たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
長くなりそうなので、切りのいいとこで。
いい夢だった。
とても、いい夢だった。
だから、どうか、醒める前に。
その、夢が覚めて、あの施設で、地獄を見続けているなんてことにならないように。
その夢を抱えて、眠りたかった。
「えっと、倉庫みたいなとこ!」
『倉庫?』
「第三倉庫って書いてる!」
『それなら、こっちでナビゲートできる。そのまま、倉庫から出なさい!こちらも、救助に向かう!』
夢意転夜と轟燈矢がおもちゃ箱から出ると、そこはなにやら着ぐるみなどが押し込まれた倉庫だった。
そうして、男が使っていたケータイを使い、向こうのオールマイトやエンデヴァーと連絡を取った。
園内の地図についてはすでに入手しているようで、電話に従って二人は外に出ることにした。
「・・・・行くぞ。」
廊下から何の音もしないことを確認し、部屋から逃げ出した。
転夜達が出たのは、どうも、遊園地の中で一番に大きな建物で、そこそこ奥まった場所にある倉庫らしかった。
どうも、スタッフルームなどを一つの施設に詰め込んでいるのか、通路は入り組んではいないが、無駄に広い。
残りの二人がどこにいるのかわからないが、そう出会うことはないだろう。
転夜は、連れ出した我楽を背負い、燈矢を先頭に廊下を走る。
軽い、体だ。未だ幼い転夜でさえも軽いと、そう感じる体だ。年齢を聞いても、明らかに発育不全と言っていい。
(ああ、おかげで、私もすいすい動ける。)
そんなことを考えていると、子どもが縋るように自分の背中に縋り付く。それに、転夜は、苦みの走った顔をする。
たとえ、悪い子だって、助けてくれる?
その問いかけが、頭の中で駆け巡る。
この子は地獄に、やってきたのだ。この子の、ヒーローが。
(いいことだろう?)
なのに、腹の中で、何かが、蜷局を巻くような感覚がする。
「何してんの!?」
怒鳴り声に、転夜は立ち止まる。燈矢も同じように立ち止まる。そうすれば、前方からぼさぼさの髪の女が小走りでやってくる。
「あんたたち、いつのまに逃げ出したの!?あの人は!?」
『見つかったか!?』
「うん、たぶん、鍵開けの方。」
燈矢が持っていたケータイに話しかける。そうして、女は、転夜が背負う子どもに目を向けた。
それに女の顔に青筋が浮ぶ。
「あんた、なにしてんの!?」
「あ、ご、ごめ・・・・」
「くそ!あんた、裏切ったんだね!?お前みたいな使えない奴を育ててやってるのは誰かわかってんの!?」
「ごめん、ごめ、ごめ、な、さ・・・・・」
「謝ってる暇があるなら、そいつらのこと、さっさと閉じ込めなさい!くそ!もっと、しっかりしつけなくちゃいけなかったんだ!あと、あの人をどこにやった!!」
我楽が背中でかすかに震えている。声も、かすかに聞こえてくる、ごめんなさいと、恐怖に震えているのがわかる。
我楽は謝罪のために、自分の背中から下りようとしていることがわかった。
それを転夜は止めようとしなかった。
ぼんやりと、転夜は、我楽と同じように、それを待つ。
あーあと思う。
殴られんだろうなあ、さっさと終われば良い。
いやがると、よけいにされるからやだねえ。
この勢いだと飯抜かれるかも。
おみずはのめるかな?
まあ、トイレに行けるならその隙に飲めるだろ。
でも、おしおきだってはいってくるひとが・・・・
「転夜!!」
その声に、転夜は我に返る。自分に近づいてくる女を前に、燈矢が自分に手を差し出す。
「個性!」
それに転夜は、無意識のようにその手を握る。くるりと、燈矢をひっくり返す。
それと同時に、ばきりと、廊下一杯に氷の壁が出来上がる。
「引き返す!違うルートを教えて!」
燈矢がケータイに叫んでいる。それに、氷の向こうで、女の怒鳴り声がかすかに聞こえる。
ぐいっと、自分の手を引っ張られた。
「ぼさっとするな!」
自分の先を、燈矢が行く。一人の子どもを助けるために、あらがっている誰かがいる。
自分には、いなかったそれが、我楽にはいる。
いいなあ。
家畜の子どもがそう言った。
引っ張られている。
その自覚がある。
いつかに、散々に、大人にいいようにされた時の自分に。
家畜の己に。
(ダメだ。)
怒鳴られるのなんて慣れている。それこそ、みんな大好きエンデヴァーこと、轟炎司なんて最たるものだ。
けれど、それとは怒鳴り合えても、その、ヴィランの声を聞くと、何か、あーあと思って、何か、頭を垂れるように、そのままになりそうになる。
ダメだ、ダメだ、ダメだ。
思考を放棄するな。もう、縫い付けられたタグは切られ、首輪は取り去られ、管理主は死んでしまった。
(腹を、決めないと。)
守る側に、自分は回っているのだから。
でも、いいね。
家畜の少女が笑っている、
このこは、いいねえ。
そんなささやき声が聞こえてくる。
「転夜!」
その声に、また、我に返る。そうすると、目の前にはケータイを片手に持った男がいた。
「くそが!マジで逃げ出したのかよ!」
男はそう言って拳を振りかぶり、素早く、燈矢に殴りかかる。それは、普通の子どもならばあっさりと殴られていただろう。
けれど、そんなことに慣れた燈矢は避けてみせた。
「転夜、ぼさっとするな!」
「わかってる!」
ちらりと見た男に殴られた壁がへこんでいる。
(・・・・・強化系か。といっても、どっちかというと弱めだな。)
「燈矢!」
転夜のそれに、燈矢はまた氷の壁を作る。そうして、また引き返そうとした。が、氷はばきんと脆く崩れ去った。
「これぐらいで逃げられると思ってんじゃねえよ!?」
「転夜!」
燈矢のそれに転夜は大きく後退する。燈矢も同じように後退した。
「おい!戻るか?」
「・・・・さすがに、強化系の男と鬼ごっこはキツいぞ?」
男は現在、凍り付いたそれを壊しながら、こちらに向かってこようとしている。
(・・・・あの方法なら。)
自分の個性の応用。
転夜の中で、それに少しだけ天秤が揺れる。自分のすべきことをこれ以上ばらしても良いのだろうか?
ほう、これは。
ああ、これなら合格だな。
連れて行け。
フラッシュバックする感覚。
それに、どこか、白衣の誰かを幻視する。けれど、それと同時に、背中で震える子どもの感覚に思い出す。
地獄に誰かが来てくれた子ども。自分とは違う、子ども。
いいなあ。
子どもの声がする。家畜の少女がそう言っている。
羨ましい?
うん、いいねえ。わたしにはこなかった。
・・・・妬ましい?
家畜の少女は微笑んだ。
はっぴーえんどがいちばんだよ。
そうだ。
転夜は歯を食いしばる。そうして、刹那のような思考の中で、燈矢に手を伸ばす。
「燈矢!」
それに燈矢は反射のように転夜の手を掴んだ。それに、転夜は足に力を入れ、そうして、燈矢と我楽を抱えて足を踏みしめた。
そうして、転夜は飛んだ。
「は?」
相手の男が間抜けな声を上げる。当たり前だ、男にとっては三人が消えたかのようにしか見えなかったのだから。
転夜は燈矢たちを抱えて、とんと、男の頭上の、天井に着地する。そうして、天井を蹴り、男の後ろに着地する。
そのまま走り出す。引っ張られる燈矢は目を丸くする。
だって、体があまりにも軽い。
彼が知るよりも、ずっと早く、己の体はぐんぐんと前に走り出す。
(・・・・身体、能力が向上してる?)
燈矢は普段の自分の状態と、今を比べ、素早くその答えを出した。
「転夜、今、お前、俺の何をひっくり返したんだ!?」
それに転夜は、燈矢の持っているケータイを指さした。それに気づいた燈矢は、ケータイを一旦しまった。
それに転夜はばつが悪いという顔をした。
「・・・わかる?」
「わかるに決まってる!体力作りのために、どんだけ走り込みしたと思ってるんだ!?」
「・・・・・君の個性を反転させれば、氷。なら、私の個性は?」
「反転の、反対は、順転?正しい、巡り方。」
「私さ、重いを軽いにしたとして、どれだけ軽くさせるって基準があって。元の重さを半分にするんだよ。例えば、百を軽いにすると、五十に出来る!具体的な数値とかあるとさ。それが、想像しやすいんだよ!これを起点にして、反対にすると?」
「・・・・百を二百にする?」
「そ、私の反転した個性は、“過転”!今、私らの身体能力を二倍にしてる!」
「はあああああ!?」
二人はぐんぐんと、速度を上げていく。未だ、成長しきっていないとして、容赦ない扱きに耐えた彼らは確かに際立っていた。そうして、その身体能力を二倍にしているのだ。
転夜達は廊下に定期的に氷の壁を作りながら、ぐんぐんと駆け抜ける。
そうして、とうとう出口に当たるだろう、裏口にやってきた。
「鍵は!?」
「もう、この勢いで蹴り飛ばせるだろう!!」
「乗った!!」
二人は、それに、扉をそのまま突き破る。そうして、二人はヒーローたちが見やすいだろう、開けた場所に向かった。
「ああいうのって、誰が弁償するんだろ?」
「それ、言ってる場合かよ!?」
「おっちゃんかな!?」
「お父さんなら、屁でも無いから気にしない!」
そう言っていると、二人は向こうに明らかに派手なヒーローコスチュームらしいそれを纏った人間を見つける。
というか、エンデヴァーの事務所の人間なのだろう、光っていた、煌々と、物理的に。
「あれ、お父さんの事務所の人だ!」
燈矢の言葉に、転夜は少しだけ気を抜いた。
ああ、よかったと。
背中に背負った、地獄にいた子ども。ああ、よかった。
(君は、私とは違う。)
君ならきっと。私のようにならない。君は、きっと、ヒーローを。
足の歩みがほんの少し、ぶれる。そこで、背中で、我楽が声を上げた。それに反応して、転夜は振り返る。そこには、自分たちが出てきた、扉があって。
そこから、腕が、伸びてきた。
転夜は、それに、ああと思う。納得したし、それはそうだと思った。
あれだけの炎なら消すことぐらい出来るし、再起不能は難しい。何よりも、おもちゃ箱の出入り口は、我楽が起点になる。
なら、この可能性は存在していた。
ちがうんだよ。
家畜の少女が微笑んだ。
このこは、わたしとちがうから。
「そうだね。」
転夜は、何のためらいもなく、我楽を前方に、思いっきり投げた。
怪我をしても、捕まるよりは、ずっとましだろうと。
乱雑に、首の辺りを掴まれた。
「くそが!!」
(ははは、どうする?)
おそらく、男は我楽を連れて行くのが目的だろう。けれど、前方、もう、目の前にヒーローは迫っている。転夜の現在の馬鹿力で吹っ飛ばされた我楽も遠い。
そう思っていると、突然浮遊感に襲われる。
「転夜!!」
燈矢の驚きに満ちた声が聞こえた。それと同時に、地面が遠ざかり、引き上げられることを理解した。
(おいおい、こいつ!めちゃくちゃ出力あるじゃねえか!?)
人質を連れて逃走。
それが、ヴィランの男が選んだ選択だった。
「クソが!てめえのせいで、全部台無しだ!!」
「はっ、おっさんこそ、そこそこ強いくせに猫被ってたじゃん?」
男の肉体と、そうして、自分の体重。
おまけに、見れば、地面は遙か遠く。高度のせいで防寒をしっかりしている男と違い、薄手の自分にはなかなか辛い気温になっている。
「てめえ、生意気いいやがって!」
掴んだそのままに、首を絞められるが、転夜はそれに淡く微笑んだ。
「ひ、とじち、ころして、いいの?」
それに男は不機嫌そうな顔をして転夜の首を絞めるのをやめて、小脇に抱える。
「くそ、仕切り直しだ!!」
男がぶつぶつと、恨み言のように呟き始める。それを聞きながら、転夜はずっと、遠くなっていく遊園地を見つめる。
楽しい、宝石箱みたいな、そんなもの。
(・・・・たぶん、見つからないだろうな。)
未だ、夜の空の中。ろくに目立たない自分たちを見つけるのは難しいだろう。
(地面に下りたら、逃げ出して。それで・・・)
それで、どうするのだろうか?
それで、結局、自分は、どこにいくのだろうか?
かわらないね。
そうだね。
ならさ。
家畜の少女が、己の手を握る。
もう、いいね。
「・・・・そうだね。」
ぽつりと呟いた転夜に、男が怪訝そうな顔をした。それを転夜は気にしない。そうして、己を抱え込んだ男の腕を触る。
その瞬間、浮んでいた自分たちは、ぐんと、そのまま、落ちていく。
「う、ああああああああああ!?」
その衝撃と共に、男は自分から手を離した。それに、男は自分よりも先に落ちていく。それを転夜は感慨もなく、見つめた。
未だ、空は夜の中。月の光はない、暗く、静かだ。
ぼんやりと、転夜は、空を見る。ごうごうと、空気の音がする。
それに、転夜は問いかける。
いいの?
転夜は問いかける。重力でも、なんでも、助かる方法なんていくらでもある。
それに家畜の少女は、微笑んだ。
いいんだ。
なんで?
うん、だって、ちょうどいいの。
ゆめのおわりには、これで、じゅうぶんだから。
そうかい、と転夜は頷いた。
良い夢だったのだ。
清らかで、真っ当で、健やかな少年が、まるで、王子様みたいに、自分に手を差し出してくれる。
それが、あまりにも、目映かったものだから。
だから、惹かれて、彼のことを、ほんの少しだけと、指先だけを重ねた。
でも、わかっていた。
わかって、いたのだ。
その手を、取る資格なんて、自分にないことを。
いいゆめだったねえ。きれいで、すてきな、ふふふ、まるで、ひろいんに、なった、みたいな。
とても、良い夢を、見たから。だから、ここで、終われば、きっと、素敵だろうと。
家畜の少女は、笑っている。
転夜はそれに、問いかけようかと思う。
ここで自分が死んだら、きっと、あの子は、あの、転夜の、美しいあの子は、きっと、悲しむよと。
自分の個性だけでも、必要としてくれているだろう彼が、きっと。
でも、それに家畜の少女は首を振る。
自分本位で、身勝手な、そうであるが故に、生き残ることの出来た家畜は笑う。
もう、ゆめから、さめたくないなあ。
そうか。
なあ、頼む。頼むから。
このまま、ねむりたいの。
そうだ、とても、美しい夢だった。
わたしが、ひーろーになれるなんて。ねえ、とても、すてきだから。
過ぎた、夢を見れたから。
もう、ねむりたい。
(そうか。)
それに、転夜は頷いて。寒々しい、夜に、沈んで。
眠ることを、いつかに願ったとおり。もう、二度と、起きることなどないようにと、願ったそれのまま。
まぶたを、閉じた。
なのに。
「てんやああああああああああああ!?」
聞こえた声に、思わず目を見開いた。
転夜の母親は白髪だったが、祖母の黒髪が遺伝した。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも