たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
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次回は地獄のおたく訪問。
消防車のサイレンの音が聞こえる。
それを聞きながら、夢意転夜はごそごそと、押し入れを探った。
「・・・・おい。」
「あ。ちょい待って。小柄だから、オーバーサイズの服でいけるだろうけど。パンツがなあ。さすがにノーパンはいかんだろ?」
「・・・・それはいいんだよ。」
「なんかさ、緊急で服の詰め合わせみたいな、セール品買ったときに、トランクスみたいなのがあった気が。」
「なあ!」
転夜はのっそりと押し入れから顔を出した。目の前には、家で数少ないバスタオルを体に巻き付けた轟燈矢がいた。
燈矢は視線をうろうろさせて顔を真っ赤にしている。
「なんで、服着ねえんだよ!」
ちなみに、転夜は全裸のままである。
山を駆け下りた二人は、さすがは真っ昼間、人気を避けて道を行った。幸いなことに山火事に意識が向けられているのか、二人は人に見つかることはなかった。
転夜は現在、贅沢なことに、小さいが一軒家に住んでいる。それは、ともかくは、人がいない環境をという頼みをした彼女の希望にそってのことだ。
周りにあまり民家のない、こじんまりとした家である。
二人は、それに飛び込むように入った。転夜はともかくと、奥から引っ張り出してきたバスタオルを燈矢に渡した。
そうして、彼女の荷物が殆ど放り込まれた押し入れを探っていたのだ。
「君が恥ずかしいって言うから、先に服を探してるんだろ?」
「その前に、お前が着ろよ。その、あの、し、尻をこっちに向けるな!!」
(なら、顔を背けろよ。)
とも考えたが、よくよく考えれば自分自身も痴女が極まりすぎているなと思い立ち、おもむろに立ち上がる。
「だから、隠せって!」
「なら、まぶたを閉じといてくれ!」
「見ないって思うと、逆に見ちゃうんだよ!!」
それには確かに一理あると思いながら、転夜はタンスに向かい、そうしてそのまま服を着る。
「お、なんだ、こんな所にあったのか!」
転夜はそう言ってタンスの中にあった新品のパンツを取り出した。
「ほれ、これと、これを着てくれ。」
「・・・お前、本当に羞恥心がないのか?」
「裸見られるのなんて慣れてるからな。」
元より、生まれた頃からきっちりと管理された家畜染みた存在だ。検査というか、検体というか、そんなものでマッパなどすでに慣れてしまっている。
「・・・・なんだよ、それ。」
その燈矢の声に、転夜は顔を上げた。そこには、何か、茫然とした顔をした。転夜は理解する。
なんか、こう、微妙な空気感が漂っている。
「通院が多くて、服を脱がされるのが多いんだよ。それより、さっさと着なよ。」
「わかった・・・・」
転夜ははあとため息を吐きながら、ちらりと窓の外を見る。
もうもうとした黒い煙が見えた。
それに転夜は遠い目をする。山火事は鎮火に時間がかかるものだが、今回は早めに火が消えたようだ。
(やったの、私らだが。)
改めて、その事実に頭を抱えたくなる。今日は、天下の土曜日だ。下手をすれば、誰かしらが山にいた可能性がある。
「なあ、君さ、他の人とか山で見てない?」
「え、み、見てない!!」
くるりと振り返った先で、服を着ていた燈矢が顔を赤くして、体を隠す。それに、思わず、転夜は呟いた。
「子どものくせにそんなに恥ずかしがらなくても・・・・」
それが聞こえていたらしい燈矢ががばりと体を戦かせて、転夜を睨む。
「誰が子どもだよ!」
「いや、中学生なんて子どもだろ?」
「お前だってそうだろ!?」
騒ぐ燈矢に転夜は面倒そうな顔をする。そうして、思わず呟いた。
「まだ生えてもないくせに・・・・・」
その言葉に燈矢は一瞬意味がわからなかったが、気づいたのか、己の股間を隠した。
「すぐに生えてくる!!」
叫んだそれに転夜はやってしまったと己の口元を覆った。
治安が悪いところにいすぎて、ちょっと下品になってきているなと、少しだけ反省する。
「すぐに、お父さんみたいに、もう、ぼーぼーに生えてくるし!お父さんみたいに、でっかく・・・・!」
「だああああああ!私が悪かった!だから、お前の父親の下の事情は話さなくていい!ともかく、だ。」
転夜は目の前の少年を見た。
「山で誰かを見てないんだな?」
それに燈矢はむすりと顔をしかめ、そうして頷いた。
「あの山、元々、人はあんまり来ないんだよ。整備もあんまりされてないし。」
「なら、大丈夫だと、信じよう。」
ため息を吐いた転夜に、燈矢はどこかそわそわする。転夜は、さすがに、少なくともあまり喋ったこともない異性の部屋など気まずかろうと思い、帰宅を促そうとした。
「じゃあ、これで・・・・」
「な、なあ!お前の個性って、何?」
それに転夜は顔をしかめた。というのも、転夜にとって、それはあまり触れて欲しくない類いのものだった。
ちらりと見た燈矢は何か、目がギラギラしているような気がした。
(でも、実際問題、緊急とは言えばらしたし。)
転夜は諦めたようにその場に座った。そうして、燈矢にも座るように促した。
「・・・・個性の話の前に。君、私のことはわかる?」
「えっと、会ったことあるっけ?」
「あのね、中学の同クラスなんだけど?」
それに燈矢はさすがに気まずかったのか、視線をうろうろさせる。それに、完全に自分が目の前の少年に認知されていなかったことを理解した。
「ええっと。」
「いいや、いいさ。君、基本的に他人を寄せ付けないし。仕方が無い。改めて、自己紹介だけど。私は、夢意転夜。君は、轟燈矢君だね?」
「・・・・あってる。」
「よし、じゃあ、轟君。私の能力については表立って話さないでくれるか?」
「なんでだよ?」
「・・・・この年で、親もなく、一人暮らししてる身なんだ。察しろ。」
それに燈矢は言外に、転夜の言いたいことを理解したのか、こくりと頷く。それに転夜は息を吐き、立ち上がる。
一階の居間にいた転夜は隣のキッチンに向かい、そうしてコップに水を汲んでくる。それを燈矢の目の前の机に置いた。
「水だな?」
「水、だけど。」
「これに、私の個性を使う。」
転夜がそう言い、水に指を突っ込んだ。そうすると、それはほかほかと湯気を出し始める。
「水が、お湯って。おい、お前の個性ってなんなんだよ!?バフ系か?でも、それにしては、温度に関するものか?」
「違う、私の個性は、反転だ。」
「反転?」
「物事の性質をひっくり返すんだ。今は、水をひっくり返して、お湯にした。さっきのは、君の氷への耐性を炎の耐性にひっくり返したんだ。」
「性質の、反転?」
転夜の個性は、非常に使い勝手がいい。大抵の物には裏が有り、転夜はそれを好きに出来る。が、転夜はそれを表立って公表していない。オールマイトにも、温度の上下を切り替える程度だと伝えてある。
(・・・・下手に有用な個性だと知られても、ろくな事が無い。)
本当に大変なとき、助けてくれる存在などいないのだ。
「・・・・でもさ、水の反対って炎じゃねえの?」
それに転夜はぴくりと震えた。
もちろん、発想としてはあっている。けれど、それが転夜の個性の肝なのだ。
反転する性質は、どうやら転夜の想像を軸にする。
故に、転夜は冷たい水の反対が温かなお湯だと認識する。そのため、反転させた結果を想像できないと個性を使うことが出来ないのだ。
(・・・・水があるところに、炎があるということを想像が出来ないからな。)
ぴくりと震えた転夜に、燈矢はじとりとした目を向ける。
「・・・・・本当は違うのか?」
「・・・・・そこまで話す義理はない。」
転夜はぷいっと燈矢から視線をそらした。話すことは話したと、疑問に答えるぎりぎりは教えたはずだ。
(・・・まあ、出来ることはもっとある。)
例えば、個性だって反転できる。例えば、燈矢が炎ならば氷か水にひっくり返せる。自分の個性だってそうだ。
だから、転夜は誰にも言わない。
(強い個性なんて、不幸の元だ。)
弱い個性は罰に等しいけれど。
「わかったのならさっさと・・・」
「なあ。この個性って持続時間は、どれぐらい?」
「はあ、だから、そこまで。」
「教えてくれ!!」
叩きつけるような声に、転夜は気だるそうに燈矢の方を見た。
何を、そんなに駆り立てられるように、立ち止まれば死んでしまうとでも言うように。
そんなにも死んでしまいそうな顔をするのだ。
ギラつく瞳に、転夜はそう言いたくなった。
(厄介そうだなあ。)
ここで躱すことも、そうして、誤魔化すことも出来る。けれど、後の事を考えると面倒なのだ。何よりも、そこまで駆り立てられるような少年に下手な情報を渡すのは、ろくな事にならないと理解した。
「・・・・継続時間は五分だ。」
「五分?」
「ああ、五分だな。」
念を押すようにそう言えば、少年は少しだけ考えるような仕草をする。
「この個性を使って何かをしたいのなら諦めろよ。」
嘘ではない。ただ、言っていないことがあるだけだ。
転夜の個性の持続時間が五分であることは事実だ。ただ、二つまで対象を絞れば、継続時間を延ばすことは出来る。
個性の効果を持続させ続けたい物体に、接触し続けるのだ。
例えば、一時間効果を持続させたいなら、一時間触れ続ければ良い。
(まあ、対象は二つまでではあるけれど。)
それを教える義理はないのだ。
釘を刺すようにそう言った。燈矢はそれに、何かそわりと体を動かした。
転夜はじとりとそれを見た。
何かを自分に頼みたがっているのはわかる。何か、己の個性に求めているのはわかる。
(個性を熱心に使っていたと言うことは・・・・・)
そこまで考えて転夜はため息を吐いた。深入りするほどの人生など送っていないのだ。ならば、理由なんて考える必要は無い。例え、理由を知っていたとしても、自分は協力することはないのだ。
ならば、無視をするに限る。
「ともかくだ、さっさと帰れよ。火事があったんだし、親御さん、心配してるぞ?」
「・・・・心配なんてするはずないだろ?」
聞こえてきたそれに転夜はくるりと燈矢のことを振り返った。とても、憎々しげな声をしていた。
ちらりと見た燈矢という少年は、良くも悪くも、きちりとされていた。
思い出す全裸になる少年は、衣服も洗濯されていたし、体躯にあったものを着ていた。栄養状態も良く、風呂にも入っているようだ。
転夜から見て、燈矢というそれは、ある程度の愛情というか、関心は向けられているように感じられた。
「はあ、思春期かあ?」
少しだけ、嫌みのように吐き捨てた。転夜というそれの事情という前提があれば、燈矢のそれは幼い子どもの駄々に過ぎなかった。
「何がわかるんだよ!」
「あのな、だから・・・・・」
「俺はな、失敗作なんだよ!!」
転夜はそれに燈矢を見た。
ああ、子どもがするような顔じゃないだろうと、そんなことを考えた。
ぎらぎらと、ぎらぎらと、燃える瞳が自分を見ていた。
「散々、期待してるって!俺なら出来るって!そう言って!失敗作だったんだ!見捨てられて、俺なんていらないんだ!俺に、火を付けたのはお父さんなのに!俺の体質じゃ、ヒーローになれないんだってさ!今更、友達を作れとか、そんなことを!」
それは、端から聞けば、泥の中で這いずり、足掻くような。
ああ、地獄の中で、怨嗟の声を上げているような、そんな、縋るような声だった。
哀れな子どもだ。
そんなことを考えた。
強い個性は不幸の元であるという事実を体現するような子どもだった。
何かとダブる、散々に見てきた、地獄の中で死んでいった誰かのことを思い出して。
転夜はそれを振り切るように、いいや、目をそらすように、知らないと拒絶するように。
少しの苛立ちを込めて、無意識のうちに吐き捨てた。
「いい親じゃないか。」
「だから、どこが!」
「失敗作を殺処分せずに、ちゃんと育てて、真っ当に生かそうとしてるじゃないか?」
がたりと、立ち上がる音がした。それに、転夜はうろんな瞳を向ける。
少女の出した声は、まるで、凍えるほどに冷たく、そうして、恐怖を覚えるような何かを含んだものだった。
燈矢の瞳に浮んだ驚愕と恐れに、転夜は、さすがに後悔した。
(だめだ、子どもに向けるタイプのものじゃねえ!!)
少し、苛立ちというか、自分の今までのこともありはしたが。完全に八つ当たりだろうと、転夜は額に手を当てて、軽く頭を振る。
「・・・・・ともかく、さっさと帰りなよ。服はもう、あげるし。靴も、たぶんサンダルあるから、それで。」
「・・・・帰りたくない。」
終電逃した彼女みたいな事言い始めたな。
「疲れたから、少しだけ休ませて欲しい。」
転夜はそれを断ろうとしたが、何か、あまりにもキツいことを言ってしまった自覚があるため、渋々了承した。
燈矢はそのまま、居間の隅で座布団に背中を預けて蹲る。転夜はそれを見つつ、ごろんとその場に転がった。
(つかれた・・・・)
当たり前で、体の疲労というよりは、精神の方が疲れ切っていた。
うとうとと眠気が来る。それに、転夜は、もう面倒でその眠気に身を任せた。
盗られて困る物は無く、少年が自分に害をなす確率も低いだろうと考えた。
(・・・・何かされたとして、どっちでもいいし。)
すうっと転夜はそのまま眠りに落ちた。
(・・・・うん?)
転夜は眼を覚まし、床で寝たが故に少しだけ軋む体で伸びをする。外はまだ明るく、そこまで寝たわけではないのだろうと考えて辺りを見回した。
見れば、燈矢も自分と同じように座布団を枕に眠っていた。
(そりゃあ、疲れるか。)
なんてことを考えつつ、転夜は何時だろうと時計に目を向けた。
(・・・・九時か。よく。)
「九時!!!???」
寝起きの掠れた声であれど、とんでもなく焦った転夜の大声に燈矢がふあっ!?と言いながら眼を覚ました。
「な。なんだよ?あれ、俺、寝て・・・・・」
「寝ぼけてる場合じゃねえよ!?時間!これ、時間見ろ!!」
「・・・・時間って、九時、だ、け。」
そこまで考えて燈矢も同じ発想に至ったのだろう。
二人が火事に慌てて転夜の自宅に着いたのは、夕方も近い時間だったはずだ。仮に、これが午後の九時であるならば、外の明るさはあり得ない。
二人の脳裏に、一つの思い浮かぶ。
「「無断外泊!!??」
(火事!火の個性!行方がわからない状況!反抗的な態度!)
転夜は、燈矢の家の状態を予想し、静かに絶望した。
転夜は全体的に母親にだけど、目元だけ父親に似てる。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも