たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
二人のその後、九十九の話
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
「・・・・・何、これ?」
轟夏雄が家に帰ってすぐに居間に入った瞬間にそういう程度の光景が広がっていた。
丁度、居間のテレビの前に仰向けの父親が横たわっている。何故かその顔は座布団で覆われている。そうして、その胸に顔を埋めて寄りかかる夢意転夜、そうして、その背中にへばりつく兄である轟燈矢の姿があった。
「にゃ゛ああ。」
肌寒さが出てくる季節のせいか、父親の腹の上で暖を取っていた蘇芳が出迎えのために寄ってくる。
「ただいま。」
蘇芳は自分の頭を撫でた夏雄の足にすりすりとすり寄る。そうして、猫なりのおかえりを住ませて満足したのかまた父親で暖を取るためにきびすを返した。
「あ、夏君、おかえり~。」
「おかえり。」
夏雄が帰ってきたことに気づいたのか、台所の方向から姉と母が顔を出す。それに夏雄はただいまと帰す。
「蘇芳の声で気づいたんだけど。やっぱお父さんにべったりかあ。」
「夏場は俺たちにべったりだったくせにな。」
「でも、冬でもお母さんにはくっつくんだよねえ。」
「えさをくれる人がわかってるんだろ。」
そんなことを夏雄と冬美が言っていると轟怜が三人に近づき、上からのぞき込む。
「三人とも、そろそろお風呂に入ったら?」
それに三人はもぞりと動くが、すぐに諦めたように疲労を感じる声で返事をする。
「・・・朝にシャワー浴びる。」
「・・・洗濯機は回しときます。」
「・・・すまん。」
「わかったわ。でも、寝るときはさすがに着替えてね?」
その光景を見た夏雄は思わず隣にいる冬美に聞いた。
「なあ。」
「なに?」
「あれ、婚約したんだよな?」
「したよー。今度、休み取って指輪買いに行くんだって!」
何故か冬美の方が明らかに弾んだ声を上げているのが不思議である。それに夏雄は思わず、死屍累々と言っていい父と兄と、姉貴分を見つめた。
「それで、なんであんなことになってるの?」
「あれねえ。」
他の家族よりも遅い帰宅をした夏雄はちらりと一人で夕飯を食べていた。そうして、そのまま横たわっている父達を見た。
それに冷が苦笑した。
「燈矢と転夜ちゃん、夜に大通りで大騒ぎしたの知ってるでしょ?」
「知ってる!学校の奴らに言われてすっごく恥ずかしかったんだからな!?」
「・・・・ごめえん。」
「・・・・悪かった。」
兄と姉貴分から力のない謝罪が聞こえる。
「それで上手く言ったのはいいんだけど。」
「燈矢兄と転夜姉があれだけ騒ぎ起したからマスコミ関係ですごい取材とか、色々大騒ぎになっちゃったらしくてね。お父さんも二人も、その火消しで大わらわだったんだってえ。」
「お父さんもビルボードチャートの件で処理が大変だったのに、それがあってちょっとキャパオーバーになっちゃったらしくて。なんとか一段落ついたから今日は帰ってきたの。」
「・・・・こんのドアホどもが。」
「ごめえええええええん・・・・」
「ごめん・・・・・・・・・・・」
三人とも、何かしらで顔が見えないが、それはそれとして疲労の感じる声で応じる。父親は顔から火を出す気力もないらしく、地を這うような声で兄たちに文句を言った。
夏雄はなるほどと納得する。何せ、急な結婚宣言の動画がSNSに拡散された後、トレンドを占領したのだ。身内としては聞きたいことだとか、色々とあったのだが連絡はまったく付かない。
どうも、二人のスマホは周りからの鬼電やらなんやらで見事に電池を削ってしまっており、なおかつ後処理で連絡も付かず。家族ラインに父親から簡潔に婚約関係になったことと、入籍などは一年後になることが告げられた。
詳しいことは直接話すことになった。
そうして、ようやく帰ってきたらしい三人は疲労困憊で居間に転がっているのだ。
(といってもなあ。)
夏雄は自分が食べた夕飯の片付けをした後、居間に帰ってくる。そうすれば、姉は風呂に行き、母はのんびりとテレビを見ながら膝に頭を乗せて喉を鳴らす飼い猫を愛でている。
父親の側に居ると猫だと分かるのだが、母の近くだと猫か疑いたくなる大きさだ。
「おーい、親父、燈矢兄、転夜姉?生きてる?」
「生きている。」
「なんとか。」
「・・・・へーい。」
三人の側に座り声をかける。そうして、夏雄はじっと三人を見つめる。
結婚するらしい。
目の前の、兄と姉貴分が。けれど、夏雄にとってはさほどの感慨みたいなものはない。
というよりも、変わることがないと言う方が正しい。
同居もしているし、二人の中など十年前から散々に知った仲だ。それこそ、実の家族並みに可愛がって貰っていた身だ。
変わるのなんて、それこそ、姉貴分の籍が入るだとかそれぐらいだろう。
まあ、といっても衝撃的と言えば衝撃的なため末っ子のヒーロー仮免の件は吹っ飛んでいったが。
当人も、兄たちの結婚に食いついていた。
お祝い何しようか~、とにこにこしながら電話してきただろう末っ子に思いを馳せつつ、夏雄はそんなことを考える。
(焦凍の、仮免祝い。旨いそばや?)
そんなことを考えつつ、夏雄は大きな体を丸めて、姉貴分の頬を突く。
「まあ、婚約おめでとう。」
「あーい。」
「ありがと・・・」
「本当に疲れてるな。というか、転夜姉はなんで親父の胸に顔埋めてんの?」
「・・・・ものすごく疲れててえ、動けなくてえ。おっぱいを感じたくて。」
「転夜あ、人はそれを胸筋と言うんだぞ。」
「いやあ、おっぱいで良いと思うよ。ふかふかしてるし。」
顔を埋めていた胸から体を離した転夜は両手でゆさゆさと父親の胸をゆする。父親は何かを言う気力もないらしくされるがままになっている。
それに父の精神的疲労の大きさを感じさせた。
「俺はこの光景をどんな気持ちで見れば良いの?」
「触る?私よりもおっぱいあるぞ。」
「それをした俺のこと、どう思うの?」
「救急車?」
「そこまで異常だってわかってるのになんで誘うの?」
夏雄がそう言えば、転夜はまるで机のように父親の胸に肘を突き体を起す。転夜の背中にもたれかかっていた燈矢も体を起す形になった。
「うーん、疲れてる!」
「そんなに大変だったの?」
「いや、マスコミについて定型文出すぐらいでまあ、いいんだけど。」
「オールマイトのおじさんと。」
「サー・ナイトアイのおじさんからの鬼電がすごくて。」
「あと、ヒーローの知り合いとか。」
夏雄の脳内には転夜のことを目に入れても痛くないほどに可愛がっている二人のおじさんの姿があった。
「・・・詰められたの?」
「まあ、色々と・・・・・」
「なんか、泣いてた・・・・・」
遠い目をした二人に夏雄は、元とはいえ№1ヒーローに詰められるのはなかなかキツかろうなと同情の視線を向ける。
「にしても、二人とも婚約関係だけど本当に変わんないね。」
「・・・・・後、一年で私も人生の墓場に足を突っ込むのか。」
「なんか聞こえてきたなあ?」
「あでででででででででで!!」
頭をがつっと掴まれてぎりぎりと握りしめられて転夜が苦痛の声を上げる。それにそろそろうるさくなってきたのか、のそりと父親も上体を起す。
「はあ、お前ら、いい加減にしろ。」
「えーん、おっちゃーん、燈矢がいじめる!」
上体を起した父親の股ぐらに転夜は滑り込む。それにイラッとしたらしい燈矢がその尻を軽く叩いた。
「うっさい!大体、プロポーズ断りやがって!」
「だってさあ、燈矢、私のこと好きだと思ってなかったからさあ。」
「はあ!?どういう了見で、だよ!?」
「私、君に好きって言われたことないもん。」
それに夏雄は思わず燈矢の方を見た。父もまた兄の顔を見た。
それに燈矢はぎくりと体を震わせた。
「お前。」
「・・・・・俺だって!ちゃんと考えたの!」
「どこがよ。」
「なになに、何の話?」
四人でそんな話をしていると、風呂から上がった冬美が顔を出した。それに転夜が仰向けになり冬美に告げる。
「燈矢が私に一回も好きって言ったことないなって話。」
「えー!!」
冬美が不満の声を上げる。そうして、父の膝に頭を乗せる転夜の足の間に体を割り込ませている燈矢ににじり寄る。
「燈矢兄、そんなことも言ってないの?そりゃあ、意識されるわけないじゃん。」
「冬ちゃん、男はそう簡単に好きとか言わないんだよ・・・」
「燈矢兄がヘタレなだけじゃん!!」
(他人に対してそこそこ傍若無人なくせに。)
(妹には負けるのか。)
次男と父がそっくりな顔をでそんなことを思っていると、燈矢がそのまま倒れ込み、転夜の腹に顔を埋める。
「ちゃんとプロポーズ用に、夜景の見えるレストランとか予約してたんだからな!?」
「すげえ典型的なとこ言ったなあ。」
「燈矢、根っこが真面目だもんね。」
「理解は出来るが、転夜の場合焼き肉屋のほうが嬉しいんじゃないか?」
「・・・・お父さん、今はそういう話をしてるんじゃないから。」
哀れなおじさんは娘の一言にショックを受けて切なそうな顔をする。そうして、冬美は同意を求めるために母に叫んだ。
「お母さんはどうおもう!?」
それに冷はニコニコと笑い、そうして喉を鳴らす飼い猫の頭を撫でた。
「お母さん、経験がないからわからないわ。」
どすっと父親に何かが刺さったのが側に居た子どもたちには手に取るように分かった。
「クリティカル入ったな・・・」
「お母さん、この頃、お父さんとのぎりぎりを見極めるチキンレースでもしてるの?」
「事実は事実だから私たちにはなんとも。」
「それを言い出したら、お父さんがお母さんに好きって言うの聞いたこともないしねえ。」
「・・・・場を一度もうけた方が。」
「さあ、考えてみてくださいね?」
父親がそんな母の前で縮こまっているのを横目に、燈矢のスマホが震えた。
「・・・・焦凍、文化祭するんだって。」
「へえ、いいなあ。」
「雄英の文化祭面白いもんねえ!」
「でも、今、やっていいの?自粛しないわけ?」
「まあ、文化祭の華はヒーロー科以外だからな。ああいうので目立って、就職とかに活かす部分があるし。その代わり、外部は入れないけど。」
「えー、残念!」
「懐かしいな、私らの時は男装女装喫茶だったねえ。」
「・・・・転夜姉がチェキで荒稼ぎしてたあれ。」
「なあなあ、燈矢。」
「なんだよ、マスコミ関係は終わったけど、明日も早いんだからさっさと寝ろよ。お父さんも、明日用事で出るらしいから、SKもいるけど俺たちだけなんだぞ?」
燈矢はそう言ってごろんと隣に寝転ぶ転夜を見た。
男の姿のせいか父親並みに体格がよく、体も分厚いが表情や仕草などは転夜のため妙に愛嬌がある。
さすがにある程度思春期を越えた折に、男女で寝るのはということで対策としてその時間だけ男になっている。
女の時よりも、低くて艶のある声で転夜は楽しそうに言った。
スマホで次の日の予定を確認していた燈矢のことを甘えるように目を細めて見上げる様は下手な女にされるよりもどきどきと胸が鳴る。
けれど、ぐうっと伸びをして寝転がる様は怠惰なネコ科か、イヌ科か。
「今、私たち婚約関係なんだよね。」
「何回も言っただろうが。」
婚約指輪を買いに行く約束もした、婚姻届も名前を書かせた。
すでに首輪ははめた。
まあ、色々と不本意な部分が多いのは事実だが。
燈矢は転夜が投げ出した左手を掴んだ。そうして、ぐるりと薬指にリング状についたそれを嬉しそうに指先で撫でる。
けして、取ることの出来ない指輪。自分の元のだという証。
(お父さんは結婚指輪、付けてないよなあ。)
まあ、ヒーローという職業柄的になくしかねないものであるし。個性が個性なら溶かすことさえ考えられるのだ。
だから、そこまで結婚指輪とか婚約指輪だとかに憧れだとか感慨はないのだけれど。
自分がする立場になれば最高だと思う。
(お父さんも付ければ。ないか。でも、大事にはしてるみたいだけどなあ。でも、これ良いな。どいつが見たって、俺のものだって分かる。素敵、最高。)
転夜は不思議そうに燈矢が自分の左手を持つ様を眺めていたが、おもむろに口を開いた。
「婚約したけど、なんか変わるの?」
「はあ?そりゃあ、関係性がはっきりしたろ。もう、お前はうちの居候じゃなくて家族になるんだ。オールマイトのおじさんとこの子ってだけじゃなくなるんだ。」
「それは、すでにそうと言えばそうでしょう。」
「変わるんだよ。大体、お前だって法的には籍入れといた方がいろいろと便利なんだからな。」
「法的拘束力が欲しかったなら、おっちゃんの養子に入ればよかったじゃん。」
その言葉に燈矢はむすっと顔をしかめた。けれど、ふと、思い立つ。
そうだ、自分たちは婚約関係。そう、恋人。ならば、と燈矢はぐいっと転夜に覆い被さり、そうして唇を重ねた。
柔らかな感触に、燈矢はばっと体を引き離した。
「こーいうことだって、できるんだからな!!」
なんだろう、思った以上に恥ずかしい。
顔にみるみるうちに熱が集まる。文字通り、顔から火が出そうだ。
けれど、仕方がないだろうと燈矢はぐっと歯をかみしめる。
何せ、悲しいかな。
轟燈矢、未だに童貞だ。
恋人もいなけりゃ、そういった行為をしたこともない。驚くべき程の潔癖さ。
父親そっくり~、と転夜が言っていそうな燈矢である。
かれこそ十年振り回し、振り回された女であれど、ようやく叶った初恋に感慨とこんなことを堂々としている自分がものすごく恥ずかしいと思う。
燈矢はまともに転夜の方を見れなかった。
「・・・・なるほど。」
転夜の声がしたと思うと同時に、燈矢は軽い衝撃と共に倒れ込む。それと同時に、腹の辺りに重さと熱を感じる。
「なら、もっと色々他にもするかい?」
「は?」
目の前には己に乗っかる、女に戻った転夜がまるで雑談を始めるときのような気楽さで燈矢のことをのぞき込んだ。
「い、色々?」
「男女でやることってまあ、もっと色々あるじゃん。確かに、婚約したし、結婚するならもっと色々してもいいよね。」
明らかに、なんだかとても朗らかにそう言った。燈矢は固まった。何せ、腹というか、きわどい部分に柔らかい肉があたっている。
それに反応しそうになる自分も、ある程度年頃の男だったのかという驚きを頭の隅に感じつつ、燈矢は目の前の女を見た。
「どうしたの、燈矢?」
「お、お前、なんでそんな平気そうなんだよ!?ま、前、キスしたときはあんなに顔真っ赤だったくせに。」
キスの辺りで蚊の鳴くようなかすかな声になっているのが、そのヘタレさの証か。
それに転夜はきょとんとした顔をした。そうして、うーんと頷いた。
「あのプロポーズ以上に恥ずかしいことはない!」
力強くそう言うと、転夜は寝間着のせいではっきりとわかる胸を揺らして、燈矢のことをのぞき込む。
「それで、どうする?しようか?いや、私も経験ないから何をどうと言われるとそこまで詳しくないんだけどね。
暖かくて柔らかいものが己の上で動いている。それに燈矢の顔にみるみる熱が集まっていく。
「す、するって。そんな、お前・・・・」
するのか?ここで?今?
体を退かせようかと思う。そうだ、胸なんて目の前のそれがひっついてくるときに散々押しつけられてるだろうが。密着なんてよくあること。
(いや、出来るか!!)
かっと見開いても、見下ろされているせいで胸が揺れているのが見える。改めて意識すると色々と反応してしまう悲しい男の性を感じる。
「は、離れろよ・・・・」
弱々しく体を押そうとするが、柔らかな体の感触に胸がバクバクとなる。昔、男になった転夜に押し倒されたときのことを思い出す。
そうだ、今は自分は男だし、相手は女。押し返すなんて、出来るはずで。
なのに、自分を見下ろす、その楽しそうな目にばくばくと心臓が鳴る。
「やらないの?」
「い、今はそう言うのじゃ無くて。て、転夜は、嫌だとか思わないのかよ!?」
「どうして?」
転夜はきょとんとした顔をした後、燈矢の顔の左右に手を突いた。
「私は、ずっと言ってたよ。君のことが好きだって。」
「い、言ってたけど!お前、誰にだって言うじゃん。」
それに転夜は体を起し、うーむと唸る。
「まあ、好きだったことは素直に伝えておくべきだというのが私の信念だからね。でも、君についてはずっと特別だったと思うよ。」
(まあ、好きという感情が、恋心かと言われると。感情が交ざりすぎてなんとも言えないが。)
転夜はそんなことを考えつつ、ちらりと顔を真っ赤にして自分を見上げる燈矢の顔に気が変わる。
(ま、いっか。)
転夜はいそいそと可愛い男の手を自分の胸に持っていく。
むにゅりと、確かな重量と柔らかさを手のひらで感じる。
「ば、ば、ば、ば、ばばばばばばばば!!!!」
「君があの時、私のことを諦めなかった時点で、私は君のものだよ。だから、君の好きにしていいし。君に好きにされるなら私は構わないよ?」
甘ったるい声がする。自分を見つめて、何故か、加虐心に満ちた金目銀目が自分を見下ろして弧を描くように見つめている。
まるで、全身をまさぐられるような、そんな過敏なほどに何かを感じる。
ばくばくと、心臓が早鐘のように鳴っている。
どうすればいい?
どうしてしまえばいい?
何故か、自分が捕食されるような、そんな感覚がある。
固まった燈矢に転夜は不思議そうな顔をする。
「うーん、もしかして、燈矢って女の子側がやりたい人?」
「はあ!?」
驚愕した声に転夜は自分の胸に押しつけていた燈矢の手を離す。そうして、おもむろに燈矢の鍛えられた腹筋をまさぐる。
「うーん、男同士でやるとなあ。色々と、入れる側が負担大きいんだよねえ。」
「な、なんで、そんなこと知ってるんだよ。」
「男同士の燈矢と私がそういうことしてる絵とか色々SNSで流れてくるからさあ。」
それが何かを理解してしまう。故に、ぐっと歯を食いしばる。
「私さあ、男になると色々大きいからなあ。燈矢のお腹に入るかなあ?」
つっと、まるで長さでも測るように転夜は燈矢の腹を指で一線なぞる。見ていない、けれど、その撫でられた感覚でその大きさを理解してばくばくと更に心臓が鳴る。
何か、何か言わないと。
否定だろうと、拒絶だろうと、言えばきっと止めてくれる。
なのに、言葉が出てこない。腹を撫でて、己を可愛がるように探る転夜から目を離せない。
「うーん、でもなあ。やっぱり男同士は燈矢の体に負担過ぎるかな?ねえ、燈矢、男の子で抱くのは難しいから、女の子になってもらってもいい?そっちのほうが負担が少なそうだし。」
「お、んなの、こ?」
「そうそう、大丈夫、ちゃんと優しくしてあげるから。」
ね?
かりっと、転夜の爪先が自分をひっかくのを感じた。
それに、燈矢の目からぼろっと涙が零れた。
転夜はそれにぶわっと、それこそ驚いた猫のように目をまん丸にした。
「と、燈矢!?どうしたの!?」
転夜は燈矢の上から退き、そうして抱き起こす。
「どうしたの?重かった?」
慌てた転夜のそれに、燈矢はまたか細い声で、涙混じりに言う。
「・・・・・じっかで、したくない。」
「そ、そうだね!?ばれたら気まずいもんね!えっと、このまま寝る?一人で寝たい?」
「いっしょにねろ。」
「よ、よし、わかった。今日はもう寝ようね!」
そのまま二人は共に眠った。何故か、自分が腕枕をして燈矢を寝かせていることに疑問に思いながら、転夜は眠りにつく。
そうして、次の日起きた時、転夜は燈矢に思いっきり尻をひっぱたかれた。
「いやあ、思ったよりも早い到着でしたね。」
「色々とこちらも頑張ったからね。」
「ふふふふ、それはそれとして。元№1ヒーローと、次期№1ヒーローからのご指名なんて。震えちゃいますね?」
にっこりと笑ってガラス越しに九十九は面会にやってきたオールマイトとエンデヴァーに微笑んだ。
九十九との面会が早々と終わったのは、偏に彼の立場は微妙な部分があるためだ。
彼は逮捕はされたものの、物的証拠などはなく、さりとて、ヒーロー相手に個性を使ったのは明白なためそれ相応の罪状はあるのだ。
けれど、タルタロスに収容されなかったのは、その微妙な罪状と、彼の血縁が判明したせいだろう。
当初は、タルタロス行きだったが、証拠の事情と、AFOの近くに置く危険性を考えて収容場所が変更された。
それでも、厳重な管理下には置かれている。
エンデヴァーがオールマイトと合流して面会に来たのは、男の目的を探るためだった。
それでも、面会部屋にてガラス越しに向かい合った青年はにっこりと微笑んだ。
拘束されてなお、穏やかに微笑むその様は何を隠しているのか分からなくさせる。
「・・・・おや、待ち望んだ顔合わせなのに、もっと微笑んでくださってもいいんですよ?」
「君の目的は何だ?」
「目的なんて。特別には?こちらとしては何の理由もなく急に逮捕されて困ってるぐらいなのに。」
「・・・・俺たちが言いたいのは、お前と、お前の父親との関係だ。」
「おや、親父もそちらで監視されているはずですが。」
のらりくらりと躱すその言い方にエンデヴァーから怒気があふれる。それをなだめつつ、オールマイトが更に口を開く。
「・・・・少なくとも、君はこちら側の人間であるはずだ。」
「おや、それは何故?」
「ヒーロー名、デクの個性が覚醒した。先代達から伝言だよ。君はこちら側の人間だと。」
その言葉に、九十九は少しだけ動揺するように動きを止めた。そうして、エンデヴァーとオールマイトを探るように見つめる。
それにエンデヴァーが重ねるように言った。
「・・・今はあの子の個性的に制限があるから無理だが。お前の娘については転夜の、そうして、うちで暮らすことになるだろう。」
「君は、それが目的なんじゃないのかい?」
「・・・何故?」
「君の動きを見れば見るほど、壊理ちゃんに焦点を当てさせている。サー・ナイトアイに言った言葉も、わざわざ私たちに言うことでも無いはずだ。そうして、君はサー・ナイトアイを殺せたはずだ。けれど、君はそうしなかった。」
転夜は二人に何も告げなかったが、二人も愚かではない。今回の件を洗い出せばおかしな部分が多すぎる。そうして、その中心には確実に彼の娘が存在した。
「彼は?」
「目に問題はあるけれど、有用な個性が使える医者が見つかってね。」
「・・・・セントラル病院の方ですね。」
「知っているのか?」
「情報とはいつだって命綱になります。彼は有名ですからね、若くして外科医として高名だ。なので、まあ、知ってはいますよ。有用な個性ですし。」
「・・・・貴様の目的は、己の娘の保護だったんじゃないのか?」
「君の、父親から守るために。」
九十九はそれに少しだけ小首を傾げ、そうして口を開く。
「それで?私の目的が分かったのなら。何故、わざわざこちらに?」
「君はどこでAFOについて知ったんだ?転夜君は、そのことを知らなかったのに。」
「私はこれでも日陰者ですよ。若い奴らはともかくとして、裏の年寄り共は怯えていましたよ。少なくとも、施設ではあの名前はよく聞いていました。私は、彼の子どもたちの中で一番に優秀な個性を持っていたので。」
ゆったりと微笑んだ後に、九十九は息を吐いた。
「・・・・出来れば、関わりたくなかったんですが。ヴィラン連合なんて出てきて。私のことがばれる可能性は十分にあったので。あの子の個性は、十分に魅力的でしょうから。」
「ヴィラン連合に関わったのは?」
「偶然ですよ。偶然。サー・ナイトアイがこちらに目を付けていたのは知ってましたが。これを機に一網打尽にしていただこうと思ってはいたけれど。失敗でしたね。」
諦めたように息を吐く九十九に、オールマイトは懸念するように問いかける。
「なら、君が作った、個性因子を消す薬物は嘘だったと?」
「さあ?証拠はないですからねえ。まあ、相手は今後、どんなものを手に入れるかは。私にも分からないので警戒はした方がいいのでは?」
そのことばにエンデヴァーが怒り狂って叫ぶ。
「それは薬が本当だといっているようなものだろうが!」
「さあ?そう受け取られても私としては困るのですが?」
狐のように意地悪そうに笑うその様は確実に、個性を消すという厄介な薬が本当であることを示していた。
「どこでどうやって作ったんだ!?」
「だから、私には覚えがないんですよ。証拠もないのにそんなことを言われても。困ってしまいます。」
そういって、目尻が下がるその仕草が転夜によく似ていて、余計にエンデヴァーを苛立たせる。
「貴様!」
「エンデヴァー君!ここ室内!下手したらスプリンクラーだよ!」
オールマイトの言葉に、エンデヴァーはぎりぎりと歯ぎしりをする。オールマイトはエンデヴァーをなだめながら、改めて九十九に視線を向ける。
「・・・君が薬を作っていないとして。君には娘のこと以外に目的があるんじゃないのかい?君の部下である治崎や側近達の行方は知れない。彼らはどうなんだい?」
「さあ?組がああなっていますし。雲隠れしても仕方がないのでは?」
「言う気はないんだね。」
「・・・・少なくとも、私にはヒーローは訪れませんでしたので。」
一人の、初老の男が九十九を見下ろしている。
お前、名前は?99?なんだそりゃ、名前じゃねえだろうがそんなもん。はあ、よし、俺が名前を付けてやろう。そうだ、つくも、お前は九十九だ。
大きな手が、ろくに風呂にも入っていない、汚れた頭を撫でる。
いいか、物だって長いこと使えば魂が宿るんだ。お前も、そうだ。きっと心の底から笑えるようになるさ。
「それで?聞きたいことはもういいのですか?なら、お帰りくださいよ。」
陽気そうに笑うそれにオールマイトは目の前のそれに何か、己の宿敵と同じ、何かを感じる。人を食ったかのような、平気で嘘をつき、偽るような、そんなにおいが。
「なら、もう一つ聞かせて貰おう。君が奪った個性についてだ。」
「あー、あれに関しては。まあ、時間が経てば治りますから。」
「君の個性は!」
「あの男のものは継いでいませんよ。ええ、そうであったなら、私はここにいませんでしたし。」
あきれたような声の後、九十九は口を開く。
「私としても、お聞きしたんですが。あの子に、父親のことをいつまで隠して置く気なんですか?」
それに二人の顔が強ばるのを見て、九十九はあきれたように息を吐いた。
「いつか、知ることになれば傷つくのはあの子ですよ。」
「言えるわけがないだろう!?」
「何故?あれは自分の父親が善人でないことなんてとっくに知っているでしょう?いいえ、それよりも、あの子が知るべきなのは、死柄木弔との関係、ですかね?」
「どこで知った!?」
「はははは、知っていますよ。私と、あなたたちぐらいでしょうけど。あの男はその事実を上手く使いますよ。先に知らせておく方がずっといいと思いますが。」
「・・・・言えるわけがないだろう。」
エンデヴァーは絞り出すように言葉を吐き出した。
「あれは根本的に臆病なんだ。世話になったオールマイトを傷つけ、今現在、あそこまで有名になった死柄木との関係性を知れば。確実に、孤立する選択をする。」
「その選択をさせないのが、あなた方の役割だと思いますが。」
「なら、君はこれ以上あの子に重荷を背負えと言うのかい?」
「言うでしょう。それが血の業だ。産まれたときからそうあれとする。それに、あれもそれを知った方がいいと思うんですけどねえ。誰もが己の地獄を持っているというのなら。あれもまた、そうであるという話です。」
九十九はそう言って、ちらりと二人を見る。
可愛がる、愛しい娘を傷つけたくない親心。
(人のことを言えた義理でもないか。)
己もまた、母を殺した娘の業を忘れさせて、ここにいる。
結局、二人は望んだことを知れずに九十九との面会を終えた。
それについてはいい。
まあ、彼がこうやって牢に入ったのはまったく別の理由がある。
それが、今日、ようやく叶う。
「・・・・ご指名、どうもありがとうございます、とでも?」
「あはははは、そんな嫌がらないでくださいよ。可愛いあの子が結婚して、あなたも嬉しいでしょう?ねえ、ホークス?」
面会に来た男に九十九は穏やかに微笑んだ。
文化祭ねえ。そう言えば、うちのクラスで一回男装女装喫茶をして伝説になってる代があるわよ。
・・・それって。
ブルーフレイムとアシストね!すごかったわよ。
男装のアシストと、女装のブルーフレイムでねえ。
ですが、ランチラッシュ以上の食べ物は難しいのでは?
ああ、その時の目玉はね、チェキだったの。
・・・チェキ?
そうそう、軽食とか、お茶とかも出してたんだけど、目当てはチェキでね。一枚百円で好きな相手と写真が撮れるんだけど。二百円出したら、性転換した相手とチェキが取れてね!いやあ、えっぐい稼ぎたたき出してたわよ、アシスト。
・・・・己の売り方を分かっている。
あと、喫茶のウエートレスだけじゃなくて、同じようにお金を払えば好きな人を性転換して写真を撮れるって言うのも売れてねえ。そういえば、このクラスのショートも来てたわよね?
はい、来て、二人の写真も撮りました。
・・・・ブルフレも女装を?
まあ、さすがにスカートとかは入ってなかったけどな。ピンクのジャージみたいなやつと、猫耳と、あとふりふりエプロン付けてたなあ。転夜姉はかっちりした執事服だったぞ。
うーん、個性の使い方を理解している。
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
-
二次創作だし、いいんじゃない!
-
一周回って見たい!
-
番外編で留めておけば?
-
いっそ、兄弟増やそう!
-
どっちでも