たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
エンデヴァー視点、長くなりそうなので分けました。
「おっちゃん、あのな、大事ならさ。ちゃんと、大事にしてやってな。この世で最も不幸なのはさ、語る口を持たないことなんだから。」
それは、ずっと、子どもらしくなかった。
どこか、達観と、諦観と、そうして、憧憬じみた何か含んだ目をしていた。
けれど、泣きじゃくるそれを前にして、ようやくだ。それが、子どもであるのだと、ようやく理解した。
その子どもと最初にあったのは、轟炎司の長男である轟燈矢が行方不明になったときのことだった。
炎司は、燈矢がどれだけヒーローになりたがっていたのか、よくよく理解していた。
やけどなんて、痛みを負ってなお、それこそ、死んでしまうかもしれなくてもなお、燈矢はどこまでもヒーローになるためのことを止めなかった。
だからこそ、燈矢が何をしても、自ら動こうとしなかった。
自分が何を言っても、ヒーローになりたいという燈矢の火を煽ってしまうだけだと。
なにせ、轟炎司というそれは、ヒーローとしてしか生きてこなかったものだから。
今になって思えば、何を言えばいいのか、どうすれば止まるのか、わからなかったのだ。
大事にしたいとは、思っていたのだ。
子どもたちのことも、妻のことも。
炎司というそれは、視野が狭くとも、無情な人間ではなかったのだ。
けれど、男は、向き合い方というものが下手くそで。
ずっと、ずっと、駆り立てられる。
届かないもの、足掻いても無意味なこと、星を仰ぎ見てなお、己の足に揺蕩う泥。
それに、ずっと、駆り立てられていた。
だからこそ、見るべきものを見ず、その夢にだけ、ずっと、目を向けていた。
それを、後悔したのは、燈矢の行方がわからなくなったときのことだ。
妻から連絡があってすぐ、家の近くで起きた火事に、頭の中で何かが繋がった。
着の身着のまま、駆けつけた焼け跡からは、子どもの骨一つ出てこなかった。
焼けてしまった?
いいや、もしかしたら、違うどこかに家出してしまった?
骨さえも残らなかった可能性なんて無視をして、二人で、警察や、病院などを駆けずり回った。
まさかと、ただ、すぐにでも山に行って、その灰の山を崩して回ろうと考えた。けれど、隣で顔を青ざめさせる妻を見ていると、いいやと、必死に目をそらした。
その時だけは、己が目をそらすことに慣れていてよかったと、バカみたいに考えた。
だからこそ、家からかかってきた電話にどれだけ安堵しただろうか。
帰ってきた家には、見慣れない服を着た、息子がいた。
そうして、見慣れない少女が一人。
クソガキ、けれど有用。
それが、轟炎司であり、エンデヴァーであった男の、その少女への印象だった。
反転という個性は、確かに火力には少々欠けるが、サポートタイプとしてはこれ以上無い物だった。
事実、それによって、自分の個性を引き継いだ燈矢の排熱問題、そして、体質についての問題全てを解決してみせるのだ。
いいや、おそらく、どんな個性でさえも相性のいいものだ。
(俺にも有用だ。)
場合によっては、自分の排熱問題への対策にさえなるのだ。
欲しいと思った。
最短で五年で、その少女を使うことが出来る。
何よりも、その少女はまさしく、燈矢にとって欠けていた一つのピースであった。
ヒーローになるかという問いに首を横に振られはしたが、なんだかんだで、少女は幸いなことに燈矢に甘かった。
自分で、燈矢がヒーローになることを肯定した手前、全てを拒否するようなことはなく、訓練に付き合っている。
(当たりだ!)
炎司はそう、笑いたくなった。
なんせ、ただの子どもを、ある程度の基礎を叩き込んだ燈矢と同レベルにまで引き上げなくてはいけないのだ。
まず、戦うと言う感覚を叩き込まねばと思っていた。
が、そんなことは杞憂だった。
子ども二人が、炎司に向かってくる。
体躯の小さい子どもを相手にするため、炎司は姿勢を少しだけ低くする。それに、燈矢と転夜は二手に分かれる。
対応を難しくするために、身軽な転夜は上半身、燈矢が下半身に打撃を加えようとする。
もちろん、そんなものは軽くいなす。
吹っ飛ばされた二人は、慣れた調子で受け身を取り、体勢を立て直すと、今度は個性を使う。
氷の障壁で守りを、炎で攻撃を、という様子で個性の切り替えを行ってみせた。
明らかに、転夜というそれは、ある程度、戦闘訓練というものを叩き込まれていた。いいや、末の轟焦凍への苦言を見るに、なにか、そういった訓練理論のようなものを叩き込まれている節がある。
幸運という以外に何があるのだろうか?
すでに基礎的な戦闘訓練を叩き込まれ、有用な個性を持ち、そうして、何よりも、燈矢というそれの願いを聞き入れずにはいられない少女。
これ以上の存在などないだろう?
もちろん、気にくわないことは多くある。
まず、挙げられるのが。
「ああ、冷さん!今日も変わらずお美しいですね!あ!もしかして、髪、切られたりしました!?いいえ、ちょっと、気持ち、短くなって!いえ、ショートカットも大変いいですね!あ、もちろん、冷さんなら、きっと長い髪も似合うに決まってますけど!そうそう、お手伝いとかありますか!?いいや、冷さんみたいなひとのためなら、何でもしますよ!あ、あと、今度、お買い物に付き合うので、その時、お茶でも・・・・・」
炎司はぐいっと少女の首根っこを掴み上げた。ぐえっと、間抜けな声がする。
「何をして・・・・」
「もう!おっちゃん!何すんの!!??」
「お前こそ何してるんだ?」
「はあ、おっちゃんみたいな朴念仁にはわからないだろうけど、美しい人は、会うだけで賛美すべきなんだよ?今日だって、さらに冷さんの美しさに磨きがかかってる!これは、褒めずして、どうしろっていうんだよ!?」
「それでなんで茶に誘うんだ!?」
「こんな美人を前にして!?茶に誘わない!?おっちゃん、人生の大半を損してるよ・・・・!?」
「人の妻に何をしてると聞いてるんだ!?」
これなのだ。
何をしてか、その少女は、燈矢に対しても甘いが、炎司の妻の冷に対しても非常に執心している。
それが、なんというのだろうか。
あまり、炎司の対応してきたことのないタイプだ。
やたらと賛美して、口説き落とす。それは、ヒーロー活動をしているような、ナンパのような何やら関係を持ちたいという感覚とも違う。
同性を好む人間がいるのは知っているが、なんというか、そういった感じではない。
ただ、熱烈に、キラキラとした目で、冷という存在に愛を囁き続ける。子どものせいなのか、欲のような物は感じない。
ただ、夫としてそれを放っておくのもどうかと思うし、目の前で妻を口説かれるのはあまり良い気持ちがしないので止めに入る。
「なんだよー、おっちゃんのばーか!!あ、冷さん!私はいつでも暇なので!お茶が出来るときは言ってくださいね!?」
「転夜!!」
それに、きゃーと言いながら、きゃらきゃらと笑って転夜は駆けていく。おそらく、燈矢の元にまで行ったのだろう。
疲れたようにため息を吐く炎司の隣で、くすくすと、楽しそうな声がした。それに、ちらりと隣を見ると、ささやかに笑っている冷がいた。
「・・・・笑っている場合か?」
「だって、お父さんがそんなにも振り回されるの、なかなかないので。」
「あいつのことは、よくわからん。」
「いい子ですよ?お手伝いもよくしてくれますし、子どもたちも懐いています。」
冷は笑みを深くした。
「本当に、助かっています。」
転夜の走っていた先を見つめていう冷に、炎司は顔をしかめた。
「・・・嬉しいのか?」
「何がですか?」
「・・・・褒められるのが、だ。」
炎司は、転夜の軟派な台詞が気に食わずに思わず言った。それに、冷はけらけらと、珍しく声を上げて笑い出した。
「ふ、ふふふふふふふ、ふ、ふっふふふ。そ、そうですね。あまりないことなので、褒められるのは嬉しいですよ?」
なんとなく、あなたはどうですか、と問われているような気がして、炎司は顔をしかめた。
「・・・・別に、お前が褒められるべき所は、容姿だけじゃないだろう?」
顔をしかめてそう言えば、冷はきょとりと目を見開いた。そうして、心底意外そうな顔をした。
「そんなこと、言えたんですね?」
「どういう意味だ!?」
思わず怒鳴った炎司に、冷は心底不思議そうな顔をしていた。
それは本当に変わっていた。
妻を口説くのもそうだが、それは執拗に、炎司に言った。
見ろ、と。
「おっちゃーん、訓練も良いけどさあ。夏君とか、冬美ちゃんとかにも構ってんの?」
燈矢の口調が移った様子で、弟妹達を呼ぶそれに、炎司は顔をしかめた。
丁度、訓練が終わり、専用の部屋で転夜はだらっと横たわっていた。燈矢は水を持ってくると席を外していた。
「はあ、だから、そんな暇は・・・・」
「おっちゃんさ、死にかけた事ってある?」
それに炎司は転夜の方を見た。
子どものくせに何を、とまでは言えなかった。今、個性なんてものがある時点で、どんな目にだってあう可能性は秘めているのだ。
その子どもの過去を、炎司は知らない。
ただ、訓練を行う上で、もちろん、両親へ話を通しておこうとは思った。
けれど、転夜はあっさりと言った。
「いや、私は親いないんだよ。今は、援助してくれてる人が後見人付けてくれて、金銭管理と、定期的な報告というか、連絡してるだけ。」
それに、炎司は幸運だと思った。
後見人、ということは、ある程度の進路などは転夜の好きにして良いはずだ。ならば、説得を行うのは少女だけですむ。もしも、ヒーローになることを反対されても、その時は炎司が援助をすれば良い。そうすれば、更に囲い込みやすいはずだ。
が、それはそれとして、炎司は少女の保護者役として、後見人をつけた存在を知りたがった。やはり、少女がどういった経緯で天涯孤独の身になったのか、知れれば良いと。
聞き出した弁護士を辿れば、どうも、犯罪事件に関わった存在の人権を扱っていることがわかった。
そこまでわかれば、なんとなく、少女の人生なんて察せられた。
少女は、おそらく、さほど、ろくな出ではないのだろう。
けれど、炎司は気にしなかった。
少女の特異性を考えても、それはそれとして、少女の持つものはあまりにも得がたかった。
何かあっても、自分が後ろ盾になればいい。伊達に、ランキング入りしたヒーローなどしていないのだから。
けれど、少女の口から出てきた言葉に、思わず動きを止めた。
「ない、とはいわん。」
「ならさ、走馬灯とかって見た?あれってさ、死にかけてるとき、今までの人生を思い出して、その危機を脱出するためのものなんだって。」
唐突に語り始めたそれに顔をしかめる。なんといっても、それは、いつだって突拍子がない。
「私さ、一回、見たことあんだ。でもさ、思い出したの、ろくなもんじゃなかった。」
それが、悲しかった。
軽やかな声だった。まるで、今日、学校帰りに猫見たんだよって、なんて、冬美が話しているときの、そんな声音だった。
そんな声音で、少女は、今際の際を語るのだ。
「あれって、人の構造の優しさなのかもなって思うんだ。だって、最後の最期に、全部思い出せるなら、いつかに見た、楽しかったこととか、大好きな人のことを全部思い出せるなら、それってすごく嬉しいでしょ?」
おっちゃんはさ、夏君とか、冬美ちゃんに思い出されるなら、怒ってるときと、笑ってる顔、どっちがいい?
何気ない声で、そうして、横たわった少女は、ひどく、深い、泥のような濁った目で炎司を見る。
生き疲れたかのような、寒々しい声で、それは言った。
「おっちゃん、あのな、大事ならさ。ちゃんと、大事にしてやってな。この世で最も不幸なのはさ、語る口を持たないことなんだから。愛してるとか、大事だよとか言えて、そんで、それが実際出来るなら。ちゃんとそうしてあげてよ。」
今際の際にそれに気づいても、どうしようもないもの。
「・・・・・転夜。」
「うーん?」
炎司はそう言った少女に聞いた。
「お前は、なぜ、そこまで言う?これはうちの問題で、お前は燈矢のことは置いておいたとして、まったくの無関係だ。口を出す権利も、義務もないだろう?」
あまりにも、なんというか、他者がいれば思わず口を閉じさせていただろう物言いだ。
けれど、炎司にとっては素直な疑問だった。
それはよく、炎司に言った。
構えと、大事にしろと、そうして、見ろ、と。
けれど、炎司には、何故、少女はそこまで自分に言ってくるのか。
おまけに、それこそ、体を張って、怒鳴られようが何をしようが、ずっと、少女は、炎司にそんなことを言う。
ヒーローになるだとか、家で暮らせば良い、後見人を自分に移せだとか、そういった一線は越えられないのに。
執拗に、自分たち家族に関わり、そうして、何か足掻く少女の望みが、炎司にはわからなかった。
それに、転夜はむくりと起き上がり、そうして、炎司に笑いかけた。
「おっちゃんにはさ、なって欲しくないんだ。」
「何にだ?」
それに、少女は笑みを深くした。
「なって欲しくないんだ。おっちゃんにも、それに、夏君にも、冬美ちゃんにも、焦凍君にも。」
燈矢にも。
「なって、ほしくないんだ。ならないでね。なっちゃだめだよ?」
転夜は結局、それが何なのか、いうことはなかった。
だからこそ、だろうか。
「あああああああああああ、ううううう、ああああああああ!!」
ごめんなさいと、幾度も泣いて、赦しを請うように足をばたつかせるそれに、子どもの言いたかった、なって欲しくない物の意味がわかったような気がした。
転夜は轟家に泊るとき、燈矢と手を繋いで寝ている。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも