 

「元々、あなたが公安に所属していることも分かっていましたし。それで、あなたにだけは誤った情報を渡していたのですが。はあ、病院のことまでばれるとは予想外。あなたのことも、誤情報を吐き出させるために泳がせていたというのに。まあ、かまわないか。」

 

荼毘は仮面の下で、どんな顔をしているかなんて分からない。けれど、冴え冴えと、ひどく、冷たい声で、まるで今日の天気を語るかのような軽やかに。

 

「両方、この場で殺せばそこそこまし、ですね。」

 

かちんと心地の良い音がしたと同時に、ライターから火の鞭が踊る。それを彼はまるで円を描くように操り、二人に叩き込む。

それにホークスはトゥワイスのことを思いっきり突き飛ばした。そうして、彼は外に吹っ飛ばされる。

 

「・・・・トゥワイス。あなたには失望しました。」

「ああああああああああ!分かってる!分かってねえだろ?裏切り者だ!はははは!ちげえよ、俺はずっと、裏切ってねえ!あの子が、俺を、包んで!違う!?俺を、俺と定義してくれたのは!」

「さようなら、可哀想な、あなた・・・・」

 

荼毘の周りにはまるで個々で意思を持つかのように火が漂う。その半数がトゥワイスに向かう、それと同時に、扉側に人影が現れる。気配に振り向いた荼毘の視線の先には羽根を振り上げたホークスの姿があった。

それは、まっすぐに自分に向かってくる。

 

「・・・・甘い。」

 

が、その羽根が届くよりも先に、荼毘の周りを漂っていた火の玉が引き延ばされ、ネットのようにホークスのことを阻む。

 

「機動力が命のあなたのことを警戒していないとでも!?」

「ホークス!」

(止まれ・・・・!?)

 

ホークスはそのまま火の縄の中に突っ込む、そう思うと同時に、体が炎で覆われる。そのネットはまるでホークスを絡め取るように翼を、体を、焼き尽くす。

痛みと熱さにホークスが目を剥くと同時に、何かがホークスの体を覆った。その、感触にホークスが驚いていると、火が消える。

 

「あはははははははは、いやあ、なかなかのピンチじゃないですか!」

 

体を庇う体勢を取っていたホークスはそのまま何かによって天井に放り投げられる。そうして、床に着地したホークスは窓のさんに足をかけた男が見えた。

その男の姿に、荼毘も、ホークスも目を見開く。

 

「お前、は!」

「やあやあ、ホークス君。ごきげんよう?」

 

そう言って、白髪の髪を揺らし、そうして、翠の瞳を細める男は部屋に降り立った。

 

「アビス、いや、九十九、何故お前がここにいる!?」

 

それに男は、九十九はにっこりと微笑んだ。

誰もが、その男が、今、部屋にいることに驚いていたことだろう。けれど、九十九はその一瞬のすきを突いた。

 

「おはよう、きょうだい。」

 

その声が個性のトリガーだと知っている荼毘は消された火の補充にライターに火を付ける。けれど、それよりも先に影の手はトゥワイスを掴み、そうして、部屋から放り出した。

 

「じーん、頑張って逃げろ~」

 

間延びした声と共に、トゥワイスは走り出した。荼毘は悩むような仕草をしたが、すぐにやけどで動けないのか、蹲ったホークスに視線を向けた。

 

「・・・トゥワイスの裏にいたのはてめえか?」

「いやあ、大変だったんですよ?うちで、君らに入り込めるほどの人間は名前が売れてるし。臆病なあの子ぐらいしか思いつかなくて。でも、あの狂乱ぶりのおかげで、あの子の言葉を君達は聞き流しただろう?」

 

暗い、闇のような肌をした男は、口元を引きつらせてにたりと笑った。

 

「おかげで、いい、仕事をしてくれた!」

「てめえを誰が外に出しやがった!?いかれ野郎が!!」

 

言葉と同時に荼毘は自分の周りに火を漂わせる。それはゴウゴウと音を立てるのを見て、九十九は笑う。

 

「ははははは、俺の足下に転がる彼と色々取引をしたんですよ!この程度、分からなかったか!?」

「鷹見!啓悟!」

 

怒りを爆発させた荼毘が自分の周りを漂っていた火を爆発させる。九十九はそれを、やはり、自分の影で遮った。

 

(こいつ、なんで、俺の、名前を!?)

「連合の素性を調べた!お前と、死柄木だけだ!何も出なかった人間は!!」

 

ホークスは叫ぶ。

 

「誰だ、おまえは!?」

 

それに火の向こうで、今までの怒りなど忘れたかのような、荼毘の声がする。

 

「お前と同じだよ。」

 

影に遮られた火が消えて、向こうに、仮面を付けた男が静かに今までのことを忘れたかのように佇んでいた。

何か、突然、全ての音が消えたかのような感覚がした。

 

「生まれに恵まれず、縁に恵まれず、あぶれて、正しきものから背を向かれ、悪しきものが訪れた。」

 

それは、とても、静かで、ホークスは何か、仮面の下で男が笑っているのだと無意識に理解した。

 

「なあ、教えてくれよ、ヒーロー。どうして、こんなことになる前に。助けてくれなかったんだ?」

 

そこには、同じものがいた。

ホークスは、それが、いつかの自分の可能性だと理解した。

 

 

 

「ホークス!!」

 

自分が庇う形になっていたホークスの元に降り立った存在に九十九は淡く微笑んだ。

 

「ホークス、体が!」

「わかっている!」

 

その場に降り立ったツクヨミは、目の前の九十九と、そうして荼毘の姿に自分がどうすべきかと頭を回す。

 

「雄英の、学生まで引っ張り出して来やがったのか、情けねえ。」

「まあ、しょうが無いですよ。フルで行きたいでしょうし。にしても、口調、乱れてますよ。まあ、素が見えて大変嬉しいですね。」

 

九十九は変わらずにこやかにそう言い、ホークスを庇うように立つツクヨミに目を細めた。九十九の言葉に、そっと口の辺りを覆った荼毘は気を取り直すように九十九を指さした。

 

「少年。いいことを教えましょう。君が師と呼ぶ彼は、公安所属の、権力の犬だ。何の取引をしたのか、君の目の前にいる無法者と手を組み、うちにスパイを放り込んでいた。」

 

こつりと、荼毘はツクヨミに近づく。

 

「九十九、貴様、大方ホークスが公安にとって都合の悪い人間を殺した動画でも手に入れたな?それで、取引をしたか?」

「ええ、お望みならお譲りしましょうか?」

 

その言葉に、ツクヨミは目を見開き、けれど、すぐにそんなことはないと首を振った。

 

「何を信じろと!」

「信じなくていい。」

 

荼毘はあっさりとそう言った。ツクヨミはその言葉に驚いて固まる。

 

「今、信じなくても。どうせ、いつかはばれる。もう、世界を覆う薄氷は壊れてしまった。だから、きっと、君も分かるだろう。」

この世界は、ずっとたくさんのことから目をそらし続けていたんだと。

 

荼毘は淡々とそう言ってにじり寄るように足を進める。

 

「正しいことをした!けっこう!ええ、けっこう!ですが、一つ聞きましょう。ヒーロー。正しいことを積み上げて何故、ヒーローは未だに必要とされるのですか?憧れなんて色眼鏡で見つめたものが、清廉潔白なんて言えるんですか?」

 

その言葉に、それでもツクヨミはホークスを守る姿勢を取る。

 

「俺は、師を案じるだけだ!」

「あははははは!うん、小気味が良いね!」

 

その言葉と同時に、九十九はだんと床に足を叩きつける。そうすれば、まるで絵の具が染みるように部屋に影が広がった。それに、ツクヨミとホークスは包まれる。

それと同時に、影に包まれた彼らを九十九は荷物のように手に持つ。

そうして、崩れた部屋から飛び出した。

荼毘はそれを追うようにライターから取り出した火を彼らに叩きつける。が、それよりも先に、影は翼のような形になり、九十九の背中で羽ばたいた。

 

「それでは。」

ごきげんよう!

 

空の彼方に飛んでいく九十九を追うかと迷った荼毘の耳に、轟音が響いた。

 

 

「ホークス・・・・・!」

 

影に包まれた彼を見つつ、九十九はにっこりと微笑んだ。

 

「それで、少年、君、一人で飛べるよね?」

「・・・アビス。」

「ええ、あ、壊理にカッコイイ剣くれてありがとう。いやあ、やっぱああいうのってロマンですよね~」

 

ツクヨミは、目の前のそれが雄英の、おまけに厳重に守られた寮の中について知っていることに驚愕した。ツクヨミの顔に、それはにたりと楽しそうに笑った。

 

「壁に耳あり、障子に目あり~なんて。今時、完全な閉じられた場所とか無理ですしね。」

「あなたは一体、何を目的にしている!?」

「あはははは、怒らないでくださいよ。こちらも、子どもを大人の事情に巻き込んで申し訳ないんですから。」

 

九十九はそう言ってちらりとツクヨミの腕の中でぐったりとしているホークスをちらりと見る。

 

「彼があの場にいたヴィランを最悪殺していたのは事実ですよ。」

「・・・ヴィランの言葉だ。」

「あれだけの大立ち回りをしたヴィランがこうやって外を歩ける時点で察せられない子じゃないのでは?」

「・・・・それが、ホークスの仕業かは。」

「ん、ふふふふふふふ。ええ、それならそれで結構。」

 

そう言うと同時に、九十九はツクヨミとホークスのことを放り出す。

 

「何を!?」

「君、独りで飛べるでしょ?なら、後は頑張って~早くしないと、それ、死にますから。」

 

その言葉にツクヨミはぎろりと九十九を見た後、そのまま飛び去っていく。

それを見送った九十九はおもむろに端末を取り出した。連絡が来たのだろう、バイブレーションに耳に当てる。

 

「はあーい、玄野。どう?仁の回収出来た?そっかあ。あーやっぱり、ヴィラン連合の人たちに愛着湧いてたかあ。そうかあ、トガヒミコと、コンプレッサーは逃げたか。うん、まあ、元々殆ど壊れてるから。今更、どれほど記憶をいじっても変わりはないから。うん、じゃあ、頑張って逃げてね。」

 

そのまま端末を切ったそれは、またかかってきた通話に出た。

 

「はいはーい、みんなだーいすき、99番でーす!やあ、46番か。なにか?ああ、そうかい。106番はやっぱり無理か。仕方が無いか。うん、それじゃあね。」

 

端末を切ったそれはちらりと病院の方向を見た。

ざわざわと、けして、気分がいいとは言えない感覚がした。

 

「目覚める。いや、違うか。地獄の底の窯が開いた。閉じ続けた臭いものの蓋が開いた、のほうが正しいのかね。ふふふふふふふふふふ。」

 

それはとても楽しそうに笑った。

 

「いやあ、時代の転換期、特異点に立ち会えるなんて。なんてまあ、楽しいんだろうねえ。」

 

ぞわぞわと、自分を侵食する感覚。分かる、何か、自分の人生に散々に絡みついて離れないそれを。

九十九は特になにも思わない。

腹立たしさというか、面倒なものへの苛立ちはあれども、恨みも、愛も、そこには存在しない。

ただ、そういう人生だったという感覚だけが存在した。

 

(にしても、108番に我らが父君が執着していたせいで、早々とホークスの身分がばれてたのは痛いなあ。おかげで、こっちからスパイを入れないといけないハメに。余計な手間だ。まあ、でも、これぐらいはねえ。)

「・・・さて、私はこそこそ救助活動に治崎と行こうかな。」

 

そう言いつつ、九十九はちらりと町の方を見た。

 

(・・・・我が愛しき愚妹は町の方か。)

「待機させておいた方が絶対良かったのに。」

 

そう言って、九十九はそのまま目的の方に飛び去った。

 

 

 

「大丈夫か?アシスト?」

「・・・・うん、バーニン、大丈夫。」

「・・・顔色悪い。体調悪い癖に続けるのは。」

「職務を全うできないなら来るな、だよね?体調が悪いんじゃ無いんだ。ただ、なんか、今日はやけに、朝から不安でさ。」

「・・・・無理なら避難組に入れよ。」

「うん。」

 

この頃、ずっと、不安だった。

いや、不安というのは不正解だろう。ただ、何というのだろうか。

 

自分の内に、忍び寄る影を感じていた。

漠然とした不安。何かが自分に近づいてくる。

それは、夕焼けの中を、必死に何かから逃げているような感覚だった。

 

正体はわからない、誰かも分からない、自分がどこにいるかも分からない。

圧倒的な不安。

 

(・・・・おっちゃんも、燈矢も、終わったかな?)

 

何故か、自分が燈矢やエンデヴァーから引き離されたのかも分からなかった。もちろん、人受けする転夜を避難組に送ること自体は正しいだろう。

正しい、はずなのに。

 

全てが、何か、自分の知らないところで動いているような感覚になった。

 

(大丈夫。おっちゃんと、燈矢なら、なんとかしてくれる。)

 

なのに、病院の方向が気になる。それは、エンデヴァーと燈矢の安否が気になるわけではない。

そこに、何かがあるのだと、まるで天啓のような、何か。

 

(止めろ!仕事!そうだ、仕事をしなくちゃ!任せられた仕事を!)

 

軽く頭を振り、そうして、弟分の焦凍や、自分の後輩達に近づこうとしたとき。

 

声が、した。

 

寒い。

 

「え?」

 

思わず呟いた声と共に、転夜は無意識のように病院に視線を向けた。

何の変哲も無い、病院で。

 

なのに、転夜には、まざまざと見えた。

 

暗い、影が、まるで汚泥のように吹き上がり、全てを飲み込む光景を。

 

「病院が。」

 

誰かの声がした。誰の声かも分からない。ただ、転夜は無意識のようにあらん限りの声で叫んだ。

 

「逃げろおおおおおおおおおおおおおお!!全員、病院を背に、退避いいいいいいいい!!」

 

それに、皆は一瞬、意味の分からないような顔をして。

けれど、それと同時に、何かの崩れる音と主に、町が、汚染されるように崩壊をし始めた。

 

 

地獄だ。

ああ、その言葉にふさわしい。

人が砕けていく、塵になっていく。

まるで、ゴミのように、全てが消えていく。

転夜は、必死に個性を使い、人民救済のために、ヒーローとして動いた。

 

ああ、けれど、それと同時に、心は驚くほどに穏やかだった。

 

そうだ、人間の命なんて、この程度のものだったじゃないか。いつかの、家畜の子どもがそう笑う。

 

そうだ、自分たちの命も、あの施設でも、あの、人身売買の組織でも。

いいや、この社会でも、そんなものだった。

先ほどまで笑っていた人間が、肉塊になることなんて当たり前だっただろう?

 

自分は運がよかっただけだ。

優しい飼い主に拾われた、家畜の。

 

嘆きはない、怒りはない、ただ、突然思い出された己が生きた地獄の写し身に、転夜は体を動かしつつ、凪いだ心があった。

驚くほどに、凪いだ心で。

こんなものだったのかもしれないと、そんなことを思う何かがあった。

 

いいや、違う。

本当は、転夜は、怖かったのだ。

 

病院の、方向が。

今にも逃げ出してしまいそうだった。今にも、走り出してしまいたかった。

今にも、全てを忘れて、己の保護者を探して、泣きじゃくって縋り付きたかった。

それでは、だめだから。

だから、必死に、転夜は、いつかの地獄に従順に従っていた心を引っ張り出して、まねをして、ヒーローとして立ち回ったのだ。

 

大丈夫、大丈夫、大丈夫、だから。

だから。

 

ここで、必死に、全部から目をそらしていれば、それで。全部、終わるから。

 

なのに。

 

そこで、転夜は、皆とは違う方向に向かう緑谷出久の姿を見つけた。

 

(・・・・ああ、だめだ。それは、君は。)

行ってはいけないのに。

 

転夜はそのまま、緑谷出久と、そうして爆豪勝己を追って走り出した。

 




満ち足りない。

死柄木弔は、ぼんやりと、心の内の虚を見つめる。

己の師が散々にため込んだ力、万能感は確かに自分を満たしている。なのに、心が、何か満たされない。

AFOが欲し、けれど、手に入れることの出来なかった力。

OFA、そうだ、あと、もう一つ。

金と、銀の、星色の瞳。
笑っている、いつかに、それは、愛したもの、全てによく、似て。

笑う姿が。

華ちゃん?

自分に手を差し出す姿が。

お母さん?

自分を静かに見つめる姿が。

おじいちゃんと、おばあちゃん?

遊ぼう!

軽やかに、記憶の内、彼のものなのか、彼のものではないのか、それさえも、わからない、混ざる、記憶の中で。

軽やかに、跳ね回る姿が。

モンちゃん。

ああ、そうか。


「迎えに、行こう。」


以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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