たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
一話にまとめすぎた。めっちゃ長いです。
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
(死穢八斎會、か。)
インターンの初日、緑谷出久は先輩である通形ミリオと共にパトロールに出向いていた。
そんな中、出久はインターン先のサー・ナイトアイに見せられた、死穢八斎會という指定敵団体の若頭、九十九という男について考えていた。
この男は、あまり情報が出回っていなくてね。まともな写りの写真も少ないんだ。
(なんでだろうか。)
どこか、出久はその九十九という男に見覚えがあった。
真っ白な髪に、黒い肌、澄んだ緑の瞳。
隣のクラスの黒色のような肌の中、ぴかぴかと光る翠の瞳が星のように輝いているのが印象的だった。
その光を吸い込むような黒い肌のせいか、顔立ちはよくわからない。けれど、何故かそう感じる。
(いいや、今は、そんなこと考えているときじゃない。)
出久がそう思いつつ、軽く首を振った、その時だ。
とすんと、誰かが自分の足にぶつかる。下を見れば、そこには幼い少女が座り込んでいた。
「ごめんね、痛かったよね。」
そう言っていた出久に、誰かが声をかける。
「・・・・おや、これは。」
路地裏から、現れた、その男。
「珍しい方達がおられますね。」
ヴィラン名、アビスはどこか楽しそうに出久に微笑みかけた。
「すみません。久しぶりの散歩で、走り出してしまって。」
九十九はそう言って出久に歩み寄る。出久が固まっていると、通方が前に出た。
「こちらこそすみません。ええっと、八斎會の方ですよね?」
「ええ、新人のヒーローの方に顔が知れているなんてお恥ずかしい。」
「・・・・いえ、この辺りで知らない人間もいませんよ!」
通方はひとまず出久を連れてその場を離れようと手を差し出す。けれど、それに被せるように九十九が口を開く。
「そうですか。にしても、サー・ナイトアイの管轄地域に、この辺りって入ってましたっけ?」
(知られてる・・・・!?)
出久は通方に被せられたマスクの下で動揺を殺しきれずに顔を強ばらせた。通方もまた、己の中に現れた動揺を必死に押し殺す。
「いえ、学生ですよ!職場体験で色々と回っているんですが。どうしてそう思われたので?」
その言葉に九十九は当たり前のように自分のスーツのポケットを指先で叩いた。
「ああ、SNSですよ!」
「・・・・へえ、俺、そんなに有名なんですね。」
「いえ、実はサー・ナイトアイの情報を漁ってたら見つけたんですよ。あなたのヒーロースーツ、数字ってわかりやすいですよね。」
「ヒーローの情報を。」
「その、実は。私、ヒーローアシストの大ファンで!」
九十九はきゃは、と女子高生のごとく恥じらった。それに、出久と通方はかきんと固まった。
「アシスト、露出が多くてありがたいんですけど。それはそれとして、彼女と親しいヒーローの情報を漁ってると、レアショットとかも出てくるんですよね~。あ、これとか見てください!アシストの、限定モデルのスマホケース!」
そういってポケットから出したスマホは、言葉の通り、アシストの限定モデルのスマホケースである。
出久は考える。
あり得るのか、ヤクザがヒーローを推すとかあるのだろうか?
二人が固まっている中、九十九ははしゃいだことが恥ずかしかったのか、こほんと咳払いをして出久の所にいる少女に声をかけた。
「・・・さて、そろそろ。壊理、行こうか。帰らないと。」
その言葉と同時に、出久の袖がぎちりと握り込まれる。それに出久は子どもを見下ろした。子どもは、虚ろな、無表情であるけれどあらん限りの力で出久のヒーロースーツを掴んでいる。
「・・・・娘さん、怯えてますけど。」
「叱りつけた後なので。」
通方の静止も、出久はどうしても従う気にはなれなかった。
「いやぁ、でも、遊び盛りって感じの包帯じゃないですよね・・・・」
「そうですね、やんちゃな子で。」
苦笑交じりの九十九のそれに、出久は反論を繰り返す。通方はどうやって止めるかと考えている。そんな中、それでも、出久は引かない。
ヒーローが怯えた子どもをやり過ごすわけがないのだから。
「この子に何を・・・」
「壊理。」
出久の台詞を遮るように九十九が微笑んで少女に声をかける。
優しくて、穏やかで、理想的な父親そのもののような声で。
「もういい。」
断言するように、男がそう言えば壊理は出久のヒーロースーツから手を離した。
「そろそろ、おやすみしましょう。」
「おやすみ?」
通方が疑問の言葉を上げると同時に、壊理は出久の腕の中からするりと逃げ出し、そうして、男の足下に向かう。
「え?」
「・・・・そろそろお昼寝の時間なので眠いんでしょう。」
九十九はそう言って、そのまま壊理を抱え上げた。
「それでは、新人さん。お仕事、頑張ってください。」
深々と頭を下げて、男はそのまま路地裏の暗闇に消えて仕舞った。
鼻歌が聞こえる。
陽気そうで、楽しそうに。それを聞いた治崎はこれでもかというほど眉間に皺を寄せていた。
「・・・兄貴、その鼻歌なんとかなりませんかね?」
「えー、いいじゃないですか。壊理がこの頃好きなんですよね、ニチアサの。お前だって小さい頃みてたじゃないか。」
「俺は好きじゃなかった。でも、あんたと、百々は好きだったな。」
「ええ。勧善懲悪ってやっぱり収まりがいいですよね。」
暗い、地下の廊下を男が二人進んでいく。九十九は上機嫌に弟分の治崎に問いかける。
「それで、組の人間は?」
「順調にそれぞれに配置している。話に乗ってきた他の奴らも呼べばこの屋敷に集まるだろう。あと、薬を持って逃げ出した奴については死んだことが確認された。」
「撒き餌に引っかかったのは?」
「大量に。それよりもいいのか?」
「・・・これから騒がしくなる。それに巻き込まれてなくなるよりも、先にある程度の先手を取っておいた方がいいだろうし。そういうお前は納得してるのかい?」
「・・・俺は、あんたに従う。」
「・・・治崎。」
「なんだ?」
「どうしたの、素直すぎて怖いんですけど。なにか個性にでもかかりました?」
それに治崎の眉間に青筋が浮ぶ。
「あんたが!勝手な!ことばっかりして!親父や百々に!苦労を!かけるから!俺が!駆けずり回って!るんだろうが!!!!」
「あっはっはっは!いやあ、親父のこと馬鹿にされたって同級生と大喧嘩して、親父に頭を下げさせた頃に比べればだいぶきかん坊も収まったねえ。」
その時、九十九のスマホがけたたましく鳴り出した。それに九十九は淡く微笑み、そうして治崎にスマホを見せる。
治崎はそのアシスト限定モデルのケースを止めて欲しいと切に思った。
「話をしていたら、連合から、ですよ。忙しくなるなあ。」
「・・・・はあ、あんたのせいだろうが。」
「あっはっはっは!それは、違いない!」
弾んだ声で、九十九はその電話に出た。
「サー・ナイトアイのおっちゃん!!」
「・・・・転夜君!よく来たね!」
その日、夢意転夜こと、ヒーローアシストはチームアップのためにサー・ナイトアイのヒーロー事務所を訪れていた。
幾人かがすでに集まっている人混みの中、転夜は軽く周りに挨拶をし、そうして、その中に見つけた眼鏡をした、スーツ姿の男に飛びつく。それをサー・ナイトアイはうれしそうに受け止めた。
170センチ強の大柄な転夜の脇に手を入れて、幼い子どもにするように高い高いをする男にブルーフレイムこと、轟燈矢は一種の感嘆混じりに見つめる。
「電話してたけど、実際会うのは久しぶりだね。元気だった?」
「ああ、元気だよ。」
「出久君のインターンもありがとね。」
「それについては礼はいらないよ。私が、思うところもあって受入れたしね。」
サー・ナイトアイは転夜のことを子どもにするように腕に座らせて視線を合わせるように会話をする。
その様は、なにやら単身赴任から帰った父親と娘の久方ぶりのスキンシップのようだった。
(スーツ姿だから余計にそう見えるんだよな。)
「ああ、燈矢君もよく来てくれたね。」
「いえ、チームアップの要請ですから。内容は?」
「それは全員が集まってからだね。」
サー・ナイトアイの腕から降ろされた転夜は、身の置き場を探すように燈矢に横から抱きついた。それを受入れるように燈矢も転夜の腹に腕を巻き付けた。
「まだいるの?大所帯だね。」
「・・・・そんなに規模があるようなことねえ。」
「ああ。少々厄介でね。」
転夜は、じっとサー・ナイトアイに目を向ける。
「・・・・なあ、おっちゃん。」
「うん、どうしたんだい、転夜君?」
「オールマイトのおっちゃんとは会った?」
その言葉にサー・ナイトアイは少しだけ物悲しそうな顔をして、首を振った。
「残念ながら。」
「なあーんだ。おっちゃんの弟子の出久君を受け入れたから連絡取ってると思ってたのに。」
少しだけ残念そうにそういった転夜に、燈矢がいさめるようにその横っ腹を突いた。
それに転夜は不満そうに口元を突き出す。サー・ナイトアイはその転夜の表情に、顔をほころばせた。
「・・・・なかなかね。」
「そっかあ。」
サー・ナイトアイは普段のいかめしい顔など忘れ去ったかのように優しい顔で転夜の頭を撫でる。
「あ、おじいちゃんだ!」
そこでグラントリノが部屋に入ってくるのを転夜が見つけて、一言断るとそのまま歩いて行ってしまう。
「・・・・なんで、俺たちのこと呼んだの?」
「気になるかい?」
サー・ナイトアイは二人きりになってしまった轟燈矢を見た。部屋の隅にいるせいで、周りに人は誰もいない。
遠目で、グラントリノと何かを話している転夜が見える。
サー・ナイトアイは、何故、今回転夜たちを呼んだのか、すでに燈矢にはわかってしまっていることを理解した。
「・・・・大方、今回の件に連合が絡んでて。転夜の動きを監視するためだろ?」
「よくわかったね。」
「俺は個性的に強力だが、制限が付きやすい。転夜だけを呼ぶなら理解できるが。俺とセットってことは。そういうことだろ。」
サー・ナイトアイは全て察せられていることを理解して、息を吐いた。
「・・・・転夜のこと、憎い?」
「何故?」
「・・・・あいつが、オールマイトの宿敵の娘だから。」
それにサー・ナイトアイはちらりと転夜の方を見た。
グラントリノから、その事実を伝えられたとき、サー・ナイトアイは昔のことを思い出した。
子どもと、初めて会ったときに感じた不信感。
それは案外、間違えていなかったらしい。
どこから来たかもわからない少女、オールマイトが惹かれる子ども。
なるほど、全てには、理由があったのだ。
AFOの娘であり、そうして、オールマイトの師の孫娘。ある意味で、サー・ナイトアイは全ての理由がすとんと収まる気がした。
因縁の血筋の、末の子ども、なのだろうが。
「・・・・可愛いよ。」
「それは愛着か?」
「どうだろうね。そうであるとも言える。けれど、それ以上に、あの子はずっとヒーローだった。」
夜明けを意味する、輝かしい子どもはずっと、少なくともサー・ナイトアイに生き様を見せつけ続けた。
サー・ナイトアイはこれ以上ないほどに。
まるで、生まれたての生き物を見つめるような、そんな包むような、目で。
ああ、と。
燈矢は目を細める。
愛しいと、そう、笑っているような目だと。
「あの子は、ヒーローだよ。」
「それならいいけどさ。それぐらいの懐の深さで緑谷のことも認めてやれば良いじゃん。」
「意外だね。君はああいう子は好みじゃないと思っていたけれど。」
「ひでえな。まあ、転夜関連で言えば腹立つことも多いけどさ。ただ、オールマイトのおじさんの後継ならいいんじゃない?個性とかさ。よく、似てる。」
「似ている、か。それは、果たして良いことなのだろうか。」
「・・・・自分がいないことで誰かが泣くことが赦せないなら、自分が傷つくことで傷つく誰かを無視するのは卑怯、だったっけ?」
サー・ナイトアイは、いつかのことを思い出す。
あの時、エンデヴァーの介入のおかげで、オールマイトは確かに休むことができた。それだけで、サー・ナイトアイはエンデヴァーに大恩があるといっていい。
それでも、結局は決別してしまった。
エンデヴァーがいる。誰かに体を預けられるその事実のせいか、オールマイトはまた過度な無茶をし始めたのだ。
それに、転夜のことを思い出した。
そうして、自分が見た、未来のことも。
「まあ、ヒーローなんて身内泣かせが当然だ。お父さんみたいに、傷一つ無くヒーローとして数十年続けてる方が異常なんだし。」
「・・・・まあ、それはねえ。」
「それに才能あると思うけどなあ。ヒーローの。」
「彼が?」
「そうそう。ヒーローなんてさ。」
考えるよりも先に足を進めるような考え無しの方が適性あるから。
あっけらかんとした燈矢のそれに、サー・ナイトアイは少しだけ苦い顔をした。
「なんかあったの?」
「・・・少しね。」
「まあ、いいや。ともかく、今回のチームアップは早めに終わらせたいんだよな。転夜と時期を合わせて休みたいって言うのに。」
「・・・・ところで、燈矢君。」
サー・ナイトアイは眼鏡をくいっとしながら、きらーんと光らせる。それに燈矢は圧倒的に嫌な予感を覚える。
(・・・・転夜君にとうとうプロポーズするというのは本当かい!?)
(どーこで知ったんだよ、あんたは!!)
(いつものルートだよ!とうとう覚悟を決めたんだね!いや、私としては初手からプロポーズどうかと思うんだが。君達の場合、すでに交際しているといっても過言では無いからね。ようやく、覚悟を・・・)
(こんの、おっさんどもが!人の恋路にぎゃーすかと!!)
「・・・・何してるんだろ、おっちゃんと燈矢。」
「さあの。」
「・・・・ところでよ、アシスト。お前、今日は大分態度が悪いな?」
死穢八斎會の状況、そうして、個性を壊すクスリについてなど、話を終えた中、皆がエリという少女について協議をしている中、何故か転夜はどんどんとやる気を失せさせ、とうとう机に突っ伏し始めていた。
隣に座っていた燈矢も、体調でも悪いのかとひそひそと話し始めていた中、ロックロックにそう指摘された。
言外にやる気があるのかという意味ではあるのだろうが、純粋に心配もしていた。
アシストというそれが子ども好きで、こういった件には特にやる気を出すというのは有名だったためだ。
「そうだな、アシスト、どうしたんだ?」
グラントリノのそれに、転夜は思いっきりしかめっ面をした。
「・・・・なんか、この件、放っておいた方がいい気がして。」
「何を根拠にそんなことをいうとるんや!?」
ファットガムの怒声染みたそれに、転夜は、体調が悪そうなしょもしょもした顔をする。
「勘。」
簡潔なそれに、その場にいた学生達は呆れた。
(・・・・アシストって、プロヒーローなんよね?)
(いいヒーローだって聞いてたけど。)
そんなこそっとした会話の中、その場にいたヒーローたちは渋い顔をする。
どうしたんだという出久のそれに、ロックロックが嫌そうな顔をしながら言った。
「アシストが嫌な予感するって言う時は、まじで嫌なことが起こるんだよ。チームアップが多い奴だと特にだろ。」
「俺ん時なんか、伏兵がおって現場が大混乱やったときがあったなあ。」
「たかが勘といっても、信用ができるってことですか?」
出久はまじまじと転夜を見た。
何か、AFOと関係があるのだろうか?
そこまで考えて頭を振る。
(全部、それに関係してるって考えるのは得策じゃない。)
「だが、エリという子が苦しんでいる可能性もある。」
サー・ナイトアイは、転夜の前に苦しんでいるだろう子どもをぶら下げた。けれど、普段ならば他の反応をする転夜はまるで気のない猫のように目を細める。
「・・・お前、さっきから違和感があるって言ってるけどどこら辺なんだよ?そこら辺もあるンだろ?」
燈矢のそれに、転夜は息を吐いた。
「・・・まず、初っぱなに、死穢八斎會がそういうしのぎをしてることに違和感がある。」
「まるで死穢八斎會のことを知ってるみたいな言い方だな。」
「うーん、昔ね、今回話に出てきてない組長さんには会ったことがあるよ。」
転夜のそれに、会議室にいた何割かが目を見開き、驚いた顔をする。
「どうしてそんなことに!?」
「・・・・お前さん、手助けでいろんなとこに顔を出してるだろうが。ヤクザがらみにそこまで関わってたのか?」
出久の怒鳴り声に被せるように、相澤が口を開く。それについて、燈矢は特別動揺しなかったが、苦々しい顔をした。
「・・・・確かにそうだね、アシスト。君がそういったことに関わっていると。いいや、死穢八斎會の組長は表に出なくなってから長いようだ。いつ、会ったんだい?」
それに転夜はめんどくさそうに燈矢を見た。それに、燈矢は息を吐いた。その仕草に、出久は思わず問いかける。
「ブルーフレイムは、何故か、知ってるんですか?」
「いいのか?自分で話すか?」
「どっちでもいいよ。」
転夜は何か、口が重いのか、視線を床に向けた。それに燈矢はああと息を吐き、引き継ぐように言った。
「・・・・死穢八斎會の組長のことは知らないが。どこで会ったのかはわかるさ。こいつが、オールマイトのおじさんに助け出された人身売買の組織で接触があったんだろ。」
その言葉に、会議にいた人間は全てを察して気まずそうな顔をした。
ヒーローアシストが、ヴィラン関係の事件の被害者であることは有名だ。けれど、それがどういった類いの事件なのかは表沙汰になっていない。
大抵の人間は、親をヴィランに殺されたかして身寄りを失ったのかと考えていたが。
改めて晒されたその事実に、転夜の態度について納得した。
「あの場所に、死穢八斎會の組長が出入りしてたのか?」
「怒鳴り込んできたんだよ。どうも、あの人のシマにちょっかいをかけてたらしくてさ。いい人だったよ。見かけた私にアメくれたりね。古い木みたいな。」
少し、オールマイトのおっちゃんに似てたよ。
サー・ナイトアイの問いに、転夜はどこか夢を見るような声で答えた。
「・・・・それで、違和感というのはそれが根拠なのか?」
グラントリノのそれに、転夜は視線を向ける。厳しい目に、彼女は少しだけ困ったかのような顔をしてにひひひといつも通り笑った。
「犯罪行為をする人って、大体、三種類ぐらいあってさ。甘い汁を吸いたいか、犯罪行為自体が好きか、それとも彷徨いまくったらそこぐらいしか居場所がないか、ぐらいにわけられるんだけどね。死穢八斎會はねえ、今じゃ珍しい任侠ヤクザの人たちなのよ。」
「ええっと、仁義を切る、みたいなのですか?」
「あはははは、渋いこと知ってるね。ヤクザって言っても結局人が作り上げる一種の組織構造だからね。そこに入るって事は。まあ、組長さんが掲げる信念に賛同したのが大半なのよ。そうでなきゃ、トップなんてすぐに引きずり下ろされるし。だから、多分だけど、本当にクスリを売りさばいてるなら。売ってる若頭のアビス派閥と、それを止められない組長派で組の中ぐちゃぐちゃなのかもねえ。」
ふうと息を吐き、ゆっくりと目を細めるその様に、出久は少しだけ背筋が寒くなる。
その瞳に、温度はなかった。
熱のない、光を反射しない、しんと静まりかえった金と銀の瞳はまるで人の心の内を撫で繰り回すかのような恐ろしさがあった。
「・・・・・クスリの出所でさ、元々死穢八斎會の組員だった人間から降りてきた、みたいな話があるんだよね?なんか、誘われてる感じがして。まるで、自分たちがこの事件の中心だって言ってるみたいな。」
それは燈矢も引っかかっていた。
元々、死穢八斎會は若頭のアビスの手腕で表の商売、といっても水商売の類いだが、が上手く行っているらしく他のシノギについては聞かれていなかったらしい。
そこに、突然、そんな話でクスリを捌いている男の話はできすぎている。
そうして、シノギも上手く行っており、大人しかった死穢八斎會が他の組織と突然接触をし始めるのも動きがあまりに急すぎる。
「捌いてたらしい男も抗争に巻き込まれて死んだんだよね。」
「・・・でも、わざわざ自分たちを事件の中心にしたがるか?」
「本星の身代わり。いいや、あそこの組織、古き良き任侠だから、他から浮いてたからなあ。人身売買の組織でも、あの組は全然話が通じないって有名だったし。」
「若頭が新勢力に着いてるなら、そこからじゃね?」
「アシストとブルーフレイムは、今回の死穢八斎會の摘発には反対か?」
その言葉に、ブルーフレイムとアシストは視線を交わした。そうして、同じように首を振る。
「・・・・いいや、動くべきだろうね。」
「だね。」
「何故だ?」
「今回の件、死穢八斎會以外に手がかりがないのも事実。」
「今更、本当の本星を探すのも手だけど、話のエリって子を長期間放っておくのも得策じゃない。もしも、本当にそのエリって子が計画の核なら早期確保はしたほうがずっといいし。」
違和感はすごいけどさあ。
転夜のそれに、相澤からサー・ナイトアイの個性についての質問も上がるが、それ自体は淡々と過ぎていく。
そうして、サー・ナイトアイが締めるように言った。
「娘の居場所の特定・保護。可能な限り確度を高め早期解決を目指しまします。ご協力、よろしくお願いします。」
(・・・・やだなあ。)
それを聞きながら、転夜はなにか、雨の降る日のような奇妙なけだるさを覚える。
何か、目をふさがれた中、他者に手を引かれているような、そんな不安感がずっと腹の中で擡げているようだった。
「あーいーざーわーちゃーん・・・・・」
出久たち雄英高校の生徒と、相澤がサー・ナイトアイのヒーロー事務所の一角で話していると、のそりとそんなことを言いながら転夜が相澤の腰に抱きついてきた。
「アシストか。」
普段ならばぺいっと引き剥がすのだが、明らかに体調が悪そうなそれを手荒に扱うのは気が引けたのかそのままにした。
「何の話?」
「今回のインターンについてだ。」
「そういや、中止とかにならないの?連合関係なら雄英高校は触らせたくないんじゃないの?」
「・・・・止めたら、そのまま飛び出していく奴がいるからな。」
相澤のそれに、転夜は出久の方を見た。出久は、改めて向き合う転夜に緊張する。転夜は出久の存在ににへらと笑った。
「おお、少年、お久しぶり。爆豪君とド派手にやり合ったらしいね。」
「え、なんで知ってるんですか!?」
「弟分から、青春だーって。」
「・・・・轟か。」
相澤のそれに、転夜はゆっくりと目を細めた。
「いやあ、いいよね、そういうの。どんどんやるべきだ。」
「いい加減なことを言うなよ、夢意。そういうことで信頼を失ってどうする。」
呆れた相澤のそれに、転夜は体から手を離して、腕を組む。そうして、うーんと悩む。
「そりゃあ、仕方がないんじゃない?一年も経ってない程度の相澤ちゃんの信頼と、釣り合う何かがあるんなら当然じゃない。」
「・・・・お前、程度って。」
「誰にだってあるよ。自分がどうしてここにいるのか。どうやって生きるのか。天秤が釣り合うものがね。」
転夜は相澤を見つめて、ケラケラと笑う。
「私も、相澤ちゃんの信頼と、燈矢とエンデヴァーのおっちゃんなら後者を取るし!」
それに相澤は転夜の頭をアイアンクローで掴み上げる。
「人に散々迷惑をかけておいて良いご身分だなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、いだい!いだだだだだだだだだだだだだだ!!!!」
少しの間、相澤にそこそこ叱られた転夜に、通方が聞いた。
「あの、アシスト。」
「あ、通方少年!頑張ってる?サー・ナイトアイのおっちゃん怖くない?」
「え、それは目をかけていただいてありがたいです!それで、その。アシストは、エリちゃんのこと。」
「あー、そうだね。今回の会議の私、態度めっちゃ悪かったもんね。普通はダメだよ。嫌なことがあっても隠さなきゃね。今回の私、プロ失格だ!」
普段通り、元気で、朗らかなのに。妙に空回りのような印象がある笑みだった。
そこで通方は彼が持っていた疑問を投げかける。
「アシストは、エリちゃんの救出に反対なんでしょうか?」
「反対って言うか。まきえさ見てる気分、かな?」
「あの子は確かに怯えてたんですよ!?」
「だろうねえ。まあ、外に連れ出されてるぐらいだし。本当に個性由来でクスリ作ってるなら、長生きさせたい前提である程度管理はしてるんだろうね。なら、すぐに殺されるって事はないかな。」
転夜は、管理と、ひどく寒々しい言葉を吐いた。そうして、独り言のように呟く。
「昔はねえ。子どもってヴィラン組織にはコスパのいい商品だったんだよ。個性が発生した時期だとか、そういう法律あったんだっけ。個性由来の研究で、人間を実験動物みたいに扱っても良いよ、みたいな法律。」
「しょ、う、ひん?」
「まあ、見目もが悪くても個性が強ければ売れるし。だから、そういう犯罪組織と孤児院がずぶずぶなこととかよくあったよ。私も、そういうとこ知ってたからオールマイトのおっちゃんに言って、潰したとこもあるし。でも、素人だとすぐに殺しちゃうからなあ。私が知ってる奴だと、個性が血液由来で、管理がずさんで失血死した商品も・・・・」
相澤が転夜の口を無理矢理つぐませた。それに転夜は目をぱちくりとさせた後、ちらりと生徒たちの顔を見た。
顔を青くして、茫然と転夜を見る子どもたちの顔に、転夜はあーと理解した顔をした。
「・・・・今日はダメだな。なんか、昔みたいな、軽口がひどい。」
(なんか、若頭の写真見てから妙に落ち着かない。)
「お前、今回のチームアップ断った方がいいんじゃないのか?」
「うん、それも考えようかな。ただ、なんか、死穢八斎會の名前を聞いたら、昔のこと思い出しすぎて。引っ張られる。」
組長さん、優しい匂いのする人だったのに。
ぽつりと、転夜はそう呟いた。
雄英高校たちは、何か、自分たちとは余りにも違う日常の生きた生き物の言葉と、そうして言動に、正直怯えていた。
アシストという、それの天真爛漫さを知っているが故に、乖離したその地獄の残り香に怯えた。
いいや、誰もが憤慨しただろう、一人の少女の地獄にさほどの動揺もない異様さを恐れたのだろうか。
けれど、出久は、出久だけは、何故だろうか。
女の、どこか意識を遠くにさせるようなその視線に心が酷くざわついた。
だからこそ、だろうか。
出久は思わず転夜に両手を差し出した。
「・・・・おいで。」
「え、デク君!?」
驚きの声を上げる中、出久はじいっと霧がかったようなうつろな転夜の目をのぞき込む。転夜はのそのそとした動きで、椅子に座った出久の膝の上に頭を載せた。
まるで、子どもが母親に甘えるときのような、そんな仕草に似ていた。
出久はあやすように転夜の頭を撫でてやる。
(慈母みたいな目でアシストのこと見とる!)
(どういう質感なんだ!?)
(どういう感じでこの光景を見ればいいんだ!?)
周りがざわつく中、麗日が出久に声をかける。
「デ、デク君、ど、どうしたの、急に!?」
「え、何か、辛そうだったら。なんだろうね。」
娘がいたら、こんな感じかな?
そういって優しげな顔で出久は転夜を見下ろした。
(父性が芽生えとる!)
(いろんなものを跳び越えて父性が出とる!)
(高校生の分際で、成人女性に父性が芽生えてる!!)
それを見ていた相澤はそっとスマホを取り出した。
「轟、夢意のこと今すぐ迎えに来い。」
前々からおもっとるんやけど、エンデヴァー事務所が受けるような仕事なん?こんな、空き家に忍び込んでる奴が出るなんて。
仕方がないだろ、人影の話とか、防犯カメラにも写ってるのに、実際に見た人間がいないなんてホラー案件。
個性やなかと?
相澤ちゃんまでかり出されたらしいけど、捕まえられなかったんだぞ?
・・・・ホラー案件やん!
それでそういう話を良くしてるうちにお鉢が!でも、私はホラー案件遭ったことないんですよねえ。実際は、個性でのいたずらだろうね!
・・・信用ができん。
どわあわあああああああああああ!!
うわあああああああああああああああ!!がっつりいる!黒髪の女って典型的な女がいる!?
俺の羽根でさわれんのやけど!?え、透過する、みたいな個性なん!?
スマホのカメラには写ってないんだけど!?
うわああああああああああああ!?なんか、聞き取れないこと言い出したあああああ!
まったく見えん!
なんで転夜にはみえんとね!?
マジモンじゃネエか!?マジモンじゃネエか!?
どこにいるの?
お前の真ん前だよ!!
真ん前か、そっかあ。よっし!
転夜さん、え、なに拳を振りかぶって・・・・・
幽霊に叩き込んだあああああああああ!?
・・・・・・それで、そのまま消えたと?
まあ、はい。
転夜の拳で霧散しました。
よくわかんないけど、やな感じのとこ殴ったら消えたらしい。
ちなみに、あの後、人影の話も出なくなりました!
所長、これ、どうやって報告するんですか?
・・・・・お蔵!
判断が速いっすね!そうしましょ!説明のしようがないので!
・・・・みたいな、雑なゴーストバスター案件が時々来るから君らも覚悟してね。
職場見学で予想しなかった類いの案件の話が出て茫然としてます。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも