たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

59 / 103
評価、感想ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

何話かの後書きで、転夜の黒髪は祖母譲りという話を、した、ような?


何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770


不屈たれよ、ヒーローよ

 

ずっと違和感があったのだ。

オールマイトには、ずっと違和感があったのだ。

 

 

向かい合った因縁たり得るAFOは、あの、余裕綽々といった風に自分の目の前に立っている。

 

戦いぶり自体はきっと変わらないのだ。多くの個性を組み合わせ、確実に追い詰めてくる。けれど、オールマイトは、そうだ、それの目的に対して疑問を持っていた。

 

死柄木達を取り逃した後、バーから飛び出しながら頭の隅で考える。

 

なぜ、夢意転夜は攫われたのか?

 

可能性をあげればキリはない。爆豪勝己のようにヴィラン連合に誘われているわけでもない。少なくとも、あの現場には影も形も存在しなかった。

 

ならば、個性を目的としているのか?

 

けれど、それは死柄木達を逃す瞬間の、言葉に違和感が加速した。

 

「荼毘!」

 

それに白髪の青年が反応する。

 

「あの子のことは、頼んだからね?」

 

あの子、あの子、あの子、それは誰のことを指す?

その場にいる人間をあのこと呼ぶのは違和感があるだろう。

ならば、ならば、ならば、それは。

 

どんな意味がある?

 

死柄木弔を逃がした後、AFOは淡々とした、普段通りの声でオールマイトに言った。

 

「僕はね、お前のことが心底憎いんだよ。」

 

個性によって自分の元に引き寄せたグラントリノにオールマイトからの攻撃を肩代わりさせる。

 

「ああ、そうだ。グラントリノ、お前のこともだ。心底、嫌いだよ。なあ、オールマイト、お前はその拳で散々に僕の仲間を潰し、そうして、平和の象徴よと謳われるようになった。いいや、それももちろんある。でもね、それ以上にお前のことが嫌いなのは。」

僕が得るべきものを、お前が奪ったから。

 

オールマイトはそれを己に宿ったOFAであると理解した。

 

戦いは過熱し、AFOとオールマイトは互いに拳を突き合わせる。活動限界が近づいてきているのを理解する。

けれど、それでもオールマイトは戦うことを止められない。ああ、だって、そうだろう。

ずっと、目の前のそれが誰かにもたらす理不尽と言えるそれが。

 

「許せない!!」

 

叫び、そうして殴り倒されてなお、AFOはやはり余裕そうに告げるのだ。

 

ああ、そんなことを言っていたな。OFAの先代継承者の、志村奈々が、と。

 

 

「・・・君が僕を憎むように、僕も君が憎いんだ。だって、そうだろう?君は僕から奪ったんだ。僕が築き上げたものを、いいや、それはもう、いいか。もう一度、積み上げることも出来る。けれどね、お前はそれ以上の、唯一無二を僕から奪ったんだ!」

 

最初はあくまで穏やかな口調が、語尾につれてどんどん荒く、そうして、くっきりとした憎悪を描いていくのがわかる。

 

「だからね、ずっと考えていたんだ。オールマイト。君にはさ、可能な限り、むごたらしく、醜く死んで欲しいって。だがね、それ以上に思ったんだ。君も、僕と同じように奪われるべきで、失うべきだって。」

 

その言葉にオールマイトはぎちりと食いしばり、叫んだ。

 

「何を、これ以上奪うと!?奪わせなどしない!私の心は、依然平和の象徴だ!」

 

すでに限界を超え、マッスルフォームを維持できなくなろうと、オールマイトはそう叫んだ。

 

「・・・・そうだね、そうだ、そういう奴だ。なら、ああ、そうだ、教えておくべき事があるね。」

 

AFOは楽しそうに口を開いた。

 

「死柄木弔は志村奈々の孫だよ」

 

目が見開かれたのを見て、男はさらに続けた。

 

「そうだ、お礼も言わないとね。君は散々に、僕の可愛い娘を大事にしてくれた。まあ、それもある意味で必然だ。何せ、僕の可愛い娘、死柄木真夜、君にとっての夢意転夜もまた。」

志村奈々の孫娘だからね。

 

 

それに、オールマイトの瞳孔はゆっくりと見開かれる。

 

娘?

あの子が?

 

あの、人の悪意にさらされて、傷つき、それでもなお、善性のために立ち向かい続けたあの子が?

 

「嘘だ!!!」

「嘘?ふ、ふふふふふふふふふふふふふふ!!!!嘘なものか!あの子は、私の、これ以上無いほどに愛おしい!お前に取り戻すことを幾度も邪魔された!私の娘だ!」

「違う!違うに決まっている!お前の娘!そうして、お師匠の孫!?あり得ない!そんな、そんなこと!!」

「嘘なものか!いいや、違うな!お前は、とっくに気づいているんだろう!あの子は、母親に似て誰よりも美しく育ったのだから!」

 

母親に、似ている。

 

その言葉に、オールマイトの脳裏に声がした。

 

俊典!ほら、見て!

 

声が、して。

けれど、オールマイトはそれから目をそらそうとする。目を、そらして、否定しようと。

 

ねえ。

 

その時、また声がした。頭の中で、声がした。それは、聞き慣れない少女の、可憐な声のようで、それと同時に聞き馴染んだ愛らしいあの子と同じようで。

 

ねえ、とっくに気づいてるくせに。いつまで目をそらすの?とーし?

 

甘えるような声の後に、フラッシュバックが湧き起こる。

 

ほら、俊典!見てくれ!

 

 

懐かしい、女の声を、思い出す。

 

 

 

それは、いつの時だろうか?

ただ、師匠である志村奈々に一枚の写真を見せられたのだ。その日、志村に散々に絞られてボロボロになった八木俊典は這いつくばるようにして顔を上げた。

 

「ほら、可愛いだろう?」

 

そういって志村が見せてきたのは一枚の写真だった。顔を青くして、今にも吐きそうな顔をした俊典はのぞき込んだ写真に顔をほころばせた。

 

「可愛いですねえ。」

「だろお!?こっちは弧太郎、優しい子でね。」

「お師匠に似てますね。こっちの子は・・・・・」

「だろお!?私に似てるだろう?ああ、こっちの子はね。」

 

そう言って、志村が示した、写真に写った男女の子どもの片割れ、その少女のことを俊典はずっと覚えていたのだ。

 

淡い銀の髪、まるで星屑を固めたかのような金と銀の瞳。

 

「双子の妹だよ。夫側の、早くに亡くなった大叔母に似ているそうでね。本当に、可愛いだろう?まるで、人形みたいだ。」

 

そうして、今にも淡雪のように溶けて消えてしまいそうな、儚くて、美しい顔立ち。

一目見て、微笑まれれば一瞬で恋に落ちてしまいそうなほどに美しい、顔。

 

「個性のせいで、少しぼんやりすることが多いんだけどね。でも、本当に可愛いだろう?」

「ええ、とても、可愛い、子、ですね。」

 

 

少しだけ、はにかんだ、その表情。

 

「あああああああああああああああああ!!!!」

 

口から、無意識のように、声が漏れ出てしまう。

 

「は、はははははははははははははははははははっあはははははははは!!!!」

 

哄笑が、遠くで聞こえる。

遠く?

いいや、誰が、笑っているのか、わかる、のに。

 

わかっていただろう?

理解していただろう?

脳裏の、どこか、遠く、端っこで、ずっと自分はその美しい少女のことを思い出していたはずだ!!

だって、ほら、見るがいい!

 

淡い白銀の髪、星屑を固めたかのような金目銀目!

ああ、全てが、あの子、そのままで!

 

嘘つき。違うでしょう!?

 

「ああああああああああ!!違う!違う!!あの子は!だって!」

 

脳裏で、やっぱり声がする!八木俊典を責め立てる声がする!

だって、ずっと、お前は真実から目をそらしていたのだから!

 

ずっと、気づいて、けれど、目をそらしていたのだ!

全てが、志村奈々の娘、そのものだったのに。

思い出していたのに、ずっと、目をそらしていた。けれど、忘れることなんて出来ないから、惹かれてやまなかった!

 

幸せになって欲しいと、笑っていて欲しいと、救われて欲しいと、願ってやまなかったのだ!

だって、あの子は、お師匠の、家族だったから!

 

それでもなお、ずっと、忘れられない事実から目をそらしたのは。

 

「ああ、愉快だ!気分がいいな!そうだ!弔はどうだ!?君は彼と会ったとき、何をした!?笑顔で、あの子を下したね!何も知らずに!ヒーローとして!お前の愛する師の孫を下し!そうして、私の娘を十年愛し、慈しみ!なあ、オールマイト!」

笑顔はどうした?

 

目の前の、その男。

己の師を殺した、あまたの人を苦しめ、傷つけた、その男。

その男が、どんな目をしているか、知っていた。

 

光の灯らない、濁った、瞳。

ああ、そうだ、だって、それは似ていたのだ。

少女が、本当の意味で、誰かを蔑み、憎んだその時に!

 

同じ目を、していたものだから!

 

(ずーっと!ずーっと!!わかっていたんだ!!)

 

オールマイトは崩れ落ちて!そうして、脳裏に浮ぶのは、やはり、愛らしい一人の少女!

 

おっちゃん!

 

オールマイトが地獄から連れ出した少女。

オールマイトを拒絶した少女。

ヒーローを遠ざけた、地獄を見た少女。

 

「ずーっと!ずーっと!そんな顔を願っていた!だってそうだろう!お前は、お前達は、ずっと私から奪い続ける!なら、私だってそうあっても許されるはずだ!なあ、そうだろう!?オールマイト!」

「あの子に!あの子に、何をする気だ!?」

「何をだと?何も!あの子はただ、生きるべき、あるべき場所に帰るだけだ。ああ、本当に、長い、長かった!ようやくだ!あの子は、私の元に帰ってくる!」

 

オールマイトの脳裏には、笑う己の師が浮んだ。

 

傷つけられないように、どこかで、笑っていて欲しいから。だから、遠ざけて、手放した。

それは、母の愛だった。

 

なのに、なのに、なのに!!

 

その末路がこれなのか?

自分は、あの人の、あの人が愛したものに、家族に、何をしていた!?

がんがんと頭が鳴る。

 

「ああ、本当に。お前が夢中になるのも納得だろう?あれは本当に母親によく似た。愛らしく、魅力的で、誰もが魅入られ、惹かれずにはいられない。本当に、よく、似た。似て、愛らしい、子どもだ。」

 

酩酊したような、恍惚とした声がする。

 

笑う少女の、いつもならば、愛しくてたまらないあの子が、まるでノイズのようにオールマイトを苛むのだ。

 

あの子は、どうして、自分の元にやってきた?

 

それは、ただの偶然か?

いいや、それとも、目の前のそれの悪意からか?

 

サー・ナイトアイの言葉を思い出す。

それは、本当に信用して良いのかと。

 

そうして、オールマイトは一つの事実に行きつく。

あの子は、目の前のそれから産まれたというのならば、そうであるというのならば。

 

あの子は、自分への嫌がらせのために産まれ、地獄を経験したというのならば。

己の正しさと、ヒーローとしての祈りがために、あの美しい、師匠の娘は魔王の子を産まされ、転夜が地獄の中で産声を上げたというのならば。

 

オールマイトは、何を、していた?

 

(私では、救えない。いいや!私が、産みだした、地獄の中で苛まれたあの子は!)

 

転夜の地獄の始まりは、オールマイトであるというのならば!

 

(私は、いったい、なにを?)

 

その、ヒーローとしての在り方に、自分は、なにを、託して。

笑っていた、笑って。

 

てめえが腹を蹴り飛ばされてる横で、テレビからあんたの笑い声が聞こえてきたとき、恨んだよ。

 

少女は、そう言って、助けられなかった子どもが泣いていたのならば、自分は。

 

オールマイトは何をしていた!?

 

だんと、崩れ落ちた男に、AFOは笑った。

 

「ふ、あはははははは!ああ、よかった、思った以上に奪えたようだ。いいや、違うね。私は奪ってなんていないよ。ただ、取り戻すだけだ。」

 

AFOは愉快でたまらない。だって、それのことが男は心底嫌いだったから。だから、そんな風にのたうち回ってくれて、本当に嬉しいのだ。

 

(そうだ、あの女は、志村奈々の娘だった。)

 

AFOとて、志村弧太郎の行方を捜す上で双子の片割れのこととて探していた。

けれど、それは互いに違う家に養子に出された後、死亡していることがわかった。

志村奈々の娘であるという事実も、女が死んだ後、遺伝子を調べている最中に判明したことだ。

 

(108、お前は、何を考えていた?)

 

それに答える女は、もういない。

 

そんなAFOの思考なんて知らないオールマイトは拳を握りしめる。

 

動かなくてはいけない。動いて、戦わなくていけない。けれど、それでも、足下で自分を苦しめるためだけに贄になった、美しい少女の遺骸を幻視する。

 

「そうだね、なら、オールマイト。ここで・・・・」

 

動かなくてはいけないのに。

師匠の言葉が、聞こえてきそうなのに。

 

己への苦しみのために造られた少女の姿が、ちらついた。

地獄の中で、産声を上げてそれでもヒーローでありたいと願った少女。

 

師匠の、家族。自分が壊したかも知れない、産みだしたかも知れない、少女。

 

「オールマイトォ!!」

 

そんなときだ、まるで、雷のような、怒声が聞こえてきた。そうして、それは、まるで言葉の通りに弾丸のようにAFOを吹っ飛ばしていったのだ。

 

「何をしている、オールマイト!!」

「エ、ンデヴァー、くん?」

「エンデヴァァァァァァァァァ!!!」

 

エンデヴァーの攻撃は防いだものの、突撃してきたそれに吹っ飛ばされて後方に飛んだAFOは叫んだ。

エンデヴァーはオールマイトの目の前に立ち、そうして、目の前ののっぺらぼうに向かい合う。

 

「脳無は制圧した!転夜はいたか!?」

 

その言葉にオールマイトは、何を言えばいいのかわからなかった。

 

「他のヒーローは?」

「俺は先に来たんだ!燈矢達とも連絡が取れなくなった!状況は!?転夜はいたか!?」

「みつかって、いない・・・・」

「くそ!こちらにもいなかったか!」

 

オールマイトはエンデヴァーが、転夜の行方のために一足先にこちらにやってきたことを理解した。

叩きつけるようなそれの後、エンデヴァーは目の前の男を睨み、そうして、ようやく瓦礫の中で腹から血を流すヒーローの、息子の姿をエンデヴァーは見つけた。

 

「燈矢!」

「あああああ!ああああああ!忌々しいなあ!!エンデヴァー!また、また!お前は、そうやって、邪魔をして!」

「貴様か!」

「ああ、君の息子かい?あまりにも弱かったものだから、ねえ?何よりも、愛らしい花にたかる羽虫なんて潰されて当然だと思うんだけどねえ?」

 

せせら笑うようなそAFOのそれにエンデヴァーは手に炎を溜める。

 

「オールマイト!その姿は何だ!?何をしているかは知らんが、己がすべきことはわかっているはずだ!立ち上がれ!」

 

立ち上がる?

わかっている。立ち上がらなくてはいけない。

けれど、脳裏に浮ぶのは、救いの手も差し出せなかった死柄木弔と名付けられた少年と、そうして、師匠の血と、そうして、誰よりも憎んでいる男の血を受け継いだ一人の少女。

 

絶望している?諦めている?悲しい?苦しい?

 

どれも違う。けれど、何か、足に力が入らない。

弔にしてしまったこと、そうして、愛した、慈しんだ少女の事実。

それが、重くのしかかる。

 

「ああ、オールマイトは動けないよ。そうだ、エンデヴァー。思えば、君にもお礼を言わなくてはいけないんだったね?」

「何の話をしている!?」

 

オールマイトはそれにはっと気がつく。

 

「エンデヴァー君!何も聞かなくていい!!」

 

どう言えばいい?

あの男の血を、彼女が受け継いでいると?

いいや、エンデヴァーはAFOについて知らない。知らないとしても、今、聞いて動揺なんてせずとも。

けれど、AFOがそれに止まるはずがないのだ。

 

「ああ、だって十年だ。僕の可愛い娘を可愛がってくれただろう?」

 

それにエンデヴァーは肺から空気が漏れ出たような声を出した。

ゆっくりと目が見開かれる。

 

「どんな気分だい?ああ、私の代替え品としての気分は?いいや、あの子の父親代わりを出来たんだ。それだけで十分・・・・」

「貴様か。」

 

AFOの言葉を遮るようにしてエンデヴァーは、ひどく、平坦な声を出した。そうして、何のためらいもなく、劫火をそのままAFOに叩き込んだ。

 

「貴様か!!」

 

その言葉と共にエンデヴァーは足から炎を噴出し、そうして、AFOに殴りかかる。ごうごうと燃えるエンデヴァーの炎は遠くなったオールマイトにさえも焼けるような熱さを感じさせた。

 

「貴様のせいであいつは、転夜がどれだけ苦しんだのかわかるか!?」

 

炎と打撃の連打をエンデヴァーはAFOに叩き込む。

 

「あの子どもが!どんな声で父親を呼び!そうして、恐怖に苛まれていたのかわかるか!?娘だと?どの口が言うんだ!?今更だ!今更!何をそんな戯言を口に出来る!?」

「戯言?貴様にはわかるはずがない!あの子は私の娘だ!愛らしい、娘!ならば、あるべき場所に戻すのが道理だ!あの子は私のものだ!」

「黙れ!誰が貴様のものだと!?」

 

エンデヴァーの声がする。いつも通り、雷鳴のような、騒がしくて、荒々しい、けれどとても愚直な声。

 

「あの子は十三で家に来た!へらへら笑って、本音も話さず!ただ、ただ、流れるように顔を伏せて生きていた!あの、暢気で!バカで!小学生みたいな感性の奴が!そんな風にしか生きられないように、お前がしたんだ!!お前が!あいつを壊した!」

「違う。壊していない、望んでなどいなかった!だから、迎えに!」

「全てが今更だろうが!!」

 

オールマイトは夜の中で、ピカピカと、光る男の声に顔を上げた。

雷鳴みたいに、いつかに、平和の象徴になってやると叫んだ、あの時と同じ声で。

 

「あいつは、貴様の子などではない!あいつは!オールマイトに地獄から連れ出され!サー・ナイトアイに名付けられ!そうして、うちで育った!俺の娘だ!!」

 

ああ、なんて、愚直な声だろうか?

それに、何故だろうか?

今まで苛んだ、あの声が晴れていくような気がした。

そうして、そうだ、ノイズがかった世界が晴れていく気がした。

 

「・・・負けないで。」

 

ようやく、その声をオールマイトは捕らえた。

救けてと、誰かがそう求める声がした。

 

そうして、思い出す。

己の原点。

自分の望んだこと。

 

そうだ、立ち上がらなくては。そうだ、自分がすべきこと。

ヒーローは、守るものが多いのだ。ならば、今は、少なくともへこたれているときではない。

 

(悔いも、苦しみも、全部、それは後だ!)

 

やらなくてはいけないことがある。

 

「所詮、主人公になれないくせに、うっとうしいな!?」

 

AFOがそう言ったとき、彼に飛びかかるもう一つの影があった。それを避けるAFOの先には忍者のような様相のヒーローが一人。

 

「エッジショット!」

「遅れて済まない、エンデヴァー!ただ、助けに来たぞ!」

 

それと同時に、バー側にいたヒーローたちが続々とやってくる。それにオールマイトは覚悟を決める。

 

「エンデヴァー!!」

「なんだ!」

「頼む、周りの人の避難を!」

 

その言葉にエンデヴァーは目を見開き、男を見た。

理解する。

その言葉が、この場を自分に預けて退避しろと、そう言っているのだと理解した。

長い間、無駄な交流を重ねた。

一人の少女を起点に、それこそ、ヒーローなんて関係の無い話だって重ねてきてしまった。

そのたびに、エンデヴァーは、オールマイトのことが嫌いになる。

 

話も合わなければ、気もあわない。自分のことを慮るというか、心配しているような発言があるのも気に入らない。

 

けれど、たった一つだけ、それとは共通点があった。

 

一人の少女が、なけもせず、愛想笑いで自分を固めて、散々に受けた虐待の傷を素直に曝け出すことも出来ない、朗らかな少女が、これ以上泣かないことを、幸福であるようにと、そう願う心だけは同じだった。

 

「ねえ、エンデヴァー君!あとのこと、頼んだよ!」

約束、したよね?

 

笑う男の言葉。

平和の象徴になってやると、自分が切った啖呵。

エンデヴァーは理解する。

 

この場で、今、唯一無二のヒーローが死ぬのだ。今、輝かしい星のような男が終わるのだ。

ふざけるなと思った。

だって、その男を越えるために、エンデヴァーは散々に研鑽を重ねた。

やるべき事ならばなんだってやった。そうだ、文字通りなんだってやったのだ。

こんなところで終わるのか?

こんなところで、こんな風に、未だ、自分は男を越えていないのに。自慢の子どもたちは、あの男以上だと示せていないのに。

 

離されたままのその背中を、自分は、追いかけたまま!

 

繰り上がりなんてごめんだ。許せない、何をしていると、怒鳴りそうになった。

けれど、なのに、脳裏には声が響く。

 

ねえ、ヒーロー!

 

いつかに、聞いた。明るくて、朗らかな、己に懐き果てた少女の声。

 

あの日、私の夜を焼いてくれて、ありがとう!ヒーロー!

 

自分に差し出し、そうして、伸ばされる手。

 

私じゃ、救えないものがある。けれど、君にならば救えるものがあった。それだけなんだ。

 

いつかに、男がそう言った。

 

お前は何だ?

己自身に問いかける。そんなもの、簡単だ。

 

(俺は、ヒーローだ。)

 

強くなりたくて、ここまで来た。誰よりも強さを求めてここまで来た。

戦っていた男へのはっきりとした手応えはない。そうして、オールマイトの言動からそれが、男に半死半生といっていい傷を与えたというそれであっているのだろう。

 

(他のヒーローと全員で向かう?いいや、周りの人間を巻き込むだろう。ならば・・・)

 

後を頼んだ。

エンデヴァーはそれに、ゆっくりと、そうして、しんと静まるような感覚で、覚悟を決めた。

 

己の夢を、捨て去る覚悟を。

オールマイトというヒーローが消えるという事実を受入れた。

 

ここで何をすべきか?

自分が、ヒーローであるというのならば、何をすべきなのか、わかっていた。

選択を、することを決めた。

 

オールマイトに勝つのではなくて、これから、男を越えていくと言うことを。

 

「全員!撤退しろ!オールマイトが動く!」

「だが!」

「巻き込まれて、耐えられる自信があるのか!?」

 

その言葉にヒーローたちは周りにいた救助者たちを連れてその場から離れる。

 

「逃げるのかい。おまえはいいのか、オールマイト?」

「ああ、いいんだ。AFO、礼を言うよ。」

「ほお?」

「お前のおかげで、改めて、わかった。」

 

オールマイトは笑った。

 

「あの子が誰の血を引いているのかなんて関係ないんだよ。」

 

そうだ、大事なのは。

 

「あの子を、育ててきたのは、エンデヴァー君で、そうして、私にとっても娘も同然!」

それで十分なんだ!

 

その言葉にAFOはふわりと浮き上がる。

 

「勝手なことを言っていればいい。いつか、あの子は私の元に帰ってくる。それは変わらない。」

 

オールマイトはそれに己の右腕に力を込める。そうして、AFOに振りかぶった。

 

 

 

「塚内警部!」

「どうした?」

「ヒーロー、アシスト、見つかりました!」

 

部下の言葉に、塚内直正はほっと息を吐いた。

AFOとオールマイトの一騎打ちで、オールマイトは勝ち、そうしてAFOは拘束された。そんな中で、唯一の懸念点であったアシストの行方がようやくわかったのだ。

 

「どこにだ!?」

「工場に地下室が有り、そこに拘束、というか、なんというか。」

「はっきりしないが、どういうことだ?」

「・・・・その、アシスト自身はとくに外傷もなく、昏睡していまして病院に運ばれたんですが。ただ、なんというか、現場が気味が悪いというか。」

「気味が?」

「アシストは、ドレスと見紛うような白いワンピースを着せられていまして。そうして、地下室には不釣り合いな、なんというか、天蓋付きのベッドの上に寝かされていまして。」

拘束したヒーローに対して、なにか、奇妙というか。

 




「よかったんですか?」

トガヒミコは隣に立っていた白髪の青年に話しかけた。それに、仮面を被ったそれはどこか気だるそうに返事をした。

「なにがだ?」
「あの人。せっかく捕まえたのに。逃げしちゃうんですよね?」
「気に入ったのか?」
「いいえ?でも、死柄木君もあの人のこと、気に入ってるみたいだったので。」
「気に入ってるというよりは、あの人にお前のものだよ、とでも言われてたんだろう。趣味の悪い人だから。」

気だるそうに話すその人は、はあとため息を吐いて、改めてトガに話しかける。

「今日は血はやらんぞ。」
「えー、ちゅーちゅーしたいです!」
「少し待て。まず、これからのことを話さんといけないだろうが。」

呆れたようにそう言った荼毘にトガは口を尖らせる。

トガはヴィラン連合の中で一番はじめに介入した。それは、偏に目の前の青年がトガを拾ったからだ。

血を啜っていたとき、その場に偶然居合わせた青年は平然と話しかけてきたのだ。

「なんだ、血が主食なのか?」
「いいえ?ただ、好きな人と一緒になりたいので。」

なんてことを言ったそれに、荼毘は困り果てたように頭を掻いた。

「・・・・それは、ただ、好きでやってるだけで何リット飲むとかはないのか?」
「ないですよ?」
「なら、俺の血をやろうか?」

それにトガは驚いた。何せ、そんなことを言ってくる存在は、少なくとも、血を飲むことを寛容に認めてくる存在なんていなかったのだ。

「いいんですか?」
「その代わり、致死量とかを考えて量は限るがな。」
「えー、そんな!」
「あのな、お前は、相手を殺したくてやってるのか?」

それにトガは悩んでしまう。別に、誰かを殺したいというわけではなくて、彼女の嗜好に合わせると偶然死んでしまうだけの話なのだ。

「なら、我慢しろ。その代わり、出来るだけのことはしてやるから。」

そういって、青年はトガの頭を乱雑に撫でた。

それがトガがヴィラン連合に入ったきっかけだ。もちろん、トガを連れて帰った荼毘に死柄木は怒り狂ったが、人手が欲しいのだろうと押し切られていた。

(口うるさいってぼやいてたものなあ。なんでしたっけ?先生?にも敬語を使えってうるさいって言ってたし。)

どうも、兄弟間のヒエラルキーというか、力関係はきっちり決まっているらしい。
荼毘はそのまま、定期的にトガに血をくれる。
だからこそ、トガは荼毘のことが好きだ。

己のそれを認め、血をくれる人なんていなかったものだから。

「・・・・それにな、トガ。」
「なんですか?」
「あいつは、あのまま返すことが正解なんだよ。」
「え?」
「・・・・血の繋がりって事実は、確実に、どうあれ繋がりを指し示す。帰ってきたそれは、本当に味方か?それとも、敵か。あれはな、あくまで種まきなんだよ。」
疑心暗鬼は案外簡単に育つからな。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。