たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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感想、評価ありがとうございます。
感想いただけましたら嬉しいです。

正念場を書き切ろうとしたんですが、長くなりそうなので一旦切りました。
燈矢の話しになります。


燈矢にとってのヒーロー

 

 

ヒーローになりたかった。

始まりは、きっと、大好きな父が望んでいて、そうして、自分もまた輝かしいものに目が眩んでしまっていて。

けれど、その程度、その輝きに眩んでいただけで。

 

なのに。

 

「大丈夫だよ、いたいねえ、でも、大丈夫だから。」

「う゛う゛う゛う゛・・・・・」

 

弱者が泣いている。

弱い奴なんて好きではないのに。声を押し殺して、それは、抵抗も出来ずに泣いている。

 

嫌いだった、嫌悪した、立ち向かえないことに怒りを覚えた。

けれど、それと同時に、思いもした。

 

ああ、こんなものがいなくなるために、ヒーローはいるんじゃないのかと。

 

 

 

体が軋みを上げるような感覚を覚えて、夢意転夜はゆっくりと意識を浮上させた。体を動かすこともなく、目を開けることもなく、辺りを探る。

 

(・・・・物音もしない。温度も、特に異常は無い。)

 

うっすらとまぶたを開けると、どこか、薄暗い部屋であることを理解した。転夜はそれにゆっくりと目を見開いた。

そこは、見事なまでに真っ白な部屋だった。そうして、何故か部屋には財宝、とまではいかないが大量の金目の物が転がっている。

そうして、転夜は己が倒れ込んでいる場の素材を見た。白い、つるつるとしたそれは、何というか、コンクリートだとかそんなものではない。

目だけで周りを見回すと、何というか、全体的に非常になめらかで、まるで一つの資材をくりぬいたかのような部屋だった。

 

(・・・・窓はない。外の状況はわからない。もしかして、貴重な空間系の個性?)

 

転夜は一瞬、このまま状況を伺い続けるか考える。

 

(いや、それよりも燈矢の行方か。)

 

転夜はゆっくりと起き上がり、そうして、周りを見回す。そうすれば、自分が背を向ける形で轟燈矢も倒れていた。

幸いなことに縛られていないことに安堵し、転夜は燈矢の状況を伺った。

 

(息はある。外傷もない。)

 

それに一時的に安堵し、改めて周りを見回す。窓もなければ、扉もない。

 

(やっぱり、個性か。にしても、結構な広さだし、おまけに、容量も大きい。)

 

転夜は、己の出身地の者ならば喜々としただろう個性に苦笑いをした。その時、倒れていた燈矢がうめき声を上げる。

 

「燈矢!?」

 

駆け寄れば、燈矢も目を見開いた。そうして、掠れた視界をはっきりさせるために、ぱちぱちと瞬きをした。

 

「てん、や?」

「そうだ!何か、異常はあるか?視界、聴覚や痛みなんかの異常は?」

「特に、ない。」

 

燈矢はゆっくりと起き上がり、そうして、覚醒したのか目を見開いた。

 

「転夜は!?お前は、大丈夫なのか?」

「特に異常は無い。それよりも、何が・・・」

 

転夜がそう話し始めると、燈矢がぎちりと、自分に縋るように体に手を回した。

 

「・・・・よかった。お前が、ヴィランに捕まって、俺、何も出来なくて!」

「燈矢が悪いわけじゃない。ただ、私も油断していたから。」

「でも、俺なら!俺だったら!俺が、もっと、上手く出来てたら・・・・」

 

言葉尻になっていくにつれて静かになっていくそれに、転夜は淡く笑った。そうして、背中を叩く。

 

「お互い様だよ。それに、先に捕まって人質になったのは私だから。」

「・・・でも。」

「ねえ、燈矢。ところで、ここがどこかわかる?」

 

燈矢は一層転夜を抱きしめる力を強くすると、息を吐いて体を離した。

 

「・・・・ヴィランの男のこと、覚えてる?」

「ああ、あの、大柄な。そう言えば、すぐに気絶したからわからないが、個性は?」

「・・・遠距離から転夜のことを拘束してたから。多分、念動力とかそっち系じゃないかな?」

「・・・・念動力か。出力がどれぐらいか知りたいな。そうだ、この個性は?」

「ああ、その後で、子どもが来たんだ。」

「子ども?」

「俺たちよりもずっと年下。多分、小学生、はなってると思うんだけど。」

「・・・・なら、低学年ぐらいか。」

 

転夜はゆっくりと目を細める。

 

(・・・・低学年、子どもか。性格だな、問題は。)

「俺は、お前のことがあるから手も足も出なくて、腹を殴られて、そのまま・・・」

 

考え込むような仕草をする転夜に燈矢が声をかけようとしたとき、真っ白な部屋に扉が現れる。

 

二人は警戒するように身構える。そうすると出来た扉から、子どもと、そうして、自分たちがあった男が現れる。

 

「起きてたのか。まあ、いい。おい、痛めつけられたくなかったら、大人しくしてろ。」

「は!?ふざけ・・・」

 

転夜は大声で怒鳴ろうとする燈矢に覆い被さり、黙らせるように抱きしめる。

 

(ごめん、少し黙って。)

「あ、え・・・?」

 

胸の辺りに感じる生暖かい感覚を感じながら、転夜は覚悟を決めて、燈矢のその頭に思いっきり目の辺りを擦り付けた。

目に痛みを感じながら、振り返る。

 

「あ、あ、ご、ごめんなさい。お、大人しくしてるから、こ、怖いことしないで・・・・」

 

瞬きをすれば、ぼろりと、涙が零れる。そうして、転夜の怯えた様子に、男はにやにやと笑う。

 

「ああ、大人しくしとけばちゃーんと、おうちに返してやるよ。」

「ほ、本当?大人しくしてるから、だから、だから・・・」

「は、怯えてるな。これなら、いいな。おい、お前もここにいろ。なんかあれば、呼ぶんだぞ?」

 

男は転夜達の様子に満足してそのまま去って行く。残されたのは、やせっぽちの子どもだった。

ぱさぱさとした茶色の髪に、黒い瞳をおどおどさせて自分たちを見ている。

 

(・・・・行ったか。情報を引き出したかったけど。いいや、子どもを置いていってくれたから上々だな。)

 

転夜はそう思いつつ、そっと目元を拭う。目玉を刺激したために出た生理的な涙はすぐに枯れた。そうして、燈矢から体を離した。

 

「燈矢、急にごめん。でも・・・・」

「え、あ、うん?」

 

燈矢は茫然としながら、転夜を凝視している。というよりも、顔と、胸の辺りに視線をうろうろとさせている。

 

「おい、大丈夫か、君?」

「だ、大丈夫!大丈夫だから!!」

「それならいいけど。」

 

燈矢は自分の手を見つめながら、そうして、それを己の頬に添えて目をぎらぎらとさせる。

 

(・・・・どうしたのかわからん。)

 

ともかくと、転夜は燈矢に顔を近づけた。

 

(・・・・燈矢。)

「だ、大丈夫だって!」

(大丈夫だってわかったから、少しだけ話を聞いて。あの子と話すから、黙っててくれる?)

(話すって、どうするんだよ?)

(情報を聞き出すよ。まだ子どもだし、探ってみるから、君は黙っておいてよ。君、少し高圧的なんだから。)

(お前だって、子どもじゃん。)

(・・・・そうだね。でも、前にあれぐらいの子の世話をしてたから。慣れてるんだ。)

 

転夜はそう言って燈矢から体を離して、子どもの方を振り返った。

 

「・・・ねえ。君。」

「あ、あの、えっと。」

「ごめんね、あの、ここがどこかわからなくて、お話ししない?おうちに帰れるかもわからなくて。」

 

転夜はにっこりと笑う。

今まで、見た、ヒーロー、保護者、善なるものが浮かべていた笑みをまねして。

柔らかく、穏やかに、静かに、微笑んだ。

 

それは、一目見て、仮面染みていたが、不安そうな、飢えた子どもはそろそろと近づいてくる。

転夜はそれに目を細め、そうして、手探るように手を差し出した。

そうして、内心で幸運だと淡く笑った。

それは、どこまでも、扱いやすいタイプのそれであると理解して。

 

「こんにちは。私、転夜っていうんだ。こっちのお兄ちゃんは燈矢。君は?」

「・・・・・我楽、ってあの、いって。」

「我楽ちゃんか。そっか。よろしくね?」

 

幸いなことに、子どもは質問に対してするすると答えてくれた。

 

(・・・予想通り、口は軽い。まあ、扱い的にそう、よくはないだろうな。)

 

転夜はちらりと我楽と名乗った子ども、本人曰く少女に目を細めた。

 

ぱさついた髪、生気の無い肌、枯れ木のような体。曰く、小学校低学年らしいそれは、明らかに痩せ細っている。

 

(燈矢と正反対の子どもだ。)

 

愛を知らぬ子ども、愛を与えられない子ども、残飯のような愛に歓喜する子ども。

転夜はひたすら子どもの話を聞いた。そうして、嫌がることは深追いせず、けれど、褒め、肯定し、甘やかすように微笑んで話を聞いた。

 

あまり構われないらしい子どもは、久方ぶりに自分を見つめてくれる存在に飢えを満たすように甘える。

転夜は、そういった子どもには慣れていた。彼女のいた前の組織は、人買いの組織で、ろくでもない親から売られてくる存在もいた。

転夜は、ある意味で使えたために、そういった子どもの世話もしていた。

 

(そう言った子は、無反応か、激情型とか、あとは、この子みたいに構われたがるか。)

 

ある意味で、扱いは心得ていた。

 

さっきの人は誰?

えっとね、お父さん。私のこと、園から引き取ってくれたんだ。

へえ、お母さんは?

お母さんもいるよ。

そっか、他にも家族はいる?

うんとね、おじさんがね、一人いるよ。

お出かけにもいくんだ。仲が良いね。

うん、怒られたりもするけど、頑張るんだ!

そっか、えらいね!

 

転夜は子どもが伝えてくるそれに目を細める。

 

(・・・・構成員は、この子を合わせて四人か。どっかで強盗をして。いや、盗んだ量を見る限り、銀行でも襲ったのか?話を聞く限り、母親がどうも、鍵やらなんやらを突破できる個性みたいだな。あとのおじさんってのは、戦闘員だな。)

 

そうして、皮肉なことに、転夜は子どもが貰われてきたという園について知っていた。

 

(・・・・あそこって、結構高めの値段で子ども売ってなかったっけ?うーん、計画のために運搬用の子どもを買って、元手を取るために必死な可能性。つーか、あそこと関係あって、結局ヒーローに見つかって遊園地に人質あさりに来るとか行き当たりばったりが過ぎない?)

 

子どもは自分のしたことをあまり理解できていないようで、にこにこしながら、お金を運ぶのが終わったらオールマイトのおもちゃを買って貰うのだと笑っている。

 

吐き気がした。

 

子どもの個性は、おもちゃ箱といい、子どもが許可したものならばなんでも入ることが出来るそうだ。ただ、出入り口は入ったところで固定されるそうだ。

 

「許可って?」

「あのね、いいですよって紙をあげるの。」

(物理的なものなら、入ってくる奴がいる。この子を言いくるめて籠城は無理か。)

 

そんなことを考えていると、今まで黙っていた燈矢が転夜に近寄る。

 

(おい。)

(なんだい?)

(籠城がダメなら、逃げ出すことを考えねえといけないだろ?あいつら、どうせ、俺たちのこと生かす気ないだろうし。)

(よくわかるね。)

(当たり前だろ。顔見られて、おまけに、水とかの食料も渡さないんだ。)

 

自分たちは相当眠りこけていたらしい。少女に聞いた、自分たちが起きた時間はすでにとっぷり夜がくれていた。

 

(・・・・優良健康児の私たちは、あと数時間後には寝ているもんな。)

(冗談言ってる場合か。どうする?こいつのこと、脅して出るか?)

 

それに目の前でにこにこと笑う子どもを見た。自分よりも幼く、そうして、ろくな教育もされず、そうして、気弱なせいでろくな目にあっていないだろう、それ。

 

(・・・・出たとしても、見張りがいるだけだ。)

(俺の火なら・・・・)

(もしも、相手が耐久型なら、持久力で勝てるかわからん。それに、逃げるならこの子も連れて行こう。)

(はあ、なんで・・・・)

 

転夜は、ひそひそと話す自分たちに不安そうな顔をしている子どもを見た。なんだか、今にも、消えてしまいそうな子ども。

遠いいつかに、死んでいった誰かにそっくりな、消耗品。

 

「・・・・・それが、ヒーローじゃないか。」

 

転夜はそう言った。今にも、消えて仕舞いそうなほど、かすかな声で。

信じていないのに、願うようにそう言った。

そうであってくれと、祈るように、ただ。

 

 

 

子どもが宙を飛んだ。

当たり前のように、我楽と名乗った子どもが蹴り飛ばされたとき、燈矢は男に向かって行った。

 

子どもと話して、どれぐらい経ったのかは燈矢にはわからない。が、時間感覚的に、さすがに十数分というレベルではなかった。ともかく、転夜とこれからどうしたものかと話し合った。

逃げ出すという選択肢については、我楽のこと、戦闘員らしいもう一人の詳細がわからないこと、また、自分たちのレベルがどれほど通じるのか、脱出ルートはどうするのか?

 

我楽を説得は出来そうであったが、どうも、養い親に期待をしているらしいそれを納得させるには時間がかかりそうだ。

 

「たぶん、あいつらも警察とかに要望を押し通すために、一度は私たちのことをアピールしたいだろうし。その時に、何か情報を探れれば。」

 

そんな話をして落ち着いている。燈矢としては逃げ出したいとも考えていたが、理性の内に、父親から叩き込まれた危機管理という物が発動していた。

そのまま、二人は、交互に仮眠を取ることになり、転夜が先に眠りについた。

我楽は転夜の膝の上ですやすやと眠っている。転夜も、壁にもたれかかり、眠っている。

 

けれど、それは突然現れた。

部屋に扉が現れ、あのヴィランが入ってきた。

 

「ちぃっ!!」

 

盛大な舌打ちに、子どもは目を開き、そうして父親だというそれに向けて嬉しそうに走り出した。

 

「あのね、おと・・・・」

「このクソガキ!見張ってろっつたろうが!!」

 

鈍い音がした。

なんと表現して良いのかわからない、嫌な音。

男に蹴飛ばされた子どもは、まるで、いつかに皆で遊んだサッカーボールのように飛んでいく。

床にたたき付けられる音、子どもが肺の中の空気を吐き出したような、かすれた声がした。

 

「ああ、はいはい、子どもの声だろう?今、聞かせてやるよ!」

 

男は、なんの感慨もなく我楽のことを無視して、燈矢達に近づいてくる。転夜は脱兎のごとく、転がった子どもに近づく。

 

 

男は転夜のことをちらりと見たけれど、燈矢が動かなかったためか、興味を無くしたかのように視線を外した。

男の手には、ケータイがあった。

 

「ほら、ヒーローからの電話だ。嬉しいだろう?なんと、相手は、オールマイト!」

 

楽しそうな男の声が聞こえる。

燈矢は、それに動けない。何故って、固まっていた。茫然としていた。

 

燈矢は、その時、初めて、弱いと言うことの罪深さを知った。

この個性社会で、弱さがどういうことなのか、意味を、理解した。

 

蹲って、泣く子供。

誰にも、きっと、見向きもされずにここに来た、子ども。

 

きっと、誰よりも、ヒーローを必要としていながら、気づかれなかった子ども。

 

「おい、受け取れよ。」

 

目の前に、ケータイが差し出される。

そんなこと、燈矢の頭に入ってこない。ただ、その視線は、押し殺すように痛みに耐えていた。

 

「大丈夫かい!?聞こえているかい!?」

「声を聞かせろ!!!!!!!!」

 

オールマイトと、その後ろで騒ぐ父親の声がする。答えなくてはいけないのに、まるで、凪いだどこかにいるように、聞こえてこない。

 

「大丈夫だよ、いたいねえ、でも、大丈夫だから。」

「う゛う゛う゛う゛・・・・・」

 

少女が、幼子を抱きしめている。

弱いそれを、必死に、自分の運命が慰めている。子どもの押し殺した声が聞こえる。

 

何をそんなに気にするんだ?

 

心の中で、無意識のように、自分に問いかける。ただ、幼子のことを凝視している。

背を丸めて、幼子のことを庇う少女のことを見つめている。

 

幼い子どもが吹っ飛ばされる。

 

自分だって、父にそうされたはずだ。

弟の、轟焦凍だってそうだろう?

 

いいや、違う。

何が?

だって、違う。

どこが?

だって、少なくとも、あれは、あの時、お父さんは、自分のことも、焦凍のことも確かに、見ていてくれた。

 

確かに、焦凍はそれを望んでいなかった。けれど、今のそれと、あれは違う。

人によっては、同じとするかもしれない。

けれど、違う。

少なくとも、燈矢にとって、それは違う。

 

弱さは罪だ。いいや、罰だ。

転がって、哀れに泣く子供。反抗も出来ずに、ただ、助けを待って泣く子供。

 

ああ、情けない、ああ、なんて、なんて、見るにたえないことだろうか?

 

燈矢は、その弱さに苛立った。けれど、耳の奥で、ふと、聞こえる。

 

その、搾取されるだけの子どもに微笑みかける、己が運命。

 

だって、それがヒーローだ。

 

ヒーロー。

輝かしい、燈矢の夢。

父に褒められたかった、だから、ヒーローになると決めた。

始まりなんてそんなものだ。

あの、父からの愛を飲み下すためのそれ。

 

ヒーローになりたい。

それは、過程か、目的か?

未だ未熟な燈矢にはわからない。

 

けれど、声がする。

 

「いだいよぉ・・・・・・」

 

掠れて、くすんだ、地べたを這いずる、弱者の声。

 

「大丈夫だ、だから、泣くな・・・・」

 

その弱さを、必死に肯定しようとしている誰かがいる。

 

「おい、いい加減にしろ!!」

 

ヴィランの声がした。それに、燈矢は、思った。

 

違うだろ?

 

燈矢の中で、何かが切り替わる。危機感だとか、そんなことが、すっと頭から消えていく。

 

その感覚は、ただの暴走か?いいや、正義感?それとも、ヒーローたる己のための矜恃か?

 

いいや、違う。そのどれもで、どれでもない。

ただ、燈矢は、思った。

罪深い弱さを前に、沸き立ったのは嫌悪だ。けれど、それは、その幼い子どもに対してか?

いいや、違う、違う。

 

違うんだ!!

 

燈矢は足に力を入れる。歯を食いしばる。

燈矢は、怒っていた。

ずっと、怒っていた。

 

今、ここで、無力に何も出来ない己自身に、彼は、ずっと。

その弱さに、仕方が無いと、何もしてやれない自分に。

 

彼は、ずっと、怒っていた。

 

「こいつ、はあ、呆けてやがるのか!?」

 

男が自分に手を伸ばす。

 

ねえ、お父さん、体格差のあるやつと戦うのはどうするの?

そうだな、基本的に足を崩すか、あとは、顔を狙うのも手だな。目や耳を潰されてまともに動ける奴はいない。

 

「てめえこそ・・・・・」

「あ?」

「なま言ってんじゃねえよ!!」

 

ヴィランの男にとって不幸だったのは、燈矢という少年が確実に、戦闘訓練という物を学び、そうして、個性というものの使い方を叩き込まれていたことだろう。

燈矢は自分に向かってくる男の腕を足場に、そこそこの体格差のある男に飛びかかる。そうして、燃えさかる、己の手を、男の顔の左側に押しつけた。

 

「ああああああああああああ!?」

 

男の絶叫が響き渡る。

髪に燃え移ったのか、男はその場でごろごろと転がる。それに、周りにあった紙幣に引火する。

燈矢は、男が取り落としたケータイを掴み、転夜たちの元に向かった。

 

「ごめん!やっちまった!」

「ああ、もう!逃げるしかない!」

 

転夜は我楽を立たせようと手を掴むが、その子どもは燃える父に駆け寄ろうとする。

 

「おとう・・・・!」

 

それを燈矢が引き留める。

 

「おい!逃げるぞ!」

「だって、あ、だって!!」

「お前はどうして泣いたんだよ!」

 

燈矢は胸ぐらを掴むようにして、我楽に叫ぶ。

 

「おい、燈矢!脅すなって!」

「痛かったんだろう!?悲しかったんだろう!?父親に、そんなことされて!お前がそうやって、転夜に張り付いてたのは、なあ!」

助けて欲しかったからだろう!?

 

感情のままに叫んだそれに、我楽の視線が燈矢に向けられる。

瞳を見る。

黒い、涙に濡れた瞳を見る。

 

「お前は、弱くて、何も出来なくて!てめえを引き取っただけのクソ野郎に良いようにされてる!泣いて、痛いって叫んで!それは誰かに自分を見て欲しかったからだろう!?助けて欲しいから、叫ぶんだろう!?」

 

黒い瞳が、見開かれて、口がはくはくと動いている。

 

「言えよ!助けてって!弱いくせに!素直に、助けてっていいやがれよ!」

弱いお前を、強い俺なら。

 

「助けてやれるから!!」

 

それに、それに、子どもは茫然と呟いた。

 

「・・・・ほんとうに?」

悪い子でも?それでも。

 

助けてくれるの?

 

「当たり前だ!!」

 

叫ぶと同時に、白い部屋に扉が開く。燈矢は我楽の手を引いて、走り出す。それに、転夜が、後を追う。

 

そうだ、燈矢はずっと怒っていた。

 

ヒーローになりたい。それは、どこまでも、輝かしい、彼の夢だ。

オールマイトを超えるほどの、輝かしい、存在。

 

けれど、彼は知らなかった。

ヒーローを必要としている存在を、その日、初めて、彼は、それがどんなものか。

その手触りを自覚した。

 

(そうだ、少なくとも。オールマイトを超えるようなヒーローがいるんなら!)

そんな子どもがいることこそが、間違っている!

 

燈矢は、自分の後を追う、転夜がどんな顔をしているか、まったく見ていなかった。

 





転夜の顔は基本的に母親似だけど、真顔になると結構父親に似てる。

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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