たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
AFOと、転夜と、その他諸諸。
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
「このまま引きつけます!」
アシストこと夢意転夜は走る。個性を使うことさえ忘れて飛ぶ、緑谷出久と爆豪勝己を追いかける。
暫く追いかけて個性を使うことを思い出し、飛んだ。
出久達の声が聞こえる。
死柄木弔。
彼が来る。来る、こちらに、来る。
死柄木になら、自分は確かに、意識を失った状態でも接触はあったはずだ。
以前なら、彼のことを知ってもさほどの感慨はなかった、はず、なのに。
行っては、いけない。
転夜は、出久の背中になんとか追いつき、抱きついた。
「アシスト!?」
出久の声がする。けれど、転夜には、殆ど声が聞こえない。ただ、思考を満たす恐怖に叫ぶ。
「デク、爆豪君!?どこに行く気!?学生はすぐに、逃げるんだ!」
違う、口では理性的で、けれど、本心は違う。
ただ、怖い。何かが、怖い。まるで、怪物の住む暗闇の中に取り残されたような感覚だった。
「出来ません!」
「何故!?」
「僕が狙われてる!」
そう、わかっている。きっと、怖いのは、自分と同じ。
自分と同じ、デクの中にいる、いいや、オールマイトの中にあった。
なにか、おぼろげで、存在なんてはっきりしなくて、でも、ずっと、あの日。
オールマイトに初めてあった日、デクに初めてあった日。あの時、感じた、それに、惹かれて。
「だから、行っちゃだめ!」
「・・・アシスト?」
「だから、行っちゃダメ!行ったら、また、また、また!!」
幸福な日々の中でずっと、記憶の奥底にねじ込まれた記憶。
暗い場所、白い部屋、鉄格子の嵌まった扉、死臭のするベッド、注射、泡を吹く子ども、肉塊になった誰か、自分を見下ろす冷たい瞳の大人、たち。
がたがたと、その、見つめることを拒んだ記憶の、底の、底。
そこで、誰かが、転夜が忘れた、あの、トラックの、中で。
誰かが、手を、確かに。
「いやだ!!行きたくない!?行かないで!私は、行きたくない!!」
反乱強になって、転夜はデクの体に縋り付く。締め付けられた感触に、デクは息を詰まらせた。それを見ていた爆豪が叫ぶ。
「アシストォ!!!」
叫ばれたそれに、転夜は、涙の溜まった怯えた顔で爆豪を見た。
「いいかあ!?てめえが何を怖がってんのか知らねえが!これから何が来ても俺がぶっ飛ばすんだ!あの日の屈辱を晴すために!オールマイトを終わらせたけじめを俺は付ける!」
完全勝利する俺のことを、見とけ!
叫ぶ言葉に、転夜のこわばりが少しだけ薄れた気がした。
「わかったら、てめえらは気ィ抜いて足引っ張んなよ!!」
力強く、高らかなそれにデクはうんと頷いた。そうして、自分がおんぶするような形になっているアシストに話かけた。
「アシストは、すぐに戻ってください。僕らは、できるだけ引きつけるので。」
そうだ、今、アシストと死柄木を会わせることは悪手だ。話しかける転夜は出久に縋る手の力は緩めども恐怖するように固まっている。
進むか、それとも、いったん戻って転夜を誰かに預けるか。
悩んだ、その時、何かが、自分たちに迫る。
神野の、味わったイメージ。
白い髪の、死に神。
「頭ん中で響くんだ。手に入れろって。手を、伸ばせって。」
手が、自分に、伸ばされる。
「OFA、と。丁度、いたな。」
真夜。
覚えの無い名前、それが、自分を見ていた。
恐怖、怯え、それに覆われた思考の中で、転夜は、自分に伸ばされた手に無意識に手を伸ばした。
ばしっと、そんな音と共に視界が一気に死柄木から遠のく。いくら手を伸ばしても死柄木は遠のいていく。
それが、何故か、妙に悲しい。
グラントリノが出久達を叱責する声がする。その後に、転夜に意識が向けられた。
「転夜ぁ!おまえは避難を優先するように言っていたはずだ!?」
「アシストは、僕らが抜け出したのを見て連れ戻しに・・・」
普段ならそれに返事をするはずの転夜は、グラントリノに掴まれた出久に手を取られ、空を飛ぶ。
「転夜、お前は、何をしようとした!?あいつに触れれば!」
「ちがう!!」
転夜は未練がましく死柄木の方を見つめて、まるで幼い子どものように叫んだ。
「ちがう、わたしは、わたしは。あれは、あれは!!」
(AFOのせいか!?)
転夜は錯乱したように首を振り、違うとわめく。その状態にグラントリノはなんとか、それを死柄木から引き離すことを決意し、空を駆ける。
「ヒーローたちに任せるんだ!!」
何も出来なかった。
脳無が迫る、死柄木がやってくる。
エンデヴァーが、ブルーフレイムが、傷ついている。
「おい!誰か!アシストを連れていけ!」
「あいつ、なんでここにいるんだよ!?」
なのに、蹲って、倒れ込んで、じっと、彼らの戦いを見ている。
動け、動かなくては。
自分は、ヒーローで。
自分のヒーローが、あんなに、傷ついているのに。あんな風に、傷ついて欲しくないから、自分はヒーローになったのに。
なのに、それ以上に、何か、何故か。
死柄木から、目が、離せない。
自分の側にいたグラントリノが加勢に入る。自分は茫然とその場に蹲り、頭を抱えて、じっと見る。
遠いはずなのに、無意識に使った個性のせいで過敏になった耳のせいか、グラントリノの言葉が聞こえる。
志村の思いを踏みにじるな。
志村って、誰?
お前の存在は、俊典を、みんなを苦しめる。
なら、その子は、どうしてそうなったの?
火が、赤と、蒼の、火が、燃えて・・・・
「・・・・・あー。」
「・・・・・何してるんですかね。」
「うーん、いやあ、状況としては最悪だなあって。」
治崎廻は、兄貴分であり、若頭である九十九がこそこそと回収したヒーローたちの治療しながら、そう聞いた。
それに九十九は変わること無くにこにこと笑う。
「いやあ、人でなしのくせに弟や娘のために世界壊すぜって気力みなぎり過ぎだよね~」
「はあ?それで、いいんですか、ギガントマキアのことを放っておいても?」
「うーん、106番がいけるならあの子に頼もうと思ってたんだけどねえ。あの人の気配と、あと、ジーニストの件で使えないから。保留だよ、保留。まあ、ギガントマキアで死にかけたヒーローは回収して、回復させたし。今んとこは花丸~。」
間延びした兄貴分のそれに、治崎はあきれつつ、立ち上がる。
「あ、終わった?」
「ええ、全員は。」
「はっはっは。じゃあ、これから、ギガントマキアの行った方の市民の救出と回復ですよ。疲れるけど頑張ってね?」
「いいですよ。それが、証拠不十分とはいえ、早めの釈放をさせるための、公安との約束なんでしょう?」
「まあねえ、ホークスは、まあ、生きてるから行かなくていいし。」
そう言って九十九はばさりと翼を生やし、そうして、治崎を回収し、空に飛び上がる。
(だあから、事実ってのは早めに言ってた方が傷は少なくて済むのに。)
「俺の仕事が、増える~、まあ、いいけど。身内のことなら赦せるけどねえ。」
おっちゃんの、声がする。
信念なき破壊。
違うよ、人は壊すよ。ヒーローは屈しないよ。でも、普通の人はね、自分が壊されないように、壊れていく人を無視するんだ。壊れた人は、どこに行くの?
死柄木の声がする。
ヒーローは、他人を助ける為に、家族を傷つける。
ねえ、オールマイトのおっちゃん。あのね、誕生日、来てくれるって。来てくれなかったね。仕方が無いね、うん、わかってるよ、わかってるから。でもね、寂しいよ。
ねえ、炎司のおっちゃん、帰ってこないんだって。うん、仕方が無いね。明日は、帰ってくるかな?
ヒーローは、社会を守るフリをしてきた。
フリでも、救われたよ。私は、あの時、それでも、私は。
過去、守れなかったモノを、見ないフリして痛んだ上から蓋をして、浅ましくも築き上げてきた。
・・・・・・・・・・。
人が売られる光景、腹を蹴られて吐いたゲロ、空っぽの腹を抱えて漁ったゴミ箱、施設から逃げ出し助けを求めて車道をうろつけども走り去っていくライトのまぶしさ。
いつかに、目をそらした、社会の、中の誰か。
中身が腐って、蛆が湧いた。
ヒーローだろう!?
助けてくれなかった!?
どうして!?
・・・・・違うよ、おっちゃんも、燈矢も、救おうとして。
救え、なくて。
お前のせいで、ヒーローオールマイトは死んだ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
小さな、小さな、積み重ね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
守られることに慣れきった世界、守ることで存在を肯定される英雄。
これまで目にしてきた全て、お前達の築いてきた全てに否定されてきた。
火に包まれた施設、幸福になれなかった家畜の子ども。
外国や変態達に売られる子ども、同じように、火に包まれた子ども。
ヒーローに憧れ、ヒーローは間に会わなかった、優しい、人。
彼らは、どうして、産まれたんだろう?
ヴィランがいたから?
そうだ、それも一端だ。でも、けれど。
だから、こちらも否定する。だから、壊す。だから力を手に入れる。
シンプルだろう?
理解できなくていい。できないから、“ヒーロー”と“ヴィラン”だ。
ああ、転夜は蹲り、へたり込み、じっと死柄木を見る。
できない?
いいや、転夜には、わかる。とても、わかってしまう。
だって、転夜も同じだ。
転夜もまた、知っている。社会から、見捨てられて、目を背けられる、あの日々を。
いつかに、確かに、転夜は。
その力が無くて、弱かったから。だから、転夜が世界から逃げ出す選択肢をとったけれど。
この世が壊れることを、確かに、心のどこかで望んでいた。
助けないと、動かないと、ほら、エンデヴァーも、ブルーフレイムも、技の出し過ぎで疲労している。
ほら、グラントリノもやられてしまう。
なのに、転夜は動けない。
ただ、頭の中には、いつかの、薄暗い路地裏で、明るい世界を見つめて、据えた臭いの中で、それらを見つめていた記憶が苛むように思い出される。
あの日、自分は、失望した。
助けを求めることさえもろくに分からず、記録はあれども、幼かった子どもには、何も。
ただ、誰かに助けて欲しかった。
ただ、手を、差し出して。
手を、差し出された。だから、あの子のためになら、死んでもよかった。
なのに、なのに、今になって、あの日、自分のせいで死んだ、ヒーローに憧れた、あの子が、脳裏をよぎって。
死柄木が、苦しんでいる。
苦しんで・・・・
それが、あの日、自分を助けて死んだ、火に撒かれた、あの人に、似ていて。
「・・・めて。」
喉の奥からせり上がってくる。
「やめて!!」
悲鳴のような、甲高い声に、今の今まで動こうとしなかった転夜は、サポートアイテムであるゴムボールを出久に発射し、そうして入れ替わる。
自分にぶつかってきた転夜に、出久は動揺し、力を薄れさせる。
そうして、転夜に遮られ、一瞬だけ相澤の視界から死柄木が消える。
一瞬だけ、一瞬。
それに、死柄木は個性を使って加速し、相澤に近づく。それと同時に、壊理から作られた個性消失弾を相澤に打ち込む。
相澤が庇われるが、全てが遅い。
クソゲーが終わる。そう思っていたのに、発射された弾は、かーんと甲高い声と共に、何かにはじかれた。
(あ゛!?)
サーチを使って周りを一瞬探るが、何故か、何も分からない。
その隙と同時に、冷気に包まれた。
「・・・・・・・ああ、玄野か。兄さんから頼まれた仕事は終わった。武器の回収を頼む。」
とあるビルの屋上。そこには、黒いコートを纏った、おそらく、男がいた。
おそらく、という語尾が着くのは偏にそれの性別を判断するには、体格を見るしかできないからだ。
その男は、何故か、顔が分からないのだ。確かに、見ているのだ。見ているのに、何故か、顔が判別できない。それは、個性によるものなのか、男は淡々とした様子で電話を切り、息を吐いた。
突然、死柄木弔が、とあるヒーローに薬を打ち込むのを阻止しろという頼みをされたことには驚いたが、それを受入れた。
(・・・・仕事を休むのも、自由業の兄さんとは違って大変だというのに。)
おかげで今日は、このためにずっと張り込みをしていたのだ。
「・・・・妹のためとはいえ。さすがに、反社会的勢力に協力は二度とできないが。」
男はそのまま、激戦を無視して、その場を後にした。
「転夜!お前、なんであんなことした!?」
黒鞭で死柄木弔の破壊を回避した一段は、そのまま飛び去っていく出久を見送る。そんな中、出久の邪魔をした転夜に燈矢が駆け寄る。
現在、相澤は個性を直接食らうのは防げたものの、そのまま気を失っている。グラントリノも重傷だ。
燈矢は、転夜の、あり得ない仕草に叫んだ。
転夜は、その場に胎児のように丸まって、喚き散らす。
「ごめんなさい!ごめん、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「・・・・おい、転夜?」
「やだ!戻りたくない!?暗い、あの、でも、ちがう!ちがう、兄貴じゃない!でも、しってる!誰も、みすてて、怖い、やだあああああああああああああああ!?」
絶叫の中で、体を丸め、狂乱する転夜は、いつかに、悪夢の中でのたうち回っている時とそっくりで。
「転夜!?」
燈矢に続き、エンデヴァーが狂乱する転夜に近づいた。
「おい、だいじょ・・・・」
ぱしんと、転夜は、エンデヴァーの手を振り払う。その目は、瞳孔が開き、明らかに、錯乱していた。
「ちがう!あんたじゃない!?ちがう!?ちがわないの!?でも、ちがうの!わかってた!!ずっと、ずっと、わかってた!」
「転夜!」
「・・・やめろ。」
その場に蹲り、わかっていたと叫ぶ転夜に、グラントリノは息を荒くしながら言った。
「グラントリノ、今は!」
「・・・・AFOの影響を受けてる。分かってただろう。OFAにも、その子は強く影響をしていた。AFOなら、それも、当然だ。」
「それは!」
「・・・・その子を、早く連れ出した方がいい。」
グラントリノは、息を荒くしながら、言った。
「・・・・やはり、その子に、ヒーローは無理だったんだ。」
頭の中で、がんがんと鳴る。
全てが遠く、息が荒く、頭の中で自分では理解できない何かが駆け巡る。
ここから速く逃げ出してしまいたいのに、何故か、空から目が離せない。
わからない、離れがたい。
その感情には、喜びも、悲しみも、怒りも存在しなかった。
ただ、離れがたかった。
どこにもいけるのに、どこにも行きたくない。
燈矢も、エンデヴァーも傷ついているのに、手当てすることもできない。
そこで、頭の中を満たす思考の中で、はっきりと、聞こえてくる声があった。
ヒーローは無理だったんだ。
(・・・・そうかもしれない。)
恐怖と、畏れと、離れがたさと、自分では何か理解しきれない感情に晒される中、やけにクリアな思考で思っていた。
そうかもしれない、自分では、ヒーローは、無理だったのかも知れない。
こんなとき、動けない。
こんな時、なのに。
相澤ちゃんが傷ついている、エンデヴァーとブルーフレイムの熱を冷まさなくてはいけない。
やらなくてはいけないことがあるのに、なにも、出来ない、動けない。
ただ、自分では何か分からない、激情というモノに溺れて、空を、見る。
どうして?なんで?
自分は、こんなにも、どこにもいけなくて。
爆豪が、死柄木のそれに貫かれた。
それに、ようやく、転夜の体は動いた。個性を使い、飛び上がり、そうして、爆豪を掴んだ焦凍を受け止める。
「転夜姉!?」
少しだけ、頭の中をぐるぐる回る感情を無視できた。
「おっちゃ、んと、燈矢の、個性、変えるから。」
二人に触れば、慣れたようで彼らの体は冷えていく。
そう、今、やれること。
自分が、やれることを、やれば。
爆豪のそれに、サポートアイテムから布を取り出し、誤魔化し程度の圧迫を行う。そうして、次に、と、そう思うのに。
なのに、上から、とても、懐かしい気配がした。
それに、また、頭の中でくだを巻く感情が強くなる。ばっと仰ぎ見たその先で真っ黒な、怒りに染まった獣が死柄木に噛みついた。
砕ける、死柄木の中、砕けて。
何かが、そこに、いて。
それに、転夜は、何かああと全てを、理解したような気持ちで出久と死柄木に飛びついた。
やめて、と思ったから。
もう、いじめないでと、そう、思ったから。
私の、おとうさんを。
全てが、真っ黒に染まる。
枯れた大地に、横たわっていた。
いつかに、そんなことを知っている気がする。
ゴウゴウ、ゴウゴウ、と荒れ狂っていた風が、薄まって。
転夜は、ふらふらと、立ち上がる。
体がだるい、けれど、動けないほどでは無い。進んで、進んでいくと、そこには、何故か黒い靄で覆われた出久がいた。
何故か、酒に酔ったときのような、不明瞭な思考だった。
「・・・大丈夫?」
ぺたんと、彼の横に座り、そう問いかけた。
出久は、何かを見ているのか、真っ正面を気にしている。けれど、転夜には黒い闇しか見えない。
でも、そこに、誰かがいるのは分かる。
誰だろう?
不思議と、怖いとは思わなかった。ただ、ぼんやりとした思考で、同じ方向を見つめる。
そこで、誰かが自分の頭を撫でた。
「私たちがなんとかする。」
初めて聞こえた声に転夜は思わず振り向いた。そこには、優しそうな、年かさの女性がいた。
「だから、安心していい。」
その人は、何か、とても愛おしいものを見るような、轟冷が、炎司が、オールマイトが、サー・ナイトアイが自分を見るときとよく似た目で、そう言って。
(優しそう・・・・・)
そう思う。
優しくて、慕わしくて、懐かしくて、穏やかそうで、強そうで、そうして、ひどく、憎らしくて。
ぼたりと、涙があふれた。
声がする。
その女性が見つめる、出久が見つめる暗闇から、声だけが朗々と響く。
その声に、転夜は、涙が、あふれた。
とても、懐かしい、声だった。
あの日、自分にも、こんな父がいて、迎えに来てくれないかと、そう羨んだ。あの人。
二度と、会えなかった、あの、公園の、おじさん。
志村奈々と、女性の名前を呼ぶ。
彼の話す、転移の話を聞きながら、転夜はぼたぼたと涙があふれた。
懐かしい、慕わしい。
ねえ、おじさん、あなたは、会えましたか?
娘さんに、愛した人に、会えましたか?
会えたら良いなって。もう、二度と、私と会わなくて良いから、だからあなたは、会えたら良いなって。寂しい子どもがいなくなったら、いいなって。
そう、願って。
その男が、志村奈々という人と敵対していると知っても、どうでもよくて。
ただ、あふれ出す激情に、思考の全てが置き攫っていく。
「・・・・そう、人の意識ごと次代へ運ぶ寝台列車となったんだね。それは、どうも、私の可愛い、子も同様だった。」
「黙れ!」
「おいおい、何を怒るんだい?」
「弧太郎の子どもと、そうして、天夜をお前は!」
「黙れ!!!」
激情の中で、男が怒りにたぎる声がした。転夜は、それと夢を見るような気分で、涙が流れていく瞳で、暗闇の中を見つめる。
「お前が、108を語るな!天夜ではない!あの子は、108だ!私のものだ!お前が、あれを捨てたんだ!」
「違う!私は、お前のせいで!」
言い争う二人に割り込むように、弔が言った。
「言い争いは止めろよ。訳はともかく、安心しろよ、おばあちゃん。俺は、あんたのことはしっかり憎んでる。」
ひび割れた大地が揺れている。転夜は無意識のように出久のことを抱きしめた。きっと、今は怖いだろうから。
守ってあげなくちゃ、そう思って。
怖さは感じなかった。
ただ、闇の向こうで佇む、おじさんの顔を見たかった。
そこに、いる。
それと同時に、思う。
自分はどうして、ここに飛び込んだんだろう?
そこでふと、志村奈々の後ろに、また、誰かが立っているのが見えた。
真っ白な、髪に。ピカピカ光る、翠の瞳。
綺麗だなあ。転夜は、なにか、全てが飛んだ思考の中で、その綺麗な人を見て無邪気ににこにこと微笑んだ。
けれど、怒りに満ちた顔に、なんだか、とても、悲しくもなる。
その子かと、綺麗な人が言う。
お前が僕のモノにならないからとおじさんが言う。
怒らなくていいよ。おじさんね、優しいと。あのね、マフラーを貸してくれたんだ。返せなかったんだけど。でも、優しいよ。怖がらなくても良いよ。ココアが好きな、優しい人で。
綺麗な人が拒否をする。それが、悲しくて、けれど、思うように口が動かない。
そんなことないよと、そう言いたいのに。
出来損ないに渡ってしまった力。
「そうやって、女の腕の中で守られているそれに!」
それはなんだろうと、回らない頭で思考しようとするのに、全て霧散していく。
引きずり込まれるような感覚が、闇の中で蠢いている。
どうなるんだろう?
まるで、他人事のようにそう思い、怖いだろうと出久のことを抱きしめて、頭を撫でる。
大丈夫、だと、そう思い、出久に微笑みかける。そうすると、出久が何か、決意したような顔をした。
「間違いじゃない。」
綺麗な人の声と共に、出久が、闇に突き進んだ。
ずるりと、自分の腕から抜け出したそれに、転夜は、無意識に怠いと思った体と引きずって出久を止めた。
「う゛あ゛あ゛!?」
「やめて!」
今までの全てが、嘘のように声が飛び出て、出久のことを抱き留める。
「止めて!!お願い!」
「転夜!どうして!」
志村奈々の声がする。それをかき消すように、転夜は、自分の喉から飛び出したそれに、全ての思考がはっきりと覚醒した。
「おとうさんを、いじめないで・・・・・」
それに、それに、転夜は、出久を押さえつけていた手で頭を押さえて、そうして、あらん限りの声で叫んだ。
「あ、ああああああああああああああああああああああああああああ!!??」
「ふ、あははははははははははははははははははははははははははっは!!」
その激情が混ざるように、黒い闇の中に突風が荒れ狂う。その影響か、弔ががたりとよろけ、動かなくなる。
転夜の視界には、すでに、はっきりとした姿が映っていた。
死柄木弔、とうして、ああ、わかる。
彼女の目にだけは、はっきりと、顔が潰された大男に重なるように、あの日、あの時、ココアを差し出して笑っていた、おじさんが、いて。
「転夜!!」
志村奈々と、そうして、綺麗な人、いいや与一が出久と転夜を守るように二人のことを抱きしめる。
「見ろ!志村奈々!与一!オールマイトとエンデヴァーが散々に隠し、目をそらし、教えずとも、その子にはわかったんだ!私は、AFOが、己の父だと!」
「違う!この子の父はオールマイトと、エンデヴァーだ!」
「違う!あいつらが横からかっ攫っていっただけだ!私が育て、愛するはずだった!私の、可愛い、娘!真夜!」
男が、自分に、まったく知らない名前を呼びかける。
それは、あの日、自分に微笑みかけてくれた。こんな風に迎えが来ないかと、心のどこかで熱望した、あの人が。
あの人は、迎えに行きたかったのは、自分?
AFO、ああ、知っている、覚えている。
だって、それは、オールマイトを、殺した、ヴィランで。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!???」
絶叫と共に、転夜は狂乱するように頭を振った。
「違う!違う!違う!ちがうちがうちがうううううううう!」
「違わない!真夜、お前だって、ずっと願っていたはずだ!ヴィランだと知りながら、それでも!真夜!おいで!」
お父さんが、迎えに来たよ。
差し出される手に、転夜は、なんの涙かも分からない涙がこぼれ落ちた。
「あんたは私を捨てたんだ!私が、どんな!どんな地獄を見たかも知ってるくせに!嘘つき!違う!」
私に、父親なんていなかった!!
だんと、転夜が割れた大地を叩け、暗闇はうねり、そうして、真っ白な部屋が映り込んだ。
それにそこにいた皆は理解する。
それが、転夜の記憶だと。
「惨めったらしく生きた!同じ年のガキ殺して!味の殆どしない栄養食で命をつないで!薬を打たれて泡を吹いた子どもが死ぬのを見送って!違う、父親なんていない!私を捨てたくせに!全部、全部、今更!!」
ばらばらとめくれて、次々と映しだされていく記憶は、文字通り、子どものいた地獄の物語だ。
それにAFOは叫んだ。
「違う!!」
腕を振ると同時に、白い世界が、ぐにゃりと歪んだ。
「愛していた!手放したくなかったに決まっている!そうだ、私が間違えた!だから、今度は、償うと!そう、決めた!施設のことも知らなかった!全て、管轄外と見ていなかった!真夜!」
すまなかった。
謝罪の声だった。
それは、とても、あの日、自分に優しくしてくれた娘を思うおじさんと同じで。
けれど、心のままに転夜は、それを拒絶した。
「嫌だ!!」
振り払うそれと同時に、世界が真っ白な光に染まった。
涙混じりに、茫然と、その場に突っ立っていた。近くには、綺麗な人と志村奈々と、出久がいて。
それが気にならなかった。
転夜と、皆の視線は目の前に広がる光景に向けられていた。
そこは、真夏の、真っ白な光で目が眩みそうな道だった。
そこを、とある男女が歩いていた。
男は少しあきれた顔で、何故か、白いレースの繊細そうな傘を持って女のことを見下ろしている。
(・・・・綺麗な、人。)
真っ白なワンピースに、それと同色の小物を身に纏った女は、まるで、夢を見るような表情で男に微笑みかける。
真っ白な髪に、金と銀の、瞳。
その女が、微笑みかければ、男は呆れと、けれど、それと同時に柔らかく目を細める。そうして、女の頬を宝物を撫でるように触れた。
(・・・・あ。)
場面が変わる。
そこは、生活感のある部屋の中で、腹の膨れた女がソファに座って、隣に座る男に微笑みかける。
「君に名前を付けてあげるよ。そうだなあ、うん、真の夜でシンヤは?」
「まるで、女のような名だ。」
「うん?確かにそうかもしれない。君に付ける名前にしては、あまりにも、可憐かもなあ。」
笑う、女が笑う。分かる、転夜も分かる。
ああ、そうか、あなたは、貴方の目の前の、悪辣な男のことを、それでも。
(愛して、いるのか。)
「そうだなあ、なら、もっといいの。ああ、それなら、ゼンは、どうだい?」
「・・・・ゼン?」
「そう、全てって意味で!ゼン、ううん、いいねえ、ラスボスっぽいじゃないか?」
女がそう言ってけらけら笑いながらしだれかかる。それを男は自然に手を出して支えた。
「おい、子どもに響くぞ。」
「これぐらいなら大丈夫だよ、それより、どうだい?ゼン、全、よくないかな?」
「・・・・・・そうしたいならそうしろ。」
「やった!魔王の名付け親なんて立派だね。」
女は、そう言って、自分の膨れた腹に話しかける。
「聞いたかい?君のお父さんの名前はね、全っていうんだ。出てきたら呼んであげてね。」
「・・・・子どもに呼び捨てを推奨するのか?」
「あれ、もしかしてパパって呼ばれたい?」
「どちらでもいい、産まれてくればな。」
男はそう言って、静かな目で、それでも何か、とても優しい手つきで女の腹を撫で、話しかける。
「・・・・だが、お前にも名前がいるな。」
「おや、君が名付けてくれるの?」
「当たり前だ、これでも弟の名前も、僕が付けたんだ。」
ふんと息を吐いた男は、そっと、腹を撫でて穏やかに腹に囁いた。
「・・・・マヤ、お前は、真の夜と書いて。お前の名前は、真夜だ。」
魔王の娘にふさわしい名前だろう?
ああ、わかる。
分かってしまう。
夢意転夜は、地獄を見たけれど、それでも、確かに愛されていた。だから、わかるのだ。
その向ける視線で、そのかける声で、その触れる手つきで。
まるで、包むような、そんな仕草で。
愛している、と。
そうして、世界はそのままはじけた。
時系列とか無視のギャグ時空
うわああああああああああああああああ!!
すげえ勢いで転夜姉がふっとんでいった。
ああああああああああああああああああああああああ!!
ものすごい五月蠅いな。
すごいね、私がAFOに殺されかけてもここまで騒がなかったよ。
あ、ああああ、あああ!?
どうしよう、親父、燈矢兄、オールマイトのおじさん、ホークス。転夜姉、俺のこと見てマグロみたいにびちびちしかしなくなって・・・
いやあ、それはそうやろうねえ。おそらく、個性で成人ぐらいに成長した焦凍君があまりにも転夜の好みに入ってるからねえ。
あ、う、ううううううう!あの、彼女、募集してませんか!?
転夜姉、落ち着け、俺は焦凍だ。後、後ろの燈矢兄がすげえ顔をして。
わあ、すごい拳骨。
脳天に決まったな。
おう、てんやあ?堂々と浮気とは良い度胸してるなあ?
う、あ、だって!だってえ!考えてみろ!私が好きなものは!?
俺とお父さん。
揺るがないね。
すくすく育ちましたねえ。
そう、私の好きなモノは、エンデヴァーと、君、というか冷さん。それに、冷さんのお顔と、おっちゃんそっくりの体つきって。あの、好きなもの×好きなものなんだよ!?バカの発想だけど!発想だけど!ここまで、見事な要素の掛け合わせはずるい!
ずるくねえよ!?お父さんとお母さんのエッセンスなら、俺で感じろ!?
でもお。でもお、それは、それとして、あの、ちょっと、見た目が心の何かに来てて!!
転夜君って、儚げ美人って言うけど、背の高い人も好きだよね。
あー、たしかに体格の良い美人も理想に入ってますねえ。
なんだ、この地獄という顔のエンデヴァーを添えて。
転夜姉、すまねえ。転夜姉とは付き合えないぞ。
分かってる、分かってる!これは、恋ではない!これは、混じりっけ無しの、性欲!!
堂々と言うな!なんでそれを焦凍にぶつけるんだよ!?お前まで焦凍がいいのか!?
燈矢、落ち着け!お前も男なら分かるだろう!?精神と、股間は違うんだって!?
お前は女だろうが!
男だもん!はやせるもん!
はやせるとか言うなら!人の弟に性欲向けてんじゃねえよ!
いや、燈矢、あくまで焦凍に反応したのは、心の逸物なだけだから!体の方は大丈夫だから!
熱く語るな!何の言い訳だよ!?お前、お母さんにもそんなこと考えてねえだろうな!?
それは大丈夫!私もさ、不安に思って一回男で考えてみたんだけど、冷さんとかおっちゃんとか考えたけど、性欲より申し訳なさで萎えた!でも、燈矢考えたら反応したから!だから、性欲向けてるの燈矢だけだから!
・・・・聞きたくない。
うん、私も、ここら辺聞きたくなかったかなあ。
親父、なんで俺の耳ふさいでるんだ?
あーあ、恥ずかしさで天元突破した燈矢に転夜が焼かれて・・・・
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも