たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
お題箱に話が冗長すぎて離れていく読者が多いのでは、というご意見をいただきまして。正直、それはあるだろうなあと思っていた手前、どうしようかと悩んでいたんですが。
一回消して、本筋だけの話とかにするかとか。
といっても、結局書きたいものだけしか書けないので今のままでやっていきます。
たぶん、このシリーズが今までかいたもののなかで最長になりそうなのでのんびりお付き合いくだされば嬉しいです。
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
ねえ、すごいねえ。
家畜の子どもが笑っている。己の裾を引いて、これ以上ないほどの歓声を上げる幼い子ども。
それに108は淡く笑う。
「・・・・・楽しい?」
その言葉に転夜はちらりと声のする方を見た。そこには、目映いまでに美しい青年がいた。
それに108はなんと答えて良いのかわからずに、一度だけこくりと頷いた。
「そっか。もうすぐ家に着くから。これからテンヤはそこで生活するから。」
テンヤ、という聞き慣れない名前を呼ばれてもそれが自分のものであるとはとんと思えなかった。
けれど、それを拒絶して面倒になることのほうが避けたかった。だから、108は作り笑いを浮かべてはいと頷いた。
それにもの悲しい顔をする大人たちを見ないように少女はまた車の外に目を向けた。
最初に眼を覚ましたとき、見慣れない女に108はまたかと忌々しい気分になった。
何せ、また面倒な訓練が始まったのかと思ったためだ。
遠いいつかの誰かの記憶と、幼子の防衛反応で構築された108にとって理解すべき事は施設にいる大人たちに逆らわないことだ。
幼い子どもとはいえ、強個性持ちならば反抗することはできただろう。けれど、それができないのには理由が存在するのだ。
幼い子どもであるために心を折られている者が大半の中で、時折反骨精神の塊も存在した。けれど、大抵はそれ以上に強い個性で圧倒されるか、薬で押さえつけられているか、それとも脳波の動きで電撃などを与える首輪を付けられていたりと様々だ。
108は少なくとも大人しくしていたため、そういった拘束は受けていなかった。
けれど、命令を聞かなければどんな扱いを受けるかわからない。
だからこそ、いつも通り、ありきたりな日常でもなぞるようにその女を殺そうとした。
(催眠系のガスか。風には弱いけど、便利そうな個性だなあ。)
そんな感想さえ持って、どうやって殺せば良いのかと考えていた。
普段ならば子どもとしかしないそれを珍しく思えど、大人たちが願う個性の覚醒または拡張のために必要なことなのだろうと考える。
だからこそ、突然知らされた訓練の中止に驚きながら外に出た。
管理番号まで呼ばれているのならばそうなのだろうと考えて。
それ故に、見慣れない、いつもの白衣を着た存在とは違う大男の存在に驚いた。
(未来、未来ねえ。)
男は、ここが108にとっての未来で、個性によって一時的に子どもに戻っていると告げられた。それに、108は少しだけ嬉しくなる。
少なくとも、108を心配そうに見つめている大人たちはまともそうに見えたのだ。
ねえ、この人たちは嫌な目をしないよ。実験動物を見る、あの、嫌な目を。
家畜の少女に問いかける。けれど、臆病なあの子は奥に隠れて出てこようとしなかった。
しかたがないと108は様子を見るだけで済ませることにした。
テンヤという名前も、当たり前の保護者という存在も全てが現実味を帯びていなかった。
けれど、大人たちに見送られて、建物の外に出たとき、何か全てが現実味を帯びてきたような気がした。
空が、青かった。
なんてことはないことかもしれない。
けれど、子どもにとって、空が青いという事実はそれこそ、誰かの記憶の中のものでしかなかった。
それに奥底に隠れている家畜の少女が少しだけ顔を出すのがわかった。
楽しい、そう聞けば心の奥で子どもが弾むように笑っているのがわかる。それだけで、108は嬉しい。少なくとも、108はそのために産まれたのだから。
(でも、どうしようか。)
108にとって今のところ、周りにいる人間からは施設にいたものたちから感じた嫌なものは特別感じない。
今のところそれらの側にいることは正解だろう。
けれど、信頼ができるわけではない。
108はいつかの誰かの記憶全てを掌握しているわけではない。その記憶を受け取れば、幼い子どもの人格はすでに塗りつぶされていただろう。
それを防ぐために108は産まれた。記憶の受け皿、それを家畜の子どもにアウトプットするための存在。
けれど、108自身も全ての記憶を受け止められるわけではない。
施設の中では外の世界の記憶なんて無駄だ。故に、108は圧縮されたデータを少しずつ解凍するように記憶を学習していった。今のところ、108は対人関係においての必要な記憶しか学習しきっていない。
(・・・・あの赤毛の男は私の過去について知っていると言っていたし。常識の欠如はそこまで不興はかわないはずだ。ともかく現状の打開が先。)
けれど、108は困り果てていた。だって、この個性の解除に必要なのは自身の望みを叶えることなのだ。けれど、残念ながら108にはそれが何かわからない。おそらく、その願いを知っているのは。
なあ、今、したいことはあるか?
問いかけても、それは黙り込んだままだった。
エンデヴァーはちらりと窓から外を眺めている子どもを見た。子どもは会ったときのようにひどく大人びて見えた。それこそ会ったときと同じように、静かな瞳をしていた。
108はやってきたエンデヴァーに訓練の中止を告げられてからは大人しいものだった。
黙り込み、そうして、従順で、なおかつ問われたことに素直に答えた。
個性を使った少女曰くの話、ではあるのだが。
個性を使われた人間は、成就したい願いについて自覚的らしい。
例えば、幼い頃にどうしても欲しかったものがあればそれを欲しがるだとか。
ただ、厄介なのはその成就したいと思う願いが叶わないときはどうなるかわからないと言うことだろう。
これですでに亡くなっている人間に会いたいというものがあればどうしようもないだろう。
なので、個性は絶対に使わないようにはしていたんです!
個性を使った女子生徒のその言葉に、エンデヴァーと、そうして教師達は大人しくなった少女に問いかけた。
「何か、したいことはあるか?」
「・・・・とくに覚えはありません。」
その言葉にその場にいた大人たちは自分たちの問いかけがどれほど無意味であるのかと覚った。
けれど、時間はすでに遅い。さすがにこのまま学校に居続けるわけにはいかないとなったわけだが。
こんな状態の子どもを連れて事務所に戻るわけにもいかない。ならば、自宅に帰るという手段しかないのだ。
燈矢のそれは、今の全てに噛みつきそうな転夜を連れて帰ることに忌避感があることは察せられた。
けれど、それはそれとして現在の転夜はまっぱである。それこそ、一番小さい体操服といえどもだぼだぼのそれを放置するわけにはいかない。
家に帰れば、昔、娘の冬美やらが着ていた服が残っているはずだということもある。
なによりも、だ。
エンデヴァーは燈矢を初めて見せたときの108番の様子を覚えている。
「・・・・えっと、こんにちは?転夜、だよね?」
108番はそれに答えはしなかったが、じいいっと、それは熱心に燈矢を見つめていた。
それを見ていた人間は皆思った。
三つ子の魂百までというのは事実であるなあと。
(銀髪の人物に対しての執着も健在か。)
それにほっとしつつも、今後、その子どもをどうすべきか。エンデヴァーとしては悩ましいという一言に尽きる。
ただ、大人しく車に乗り、外を眺める少女は冷めきっていて、無感動に等しかった。
エンデヴァーはそれと同時に、燈矢や子どもたちのことが気になった。
夢意転夜は、轟家のかすがいだった。
特に燈矢が転夜という存在に心を傾けているのは知っている。幸い、と言っていいのか、今のところ燈矢は落ち着き払っている。
それは精神的に成熟しているからか、それとも違う理由なのかはわからないけれど。
「着いたぞ。」
エンデヴァーのそれにタクシーから108は降りた。
小さな体で、おまけに緊急で履かされているサイズ違いのサンダルのせいでひどく動きにくそうであったが接触をひどく厭う108に従い好きにさせることにした。
転びはしないかとハラハラしている燈矢を横目にエンデヴァーは会計を済ませる。
子どもは、そろりそろりと玄関までの道を歩いて行く。そうして、玄関からの道すがらにあるものを不思議そうに見ているのだ。とても、不思議そうにじいっと。
「気になる?」
「・・・・見たことないから。」
「そっか。好き?」
それに108は少しだけ考えた後に、こくりと頷いた。
「ん、きれい。」
そう言って笑うその横顔はいつも通りの、無邪気でほがらかな子どもそのものだった。
「お帰りなさい。」
穏やかに微笑んで出迎えた妻の冷を見つめながら連れて帰った108の様子をうかがう。
「転夜、ほら、俺のお母さんだよ。」
穏やかにそう言った燈矢の言葉が聞こえているのか、聞こえていないのか、108は黙り込んで冷を凝視して、そうして走った。
「お姉ちゃん!」
弾んだ声で、そう言って、冷に抱きついた。
『それで、あの子は?』
「今のところは落ち着いてはいるんだろうがな。」
その夜、エンデヴァーは転夜という少女の保護者であるオールマイトと、そうしてサー・ナイトアイに電話をかけていた。
連絡を取ろうとすると何か通じないことの多いオールマイトを後回しに、先にサー・ナイトアイに少女の様子を伝える。
オールマイトの体調などの件で揉めてからSKを辞めた男ではあるが、転夜が懐いている男であり、頻繁にやりとりを行っている。
『それで、様子がおかしいというのは?』
「年齢的には相当幼い。だが、驚くほどに精神的に成熟している。それについてはまあ、あり得るだろう。過酷な環境にいた子どもだ。だが、冷にあった途端に様子が変わった。」
108は冷という女を姉と呼び、そうして、言動が明らかに幼くなったのだ。
それは、おそらく、年相応といっていいほどに。
冷自身が少女にとって相当に好ましい見た目であることは確かだろう。けれど、あまりにも今までの態度を考えて歩みよるまでの時間が短すぎる。
そんな疑問がわき上がると同時に、108はにこにこと稚い笑みを浮かべながら冷にいった。
「おねえちゃんだ!」
「えっと、おねえちゃん?」
困惑気味の冷がそう返すと、それはひどく失望したかのような、もの悲しげな顔をした。その後にはすうっと顔から今までの幼さが抜けてそのまま素早く冷から離れた。
「・・・・すみません、人違いをしました。」
「誰と?」
それに108はいつも通り完璧な作り笑いを浮かべた。
「前にお世話になった人に。」
その時の様子を思い出して、男は一つの最悪な可能性について考えていた。
『そう装うにしては、あまりにも態度が明確に別れている、と?』
「そうだ、大人びた態度を装うことはできるだろう。だが。そうであるとしてあの時にそこまで器用なことができるとは思えん。」
轟邸の、廊下の暗がり、そこで轟炎司という男は心底苦々しい顔をして吐き捨てた。
「・・・・・あの子どもは、俗に言えば二重人格だった可能性がある。」
電話の奥で、サー・ナイトアイが黙り込んだ。
可能性としてはずっと以前から存在していたのだ。
子どもは、あまりにも変わりすぎた。あの、静かな、大人びたそれらが唐突に無邪気さに塗りつぶされたその瞬間は確かに存在していた。
心を開いたから?
葛藤が解消されたから?
あの子に、ヒーローが訪れたから?
きっと、それらもまた正解だろう。けれど、それと同時に、本来の人格が出てきただけだというのならば。
「あんなにも、幼い頃から、ずっと。違う誰かを己の中に作り、地獄から自分を守り続けてきたというのならば。」
エンデヴァーはそこから何も言えずにいた。
『・・・・個性解除の件ですが。』
「ああ。」
『当人の願望、というのならば。現在表に出ている人格ではなく、いま、内にいるはずの本来の人格からしか聞き出せないのでは?』
「説得すればなんとかなると思うか?」
『難しいでしょう。今、外に出ているのが防衛本能からなる性格だというのなら本来の彼女を守ることに尽力するでしょうし。』
「なら、今は信頼を勝ち取るしか手段はないか。」
電話を終えた後、炎司はため息を吐きながら皆がいるだろう居間に向かう。
障子を開けて、中を見るとそこには当たり前のように轟家に馴染んでいる子どもがいた。
「だーかーら!八止めてんの誰だよ!?」
「まじで五が出ない・・・・」
「やった、上がり!」
「冬ちゃん一抜けか。」
「・・・・もうパスが使えない。」
炎司はそれを横目にしながら、少し離れた場所で洗濯物を畳んでいた妻の元に向かった。
「あれは?
「焦凍が、トランプをしようって言って。」
子どもはどこか身の置き場に困るような仕草をしていた。
少なくとも燈矢と冷以外は108の現状については伝えられていなかった。下手に動揺をすれば子どもは余計に危機感を感じるだろうと理解してのことだった。
明らかに幼い子どもに、冬美はもちろん夏雄や焦凍も構いたくてうずうずしているようだった。が、転夜自身、虐待をされて育ったことを知っている三人は怯えさせることを理解して遠巻きに優しく声をかけていた。
ただ、やはり、というか。
(なんだろうな、こう、妙に構いたくなる。)
何せ、108というそれはそれ相応に愛らしい見た目をしているのだ。
出会った頃にはすでに十三で、その時はまだ小柄な方であったが栄養価の高い食事を取らせればにょきにょきと伸びてしまった。
もちろん、大柄な炎司からすれば小柄ではあるが、それはそれとして大きくなることに妙な寂しさがあるのは事実だ。
特に、幼児といっていい時期である108は痩せ細っているものの、ほっぺたなどはふくふくしている。
(・・・・食事にだけはやたらと食いついていたが。)
こわばり、そうして、愛想笑いが染みついた子どもは出された温かい食事にだけは食いついていた。
もちゃもちゃとほお袋にたんまりと詰め込んだ目をキラキラさせて咀嚼する幼子はやはり可愛いのだ。
炎司はふくふくのほっぺたを思い出してうむと頷きたくなった。
思わず、家族総出でおかずを分け与えてしまうぐらいには。
「転夜ちゃんはこれから?」
冷に話しかけられて炎司は思い出していたことから我に返り、口を開く。
「・・・・気になることがある。個性事故を理由にしていつもの精神科に連れて行こうと思う。丁度、カウンセリングの日だしな。」
「そうですか。このまま家に?」
「いいや、事務所の方に連れて行こうと思う。あいつの精神が落ち着くまではな。個性が暴発しても対処できる存在と一緒にいた方がいいだろう。」
「・・・そうですね。わかりました。」
「しばらくの間は、あれの世話は俺がする。元々自立はしているし、何かあれば俺がした方が対処もしやすいだろうな。」
ひとまず、少女の世話についてはそういったことで落ち着いた。
108は普段の燈矢の部屋ではなく、客室に通された。居間の少女には、他人と過ごす時間は苦痛のようで、本人の希望でそうなった。
ちなみに、少女に拒否された息子のへこみっぷりに炎司は若干引いた。
108は普段の生活に特別な支障はないようだった。
冬美が付き添った入浴も不便はなく、一人で眠ることにためらいはないようだった。というよりも、一人で過ごすことにほっとしたような態度だった。
が、もしものことを考えて渡されたエンデヴァーぬいぐるみに困惑しながらも抱えていたことをみて不安は感じているのだろうが。
真夜中のことだ。
そのまま客室に残された少女の様子をうかがいに、炎司はゆっくりと廊下を歩いた。大柄な彼は予想に反して音もなくそのまま歩いていた。
(・・・・逃げ出すことは、ないだろうが。)
現在の少女は、子どもの状態で庇護者がいなければ生きていけないことぐらいは理解しているだろうが。
それはそれとして、カブトムシ穫りに行くと夜中に脱走したりするタイプの子どもだ。
もしかして、と可能性を考えて部屋に向かった。
そうして、部屋の前で立ち止まり、中をうかがうと声がした。
「・・・・どうしよ、こんな、もう」
「転夜?」
思わず声をかけた炎司のそれに、明らかに慌てた様子を感じ取り、障子をためらいなく開けた。
「おい、どうし・・・・?」
障子を開けてすぐに、炎司は何か、アンモニア臭、といえるものを嗅ぎ取った。
そうして、障子の奥では何か、必死に布団を押さえて青い顔をした108がいた。
炎司は覚った。
ああ、おねしょしたのか、こいつは、と。
ギャグな正月ネタ。
ねえ、どうしたの?
今日ね、お父さんがお年玉くれるんだって!
おとしだま?
転夜姉知らないの?お正月に、大人がお小遣いくれるんだ!
・・・・あれだっけ、なんか、お正月にお餅を配ってたときの名残、みたいな。
なんでそれは知ってるの。
前はお母さんがくれてたんだけど、今年はお父さんがくれるんだって。
ふうん?お小遣いかあ。
それでは、お年玉を配布する。
軍隊の配給?でも、ありがたく、もらって・・・・なあ、燈矢さん?
・・・・うん。
お年玉って、自立するぐらい札束をくれるものだっけ?
バブル時代のボーナスじゃないんだから。
全部、五百円札とか、は?
もう発行してねえだろ、その札。
あと、オールマイトの奴からもお年玉を預かっている。
なんか、嫌な予感・・・・ほら!立ってるよ!こっちのお年玉も立ってるよ!自立しちゃダメでしょ、これ!?
なんだ?少ないのか?
んなわけないでしょ!?ほら、見てよ!夏君とか冬ちゃん、額のデカさに怯えてんじゃん!
しかたがない、サー・ナイトアイに電話して叱って貰おう。
それで、うちのお年玉は普通になった。
これ、ツッコんでいいやつか?
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも