たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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遊園地

 

 

「君はきっと、ヒーローになれるよ。」

笑う、なんだか、いつもと違う、柔らかくて、静かな笑みで。

どうしたの、ねえ、何でって問いかけて。

少女は、笑った。

 

「でもね、私はヒーローにはなれないよ。」

私はね、とっても悪い子だから。

 

 

 

「・・・・・本当に、ここでよかったの?」

「うん。まあ。そうだね。」

 

夢意転夜は茫然と観覧車を見つめた。彼らがいるのは、県内にある遊園地である。

 

「来ちゃったなあ・・・・」

 

転夜は思わず呟いた。

 

 

 

転夜達は、そのまま、家から脱兎のごとく逃げ出した。追いかけてこようとした大人たちは、部屋の廊下に氷の障壁を作って足止めを行った。

 

(・・・・・立ち回りに失敗した。)

 

転夜は、燈矢に引っ張られる内に少しだけ冷静になった頭で考える。

逃げ出し、そうして、大人たちがあまり知らないような路地裏に逃げ込んだ。

 

「・・・・まけたよな?それで、転夜。」

 

転夜は改めて、己がしてしまったことを自覚して、がたがたと体を震わせた。

己は子どもだ。

転夜はそれを理解している。この国の福祉を考えて、のたれ死ぬということはないだろう。けれど、自分が不義理を働いたのは、この国のトップヒーローだ。

彼に、もしも、嫌われれば?

そうであるのなら、自分は。

 

(今からでも、謝って・・・・)

 

胸の奥で、何かが、ざわつく。

黄金の髪をした、英雄。その顔を見る度に、腹の底で何かがのたうつ。

 

だめだよ。

 

家畜の少女が首を振る。

 

あれは、きっと。

 

冷たい声音で囁いた。

 

いつか、わたしをこわすから。

 

「転夜!」

 

冷や汗が流れる中で、鮮烈な、少年の声に頭が冴えた。

 

「俺を見ろ!!」

 

無理矢理に上げられた視界が、美しい蒼で満たされる。雪のような髪が揺れるのが見えた。

へたり込みそうな転夜を、燈矢は支える。

 

「見てるな!?」

「見てる、君を、みて、る・・・・」

「なら、あんな奴らの事なんて気にしなくて良いんだ!」

 

揺すぶられたその時に轟燈矢は少女に言葉をかけた。

 

「あんなの、あの眼鏡野郎が悪いに決まってる!」

「で、でも、嘘吐いてて・・・」

「そんなの関係ないだろ!?大体、転夜はそれでなにか悪いことしたのかよ!?」

「して、ないけど!」

「なら、気にしなくていい!」

 

燈矢はがたがたと震える転夜のことを抱きしめた。少しだけ、自分よりも体格の良い転夜には縋り付くようになってしまったがいいだろう。

 

「俺は、転夜の味方だし!それに、お父さんだってそうなんだ!!」

お前は何にも心配しなくていい!

 

自分の体に纏わり付く、暖かな体、柔らかなシャンプーの匂い。それに、転夜は、体の震えが収まっていった。

 

「・・・・ありがとう。」

「別に、礼なんていいだろ?俺がお前を助けるなんて当たり前だろ?」

 

つんと澄ました顔で笑う少年に転夜は無意識のうちに笑みを浮かべていた。

 

ああ、やっぱり、それにいいなあと思う。

 

健やかで、傲慢で、愛らしい、希望に満ちた子ども。

叶うなら。

ずっと側にいたい。その子どもが健やかで、傲慢で、朗らかに、どんな風に大きくなるのか見てみたかった。

けれど、無理だ。

 

自分は、立ち回りを間違えたのだ。

 

(・・・・・もう、潮時だ。)

「でも、どうしよう。お父さんも多分、勝手に出てきて怒ってるだろうし。」

 

そんなことを呟いている少年のことを見た。

澄んだ青い瞳、真っ白な髪。

 

転夜の焦がれる、健やかで、愛を注がれる少年。

 

「・・・・ゆうえんち。」

「え?」

 

驚いた顔をした燈矢を見て、転夜は何故か、思わず呟いた言葉を続けた。

 

「ゆうえんちに、いきたいなあ。」

 

 

 

 

それから、燈矢は驚いた顔をしたけれど、転夜の言ったとおりに遊園地に連れて行った。

その日は、丁度、休みで、時間はお昼を迎えるか、迎えないかという時間だった。

燈矢は丁度持っていたという財布を持って、交通費などを出してくれた。

 

「・・・君、よく金なんて持ってるな。」

「何が?これぐらい大丈夫だけど。」

 

中学生にはキツい金額だろうと考えたが、転夜は少年の親が誰かを思い出す。

 

(そういや、おっちゃんもランキング入りしてるヒーローだったね。)

 

ふと思い出したことに転夜は苦笑した。

 

 

 

「本当によかったの?」

「いいんだよ!転夜は悪くないんだ!嫌なこともあったし、ちょっとぐらい息抜きしてもいいじゃん!」

 

二人でやってきた遊園地で、燈矢はそう言って、喜々として転夜を連れ回した。珍しく、転夜が望んだことを遂行してやりたいのか、燈矢は嬉しそうにしていた。

 

「遊んだらさ、お父さんのところに行こう。お父さんはわかってくれるよ!」

 

はしゃいだ声に、転夜はうんと頷いた。

そうだねと頷いた。

そうではないとわかっているのに。

 

 

お化け屋敷に、コーヒーカップ、ジェットコースターは身長が足りなくて諦めた。

お化け屋敷はギャーギャーと騒いだ。

コーヒーカップは、力一杯回して気持ち悪くなりへたり込んだ。

ジェットコースターは、燈矢の、いつか大きくなるから又今度と言い合った。

 

 

(・・・・・・なんで、遊園地なんて。)

 

転夜は観覧車に揺られてそう思う。ぐるりと、回る観覧車。燈矢は、さすがに遠くを見てもつまらないのか足をぶらんと揺らしていた。

 

転夜は、じっと遠くを見ながら、何故、あの時遊園地なんて呟いてしまったのかわからなかった。

どうしようかなんて、どこに行こうかなんて、それはもちろん、当分は大人たちに会いたくないからこそ、遠くに行きたいという想いはあった。

けれど、どうして、遊園地なのだろうか。

 

ぼんやりと考える。

ただ、脳裏に、遊園地が浮んだ。前世の記憶の中でしか知らない、キラキラとした、楽しい場所。

 

(いや、だからこそ、私は。)

「なあ。」

「なーに?」

「楽しい?」

 

外を眺めるのに飽きたのか、燈矢がむすりとした顔をして聞いてくる。よほど退屈だったのだろう。

転夜はじっと眺めていた窓から手を離して。にっこりと笑った。

 

「うん、とっても!」

 

花が開くように、淡く、無邪気に、その少女は微笑んだ。

 

 

 

 

 

「あーあ、遊んだなあ・・・・」

「もう、夜だもんなあ。」

「夜の遊園地ってこんな感じなんだな。」

 

二人は、すでに暗くなり、電灯が付いて回る遊園地をベンチから眺める。暗い中、遊園地のアトラクションが、色とりどりの電灯に照らされている。

 

「俺さ、こんなに遅くまで遊んだの、初めてかも。」

「ああ、今まではずっと個性の特訓?」

「そうそう、家族で遊園地なんてきたこともないし。」

「ないんだ?」

「まあ、学校行事ぐらいだろうなあ。お父さんも、お母さんも、忙しいし。」

「そうか、私は、遊園地なんて初めてだよ。」

「え?」

 

驚いたような声に、ちらりと燈矢を見ると、彼は少しだけもじもじした後に恐る恐る聞いてくる。

 

「な、なら、俺が、初めてってこと?」

「ああ、そうだね。楽しかったよ。人生で、一番に楽しい時間だった。」

「そ、そっか。俺も、遊園地なんて、興味なかったけど。でも、楽しかった!転夜と一緒だった、から。」

 

目の前で、メリーゴーランドが回っている。キラキラとした、オルゴールのような、美しいおもちゃが回っている。

夜の中で、それが回るのを見て、転夜は夢のように美しいと思った。

そっと、隣に座った少年の手を握った。それにびくりと手が震えて、けれど、握り返す力に淡く笑みを浮かべた。

横目に満ちた少年は、電灯に照らされて、淡く染まっている。

 

「そうか。」

「う、うん、そうだろ。転夜だから、楽しかったんだ。」

「私もだ。私も、楽しかったよ。」

 

温かな手だ。暖かくて、けれど、訓練のせいで固い、けれど、小さい未熟な手。

転夜の、愛しい、憧れだ。

彼女は、それをずっと覚えているのだ。きっと、忘れないのだ。

だから、もういいのだ。

 

転夜はゆっくりと立ち上がった。

 

「もう、閉園だね。」

「あ、えっと、そうだな。そろそろ帰らないと。お父さんに連絡をして。」

「燈矢。」

 

転夜はくるりと振り返る。メリーゴーランドの電灯に照らされて、顔に影が落ちている。

 

「帰ったら、私と君はお別れだ。」

だから、最後に、思い出が出来てよかったよ。

 

転夜の言葉に、燈矢は目を見開き、そうして、作ったかのような笑い声を上げた。

 

「あ、あはははあはははは、転夜、何を言って。」

「なあ、燈矢。君はさ、私の両親がどうしているのか、気にはならないのかい?」

「・・・・いないんだろう?」

「ならさ、なんで、わざわざ、オールマイトなんてビッグネームが私の世話をしているのかは?」

 

それに燈矢は顔をしかめた。

 

 

転夜の家庭事情について燈矢は知らない。燈矢が知っているのは、後見人がついていて、時々、その後見人を手配してくれたという恩人から電話が来ることだった。

その電話を取る度に、転夜が苦い顔をしているのを知っている。

父は、転夜に親がいないことに喜々としていた。何故って、ヒーローになる上で、転夜の意思さえなんとかなればいいのだから。

そうして、ある意味で、そういったデリケートな部分に触れることはしない程度の常識はあった。

燈矢も彼女の両親に興味は無かった。

誰が親でも、彼女は彼女だったからだ。だから、燈矢はてっきり、彼女の両親が、病気か、事故か、いっそのことヴィラン関係でなくなったのだと、その程度で考えていた。

 

「・・・私はさ、まあ、ヴィランの組織に捕まっていてね。そこの壊滅作戦の時に、オールマイトに保護されて、その縁でこうなった。」

「ヴィランに!?」

「まあ、無い話じゃないだろう?」

 

転夜は、特別なんの感慨もなさそうにそう言って、またメリーゴーランドを見た。

ゆっくりと回るそれを、これ以上無いほどに優しげな目で見つめた。

燈矢は葛藤するように首を振った後、口を開く。

 

「・・・・それがあるとして、なんで、会えなくなるんだよ?」

「私、疑われてるんだよ。ヴィラン側のスパイじゃないかって。」

 

その言葉に、燈矢は目を見開いた。

 

 

自分でも失敗したという自覚はある。最初は、どうせ、何かをするわけではないと思考を放棄していたけれど、燈矢と関わるようになって改めて自分の失敗を自覚した。

 

なんでも、転夜がいた組織は、人身売買をしていて、どの商品をどこで手に入れたのかきっちりと管理をしていたらしい。転夜が組織に流れてきたのはほんの少し前だ。

はてさて、ならば。

 

その少女はどこから来たのか?

 

元々ろくでもない出自だった?

ならば、何故、一般常識から、基礎的な学力を持っている?

一般家庭から連れてこられた?

ならば、何故、行方不明の届け出がない?

 

当初、転夜はひたすら、ヒロアカという世界観の常識を飲み込むために、そんな矛盾を気にする余裕はなかった。

 

それに気づいたのは、サー・ナイトアイが発端だった。

転夜も、初対面では、少なくとも、今ほど苦手意識はなかった。確かに、冷酷な雰囲気は恐ろしかったけれど、意味のわからない衝動を感じるオールマイトよりも遙かにましだった。

 

ううん。

ちがうよ、ほんとうはね。

やさしい、ひと、なのかなあって。

 

家畜の少女がまた、囁く。

 

おなまえ、つけてくれたのにね。

 

 

「名前、てんや・・・・・」

 

転夜は覚えている。男に名前を尋ねられ、咄嗟に出たのは、施設で呼ばれていた管理番号であった。それに、サー・ナイトアイはそれが気に入らなかったのだろう。咄嗟に、一時的な呼び方として、それを呟いた。

けれど、すぐに後悔したような顔をした。

当たり前だろう、明らかに、108というそれの呼び方を変えただけの名前だった。

 

「・・・・その、転じる夜、と書いて、転夜にしようかと思うんだ!」

夜は、いつか、明けて朝になるように。君の夜も、いつか転じて、朝がくるはずだ。

 

焦って、そんなことをいうものだから。いかめしい顔で、とても困った顔をしているものだから。

転夜も笑った。

美しい名前を貰えたと思ったから。

 

 

それでも、サー・ナイトアイが苦手になったのは、転夜が己の立ち位置を理解してからだ。

 

あの子、おかしいわよ。

 

大人たちのひそひそ話なんて案外、簡単に聞こえてくるものだ。

 

 

なんかさ、ヴィランから助け出されたのに、精神の異常、まったくないんだって。

ああ、その数値が可笑しくて、あんなにテスト受けてるんだ。

ストレス値も正常だし。

というか、普通すぎるんだよね。あの子、助け出されたとき、泣きもせずに何て言ったと思う?

知ってる、ああ、そうですか。私はどうすれば?でしょ?

そうそう、大抵、極端に怯えるか、愛想を振りまくとかなのに。

個性で調べてみても、異常が無いらしくて。

あんまりにも、普通すぎる。

 

 

やってしまったなあと転夜は思う。けれど、やってしまったことは仕方が無い。

だから、そのまま過ごしていた。

オールマイトとの面談も、躱して。それで、サー・ナイトアイに会ったのはそれから一度だけだ。

 

(・・・いろんなことが、悪かった。)

 

最初は、きっと、優しくしようとしていた。

何か、おすすめだという本を差し入れてしてくれたり、ぬいぐるみだって貰った。

それは、今でも、転夜は所持している。

ユーモアが大事だというくせに、当人はあまり笑わない人だった。

 

記憶は戻らないのかい?

・・・・ええ。あの組織に来る前のことはさっぱり。

病院はどうだい?

よくしてくれています。

オールマイトは来られるかい?

ええっと、先週も、数分だけですが。

 

普通の会話だった。そこで、サー・ナイトアイは切り込むように問いかけた。

 

「君は、オールマイトのどこが怖いんだい?」

 

それに、転夜は言葉を窮した。いや、そうだ、当たり前だ。だって、転夜はずっと、オールマイトにだけ、拒絶反応を示していた。

 

ヒーローではなく、大柄な人ではなく、性別ではなく、ずっと、オールマイトという個人を疎うていた。

 

「いや、責めているわけじゃないんだ。ただ、どこがと気になってね。」

 

転夜は、そこで初めて、サー・ナイトアイを拒絶した。それっきり、彼は転夜に会いに来ることはなかった。

 

自分が可笑しいと、転夜は自覚していた。その、オールマイトというそれを拒否する自分を、周りはなんだか可笑しい目で見ていた。

 

(最初の頃に、それを隠せなかったのは、私の失態だなあ。)

 

だって、そうだろう。転夜は、誰のことも拒否しなかった。誰のことも、受入れていた。だって、前世の記憶というそれで、自分がすでに安全地帯に入ったことは理解していたから、愛嬌をふりまいておいたほうがいいだろうと思って。

 

なのに、オールマイトというそれだけには、どうしても、愛嬌なんてふりまけなかった。

 

だからこそ、サー・ナイトアイの目が忘れられなかった。

己を見つめる、不信の瞳。

皆の希望のオールマイト、皆を明るく照らす象徴。

その光に怯える自分を、サー・ナイトアイは、探るように見つめていた。

 

その瞳が、どうしても、その時の目が、ああ、あの施設にいた研究者達を思い出して。

転夜は彼のことが苦手になってしまった。

 

(私は、矛盾している。)

 

異常な世界で生きていたはずなのに、どこまでも正常で。

当たり前の中で生きていけるのに、死んでいった人間に無感動で。

人好きをするくせに、最高の英雄に怯える。

 

転夜は、矛盾に満ちている。

 

自分のトラウマは、あの施設で行われた、個性の判明だ。隠していた事実が暴かれる。

 

あばかれると、つれていかれるから。

そうだ、だから、ばれてはいけない。

 

大人になにをされようと、今更恐れることもない。ただ、個性がばれると言うことがトリガーになった。

 

・・・・でも、きらいじゃないよ。

うん、そうだね。

きれいな、おなまえ、くれたから。

 

家畜の少女はそう笑う。

 

 

 

「・・・・今回、サー・ナイトアイが私に詰問したのは、それのせいだろうね。私は矛盾に満ちている。ああ、一人暮らしの許可が出たのも、多分、監視でどうするのか見たかったのがあるのかも。」

「じゃあ、お前、こっちに来て、何したんだよ?」

「エンデヴァーと関わった。」

 

予想は出来る。

オールマイトと拒絶しながら、おそらく、子ども受けしないだろうエンデヴァーと交友を持つ。

それは、彼にはどんな風に見えただろうか?

対立を深める?何かを探っている?いいや、いっそのこと、取引か?

もちろん、エンデヴァーがヴィランに寝返るなんてありはしないけれど。

 

「個性のことは、多分、引き金かな。」

「・・・お前の個性なら、隠すのだっておかしくないだろ?」

「記憶が無いって人間が、自分の力の扱いを利用されることに怯えるなんて、おかしいだろう?」

 

転夜には記憶が無いのか、それとも、もっと別の理由が?

 

「サー・ナイトアイは、私を近くで見張ることを望むだろうね。でも、君のことは、オールマイトに頼んで、定期的に面会できるようにする。本当は、持続的に・・・・・」

「・・・・うそ、つくのかよ。」

 

転夜のそれを遮るように、燈矢が口を開く。

 

「嘘なんて。君がヒーローになれるように。」

「違う!!一緒にヒーローに、俺とお前は、二人で一人なんだ!」

 

叩きつけるように、少年がそう言った。

 

「お前が言ったんだろう!?お前が、俺のこと、ヒーローになれるって!なら、一緒だ!お前まで、遠くに行くのか?俺のこと、見なくなるのか!?」

ふざけるな!!

 

燈矢の手に、炎が宿る。ゆらゆらと、いつかに、最初にあったときに見た、キレイな、暖かなそうな、炎。

 

「赦さない、俺のことを置いていくなんて。そんなの、そんなことになるなら!」

 

暖かそうな炎が、揺らめく。

 

きれいだね。

そうだね。

あついのかな?

そうだろうね。

 

家畜の少女が、裾を引く。

 

あれでもえたら、しあわせだね。

 

転夜は、ゆっくりと燈矢に近づく。

 

「な、なんだよ!」

 

転夜はゆっくりと燈矢に近づき、そうして、手を広げた。抱擁の仕草に、燈矢は、理解する。

 

焼けなかった。怒りに任せて、炎を纏っても、穏やかに笑いながら、自分に近づく少女。

それに、燈矢の炎は消えてしまう。

 

転夜は、燈矢は抱きしめた。

暖かな、優しい匂いのする、愛された少年。それに、転夜はいいなあと思う。

きっと、この子どもは、輝かしい未来があるのだと、信じて疑わない。

 

(なんたって、主人公の、友人の兄だから。)

 

なんて、メタメタしいことを考えて、転夜は少年に言った。

 

「・・・・燈矢、君はきっと、ヒーローになれる。」

「だって、でも、お前がいないと。」

 

転夜はそれに一度、燈矢から体を離した。

 

「でもね、私はヒーローにはなれないよ。」

「なんで!?お前の個性なら絶対になれる!それとも、怖いのかよ?」

「まさか、怖いなんて。」

そんなことを感じたのは、もう、いつ以来だろうか。

 

「私はね、とっても悪い子だから。」

「個性を隠してたこと?そんなの・・・・」

 

転夜はそれに軽く首を振った。

ああ、言わないと。

ヒーローになれない。それでも、言えなかった。それは自分の未練で、憧れで、妬ましさで。

けれど、言わないと。

 

遊園地に行きたい。

それは、少しだけ、少年と、遊びたかったから。子どものように、愛しい思い出が欲しかったから。

 

「燈矢、私の、親はね・・・・」

 

その時、遊園地にけたたましい音が響き渡る。それに転夜と燈矢は思わず上を向いた。

 

「・・・・・閉園の音楽?」

「それにしちゃ、荒々しすぎる・・・・」

 

何て言っていたとき、放送が入る。

 

「ヴィ、ヴィランの襲撃が!避難を!きゃあ!!」

 

ぶつりとそれが切れると同時に、二人は顔を見合わせ、ともかく逃げようとした。

けれど、それよりも先に、目の前に男が一人立っていた。

 

「・・・・人質に丁度良いな。」

「転夜!」

 

燈矢の言葉に転夜は戦闘態勢に入ろうとした。けれど、それよりも先に、転夜の体に何かが巻き付くような感覚に襲われた。

潰されるかのような圧迫感に、転夜の意識は薄れていく。

 

「転夜!」

 

そのまま、転夜の意識はふっと暗闇の中に落ちていった。

 

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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