たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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前門の虎、後門の狼

 

 

「転夜、今日もよろしく!」

 

目の前で、爽やかに笑う少年がいた。

自宅を出る、玄関をくぐれば、そこには少しだけぶかぶかな制服を着た少年が自分を出迎える。

転夜はそれに死んだ目をして叫んだ。

 

「お帰りください!!」

 

 

 

轟家で騒動を起してすぐ、轟炎司は慌てて轟燈矢の体を調べた。あれだけの炎にまかれてなお、燈矢の体にはやけどの一つも無かった。

 

「・・・・お前の個性はなんだ?」

「私の個性は反転だ。氷と火の耐性をひっくり返した。」

 

炎司は目を大きく見開き、そうして転夜を見つめた。

 

「体質自体を、いいや、個性自体を変化させたと言うことか!?」

「そうですよ。」

 

転夜は見上げるような大男を睨んで、そうして、下手くそな作り笑いを浮かべた。

 

「・・・・奇跡は、あったでしょう?」

 

吐き捨てるように、願うように、請うように。転夜は男に言った。

 

「架空は、現実に成り果てた。なら、ねえ、おっちゃん。」

 

気軽に、ふざけるように、転夜は燈矢の父親を見て言った。

 

「見てやってくれよ。例え、たどり着くことは出来なかったとしても。星を目指して走るぐらいは許されたっていいだろう?」

 

転夜は、驚愕に満ちた男に淡く微笑んだ。

 

 

その日、転夜はあれよあれよという間に何故か、家に泊まることになった。

理由はよくわからないが、それはそれとして服は焦げ臭く、足は泥だらけだったので、風呂に入って行けというのは納得だった。

そのまま、何故か弟妹の轟夏雄と轟冬美たちと食事をさせられた。二人はどうも、昼間の騒動を知っているのか心配していたが、大丈夫だと落ち着かせた。

ともかく、燈矢の父からの感触はよく、一旦は二人で話し合いたいと連れて行ってしまった。

その時、どこか、熟考するような仕草をしていたので、なりふり構わないだろうと考えていた。

帰っても良かったのだが、どストレートに好みの女に、もてなされるとやに下がった顔で、はいはいと頷いてしまった。

欲に忠実すぎる己をぶっ飛ばしたくなった。

 

(・・・・やっちまった。)

 

転夜は本音を言うのなら、頭を抱えたくなった。

 

完全に、隠していた個性がばれてしまっている。

おまけに、己から、自ら、やってしまったのだ。なら、誰にその責任を被せられるだろうか?

 

(・・・・バカだ。)

 

燈矢はそのまま、轟家の布団に潜り込んだ。してはいけないとわかっていた。

そこまで踏み込むべきではないと理解していた。

 

(なのに。)

 

それでも、あの時、転夜は、少年の顔を見てしまったのだ。

 

ああ、なんて、素敵だろうと。

愛されているはずなのに愛を信じられない不安定な心、微笑む度に輝く健やかな顔、きらきらと輝く蒼空のような瞳。

幾度も、幾度も思った、久方ぶりに触れた、当たり前のような健やかな少年。

ああ、いいなと、素敵だなあとなんだか目映いものを見るように、目を細めたくなる子ども。

 

愛する父の言葉に、それが、陰っていく、

あの時、ヒーローへの夢を、きっとなれると笑ったときの少年の顔を思い出す。

 

それは、とても、キレイだった。

輝かんばかりの、希望に満ちあふれたそれが陰っていく。それがどんどんと、日が暮れるように、消えていく。

 

止めてくれ、そう思ってしまった。

美しいものがくすんでゆく、輝かしいものが陰っていく、瑞々しいものが腐り果てていく。

それが、どうしても、耐えられなかった。

 

・・・・・ないてるね。

 

どこかで、声がする。

眼を覚ました前世に、全てを置き去ってしまった家畜の少女が囁く。

 

かわいそうだね。

 

その声に、転夜は逆らえない。

その声に、転夜は、うんと頷いてしまう。

だから、あの時、転夜は燈矢の手を取って走り出してしまったのだ。

 

(ともかく、明日、個性のことは口止めをして・・・・・)

 

ため息と共に、転夜は眠ることを決めて、目を閉じた。

 

 

「燈矢と一緒にヒーローになってくれ。」

「なんで???」

 

次の日、起きた転夜は朝食を食べた後、炎司の呼び出しに応じた。

学校のことを考えたが、何か、もう行く気が失せて後で欠席の電話をすることを決めた。

そうして、向かった部屋では、やっぱり固い表情をした炎司と、そうして、何かそわそわとしている燈矢がいた。

そうして、炎司が吐いた言葉がそれであった。

 

曰く、であるが。

燈矢がヒーローになることを止められたのは、彼の体質と個性があっていないためであること。

燈矢のための個性治療なども考えたが、彼に合う物が見つからなかった。

燈矢は無理をするため、好きにさせると死ぬまでやってしまう気性であるため。

 

ヒーローになることを止められる原因を並べた炎司は、じっと転夜のことを見つめる。

 

「ただ、君の個性があるなら別だ。君なら、燈矢の弱点を全て補える。」

「え、い、いや。わ、私は、ヒーローになるなんて、そんな・・・」

「だが、実際、体質をことごとく改善し、尚且つ、炎の個性の弱点を後天的に補えることを。」

 

ヒーローになることを考えてくれないか?

 

じっと自分を見つめる炎司の横で、やたらともじもじする燈矢の姿に転夜はめまいがしてきた。

 

(あれ、私、もしかして結婚の挨拶にでも来た?)

 

そんなことを思ってしまうような雰囲気だった。

 

 

「ねえ、転夜、今日も晩ご飯食べてくだろ?」

「・・・・・あのな、おとといも、昨日も、ずっとたべてるだろ?」

「いいじゃん!そうだ、泊まってくだろ?」

 

転夜はそれに、はあとため息を吐いた。

 

 

転夜は、炎司のそれを断った。

 

ヒーローになるという覚悟は持てないと。

それに対して、炎司は一旦は引いた。彼自身、ヒーローというものが生半可なものでないことを理解してのことだった。

 

けれど、燈矢は違った。

燈矢は、それは、もう、毎日のように転夜の元を訪れた。学校でも、もう、何、人格の入れ替わりでもしましたかという程に転夜にべったりだ。

すんとした美少年の変わりように、クラスメイトもざわついていた。

 

そうして、当たり前のように、ヒーローになるための訓練に自分を巻き込もうとする。

 

「あのな、ヒーローにはならんって言ってるだろ!?」

 

引きずられていった先で、炎司に燈矢と向かい合った瞬間に言えば、少年は不思議そうな顔をした。

 

「うん?」

「いや、それで、なんで私は訓練に付き合わされてるのかな?」

「うん、今はそうなんでしょ?

でも、俺とヒーローになってくれるよね?」

 

にっこりと、天使もかくやと笑みを浮かべた少年に、転夜はぶっ倒れたくなった。

こいつ、人の話をきいてやしねえ!

 

 

断れば良かったのだ。

拒絶して、知らんと言えば良かったのに。

 

それでも、そんなことが出来なかったのは偏に、己の言葉の責任を理解していたのだ。

 

ヒーローになれると言ったのは、自分なのだ。

ならば、その責任を、彼の手伝いぐらいはしないといけないとわかっていた。

そのため、訓練だけには個性を使って参加していた。元々、転夜の個性がなければ、燈矢は安全に個性を使えないのだ。

 

(大体なあ・・・・)

 

はっきり言おう。

轟家は蓋を開ければ、言っては何だが、最悪だった。

 

自分の意識を先行させる父親。それに従うしかない母親。ほっとかれている傾向のある弟妹。そうして、父に虐待レベルの訓練をさせられている末っ子。

 

「あほか、あんたは!!!!!」

 

だめだった、怒鳴り込んでしまったのだ、転夜は。

もう、衝動のままに、炎司に食ってかかった。

 

(・・・しっかりしろよ、エンデヴァー!!)

 

知らされた炎司の正体に転夜はため息を吐きたくなった。

もう、散々に、転夜は炎司と大喧嘩をした。不利になるとか、そんなことも考えられず、なんだか、もう、怒りに頭が茹だっていたのだ。

幸いなのは、エンデヴァーとしても、燈矢を応援したい気はあるようで、大喧嘩をしてもひとまずは転夜の存在を受入れていることだろう。

また、燈矢の問題が解決したおかげか、末っ子への過激な特訓が一旦は収まっている。

その代わり、転夜がズタボロになっているのだが。

 

冷静であれと思うのに。

ただ、安寧に、静かに、植物のように生きられたらと思っていた。生きる理由もなければ、死ぬ理由もなかったから。

だから、ぼんやりと、生きていければ。

 

(・・・だめだな。)

 

それなのに。

事実から、目をそらそうとするのに。

いつだって、家畜の子どもが裾を、かすかに引っ張るのだ。

 

ずっと、現れた前世に全てを押しつけて、己の奥に隠れた子ども。

教育も、情緒も、何も育っていなかったが故に、個性もろくに使えず、失敗作とされていた子ども。

 

その子どもは、じっと、轟家を見てかすかに囁くのだ。

 

かわいそうだね。

そう思うか?

みんな、とても、きれいなのに。

そうかな?

わらって、くれれば、いいのにねえ。

そうだな。

うん、そうだねえ。

 

その声に、転夜は逆らえなくて。

 

「はあ。」

 

転夜は机に向かい、終わった宿題にため息を吐いて転がった。

 

「終わったの?なら、行こうよ!」

 

転がった自分をのぞき込む燈矢に、転夜は少しだけ休ませてくれと願う。燈矢にとってすいすいと進む宿題も、自分はそこそこ時間がかかるのだ。

このまま、轟家に向かって、炎司の扱きを受けるのはキツい。というか、炎司が帰ってくるまでまだ時間があるはずだ。

 

(・・・・・あー、変わらずキレイな顔。)

 

正直、そのド直球で好みの顔で、言い方は何だが媚びられると転夜ははいはいと頷いてしまう。

可愛いのだ、もう、いちいちの表情が、本当に、可愛いくて。

年齢のせいか、転夜のほうが背が高いために、少しだけ見上げるような仕草をされると、彼女はもうダメだった。

欲望に忠実すぎる己の感性に死にたくなる。

 

(・・・・しょーと君?のこと、気にしすぎると、めんどくさいんだよな。)

 

愛情を全て持って行かれたと思っていた弟に、転夜の意識が向くのは赦せないようだったが。

転夜はむくりと起き上がり、そうして、燈矢の方に顔を近づけた。

 

「な、なんだよ?」

「・・・・いいや。」

 

燈矢の白い頬に赤みが差す。

 

「そ、それなら、なんで、その、そんなに近づく、わけ?」

「・・・・君の顔を、よく見たくて。」

「な、なら、その、まあ。でも。」

 

燈矢の頬にはどんどん赤みが増していく。

転夜は燈矢と向かい合うような状態で、膝立ちになり、じっと少年の顔を見つめた。

そっと、燈矢の頬に転夜は指を滑らせた。

 

「え、えっと、その。」

 

燈矢の目がうろうろと彷徨わせて、何か、覚悟を決めるようにまぶたを閉じる。それを見つつ、転夜は改めていいなあと思う。

 

ふくふくとしたまろい頬、澄んだ健やかな瞳、くるくるとよく変わる表情に、手入れのされた髪。

すべすべとした肌は、まさしく、愛されて、大事にされた子どもそのものだった。

 

それに、転夜は、いいなあと思う。

その、健やかで、柔らかな子どもが、損なわれてしまうかも知れないという事実が耐えられない自分がいる。

己の中で、家畜の子どもがゆるゆると、目を細めているのだ。

 

キレイだね。

 

それに、転夜は頷く。

ああ、キレイだな。

 

かわいいね。

 

憧れるように、目を細める家畜の子どもに、転夜は幾度も頷いた。

そうだね、ああ、そうだね。

 

いじらしくて、我が儘で、頑なで。

見えることのない家畜の少女に、転夜は頷いた。

 

そうだね、かわいいね。

 

(・・・・ともかく、最低限のことはしねえと。)

せめて、ヒーローにはならずとも、燈矢がヒーローになるための手伝いぐらいはしなければ。

 

転夜はそのまま立ち上がった。

がたりという音とともに転夜は立ち上がった。

 

「・・・・はあ、君んち行くのは、後だね。洗剤なくなったし、ああそうだ。買いに行かないと。ともかく、当分、君んちには泊まらないぞ。この頃、ここで生活してないし。ああ、ナイトアイのおっちゃんに詰められるのやだしなあ。」

 

ぶつぶつと言っていると、転夜は燈矢がまったく反応していないことに気づき、振り返った。

そこには、何故か、顔を真っ赤にして、ぷるぷると震えている燈矢がいた。

 

「・・・・どうしたんだ?」

 

それに燈矢は立ち上がり、そうして、ばあんと背中に一発入れられた。

 

「いってえ!!」

「五月蠅い!!買い物いくんだろう!?付き合うから、終わったらうちいくからな!?」

 

怒鳴り声を上げた燈矢に、転夜は痛む背中をさすりながら、何を怒っているんだろうかと首を傾げた。

 

 

 

 

その日、さっさと帰れば良かったと後悔した。

燈矢と近くのスーパーで買い物を済ませて、帰路につく。少しだけ、時間をかけても、常識外れではなかったのだ。

だからこそ、どうすればよかったと考える。

 

 

「ああ、転夜君!帰ってきたんだね?」

 

家の前で待ちぼうけを食らう、エンデヴァー、オールマイト、そうして、自分を睨むサー・ナイトアイの存在に転夜は持っていた買い物袋を落としてしまった。

 





転夜の名前の由来は、管理番号だった108。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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