たぶん、ヴィランが親らしいが。それはそれとしてヒーローの子どもの方が気苦労が多い。 作:幽
燈矢と転夜のもやもや
何か、こういったの読みたいとかありましたら、ここにくだされば。何か、アンケートというか、興味です。
https://odaibako.net/u/kasuka_770
轟燈矢にはずっと疑問だったことがあった
己の父はどうしてヒーローになったのだろうか?
燈矢は最初、父親の言う理由に納得していた。けれど、何か、彼の中で疑問が擡げたのは夢意転夜と話をしているときだった。
「おっちゃんがヒーローになったのって、おっちゃんの親が関係してるのかな?」
脈絡もなく語られたそれに、燈矢は顔をいぶかしげにしかめた。
「お父さんは強くなりたくてヒーローになったって言ってただろ?何でだよ?」
「いや、なんで強くなりたかったって話じゃん。」
「・・・・向上心?」
その言葉に転夜は燈矢に表面を炙って貰ったパンにかじりつく。丁度、遅めの昼食をパトロール最中にビルの屋上に座って食べている途中のことだった。
「いや、例えば、まっさらな状態で向上心があったとして、なんで強さを鍛えるかって話じゃん。まあ、強くなるぞって男の子としては普遍的かもだけどさ。社会的成功なら別の切り口もあったし。それならそう答えるだろうし。強さを臨むならさあ。」
一度でも無力さを味わったことがあるってことじゃないの?
何か、それは、考えたこともないような話だった。
燈矢が固まっているのを横目に、転夜はパンを咀嚼しながら続ける。
「・・・・おっちゃんさ、話しても意味ないことは自分から話さないけど、聞けば、自分にとって相当嫌じゃなければ話してくれんじゃん。でもさあ、おっちゃん話さないんだよねえ。お父さん達のこと。」
「・・・・話したくないことがあるってこと?」
燈矢は持っていたパンを握りしめてビルから下を見下ろす。
考えれば、確かにそうだ。
氷叢の家については燈矢も知っている。今ではあまり交流はない。それも燈矢には事情は知らされており、いいや、察しており、あちらからの金の無心が多くなったことで交流を最低限にしている面がある。
燈矢は、昔に聞いた、父と母が婚姻した理由を己に言った親類のことを思い出す。
白銀の髪に、黒の瞳、母とよく似た、誰か。
嫌になるほど、自分によく似た、その面立ち。
「・・・燈矢?」
「え、あ、うん・・・・」
「どったの?パンの気分じゃないの?私のおにぎりと変える?」
「いいや、違う。いいよ。」
「そう?ならいいけど。それでさ、今住んでる家っておっちゃんの生家なんだよね?それでさ、前に私が穴蔵創るときに荷物とか色々整理してるときにアルバム出てきたんだよね。おっちゃんの子どもの頃の奴。」
「え、まじ!?」
「うん。ぱらっとしか見なくてさ。それ、おっちゃんに報告したら。なんか、すっごくこわい顔して持ってちゃってそのまんま。」
「なんでそんなことあったのに言わないんだよ!?」
「だってえ!」
転夜は下唇を突き出して、何か、気まずそうに呟いた。
「・・・・なんか、すっごくさあ。子どもみたいな顔をしてたから。」
「子どもぉ?」
「あ、信じてないな!?」
「だって、お父さんだぞ!?」
「ほんとだよ!なんか、驚いて、固まった子どもみたいな顔をしてから。」
何も言えなくなっちゃった。
その時、その時の、転夜の目は、とても静かで。
それに、燈矢は、ああと思った。
それは、理解している目だった。その時の、子どものようだったと表現した顔の意味を、全てではなくても本質だけは理解している目だった。
「・・・・おっちゃんも。」
「え?」
「おっちゃんも、お父さんを知らない子どもだったのかな。」
ぽつりとこぼした、転夜の言葉が、何か、やけに耳にこびり付いていた。
聞こうと思えば聞けたのだろう。
別段、おかしなことではない。己の祖父のことを問う。おかしなことではないのに、何か、転夜の言った言葉が耳に付いた。
父を知らない子ども。
仏間にある遺影だけが祖父母の痕跡だった。
父に似た体格の温和そうな顔立ちの男性と、父によく似た鋭い目つきをした女性。
父の両親にしては、あまりにも若い見目だった。
仏間なんてそうそう入ることもないのだから、幼い頃は見向きもしなかったそれら。
父を、母を、知らない子ども。
一度だって、父から聞いたことのない彼ら。
それに転夜の言ったヒーローになった理由というのがまざまざと血が通ったような気がした。
いつか、聞こうと思っていた。聞かなくてはいけないときが出てくる時があると思った。
それが、今なのか、燈矢にだってわからないのに。
(ああ、だめだった。)
そんな感想が頭に浮んだ。何せ、その、父の顔。
転夜の言ったとおりの顔だった。子どものような顔だった。
子どものような、そんな、拙い顔をしていた。
きっと、今するべき話ではなかったのだと、まざまざと理解できてしまった。
「お父さん?」
恐る恐る話しかけた燈矢のそれに、炎司は我に返ったかのような顔をした。そうして、何かを口にしようとして、けれど、吐く言葉を失ったかのような顔をした。
それが、全ての答えだった。
ああ、と分かってしまうだろう。
父は、父の両親のために、どんな理由かは分かりはしないが、ヒーローに、強くなりたいと願ったのだろう。
「・・・・・ごめんね。」
「な、にを・・・・」
「俺、お父さんに望まれたのに。結局、オールマイトのこと、越えられなくて。」
ぼたりと、自分の頬に情けなく温かいものが流れていくのを燈矢は理解できた。いつかに、父の来ない山の中であふれ出るそれを拭って以来のそれ。
ああ、情けない。情けない。
(なんで、今。)
今、どうして問うてしまったのか?
だって、そうだろう。
自分は、間に会わなかったのだ。
オールマイトの引退が決まったとき、転夜のことですっかり置き去りにされてしまったけれど。
その事実を前にして、燈矢は、あーあと。
間に会わなかったと、そう、思った。
間に会わなかった。
父にそうあれと望まれ、そうなれるように努力して、走ってきた。
オールマイトを越えるような、そんな強い、転夜が望む、輝かしい生き物に。
なれなかった、なりたかった、なれない。
思考の隅で、そんなことをぐるぐるをかき回した。
未だ、父のことさえ追い抜けない自分。父の望みを成就できなかった自分。
あの日の絶望が、じりじりと燈矢の精神をとろ火で炙るようにかき立てる。
父からの願いだったのに、会ったこともないけれど、父の両親からの願いであったはずなのに。
願われて、祈られて、それでも産まれてきた己なのに。
そんな願いを、自分は、叶えることが出来なくて。
情けない、なんて、情けない話だろうか。
無邪気な好きな女の子の顔を思い浮かべる。その子が無邪気に笑うのだ。
君はきっと、居るだけでみんなが目を細めるような、輝かしい生き物になるんだ。
はしゃいだ声を覚えていて。
あの子は、どう思っているのだろうか。
希望して、期待してくれているのに。なのに、なれない自分。
分かっている。
あの子はきっとそんなことを気にすることはないのだろう。ないとしても、願われた者になれない己が燈矢は嫌いで。
この人は、自分を作ってよかったと、そう思ってくれているのだろうか。
目をそらしていた。それでも、目をそらして、考えないようにしていたのに。
父が壇上に上がるのを見た時、わき上がるように考えてしまった。
「お父さん、俺のこと・・・・」
「何も言うな!」
燈矢の言葉を遮るように炎司は口を開き、燈矢の肩を掴む。月の光の中で、ぼんやりと、自分にまったく似ていない赤い髪が揺れている。
けれど。
燈矢ってさあ、目の色はおっちゃんと同じだよね。燈矢の炎みたいな、青い、目。
目だけは、言われた通り、まるで鏡写しのように澄んだ青い瞳が自分のことを見つめている。
「でも、俺は・・・・・」
「燈矢、俺は№1になった。」
その言葉で燈矢はゆっくりと炎司を見上げた。
「不本意な結果だ。この№1は、オールマイトを越えたという証ではない。ただ、あいつがこの席から立ち上がった故の結末でしかない。だからこそ、だ。俺は、これから、オールマイト以上のヒーローなのだと証明する。」
炎司は燈矢のことを見つめた。
「燈矢、俺を見ていてくれ。お前に、お前達が誇れる父であると、ヒーローであると、証明をしてみせる。」
俺を見ていてくれ。
願うようなその言葉に、燈矢は自分を見ている父を見た。
いつかに、自分を見ていて欲しいと想った人が、今度は自分に見ていてくれと願うのはどこか矛盾しているように思えた。
「燈矢。」
「なに?」
「そうして、俺を越えてくれ。」
その言葉に燈矢は気まずさから下に向けていた視線を上げた。そこにはひどく、真剣な目をした父がいた。
「オールマイト以上になった俺を越えて、俺以上のヒーローになってくれ。燈矢、お前になら出来る。」
それは、信じているのだと。父は、己がそうであるのだと、信じているのだ。
ああ、大丈夫だ。
まだ、証明できる。
作ってよかったと思えるような、あの子が望むヒーローになれるのだと、その証明をする機会はまだ残っているのだ。
それに、燈矢は今までの全てを飲み込んで、頷いた。
「当たり前だろ、俺、お父さんの子どもなんだから!」
炎司ははあと息を吐いた。
(・・・・答えるべきだったのだろうか。)
父のことを聞かれたことはなかった。元々、炎司の元々の態度のせいで子どもたちが炎司の両親について聞いてくることはなかった。
強いて言うのなら、一度、転夜が問うてきたことがあった。
「おっちゃんのお父さんってどんな人?」
「・・・・どうして、そんなことを聞いてくる?」
その時、淡々と答えることが出来たのは、偏に転夜がとても気軽な声で聞いてきたせいだろう。どうしても知りたいことはもっとはしゃいで来るだろうから、適当に躱せば興味は移ると考えた。
「えー、うーん。仏間にね、写真が飾ってあるでしょ。遺影っていうのかな?優しそうな人だなあって。あと、夏君に似てるね!」
その時、炎司は何か、あの担架から伸びた手ではなくて、その時だけは穏やかに微笑む父親の姿を思い浮かべた。
そんなものだから、一言だけ返事をした。
「ああ、優しい人だった。」
それに転夜はにこおと、まるで子どもたちが見ながら笑っていた微笑む犬のような、そんな笑み。
「そっか!なら、夏君はおじいちゃん似だね!」
そう言って、笑う少女の顔を見て、そうだなと頷く頭の中で誰かが囁く。
だから、あの人は死んだのだろうと。
頭痛がする気がした。
痛みがあるような、何か、立ちくらみのような思考のねじれを感じる。
強くならなければ、強く、ならなければ。
何故か、この頃思い出さなかった、担架からこぼれ落ちた血みどろの手を思い出して。
話すべきだったのだろうか?
父の話、もう、遠く、声も顔も、ろくに思い出せない。ただ、思い出すのはあの日担架から伸びた手だけだった。
肉塊になった後のことだけが鮮明に頭に焼き付いている。
語れるのだろう。けれど、もう、父を語る時、自分の口から出るのはあの時の無力感だけだ。
それを語るのは違う気がした。違う気がするから、語れない。
強くなりたかった理由を、別に話したって構わない。
弱ければ何も出来ないのだと、子どもたちに語るのは間違っているのか?
けれど、轟炎司は語れないのだ。
もう、轟炎司に語れるのは、あの日、肉塊になった弱者の話だけだから。
幾度も、思い出すのがそれだけで、頭に焼き付いたのはその事実だけで、父について語りたかったものはとっくに己の手からこぼれ落ちていて。
「・・・・あ。」
ふらふらとそんな思考に閉じ込められていた炎司の耳に、誰かの声が聞こえた。
それに視線を向けると暗い廊下の中に自分の姿がぼんやりと浮かび上がっていた。
何故か、緑色にぼんやりと光るエンデヴァーの顔が暗闇に浮んでいた。
それに今まで全てがぼんと抜け落ちて、炎司は思わず肩をびくりとふるわせた。
「おっちゃん?」
「て、転夜か!」
それは自分の寝室の前に立つ転夜の寝間着だと理解した。
「・・・・どうした。」
今までの思考は一気に吹っ飛び、炎司は自分の顔面Tシャツ(蛍光機能付き)に視線が奪われる。
切実に炎司はそれを着て欲しくない。何が悲しくて、身内が己の顔面Tシャツを着ている様を眺めなくてはいけないのだ。が、外で着られるよりもましだろうという心の声でそれを必死に飲み込む。
(・・・・分かってはいるが、改めて見るとさすがに。)
転夜が着ているのは、某子供用パジャマよろしくプリントされた自分が光るというTシャツだ。
何せ、それを来て転夜が近所を走り回るせいで、この辺りではエンデヴァーが何かあれば飛んでくると都市伝説になっているらしい。
炎司は何か、違う意味で心臓が鳴っている気がした。
転夜は珍しくしょぼけた様子で炎司を見上げた。
「・・・・おっちゃん、今日、一緒に寝ていい?」
それに炎司は考える。今までの燈矢の諸諸が思考の隅に追いやられ、今の正しい対処について考える。
今までのことを考えれば、頷くべきだ。普段、燈矢と寝ている存在がわざわざ自分にそう言ってくるということは何かしらのことがあったということだ。
(・・・・サー・ナイトアイの件のとき、夜泣きの再発を覚悟したが。今になって、そんなことを言うなら。)
だが、目の前の存在はすでに二十過ぎだ。さすがに添い寝はアウトだろうと、炎司の中の常識がいっている。
だが、目の前のそれをこのまま追い返すのは絶対によくない。何がよくないかは分からないが、今まで積み上げた経験がよくないと告げている。
「燈矢には。」
「メッセージに入れてきた。」
じいっと上目遣いに自分を見てくる金目銀目に炎司はため息を吐いた。
「入りなさい。」
それに転夜はぱああと顔を輝かせた。そうして、にこにこと笑いながら障子を開けて部屋に入る。部屋には布団が二つ敷かれており、炎司が寝ている特大の布団の隣には冷がすでに寝入っている布団がある。
元々は別の部屋だったが、一つにまとめた方が掃除が楽だからといつからかまとめてしまった。
といっても、毎日家に帰るわけでは無い炎司なので、一人で寝るのとそう変わらないのだが。
転夜は冷を起さない配慮なのか、にこにこ笑って、とんとんと布団を叩く。
それに炎司はため息を吐きつつ、冬眠明けの熊のようにのっそりとした動きで布団に入り、仰向けになる。そうすれば、転夜はもぞりと布団に潜り込み、炎司の脇に頭を入れ込むような形で寝入る。
おかげで片方の横っ腹の辺りがやけにぬくい。
(寝苦しくないのか?いや、それよりも、臭わないのか?)
頭の中でぐるぐるとするが、この状態なら夜泣きになってもスムーズに動けると無理矢理に納得させて眠ろうとした。
けれど、布団の中からこそりと転夜が話しかけてくる。
「ねえねえ、おっちゃん。」
「・・・・早く寝なさい。」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ、ね?」
それに炎司は手を転夜の首元に持っていこうとした。それは子どもの頃から首元を暖めてやるとすぐに眠るのだ。
「あのね、おっちゃん。私さ、おっちゃんの役に立ってる?」
炎司はそれに目が覚めるような気がした。
それに気づかないのか、転夜はとつとつと話をする。
「・・・結局、燈矢、オールマイトのおっちゃんを越えられなかった。私、頑張ったけど。でも、結局、繰り上がりで。」
布団の中からぼそぼそと聞こえてくるそれに炎司は少し前の息子との会話を思い出し、息を吐く。
「・・・・立っている。」
「本当?」
小さく返答すれば、間髪入れずに転夜が問うてくる。それに炎司は布団の中をまさぐり、ぐしぐしと転夜の頭をかき混ぜた。
「・・・・俺たちがオールマイトを越えられなかったのは、俺たち自身の問題だ。」
「でもさあ。私をさあ、おっちゃんがさあ。」
「だから、これから、俺は強くなる。見てろ。」
不機嫌そうにエンデヴァーは答えると、一瞬間を置いて、布団の中から楽しそうな声が聞こえてくる。
「いひひひひひひひひひ・・・」
引きつり笑いのようなそれに炎司はなんとも言えない顔をする。それと同時に、脇腹にぐりぐりとおそらく頭だろうものがこすりつけられるような感覚がした。
「おやすみ。」
「・・・早く寝ろ。九州に一緒に行くんだろうが。」
「はーい。」
少し甘えたような声の後、静かになる。そうすれば、すぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。いつも、驚くような寝付きの良さだ。
炎司もまた眠ろうかと目を閉じようとしたときだ。
「・・・今日、泣くのかな?」
突然聞こえてきた声に、炎司はまた体を震わせ、そうしてその元であるだろう冷の方を見た。そうすれば、いつの間にか炎司の方を向いていた冷がじっとこちらを見ていた。
「お、きてたのか?」
「いえ、目が覚めてしまって。」
「そうか、五月蠅くして悪かったな。いつからだ?」
「お父さんと転夜ちゃんが廊下で話してたときに。」
最初からじゃねえかと炎司は思ったが、自分の声がデカかった自覚はあるので一旦置いておいた。
「・・・・わからん。ただ、オールマイトやサー・ナイトアイのこともある。兄の件もあるし。可能性としてはあるだろうが。どうする?部屋を変えるか?」
「いいえ、お父さんこそ大丈夫なの?明日、早いのに。」
「俺は移動中に睡眠を取れば良い。ただ。夜泣きをした場合、こいつを連れて行くかどうかだが。まあ、泣くかどうかはまだわからん。」
炎司がそう言っていると、冷はじっと夫のことを見つめる。
「・・・・お父さんは、転夜ちゃんのこと、可愛い?」
突然問われたそれに、炎司の頭の上にはてなマークが乱舞する。
こういったときの反応として正しいことは何だろうか?
男の性格からして、さっさと寝ろと怒鳴りたくなるが、その選択肢を選んだ時の想定上に以前のにっこりと微笑んだ転夜の顔が浮んだ。
今度、クソ親父ムーブかましたらピンセットで下の毛一本ずつ抜いてパイパンか、女の人になってふりふりの服着せて写真撮ってSNSに載せるか、どっちか選んでね。
やれるか、やれないかでない。やるといったらやる女だ。
ここで素直に可愛いと言うべきだろうか?
だが、一応は血の繋がっていない妙齢の女だ。妻の前で素直に可愛いと褒めるべきなのか?
頭の中でぐるぐると回るが、じいっと冷は変わらず炎司のことを見つめている。
それに、炎司は口の中の水分がなくなるような感覚の後、恐る恐る口を開いた。
「・・・・お前のことも、可愛いと思う。」
一瞬間が開いた後、冷は思わず呟いた。
「・・・・これって進歩なのかしら?」
「・・・・どういう意味だ?」
「いえ、今更変なこと気にしなくて良いですから。」
炎司は何か顔から火が出そうな羞恥を感じながら、冷が悪いわけではなく、己の勘違いとはいえ釈然とせずに顔をしかめた。
「・・・・まあ、それ相応に手間をかけたしな。うちの子達がいい子でよかった。転夜レベルがもう一人居たら対処できなかった。」
それはそれとして、子どもとはとんでもないことをしでかすと頭に刻まれたおかげで他の娘や息子達のことも気になり声は一応かけている。
そんな黄昏れるような夫の顔を見て、冷は彼の頭上にサムズアップした生産者である転夜の顔を幻視していた。
(・・・・進歩、よね?)
「それより、突然どうした?」
「いいえ、ただ気になっただけ。」
出会ったことから何段階も進化した夫を改めて見つつ冷は答えた。それに炎司はいぶかしげに顔をしかめたが、ため息を吐いた。
「ともかく、何かあれ対処は俺がするからもう寝なさい。」
炎司はそう言って冷から視線を感じながら目を閉じようとした。その時、障子がまたがらっと開いた。
今度は何だと、目を開けると障子を開けたのは据わった目をした燈矢であることがわかる。
「・・・転夜来てる?」
「お父さんの布団で寝てるけど。」
「あれ、お母さん、まだ起きてるの?」
「お父さんの声が大きくて起きちゃったの。」
「夜は静かにしなよ。」
言われても仕方がないのだが、若干の釈然としなさのようなものは感じた。けれど、炎司はそれをまた頭の隅に追いやる。
そんな中、燈矢は障子を閉めて、布団をめくり、転夜の存在を確認する。
「・・・・起すなよ。」
「俺もここで寝る。」
「はあ?」
炎司は顔をしかめる。そうして、考える。
まず、どの布団で寝るかという話だ。
炎司の布団はデカい。さすがは二メートル近い男が寝る布団だ。ありとあらゆる面でデカく、彼の布団を干すのは基本的に腕力のある転夜や燈矢、そうして当人が行っている。
それほどデカい。だが、その布団の持ち主の炎司と、そうして女にしては体格の良い転夜が寝ている時点で布団のキャパはない。
無理だと口を開こうとしたが、炎司の中で今まで積み上げた何かが告げる。
何か、それは止めといた方がいいと炎司の中の何かが告げる。
(・・・・起して部屋に。いいや、それは転夜が。布団を持ってこさせるか?)
そんなことが頭を巡るが、それより先に冷が起き上がった。
「燈矢、ちょっとどいて。」
それに炎司と燈矢は不思議そうな顔をしたが、冷に素直に従う。それに冷は少し話していた己の布団と炎司のものとくっつける。
そうして、真ん中にブランケットを敷いた。そうして、近くにあった座布団と枕代わりに折って置く。
冷は満足そうにとんとんと叩いた。
「さすがに三人は入れないから、お母さんの布団もかけなさいね。」
燈矢は少し考えた後、無言でそこに横たわり、手足など前身を炎司の布団の中にツッコみ転夜にくっついた。
どうも、転夜にくっついて寝ることを選んだようだ。
炎司はそれにぶわああああと頭の中に今まで培った常識がぐるぐるするが、冷はそのまま布団の半分を燈矢に被せ、寝てしまう。
(川の字!?燈矢が何歳の時以来だ!?いいのか?お前、もう二十過ぎだろう!?母親と寝るってどうなんだ!?)
頭の中でぐるぐるとそんなことが回るが、今更それを言ったとして、何が変わるわけでは無いと理解する。
脇辺りに転夜の体温を感じた。それと同時に、燈矢の腕と足も布団の中に存在を感じる。
そうして横を見れば先ほどよりも近くなった妻の顔があった。
妻は満足そうに目をつぶっている。
炎司はもうどうにでもなれとそのまま目を閉じた。
その日、不思議と、炎司はとても久しぶりに静かに笑う父の夢を見た。
・・・・なあ、燈矢。
何?
前から思ってたんだけどさ。お前の家族、距離近くない?
そう?
いや、エンデヴァーさんとか、奥方さんとかはまあ、普通だけど。お前の弟妹全員、妙に距離が近くない?
で、その心は?
・・・・焦凍君とか、夏雄君はまあいいけど。冬美さんの距離が近いのどーなん!?下手に陽気な気分になると普通にハグしてくるんやけど!
なるほど、冬ちゃんのでかい乳を押しつけられて気まずいと。
口に通りもん押し込んでやろうか!?気まずいんだよ!エンデヴァーさんとかご家族さんの前で!というか、なんでみんなあんなに平然としてるの!?止めないの!?
お前、うちにいるその元凶のことを思い出せよ。
・・・・うーん、あー、えー。それは、まあ、なんというか!
転夜がうちに来たのは十年前、それから十年間、散々にすり込まれた距離感があれだから。お父さんもお母さんも家の中のことだから変な方向で慣れちまってんだよ。
俺、部外者なんだけど!?
まあ、転夜が拾ってきた鳥みたいな枠組みだし。懐かれてんだよ。胸張れ、うちの人間、俺とか転夜の関係で下心持って寄ってきた奴には敏感だから信用されてるってことだぞ。
うれしーけどおおおお。
そう言うなら拒否すればいいだろ。
拒否するとしょぼんってするじゃん!
なら、諦めて受入れろよ。
父親の前での気まずさ、お前にはわかんないよ・・・
以前、後書きにあった転夜の異母兄、本編に出そうか、それとも番外編に置いておこうか悩んでおりまして。参考程度に知りたいです。
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二次創作だし、いいんじゃない!
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一周回って見たい!
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番外編で留めておけば?
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いっそ、兄弟増やそう!
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どっちでも