たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。   作:幽 

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評価、感想ありがとうございます。感想いただけましたら嬉しいです。

転夜の気づき


何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770


さみしがり屋の過去

 

「なあ、おっちゃん、うちの事務所って育休とかって取れたりする?」

 

病室で自分のベッドに横たわっていた夢意転夜のそれに、エンデヴァーこと轟炎司は盛大に咳き込んだ。

 

その場にいた轟家の面子はがっと轟燈矢に視線を向けた。そうして、燈矢の顔が真っ黒に染まっているのを見てまた転夜に視線を向ける。

肝心の炎司は丁度呑んでいたお茶が気管に入ったようでげほげほと盛大にむせ込んでいる。

 

その場にいるのは、轟焦凍を抜いた、夏雄、冬美、冷だ。彼らは、部屋が火の海になる可能性を感じて、その時は個性の使用さえ考えて黙り込む。

 

「・・・誰の子?」

 

燈矢の押し殺した声に、転夜は不穏な空気を感じつつ、恐る恐る答えた。

 

「え、兄の、子?」

 

それに燈矢はベッドの端を思いっきり拳で叩いた。

 

「紛らわしいことを言うんじゃねえよ!!」

 

 

 

(いやあ、今回の件、大失敗なんだよなあ。)

 

死穢八斎會の押し入りは、簡潔に言えば失敗に終わった。今回の捜査は死穢八斎會の違法薬物についてが主だった。

が、蓋を開ければ、死穢八斎會の地下に広がった通路内にはそういったものの痕跡は見つからなかったそうだ。

綺麗に、それこそ、塵一つも無い状態だったそうだ。

唯一、それらしかった九十九が持っていたサンプルもヴィラン連合に奪われてしまったのだ。

そう言った意味で、今回の捜査は失敗だろう。

 

(いや、収穫がなかったわけじゃないんだよな~。)

 

何故か、押し入った当日は、水面下に巡っていた犯罪集団達が死穢八斎會の本宅で会合に集まっていたのだ。そうして、死穢八斎會の犯罪の証拠は見つからなかったが、会合に集まっていた連中の証拠は何故か見つかった。

 

(嘘くせ~。)

 

転夜はごろりと転がりながらそんなことを考える。

が、証拠は信用出来るもので、そちらの摘発が元気に進んでいる。九十九も、地下に勝手に手広くとんでもない規模のものを建設していたと、そちらでしょっ引かれているのだ。

 

(たぶん、全部、分かった上で証拠を消して、捕まったのかな?)

 

何せ、転夜の記憶の中の兄は、ひどくずる賢い面があったのだ。

その辺りを兄に聞きたいが、何しろ、彼に会うために色々と手続きが必要になる。一応、エンデヴァーやオールマイトにも相談したが、当分はそれは無理だろうと答えられた。

 

「・・・・ねえ、お姉ちゃん。」

 

その言葉に転夜は転がっていたベッドから起き上がり、ぶらんと足を振った。そこには、自分のぬいぐるみを抱えた、己の姪に当たる少女がいた。

 

「パパには、会えないの?」

「まあ、お縄に付いちゃったからねえ。」

 

その言葉に壊理はひどく物悲しげな顔になった。壊理は当分、保護と言うことになった。虐待の件を確かめるためと、あとは、最初は大人しかったものの、父親や組の人間と引き離されることを知ると大泣きして個性を爆発させたのだ。

 

(相澤ちゃんに、なんか猫グッズ貢ぎにいこう。でも、せめて、組長さんとは会わせても良いと思うんだけどなあ。)

 

相澤だけでなく、ルミリオンとサー・ナイトアイたちの保護のために駆けだした自分のその後の色々を押しつけた燈矢にも詫びをしなくてはいけないのだろうが。

壊理が保護という判断が下ったのは、少女の血縁を考慮してのことなのだが。それは、転夜も知らない事実だ。

転夜がこうやって壊理の病室に入ることが許可されているのは、偏に、彼女が転夜に会うことを希望していたためだ。警察の聞き取りなども、転夜を介してならば話したため、特別に許可が下りた。

そんなこんなで、兄を止めた後、一日爆睡した後、検査のため短期間の入院が決まった転夜は暇になると壊理の元に通っている。

その理由は、単純で。

転夜はそれに改めて少女に問いかける。

 

「なあ、壊理ちゃん。うちに来ない?」

 

転夜のそれに壊理はなんとも言えない顔をする。

 

「・・・・迷惑になるよ。」

「何度も言ってるけど、そんなことないよ!」

 

疑問は残る。

九十九というそれは、どう考えても無理矢理にでもヒーロー側に壊理を渡すために今回の件を起したようにしか思えない。

ただ働きにならないようにわざわざ幾人かの犯罪者を用意までして。

そこまでして、わざわざ、娘を自然にヒーロー側に押しつけるようなことをした理由は何か。

 

(まあ、一個思い当たるものはあるけどさ。)

 

そんなに兄は、ヴィラン連合に襲撃されたことも気絶して知らないの一点張りらしい。

転夜は壊理の現状を聞き、何よりも早く、彼女の引取先として手を上げた。

祖父にも引き取れないならば、血の繋がった自分こそ、少女について責任を持つべきだと思った。

 

社会的地位もあるし、稼ぎもある。

すぐのすぐに引き取れるわけではないのなら、その間に生活環境を整えれば良い。

幸いなのか、無駄に広い一軒家も持ってしまっている。

 

(いらねえと思ったけど、こういう時のためだったんだな、おっちゃん!)

 

転夜の頭上に半透明で全力で否定するオールマイトが浮かび上がった気がするが、気のせいだろう。オールマイトならば、転夜にケツを叩かれてサー・ナイトアイの元に通っている。

話せなかった今までと、そうして、これからの話をしているのだろう。

 

(でも、どうしよっかなあ・・・・)

 

転夜はもちろん、壊理のことは一人で育てる気だ。何せ、彼女は自分の血縁で、自分以外には何の責任もないのだから。

が、一応と、育休の制度について聞いた後、炎司からこんこんと説教をされた。

 

 

「お前、ダメに決まってるだろう?」

「え、なんでさ?」

「お前な、今いくつだ?それで姪とはいえ、あの年頃の子どもを引き取るんだぞ!?」

「聞きまして、燈矢。私らと同い年の時にすでに君と冬美ちゃん抱え込んでた人が何か言ってましてよ。」

「安心なさって、五年後にはもう二人増えてましてよ。」

「そーいうことをいっとるんじゃない!俺には冷がいたし、赤ん坊の頃からだ!あの年頃の子をいきなり育てることをいっとるんだ!」

「安心してよ、おっちゃん!こちとら、中一から自分の世話だって出来てたんだから!」

「自分の世話と、他人の世話は違うだろうが!」

 

頭を抱えそうなエンデヴァーとのやりとりに、夏雄が口を挟む。

 

「ちょっと待て!親父の言いたいことも分かるけど。なんで、その、壊理って子を転夜姉が引き取ろうとするの?」

 

その言葉に転夜はそれは確かにそうだったと理解する。

何せ、転夜が疲労で一日爆睡した後、起き上がり、皆の安否を聞いてよかったと安堵した後、転夜の心配をした轟家が見舞いに来ての話だ。

末っ子は、仮免許のもろもろで来れていない。

 

「なあ、おっちゃん、壊理ちゃんのこと、話していい?」

「お前はいいのか?」

「?なんで?」

 

転夜は何故、それを秘密にするのか分からずにそう問えば、炎司は息を吐いた。

それがOKの意だと理解して、転夜は淡々と答えた。

 

「あの子、私の姪なんだよ。」

 

その時、その場にいた、燈矢と炎司以外の人間の目は点になる。転夜は、特別の感慨もなく話をする。

生き別れた兄が、どんな縁かヤクザのもとで育ち、それが逮捕されて。

 

「んで、今回保護された子が私の姪で、まあ、行き先ないなら私ぐらいは見捨てないでおこうかと。」

兄に頼まれてしまったこともあるのだけれど。

 

転夜の話に、冷たちは頭を抱えた。

どう処理するかと頭を悩ませていたのあろう。

 

「ええっと、別に気にしなくても。あの子が姪だってことはおっちゃんとか、一部の人しか知らないから。それに、あの子のことはちゃんと私でどうにかするよ。」

「・・・・一人で?」

「そりゃあまあ。あの子は、私の血縁だから。私しか責任を持てないことだし。」

 

血縁、血の縁、業の深い、我らが父の血を受け継いだ末の子ども。

自分たちの繋がりは隠し通した方がいいだろう。相手にとっても、自分にとっても。

 

「許可できんと言っているだろうが!一人でするな!」

「言っても、私、もう成人してるんだし。あーでも、独り身で子どもって引き取れたっけ。」

 

ぽつんと言いつつ、スマホで調べるかときょろきょろする。それを見ていた燈矢があきれた顔をした。

そうして、軽く転夜の頭をはたいた。

 

「お前な、お父さんが言ってるのは一人でやるなって話だろ?」

 

転夜の顔に明らかにはてなが浮んでいるのを理解して、夏雄と冬美、そうして冷から援護射撃が入る。

 

「そうだよ、転夜姉!うち、広いんだから子ども一人ぐらいは住めるよ!?」

「そうだよ、さすがに一人で子ども一人はきついよ?それに、転夜姉だってヒーローなんだから、どうしても時間が取れないときがあるし。」

「いやあ、でも。私のこと育てて貰って。ここで、また一人子ども背負い込んでって。迷惑かけるのは・・・・」

 

転夜のそれに、炎司はため息を吐いた。

 

「子どもを一人引き取るとしても、色々と条件があるはずだ。両親がそろうが必須ではないが。多忙な職業で、一人で、というのは許可が下りるかはわからない。」

 

それに転夜は口をつぐむ。それに炎司は転夜と視線を合わせるように姿勢を下げる。

 

「少なくとも、うちなら家に余裕もある。お前が家に居ないときは冷もいる。子どもを四人育てた経験も考慮されれば許可が下りる可能性は高くなる。」

「・・・・あの子は、私の姪だ。おっちゃんには。」

「転夜。」

 

静かな声で炎司は転夜に声をかける。それに転夜は困り果てた顔で炎司を見返す。

 

「・・・・迷惑ならお前以上にかけられた覚えはない。そんなものは今更だ。いつもの図々しさはどうしたんだ?」

 

あきれたような炎司の言葉の後に、冷が転夜に手を伸ばす。重ねられた手に、目を瞬かせる。

 

「迷惑じゃないわ。そんなこと、絶対にないから。だから、そんなこと言わないで。」

 

静かな冷のそれに、転夜はなんと言えばいいのか分からずに、誤魔化すように笑った。

 

 

結局、何よりも優先すべきは壊理の意思だろうと、その話は保留になった。少女が家に帰れないというのなら、施設なり、誰かしらの元で育てられなくてはいけないのは事実なのだから。

そのため、転夜はせっせと少女の元に通い、家に来ない?と誘っている。

 

そんなことを考えていると、壊理が恐る恐ると口を開いた。

 

「・・・・でも、パパ、色々と迷惑かけたんでしょう?あの眼鏡のおじさん、血が出てたのに。アシストは、あの人と、仲良いんだよね?」

「なあーに、言ってるの。確かに怪我はしたけど、時間経過で治っから!今は体を治して、生活をしていくために何とかしよう!ふっふっふ、君のヒーロー、アシストと一緒に行こうぜ!」

 

事実、サー・ナイトアイの目は視力を失っている。けれど、今後、その視力が戻らないという希望がないわけでもない。

なんでも、神経などについて凄腕の医者がいるそうですぐにというわけにはいかないが、なんとかなると聞いている。

当分はヒーロー稼業はお休みだが、それでも希望はある。

 

(まあ、兄貴に怒りきれていない私に何が言えるのかって話だけど。)

 

それに少女は無言を貫く。それも仕方がないのだろう。

壊理は、父と引き離されると聞いて、散々に父の良いところを周りに言っていたらしく、それ相応に可愛がられていたことが理解できた。

そんな存在と引き離されるのは、さぞかし。

 

(いや、親が居たことのない私にはわからんか。)

沈む思考の中で壊理はまた口を開く。

 

「・・・迷惑だと、思うから。」

「迷惑なら最初から言ってないよ。」

 

それに壊理は無言を貫く、何か、どうすればいいのかわからないというような顔で。

それに、転夜は下方を彷徨う視線に合わせるように転がった。

 

「なあ、壊理。何はともあれ、君はこれから新しい生活ってものを考えなくちゃいけないわけだ。あのくそ兄貴がシャバに帰ってくるまではね。」

「・・・・網走帰り?」

「君、どんな教育受けてきたんだ、幼女の話す単語じゃないぞ。」

「パパが、パパと同じお仕事だって見せてくれた映画に・・・」

 

子どもなら魔法少女でも見てようぜ、という単語が出かかったが、まあ、昨今の多様性的に口をつぐんだ。

 

「なあ、壊理。」

「うん。」

「自分の人生に責任を取ってくれるのは自分だけだ。なんでだと思う?」

「・・・どんな関係も、いつかは切れるから?」

「パパが言ってた?」

「うん。」

 

あの男らしい感覚だ。いや、それについてはまざまざと理解できてしまっている自分がいる。

 

「・・・・うん、そうだ。でもな、たった一つだけ。どうしても切れない縁がある。血とは、切れない縁だ。だから、私だけ信用していい。」

「他の人は?あの、えっと、デクって人とか、ルミリオンって人とか、優しいと思うよ?」

「彼らは優しいけれど。他人だからね。君の気持ちを理解してはくれないんだよ。あのね、壊理。私は、一つだけ君に約束できることがある。他の奴とは違うと言えること。」

 

それは何?と壊理が自分を見る。それに、転夜は笑った。

 

「他人は悪い人のパパに会わせないようにしたり、引き離したりするけど。私は、君がパパといつか再会出来るように。君が望むなら、死穢八斎會に帰ることを引き留めないって話だ。」

 

それに壊理は目を見開き、そうして、また下を向く。

賢い子だなあと、転夜は自分とは違うと脳裏に死に物狂いで勉強したテストの点などを浮かべつつ、そんなことを思う。

 

少女は、理解しているのだろう。

彼女にとって優しかったパパや、周りの人間達が世間一般的に悪い人で、少しずつ自分が引き離されようとしているのは肌で感じたのだろう。

 

一時的な保護、そう簡単に説明されても、まざまざと感じているのだろう。

それに頷けば、父とは会えないと。

 

(まあ、ヴィラン名まで付けられちゃってる所に子どもが帰されるのは。ないだろうな。というか、あいつ刑罰的にどうなるんだ?出てこれるのか?)

 

そんな事を思いながら、転夜はじっと少女を見る。

オールマイトや、エンデヴァーはどう思うのだろうか?

 

犯罪者でも、それでも、父である人を愛している子ども。

悪辣であれど愛してくれた父との記憶に縋る、一人の少女。

それを彼らはどう思うのだろうか。

 

(まあ、私には分からんが。)

 

転夜に分かるのは、少女が何を求めているのかと言うことだ。その選択肢で、どうなるのかは今は分かりはしないけれど。

 

(・・・まあ、世界の幸福と、自認の幸福はかみ合わないこともあるし。)

 

転夜はただ、叶えてやりたいと思う。

兄の子である少女の責任は自分が負うべきだという思いもあるが、それと同時に、親に愛された子どもが、共にありたいと願うのならば。

それは叶うべきものだと女は、ただ信じている。

 

「だから、まあ、気楽に考えなよ。家族になろうってわけじゃない。ただ、君が生きていくために私は必要なものだから。利用するとでも考えればいいのさ。壊理、君が、自分の帰る場所がどこかをとっくに決めているのならなおさらにね。」

 

転夜はそう言ってそっと手を差しのばす。その手を、壊理はじっと見つめていた。

 

 

 

 

(・・・・結局、当分は雄英で保護か。)

 

退院が決まり、転夜は日常生活に帰ることになった。今回は特別体に異変はないため、元気にヒーロー活動に復帰している。

今だって、帰宅のために人気のない道を歩いている。

 

結局、壊理は一時的に雄英高校の相澤の元で保護となった。本人の個性の不安定さや、あとは父親である九十九や祖父からも少女の個性の危険性の話があったそうだ。

そのため、転夜が彼女を引き取るという話は一時的に保留になっている。

 

(巻き戻しなあ。溜めの時間がいるのは確かに使い所が難しいか。)

 

ちらりと、前を通ったビルのガラスに反射して、自分の姿が目に映る。

兄とも、壊理とも似ていない顔だ。けれど、黒い髪の中に一筋だけ入った流星のような髪が、血のつながりを示しているようだった。

 

(・・・血。)

 

血、血、血、血。

水より濃いもの。

引きちぎることの出来ない繋がり。

 

九十九との面会は、いつになるかわからない。

何せ、彼は今をときめく犯罪者だ。警察だとかが聞きたいことは山のようにあるだろう。

オールマイトやエンデヴァーにどれぐらいかかるものなのか聞いたが、色の良い返事は返ってきていない。

 

けれど、聞かなくてはいけないことがある。

 

変化した個性のこと、今までどうやって生きてきたのか、壊理のこと、何を目的にしていたのか、そうして彼の双子の姉がどうなったのか。

 

そこで、また、ふと反射した自分のことを見ていいやと思う。

九十九がわざわざこんな大立ち回りをした理由がなんなのか、転夜にはわかっているのだ。

 

(・・・・私の父親が、動き出したんだろうなあ。)

 

鏡に映るその顔は、いったい、父に似たのか、母に似たのか、それとも違う血族に似たのか。転夜は知らない。

 

 

分かっているのだ。

ずっと、分かっていた。

兄は賢しい男だった。状況を把握し、場を読む。そんな男が、こんな目立つ、今後の活動がしにくくなるようなハイリスク、ハイリターンな事を行うとは思えない。

なら、どうしてか?

 

簡単だ。

兄が違法薬物を作っていたのかは分からない。けれど、目的はそちらではなく、おそらく刑務所に入ることだったのだと思う。

 

(父親から、身を守るため。)

 

側近の殆どに身を隠させ、財産も隠し、大事にしていたらしい“親父”と“娘”の身柄をヒーロー側に明け渡したのは父親から確実に守るためなのだろう。

事実、組長は今回の件なのか、それとも年のせいか、警察病院に入院になっている。

人目が付きやすいならば、それ以上のことはないだろう。

 

そうして、今回の要は壊理のはずだ。

 

(巻き戻しか。)

 

自分と類似性のある個性に転夜は少し笑いたくなる。そんな強個性ならば、自分は捨てられなかったのだろうかと詮無きことを考える。

 

強個性を望んで、自分たちを作った父親にとって、現在の自分たちはどう写るだろうか?

己の孫娘は、どう映るのだろうか?

少なくとも、父親は自分たちの顔さえ知らないだろう。

知っていたのなら、何かしらのアクションはしていたはずだ。

けれど、万が一、ばれたとき。

個性の扱い方を知っている自分たちはまだ身を守る方法がある。けれど、あんな幼い少女はどうだ?

だから、九十九は自分のことを壊理に教えていたのだろう。誰にも言ってはいけないと釘を刺しつつ、自分にだけは頼るように。

事実を知った自分に保護されれば、オールマイトとエンデヴァーが後ろ盾になってくれる。これ以上の牽制はないのだろう。

 

(結局、私たちがいた施設も見つからなかった。相手は、それぐらいの隠匿能力か、それともワンチャン権力に食い込んでる可能性も。)

 

夜道を歩く、喧噪が遠い。

そういえば、今日は花金かと土日祝日から遠い身分の転夜は近くの飲み屋街のことを思いだし、歩き続ける。

 

言えばいいのだ。

オールマイトにも、エンデヴァーにも、兄がそこまでしたことの予想について。

なんてことない、確信はない、けれど可能性はあるといつものように進言すれば良い。

いい、はずなのに。

 

喉の奥に詰まったように、口が重い。

 

忍び寄るもの、絡みつくもの、繋がり腐れはててなお存在する縁。

 

己の中から糸が伸びている。望まずとも、願わずとも、産まれてきた時点で否応なく存在する繋がり。

 

(いや、忘れてたのかな。)

 

己と同じ歪なところがある、けれど優しい人たちに受け入れて貰えた時間がいつのまにか忘れさせてくれていたのだろう。

けれど、ようやく、思い出す。

己の前に現れた、死に絶えたと思っていた血縁の存在。

そうだ、言うだろう。過去とはさみしがり屋なのだ。己の後、けして離れず、つきまとう。

 

ああ、そうだったなあと。

 

(そういえば、おとうさんって、まだ生きてるのか。)

 

空虚な、おとうさんと鳴声のように己の内でそらんじる。それに特別な嫌悪などなく、ただ、事実として飲み込まれていった。

 

そうだ、ただ、時期が来たというだけなのかもしれない。

 

(寄生虫だって時期が来れば外に出るんだし。)

 

捨て去ることの出来ない過去が、あの地獄から逃げ出した自分に追いついたという話、なのだろう。

一人だけならば、やりようはある。けれど、自分は一人ではない。守らなくてはいけない子どもがいる。少なくとも、守られなくてはいけないだろう。

あの日、幼かった自分は誰かに守って欲しかったのだから。

 

(・・・・そうだ、おとうさんが。)

おとうさん(過去)が、もしも、追いかけてくるのなら。逃げなくては、あの子を連れて、どこまでも、遠くに。

 

そんなとき、転夜の肩を誰かが掴む。我に返った彼女が振り返れば、そこには不機嫌そうな顔をした燈矢がいた。

 

「あれ、どうしたの、燈矢?」

 

そう言って、転夜はいつも通り、にっこりと微笑んだ。

 

 

 

転夜の様子がおかしいのなんて、燈矢にはそれこそ、手に取るようにわかった。

十年だ。それが、燈矢が転夜という存在と出会ってから過ぎた時間だ。

 

学校でも、日常でも、職場でも、それこそ嫌にならないのかと他に言われるほどに隣にいた存在だ。

 

だから、転夜の様子がおかしいのなんてすぐにわかった。

 

(兄ねえ。)

 

存在自体は知っていた。転夜が小さくなっていた時、時折口にしていた存在だった。

教育も何もされていない、相手への感情を表す言葉の知らない子どもが一心に愛を与える存在。

 

気に入らなかった。

 

ひとりぼっちの転夜。

己を地獄から連れ出したヒーローでさえも拒絶する子ども。

自分の手を取った少女。

 

己にようやく訪れた星。

 

轟燈矢は、夢意転夜から一番に愛されていると信じて疑っていなかった。

転夜は、ずっと燈矢を見ていてくれた。どんなことがあっても、燈矢から、一度だって目を離さなかった。

だから、信じていた。

なのに、その兄姉のことを知ったとき、気に入らなかった。

幼くて、自分との記憶がないとはいえ、その兄や姉のことを話すとき、自分から目がそらされるのが不愉快だった。

 

けれど、元に戻れば、転夜はその二人のことを忘れていた。

それは、失った事実へのつらさ故か、別の理由か。

まあ、どうだっていい。

また、転夜は自分の、轟家の子に戻ったのだと。

 

それでいい。それでいい、転夜は捨てられたのだ。だから、自分が拾った。転夜もそれを受入れた。

あの日、あの時、ヒーローになると決めた自分たちの間に入り込める存在なんて居ない。

だから、それでよかった。

 

なのに、転夜の中に、転夜の目が、違う誰かに向けられている。

 

「・・・お前な、一緒に帰ろって言ってただろうが。」

「え、そうだっけ?でも、報告書上げなくちゃいけなかったんじゃ?」

「今日は俺じゃないんだよ。」

「そっか。いや、ごめん。思い違いしてたよ。」

 

エンデヴァー事務所から、駅にまで向かう道を歩く。まだ時間も早い。駅でタクシーを拾うかどうかすればいい。

燈矢は、当たり前のように世間話、というか、転夜のマイブーム染みた話をしている彼女を横目に見る。

 

「それでさ、ハムスターの金玉の画像見るのが今熱いんだけど。あいつら、射精する度に気絶してるんだって。いや、すげえ命かけてるよなあ。」

「この世で一番いらない雑学を。」

 

いつも通り、そうだ、転夜はいつも通り、振る舞っている。

けれど、燈矢は探りを入れるように口を開く。

 

「そういや、またお前の家の方に泊まるのかよ?」

「泊まるって。いやあっちが自宅なんだけどなあ。」

「一年の一割もいない家が自宅とか言えるのかよ。つーか、もう売れよ。固定資産税とか、色々めんどくさいだろ。」

「オールマイトのおっちゃんに申し訳ないよ。いや、まさか一軒家持ってくるとは思わなかった。それに、この頃帰れてないし。時々風は入れてるけど、やっぱ住まないと痛んでくるしねえ。」

「リフォームするか聞かれなかっただけましだろ。」

「時々さあ、オールマイトのおっちゃんと炎司のおっちゃんの会話の中の金額、聞き間違いかなって疑うときがあるんだけど。」

「まあ、あの二人のサポートアイテムとか、事務所の経営に関する金額なんだから当然だろ。つーか、オールマイトのおじさんの場合、事務所の建物とか土地は買い上げだろ。それだけでとんでもないだろ。」

 

脱線しつつある会話に燈矢は目を細める。

この頃、転夜は元々彼女の自宅に頻繁に泊まるようになった。

口上的には上の通りだが、父親以外は察していた。

 

転夜が自分たちから距離を置こうとしていると。

 

燈矢はその考えの後に、憎らしさで歯がみした。

けれど、ただ、元々の自宅が傷みそうだからと言われれば否定するのもおかしい。

壊理という少女を引き取るための準備を進めているのだろう。

 

「あの子、結局、雄英高校の保護になったんだな。」

「そうそう、だから、引き取る話は一旦保留だなあ。」

「・・・・あの家で、二人で暮らす気?」

 

思い切り投げ込めば、普段ならテンポ良く返ってくる返答が一瞬止まる。けれど、すぐに何事もなかったかのように話し出す。

 

「それも考えてるよ。まあ、結局どうなるのか。雄英高校での保護が終わるまでなんとも。あ、でも、会いにいくのは許可されてるからさ。今度、会いに行くんだよ。」

 

笑う転夜、いつも通り、朗らかに、明るく、燈矢の世界を照らしてくれた、道を切り開いてくれた片割れ。

それが、自分から離れていこうとしている。

 

腹立たしい、憎らしい、苦しい、苛立つ。

 

揺るがないと思っていた愛が、自分から離れていく。

胸の内に、ざわざわと騒ぎ続ける。

 

幼いとき、あの時、父が自分から目をそらしていったときの、そんな感情がまざまざと胸の内を撫でる。

 

ただ、帰る家が違うだけ。

それ以外は変わらない。

違う、本能のように分かる。

転夜が自分から離れていくことを。

 

真っ白な髪をした、自分が保護した少女のことを思い出す。転夜が影の中に飛び込んだ後、ヒーローの矜恃として自分が彼女を警察に引き渡したのだと。

今になれば、ちりちりとした苛立ちがわき上がる。

 

十年だ。十年、共に過ごしてなお、それよりも優先されようとしているものがある。

血縁、血の繋がった親に捨てられ、どうでもいいと吐き捨てながら、どうしようもなく惹かれている転夜。

 

「なあ、引き取るならうちで一緒に育てれば良いだろう。」

 

燈矢は転夜にそう言った。歩き続ける内に、等々、居酒屋などがある区画の近くに来たようで遠くではあるが、人の気配がした。

それに転夜はなんとも言えない顔をした。そうして、申し訳なさそうな顔をした。

 

「あの子は私の身内だからね。燈矢達は気にしなくていいよ。」

「・・・・・なんでだよ。」

 

苛立つような声の後に、燈矢は等々叫んだ。

 

「十年だぞ!?十年一緒に居たんだ!迷惑なんて今更だろう!?なんでそんなに嫌がるんだよ!?そりゃあ、色々と複雑だろうけどさ!それなら、お前だってそうだったんだ!俺たちだってデカくなった!もう、あの時と違って色々と背負い込めるんだぞ!?」

 

怒りに染まったその顔は、彼の父親によく似ていた。

転夜はそれに、何か、困ったかのような。

昔、会ったときと同じような、どんな顔をするかわからずに思わず浮かべたような、そんな取り繕った笑顔を浮かべた。

 

「・・・・燈矢達と、あの子は関係ないんだ。だから、気にしなくて良いんだよ。」

「なら!」

 

青い瞳をぎらぎらさせて。

燈矢はあらん限りの声で転夜に怒鳴った。

 

「俺と結婚しよう!!結婚して、家族になればいい!!」

 

叫んだ声が、ビルの隙間に反射しているのか、響いている。

叫んだ後に、燈矢は、さあああと血の気が引くような感覚がした。

言うのも、タイミングも、場所も、全て、計画から遠すぎた。

燈矢は、ばっと転夜の方を見る。

 

彼女は、顔を引きつらせて、体の前でバッテンをしていた。

 

「あの、お断り、とかって赦されますか?」

 

一瞬の間の後、燈矢が叫んだ。

 

「赦されるか!!!!」

 





・・・こわい、話?
ええっと、あのね。こわい話、かは分からないんだけど。気になってる話があるの。

前におうちを工事するからってパパが用意したおうちにお泊まりしたときがあったの。そのとき、おじいちゃんもパパも一緒じゃなかったんだけど。

でもね、組の人たちも一緒だったから楽しかったの!お泊まり会みたいで!
そのおうち、古い、えっと、時代劇に出てくるみたいな、転夜のお姉ちゃんのおうちみたいな家でね。
組の人たちが忙しそうでね、つまんなくなって、そのおうちを探検してたんだけど。

女の子がいたの。
うん、私以外、子どもは居ないはずだったのに。でもね、その子が居るお部屋、おもちゃがたくさんあって楽しかったんだ。
それから、おうちに帰るまでその子と遊んでたんだけど。
もう、おうちに帰る日になって、帰るからって話をしたの。その子ともまた遊びたかったから。

でも、それを言ったら、その子、変なこと言ってきたの。

かわってって。

なんのことかわかんなくて。何を、って聞いても何も言わないの。
ただ、にこにこ笑ってかわってって。

・・・・それでね、声が、どんどん大きくなって、かわってって、ずうっと。
私、こわくなっちゃって。そのままお部屋から飛び出したんだけど。
うん、その子、その部屋から出てこなかったんだけど。出入り口で、じっと私のことを見送ってたの。


私以外に、あのおうち、女の子居ないはずだったのに。あの子、誰だったのかなあ?

えっと、迎えに来たパパに聞いたら、近所の子かなあって言ってたんだけど。
あ、でも、パパ、変なこと言ってたよ。
おもちゃだけじゃダメだったかあって。

どういう意味なんだろうね?



とうとう壊理ちゃんからもホラー体験談出てきたんだけど!?
何、今時、ホラー体験してるのがスタンダードなの!?
その女の子なんなのお!?

まあ、古い家なら色々あるんだろう。積み重なったものとか、いいものも、わるいものも。
意味深なこと言ってしめんなや!ナメプ野郎!!

以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。

  • 二次創作だし、いいんじゃない!
  • 一周回って見たい!
  • 番外編で留めておけば?
  • いっそ、兄弟増やそう!
  • どっちでも
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