たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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評価、感想ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

荼毘と転夜。

何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770


借り物の夢

 

 

「先生、その子は誰?」

 

死柄木弔がよく覚えている記憶の中で、彼が先生と呼んでいる存在はとある写真をよく眺めていた。

弔がそう問えば、彼は機嫌よさそうに写真を見せてくれた。

写真に写っていたのは、ひどく、愛らしく笑う少女だった。黒い髪に、流れ星のように走る銀の一房。そうして、きらきら輝く金と銀の瞳が印象的だった。

 

「・・・・この子はね、私の娘なんだよ。」

「娘?」

「ああ、そうだ。そうだね、いつか、君が迎えに行くんだ。」

魔王なら、可愛い女の子を攫うのもロマンがあっていいからね。

 

 

弔は腕に抱えた女に視線を向けた。

必死に己の中で蠢く師に抵抗しながら、ぐったりとしたまま腕に収る女を見ていると、少しだけ内で起こる拮抗が和らぐ気がした。

そこに衝撃波が飛んでくる。

 

「皆!」

 

やってきた波動ねじれの存在に皆がそれぞれの動きをする中、轟燈矢が叫んだ。

 

「アシストが捕まった!攻撃するな!」

「ふ、は、はははははははははははははっは!悔しいか!?ブルーフレイム、いや、轟燈矢!」

 

まるで亀裂の入ったかのように、顔の様相が歪に、左右で違うように見えた弔はその時だけ、同じ笑みを浮かべていた。

 

「ようやくだ!OFAは奪えなかった!だが、今回は真夜は手に入れられた!」

「黙れ!それは、俺の娘だ!」

「娘?その娘を守れないお前が、よく吠えるじゃないか!エンデヴァー!」

 

暖かなその体を抱くと心が穏やかになる。苛立つような感覚が少し薄まる気がした。収る所に収った、その感覚は確かに弔の心を落ち着かせる。

 

「・・・アシストの、奪還を!」

 

緑谷出久の鶴の一声のようなそれに、ねじれが構えを取る。

 

「・・・ヒーロー、人質は無視か?」

 

 

 

揺れるような感覚がした。

誰かが自分のことを抱えている。

けれど、体がだるくて、意識がうつらうつらとふらふらする。

 

ぼんやりと、その中で、記憶がフラッシュバックしている。

 

拒んだはずの父親。

自分を捨てた父親。

そのくせ、ずっと、迎えに来ることを望んでいた父親。

 

水よりも、濃いもの。

それが、自分に迫ってくる。

 

気持ち悪い、何もかもが気持ち悪い。

起きなくては、起きて、動かなくては。動いていれば、何かをしていれば、その思いから逃げられる。

逃げたい、いやだ、見たくない、向き合いたくない。

 

そんなものは、いつか、捨てなくてはいけなかったのに、抱えている己が悪いのだ。

 

その時だ、まるで、雷のような、誰かの、主と、叫んでいる声に意識がようやく覚醒した。

 

ばっと見開いた先に、白い髪の青年がいた。

それは自分を見て。

 

笑った。

 

嬉しそうに、無邪気に、まるで、寝こけていた赤ん坊のまぶたが開いたことを喜ぶように。そんな風に笑って。

それを見たくなくて、転夜は、その腕から飛び出すように体を踊らせた。

 

「真夜!!」

 

名を呼ばれても、転夜はそのまま落ちていく。体がだるい、意識を保っているだけで精一杯で個性を使うことも出来ない。

 

「転夜姉!」

「あ、しょーと・・・・」

 

轟焦凍は、転夜を抱えて地面に降りる。そうすれば、下で待機していたエンデヴァーが駆け寄ってくる。

 

「転夜!」

 

血の匂いがした。戦闘で疲弊し、怪我のためにボロボロの養い親の姿に、転夜はまるで目が覚めるような気分で焦凍の腕から這い出る。燈矢は、やってきたマキアへの攻撃のためにその場にはいなかった。

這い出て、当たり前のように自分に差し出される手を見て、転夜は気づく。

 

自分の、父親の、こと。

 

この地獄を作りだした男、全部を壊そうとしている男、オールマイトというヒーローを終わらせた男。

 

己に、流れる、その血。

 

「転夜!お前は、すぐに!」

 

自分に差し出される手を怖れるように、転夜は焦凍やエンデヴァーから逃げるように遠のいた。

何かを考えていたというわけでは無い、拒絶するように、怖れるように、無意識に二人から遠のいた。

 

「アシストー、いいこと、教えてあげましょうか?」

 

聞こえてきた声に、皆が上を見上げた。そこには、赤い髪をした、仮面を付けた青年が立っていた。

 

「エンデヴァーも、オールマイトも、そうして、轟燈矢さえも知っていたんですよ。君が、死柄木弔の従姉であり、そうして。彼を育て上げた、オールマイトと敵対した、AFOの娘だって!」

 

その言葉に、皆が、ヒーローたちも転夜に目を向けた。

それは、疑いの目だった。

知っている。

 

いつかに、サー・ナイトアイにされた目。自分を値踏みする目、自分を、自分を、自分を。

皆の輪から、はじく、目。

そこで、送れて地面に降り立った燈矢が転夜に駆け寄りつつ、荼毘に叫んだ。

 

「黙れ!てめえ、何を知って・・・・・!」

 

燈矢からの言葉に、それは、荼毘は楽しそうに笑い声を上げた。

 

「あなたたちは知らないでしょうけど、アシスト、いや、108番。君なら、知ってるでしょう?」

 

かたんと、彼は、そう言って、仮面を取り去り、素顔を晒した。

 

「ひでえよ、108番。昔は、あんなに、兄貴って慕ってくれたじゃねえか?」

 

赤い髪、顔の殆どはやけどがまばらに散り、醜くただれていた。けれど、転夜にはわかった。

幾度も、何度も、まるで刻み込むように思い出した記憶の中で、いつも朗らかに笑っていた少年。

唯一、無事と言える左側の目元の面影。

 

青い、澄んだ、その瞳。

全部、覚えていた。

 

ゆっくりと、目を見開いて、転夜はその人を、見つめた。

 

「あに、き・・・」

「あー、覚えててくれたんだ!そうだよなあ!あの日!ろくに売れねえって殺処分が決まったって、組織の奴らにまわされそうになったお前のこと、助けてやったもんな!覚えてくれなくちゃ!」

そんな俺を置いて、逃げたお前だもんな。

 

あの日、ヒーローが訪れること無かった少年が、青年の姿で、笑っていた。

 

 

 

「あー・・・・やっぱ、出ちゃったか。」

「何見てるんです?」

「うーん、暴露動画?」

 

そう言って、瓦礫の山の上で九十九が見つめるスマホに映しだされたのは、一人の、少女ががらんどうの目でカメラを見つめている映像だった。

その少女の前には、同じ年頃の子どもが血まみれで倒れていた。

誰もが分かった。

黒い髪に、流れ星のように混じる銀の一房。濁った金と銀の瞳。そうして、その、面立ち。

それは、紛れもなく、ヒーローアシストだった。

 

 

動画は、そんな映像の後に、椅子に座った青年が朗々と語り始めるものだった。

 

・・・映像について語る前に、軽く、私について話しておきましょう。私には、名前はありません。戸籍も存在しません。

私は、産まれた頃から、とある組織が運営していた人身売買組織で暮らしていました。

 

・・・・その組織で、ヒーローアシスト、夢意転夜と出会いました。

彼女はヒーローに助けられ、私はヴィランの元で育ちました。

 

・・・・彼女と私の違いはなんだったのでしょうか?

それは、エンデヴァーの所業と、オールマイトの所業によるものです。

エンデヴァーはかつて力に焦がれていました。そのために、より強い個性を持った子を作るために妻を娶りました。

そうして、産まれた子どもたちは、お世辞にも完璧なものでありませんでした。

そこに現れたのが、夢意転夜。

 

そうです、先ほどの、人殺しの少女であり、そうして、今の悪夢を起している死柄木弔の従弟であり。彼を育て、オールマイトを引退にまで追い込んだAFOの娘である、ヒーローアシストでした。

彼は考えました。アシストと、己の長男の間に子どもが出来れば、互いの個性が混ざり合えば、オールマイトを越えられるのでは無いか、と。

そうして、オールマイトも、アシストの祖母が彼の師匠であるため、彼女を守るためその企みに乗っかったのです。

 

 

『・・・・エンデヴァーも、オールマイトも、結局、己のエゴのために行動し、そうして、救う人間を選びました。それは、ヒーローとして赦されることだったのでしょうか?そんな人間が、ヒーローを名乗っていいと思いますか?』

 

彼は立ち上がり、朗々と、画面の前にいるだろう、一般的な市民に問いかける。

 

『私は赦せない!そんな人間達が、正義を言う名の蓋をして!あまつさえ、ヒーローを名乗り!オールマイトも、エンデヴァーも!罪深いはずのアシストを擁護し!守り続けている!何故、彼女は裁かれないのか!?よく考えてください!犯罪者であるアシストを!自分のエゴによってひた隠し!守り続けた彼らが!』

 

本当に、あなたたちを守り続けてくれると、思っているんですか!?

 

 

 

「お、すごいな。やっぱり、ホークスの裏仕事の映像も撮られてる。おまけに、へえ、父親も調べ済みだって。まあ、末っ子に近づいた時点で、あの人が周りの人間の洗い出しをしないわけもないし。当たり前かあ。」

「・・・・そんな動画、誰が信じるんですか?」

 

九十九に命じられた負傷者の手当等を終えた治崎廻は暢気にそういう男に問うた。

 

「信じないと思う?」

「当たり前でしょう。そんなもの、結局その男が言っているだけの話だろう?」

「うーん、ちっちっち。甘いぞ、治崎。壊理の食べるおやつよりも甘い。君、反社者なら、もう少し、世論がどれだけ残酷的且つ暴力的か、分かってないと。」

 

そう言いつつ、九十九は、画面をSNSに切り替える。そこには、彼の予想通りのものが広がっていた。

 

「今を見ろ。地獄みたいな状況だろ?そんで、アシストは前から、少しずつ悪評が広がっていたわけだ。人の本性は、善性でも、悪性でも無く臆病なんだよ。」

丁度良いサンドバックが転がっていたときの人間がどうするか、わかることだって話だね。

 

九十九はそう言って、エンデヴァーとオールマイト、そうして、アシストについて投稿を見て呆れたように息を吐いた。

 

 

 

「ちがう・・・・!」

「うーん?」

 

叫ぶように、荼毘から逃げるように遠のいて転夜が叫ぶのを、緑谷出久は見た。

 

「あ、あにきは、ヒーローになりたいって!だから、きみが、そんな!あの日、しん、で!」

「ふ、ふふふふふ、そんなに怯えるなよ!108番!事前に、俺の身の上話と、お前の身の上話は全国に広がってる!ふ、あははははははははは!いやあ、愉快だな、108番!」

 

荼毘はけらけらと笑いながら、その場で、愉快そうに笑っていた。それを、出久はぼんやりと、転夜と似ていると思った。

彼女が嬉しくなると、そうやって、くるくると、子どものように、似たように、そんなことをしていたと。

 

「なあ、108番!俺、あの地獄見てえな組織の中でよくしてやっただろう!?お前がやられそうになった時も、幹部達の機嫌損ねないように立ち回って!可愛かったなあ!俺がヒーローに、あんなドブネズミみてえな環境にいる俺のこと、お前だけは笑わなかったっけ!?」

 

転夜はおののき、見たことがないような絶望と、恐怖と、悲しみと、懺悔の混じった目でその姿を見つめる。

燈矢は転夜に駆け寄り、耳をふさごうとする。

 

「転夜!聞くな!」

「あ、だ、あ、あああああ・・・」

 

転夜はその手を受入れるのを迷う。けれど、それよりも先に、荼毘が叫ぶ。

 

「なのに、なんでお前がヒーローになってるんだろうな!?」

 

びくりと、体を震わせた転夜は荒い息と共に燈矢から、エンデヴァーから、焦凍から遠ざかる。

 

「覚えてるかあ!?あの日、あんまりにも売れないお前のこと、臓器ばらして売っちまうことが決まって!その前に遊んでやろうって押しかけた組織の人間を前にしてさあ!ベルトかちゃかちゃ鳴らしてた奴らに、俺が個性使って抵抗して!お前のこと逃がして!で!?個性が暴走して!他の奴らと燃えてる俺を前にして、お前、何をした!?」

俺のこと、見捨てたよな!?

 

哄笑が響き渡る。転夜は、すでに、燈矢達の事なんて見えていなかった。ただ、荼毘のことだけを見ていた。

 

「ああ、殺そうなんてかんがちゃいなかった!だってそうだろう!?俺が味わえなかったヒーローってものがどんなものなのか、じっくり味わって貰わなくちゃ!だから、エンデヴァー周りに仕掛けをして!ああ、轟家の辺りに突っ込んだやつもいたっけ!?」

 

世間からの賞賛は嬉しかったか!?人殺しのドブネズミの分際で!

優しい家庭ってものは心地が良かったか!?ヴィランの娘の分際で!

誰かを愛することは満たされたか!?あれだけよくしてやった俺のことを見捨てた分際で!

 

転夜は茫然としながら、違うと、微かな声で幾度も繰り返す。

けれど、荼毘は、朗々と、歌い上げる。

 

「なあ、ヴィラン被害の支援もして、チャリティーにも力を入れて!善き者であろうとすればいつか報われるなんて思っちゃいねえか!例え、そうあろうとしても!世界はそれを赦さない!お前は、どこまでも、悪の娘だ!」

 

踊ることを止め、荼毘は、何故か、とても優しい顔で転夜に向けて言い放った。

 

「過去は消えない。だから、せめて。地獄で兄ちゃんと一緒に眠ろうぜ。」

 

ああ、どうしてだろうと。

転夜は考える。

その、澄んだ青い瞳を見つめて、ただ、考える。

 

差し出される手に、転夜は一歩、前に進んだ。

 

己の地獄の始まりは、とても澄み切った青があるのだろうと。

 

 

 

 

「転夜!」

 

燈矢が叫ぶ。けれど、転夜は何もかも忘れたかのようにマキアに向かって走り出す。燈矢が飛びつくようにそれを引き留める。

 

「離してえ!」

「行くな!」

「いやだああ!ごめんなさいいいいいいい!あにきいいいいい!」

 

転夜はあらん限りの力で燈矢のことを拒絶するように暴れる。燈矢は叫び続ける転夜のことを必死になだめた。

 

「て、転夜!お前、どこに!」

「知ってたんだ!おっちゃんも、燈矢も!全部知ったんだ!」

 

あらん限りの声で、転夜は叫ぶ。そうして、燈矢のことを振り切り、彼らに向き合う。

 

「私の父親が誰なのか!とっくに知ってたんだ!知ってたのに、教えなかったんだ!」

「それは!」

「・・・・しんじてなかったんでしょ?」

 

その時だけ転夜は、大粒の涙を流しながら、燈矢と炎司を見つめた。

 

「わたしが、ちちおやを、あきらめないって。」

しんじてなかったんでしょう?

 

幽鬼のような、いつかに、サー・ナイトアイからの詰問に怯える子どもの時の同じ、その目。

 

「・・・・頃合いだな。」

「・・・・おい!あの女が。」

「全部真実だ。だから、俺はそのために色々と動いてたんだよ。」

「荼毘くーん。」

「どうした?」

「口調、違いますね?」

 

トガヒミコからの問いに、やけどだらけの男は、快活に微笑んだ。

 

「おう、素性隠しの基本だからな。じゃあ、俺は、あれの回収に行ってくるから。」

 

そう言って、彼は慣れた調子でライターを取り出し、マキアから飛び降りる。

 

 

「親父!兄貴!荼毘が!」

 

叫ぶ焦凍の言葉に、転夜は火を纏ったそれの元へ向かう。

ヒーローであることを優先すべきだった。

けれど、だめだった。

父親のことは、まだ、目をそらすことが出来た。彼のことは、まだ、責められた。否定できた。

自分に酷いことをしたのだからの否定できた。

けれど、現れた、その人。自分が兄貴と慕い、そうして、見捨てた人。

 

「あに・・・・」

 

手を伸ばしたと同時に、何かが自分を阻むように地面に突き刺さる。

空からワイヤーが振ってきたのだ。

 

ばっと見上げた先には、見慣れたヒーローがいた。どうすると、考えて、そうして、個性があることを思い出した。

 

(個性、そうだ、個性で、兄貴を助けて。ヴィランなんて、止めて、やめさせて・・・)

 

己の体から、何の力も存在しないことに、ようやく気づいた。

 

 

 

ベストジーニストの登場に、燈矢は、その場に茫然と立ちすくむ転夜を焦凍に預け、荼毘を止めるために突っ込む。

 

「てめえ!転夜のことをどんだけ傷つけやがる!?」

「ははははっははあ!よく言うぜ!父親への承認のためならなんでもやったお前が!?108番のことだってただのサポートアイテムでしかないくせにか!?」

「違う!そんなもので語れるもんじゃねえ!」

「はっ!なら、お前、あいつの個性がなくなっても同じ事が言えるのか!?」

 

燈矢は目を見開き、そうして、せせら笑う。

 

「ほらな!?何も言えねえ!俺は違う!108番であればいいんだ!個性が無くても!どれだけ世界の敵になっても!あいつが、あいつであるのなら!見ろよ!あの子を!」

 

その場に座り込み、茫然と自分を見るその顔に、何もしようとしないその行動に、荼毘は確信を持つ。

 

(ああ。あの人、あの時に個性を奪えたんだな。)

 

それに、荼毘は叫ぶ。

 

「なあ、轟燈矢!お前がここで死ねば!あの子は、ようやく、本当の家族のところに帰ってこれるんだよ!」

散々、あの子に救われたんだろう!?なら、もう、時間切れだ。

 

あの子は、俺の妹で、あの人の娘なんだから。

 

 

 

「お前か?山の道路を彷徨ってるのを拾われたのは?」

「・・・・だれ、ですか?」

「俺?俺は・・・」

兄貴って、呼べ!

 

そう言って、これ以上無いほどに、明るく笑った少年のことを転夜は覚えている。

 

彼は物心つくかつかないかの時に組織に売られてきたらしい。

「まあ、個性も微妙だし、見た目もそう可愛くないから売れ残ってるんだけどな!」

 

そんな地獄を、彼はとても、朗らかに語った。そんな彼が、それでも、例えば格安で他国に使い捨ての兵器だとか、臓器のためにばらされなかったのは、彼が来てすぐの子どもをなだめるのが得意であったことや、知能が高く雑用をよくよくこなしていたせいだろう。

転夜は、個性が使えないが、見た目がなかなかいいため、売れるだろうと施設から逃げた後、捕まった。

が、予想に反して転夜は売れなかった。希少性がありそうなオッドアイは、見つめられると恐ろしいと不思議と忌避された。

そのため、転夜はそうそうに少年と同じ雑用係に転落した。けれど、正直に言えば、少年との時間は転夜にとって暫くぶりに訪れた優しい時間だった。

 

「108番、今日はラッキーだぞ!カップ麺くすねてきた!」

 

彼は、共に行動していた転夜に優しかった。

売られる子どもたちの悲鳴と泣き叫ぶ声を聞きながら、組織の人間たちに暴力を振われ、冷たいコンクリートの上で寝ても。

少年は、少女に地獄を見せないように商品の世話をさせなかったし、組織の人間達から庇ってくれたし、数少ない食事を分け与えて、寒くないように寄り添い合って眠った。

自分を気遣い、兄貴分として振る舞ってくれる誰かの存在は、その少女にとって確かな救いだった。

だから、ヒーローの話を聞いても、笑わなかった。笑えなかった。

その少年は、確かに、地獄の先で、またたどり着いてしまった地獄でも、確かに少女の心を支えていたから。

 

けれど、そんな時間はあっさりと終わった。

当たり前だ、少年は半ば組織の雑用係であったけれど、そんなものは一人で十分であるし、転夜を生かし続ける理由も無い。

彼女の目だけを気に入ったコレクターがいたらしく、ついでに臓器を解体して、売り払うことになった。

そんな転夜を放っておく理由が無くなったせいか、数人の男達に押さえつけられ、ベルトを外す音が聞こえてくる中で、転夜は諦めていた。

そんな可能性があることもわかっていた。

けれど、転夜はその時、助かることを諦めていた。

地獄が続くのならば、いっそのこと終わって欲しいと思っていた。

思って、いたのに。

 

部屋に飛び込んできた、少年の存在で、全てが終わった。

 

「逃げろ!108、一緒に、逃げるんだ!」

 

嬉しかった。男達の下から抜け出して、自分に手を伸ばしてくれた少年に駆け寄ろうとした。けれど、炎が燃え移った男達に、少年は捕まってしまった。

 

炎が、部屋を包む。

少年の個性によって燃える組織の大人たち。そうして、個性を上手く扱えず、それに同じようにまかれて自分に手を伸ばす少年。

 

「たず、だずげ、で・・・・・!」

 

私は、そこから逃げた。

怖かったから。死にたいと、先ほどまで思っていたくせに、ドンドン強くなっていく火の勢いに、ただ、恐ろしくて、逃げた。

逃げて、走って、そうして、もう戻れない、火にまかれた光景を見て、ただ、思った。

 

自分は、なんてまあ、浅ましく、救えない生き物だろうかと。

 

救われるべきもの(兄貴)は救われず、救われなくていいもの(自分)が救われる。

 

そこをオールマイトに保護された。

それでも、普通に振る舞えた。装うのは得意だった。逃げることは容易かった。

いつも、自分は、地獄に向き合わず、逃げたばかりだった。

 

死んでも良かったのだ。それが当然だった。

けれど、優しい人を殺しておいて、その代わりに生きた命を終わらせるのが正しいのかも分からなかった。

 

そうして、あの少年に、兄貴と同じ、青い瞳の少年。

全てが、彼と似ていたようで。

だから、いいなあと思った。

 

似ていて、けれど、健やかそうで、ヒーローになるべき少年。

 

あの、優しい少年がなりたくて、けれど、なれなかったヒーロー。

なら、そうならば。

 

(うん、そうだよ。燈矢、私、ヒーローの話を聞くのが好きだった。兄貴が、そうなるはずだったから。でも、そうなれないから。)

 

あの日、自分に、輝かしい人が手を差し出したとき、手を取ったのは。

 

(・・・・・私、兄貴の代わりに、兄貴がなれなかったから。せめて、償いをしたかったんだ。)

 

兄貴の代わりに、ヒーローになりたかった。

 

それが、今、動くべきときにヒーローとして動けない自分に訪れた罰なのだと理解した。

 





・・・・・SNSのナマモノジャンルの、ヒーローもの漁ってるんだけどさ。
転夜、自らなんで地獄に踏み込んどるんかな!?
でもさ、ホークス!めっちゃ、絵が上手い人で、おっちゃんのイラストが神がかってる人がいるんだよ!?チェックしないと!!
おい、燈矢、お前、止めんでいいの?
・・・・人気商売だからしょうが無いだろ?
それは大前提で、転夜に漁らないようにいわんの!?
言って聞く奴か?
・・・・諦めるしかないんかな?

それでさあ。
まだ続くん?
こういうのってやっぱ、掛け算的なものがあるわけなんだけど。
いやああああああ!ききたない!俺は、お前の周りのそういうの、地雷が多いの!
なんでホークス、こんなに暴れるの?
・・・・察するものはあるが聞かないことにしたほうがいい気がする。で、なんだよ?
まあ、私の周りは別にいいんだけどさ。私もどうしても赦せない組み合わせがあってさ。
何?

・・・・ホークスと、おっちゃんの組み合わせ。
ああああああああああああああああああ!!??俺のド地雷!!!
ホークス!うるせえぞ!?
逆に聞くけど、お前は何でそんなに平気そうなん!?
まあ、お父さんの魅力にようやく気づいてきたのかって感じかな?
というか、燈矢的に、燈矢とおっちゃんの組み合わせどう思うの?
お前、本人に聞くの、それ!?
・・・・まあ、俺とお父さんをセットにするのはまあ、センスは認める。

・・・心境が理解できん。
そっかあ、私も、私とおっちゃんの組み合わせ見て、世界は広いよなあと。既婚者なのに、おっちゃん。
理解できん、俺は絶対嫌やなのに。だから、見てもないんやけど。というか、お前は、なんでその組み合わせの話をしてきたん?

いやあ、君とおっちゃんの組み合わせ書いてる人で、めっちゃ絵柄が好きな人がいてさ。それで見てるんだけど。いやあ、もしも、これがまじになったら。
ならん!!!!
なったら?
なんで聞けるん、燈矢!?

ホークスからおっちゃんを寝取る。

・・・・寝取る?
寝取る。ホークスごときのものになるなら私が寝取って、私のものにする。
どういう心境!?というか、俺ごときって何!?失礼やろ!?俺だってするならちゃんとエンデヴァーさんのこと幸せにするわ!!
はあ!?ホークスごときに盗られるなら、私が幸せにするわ!私は燈矢のものだから、自動的におっちゃんも燈矢のものになるから収るべきところに収る!絶対幸せにする!
逆に聞くけど、お前的に任せられるの誰?
なんでどんどん地獄みたいな話題を広げるん・・・・
うーん、おっちゃんの性格的に包容力があってゆらがない感じの人がいいから。ジーニストとか、ミルコの姐さんとか。あとは、まあ、オールマイトのおっちゃん?
・・・お前、お父さんが爆発するから絶対その話するなよ?
いやあ、出した瞬間、焼かれるからしないかな!?

というか、燈矢。お前、あんな話されて不安にならんの?
お前、お父さんと俺の顔見比べてから言えよ。
・・・・面食いにこの話題は無駄やねえ。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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