たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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お宅訪問のさわり。


お宅訪問

 

「・・・・帰りたくない。」

 

断固として、いやいやと首を振る少年に夢意転夜は頭を抱えたくなった。

 

 

 

盛大な爆睡をかました転夜は、慌てて無断外泊をさせてしまった轟燈矢の家に連絡をしようとした。

 

「おい、ともかく、電話しろ!心配してるぞ!」

「・・・・やだ。」

「やだ!?」

 

慌てて家にある電話の元に連れて行こうとしたが、燈矢はその場に蹲り、首を振る。

 

「なんだよ、怒られるのが怖いのか?私も一緒に謝ってやるから・・・・」

「どうせ、俺のことなんて心配してない!」

 

また駄々をこね始めたと転夜は呆れた。ほっといてやろうかと考えたが、少しだけ考えて転夜は燈矢と視線を合わせるように屈み込んだ。

 

それは、泣く寸前の子どものようだった。

放り出してやろうかと、面倒ごとを嫌う自分が囁く。けれど、それと同時に、服の裾を引かれる感覚がした。

 

泣いてるよ。

 

前世の記憶にすりつぶされて、どこかに行ってしまった、家畜の子どもがそう言った。

うずりと、指先が動いた。

 

いいなあ、と思った。

目の前の少年は、とても健やかに見えた。

反抗が出来る、いいや、こうやって我が儘を言えるのは、その少年がそれ相応に甘やかされたり、大事にされたことを示しているようで。

その、健やかさが、なにか、よかった。

 

ピカピカと光る、鉱石を見つけたかのような質感だった。

 

(めんどくさい。)

 

そう思う心があるのに、それと同時に、何か、その鉱石に手を差し出してやりたくなる。

どうか、どうか、この美しい健全な生き物が、どうか、欠けること無くありますように。

昔、泣いた子供に何も出来なかった傷がうずいた。

 

「・・・・そんなに嫌か?怒られるのが怖いのか?」

「怒られるのなんて慣れっこだ!」

「なら、何でだ?」

 

それに燈矢はぴくりと口元を震わせ、けれど、苦しむように顔をしかめるだけだった。

 

「・・・・・いなくなって。勝手に、だから、きっと。」

 

それに、転夜ははあとため息を吐いた。

 

(何か、もう、失望されていらないと親に思われてるって疑ってるのか。あーあ、自己肯定かーん。)

 

ふざけたようにそう思って、転夜は口を開く。

 

「そんなに帰りたくないなら、ここにいてもいい。」

「本当か!?」

「でも、安否だけは一応報告しないといけないぞ?」

「・・・・結局帰れってことじゃん。」

「いいじゃんか。もしも、帰って心配されてないならここにくればいい。どうせ、時々後見人から連絡来るぐらいだから私はどっちでもいい。心配されてたら、家に帰ればいい。どうなっても、君の好きにすればいい。ただ、このまま帰らないのなら、いつか見つかって結果は同じだろ?だいたいな。」

 

転夜は立ち上がり、そうして、押し入れを指さした。

 

「お前が着る服はこの家にない!!」

マッパで過ごしたくないのなら、服を取りに行くぞ!

 

 

 

「・・・・でけえ。」

「普通だろ。」

 

転夜は目の前の日本家屋を茫然と見つめた。そこは、転夜も知っている、辺りで一番のお屋敷だ。

 

「君、ここの家の子だったのか。」

「知ってるの?」

「そりゃあ、ここら辺の奴らなら知ってるだろ。」

(なんだって、誰か、有名人の家って聞いた気が。まあ、いいか。)

 

転夜はちらりと、進む気のない燈矢を振り返った。そうして、息を吐き、燈矢に手を差し出した。

 

「ほら。」

「な、なんだよ!?」

「そんな顔しなくても、ともかくは一緒に謝るって言ってるだろ?言い訳、覚えてるよな?」

 

それに燈矢は頷いた。

 

今回の言い訳はこうだ。

昨日、転夜は燈矢に買い物帰りにぶつかり、盛大に牛乳をぶちまけてしまった。そのまま帰すわけにはいかない、家に連れて帰り、着替えさせた。服は牛乳の匂いが酷すぎて捨てた。

その後、引っ越してきたばかりの転夜が燈矢と仲良くなりたがり、家に引き留め、うっかり寝過ごしてしまった。

 

(・・・・まあ、全部が嘘じゃない。この顔だし、女の子に粘着されたことぐらいはあるからいけるだろ。)

 

そうなると自分が轟家の親御さんに大分やべえ女扱いされるが、山火事を起して逃げ出したことがばれるよりはましなはずだ。

 

「ほら、安心しろ。少なくとも、私は君の味方だよ。」

 

それに燈矢はじっと転夜のことを見つめた。そうして、顔を伏せて、転夜に問いかける。

 

「・・・・そのさ、一個だけ、聞いていい?」

「なんだよ?」

 

転夜はぐずぐずとする燈矢に少しだけ面倒くさいなあと考えながら、それでも待った。親に叱られる。

それが子どもにとってどんな意味合いなのか、転夜も知っている。少なくとも、今世ではわからずとも、前世の記憶の中に存在している。

 

「・・・俺、おれさ、その。俺って。」

ヒーローになれると、思う?

 

転夜はそれに、目をぱちくりとさせた。

あまりにも、それは場違いのように聞こえて、そうして、ずくりと転夜の中で何かがうごめいた。

 

あーあ、と思う。

なんで、突然、こんなにも、自分の中をほじくり返す存在が現れるのだろうと。

 

 

転夜は本来ならば、あまり、他人を寄せ付けない。それは、自分にとって処世術で、そうして、己を守るための術だ。

けれど、転夜はどうしても、それに甘くなってしまう。

 

ヒーローを信じていない。

転夜の地獄にヒーローは来てくれなかったから。

まあ、仕方が無いのだ。彼らは、英雄であって、神様ではない。ならば、そんなものだろう?

全てが終わった後に、ヒーローはやってくる。

 

それでも、嫌えなかったのは。

きっと、いつも、あーあと斜に構えて、呆れて、それでも、嫌いだと断じられないのは。

 

オールマイト、かっこいいよな!

 

そう言った少年がいたのを知っているからだ。

 

地獄の先で、これまた、結局裏組織みたいなところに拾われて。

そこで変わらず、転夜は虐げられて、なぶられて。まあ、結局こんなものだと思っていたとき。

ある少年に出会った。

 

名前は知らない。ただ、赤い髪をしたそれは、自分のことを兄貴と呼んで欲しいと言った。

彼は、最後まで、結局己の名前を名乗らなかった。

 

彼は優しかったのだろう。

右も左もわからない自分に組織のルールを教えて、他の人間から守り、そうして何も与えられない側の人間としては転夜というそれを大事にしてくれた。

 

彼はよく、オールマイトの話をした。それがどれだけすごいのか、話してくれた。

その時だけは、少年は、まるで普通の子どものようだった。

普通の、どこにでもいる、憧れを抱いた少年で。

だから、きっと、自分はヒーローというそれが嫌いにまではならなかった。

 

いるだけで、救われる誰かがいるのなら、きっと、多くのことがましなのだろう。

 

目の前の少年を見た。

何故、少年がそんなことを聞いてくるのかわからない。

けれど、転夜はああと思う。

 

ヒーローになりたいと、ヴィラン側にいた少年が言ったとき、転夜は何も返さなかった。

だって、なれるはずがないのだとわかっていたから。

妙な夢を見せることほど残酷なことはないだろうと思った。だから、へえ、そうなんですかと適当に流した。

 

だから、転夜はどこか、重なる影に目を細めた。

ああ、そうだ。この子どもには言ってやろう。言ってやりたい。

だって、見てくれよ。

 

ああ、ふくふくとしたまろい頬。健やかな瞳。親への愛を請う当たり前の在り方。

ああ、いいなあ。

日向の中で生きている少年に、いってやりたかった。

だって、この子どもがそうあれないのなら、全てが嘘だろう。

きっと、こんなにも、不安定で我が儘であることが許されるほど愛された子どもが、それを望めないのなら。

この世界自体が嘘であるはずだ。

 

「なれるさ。」

君なら、きっと、ヒーローになれる。

 

それに燈矢は、まるで、輝かんばかりに笑った。

何故、そんなに笑うのかわからないけど。でも、笑ってくれるものだから、まあいいかと息を吐く。

 

 

 

 

「こんにちはー!」

 

燈矢がなかなか玄関を開けないために転夜は大きな声で引き戸を開けた。家の中は静まりかえっており、一瞬留守かと考える。

けれど、すぐにぱたぱたと誰かが近づいてくる音がした。

 

「はあーい、どなた・・・・・」

 

出てきたのは初老の女性だ。お手伝いさんがいると聞いていたので、この人かと転夜は納得した。

 

女性は転夜の姿を捉えると同時に、その後ろに視線を向ける。中学生という時期のせいか、転夜の方が背が高い。そのために、転夜の影に隠れた燈矢を見せるように体をずらした。

 

「燈矢坊ちゃん!!」

 

お手伝いさんは、燈矢の顔に驚愕し、そうして転夜を押しのけるように駆け寄った。

 

「ああ、よかった!火事に巻き込まれたのかと、皆で心配していたんですよ!」

「・・・・ごめん。その、お父さんとお母さんは?」

「本当に!ああ、そうだ、冷さんと、炎司さんにも連絡をしないと。ええっと?」

 

お手伝いさんは転夜の方を見て困った顔をした。それに転夜は淡く笑った。

 

「こんにちは、轟君の同級生で、夢意といいます。今回は、私のせいで轟君を家に引き留めてしまって。お詫びのために参りました。」

「ああ、何はともあれ、お上がりください。」

「はい、ありがとうございます。」

 

 

「燈矢兄!」

「よかった!心配してたんだ!」

 

家に上がった転夜と燈矢を出迎えたのは、二人の子どもだった。真っ白な髪をした二人、片方の少女は燈矢に似ており、もう片方の少年は少しだけいかめしい顔をしていた。

二人は、行方のわからなかった燈矢の帰宅に非常に喜び、団子のようにもみくちゃになる。

転夜はお手伝いさんに出されたお茶を啜りながら眺めた。

 

(なんで帰りたがらないのか謎だ。)

 

転夜から見て、兄弟仲は良好だ。家に忌避する理由が見えない。何でも、彼らの父母は、燈矢の行方を捜して、警察や病院など、手当たり次第に探しているそうだ。

連絡を取り、すぐに帰ってくるとのことだった。

 

「ところで、えっと、お姉さんは?」

「俺の同級生のえっと、転夜。」

「え、燈矢兄のお友達!?すごい、初めてだね、おうちに連れてきたの!!」

 

嬉しそうな少女は冬美と言い、しげしげと自分を見つめてくる少年は夏雄というらしい。

 

「うん、夢意転夜っていうんだ。よろしくね?」

 

にっこりと人好きのする笑みを浮かべて、転夜は二人に自己紹介をする。

そうして、考えていた言い訳を二人に伝えた。

 

「そんなわけで、私がもう少し、もう少しと言っているうちに疲れて寝てしまってね。いや、君達には心配をかけて悪かったね。」

「ううん、そんなことないですよ?」

「うん、燈矢兄に友達が出来て嬉しい!」

 

小学生にこんだけ心配されるってどんだけお前は一匹狼を気取ってたんだと転夜はツッコみたくなる。

燈矢は燈矢でちらりと転夜に視線を向けられても平然としている。

尖ってるなあと呆れていると、がたりと、廊下から音がした。それに視線を向けると、頭の色彩がウルトラマンな子どもが立っていた。

 

「っしょーと?」

 

何故か、兄弟の中で緊張が走る。それに疑問を抱く前に、転夜はショートという名前に反応した。

 

(しょーと?轟しょーとだと!?)

 

転夜の中で、ミリしらの、高校生のことが思い浮かぶ。

 

(やっぱり、こいつ、主要人物の身内か。漫画だと、確か、高一だったことを考えて、今は、幼児だな。なら、小学生以下。原作開始は、やく、十年後ぐらいか?)

 

まじまじと幼子を見ていれば、轟焦凍が部屋に入ってくる前に、冬美が慌てて抱きかかえて部屋を出て行く。それに夏雄も続く。

 

「焦凍、ダメじゃない、お部屋から出たら。」

「なんで!?燈矢兄、帰ってきたのに!?会いたい!」

(やっぱ、懐かれて・・・・・)

 

そこまで考えたとき、ぎりっと、転夜の腕に痛みが走る。

 

「いって!?」

 

腕の方を見ると、何故か転夜の腕に爪を立てながら握る燈矢の姿があった。

 

「なんで・・・・」

 

燈矢が口を開く前に、転夜は何のためらいもなしに、その頭にチョップを決める。

 

「いって!」

「いってじゃねえよ!こっちの台詞だ!何してくれてんだ!?」

 

怒鳴る転夜に、燈矢は茫然とした顔をする。だってと、それは、まるで泣く寸前の子どものように、憎悪をたぎらせるように目を見開いた。

 

「お前が、焦凍のこと、見てるから。」

「いや、そりゃ、急に現れたんだから見るだろ。」

 

意味がわからないことを言い始めたなと思いつつ、そう言えば、燈矢は顔を伏せて、囁いた。

 

「・・・・・お前も、焦凍がいいのか?」

「は?」

「お前も、焦凍の方がいいのかよ?」

 

やっぱり、意味がわからない。わからないから、転夜は無意識のように、素直に口を開いた。

 

「見てるなら、君の方が良いな。」

「え?」

「君の方が顔が好み。」

 

鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔をして、燈矢は自分のことを見つめる。それに、転夜はちょっと後悔をして、弁明の言葉を口にしようとしたとき。

 

「燈矢!!!!!」

 

スピーカーでもつけてんのか?

そんな感想が浮んでくる爆音が玄関の方からした。そうして、どしどしと、重量級の足音と共に何かが近づいてくる。

そうして、現れた存在に転夜は目を見開いた。

 

「燈矢!」

(でっか!)

 

部屋に入ってきたのは、見上げるような大男だった。おそらく、二メートル近いだろう恵まれた体躯は鍛え上げられているのがわかる。

赤い髪はまるで炎のように立っている。燈矢とはまったく似ていないが、夏雄の面影を感じて、それが父親であることを理解した。

燈矢と似ているのは、おそらく、瞳の色ぐらいだろう。

 

男は、ぎゅーぎゅーと燈矢のことを押しつぶす気なのだろうかと思うほどの勢いで抱きしめる。

それを横目に、転夜は、あーあと思う。

 

何だよ、結局、君は私とは違うんじゃないか。

 

ちょっとした、もしかしたら、己と同類なのかも知れないというほのくらい同情は霧散していく。

心配した、どこに行っていたのか、怒り混じりのそれは確かに、子を心配する親そのものだった。

転夜はそこで燈矢に加勢して言い訳を述べるはずだった。

けれど、それを転夜は放棄してしまった。

何故って、簡単だ。

 

(どえれえ、タイプ!!)

 

男の後ろから、一人の女が部屋に入ってきたせいだ。

それは、燈矢と男の言い争いにどうやって入るか迷っている様子で、けれど、己の息子を見て安堵のためか瞳にはうっすらと涙が浮んでいる。

ああ、やっぱり愛されてるじゃないかという考えは、煩悩の前に崩れ落ちる。

 

(めっちゃタイプ!!)

 

その女は、転夜のタイプに合致しすぎていた。

真っ白な髪と肌、どこか儚げ雰囲気、温和そうな表情、少しだけ気弱そうに伏せられた瞳も大変よろしい。

 

(この世界に来てから、やたらと白髪、儚げ、気弱そうな人に惹かれるのはなんでだ?)

 

転夜はやってきたタイプな女の存在に、隣で巻き起こる親子喧嘩の内容など聞こえてもいなかった。

だからこそ、ぐいっと突然燈矢に己の腕を引っ張られるまで気づかなかった。

 

「俺は、こいつとヒーローになる!!」

(ぴっかちゅう!?)

 

語感が似た台詞に思わず内心でそう叫べば、目の前の大男がいきなりキレる。

 

「貴様か!うちの子をたぶらかしたのは!?」

「昼ドラにまきこまんでいただけますか!?」

 

転夜のそれは空しく部屋に響いた。

 





転夜
好みの人間については父親からの遺伝。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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