たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
めちゃくちゃ長くなってしまいました。申し訳ない。
エンデヴァーとオールマイトばっかです。
「・・・・私は確かにNo.1のヒーローって言って貰ってはいる。」
でもね、と、その男は口を開いた。
届かない星、断絶された頂点、あがき続ける理由。
その男は、口を開く。
「でもね、私だけじゃダメなんだ。」
完璧なる英雄は、明ける日のように微笑んだ。
「私じゃ、救えないものがある。」
「いやあ、急にごめんね!あ、これ、おみやげ!」
鍛え上げられた体を包むスーツが少しだけ軋んでいるのが見えた。轟炎司に合わせて作られた玄関は、なんなくオールマイトもくぐることが出来た。
差し出された紙袋を睨む炎司の後ろで声がした。
「あー!もしや、それは!!」
だんと、腰に張り付いてきた存在に炎司は顔をしかめる。そこにはキラキラとした目でオールマイトが差し出してきた紙袋を見つめる夢意転夜がいた。
「転夜!家の中を走るな!」
「いいじゃん!それより、オールマイトのおっちゃん、これ、おみやげ!?」
オールマイトはそれに何も答えなかった。一瞬の沈黙に、炎司が不審そうに彼を見ると、ようやく彼は口を開いた。
「・・・・うん、お子さんが多いって聞いてたから。あ、アレルギーとか大丈夫だったかな?」
「うん!みんな、食べられるよ!」
紙袋を受け取った転夜はウキウキとした様子で、炎司に見せる。
「おっちゃーん!これ、みんなで食べていい!?」
「お前な、意地汚いぞ!?」
「いいじゃーん!これ、めちゃくちゃ有名なとこの焼き菓子だよ!?」
「はあ、冷に言ってからだぞ?」
「やったー!オールマイトのおっちゃん、ありがとね!」
弾んだ様子でオールマイトに礼を言い、そうして、また廊下をどたどたと走って行く。炎司はそれに頭を抱えたくなる。
「はあ、おい、あいつが・・・・・」
炎司は保護者の責任かと、転夜の無礼について一言弁明をとオールマイトに視線を向けた。
そうして、何か、奇妙な物を見たような気分になった。
オールマイトは、じっと、ただ、ただ、走って行く少女の後ろ姿を見つめていた。
いつも、口元に浮かべる笑みなんてものを忘れて、じっと、ただ、見つめていた。
少しだけ、転夜君に会いたいんだけど、いいかな?
そんな電話が来たのは、少し前のこと。
妻に取り次がれたオールマイトからの電話に、思わず受話器を叩きつけそうになったが、さすがにそれがまずいことはわかっている。
サー・ナイトアイから聞いたんだけど、あの子、大分そっちで楽しくしてるって聞いてね。久しぶりに、顔が見たくなって。後、その、彼女の精神面での診断書なんかも見せて欲しいんだけど。
それは、ある意味で、少女を気にかける大人として真っ当だ。元々、サー・ナイトアイやオールマイトとは、転夜自身が個人的に連絡を取っているのは知っていた。
が、だからといって会わせたくもなかった。
転夜がオールマイトを苦手としているのはそうだが、もしものきっかけで、あちらに意識を向けられるのも困る。
オールマイトも、なにやら転夜のことをやたらと気にかけている様子だ。
けれど、会わせないというのも難しい。
一応は、ある意味で保護者的な立場はあちら側なのだ。ここで断るのも難しいとはわかっている。
「いやあ、ごめんね?わざわざ時間を取らせて。」
「・・・・そう思っているなら二度と来るな。」
「えー。そんなこと言わないでよ。」
にこにこと笑うオールマイトと、客間で向かい合う炎司は人でも殺すのかと言うほどの顔をしている。オールマイトはオールマイトで、そこそこマイペースさがあるせいか、飄々としている。
炎司がオールマイトを自宅に呼ぶと決めたのは、ここならば、少女の意識がその男に向けられることを防げると思っていたからだ。
「あ、そうそう、さっき渡しそびれちゃったんだけど。」
そういって向かい合ったオールマイトは、机の上にまた、紙袋を置いた。
「これは、エンデヴァー君へのおみやげ。葛餅、好きなんだよね?」
「あ?いら・・・・」
「あー!すげえ!」
突っぱねようとしたエンデヴァーの台詞に、また、声が被さった。ひょっこりと、エンデヴァーの後ろから人影が現れた。
転夜は驚いた目で、その葛餅を見つめる。
「これってさ、有名店のだよねー?なんか、テレビで宣伝してた!よかったね、おっちゃん!」
「・・・・うん、せっかくだから買ってきたんだ。」
「そうなんだー、あ、あのね、さっきの焼き菓子ありがとね!後で、みんなで食べるから!」
にこにこと笑う転夜を、オールマイトは少しだけ黙って見つめて、そうして頷いた。
「そっか、喜んで貰えて良かったよ。」
転夜は炎司の後ろに回り、まるでぶら下がるように肩に手をかけて体を揺らす。炎司は行儀が悪いと怒鳴ろうとしたが、それよりも先に、少女の、自分の肩を掴んだ手が震えていることに気づいた。
(・・・・こいつは。)
オールマイトのことが、苦手だと、そんなことを聞いたのはいつだったのか。
意外というか、そんな奴がいるのかと思った。
オールマイトを嫌いだという人間なんてあったこともない。もちろん、人気商売なのだから、いるにはいるのだが。
その、幼い少女が、おまけに、自分を助けてくれただろうヒーローにそんなことを言うなんて意外で。
それを言うならば、自分を、己のヒーローだということも意外だろうが。
そのまま、転夜は炎司にじゃれつくような形でオールマイトと話をする。
炎司はそれに任せることにした。
今回は、転夜の生活態度、というか、どう過ごしているのかと見たいというオールマイトの希望もあってのことだ。
「・・・・・・仲良いんだね。燈矢君、だっけ、あの子とは少し話したんだけど。」
「うん、他にも、弟君が二人と、妹ちゃんが一人。燈矢、オールマイトのおっちゃんに態度悪かったけど、ごめんね?あいつさあ、エンデヴァーのライバルだからって、オールマイトのおっちゃんのことライバル視してるんだー。」
「そっか、ライバルか。それは、光栄だね。燈矢君もヒーローになりたいんだね?」
「うん、私とヒーローになるんだ!」
転夜とオールマイトはそのまま会話を続ける。
家でのこと、学校のこと、勉強のこと、個性の使い方のこと。転夜は特に、にこにこしながら、轟家のこと、燈矢や冬美、そうして夏雄と焦凍のことを話した。
彼らと何をして遊んでいるのか、どんな話をしているのか、そんなことを喋っている。
炎司は、いつも通りの、しゃべり具合に、よくここまで話すことがあると呆れた。
そうして、一通り話した後、転夜はそわそわとし始める。炎司は、転夜に話すままにさせていたので、ここで潮時だと少女に言った。
「ほら、もういいからさっさと行け。土産の菓子を食うんだろ?」
「うん、そうする。あ、そうだ。でも、その前に一個だけ!オールマイトのおっちゃん、ナイトアイのおっちゃんにあんまり苦労かけちゃダメだよ?」
「え、何か言ってた!?」
「・・・・おっちゃんさ、また自分の管轄外に手を出して、余計な書類増やしたでしょ?」
「・・・・・それは、その。」
「管轄外?」
「ヒーローってさ、自分の管轄とか、関係ないこととか、あと、仕事をするときに申請しないといけない書類ってあるんだよね?」
「ああ、それはな。いくらヒーローの免許を持っていると言っても、そう、好き勝手には。まさか。」
炎司は思わず、気まずそうに顔を下に向けているオールマイトを見て、呆れたように叫んだ。
「お前、まさか、目の前で起こったこと、全部関わっているのか!?」
「・・・そりゃあ、ヒーローだし。」
それに炎司はあきれかえる。
ヒーローにだって、縄張りというものがある。それは、精神的なものから、制度的な物まで様々だ。
例えば、極端な話、会社で経理の仕事を営業が、こっちのほうがいいからと首を突っ込んでくれば不快に思ったり、見当違いなことになってしまうだろう?
そのためのヒーローの区分や、申請が必要なのだ。
もちろん、緊急の案件もあるため、後ほどの申請をすることも許可はされているのだが。
「ヒーローである前に、社会人として終わってるだろう!?それで、自分で処理できないレベルの事務仕事をSKに放っているのか!?」
さすがのオールマイトも気まずさに顔を下に向ける。それに炎司はあきれかえると同時に、納得もした。
オールマイトがあれだけ幅広く活躍や、そうして話題になるのは、ある意味でそういったショートカットを行っている、というのもあるのだろう。
生来的に、そういったことはきちんとする男の炎司は、ヒーローの性分があるとしても、ある意味でだらしないことをしていると顔をしかめた。
「オールマイト、お前、ヒーローとしての仕事があるとは言え、お前はNo.1なんだぞ?ルールが整っていると言え、そんなだらしなくてどうするんだ!?」
「でも、目の前で起こっていることを、見捨てるのは・・・・」
「見捨てろという話じゃない!大体、そこまで書類が必要なのは、警察が絡んだような大事や区分が分けられたヒーローの仕事で!」
喝!という感覚で怒る炎司に転夜はやぶ蛇だったかと思いながら、オールマイトに手を振った。
「まあ、オールマイトのおっちゃんも、あんまりナイトアイのおっちゃんに無理させないでね!」
転夜はぱたぱたと、足音を立てて、その場を去って行く。それに炎司ははーと息を吐き、そうして、転夜の診断書などをオールマイトに差し出した。
言いたいことは多くあるが、それはそれとして、さっさとオールマイトには帰って欲しかったのだ。
「まったく!ナイトアイの奴が気の毒だ!まあ、いい。おい、これが転夜の・・・・・」
オールマイトはじっと転夜の後ろ姿を見つめていた。それに、炎司は何をしているんだと怒鳴る。
「おい!聞いているのか!?」
「あ、えっと、うん!?ごめんね?」
オールマイトはそのまま慌てて書類を受け取り、そうして、また、少女の去っていた方を見る。
「・・・・・あの子、夜泣き、ひどいのかい?」
「いいや、泣くとしても、一ヶ月にあるかないかだ。それに、当人はけろっとしている。おまけに、泣いた日の次の日は、すこぶる機嫌がいいと来た。」
「それはまた、なんで?」
炎司は少しだけ悩んだが、どうせ医者に話したために診断書、経過観察について書かれたそれに記載はされていると口を開く。
「いい夢を見た、と言ってな。」
「夢か。」
炎司は目を細めた。それは、夜泣きをした次の日は、とても機嫌がよさそうに笑う。
どうしたと問えば、とびっきりの秘密でも囁くように聞かせてくるのだ。
「んふ、あのね、すっごくいい夢みたんだ。」
なんかさ、あったかくて、大きくて、それでさ、優しいね、何かはわかんないんだけどね。そんなのがね、ずっとおんぶしてくれるんだ。
「すっごい暖かくてさ、なんか、安心できる夢なんだ。」
いい夢でしょ?
弾んだ声でそう言った。
(・・・・優しい、か。)
それは、夢というフィルターがかかっているけれど、ぼんやりとした夢の縁で、自分を負ぶる炎司のことを言っているのだと理解した。
誰かを焼くこの焔の身を、少女は優しいと言うのだ。それが、なんだか滑稽で、少しだけ哀れで。
その夢を、とびっきり素敵なことのように、少女は笑うものだから。
「・・・・ねえ、エンデヴァー君。」
炎司のそれにオールマイトが口を開こうしたとき、何かが聞こえる。それに炎司とオールマイトは思わず顔を見合わせた。
なんだ、と思っていると、どうも二人の右側のふすまから聞こえてくるようだった。
すっと、ふすまがかすかに、それこそほんの少しだけ開くのが見えた。
(ほら、あれ、あれ!)
(すごーい、オールマイトだ!焦凍、オールマイトだよ!)
(これ、ばれたら怒られない?)
(ばれなきゃいいんじゃね。)
(オールマイトだ!)
弾んだ五つの声に、ああと、二人はそのふすまの向こう側で何が起こっているのか理解した。
(すごい!テレビで見た通りだ!)
(むきむきだな・・・・)
(おっきい人だね。)
(お父さんのほうがすごいし。)
(おっちゃんもケチだよな。少しぐらい、焦凍に会わせてやってもいいのに。)
おそらく、声を抑えているのだろう子どもたちの声はよく響く。オールマイトはどうするかと悩んでいたとき、炎司が立ち上がり、そうしてふすまに向かう。
「何をしている、お前達!?」
「げえ!ばれた!仕方ない!冬美ちゃん、夏君!」
それに冬美と夏雄が焦凍を抱える。その隙に、転夜が炎司の体を駆け上がり、そうして、肩に乗った。燈矢だけが微妙そうな顔で三人の後を追った。
「こんにちは!」
「こんにちは、オールマイト!」
「ほら、焦凍、なんて言うんだ?」
それに焦凍は目をキラキラさせて、おそらく、落書き帳だろうものを差し出してきた。
「さいんください!」
拙い声でそう言われれば、オールマイトも応じないわけにはいかない。
「いいよ!」
「いいよ、じゃない!勝手なことを!」
炎司が怒りでそう言えば、そこに、転夜が割り込む。
「いいじゃーん!そうやって言ってると、焦凍に嫌われるよ?」
それに炎司は動きを止めた。
さすがに、転夜に散々言われてきた手前、自分がいい父親ではなかったと自覚している。
その中で、そう言われると、さすがに動きを止める情緒はある。
「だからさ、そりゃあ、いっつもしかめっ面の怖い父親よりか、テレビの向こうで笑っているかっこいいヒーローのほうがいいに決まってるでしょ?ちょっとは寛大な心でさ?」
転夜がぺらぺらと喋っている間に、焦凍はオールマイトに抱っこをしてもらい、興奮気味に手足をばたつかせている。そうして、夏雄や冬美も握手をして貰った。
「・・・・転夜君とエンデヴァー君って、いつもあんな感じ?」
オールマイトが思わず呟いたそれに、その場にいた子ども四人は、思わず後ろで父親の耳を引っ張る転夜を見た。
ぎゃーすかと、そこそこの音量で叫んでいる。
「うーん、いっつもかなあ?」
「そうだねえ、いっつも。」
「転夜もお父さんも、よくやるよ。」
「そう、なんだ・・・・」
オールマイトが頷いたとき、膝の上にいた焦凍がにっこりと笑った。
「うん、けんかするほど、仲がいいんだよ!」
朗らかに子どもは笑った。
「まったく、あいつらは!」
あらかた目的を果した子どもたちは、転夜の合図で、きゃらきゃらと部屋を出て行く。
オールマイト、ありがとう、なんて声を上げて。
パタパタと、足音を立てて、興奮気味に笑い声を上げて去って行く。
散々、転夜に引っ張られた耳をさすりながら、どかりと元の場所に座った。
「もう、目的は果たしただろうが。さっさと帰れ、暇な立場ではないだろうが?」
「はははは、本当にひどいなあ。」
オールマイトはから笑いをしながら、息を吐いた。
「・・・・あの子、いつも、あんな感じ?」
「いつもだ。気に入らんことがあると人につかみかかって来る。」
「あー、眉毛、抜かれてるねえ。」
それに炎司は目の前のオールマイトを睨む。
以前よりも頻度が減ったおかげで大分ましになったが、それはそれとして、やはり微妙に薄い部分がある。
それを誤魔化すようにオールマイトは笑った。
「はあ、この頃は、俺のグッズをもっと出せと五月蠅い。あれば、もっと頑張れると。意味がわからん。」
「・・・・そう言えば、エンデヴァー君って広報活動殆どしないね。グッズも、なんだっけ、確かに見ないね。出さないの?」
それに炎司はいつもの数倍の眼力でオールマイトを睨んだ。
「貴様のように、へらへらと浮ついた気持ちでヒーローをしていないんでな!!」
雷親父に等しいそれに、オールマイトはうわっと声を上げる。
「おっちゃーん!!うるさい!!」
「わかっている!!」
家のどこからか聞こえてきたそれに、炎司は返事をした。そうして、オールマイトに更に帰宅を促そうとしたときだ。
ぽつりと、オールマイトは、幼い子どもならばきっと誰もが知っているあんパンのキャラクターの名前を呟いた。
「エンデヴァー君、知ってる?」
「ばかにしているのか?」
腐っても父親をしている炎司も、子どもが幼い頃は世話になった覚えがある存在だ。
「・・・・・私さ、小さい頃、大好きでね。母親にあれの絵本をよくねだってたんだ。怖いことがあると、ほら、ってそれのぬいぐるみなんかを見せてもらってね。」
「何が言いたい?」
いらいらとした炎司にオールマイトは気にすることなく話を続ける。
「・・・・・人はさ、そんなに強いわけじゃない。転んじゃったり、悲しいこととか、苦しいことがあると、どうしても立ちすくんでしまうだろう。だからさ、ヒーローが必要なんだ。」
それに炎司は顔をしかめた。なんといっても、その男は、ずっと、一人で立ち上がり続けてきた。
父が死んでも、学校でも、彼は、ずっと、一人で、ただ、立ち上がり続けてきた。
そんな男は理解できない。
そこで、一人で立ち上がれないなら、そこまででしかないのだろうと。
「ヒーローができるのはヴィランと戦うことだけだ。その後に、俺たちは立ち入ることはできん。」
「そんなことはないよ。」
「はあ?何を言って・・・・」
「助けられた、その後のあの子は、君によって救われたのに。」
遠くで、少女の甲高い声が聞こえてきた。
炎司は、何か、思わず黙り込んでしまった。
「・・・・私は、嬉しいんだ。あの子は、ずっと、たくさんのことを抱え込んでいて、でも、それを表に出すことは出来なくて。でも、君の元で、ようやく泣くことができたんだ。それが、たまらなく嬉しい。私たちが知らないだけで、あの子は、もっといろんな事を抱えているんだと思うんだ。だから、君のグッズが欲しいんだと思う。」
自分には、君がいて、大丈夫だって頑張る理由になっているんだと思うよ。
「・・・・きっと、辛いとき、助けてくれる、勇気をくれるヒーローが自分にいるんだって。」
オールマイトは穏やかに言った。
ヒーローは、ヴィランを倒すだけじゃなくて、そんなもののためにもいるんだと思う。
いつかに、自分が、絵本という虚構の存在でも、勇気を貰い、立ち上がろうと願えたように。
そういって、輝かしい男が言った。
「・・・・それなら、No.1のお前がいれば良いだろう。俺にそんなことを期待するやつなんぞおらん。」
不機嫌さを隠さないエンデヴァーのそれに、オールマイトはじっとその顔を見た。
「エンデヴァー君てさ。」
「なんだ!?」
「私のこと、嫌い?」
どストレートな問いかけに、炎司は眉間に皺を寄せた。
普通ならば、そんなことを当人に言うかと思うだろうが、悲しいかな。炎司というそれも又、それはそれはド直球な男なのだ。
「好きなわけがないだろうが!?」
雷染みた声でそう返した。
炎司は歯をぎちぎちと噛みしめて、目の前の男を睨む。
嫌い?
そんな言葉で足りるようなものではない。
届かない星、断絶された頂点、あがき続ける理由。
それが、自分よりも強いという事実があるだけで、エンデヴァーの、ある意味で敵なのだ。
誰よりも、強くなくてはいけない。
誰よりも、誰よりも、強くなくては。
脳裏にフラッシュバックする、担架から伸びた、手。誰かを助けようとして、誰も生き残らなかった結末。
善性だけでは、救えない物がある。
悪意ある物に蹂躙される存在が嫌いだ。抵抗も出来ずに、死ぬ誰かが嫌いだ。
その理不尽を、エンデヴァーは嫌う。
それが、もう、ヒーローであるが故の義務感か、いいや、もっと違う何かなのかはわからないけれど。
けれど、それに何も出来ない弱い自分を、エンデヴァーはずっと嫌悪していた。
「私は、君のこと、好ましいって思ってるんだけどなあ。」
その言葉に、男を睨んだ。
それは、冷が運んできた茶を啜っていた。
エンデヴァーは、それに、嘲笑じみた笑みを浮かべた。
「・・・・ふざけているのか?」
「ひどくない?ふざけてるとか、そんなのじゃなくて。純粋にそう思っているって話だよ。」
「黙れ!?俺がお前を好く理由がどこにある!?それとも、No.1の余裕か何かか!?は、No.2への哀れみか!?」
怒声染みたそれに、オールマイトは、驚いた顔をして、そうして、ちらりとまた転夜たちが去っていた方向を見た。
「・・・・私は確かにNo.1のヒーローって言って貰ってはいる。でもね、私だけじゃダメなんだよ。」
「どういう・・・・」
「私だけじゃ、救えない物がある。」
それは、声の大きさに反して、ひどく、耳の奥に残る気がした。ぎりっと噛みしめた炎司は歯を食いしばる。
「何を・・・・」
「ほら、聞こえない?」
それに思わず耳を澄ませれば、聞こえてくるのは、子どもの声だ。興奮しているのか、今まではかすかだったそれが、話の内容が聞き取れる。
すごかったね。
オールマイトって、あんな感じなんだ。
おとうさんのほうがすごいよ!
すごいね!
焦凍は、オールマイト好き?
うん、かっこいいもん!転夜姉は?
うーん、私はね。
人一倍、大きな、少女の声がした。
「エンデヴァーが一番好き!」
「ほら。」
オールマイトは悲しそうに、微笑んだ。
「私じゃ、救えないものがある。」
完璧なる英雄は、まるで、暮れる日のように、そう笑った。
炎司はそれに、何かを言おうとした、何かを、言おうとして。けれど、オールマイトではなくて、自分に縋る子どものことを思い出して、押し黙る。
地獄から助け出されてなお、助けてくれた完璧なる英雄ではなくて、少女はエンデヴァーを選んだ。
その理由を、炎司は理解できない。
ただ、少女は笑う。
私の夜を、明けさせてくれて、ありがとう、ヒーロー!
「・・・・私は確かにNo.1のヒーローって言って貰ってはいる。それで、誰もが、安心できるような世界になれるように頑張ってる。でも、私だけじゃ限界がある。私さ、少なくとも、君がいてくれてよかったと思うよ。メディアにも出ずに、実直に、突き進む君を見ていると、安心できる。」
「・・・・貴様よりも、下の俺に、それをいうのか?」
炎司は何と言っていいのかわからずに額に手を当てた。ようやく絞り出したそれに、オールマイトは言葉を続ける
「光栄だね、でも、さ。仮に、私が君よりも、上だとしても。君じゃ救えず、私が救えたものがあったとしても。」
子どもの、少女の、軽やかな笑い声がする。
「私が救えず、けれど。」
君だけが救えたものがあったんだ。
完璧なる英雄がそう言った。それは、ひどく、残酷な言葉に聞こえて。
炎司は、考える。
No.1だけがいればいい。誰よりも、強ければ、あまたを救えるはずなのだ。
なのに、なのに、目の前で、完璧なる英雄が悲しそうに告げてくる。
そこまで強くとも、それだけの在り方を持ってなお、救えぬ少女は、自分によって救われたというのならば。
ヒーローとは、なんだというのか。
エンデヴァーは、ぼんやりと考える。
オールマイトは、その後、帰り際に礼を言ってきた。
あの子を、助けてくれて、ありがとう、ヒーローと。
皮肉に聞こえた。けれど、皮肉ではない。わかっている。
私は、君みたいに、あの子に笑ってもらえるヒーローでありたかったよ。
それは、救えなかった男が言う。だから、嘘だと思えない。
ヴィランを除けるだけが、ヒーローではない。いつかに、誰かに助けて貰ったという事実が、そんな誰かがいたのだと思えることが救いになるというのなら。
エンデヴァーは、立ち上がり、そうして事務所内の企画部に内線をかけた。
「おい。」
炎司は、家に帰り、居間の机で出されていた課題にひいひい言っている転夜に何かを放り投げた。転夜は机の上に転がるそれを手に取った。
「エンデヴァーの、ぬいぐるみ?」
「あ、懐かしい!お父さんのぬいぐるみじゃん!これ、お腹押したら効果音出るんだぜ?」
「へえ、そうなの。」
「まあ、普通のヒーローは決め台詞なんだけど、お父さんは声じゃなくてぼおおって効果音なんだけどさ。」
隣にいた燈矢と顔を寄せ合ってそう、話し合う。
「へえ、そうなんだ。」
転夜がそう言ってお腹を押すと、ぬいぐるみから聞こえてきたのは、確かな音声だった。
『俺を見ろ。』
「あれ!?音声!?何これ!?」
「おっちゃん、これなに?非売品?」
「・・・お前が新しいグッズが欲しいと言うからだろうが。」
「まじか、試作品かなにか?あーでも、お父さん、なんであえてこれ?」
燈矢がそう言って、もう一つ放られたぬいぐるみの腹を押した。
『精進しろ。』
「ん、あはははははあははははははは!おっちゃんらしい!でも、味気ない!」
「お父さんらし過ぎる!」
けらけらと笑う子どもたちは、そのぬいぐるみを何度も押した。
炎司は落ち着かない。
実のところ、音声付きのぬいぐるみなんて予定ではなかった。それは、事務所内の人間に相談して、急遽、ぬいぐるみの中に再生機を放り込んだ、急ごしらえものだ。
応援して欲しいならと、精進しろと。そうして、もう一つは。
自分の炎を見て、安堵したように眠る少女のことを思い出して。
オールマイトの言ったことを、まだ、咀嚼なんて出来ていない。ただ、子どもが、もう、泣かなければ、いいのだろうと、そう思って。
「う、ふふふふふふ、おっちゃん、ありがと!」
大事にするね!
転夜は貰ったエンデヴァーのぬいぐるみを、心底、大事そうに抱えて笑った。それに、炎司は、ああと頷いた。
「燈矢、どっちが欲しい?」
「いや、どっちもいらないけど。」
「え、いいの?」
「家に、等身大のエンデヴァーがいるし。」
「さすがは実の息子、勝てるわけもないし、いらねえよな。じゃあ、二つとも、貰っていい?」
「どーぞ。」
炎司は二人の会話に被せるように上着を持ちながら、部屋から出ていきながら口を開く。
「・・・あと、だ。」
「なに?」
燈矢と、ぬいぐるみの腹を押して、遊んでいる転夜に炎司は言った。
「お前が五月蠅いから、今度、文房具のグッズを出すぞ。あと、食器類も少しだけだが。」
そう言った瞬間、転夜の目がきらきらと輝いた。それを見てから、炎司は部屋を出て行く。
やったー!!と歓声のような声が聞こえてくる。
それに、炎司は、何が嬉しいのかとため息を吐いた。
ぬいぐるみを貰った少女は、それっきり、夜に泣くことはなくなった。
出したグッズはファン層に合ってたようで売れた。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも