たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
下で終わらせたくて、続けたら一万越えになってしまった。もうしわけない。
ミミちゃん、人気すぎでは?
炎司は次の日、前髪を焦がして出勤したし、転夜と燈矢の気まずい時間は、数日して気にしない転夜の態度で色々とうやむやになった。
「ありがとう。」
笑っていた。
優しい人で、キレイな人で、ずっと、本に視線を下ろすその顔を、考え込む横顔を、見ていた。
けれど、その時は、初めて見るような顔をしていた。
「私を選んでくれて、ありがとう。」
終わる夏のように、その人は、笑っていた。
茶野ミミは自分のことを見おろした。
スカートや制服の上着は、埃などないようにコロコロを貸して貰った。ふわふわとした茶色の髪だって、クラスメイトにヘアアレンジをして可愛らしい編み込みをしてもらえた。
うっすらとした化粧だって、可愛いと言って貰えた。
(ス、スカートも、ちょっとだけ丈を、短くした!)
まさしく、戦闘能力は、最高潮だ。
(ただ・・・・)
ミミはちらりと、校舎を見た。校舎裏、というわけで、もちろん彼女の目線の先には、校舎があるのだが。
そこには、そこそこの人間が、窓からミミのことを見下ろしている。
あまりにも野次馬が多すぎる。
(・・・・これは予想外だよ。)
仕方が無い。ミミが、夢意転夜を校舎裏に呼び出した後、ばたばたとクラスに帰ってきた彼女らは、最初にクラスメイトに助けを呼んだ。
「みんな!ミミの初陣よ!!」
「ちょっと手伝って!!」
それに全てを察したクラスメイト達は、今持てるだろう全てを持って、ミミを飾ったのだ。
が、問題はその後で、彼女が、夢意転夜に告白すると言うことが漏れてしまったのだ。
「あの!?」
「あの、燈矢先輩の!?」
「え、あの人、女じゃ。」
「え、男って聞いたんだけど!?」
それをかわきりに、普通科の上の学年にもその話が広がり、転夜の被害者、というのが正しいかはわからないが、わらわらと集まってきたのだ。
「止めとくんだ!」
「いい人だけど!」
「付き合えても、苦労するぞ!?」
「・・・・わかる、好きなんだもんな。」
「でもね、うん。」
「・・・・素敵な人だもんなあ。」
一様に、遠い目をしていたり、なにやら叫んでいたりするのがいたりと、わらわらしている中、ミミはもうとっくに覚悟を決めてしまった。
(・・・ううん。逆だ!人が多い方が、告白の成功率が上がる。)
転夜という人の性格から考えて、ここまで集まった人の前で自分を振ることは出来ないはずだ。そうして、その後に、やっぱりと前言撤回しようとする前に、学校内に触れ回れば性格的に関係を持続させてくれるはずだ。
(・・・・わかってる。)
ミミだって、異性だとか、そういった意味合いでの好きという感覚は、転夜からはどこまでも希薄だ。
可愛いね。
なんて囁く声を覚えている。
それだって、きっと、どれだけ優しくても、なんだか幼い子どもを見守るようなもので。
でも、でも、でもでもでも!
(好きだもの。)
なら、何を持っても、全力でぶつかっていくしかないのだ。全力で、ただ、手を伸ばすことしか出来ないのだ。
少なくとも、彼女の隣にたちながら、一歩歩みを進める気もないあの人と、自分は違うから。
そこで、ミミは遠くから、誰かが歩いているのが見えた。
それに、皆がざわついた。ミミも又、身だしなみを素早くチェックする。
「せ!ん、ぱ、い?」
ミミはきっと、転夜がやってきたのだろうと視線を向けて、そうして、目を見開いた。
「・・・・あのお。とーやさん?」
確かに、転夜はそこにいた。とぼとぼと、及び腰で、けれど、必死に自分の手を引く存在を引き留めようとした。
「あのね!?あの、その、色々と、あのね、ダメな気がね!?」
ミミは自分に向かってくる、一人の女生徒に目を見開いた。それは、ずるずると転夜の手を引いている。
皆の視線が、一気に、その女生徒に向かった。
そこにいたのは、簡潔に言えば、目を見開くほどの美少女だった。
さらさらとした白銀の髪は肩で切りそろえられていた。まるで雪のように白い肌は、見るだけできめ細かいものであることが察せられる。すらりと、制服から伸びる手足は細く、子鹿のようだった。
冷たいアイスブルーの瞳を細めて、ゆるりと微笑めば、誰だって見とれてしまうだろう。
雪像のように儚げで、そうして、整った顔立ちに、少女はにっこりと微笑みを浮かべた。
それだけで、野次馬をしている連中の数人の瞳にハートが浮かんだことだろう。
その場に父親がいれば、母親の若い頃にそっくりとだと度肝を抜かれたことだろう。
「・・・・これで、どうだ?」
さらりと髪をかき上げて、少女は笑う。
「同じ土俵に立ってみたけど?」
勝てるの、お前?
転夜の個性によって性別を反転した轟燈矢は、そう言って挑発するように微笑んでみせた。
「なにあの美少女!?」
「あんな子いた!?」
ミミの友人達は、突然現れた存在に目を見開いた。彼女らも又、野次馬に混じって、ミミのことを見守っていたのだ。
そこで、声が割り込んだ。
「・・・・・勝てないわね。」
「え?」
声のする方を見ると、彼女たちがヒーロー科の二年生の教室で見た先輩達がわらわらと集まっていた。
「・・・・・突然制服を求めたときはどうしたかと思ったけど。」
「ああ、まさか、あんな方法で夢意の意識を持っていくなんて。」
「おまけに、恐れ戦きなさい。」
あれ、メイク無しの、純粋なすっぴんよ!?
その言葉に、周りにいた女生徒達から悲鳴が上がる。
「あれが!?」
「メイク無し!?」
「あれだけのポテンシャルを!?」
「ええ、おまけに、スタイルさえも、胸を押さえるためにサラシを巻いているだけ。それで、あのスタイル!」
女生徒達はごくりと喉を鳴らした。
まさしく、今の燈矢は、スカウターを持っていればぶっ壊れているほどの戦闘力を持っているのと同様だった。
「そうして、もう一つ、轟君にとって、有利な点があるわ。」
「み、ミッドナイト先生!」
「勝手に制服貸したこと、許して貰えたんですか?」
「それは置いておきなさい。」
ミッドナイトはそう言って、ゆっくりと転夜達に視線を向けた。
「・・・・銀髪、儚げ美少女は、転夜のドストライク。あの後輩ちゃんにどれだけの勝ち目があるのか。」
お手並み拝見ね。
それに生徒たちは、その場の行動を見守った。
「・・・・俺たち、何見せられてるんだ?」
「なんだろな?」
なんてふうに遠い目をした、アングラヒーローと、DJなヒーローがいたことは割愛すべきだろうか。
ミミはきっと、自分の目の前に立つ少女を見た。それは、にっこりと微笑んで、転夜と手を繋いでいる。
(・・・まさか、ここまでするなんて!)
ミミの予想からして、燈矢という少年はなかなかにプライドが高い性格だと考えていた。そのため、今の今まで関係性を進めずにしておいて、真っ正面から告白をぶち壊すなんてことしないだろうと考えていた。
(そこにつけ込むのが、私の勝機だった。)
が、どうだろうか。
予想とは違い、燈矢は見事に、真っ正面からこの場を壊しに来たのだ。
確かに、ミミの思った通り、その少年はそこそこプライドは高い。だが、それ以上に執着心が強いことを知らなかった。
燈矢は、父親似だもんなあと転夜が呟いているのが聞こえた気がした。
燈矢はミミの表情に勝利を確信したのか、にやりと笑った。転夜は、今の状況がわからずにひたすらオロオロしている。
(・・・・突然、放課後に、燈矢に性別を反転させられたけど!?なんで!?なんで、ばっちばちに女の子の制服まで着てるの!?というか、そのタイツ、私のなんだけど!?似合うな!?)
「というか、校舎の人たちは何なんだ!?今日何かあったっけ!?」
「うるせええええええええ!?誰のせいだと思ってんだよ!?」
「ちくしょう!なんでこんな奴がモテるんだよ!?」
「なんで轟よりもモテてんだよ!?」
「潰れろ!?」
「まったくと言っていいほど覚えがないんだけど!?雄英の、モテ男は、うちの燈矢ですが!?異論は認めんが!?だから、なんでこんなに人がいるんだよ!?つーか、ミッドナイト先生とか、相澤ちゃんとか、山田ちゃんまでいるし!」
転夜は校舎に向けて叫んでいる間に、ミミと燈矢はバチバチににらみ合う。
(・・・・・勝てない。)
ミミは戦く。圧倒的な、強さというものを理解して。今にも崩れ落ちてしまいそうなほどの実力差を感じていた。
(・・・・そう、勝てないわ。でも、私には、燈矢先輩にはないものがある。)
「ああああああ!もう!ごめんね、ミミちゃん。用があったのに。それで、どうかしたの?あ、この、隣の、美少女は気にしないで。私もわからんくて。」
転夜は遠い目をしつつ、どことも言えない空虚を見つめる。そこで、ミミは、ぐっと歯を食いしばった。
そうだ、自分のすべきことは変わらない。そう思い、目の前の転夜を見た。が、ミミが口を開こうとしたとき、転夜がああと先に声を上げた。
「うん?あれ?そういえば、ミミちゃん、なんか今日会ったときと、雰囲気が。」
「あ、えっと、その!」
ミミは、自分の、着飾った状態であることを指摘され、ミミは急に恥ずかしくなる。思わず、己の垂れた耳で顔を隠した。
「へ、変ですよね!?」
「え?なんで!?いつも、下ろした髪も可愛いけど、今の編み込みとか、なんかチョコレートケーキをデコレーションしたみたい。」
とっても可愛いよ?
不思議そうにそう言われ、ミミは、その、可愛いという単語を反芻する。耳の隙間から見た転夜のことを見つめた。
やっぱり、その人は笑っていた。
ああ、あの、夏のように快活な、けれど、優しそうな、そんな笑み。
胸がどきどきと、鳴って、どうしようもない。
ああ、ああ、ああ。
(やっぱり、好き・・・・)
ミミは、顔を真っ赤にして、耳を握り込んだ。
それが面白くない燈矢は口元をぴくつかせて、隣に立つ転夜に己のことを思い出させるように、抱きついた。
「なあ、転夜。こいつとの用が終わったら、さっさと帰ろうな?」
「え、うん?」
転夜は自分にしだれかかるそれはもう、何よりも、ドストライクの容姿の女ににっこりと、それこそ微笑まれて、でっれでれになった。
それは、もう、鼻の下が伸びている。
「・・・・やっぱ。所詮は顔よ。」
「クソがよ!」
「これだから、野郎は!」
「お嬢さん方、あいつ、女!」
なんて野次が聞こえてくる。
が、転夜は自分に話しかける燈矢にメロメロのようで、うっとりとその顔を見つめている。それに燈矢は、ミミを見てはんと鼻で笑った。
それにミミがぐっと歯を食いしばった。
が、そこで追い打ちのように、燈矢は続ける。
「今日も泊まっていくだろ?お父さんも、お母さんも、冬美ちゃんとかも待ってるからさ?」
「うん?いや、わざわざ言わなくても、殆ど、君んちに泊まっているけど・・・・」
「そうだよなあ!中一から、ずっとだもんな?」
(な・・・・!?)
それに、その場にいた人間達の心が一つになる。
(((すでに、両親公認だと!?)
「知ってた。」
「察してた。」
「つーか、燈矢から聞いてる。」
クラスメイト、というか、同学年のヒーロー科たちだけがうんと、遠い目をして頷いた。
(そんなの!!)
ミミは目を見開いて、燈矢のことを凝視した。あまりにも、圧倒的な立場の差を示していた。それに、燈矢は笑みを深くした。
(・・・・く!両親が公認。でも、落ち着くのよ!燈矢先輩の父親は、有名なエンデヴァー。ある程度、社会的な地位があるなら、スキャンダルは嫌うはず。でも、先輩のことは許している。)
ここで可能性は、大きく二つ、考えられる。
一つは、本当に、そう言った意味合いで二人の仲を認めている場合。
もう一つは、転夜の性転換の方法を見て、あくまで強力な個性の使い手として、育成を行っている場合。
(何よりも、先輩の様子からして、両親公認というそれはブラフの可能性も高い!)
いいや、とミミは内心で首を振る。
自分に出来ることは、元より一つだけ。とっくに覚悟は決めている。
「せ、先輩!」
「あ、えっと、うん!ごめんね!ミミちゃんの用って、なんだい?」
燈矢の顔に見とれていた転夜は、さすがにと意識を引っ張り、ミミに微笑んだ。その腕には当たり前のように燈矢が絡みついている。
それに、ミミは息を吐いた。
(・・・・私と、あなたは違う。)
少なくとも、思い一つ、告げられないあなたとは違う!
「その、先輩。最初に、本棚の本を、取ってくださって、嬉しかったです。」
「ああ、そうだね。図書室、なんか踏み台用意して欲しいよね。」
「それからも、私に、構ってくれて、嬉しくて。」
「うん、私も、色々とお世話になったから。」
「わ、私!ずっと、先輩のこと、キレイだと思ってました!!」
人一倍、大きな声が、辺りに響く。そうして、それに、野次馬達がざわつく。転夜は不思議そうにそれを見つめていた。
「私、先輩のことが好きです!!つ、つきあって!恋人になってください!!」
燈矢はそれに、ふんと息を吐いた。
だって、返答なんて決まっている。
燈矢は、信じていた、というか、確信していたのだ。
転夜が、好きなのは、自分なのだと。
だから、ちらりと、転夜を見て。
きっと、それは、困り切って、困惑したような顔をして。
なのに、なのに、なのに。
「あ、え・・・・・」
転夜は、顔を真っ赤にして、茫然とミミを見つめていた。
あまりにも、予想外の反応に、皆、目を見開いて転夜を凝視する。
転夜は動揺するように、ミミと同じように、その長髪で己の顔を隠して、顔を下に向ける。
「そ、そう、なの・・・」
蚊の鳴くような、かすかな声で、そう返した。
それに、皆、思った。
((((確変きたあああああああああ!!???))))
(ミミ!今よ!)
(いける!!)
それにミミも、今がチャンスだと、燈矢とは反対の、転夜の腕に飛びついた。
「大好きです!」
「え、え、えっと!」
「おい、転夜、こっち見ろよ!ほら!な!?」
「うん!?」
「燈矢先輩、邪魔しないでください!」
「邪魔って何だよ!?邪魔なのは、お前だろう!?」
「私は、フリーの人に、普通に告白しただけです!」
「空気が読めないって言ってるんだよ!?」
「空気って何ですか!?具体的にお願いします!?」
「俺と転夜の間に挟まってくる時点でそうだろう!?」
「私は、相棒の間に挟まった覚えはないですが!?」
そんな怒鳴り合いの中、転夜は顔を真っ赤にして、え、えと、動揺するように目を白黒させている。
それに、野次が飛んだ。
「おい、ごら!夢意!」
「てめえ、返事はどうした!?」
「羨ましいぞ!?」
「燈矢さーん、俺と付き合わない!?」
「何を美少女に挟まれてるんだよ!?」
「クソが!!」
「くたばれ!!」
「おいいいいい“!誰だ!燈矢と付き合いたいって言った奴!!エンデヴァー連れて来て、圧迫面接に突入させんぞ!?」
「ごめんなさい!」
そこでようやく正気に戻ったのか、転夜は己に抱きつくミミを見下ろした。
「もしかして、今日の用って、この?」
「そうです!先輩、付き合ってください!」
「おい、転夜、断るよな!?お前にそんな暇ないだろ!?」
それに転夜は思わず校舎を見た。
「ということは、ここにいる全員、これの野次馬か!?」
転夜はそう言った後、怒鳴り始める。
「人の告白場面を野次馬するな!!というか、ミッドナイト先生までなんでいるの!?」
「こんな青春、摂取しないわけにはいかないでしょ!?」
「デリカシーをどこに置いてきた!」
「おい、逃げるのか!?」
「逃げとかじゃなくて、見世物にすんなっつってんだよ!」
「おい、返事どうするんだよ!?」
「こんな大勢の前で言うか!!」
散れい!!と転夜は叫ぶが、それにはブーイングが来るだけだ。
散々に、被害者、相手が勝手に嵌まっているだけなのだが、そんな転夜の年貢の納め時なんて気にならない方がおかしいのだ。
「・・・ああ、もう、わかったわ!!」
転夜はそう吐き捨てると、燈矢から腕を引き抜いた。
「は、おい、転夜?」
「ごめん、燈矢、先に教室帰っといて。まだ、性別は持続すると思うけど、効果切れるかも知れないから。着替えて待っといて。ごめんね、ミミちゃん。」
転夜はそう言って、ミミを、俗に言えば、お姫様抱っこした。
「おい、何を・・・・」
(えっと、私と、ミミちゃんの体重を半減、身体能力増加してっと。)
「返事してくる!」
そう言った瞬間、転夜は、そのまま飛んだ。転夜は、校舎の壁を蹴り上げて、高く、そのままどこかに去って行った。
「てんやああああああああ!!」
燈矢の声を後ろに聞きながら。
「はあ、ここまで来ればいいかな。」
転夜はそのまま、重力無効や身体能力の増加などの切り替えを行いながら、校舎裏から遠く離れた、学校の敷地内に下りた。
そこは、別校舎の陰なのだが、人気は無いのでいいだろうと思ったのだろう。
「ミミちゃん、急にごめんね。怖かったよね?」
転夜はそう言いつつ、ミミのことを下ろした。ミミは、抱きしめられた、そのままに横顔を見つめ続けて、ぼうっとしていた意識を起した。
「えっと、いいえ!その、ずっと先輩の顔を見てたので、気には。あ!その、えっと!!」
今更になってあわあわとするミミに、転夜は苦笑した。
「いや、にしても人の告白騒ぎであれだけのことが起こるって、本当に・・・・・」
段々としぼみがちになっていく中、ミミは気になって顔を上げた。
そこには、見事に、顔を真っ赤にして、ミミを見ている転夜がいた。
「・・・・えっと、その、ミミちゃんって、あの、つまり、私のこと、好きって、あの、こと、だよね?」
つっかえつっかえに、そう言いつつ、転夜は視線をうろうろと、それこそ上下に動きまくっている。その動揺の様に、ミミもまた唐突な羞恥に襲われる。
(そうだ、こくはく、しちゃった・・・・・!!)
ミミはまた、勝手にあわあわする。転夜は恥ずかしそうに顔を両手で覆い、必死に赤いそれを隠している。
「えっと、そうですね!」
「あ、ははははははは、うん!?だね!?」
二人で顔を真っ赤に、何を誤魔化したいのか、声を上げた。ミミは恥ずかしさのあまり、顔を下に向けた。
(ううん、待ちなさい、ミミ!確かに、先輩は動揺している。でも、全然拒絶的な感覚は無い!というか、恥ずかしがってるし、好感触!)
これは、まさか、いいや、きっと!!
ミミがそう思っている中、転夜は顔を赤くして、ちらりとミミを見て、そうして、一瞬だけ何かを考え込むような顔をした。
それに、少女は、ふっと、笑った。
淡く、口元に浮んだ、そんなかすかな笑み。そうすれば、少女の顔から、動揺だとか、赤みだとかは、嘘のように消えて仕舞う。
転夜は顔を覆い隠していた手を離した。
「・・・ねえ、ミミちゃん。」
それにミミは顔を上げた。そうだ、その、兎の少女は、ある意味で確信さえ抱いていた。
きっと、その人は、その、先輩は自分の望む応えをくれるのだ。
笑っていた。
その人は、なんだか、見たことがないような、笑みを浮かべていた。
「ありがとう。」
先に来たのは、感謝の言葉だった。
「私を選んでくれて、ありがとう。」
その言葉に、次に来るのは、こちらこそなんて単語を期待できるのに。
ミミは、違う言葉が来るのだと、なんとなく理解してしまった。
笑っている。笑っている、笑っている。
その人が笑う事なんてよく見ていたのに。なのに、その笑みは、今まで見た笑みの中で、どれとも違う。
ああ、夏のような人だと思っていた。
騒がしくて、爽やかで、弾むような、そんな人だと思っていた。
ああ、違う。
そう思った。
夏は、騒がしい季節だ。
蝉の声、子どもたちの声、一年の中で、一番に命がうごめく季節で。
ああ、とミミは思う。
この人は、夏の終わりのように、笑うのだ。
生々しい命が、季節と共に死んでいく。騒がしかったからこそ、静まりかえる、終わりを理解する、そんな時。
「でも、ごめんね。君とお付き合いは出来ないかな。」
そういって、ミミの好きな、優しい笑みを浮かべるのだ。
「どう、して、ですか!?」
みっともなくわめいてしまったのは、諦めたくなかったからだ。
「なんで、ですか!?」
喉の奥が熱く、目が熱い。泣いたり、そんなみっともないことしないと決めていたのに、どうしようもなく、そうなってしまって。
「燈矢、先輩、がいるからですか!?」
「・・・・うーん、そうだなあ。ミミちゃんはさ、どうして、私のことが好きになったの?」
転夜は困ったような顔で、視線を下げた。
それに、ミミは必死に言葉を紡いだ。
初めて会ったとき、優しくしてくれた。
話すのが楽しくて仕方が無かった。
何かを言われる度に、ドキドキと心臓が鳴った。
笑った顔が、何よりも、好きだった。
「優しい、先輩が、好きです!」
叫ぶようなそれに、転夜はそうかと微笑んだ。微笑んで、そうして言った。
「うーん、そうかあ。なんだか、そこまで言われると、だいぶ、ぐらつくなあ。」
「なら!」
「うん、でも、付き合ったりとか出来ないな。」
それにミミはさらに言葉を続けようとするが、それよりも先に転夜が口を開く。
「私はさあ!本当は、あんまりいいところの出身じゃなくてね。」
どことも知れない、宙に視線を上げた。
「だから、卑屈で、事なかれ主義で、全部を遠巻きに見てた。君はさ、私を、なんだか優しくて、いい人みたいに言ってくれる。でもね、本当は違う。私はさ、本当は、嫌われるのが怖くて、怯えて、誰にも手を伸ばせないんだ。」
「でも、あの時、先輩は。」
「燈矢がいたからだよ。」
その言葉に、ミミは、肩をふるわせた。その言葉と共に、転夜はまたミミに視線を向けた。
「燈矢が、私に手を伸ばし続けてくれると信じているから、私は誰かに手を伸ばせるんだ。
好意を伝えるのって怖いよね。だって、拒絶されたら悲しいから。優しくするのも、親しくするの、そこには拒絶されないかなって怯えが含むだろう。
私はさ、本来なら、そんなことが出来る人間じゃないんだ。
でも、それでも、そんなことをするのは、何があっても、拒絶しない誰かがいるから、他人に優しく出来るんだ。
私が君に優しく出来たのは、いつかに、卑屈で、ひねくれていた、そんな私でも、必要だからって手を差し出してくれた燈矢がいたからだ。」
君の好きな夢意転夜は、燈矢によって形作られている。
それは、明確な、拒絶の言葉ではなかった。けれど、それ以上の、言葉なんてあるだろうか。
(ああ、この人は。)
わかるのだ、言いたいことは、その人が。
好みじゃないとか、そんなこと考えたことがないとか、今は恋人はいらないとか、そんなものじゃなくて。
けれど、けれど、諦めきれない。
好きな、人だから。
ずっと、好きな人、だから。
だから、どうしても、諦めきれない。
ねえ、あんな顔をしてくれたから。
だから、ねえ、信じたくて。
「・・・・恋人として、一番に、して欲しいんです。全部の、一番じゃ。」
「私は、いつか、燈矢のためになら、君の恋も、君の愛も、いいや、君自身さえもドブに捨てることも厭わないのに?」
柔らかな声なのに、これ以上ないほどに、優しい声なのに。
「正直ね、いや、ものすごく嬉しくてさ。もう、お願いしますとか言ってしまう程度にちょろい自分もいるんだけどなあ。でもさ、自分のことだから、わかるんだ。私は、例えば、君と恋人になって、そうだなあ、結婚するぐらいの関係になれたとしても。」
いつか、君のことを放り捨ててしまう。
にっこりと、笑う。
やっぱり、その人は、笑う。
終わる夏のような、静けさを孕んだ笑みを浮かべて、その人は、ミミに告げる。
「それは、あんまりにも不誠実だろう?君はいいと言ったとしても、いつか、耐えられなくなる。だから、これは、子どもの特権、青い春の中の、苦い記憶の中に止めておいて。」
とても、酷い先輩がいたってさ。
滂沱のように、涙が流れた。ぼたぼたと、頬を暖かな涙が、零れていく。
ああ、泣きたくなんてなかったのに。
ああ、こんな風に、困らせるようなことなんてしたくなかったのに。
なのに、なのに、涙があふれる。
自分のことを嫌いとかでも、好きな人がいるなんて話でもなくて。
自分の、この感情は、とっくに手遅れなのだ。
ミミの手は届かない。ミミの気持ちは優先されない。
もう、とっくに、転夜の心の全ては、たった一人の誰かによって形作られてしまったというのなら。
ミミの愛した人は、恋敵の愛によって形作られていたというのなら。
どうすれば、いいのだろうか。
「君は悪くないんだ。君は素敵な女の子だ。ただ、ただ、私の歪さの問題だ。だから、さ。」
その人は、ああ、これ以上無いほどに笑うのだ。
「私以上の誰かに会って、きっと、素敵な恋をするから。」
私の事なんて、忘れてね。
そう言って、笑うのだ。
ああ、ああ、とミミはそれに、散々に泣いた。
(忘れません。)
ただ、思う、忘れるはずなんて、きっとない。忘れてなんてやるものか!
それは、あまりにも、鮮烈なミミの初恋だったのだ。
よかったの?
何が?
転夜は、轟家の、燈矢の部屋の畳の上に転がっていた。ぼんやりと、照明を見上げていた。
可愛い子だったのに。
そりゃあ、可愛いけどさ。でも、きっと、私はあの子を放り捨てる可能性があるから。拒絶した方がずっと誠実だ。
でも、ぐらついてたじゃないか。儚くはないけど、可憐な子だった。
やけに突っ込むね。
そんな様子じゃ、結婚できるか心配だな。家族が欲しいんだろう?
まあ、女だからね。最終的に、子どもだけでもなんとかすればいいだろうし。
うーん、思想に倫理観が若干ないね。
ぼんやりと、そんな目で、転夜は
いなくなってしまったかと思っていたそれは、時折、ふらりと、まるで立ち話をするように会話が成り立つことがあった。
その日も、珍しく、転夜は雑談を行っていた。
こういうことが嫌なら、気軽に誰かに話しかけるのやめたら?
・・・それは、無理かな。
どうして?
悪い癖だと、わかっている。
それでも、なんとなく、誰かに対して、言葉をかけてしまうのはきっと。
誰かに、少しでも覚えておいて欲しいのだ。
愛を貰えるなんて考えていなくて。
だから、愛を与えて、笑顔を浮かべていれば。
いつかに、ふと、誰かが思い出してくれないだろうかと。
なんだか、いつも、笑っていた奴がいたなんて。
卑屈だね。
そうかな?
そうだよ。
「転夜、聞いてるの?」
それに、転夜は我に返る。それに、転夜が起き上がれば、不機嫌そうな燈矢の姿があった。
燈矢は部屋に置かれた学習机の椅子に座り、そうして、足を組んで転夜を見下ろしている。
「聞いてるよ、だから、断ったって言ってるじゃん。」
「どう断ったわけ?」
「そんな、ミミちゃんのプライベートに踏み込むような事、言えないって。」
「言えないって事は、何か、隠してることがあるんだろ!?」
うーんと、転夜は頭を掻いた。
ミミは、あの後、泣きながらその場を去ってしまった。追うこともはばかられ、そのまま教室に帰れば、元の制服に着替えた燈矢と、そうしてクラスメイトに取り囲まれることになった。
断ったというそれに、何人かが、えーという声を上げたが、それを無視して燈矢を連れて帰宅した。
ただ、燈矢は、断ったというそれだけで納得はしなかったようで、執拗に、そんなことを聞いてくる。
(・・・・・・結局、なんであんなに嫌がってた女の子になったのか聞けてないなあ。まあ、隠し撮りとはいえ、写真が手に入ったのは僥倖!)
「・・・・転夜。」
「なんだい、燈矢。」
「お前さ、これからも誰かに告白されても断れよ?」
「お、おう?」
「お前のことだから、恋人なんて出来たら、現を抜かして、他のことにおざなりにするから。もしも、言ってきたら、絶対に断れよ?あと、そんな奴がいたら、すぐに俺に言うんだぞ?俺から断ってやってもいいんだからな!?」
「いや、それぐらい自分で言うよ。」
「仮に、俺みたいな顔の奴に迫られたらどうするんだ?」
「・・・・・・・・」
「黙るなよ!!」
そっと視線をそらしたことで、何か、察せられたのか、燈矢が叫んだ。
転夜自身、そんなことはないだろうなあと理解しつつ、でも例えば冷に口説かれたらごろにゃんと媚を売りに行く自分が容易に想像が付いた。
「大体、お前は!!」
そんな言葉を聞きながら転夜は自分の目の前にある、燈矢の足が目に入った。
それに、転夜はなんとなく無意識に、その裸足を手に取った。
「おい、何を・・・・」
転夜は何と無しに、その足の甲に、口を押しつけた。ぶるりと、燈矢の足が震えた。
転夜はそれに、ふふふと笑って、そうして、戒めのようにその、甲に、足先に、足首に、口づけを落としていく。
リップ音が鳴る中、転夜は口を開いた。
「・・・・私は、君のものだよ。あの日、君が、私に手を差し出したとき、私は君を選んだし、君は私を選んだように。」
転夜は、燈矢の足の甲に額をくっつける。祈るように、縋るように、目をつぶる。
足へのキスは、なんでも、服従の意味があるらしい。
転夜は、ゆっくりと、己の中の、少年への心を確認する。
服従、とはまた違うかも知れない。転夜は、燈矢と上下があるわけではない。
喧嘩もするし、意見をぶつけ合うし、引きたくないときは何をしても、ぶつかり合うだろう。
けれど、それでも、転夜の心は、その少年の物で、あの日、彼女の元に訪れてくれたヒーローへの憧れによって形作られている。
愛している、恋しい、兄で弟で、親友で、頭を垂れる存在で、服従するような一方的なものではなくて。
(たぶん、どれとも違う。)
転夜は、未だに、燈矢への感情を、はっきりと定義づけしていない。出来ていない。けれど、それでいいのだろう。
「私は、君の物だよ。」
きっと、その思いはゆらがないのなら。転夜にとってそうであるのなら、それでいいのだ。
愛らしい少女のことを思い出す。自分に素直に愛を告げるその子に惹かれた。
転夜は、愛に飢えているものだから。
けれど、その手を取らなかった。きっと、いつかに、自分は彼女を捨てるのだろうと考えて。
「・・・・・だからさ。」
転夜ははあと息を吐き、顔を上げた。そうすると、目の前には顔を真っ赤にして、ぷるぷると震える燈矢の姿があった。
がたーんと、椅子が倒れる音と共に、転夜は己の上に乗っかる燈矢に目を白黒させて。そうして、燈矢の片腕ががっつりと、自分の胸を掴んでいることを理解した。
「・・・・お前さ!」
「あ、はい。」
「本当に、ああ、くそ・・・・」
顔が赤く、吐息が頬にかかる。それに、転夜の顔も、燈矢の顔も真っ赤になる。
じっと、至近距離で、青い瞳を見つめれば、ばくばくと、今までで一番心臓が鳴った。
「え、あ、とう、や・・・・」
「てんや・・・・」
「おい、お前達、何を・・・・・・」
ふすまをがらりと開けて、炎司が部屋に顔を出した。椅子が倒れる音が気になったのだろう。
そうして、目の前で起こるそれに、目を見開いた。
転夜と燈矢は、炎司に視線を向けて、固まった。
「あ、いや、その、わる。いや、さすがに、お前ら、色々とはや!待て!燈矢!悪かった!!!」
Mt.レディは、二人を見た。いつもなら、べったりと話しているはずの二人は、珍しく、気まずそうに視線をそらして、それぞれうなだれている。
教室にいた人間達はざわついた。
そんな中、思わず、Mt.レディは聞いた。
「とうとうヤッたの?」
「「やってねえよ!!??」」
差し入れだと、先生はよくものをくれた。
その上で、弔は気になっていることがあった。
「・・・・先生、ココア、好きなんですか?」
「うん?ああ、そうだね。食事にこだわりはないけれど、お気に入りだよ。」
そう言った先生に、弔は気に入りだというそれを見た。
よくあるメーカーの、缶に入ったココアだ。例えば、粉から作ったり、他のメーカーとかではなく、よく自動販売機に売っている暖かなココアを、先生はよくくれた。
「・・・・いつかは、一緒に飲みたいものだ。」
その時の先生の声は、まるで、恋人に囁くように甘ったるい。
弔は貰ったココアを一口飲んだ。
「・・・・甘い。」
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも