たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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燈矢視点の轟家。
サー・ナイトアイの描写、後でもう少しします。


日常と、破綻

 

 

 

運命だと思った。

家族もいないひとりぼっち。己に差し出された、その手。

ああ、運命だ!

この世にひとりぼっちのそれは、欠けたる己の翼であったのだと。

くるりと回ったあの瞬間、何か、全部が報われた気がした。

 

 

 

「・・・どこで見つけた?」

 

父の強ばった顔に、轟燈矢もまた顔を強ばらせた。

 

「・・・・その、個性の練習をしてて、大変そうだからって。俺の体質を変えてくれたんだ。あんまり、意識してなかったけど、クラスメイトだった。」

 

勝手に個性を使っていたことに轟炎司はぴくりと目元を震わせたが、すぐにそれを飲み込んだ。それ以上に今は重要なことがあると、二人は理解していた。

 

夢意転夜は現在、轟冷に連れられて風呂に入っている。二人は、その間に向かいあって話し合う。

 

(・・・・でれでれしてた。)

 

燈矢はぽおおっと冷に見惚れるように、熱っぽい眼をする少女を思い出す。

 

(俺のこと、見てるって言ってたのに・・・)

 

腹の奥で蜷局のようにまく何かを感じる。

 

「燈矢?」

「・・・・なに?」

 

父の言葉に燈矢は正気に戻る。そうだ、よくよく考えれば、女同士でそういった好きになることはない。母には父がいるし、年だって大分違う。

世の中にはいろんな人間がいると知らない幼い燈矢はそう思って心を静める。

よくよく考えれば、家で一番母に似ている自分は大分有利なはずだ。

 

「・・・・結論から言えば。彼女となら、ヒーローになることは認めていい。」

 

それに燈矢は目を見開いた。そうして、大柄な父の足下に縋る。炎司はそれを受け止めるように、燈矢の手に肩を置いた。

 

「本当!?」

「ああ、本当だ。ひとまず、落ち着きなさい。」

「また、訓練つけてくれる!?」

「ああ、してやる。」

「焦凍ばっかに訓練付けない!?」

「・・・・燈矢。」

「ううん!俺も訓練付けてくれるなら、焦凍のことはいいんだ!!」

 

燈矢は己の顔をのぞき込む、父の瞳にくらくらとするような高揚感を覚える。

 

見てくれてる!

また、お父さんが、自分を見てくれてる!

 

やった、やった!

ああ、なんて、良い日だろうか!?

 

先ほどの、あの感覚を思い出す。

己を焼かない炎の感触、溜まった熱が冷やされる爽快な感覚。

そうして、己を見つめて、楽しそうに笑う金と銀の瞳。

 

(ああ、でも、あの時の方が。俺だけを見る、あの、目が・・・)

「クラスメイト、ということは、あの子はお前と同い年か?」

「え、うん。俺と同じ、十三だよ。」

「・・・・最短で、五年か。」

 

炎司は少しだけ考え込むような仕草をした。それに燈矢は一瞬だけどうしたのだろうかと考えたが、すぐに理解した。

 

「俺のだ!!」

 

叩きつけるような声に、炎司は燈矢に目を走らせた。

 

「俺のだよ!俺に、俺が、俺のなんだ!盗らないで!ようやく、会えたんだ!だから!」

 

燈矢は気づいた。燈矢にとって幸いであると言うことは、同じ個性を持った炎司にとっても、少女の個性は最善であると言うことに。

狂ったように叫ぶ燈矢に、炎司は慌てて声をかける。

 

「燈矢!そんなことはない!安心しろ!」

「ほ、本当?」

「ああ、ただ、彼女にはヒーローになってもらわないとならないが。」

「転夜が?」

 

燈矢はそれに少しだけ不満に思う。だって、燈矢が知る限り、転夜というそれはヒーローというものからほど遠い。

事なかれ主義のようで、けれど、燈矢のことを見ていて。

父のような、あの、ヴィランと戦うのは、あまりにも似合わない気がした。

 

「・・・さすがに、体質への変化を考えると、個性の使用許可が必要になる。」

 

個性の使用には許可がいる。もちろん、公益の場でも、ちょっとしたことならばいいだろう。

けれど、ヒーロー相手に、サポートとして個性を使用するというのは、さすがにちょっとしたことではすまされない。

 

「彼女がヒーローになれるよう、出来るだけのサポートを俺もする気だ。」

安心しなさい。

 

父の言葉に、燈矢はこくりと頷いた。

 

 

「だから!長男、末っ子ばっかにかまけんなつってんだろうが、クソ野郎!」

「なんだ、その口の利き方は!?貴様に言われずとも、気にかけている!!」

「あ!?金かけてるってなら、ある意味最低限だからな!?」

「冬美は隣のクラスのみきちゃんと仲がよく!夏雄はこの頃、図書館によく通っている!!」

「子どもの話を聞くのは良いが、また面接になってねえだろうな!?」

「お前と話すよりかは、ずっと可愛げがあるわ!!」

「ずっと前から可愛いわ!!」

「しっとるわ!!」

 

でけえ声が、訓練専用の部屋の中に響いている。

 

「・・・・でけえな。」

「おっきいねえ。」

「あれ、大丈夫なの?」

「・・・・仲は、悪くないと思う。」

「燈矢兄、おかしいる?」

 

そんな大声を聞きながら、轟四きょうだいは暢気に三時のおやつを食べていた。

 

 

 

さて、転夜をヒーローに勧誘できるかという話ではあるが、なんとか訓練にだけは引っ張り出して来れていた。

というのも、転夜が自ら轟炎司に怒鳴り込みをかけたせいだ。

 

最初、自分を誘いに来る燈矢も、何となしに、自分の家の日常を話したのだ。それに、転夜はどんどん顔色を変え、そうして、最終的に炎司に跳び蹴りを食らわせた。

 

「燈矢の話を聞く限り、独善の傾向があるとは思ってたが。なにやっとんじゃくそ親父!!」

 

少女の跳び蹴りとは思えない威力のそれに、炎司は見事に倒れ込んだのだ。

そこからはひどかった。

 

「いきなり何をする!?」

「何するじゃねえよ!?まだ幼稚園レベルのガキにてめえこそ何してやがる!?」

「焦凍のことか!?あの子は、他とはちが・・・・」

「違くねえわ!普通の子どもだわ!自分のやってることが虐待ってわかってるのか!?」

「あの子は、オールマイト超える逸材だ!ならば・・・」

「はあ!?なら、末っ子にやってること、マスコミにばれても大丈夫なんだな!?」

「・・・・・・・」

「黙るな!!!!」

 

炎司の腹に響くような声に、転夜も負けじと怒鳴り返す。あまりの気迫に、燈矢も思わず、距離を置いていた。

売り言葉に買い言葉というのか、転夜はなかなかにキツいことを言う。

 

「ほお、自分で作っておいて、燈矢が失敗だったからガキ作ったと?それで、失敗作は放置か!?良い身分だな!?」

「貴様!調子に乗りやがって!」

 

炎司の体から、炎がわく。けれど、転夜はそれをせせら笑った。恐怖など無く、己を睨む、金目銀目を炎司は見つめ返す。

 

「調子だあ?なら、調子に乗って言わせて貰おうじゃネエか!?いいか、本当の強者は、自分よりもつええ奴に拳を向けるんだよ!?あんたは何をした!?てめえよりも弱い奴に何をした!?」

おい、エンデヴァー。てめえの弱さを他人に押しつけるな。

 

燈矢はそれに、やっぱり、固まる。

それは、あの時の声と同じものだった。

失敗作を生かしていると、そう、皮肉気に吐き捨てた、あの時の。

 

冷たくて、寒々しい、疲れ切った老人のような声だった。

燈矢は知らない、その時の、少女の瞳を。

 

金と、銀の瞳が、まるで炎のように揺らめいていた。

 

「・・・・少なくとも、だ。場合による事もあるだろうが、親の務めというのは。親にとって、自分が生まれてきて良かったと思っていることを子へ証明することだろう。」

 

つまりは、だ。

 

転夜は一呼吸入れて、炎司に飛びつき、そうして、髭を引きちぎる。

 

「向き合え!構え!見ろやあああああああああああ!!??」

 

炎司の悲鳴が家に響き渡った。

 

 

なかなかにキツいことを転夜は言ったが、炎司は彼女を追い出すと言うことはしなかった。

というのも、そう叫んで、引き剥がした転夜は見事に受け身を取った。炎司はさすがに怒りに任せて怒鳴ろうとするが、転夜は今までの怒りなどそ知らぬ顔で問いかけた。

 

「つーかさ、素朴な疑問なんだけど。あのぐらいの子どもに本格的な戦闘訓練って一周回って効率悪くないか?」

 

その時の態度、というか、仕草ははっきり言って異様だった。

すんとして、冷静な、まるで先ほどのことなんて忘れたような態度で炎司に話しかけた。

あまりの変わりように、さすがに炎司は固まった。

 

「効率だと?」

「あのぐらいの子どもなら、下手な技術を教えると妙な癖つかないか?」

「癖とはなんだ?」

「ヒーローになる頃にはあの子もある程度成長してるはずだ。体格差がある存在との戦闘訓練ってそこまで優先すべきか?」

「今から基礎を付けておくのは重要だろう?それに、戦闘になれさせるのは早いほうがいい。」

「あー、そうだな、荒事には慣れさせるのはいいか。でも、妙な癖といっても、幼い子どもの時に付けられた癖は本当に咄嗟に出るからな。体格差が違う存在と組み合うと、どうしても、距離感を図るときに齟齬が出るだろうし。あと、今、絶対、集中力切れるの早いだろ?」

「よくわかるな。そのせいで怪我をすることもあるが。だが、あれぐらいの子どもなら当然だろう。戦闘では痛みを伴うことを理解させた方が体にしみこむ。大体、戦闘での勘は早いうちに培っておいた方が良い。」

「まあ、基本的に肉体的な技術はそっちのほうが有利ではあるが。だが、集中力がないと怪我の確率は高くなる。大体、あのぐらいの子どもは、怪我だって癖になるのはわかってるだろ?」

 

 

(・・・・お父さんのこと、本当に丸め込むんだもんなあ。)

 

今だって、こうやって四人で暢気にお菓子を食べているのは、転夜の提案にあった。

 

「ヒーローになるなら、絶対的に連帯は必須だろう?なら、せっかく兄弟が多いなら、一緒に遊ばせるのもいいんじゃないか。鬼ごっこをいじくって、ルールを変えて。体力作りにもなるし。」

 

そのため、轟きょうだいは不定期であるが、炎司を相手に鬼ごっこをしている。

鬼ごっこというには、鬼である炎司の迫力が段違いであるが、興奮による子ども特有の悲鳴を上げながら、きょうだいで逃げ回っている。

妹の冬美は父に構って貰えるのが楽しいようだし、弟の夏雄も戸惑い気味であるが、父と遊べることは嬉しいらしい。

そうして、強制であろうと、父が時々、自分の生活を気にしてくれているのも嬉しいらしい。

焦凍も焦凍で、兄弟と遊ぶ時間を設けられたことと、個性の出力などで訓練があるといえど、兄と時間が過ごせることを楽しんでいる。

 

「・・・・・あのクソガキに比べて、うちの子はいい子だな。」

 

なんて父親が遠い目をしているのはまた別だろう。

 

 

 

「・・・・なんだよ?」

「・・・・別に。」

 

その日、転夜は客間で過ごしていた。遅くまで散々に、燈矢と扱かれたために泊まることになった。

 

「・・・・もう、朝早く起きて着替えんのめんどいから、制服持ってこようかな。」

 

なんて転夜は言っている。

そんな彼女は、何やら児童教育についての本を読み込んでいる。

それが、燈矢には面白くない。

今でさえ、転夜がそんな本を読みふけっているのは、焦凍が訓練で飽きず、尚且つ安全に過ごさせるためだ。

転夜としては、どうも母親から焦凍がヒーローになりたがっているのは聞いたらしく、ならば応援をしようとしている。

 

(大体さ、転夜もお母さんにでれでれしすぎなんだよ。)

 

転夜は、冷を前にすると、普段のすんとした表情が砕け散り、それはもう、でっれでれになる。

 

「なんで、炎司のおっちゃんにこんなべっぴんさんが嫁いでくんだろ。」

「貴様、人のことを何だと思ってるんだ!?」

「・・・・・諸諸の能力値がカッ飛んでいいのに、変なところで卑屈で、視野が狭いダメな父親。」

「なんだと貴様!!??」

「あーあー、うっせえな!私が冷さんの夫なら、毎日のように愛を叫んでるのに!!美しいって褒めて、花でも贈ってるのに!!なんでおっちゃんが旦那なのさ!!目が節穴なの!?」

「冷が美しいのは理解している!大体、見目だけしか長所がないように言うな!!」

「・・・・おっちゃん。」

「なんだ!?」

「人の美醜の見分け、付いてたんだね?」

「このクソガキが!!!!」

 

という父の怒鳴り声が家に響いているが、何か、もう、子どもの口げんかのようにまたやってると家族は慣れてしまっている。

 

「・・・・別に、放っておいてもいいじゃん。あいつは、俺と違って、お父さんの最高傑作で。なら、転夜を本当に必要としてんのは俺じゃん。」

 

口に付いた言葉に、燈矢はどんどん感情的になり、起き上がって転夜にくってかかった。

 

「転夜は、違うんだよな!転夜だけは、俺だけの、俺だけを見てくれるんだよな!?」

 

夜の静寂に響く燈矢のそれに、転夜は少し、というか、疲労で淀んだ目で燈矢を見返した。

 

「・・燈矢。」

「言い訳とか、いらない!俺は・・・」

「君、可愛いな。」

 

その言葉に燈矢は今までの、どろどろとした思いがすっと引き、かちんと固まった、

それに反して転夜は、久方ぶりの戦闘訓練に疲弊し、それに加えて焦凍の訓練計画のようなものを作っていたので疲れていた。

そこで燈矢の嫉妬に、可愛いなあと心底思った。

転夜は本を置き、そうして、座っていた燈矢と向かい合う形で顔をのぞき込む。

 

「か、かわいいってなんだよ!?」

「うん??いや、だって、焦凍にばっかりかまけて寂しいって話だろう?」

「はあ!?そ、そんなんじゃねえし!ただ、お前は、俺がヒーローになるのを、応援するんだし。」

「うんうん、そうだな。」

 

転夜は。文字通り、雪のような肌に走る赤みに照れているなあとにこにこした。そうして、その染まった頬に手の甲をこすりつけた。

 

「か、可愛いとか、男にいうことじゃねえだろ?」

「そうか?まあ、普通はそう言うかも知れないが。でもなあ、私としては、可愛いと思うんだから仕方が無い。」

 

見下ろすように女は自分を見て、目を細めて、くすくすと笑った。

いつもの、飄々とした声ではなく、可憐な、なんだか肌を撫でられるような軽やかな笑い声だった。

 

「可愛いな。」

 

燈矢は、何か、それに言おうとした。けれど、何か、何を言えばいいのかわからずに、機嫌良く、転夜が自分の顔を眺めるのにされるがままだった。

 

いつだって、飄々としていた。

だから、初めてだった。

転夜の顔が凍り付くのなんて、きっと、初めてだったのだ。

 

 

 

 

 

「・・・・・どこに行っていたんだ?」

「・・・・・日用品の買い出しですよ。オールマイトさんに、ナイトアイさんも、来られるとは知らなかったので。」

「あ、うん!少し、時間が出来てね!それで、エンデヴァー君にあったんだけど。」

 

転夜はそれにため息を吐き、そうして、これ以上無いほどに顔をしかめたエンデヴァーこと、轟炎司を見た。

 

「・・・どういうことだ?」

「私の後見人を手配してくださったのが、オールマイトとナイトアイだったんです。ともかく、家に入ってください。この面子はあまりにも目立ちすぎる。」

 

ぼやくように言って、転夜はそのまま家に入っていく。

 

「炎司のおっちゃん、今日の訓練は無理になったから。ごめんなさい。」

「・・・・理解はした。」

 

転夜はそのままどたどたと家に入っていく。オールマイトとナイトアイは少しだけ驚いた顔でそんな少女を見つめる。

 

「・・・・燈矢、ごめん、トイレペーパー、いつものとこに置いといて。」

「わ、わかった。」

「オールマイトさんたちは、居間にいてください。後で行きますから。」

 

そのまま二人は、雑貨を置いてある場所に荷物を置き、居間に向かった。

 

 

(・・・・なんで、わざわざ今日。)

 

転夜は苦々しい気持ちでお茶を用意し、ナイトアイとオールマイト、そうして何故か家の中に付いてきた炎司と燈矢にも出す。

何故、轟親子がいるのかわからない。というか、出来ればいない方がいい。

 

(やばい、やばい、やばい。炎司のおっちゃんから、あのことが出たら。)

「にしても、すごい偶然だね!エンデヴァー君の子どもと、転夜君が同級生だなんて!君の留守にどうしようかって考えてたんだけど。その時、偶然、エンデヴァー君に家の前で会ってね!」

 

ここは葬式か?というような空気感にオールマイトが必死に盛り上げようと頑張っているのがわかるが故に気まずさが増す。

 

「・・・ええ、この頃仲良くなって。家にも遊びに行っています。」

「そっか。うん、楽しい?」

「・・・・騒がしくて、楽しいです。」

「そっか!」

 

オールマイトは、それに、幾度も、幾度も、よかったと頷いた。

それに転夜は、ああと思う。

 

オールマイトというそれと、そう長い付き合いではないが、理解している。

なんとまあ、輝かしいばかりの善性だろうか。

 

(・・・・やっぱり、この人のことだめなんだよなあ。)

 

転夜は、ずっと、何故かオールマイトというそれが、苦手、いや、いっそのこと嫌いだった。

嫌う理由など無い?

そうだ、嫌う理由などない。

 

けれど、転夜の奥底で、何かがうごめく。

それを見ていると、何かがざわざわとうごめいた。何かがわからない、自分ではない何かが、ずっと、いるような感覚がした。

それが、怖い、いいや気持ち悪い。

 

だからこそ、どうしても、オールマイトという存在を転夜は拒絶した。オールマイトはそれを、今までの環境による人間不信だと受け取っているようだが。

 

(生理的に無理なんだよなあ。)

 

それが、一番にしっくりくる感覚だった。

 

転夜は表面的ににこやかにオールマイトの質問に答える。それをサー・ナイトアイが遮った。

 

「それで、転夜君。」

「・・・なんでしょうか?」

「あ、ナイトアイ、話は、私が・・・」

「オールマイトには時間がない。なら、話は早急に進めたほうがいいでしょう。」

 

サー・ナイトアイは改めて転夜を見た。それに転夜は気まずそうに目をそらす。

 

「・・・・ここではよくなじめているようだね。」

「ええ、おかげさまで。」

「なじっているわけじゃない。財産関係を管理している弁護士の方に提出している家計簿を見ても、金銭の管理も出来ているようで安心した。問題はないようだね。」

 

それに転夜は意外に思った。

転夜は、サー・ナイトアイが苦手だ。

雰囲気が、少しだけ、己が生まれた施設にいた研究員に似ていた。それと同時に、オールマイトを疎んじる少女が理解できていなかったようだった。

悪党ではない。

ただ、何か、オールマイトを信奉しすぎているように思えた。

何でも、ようやくオールマイトのSKになり、張り切っている部分もあるそうだが。

 

「ありがとう、ございます。」

「生活態度についてはいい。だがね、転夜君。」

隠していることがあるね?

 

それに転夜は目を見開き、言葉を無くして、視線を下に向けた。

 

「ナイトアイ、そんな尋問口調で!」

「だが、オールマイト!この子が隠し事をしているのは事実!先ほどのエンデヴァーの言葉を覚えていますか?ヒーローになる素質があると!」

「先ほどから聞いていたが、何わめき立てているんだ?」

「私たちは、この子の個性が、水の温度変化としか聞いていない!それで、あなたがヒーローになることを勧める!?あり得ない話だ!」

 

ああ、やっぱり。

(ばれてしまった。)

 

転夜は己の膝の上で、拳を握った。

最悪だと思ったのは、偏に、個性の話が炎司から、オールマイトたちに漏れてしまうことだった。

炎司には、出来れば、個性のことに関して誰にも話さないで欲しいとはお願いしていた。さすがに、個性の詳細の届けを炎司が見ることは出来ない。

ヒーローにでもならない限り、関係ない。

オールマイトたちも、忙しい身だ。電話をしてくることはあっても、直接会いに来る事なんてない。

 

(詰めが甘かった。)

 

「転夜、どういうことだ?お前は・・・・」

「エンデヴァー君、そんな強く言わなくても。」

「オールマイト、あなたは甘い!子どもの身で個性の秘匿など!隠していることがあるはずだ!」

 

ああ、止めてくれ。

転夜の拳がかたかたと震える。

 

「転夜君、君の個性は。」

(あばかないで。)

「転夜君、君の本当の個性は!」

(きかないで。)

「転夜、聞いているのか!?」

(しらないでいて。)

 

脳裏で、白衣の男達が、子どもを連れて行く。

 

ああ、有用だな。

これは、成功例だ。

今回は当たりだな。

 

がちゃんと、扉が開く音がする。その音に、家畜の少女は無感動に目を細める。

 

しられてはいけない。

おしえてはいけない。

こせいが、なんであるのか。

もしも、のぞまれたものならば。

家畜の少女が、裾を引く。

 

にどと、もどってこないのだから。

 

「転夜君?」

 

何も話さない転夜にじれたのか、サー・ナイトアイが自分に手を伸ばす。それに、転夜の中で、何かが重なって。

 

(・・・・・やだ。)

 

ばしんと、転夜はそれをはじき返した。その瞬間、サー・ナイトアイは、その場に崩れ落ちた。

 

「え!?」

「な・・・・」

「転夜、個性を使ったな!?」

 

オールマイトは、サー・ナイトアイに声をかける。

 

「どうしたの?」

「たて、いや、これは、位置が、私の体は、どこに・・・・」

 

ああ、ああ、ああ、ああ、ああああああああああああ!

やってしまった!

 

(誰よりも、戦意を感じさせてはいけないのに!誰よりも、温厚に、愛らしく、大人しく、振る舞わなくてはいけなかったのに!)

 

サー・ナイトアイは、転夜を疑っていた。

ここに来る前にいた、地下組織にて、たった一人だけ生き残った、少女に。おまけに、けして強くもない個性の少女に、サー・ナイトアイが疑いを持っていたのを知っていたのに。

転夜は、ふらふらと部屋の端まで震えながら、後ずさる。

それは自分にとって、社会を生きるための後ろ盾だ。それを敵に回したら?それが、自分を捨てたら?

 

また、私は、捨てられる?

 

「転夜君、君は・・・・」

 

善性の生き物が、自分を見ている。それに心がざわつく、がたがたと震える、自分は、何を、こんなにも!

やってしまった!

今更、何を言えばいい?

個性をばらす?

 

いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ!!

知らないで、わからないで、あばかないで!

 

大人たちが、私の個性を、私の力を知ったとき!

 

つれていかれて、にどと。

 

家畜の少女が、囁いて。

 

その時、ぐいっと、自分の手を引く存在がいた。それに、転夜は抵抗もせずに、引っ張られる。

 

「おい、ぼさっとするなよ!」

 

目の前で、雪のような、炎の少年が転夜の手を引いていた。

 




転夜の名付け親は、サー・ナイトアイ。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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